看護専門学校における臨床心理士による教員への 集団コンサルテーションの検討
中 村 美 穂
(長崎国際大学 人間社会学部 社会福祉学科)
Group-Consultation for Teachers by a Clinical Psychologist in Nursing College
Miho NAKAMURA
(Nagasaki International University)
Abstract
This article focuses on the conference applied to the group-consultation for teachers by the author as a clinical psychologist in a nursing college. Making good use of the student counseling held once a week at a nursing college, a clinical psychologist prepared the program that the teachers freely discussed how to support students as a team, and had a conference with all of the teachers. In this process, teachers 1)shared the students’ problems and their own worries, 2)acquired knowledge and techniques for student support, 3)freely discussed the aims and methods of student support through brain-storming, and 4)specifically recognized the role of themselves and strengthened the student counseling system as a team. As a result, for the efficient and effective student counseling at a nursing college, the group-consultation which a clinical psychologist and teachers spontaneously discussed to solve the students’ problems at the team conference for each grade or all of the teachers it is considered to be useful.
Key words
nursing college, group-consultation for teachers, clinical psychologist
要 約
本稿においては、筆者が看護専門学校における臨床心理士として、会議を活用して行う教員への集団 コンサルテーションを報告する。看護専門学校での週1回程度の学生相談活動を有効に活用するため、
臨床心理士は、教員が自由に話し合いチームで学生を支援していくためのプログラムを構成し、教員全 体の会議を用いて実施した。その過程は、教員が、1
)学生の問題やその状況に対する悩みを共有する、
2
)学生支援のための知識や技術を学び知る、3
)ブレーンストーミングを通して教員同士が自由に学 生支援の方針や方法を話し合う、4
)教員各自の役割を明確に意識化しチームとしての学校組織におけ る学生相談体制を強化するというプロセスであった。看護専門学校における学生相談活動を効率的かつ 効果的に活用する上では、臨床心理士と教員が学年や学校全体のチーム会議を活用して自発的に学生の 問題解決のための協議をするような集団コンサルテーションが有用なのではないかと考えられる。
キーワード
看護専門学校、教員への集団コンサルテーション、臨床心理士
Ⅰ 問題と目的
看護専門学校においては、1
年次から必須と される専門科目の授業かつ試験、また、2
年次 には実技科目が加わる。その教育課程では、ペ アでの実技練習やグループでの臨地実習などが 多く、対人面の課題やそれに伴う不安が高まり やすいと思われる。さらに、3
年次には看護師 資格の取得や就職に向けて取り組まなければな らないという実情も踏まえると、学生は極めて ストレスを感じやすい環境にあると言える。芝
(2006:30)は、看護専門学校において、 人と 関わる力の未熟さと耐性の弱さから多くのスト レスを抱え、何らかの身体症状を発症してドロッ プアウトする学生は少なくない と指摘してい る。それゆえ大学や短期大学と同様に、看護専 門学校などの専門学校においても、学生相談を 担当する臨床心理士の制度化が必要なのではな いかと思われる。しかし、柴田ら(2002)によ ると、学生相談室を設置している専門学校は4 割、その中で心理臨床の専門性をもつカウンセ ラーが学生相談を担当している学校は2割ほど であると言う。このことを踏まえて、 田(2009)
は、学生相談室を設置している専門学校は少な く、その中でも臨床心理士が学生相談を担当し ている学校が極めて少ないことを指摘している。
また、 田(2012)は、専門学校における学 生相談室の現状と課題などについて、実際に学 生相談業務を行なっている担当者を対象にアン ケート調査を実施している。その結果、学生相 談活動に占めている各業務の割合及び重要度の 順位は、 学生の相談業務 が最も高く、次に、
教員への助言・連携業務 が高いことが示さ れている。そして、これらの業務は、学生相談 の担当者が学校側から求められていると感じて いる活動内容と一致していたことも明らかにさ れている。学生は教員からの勧めで来談するこ とが多い(小谷、2013)とされることからも、
看護専門学校における臨床心理士は、学生への 直接的な支援と同時に、学生と関わる教員など への間接的な支援を重視する必要があるのでは
ないかと思われる。
さらに、小笠原(2003:46)は、看護学生の 心理的問題の特徴として、教員などに、 過度 の依存傾向がある一方で(あるいは、それとと もに)、自分の問題を自分で抱えきれないとい うある種の未成熟な状態にある と示唆してい る。学生の発達課題や危機をも踏まえると、教 員が深刻な学生の問題状況を抱える可能性は少 なくないであろう。したがって看護専門学校に おける臨床心理士は、学生の心理面接はもとよ り、教員へのコンサルテーションを積極的に活 用し、臨床心理士と教員、教員同士が協力して 学生の問題解決を目指す必要があると考えられ る。
筆者は看護専門学校における臨床心理士とし て、教員とは異なる立場からの学生相談活動を 行なってきた。勤務形態は月2回程度、一回2 時間であった。それゆえ臨床心理士は、来談し た学生の同意を得ながら、その学生と関わって いる教員へ働きかけることを心がけた。すなわ ち、臨床心理士と教員が互いの専門性を活かし て、学生支援の在り方、その方針や方法などを 具体的に話し合い協力して動いていくのである。
このような学生相談活動は、担任や実習担当教 員などへの個別コンサルテーションのみではな く、学年主任や管理職などを含む複数の教員へ の集団コンサルテーションへと展開した。たと えば、学年会議などを活用して行う教員へのコ ンサルテーション活動である。その結果、相談 室内外での臨床心理士と教員との対話が活性化 し、学生の来談者数も増えるといった一定の効 果があると思われた。
このような臨床実践を踏まえると、看護専門 学校における臨床心理士が効率的かつ効果的な 学生相談活動を行う上では、教員へのコンサル テーションを有効に活用する必要があるのでは ないかと思われる。特に、看護専門学校などの 専門学校においては、学生の欠席欠課数が単位 取得、ひいては資格取得に大きく影響する。そ れゆえ教員が一体となって学生の問題状況を迅
速に解決しなければならない。つまり、専門学 校における臨床心理士は、臨床心理士と教員、
教員同士が学生をチームで支援する学生相談体 制作りを重視する必要もあると考えられる。
わが国の専門学校における学生相談の実践研 究報告は少ない( 田、2012)とされる。そこ で、本稿では、看護専門学校における臨床心理 士による教員へのコンサルテーション、とりわ け「集団コンサルテーション」に着目する。ま ず、臨床心理士が2008年度以降の看護専門学校 における学生相談活動を通して、アンケート調 査を実施し、教員が抱えている学生の心理発達 的な問題やその状況に対する教員のニーズを整 理する。その上で、臨床心理士が「会議」を活 用して実施した教員への集団コンサルテーショ ンの過程を示し、その在り方、効果や課題につ いて探索的に検討することを第一の目的とする。
また、臨床心理士が会議を活用して行う集団コ ンサルテーションの過程において、教員が期待 する臨床心理士の役割と機能について考察する ことを第二の目的とする。
Ⅱ 方 法 倫理的配慮
本論文の記載にあたり、管理職の許可を得た。
学生や教員など個人が特定されるような情報は 取りあげないことについて十分な配慮を行なっ た。また、本稿は、長崎国際大学人間社会学部 社会福祉学科倫理委員会の承認を得ている(承 認番号:SW2018008)。
1.調査対象
X年7月初旬、A看護専門学校(各学年80名 程度・2クラス制)において、教員38名を対象 とする会議を活用し、集団コンサルテーション
(100分)を実施した。臨床心理士の勤務形態は 月2回程度、一回2時間の勤務である。学生相 談活動は、学生の心理面接及び教員へのコンサ ルテーションであった。なお、臨床心理士は本 研究の主旨について、管理職に説明し、承諾を
得た。また、会議に参加した教員にも、本研究 について説明し、了承を得た。
2.会議までの手続き
1)事前調査:X年6月、教員が抱えている 学生の問題やその状況に対する教員のニーズを 把握するため、アンケート調査を管理職に依頼 した。管理職は教員に直接配布し、回収した。
無記名による回答であり、その時間は約10分で あった。後日、管理職から、回答用紙を郵送で 受け取った。
2)プログラムの構成:事前の調査結果に基 づいて、会議の目的や形式などを検討した。な お、事前調査における有効回答者は11名(女性)
であり、その一部を Table1に示す。
教員は「いま困っている学生」について、学 生の学習面や対人面などの困難さ、それによる 問題行動を指摘し、「どうしていいかわかりま せん」、さらには、「困っています」や「ダメダ メです」などと苦悩している様子がうかがえた。
それゆえ臨床心理士は、教員が学生の心理的及 び発達的な課題や危機などを学び、教員それぞ れが抱える学生の問題やその状況に対する悩み を分かち合いながら、臨床心理士と教員、教員 同士がチームとして自由に話し合い協力すると いうプログラムを構成することとした。すなわ ち、1
)インストラクション(10分)、2 )講 義(15分)、3
)ブレーンストーミング(65分)、
4
)シェアリング(10分)という過程からなる プログラムである(Table2)。
ブレーンストーミングとは、集団の創造的思 考を促進する技法の一つであり、さまざまな集 団・組織のチーム活動において利用されている
(三浦、2001)。本プログラムのブレーンストー ミングでは、臨床心理士と教員、教員同士が学 生の問題状況について浮かんだ考えを批判する ことなく自由に話し合うこととし、それを通し て、学校の組織におけるチームとしての学生相 談体制を強化することを目的とする。
Table 1 会議前のアンケート調査結果 その学生に対して有効であった対応その学生に対する対応いま困っている学生No. 管理職であるため学生に直接対応することがない。管理職であるため学生に直接対応することがない。ベースにメンタルがある学生に対して、どこまで負荷 をかけても大丈夫なのか、家庭環境が複雑な学生に対 して、教員としてどこまで介入しても大丈夫なのか。1 ありません。なくて困っています。タイミングをみて声をかけ、一応こちらの言いたい ことはズバッと言う。のらりくらりと人の話をかわして本音を言わない。 できないのにできないと言わない。2 今は特に思い浮かばないです。本人がどうしたいのかを確認する。または聞ける きっかけを待つ。勉強をしようとしない学生に対す る関わり方が難しいです。
看護師になるかどうか迷っていて、勉学に力が入ら ない学生。学習する習慣がなく、勉強をしようとし ない学生。3 入学当初よりは、どの学生も落ち着いてきたように は感じるが、少し自由気ままな感じである。今はわ からないがその都度声をかけて注意している。
クラスを通して、担任が全員に注意喚起する。また、 気になった学生に声をかけて対応。クラス、学習推 進委員の協力を得てクラスで学習する雰囲気作りを した。面接を行なったが、家庭環境が複雑であり、 話をしている間にも攻撃的な発言が多い。
授業中に授業の流れとは関係なく、質問したり、 しゃべったりしている学生が複数いる。自分が言っ ていること、していることは正しいと思い込んでい る学生。先輩、後輩の関係など、まったく関係ない (教 員にも強気な態度)。
4 まだない。成績を返却し、学年最下位であることを伝え、面接 して、保護者にも連絡すると伝えたが、ヘラヘラし ている。
成績がとても悪いのに、自覚がなく、勉強しないが 学生。5 ないです。ダメダメです。前者には、気持ちがわかるので、共感できるよと話し かけてみた。……きっと、後者の学生と一緒に過ごす のもつらいのだと思った。そのため何もできなかっ た。後者の学生は空気が読めず自分をふり返ることも できそうにない。どうしていいかわかりません。
実習中、どんどん元気を失っていく学生とそんな学 生にまったく気付かない自己中心的な学生2人に先 週困っていた。6 継続した声かけ。「〜のようなときに困っていないか?」と介入し面 談を行なった。必要に応じて家族へ連絡する。不満や友人のことばかりが理由となっている学生へ の対応。自己の課題や決意が必要と私は考えるが、 伝えきれていないところ。また、どの時点で介入し たら効果的なのかわからない。
7 時間を確保し、個別に話をする機会を設けた。実習 期間において(3週間)学生との関係は築けたと思 うが、根本的な解決には繋がってないように思う。
とりあえず話を聞いた。看護で必要な部分について は、指導したが、明らかな改善はなく、(前年度よ り課題が残っている)どのように対応したらよいか 悩んでいるところである。
自己評価は高いが、学習、実践がともなってない。 指導に対して素直に聞く姿勢は見られるが、改善に はつながらず、実習に集中できないことについて家 族関係を理由にする。
8 学生に変化は見られなかった。自らその学生に対して、言葉遣いの見本となるよう 行動した。看護学校へ来て思ったことは、言葉遣いです。患者、 指導者、教員に対して、友達のような対応を取って いることに困惑。9
Table 2 会議のプログラム
時 間 内 容 ・ 目 的
人 数 構 成
ながれ
10分 臨床心理士が事前調査の結果に基づいて構成し た会議のプログラムについて伝え、教員の自発的 参加を促進する。
全 体 動機づけ
インストラクション 1
15分 スライドを用いて、看護専門学校における学生 相談活動に関する研究報告などを参考にして、看 護学生の問題の特徴や現況について示す。その上 で、そのような学生の問題状況に対する援助方略 として、「コンサルテーション」を紹介する。
また、教員が教員自身の学生に対する姿勢や態 度を自己内省する過程を促進する。
全 体 認知的学習
講 義 2
65分 臨床心理士は会議の目的について、「臨床心理 士と教員、教員同士がチームとして話し合い動く 協力体制を強化すること」であることを明確に伝 え、教員の意識化を促進する。
その上で、臨床心理士が学生相談活動に基づい て仮定的に想定した事例①〜④を示し、まず、
チームとしての学年団を意識し、各学年における 担任や学年主主任などに、以下の検討点について の意見を求める。次に、チームとしての学校の組 織をも意識して、管理職に、以下の検討点につい ての意見を求める。
【検討点】
「チームで学生と関わる上で、どのように役割を 分担し協力するか」
学年団全体 協同的学習
ブレーン ストーミング 3
【事例①(15分)】
1年女子。実技科目に入るタイミングで、「実技 練習をしたくない。ペアの学生から嫌なことをさ れる」と授業を欠席するようになった。
【事例②(15分)】
2年男子。看護職選択動機が低い。臨地実習に入 り、「看護記録が書けない。患者のアセスメント をすることができない」と訴え進路変更を考える ようになった。
【事例③(15分)】
2年女子。実習中に患者の急変に直面し、身体的 かつ心理的な急性ストレス反応が生じた。その後、
「自分が生きているのがつらい」と感じるように なった。
【事例④(15分)】
3年女子。看護職選択動機が高い。実習中の患者 とのトラブルを通して、「自分は発達障害ではな いか」と気づき、教員や臨床心理士に相談した。
10分 学年のレベル及び学校の組織のレベルにおいて 自由に話し合った内容について教員全体で共有す る。また、臨床心理士は教員がそれぞれの校務分 掌上の立場や特性など活かして役割を分担し、
チームのメンバーとしての各自の役割を明確に意 識化する過程を促進する。
全 体 協同的学習
シェアリング 4
3)事後調査:臨床心理士による教員への集 団コンサルテーションの在り方、効果や課題を 具体的に把握するため、臨床心理士は教員を対 象に自由記述式の質問紙調査を実施した。無記 名による回答であり、管理職が回収した。後日、
臨床心理士は管理職から、回答用紙を郵送で受 け取った。
Ⅲ 結 果
1.臨床心理士が会議を活用して行う教員へ の集団コンサルテーションのプロセス 1)インストラクション:参加した教員は、
管理職4名及び各学年における常勤の教員14名、
非常勤の専門科目担当教員6名及び実技科目担 当教員14名であった。臨床心理士はスライド上 にプログラム( Table 2)を示し、そのながれ を説明した。また、Table 1に基づいて、教員 が「いま困っている学生」の問題やその状況を 示しながら、教員の自発的参加を動機づけた。
2)講義:臨床心理士は看護専門学校におけ る学生相談活動についての研究報告などを参考 にして、看護学生の心理的問題の特徴(小笠原、
2003)や相談内容の傾向(小谷、2013)、大学 や短期大学、高等専門学校などの高等教育機関 における発達障害学生の支援の必要性(須田・
高橋・上村・森光、2011)などについて提示し た。そして、このような学生の問題状況に対す る支援方略の一つとして、「コンサルテーショ ン」を紹介した。特に、「日本の学校現場での コンサルテーション」として、石隈(1999)を 引用し、コンサルタントである学校臨床心理士 もコンサルティである教員が抱えている生徒と 直接関わることが多い現状を踏まえて、臨床心 理士と教員が従来の一方向でなく相互方向にな る関係にも着目するということを強調した。そ の上で、臨床心理士自らがコンサルタントとし て持つスタンスについて、「臨床心理士は教員 と共に、学生の問題やその状況について話し合 い協力して動く」ということを明確に伝えた。
また、臨床心理士は教員それぞれの教育実践
から、学生支援の方針や方法などを引き出すた め、事前の調査結果などに基づいて、教員が
「これまで困っていた学生」や「その学生への 具体的な対応」について示し、教員自身の学生 との関わり方などのふり返りを促進した。さら に、臨床心理士はその過程を通して、教員同士 が学生の問題を共有し、その状況に対する教員 それぞれの悩みを分かち合うことを重視した。
教員同士は教員としての「葛藤」、すなわち「教 育者」としての対応と「支援者」としての対応 との狭間で感じる不安などを語り合っているよ うであった。
3)ブレーンストーミング:臨床心理士はブ レーンストーミングの形式を取り入れ、「臨床 心理士と教員、教員同士が学生の問題状況に対 する支援の方針や方法を具体的に話し合う」こ とを提案した。学生の問題状況については、臨 床心理士が学生相談活動をもとに4事例を仮定 的に想定し、提示した(Table2)。同時に、こ れらの事例について協議することにより、「臨 床心理士と教員、教員同士がチームとして話し 合い協力して動く学生相談体制を作る」ことが 目的であるということも明確に伝えた。
臨床心理士は各事例において、担任や学年主 任などを中心に、学生の問題状況に対してどの ように理解し支援するか、特に、「チームで学 生と関わる上で、どのように役割を分担し協力 するか」などを訊ねた。たとえば、担任は「学 生へ声をかけて話をじっくり聞く」、また、「自 分で対応しなければならないとひとりで抱え込 みやすい」などと述べた。一方で、学年主任は
「学生と話すことが少ないため、担任と学生の 情報を共有できるとありがたい」、さらに、「担 任と役割を分担して保護者との面談を行うこと が多く、管理職や臨床心理士に相談したいと思 うことがある」などと述べた。このような教員 同士のやりとりを踏まえて、管理職も「教員そ れぞれの立場や強みによる学生との関りやそれ に対する不安などを再確認できたことで、これ から教員がチームとなって学生と関わる上では
どのような取り組みが必要かを考えたい」など と語った。臨床心理士は教員相互のコミュニケー ションに焦点化して、「私たち支援者がチーム で学生を支援する上では、支援者がそれぞれの 専門性、校務分掌上の立場や特性を活かして役 割を分担することが重要である」こと、また、
学生の問題状況に応じて、「支援者それぞれの 役割を明確に意識化して動くための話し合いの 場が必要である」ことなどを強調した。
4)シェアリング:臨床心理士は、非常勤の 教員、特に、専門科目を担当する教員と実技科 目を担当する教員とに分けて、教員それぞれの 立場から見える学生の問題やその状況に対する 悩みなどについて訊ねた。専門科目担当教員は、
週1日程度、1
教科を担当する者が多く、「日 常的に学生と関わることが難しいため、授業後 のアンケートなどを活用して学生の問題状況を 把握することに努めている」、「気になった学生 については担任などへ伝える」などと述べた。
他方、実技科目担当教員は、1
ヶ月間程度の臨 地実習で学生と関わる者がほとんどであり、「自 分は教員であるが、どうしても医療従事者(看 護師)側から学生を見てしまう」、「学生が看護 師として就労することまで見通して考えると、
学生個人の問題に対してどこまでどのように配 慮すべきなのかをひどく悩む」などと述べた。
その後、教員全体でのシェアリングにおいて は、「明日からの学生対応でやってみようと思う」、
また、「学生との関わりについて困ったときに、
教員が臨床心理士へ相談したい」と要望する者 が少なくなかった。臨床心理士は学生相談に関 する掲示などについて検討することを約束し、
教員からのコンサルテーションの要請も推奨し た。管理職は臨床心理士と教員とのやりとりを 受けて、「臨床心理士が学校を訪問する頻度や 時間が少ないため、これまで臨床心理士と教員 が顔を合わせる機会がなかったが、会議を活用 して臨床心理士と教員、教員同士が学生の問題 状況について話し合う場を持つことは非常に有 意義であったのではないか」と評価してくれた。
2.臨床心理士が会議を活用して行う集団コン サルテーションに対する教員の感想の内容 臨床心理士は教員全体での会議を活用して実 施した集団コンサルテーションに対する教員の 感想などを把握するため、アンケート調査を実 施した。有効回答者は30名(男性6名・女性24 名)であり、その一部を Table3に示す。
「学生相談活動に対するニーズ」については、
学生の心理的な「援助」はもとより、臨床心理 士と教員、教員同士が「チーム」となって学生 を支援する必要性、また、学生の問題状況に関 する「情報の共有」、それに基づく学生の対応 についての教員への「助言」が期待されていた。
さらに、臨床心理士が学生の心理アセスメント に応じて専門機関の「受診」の必要性を判断す ることも期待されていた。他方、学生の問題状 況に応じては、臨床心理士が学生の看護師とし ての適性を見立てると同時に、必要に応じて、
学生自ら「進路変更ができるようにアドバイス や指導」を行うことを期待していた。
「学生相談室における臨床心理士による教員 へのコンサルテーションに対するニーズ」につ いては、学生や保護者と関わる「タイミング」
についての助言、さらには「学習障害」などの 学生の学習面や対人面などの支援が期待されて いた。同時に、教員はそのような学生との関わ りによる教員自身の「悩み」や「葛藤」の理解 も期待していた。また、コンサルタントである 臨床心理士の姿勢として、臨床心理士が教員と
「もう少しコミュニケーションをとって相談し やすい環境を開いても良いのではないか」といっ た要望があった。
さらに、「会議などを活用して行う教員への 集団コンサルテーションに対するニーズ」につ いては、臨床心理士と教員、教員相互の話し合 いにおける学生の「具体的な事例」の提示によ る効果を評価していた。加えて、そのような事 例に基づいて、臨床心理士が学生の心理発達的 な問題やその状況について「説明」したり、教 員同士が「対応を考えていけるような」プログ
Table 3 会議後のアンケート調査結果 会議などを活用して行う教員への 集団コンサルテーションに対するニーズ学生相談室における臨床心理士による 教員へのコンサルテーションに対するニーズ学生相談活動に対するニーズコンサルテー ション経験No. 教育も援助も!専門性と専門能力に期待します。コンサルテーション。チーム対応が必要。ない1 ……その学生に応じた対応策を具体的に教え ていただけると助かります。学生指導、対応で困った時に相談でき、助言 が欲しい。また学生が気軽に相談できる。ある2 ゆとり世代以降の、今どきの若者はどんな感 じか?どう対応したらよいか?学習しない学 生への対応方法。
学生の状況が自分の中で、胸に落ちるような 助言があるとありがたいと思う学生対応に困ったとき、自分の考えが一方向 からになっている可能性があるので、それを 解きほぐし、展望が見えてくるような援助。ある3 理解しづらさや対応しづらさに腹を立ててはいけ ないと思うのですが、……そんなときに自分の心 の平静をどう保ったらいいのかを知りたいです。
……看護師として就労することを見通した支 援が決断できるように、そのようなときにズ バッと決断できるように。
自分が本当に看護師になっていいかというこ とを考えられるような援助。ある4 具体的事例を通しての対応など。学生や保護者への対応方法(方向性)。学生の本音や状況を聞き、教員の把握できて いない部分の情報を(可能な範囲で)共有で きるようにしてほしい。ある5 看護師としては難しい学生には、進路変更可 という意識向けをしてほしい。……学生の一 番のストレスを解消もしくは軽くしてほしい。
看護師としては難しい学生には、進路変更可 という意識向けをしてほしい。……学生の一 番のストレスを解消もしくは軽くしてほしい。ない6 今回のような事例を取り上げてくれるとわかりや すい。……メンタル面に早く気づけるポイントな どわかりやすく説明していただけると嬉しいです。
情報共有。学生への関わり方。保護者面談の タイミング。メンタルケアの必要性の有無。受診が必要か どうか。ない7 学習障害がある学生へのフォロー。チームに 溶け込むことのできない学生への対応。チームで働くための対人関係の構築方法など、 人との関わりという面で援助してもらいたい。ある8 指導者が抱える葛藤、悩みを共有、理解して いただけるとモチベーションを保てるのでは ないでしょうか。
学生相談活動の事例を実習先へも伝えていた だき、具体的にどのような関わり方、指導方 法を行ったらよいかアドバイスしてもらえた ら、統一した支援が可能になり、学生の負担 も少しは軽減できるのではと思います。
ない9 チームとして一緒に考えてくれる専門家がいること は心強いし、特に患者さんと接している看護師とし て、人間性が求められるので、必要と思います。ない10 今回のような事例を通して対応を考えていけ るような研修をしてほしい。情報の共有と支援方法の検討。自己の在り方や考え方を支援し成長を促せる 活動を一緒に考えていきたい。ある11 問題と言われる学生の心理を理解する方法や 内容。どう考え、何を思っているのか。コンサルテーションする側は「待つ姿勢」が 常とは思いますが、もう少しコミュニケーショ ンをとって相談しやすい環境を開いても良い のではないかと思う。ひっそりとしているイ メージなので、オープンな関係性でも良いの ではないかなと思う。
看護師の道が厳しいと思われる学生(客観的 に見て)に対し、学生自ら進路変更ができる ようにアドバイスや指導を行っていただきた いと思う。ない12
ラムを企画立案し実行したりすることが求めら れていた。
Ⅳ 考 察
1.臨床心理士が会議を活用して行う教員へ の集団コンサルテーションの在り方、効果 や課題
臨床心理士は看護専門学校において、教員全 体での会議を活用して集団コンサルテーション を行った。まず、臨床心理士は事前のアンケー ト調査を行い、教員それぞれが抱えている学生 の問題やその状況に対する悩みなどを把握する ことに努めた。その結果、Table 1に示すよう に、学生の心理面かつ発達面の問題が明らかと なり、その状況に対する教員自身の不安や葛藤 を理解することが可能となった。Brigman et al.(2005)は、 チームコンサルテーション を提唱し、学校全体のチーム会議を効果的に実 行する上では、教員からの要請を明確にしてお く必要があることを示唆している。たとえば、
会議で協議してほしい子どもはどのような問題 があるのか、また、その状況に対してどのよう な介入を試みたのかなどである。つまり、臨床 心理士が会議を活用して行う教員への集団コン サルテーションを構成する上では、教員がタイ ムリーに抱えている学生の問題に対するニーズ を十分に引き出す必要があると思われる。そし て、臨床心理士はその状況に対する教員の不安 や葛藤などをも教員全体で分かち合うプロセス を通して、教員の自発的参加を動機づけ、臨床 心理士と教員、教員同士が一体となって話し合 う場を提供することが重要であろう。未だ看護 専門学校などの専門学校における学生相談を担 当する臨床心理士は少なく、学校訪問の頻度や 時間も限られている。そのような学生相談活動 において、臨床心理士が学年や学校全体での会 議を積極的に活用することは、教員がチームで 学生を支援する体制作りを推進する上でも効率 的かつ効果的であると考えられる。
また、Table 3の「学生相談室における臨床
心理士による教員へのコンサルテーションに対 するニーズ」において、教員が臨床心理士から のコミュニケーションを期待し、臨床心理士と 教員との「オープンな関係」を求めているので はないかと思われる。小林(2009)は、コンサ ルタントとコンサルティとの関係作りにおいて、
コンサルタントの方からコンサルティにアク セスし関係を作っていく必要性 を示唆してい る。したがって看護専門学校における臨床心理 士は、個々の教員、ひいては教員集団・学校組 織へ働きかける積極性を持ち、臨床心理士自ら コンサルタントとしての自分の立場や強みを示 す必要があるのかもしれない。 田(2012)に よると、看護専門学校などの専門学校における 学生相談担当者は、学生の相談業務に加えて、
会議への参加 といった活動も行っていると される。このことからも、学生相談を担当する 臨床心理士にとって、会議という場は、臨床心 理士と教員が顔を合わせて協力関係を育む上で 有用であると言えよう。
さらに、本実践においては、「臨床心理士と 教員、教員同士がチームとして話し合い動く協 力体制を作る」ことを目的として、ブレーンス トーミングの形式を取り入れた。教員は講義を 踏まえて、教員自身の教育実践をふり返りなが ら、臨床心理士が仮想した事例に対する学生支 援の方針や方法などを教員それぞれの立場から 自由に述べた。臨床心理士は教員相互の交流を も促しながら、教員同士が自発的に学生の理解 や対応について話し合い、教員それぞれの役割 を明確に意識化するプロセスを支えた。その結 果、教員が「明日からの学生対応でやってみよ うと思う」などと述べるなど、教員が学生の問 題解決のための現実的な手立てを得て、学校現 場で実行する可能性が高まったのではないかと 思われた。したがって臨床心理士が集団コンサ ルテーションにおいて、ブレーンストーミング などを用いて教員相互の自由なコミュニケーショ ンを活性化させることは、チームとしての教員 集団・学校組織における学生相談体制を強化す
る上で有効であると考えられる。Table 3に示 すように、教員は具体的な「事例」を通して学 び考えることを要望していると思われる。この ことからも、臨床心理士が学生相談活動をもと に事例を提示し、教員全体で自発的に話し合う ようなブレーンストーミングは、集団討議を行 うことによって、個人の持つ知的資源の単なる 総和以上の「知恵」が創出されること(三浦、
2001)を促進する有効な技法であると言えよう。
そして、教員はブレーンストーミングの体験を 積み重ねることを通して、臨床心理士が不在と なる学校においても、教員自らチーム会議を要 請し、教員同士が学生の問題についての情報を 交換したり、その状況に対する実行可能な学生 対応の方法を工夫したりすることができるよう になるのかもしれない。そのためにも、看護専 門学校における臨床心理士はチーム会議などを 積極的に提案し、教員への集団コンサルテーショ ンを行うことを重視する必要があるであろう。
しかしながら、看護専門学校などの専門学校の 教員は、学生と同様に多忙である。臨床心理士 が教員集団・学校組織へどのように働きかけて 会議を企画立案し実行するかなどは重要な課題 であると思われる。
2.会議を活用して行うコンサルテーション に対して教員が期待する臨床心理士の役割 と機能
Table 2に基づいて行った集団コンサルテー ションの過程、また、Table 1、3
より、教員 は臨床心理士によるコンサルテーションに対し て、学生支援における「助言」や「指導」はも とより、学生と直接関わっている教員の悩みや 葛藤の「理解」を求めていると思われた。つま り、臨床心理士は教員にとってのアドバイザー 役の役割を取ることと同等に、教員への情緒的 なサポートを行う必要があると考えられる。こ れは、中村(2018)が、学内での問題行動を示 す学生と関わっている教員へのコンサルテーショ ン実践事例などを通して、コンサルタントであ
る臨床心理士はコンサルティである教員への情 緒的なサポートをも行う必要があるという指摘 と合致するところである。また、石原(2018)
は、臨床心理士などが教員へのコンサルテーショ ンを行う過程で留意する点として、教師の後ろ 盾となり必要に応じて情緒的支援をしているか を挙げている。Table 3の教員が臨床心理士の
「理解」を得ることで、学生と関わる「モチベー ション」を保持することができると述べている ことからも、臨床心理士は教員が学生と関わる 自信を取り戻し、安心して学生支援に取り組む ことを可能にするエンパワメント機能を果たす 必要もあるのではないかと思われる。
また、臨床心理士は教員全体で話し合う場を 活用して、教員相互の交流を促し、教員それぞ れの悩みを分かち合う過程を支えた。特に、教 員と教員との間では話し難い不安や葛藤につい ては、臨床心理士が教員の気持ちを汲み取り伝 えるなど代弁者としての役割を取ることも必要 であると思われた。たとえば、看護教員は学生 を看護師として育成する教育者である一方、学 生の心理面かつ発達面をサポートし、その状況 に基づいて看護師としての適性などを判断する 支援者でもあるといった葛藤である。それゆえ 看護専門学校などの専門学校における臨床心理 士は、教員が教育と支援との狭間で複雑な葛藤 を抱きやすいことを十分に理解し、学生と教員、
さらには教員と教員との間を繋ぐイメージを持っ て、その両者を仲介するような役割を担うこと も期待されているのかもしれない。
Ⅴ 本研究の課題
本稿は、臨床心理士が看護専門学校における 臨床心理士として実践した教員への集団コンサ ルテーションに関する一考察である。未だ看護 専門学校における学生相談活動についての研究 は少なく、臨床心理士による支援の構造や方法 は暗中模索段階であると言える。看護学生の心 理発達的な問題やその状況について実証的に検 討することは重要な課題である。また、臨床心
理士によるコンサルテーションに対する教員の ニーズについても実証的に検討することが必要 である。さらに、教員や学校のニーズに応じて、
臨床心理士が看護専門学校などの専門学校の現 場に入り、教員へのコンサルテーション活動を 積み重ねることによって、教員へのコンサルテー ションの在り方、効果や課題を実践的に検討す ることも重要な課題である。
Ⅴ 謝 辞
看護専門学校における学生相談活動に深い理解を示 してくださった教員の皆様に深謝いたします。
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