秋永:MIDI 機能付き自動演奏ピア ノ と映像お よびコ ンピューターに よ る学 習支援シ ス テムの活用
MIDI機能付き自動演奏ピアノと映像およびコンピューターによる学習支援システムの活用
音 階 演奏に お け るベ ロ シ テ ィ とデュ レー シ ョソ ー
秋 永 晴 子
。 は じめに
演奏行 為は、演奏者の音に対す る イ メージを伴
っ ている。 や わ らか く な め ら か に、 あるい は 勢い のある強い 音に よ る な ど、 イメージ があっ ては じ めて音を 出 す 行 為にな る。これ は、初 級 者 も熟 達 者 も 同 様である。 し か し、 熟達度に よっ て表現 力の差 異 が 著 し く、演奏技 術が未熟な
も の ほ ど、 うま くいか ない。そこでス ムーズに演奏が で き る ように、 レベ ル に合っ た 学 習 法で 演奏力を養 う必要がある。
時代のピア ノ演奏の学 習 法 と して、MIDI (Musical Insturument Digital Interface) 機 倉旨付 き 自 動 演 奏ピア ノと、映像や MIDI データ を コ ン ピ
ュ ーターに取 り込 んで分 析 する学 習支援
システム の活 用 研 究を、す で に本学の研究紀要 (第22号)で発表し た1 )。 今回は、 そ のMIDI
データ (1997年 1月 か ら8月 まで の分を抜粋)よ り、 音階演 奏のベ ロ シ ティ (強 さ)とデュ レー
シ ョ ン (長さ)につ いて研 究 する。な お 今回は、映 像}とつ い ての 直接的な論述 はしない が、一 連の研究 課 題である ところ か ら、 題 目 は前回 と 同様に して いる。
前回は、 音階演 奏 を 学 習 するこ とで、打 鍵の均 等 性の何で あ る か を、 MIDI データ の音の強 さ を 表 すベ ロ シ テ ィ (Velocity〔速 度 〕)で探っ た。そ れに よっ て、打鍵の均等性は、 物理 的 に均等な強さ で弾くこ と では な く、均 等にきこえ る ように弾くこ と であると理 解 した。また音 階 演奏の拍 子拍の タイ ミングを分析す る ことで、個々 の演 奏 者の テ ソ ポ感 覚 や リ ズム感覚に固 有の も のが見う け られ るこ とを 知っ た。
音 階 演奏は、演奏技術の基本的な も の であ り、音 楽の要 素として否 めること は で き ない。 十 全な学習を す る に は、 先に挙 げ たベ ロ シ テ ィや 拍 子 拍の タイ ミソグだ けでなく、よ り物理学的、
その うえ に医 学 的、心 理学的な多次元的 要 素の内 容 が 関 わっ て く る。
デュ レーシ ョン (Duration〔持続時間〕)は、 MIDI データ の音の長 さ を 表し てい る
。 長い
音、短い音は、音の流れの中でつ な が っ た音と、と ぎれた音に も置 き換え ら れ、 ベ ロ シ テ ィ と
合わ さっ て、そ れ は 演 奏 者の音 質 を形づ く る。 ま た、これ らは 演奏者の指 を通 して可 能 とな る。
音の流 れの中で、演奏者固有の音質の 要因 と も なるその指の状 態 もか らめ て論述し てい く。 な お本稿で は、 デュ レーシ
ョ ン と と もに、前 回 に は なかっ た テソポ 差に よ る考察も加 わるが、そ
の MIDI データは 前 回の収録の と き、一緒に行っ た もの であ る。 そ して、学習の うえ で分か
一 37 一
一
NII-Electronic Library Service りや す く 「か たち」 として学べ るよ うに、MIDI データを グ ラ フに し
て提 示 する。
・ 音のなめ らかな運び につ い て
ピア ノの音の大 き さ は、打弦の瞬間が最も大 き く、その後、時 間 とと も に減衰する性質を持
っ てい る。
ピ ア ノ の音の特徴につ いて、安 藤 由 典 は、その著 『新版 楽器の 音 響 学』 の中で、次の よう に述べ てい る。
「(1)低い 音ほ ど倍音数が多い部分構造
(2) と くに低い音の音色に影響す る部 分 音の非 整 数 倍 性 (3) 複 数の弦の同 時 振 動に よる唸 り
(4)音の鋭い立 ち上 が り と減衰とい う時 間 的エ ソベ ロ ープ
な ど が挙げ られ、また、打 弦 時の ノ イズもピア ノ音の識 別上重 要 な 成分であろ う2 )」
よって、演 奏の際は、ピア ノの打 鍵 技 術の向上のた めに、上 記の 内容を ふ まえ て お くこ と が 有 効であろう。
結 局、ピ ア ノは、 そ の機構上、 音 を な め らかに弾 くこ とは困難な楽器 なのである。しか し、 その解決法 も研究さ れてお り、ピ ア ノ の音 がな め ら か な印象を与え る演 奏は、 「音と音が物 理 的に重なっ て演 奏さ れ てい る場 合である 」 とい う、音響の 心 理学的測定法にお け る 研 究 結 果 も 報 告さ れ てい る3 〕。 すで に、 鋭い耳 を 持っ た 演奏者である なら、その こ と を 理解し て実践 し て
い る であ ろ う。
そして、 音をつ ない でなめ らか に演奏す る に は、 身 体に余 分 な 緊 張 は 有害である、 よい演奏
は、肩、腕、手の脱 力か ら生ま れ るこ と を、T.マ ティ は今世 紀の初め に 『ピ ア ノ演 奏 弛 緩 の技 法 』の中で提唱 して い る4もT.マ テ ィ の ように物理学、医 学を取 り入れ た演奏技法理論は、
その 後の研 究 老達に よっ て展開さ れ てい く。 J.ガー トの 『ピア ノ演奏の テ クニ ッ ク 』 では、 演 奏 技 法理論と と も に、 ピア ノ演 奏のた めの補助的な体操練習につ いて も述べ ている5も
音楽的に無 理のない演 奏のた めに は、楽曲の理解とその楽 器の特 性 を理解し、身体の扱い方 を 実 践 学 習 する ことが基盤と なる。 これ らのこ と は、 演奏者に とっ て鋭い 耳の感覚の重要性 を 示唆す る。
本 稿にお ける音階の弾き方は、強 めの音で、一つ 一つ の音を とぎ れさ せず 順に お くっ て い く 方法で あっ た。強さ や指の残 し ぐあい は、各々 の感 覚で と ら え ら れ、 表現 さ れ る もの である。
別項の各演奏者の MIDI データ による分 析で、個別 の内容が み えて くる であろう。
一 38 一
N工 工一Eleotronlo Llbrary
秋 永:MIDI機能付き自動演奏ピア ノ と映像お よびコ ソピューターに よ る学習 支援シ ス テム の活用
・ 指の運びにつ い て
「ピア ノは指である」といえ る ほ ど、手の指 は 楽 器 と演 奏 者の身 体 が 最 も近い関 係 に な る と
ころ である。 し たがっ て音のイメージは 指 を 通 して実 現 され る
。 人 間の 体格が そ れ ぞ れ違うよ う に、手の大 き さ や 指の太 さ、また長 さ も人 さまざま である。 こ の こ と は、 音の き こ え方の差 異の 一
因で もある。 J.レヴィ ーン は、 指の付け根の 関 節 (中 手 指 節 間 関 節 〔MP 関 節
(Metacarpo −Phalangeal Joint)〕)だ け を 使っ て、指 を 鍵 盤の底 まで しっ か りお ろ して弾 くこ とが、現 代ピ ア ノの理想 的な タッ チの方法である と提唱 し てい る6)。 ま た J.ガート も前掲書で、 手の筋肉のな かで ピ ア ノ奏 法にお ける最 も重 要 な とこ ろ は、各 指の付 け 根の屈 曲 に 関 係 す る 骨
間 筋であ り、熟 達 したピ アニ ス トは、そこが広 く分 厚 くなっ てい ること を述べ てい る7も 通常ピア ノ の 1オ ク ターブに は
、 13個の鍵盤 が配 列 さ れてい る。長 音 階 や 短 音 階 を 弾 く と き、
それぞれ 8個の鍵 盤 と8本の指が 必要となる。手の指は、左 右の 5本ずつ で ある。 左右の各指
で音 階を弾 く場 合、 5本の指の扱い方が問題と な る (図一1)。 そ し て、 演奏者は練習の過程 で、指の扱い方いか んで演 奏 内 容に影 響 を お よぼ すこ とに気づか さ れ る。
図一 1 鍵盤 と指番号
543
2
1 1
2 3 45
左 手 右 手
C.P . E .バ ッ ハは 『正 しい ピア ノ奏法』で、 鍵盤楽器 の弾き方の三要素 (正 しい 運指法、 よ い装 飾 音、よい演 奏 法 )の一つ と して、運 指 法の重 要 性 を 挙 げてい る8)。 但 し、18世 紀 は まだ ピア ノの萌芽期であっ たの で、今日の ピア ノ奏法に すべ て当て は ま る と は限ら ない が、親指 (母 指、 第 1指)の使 用 を あま りか え りみなかっ た当 時に、運 指 法 と して親 指 を積極 的に取り 入 れ
た考え方は特に注 目さ れ る9もG.ネ イ ガ ウス も rピア ノ演奏芸術につ い て』の中で、
一つ の運
一39一
一
NII-Electronic Library Service 指 法 を き める にも、あら ゆ る可能な もの の 中の最良の ものを学びとり、 筋肉の記憶も利用 して
身につ け る よ う、運 指 法の重要性を説い てい る1叱 F.シ ョパ ソ は 『ピア ノ 教 則 本 』 とい う未 出 版 の草稿の中で、「指の造 りは そ れ ぞ れに違 うのだ か ら、そ の指の固有な タッ チの魅力を損 わ ない ほ う が良く、 逆に そ れ を十 分活かすよう心がけるべ きだ。 指にはそ れ ぞ れ の造り に応じ た 力 が 備 わっ ている。 指の数だ け音色も違 うものであ る。
一 すべ ては 運 指 法の熟 達に か かっ てい る 」 と、運 指 法 も手の生 理 学 的 見 地に立っ て こ そ、 合理的な奏法が得ら れ る と述べ てい る11も
演奏者の手の大 き さ が さ ま ざ まである以 上、 運指法の可能性 も多様である。 その ためには、 演奏技術の基本と な る音 階練習で、運指 法の原 則 的 な 使い 方 を 学 ぶこ とが 大 切である。
現代の ピ ア ノ で音階を弾く と き、 腕の役目と ともに、 手の親 指の存 在 性 は 大 きい。 第 2 ・3 4指の下を く ぐらせ た り、第 4 ・3 ・2指 をこえさ せ た り とい うように、 音階の上行形 ・下 行 形 を 弾 く間、絶えず 親 指 は鍵盤上で 水平的な動き を して い る状態になる。 音階演奏を きい て
いる と き、拍 子 拍で もない箇 所で、突 然に音が 大き く出ること がある。 これ は たい てい親 指 を 使っ た音であり、そ の原 因は親 指の鈍 さと、腕 や 手の不 十 分 な 弛 緩によるもの とい え る。 こ の
現象は、初級者に よ く みうけ られ る。しか し音 階 を 弾 く場 合、親 指の使い 方と し て こ の方法し
か ない こ とを、C,ッ ェ ルニ ーは r若き娘へ の 手 紙』 の中で述べ てい る。 「セ シ リ ア さ ん、ス ケー
ルの練習は初心者に とっ て も、また、かな り勉 強の進 ん だ 生 徒に とっ て も、 欠か せ ない 練習な の です。一 ピ ア ノの演 奏 上、親指に他の指の下を く ぐ ら せ た り、反 対に 4本の指に親指の
上 をこえさせて打 鍵 する運 指 法 は、絶 対に 必要 な ばか り か、 そ の方法こそ長 く鍵 盤を次々 にと 速 くひ く唯一の手 段な の で す」 と書簡形式の終始、親しみ や すい文 章でつ づ られている12も 音階演奏をス ムーズに進 め るには、各 指の性 質 を理解す る 必要が あ る。 親指は他の指 と比べ
て、通常の 上 下運動と鍵盤に対 して水 平な運 動が加 わる。 その こ とにつ いて、旧来 よ り演 奏 技 術の理論 家達は、 それぞれ固 有 な 表 現で説 明 してい る。 C. P , E .バ ッハ は、 親指を使 うと、指 が1本 ふえ るこ とになる (親 指の使 用 を あま りか え り み な かっ た当時の演奏慣 習にかんが みた
表現と思 わ れ る)ばか りか、すべ て の運 指 法 を理 解 する手 がか りが得ら れ る と言い ユ3)、 ま た指 の短 さ がほ か の指の下を く ぐ る ような技法の唯一の
指である と述べ て い る14)。F.シ ョパン は、 親指が強い指であ り、動 きの 自 由 な 指であ る と してい る15)。K,ライマ ーは
、 親指はい ち ば ん 力の強い指か も し れ ない の に、ほ か の指の下へ 曲 げ るこ とや 鍵 盤に最 も近い位 置になること で、
タッ チ を 弱 め て し まいが ちであ る と言い、指のコ ン トロ ール に気 を配るこ と を促し ている1叱 そ れでは、他の指の使い 方は どうであろうか。 各 指を解剖 学 的に分 析 している J.ガートの 解 釈 を参 考に して、も う一度 親 指
(第 1指)か ら順に述べ て み る1寵
第 1指は、 他の指の付け根の関節に比べて速い動き に適していない。ま た、他の指の下 をく ぐっ た り す る斜 めの動 きが、腕の 回転に伴っ て第 1指の速 度 を 妨 げやすい 。 練 習の と き は、指 の機敏さ に気を配るこ と を要す る。
一 40 一
N工 工一Eleotronlo Llbrary