学位論文要旨
題名:在宅後期高齢者のスピリチュアリティを支える看護における対話援助に関する研究 専攻領域・分野:地域健康看護領域・老年看護分野
学籍番号 氏名:2162006003 鈴木美代子
要 約
【目的】日本は未踏の超高齢社会を迎え,後期高齢者が急増する中,全人的視点に立った在 宅での健康支援が求められている.こうした中,看護において,老年期の発達課題をふま え,最期までその人らしく健康のバランスをとりながら人生を全うしていけるよう,スピ リチュアリティを含め健康を支える援助は重要である.そこで本研究では,十分なコンセ ンサスが得られていない日本人高齢者のスピリチュアリティの特性を明らかにし,在宅後 期高齢者のスピリチュアリティを支える看護における対話援助の在り方について検討した.
【方法】本研究は,2段階で研究枠組みを構成した.【研究1】では文献レビューによるメタ 統合(Meta-synthesis)分析を行い,日本人高齢者のスピリチュアリティの概念枠組みを統合 した.それに基づいて,高齢者のスピリチュアリティを支える対話援助の看護介入プログ ラムを構築した.【研究 2】では,介入研究の評価から,スピリチュアリティを支える看護 における対話援助のあり方について検討した.対話は,Bruner(1986)のナラティブモード の立場でかかわり,分析の視点は,高齢者のスピリチュアリティを外在化する目的で,内 藤(1997)の個人態度別分析(PAC 分析)を援用し,外在化されたスピリチュアリティの意 味の変容プロセスはナラティブ分析を行った.具体的には,対話で得られた語りのスクリ プトは,Labov(1982)のフレームワークを援用し物語を構成し,ストーリ化と意味の変容 のプロセスは, Riessman(2003)のナラティブ分析で行った.本研究は,岩手県立大学大学 院看護学研究科研究倫理審査の承認を得て実施した(承認番号2013-D002).
【結果】【研究 1】メタ統合の結果,日本人高齢者のスピリチュアリティは,『スピリチュア
ルペインにかかわる喪失体験』『対象との関係性から意味を見出す過程』『人生や自己存在 の意味の再構成・統合を目指す過程』と,看護援助の内容は『スピリチュアリティに関心 を寄せ意味づけの過程を支える援助』に統合され,そこから在宅後期高齢者のスピリチュ アリティを支える対話援助の看護介入プログラムを構築した.
【研究2】参加者は,78〜100歳の後期高齢者5名(男性2名,女性3名)で,対話は1
名につき 6〜8 回実施した.対話援助の介入プログラムは,【関心を寄せて理解する態度】
を基盤に,対話1~3回はPAC分析を援用した【外在化による気づきを促す援助】,対話4
~最終回はナラティブアプローチ法を用いた【人生の振り返りを通して意味を再構築・再 構成する過程を支える援助】で構成した.前者では,初回にスピリチュアリティに関わる5 つの質問を提示し,①潜在意識の外在化による認識化,②無知の姿勢で傾聴の態度でかかわ り,後者では,外在化されたナラティブの相互作用的な意味の生成を目指す,③物語の筋を 立てながら傾聴,④経験の真実性の共有,⑤語り直しによる意味の再構成,⑥意味づけの相 互主観化の態度,を主軸に行った.
その結果,在宅後期高齢者の体験世界の意味づけに依拠して,スピリチュアリティと人 生を統合するプロセスは異なっていた.すなわち,同居家族の中で役割意識を強く認識し ていた高齢者は,過去への後悔が表出され語り直しにおいて過去を受容し,意味の再構成 が促されていく変容プロセスが示された.また,病気や怪我を繰り返し死に直面するよう な病いの体験をした高齢者は,苦難を乗り越えた所以の強さを備えており,物語の筋立て において生き方を導く力となって,先祖や次世代の永続的存在との関係に意味を再確認・
確信していくプロセスが示された.
【考察】高齢者のスピリチュアリティが,役割意識や病いの体験の意味づけによって,異 なる変容のプロセスが示されたことで,対話援助のかかわりの態度を組み変えながらかか わったことは,外在化を促し意味の再構成の過程を有効に支えることができたと考えられ る.特に,病いの体験の意味づけが,高齢者の生き方を導く力になって統合のプロセスを 支えていたことから,外在化の過程では「無知の姿勢」と同時に看護職としての「専門的 姿勢」の態度の重要性が示された.また,在宅後期高齢者の役割意識や力の存在の意味づ けには,高齢者の歴史的時代背景に基づく多難な人生体験や日本固有の家父長・家制度の 文化の重視,先祖や子孫の永続的存在との関連が影響していたことから,高齢者のスピリ チュアリティは,一人ひとりが生きている社会文化的文脈の中で体験の意味を理解するこ とが重要である.今回,高齢者のスピリチュアリティの外在化をとおして,同居家族の中 での役割意識や先祖との永続的存在との関係性において深めることができたのは,在宅の 場で家族と直接時間が共有でき,普段の日常生活の中にスピリチュアリティを意識化しや すい環境にあったことが要因と考えられ,ここに病院や施設のスピリチュアルペインだけ ではなく,在宅後期高齢者のスピリチュアリティを支える対話援助の可能性が見出された.
キーワード:スピリチュアリティ,対話,ナラティブ,発達課題,在宅後期高齢者