CsCl型規則格子・合金における 電気抵抗変化の規則度依存性
(昭和52年5月11日 原稿受付)
共通講座応用物理学教室研究生池田英幸
(現在 鹿児島工業高等専門学校)
共通講座応用物理学教室研究生中野淑友
(現在 段谷産業株式会社)
共通講座応用物理学教室 松田日出彦
Dependence of Order Parameter on Electrical Resistivity Changes in Ordered Alloys with CsCl−type
by Hideyuki IKEDA Yoshitomo NAKANO Hidehiko MATSUDA
ABSTRACT
Amodel is presented to estimate the change in the electrical resistivity in ordered alloys as a function of the degree of order. For comparison with the model, electrical resistivity measurments were made for the orderedβ一CuZn alloys. The estimation based on the model is in good agreement with the exprimental results.
1.序論 晶の有する周期ポテンシャルが乱されることに由来する
として(1)式のような抵抗変化4ρに対する式3}を得た。
学灘蕊㌶と瓢難《㌻藍 4−2辮鑑
三ξ㌶:匡:㌫㌶∵;1、禁麟纏璽 ・{ん〔1+(喋)2〕一〔1+(2鴛・)2〕−1} (1)
年.金属の電子構造にっいてその理解が深まり,種々の ここでZAは母体金属の原子価,∠Zは母体金属と添 近似法や電算機によって,規則格子や不規則合金などの 加原子の原子価の差,〃繋)は0°KにおけるFermi波数,
エネルギー帯構造の理論的計算がなされ,電気抵抗につ α8はBohr半径,4、はThomas−Fermi近似によるスク いても計算されつつある1)。しかし,一般に金属,特に合 リーニング定数乃1はPlanck定数力を2πで除したも 金の電気抵抗について,第一原理から導出するのは困難 のである。
であり,実験結果を十分に説明し得る段階には至ってい 結晶の作るポテンシャルの周期性が乱れるという点に ない。そこで我々は次のようなモデルを考えて現象論的 着目すると,規則合金における不規則化の進行に対して ではあるが,合金の規則一不規則変態での電気抵抗変化 も,純金属に合金原子を添加した場合と同じような状況 について考察した。 にある。すなわち,規則状態での合金結晶の有するポテ MottとJones2)は置換型希薄合金における電気抵抗の ンシャルの周期性が不規則状態へ移行するとき失なわ 変化をBorn近似を用いて計算した。その際,抵抗変化の れ,電気抵抗の増加がみられる。
原因は原子価の異なる合金原子添加のため,母体金属結 これら両者の類似点に着目し,最大の規則性を有する
合金を純金属すなわち母体金属に対応させ,不規則化の +(1十ε一x)ψη(1+ε一∬)
進んだ状態を,ある濃度の添加原子を含む合金に対応さ +(1_ε_∬)τκ(1_ε_エ)
せるモデルを考えた。規則状態から不規則状態への変態 +(1十ε十x)βη(1+ε+∬)} (4)
過程における規則度と抵抗変化の関係を紘このモデ @と劫される.瓦は。1、依存しない定数欄原子喘 ルによ「)実蹴課をどの程麟明できるかを調べること 数ψは第1隣纈子の数 はB。lt、m、nn定数である.
が本研究の目的である・ Wよ相互作用のエネルギーで
規則度と抵抗変化の関係にっいては従来次のような式
が提唱されている。W,bb・・はβ.C。Z。の単糸吉晶試料を 2W=%・・+%・ザ2%・・
用いて電気抵抗の温度依存性を測定し,規則度∬と電気 で与えられる。ただし,z砺はゴ種原子と元種原子間の 抵抗の変化の割合4ρエ/4)。との関係を, 相互作用のエネルギーである・
坐一L∫ (2) ある温度丁で熱平衝状態にある合金の規則度は曲工
∠ρ・ ネルギーを極小にする条件∂刃∂寓=0により求められ と仮定して測定結果を整理している。ここで4)エは規則 る。すなわち
鑑㌶巖㌘1麟㌫:㌘ ・一 縺E艦i8≡1±3 (5)
完全不規則状態との電気抵抗値の差を表わす。また, で与えられる。また(5)式から変態温度7 ,に対して
Mut°ら9は同様の関係を(3)式のように提案している・ @ れ一袈(Lめ (6)
念=L〆 (3)繊れる.次に.(5),(6)式よ、)
対慧‡ ll、狸1)場:;:llラニ;㌶ 手=1云♂吻牒:;8碧 (7)
に対応した式に書きなおす。第3章では,その結果を種々 を得る。
の組成のβ一CuZn合金に対する実験値と比較する。な (7)式を用いると濃度εの合金について,ある温度丁で お,これらをWebbやMutoらの式から得られる結果と 熱平衝にある合金の規則度∬を求めることができる。
も比較する。
2.電気抵抗変化の規則度依存性 表一1α・β各格子点の占有確率
2.1.規則度パラメーターの温度依存性 ∠41一εB1+・
CsCl規則格子を有する2元合金Al−∈Bl.εについて 考える。ここでεは濃度パラメーターである。いま,こ の格子を体心に位置する格子点からなる格子(α格子)
と,隅に位置する格子点からなる格子(β格子)の2つ の副格子に分割する。Brag9−Willlams近似(B−W近似)
による長範囲規則度パラメーター∬,を導入すると、A,
Bそれぞれの原子がα,βの各格子点を占有する確率は 表一1のように表わされる。
通常のB−W近似による熱統計的取り扱いの結果,T°
KにおけるHelmholtzの自由エネルギーF(駕, T)は, 2・2・合金の平均自由電子数
2元合金,∠41−,B1+、が規則状態にある場合の平均の
臨丁)一抗一呼・・ 自由電子数を求める.+に繊が1・1,すなわち・一 +呼丁{(1一ε十x)τη(1一ε十∬) ㌫管得鷲欝㌫㌻鷲㌶;三
Probability
Site 1)(A) 1)(B)
α
†(1−・+∬) †(1+・一∬)
β 丁(1一ε一x) 丁(・+・+∬)
;㌧鷲6㌘き野㌶㌶《:舞 一1丁∠・1仏一ゐ)1
わちεが正のとき・ となり,単位格子中の1原子当りの平均自由電子数の差
∬腕=1一ε ∠1σは,
で慾嘉(㌫=㌶llZ㌫と, ∠津吉∠σ・=∠・・
最撒齢・での・酷およびβ肝点を占める原 一1麺Z・一∋ (9)
子のそれぞれの平均原子価をσ。(Xm),σβ(鋤)とすると,
これらは で表わされる・
2.3.規則一不規則変態による電気抵抗変化の式 ・。(・・)一丁〔(L・磯z・ (1)式中の各パラメーターを規貝,ト不規貝、麟に対して
+(1十ε一∬沈)Zβ〕 次のように対応させる。
・編=丁〔(1…・・)z・ 母金属の原子価z・は蹴規貝1騰での原子価・(・・)
+(1+、+。。)z。〕 に・また渦金属と合金原子との原子価の差∠Zは最 大規則状態とある規則状態との平均自由電子数の差∠σ
と表わされる・ に対応づける。スクリーニング定数(4s)やFermi波数 CsCl型規則格子合金の単位格子には・2個の原子が存 (〃9))は∬に依存しないと仮定する。さらに,濃度Cに 在するので最大規則度の状態にある合金の1原子当り 相当するものとして,最大規則度からの不規則化の程度 の平均原子価σ(xη2)は次のようになる。 を表わすパラメ_ター (鋤_x)=∠克をとり,これら
・(∬η2)一丁〔砺(抗)+・刷 の1司に c㊨x
一丁〔(1−・)Z・+(1+・)Z・〕 (8) のような関係を仮定する.ここでλ(。)は。のある関数
である。
同様にして・規則戯の規船金1こ対して・・格子点・ 肚のような対応をさせて(1)式の各パラメーターの置 β格子点上のそれぞれの平均の原子価σ・(エ),σβωは次 き換えを行うと,ある規則度、4での最大規則状態からの 式のようになる・ 電気抵抗の増加∠ρ、は
砺ω一†〔(1一εヰェ)ZA ∠1ρエ= ノ4λ(x)(∠Lτ)・
+(1十ε一工)Z8〕 と書き換えられる。こごで は定数で
・・(・)=丁〔(1−)Z A−♂( 聯農会11+、)ゐ}
したかつ_∴㌻〕という状態まで ・幽響ア}〔1+劇〕−1}
不規則化が進行し場合の。格子点,β格子点上を占め である・
る原子による平均自蠕子数の変化4。。,4,、はそれぞ ・一ぷ・一゜と礪気抵抗の差を∠ρ・とすると
、4σ.=1σα(∬)_σα(鋤)1 で表わされ,∠ρエと∠ρoとの比は
:1
∠σβ=1σβ(x)一σβ(鋤)1 (10)式の左辺の値は電気抵抗測定実験から求められ,
砺は濃度パラメーターεによって定まり・λ(0)は∬に ると,不規則化の影響が現われはじめ,抵抗値は直線か 対して一定であるとすると・ λ(エ)の関数形を定めるこ ら徐々に偏債し,変態温度τ,で急激に増加して最大の とができる・ 不規則状態になる。71、以上では短範囲の規則性は残存す 我々は組成が異なる数種類のβ一CuZn合金の規則 るが,熱振動の寄与が支配的で抵抗値は再び直線的に増 一不規則変態による電気抵抗変化を温度の関数として測 加している。
定し,パラメーターλ(エ)を定めた。
Specimen No. 1 2 3 4 5
Compod†10n O曾%Zn 45.88 4624 48.74 49.69 4979
σ0824 O.0752 0.0252 0.OO62 O.OO42
3.実験方法
竃0 市販の純度99.99%の銅と99.999%の亜鉛とを種々
の組成に配合し,内径約15mmの石英管に真空封入し ⌒ てシリコニット炉で溶解した後,水中へ急冷して合金を E
竺均質化のため再度同様の方法をく・)返し表一2に 誕0
不す組成の試料を作製した。なお,これらの組成の分析 lo 二 Σ
表一2試料の組成 ・虻
.≧
亘 紹50 匡
49.690f%ZO
=O.OO62
/㌘
8。l l l&4
は通常の化学分析によって求めた。再溶解の時,試料と ほぼ同径の石英管を用いると加熱時の試料の熱膨張によ り石英管が破損するため,内径17mmの少し径の大き
0 200 400 600 い石英管を使用した。得られた試料の形状は,直径約17 Tbmpe rature(・c)
mm,長さ約100 mmの丸棒状で,これを約100×0.6× 図一1 電気抵抗の温度変化 0.8mmの細い角柱状に切り出した。電流,電圧端子とし
て銅線を試料の両端に点溶接し・電気抵抗測定用試料と 45.88創%翫 した。試料はそれぞれ,アルゴンガス雰囲気中で,電気 =OO824 炉を用いて,約500℃,2時間の等温焼鈍を行って炉冷 15.0
させ,室温から530℃付近まで,約1.5℃/分の昇温速 度で加熱し,温度上昇による電気抵抗変化を測定した。 ⌒
測雄室温まで炉冷し滝気抵抗値を再測定して,温 §
」‡㌶翌鞠慧㌶㌶1㌶籠 琶1・・
同じ値を示し,組成の変化や酸化の影響は無視できるこ ≧ とを確認した。また,本実験では粉末X線回折写真によ .≧
プ り,各試料がβ相であることを確認した。 ・也 ㎝5.0
4.実験結果および考察 歪
図一1は組成49.69at%Zn(ε=0.0062)の試料につ いて,温度に対する電気抵抗値の変化を測定した結果で ある・室温から約2°°℃までは温度に比例して直線的に
@ 0 200 400 600
抵抗値が増加している・これは主として温趾昇による Temperature(・c)
結晶格子の熱振動に起因するものである。200℃を起え 図一2 電気抵抗の温度変化
他の組成の試料も同様な傾向の結果が得られた。図 規則状態と不規則状態の抵抗値の差4ρ・は次のように 一2は亜鉛濃度が作製試料中最も低い試料(45.88at% して求めた。図一1に示すように,規則状態での直線的 Zn,ε=0.0824)の電気抵抗測定結果である。図一1と な抵抗の増加を延長しT、での値をρ。,∂とする。このρ。,d 比較すると変態に起因する抵抗値の変化量が少ない。こ は,規則状態のままT,まで温度が上昇した場合の抵抗 れは組成比が1:1からずれているため,規則状態にお 値を意味する。一方T,での実際の値をρd,・として両者 いてもかなりの不規則性が存在し,変態前後の電気抵抗 の差をとると,熱振動の効果を除いた値が得られる。4ρエ 値の変化量が少なくなったと考えると妥当な結果であ の値は,ある規則度xに平衡する温度丁を(7)式によって、
る。 求め,このTにおけるρ。エとρ砿との差をとって求めた。
1.o
08
ξ06 箸04
ロ02
1.O
O.8
㊦O.6
<1
> 箸o.4
O.2
O O2 04 06 α8 10 0 0.2 0.4 06 0L8 1.O X X
図一3 図一4
1.O
O.8
ミ ξ06
書。4
02
1.O
O.8
く£O.6
〜 告o.4
O.2
0 02 0.4 0.6 0.8 LO O O2 04 06 08 10 X X
図一5 図一6
電気抵抗変化の割合と規則度との関係
図一3,4,5および6中の○印は,∬の種々の値に対し 以上のように,我々のモデルをもとに得た規則一不規 て4ρエを求め, 4ρエ/4ρ。とズとの関係を各試料につい 則変態に関する電気抵抗変化の式は,実験結果をよく再 てグラフにしたものである。図6の試料のデータに基づ 現すると同時に,エ=0という条件下での近似式は いて・(10)式のパラメーターλ(エ)を決定した。その結果. Mutoらの提出した関係式と係数の値以外は一致してい λ(∬)=¢訂とおくと他の組成の試料による測定値もか る。これらのことは,我々の提唱したモデルの一応の妥 なり良く再現した。このとき(10)式は, 当性を示している。またMutoらの式は組成の変化によ
翁一θ禦 (ll)㌫蕊り▲蒜㌶當歴き駕欝
と表わされる。図一3,4,5および6の各図中の実線は 組成が1:1からずれた合金に対しても適用できる。
OD式による計算値を表わす。また, Webbによる(2)式や パラメーターλ(∬)=ε3・の物理的意味については,
Mutoらによる(3)式の計算結果と図6の測定値およびOD 現段階では不明であり,今後吟味されるべき課題であろ 式による計算値とを比較した。図一7にこれら各式の計 う。
算結果と測定値を示した。ここで,二点鎖線はWebbの
式.破線はM。t。らの式による計算糸吉果を劾している. 5・総括
Mutoらの式は・∬の値が小さい範囲では実験値に近い値 Mottが導出した,置換型希簿合金における電気抵抗増 をとっているが,方の大きな値では,不一致が著じるし 加の式に対応させて,C、C〃型二元合金の規則一不規則 い。(ID式において,煽=1とし,∬が小さい範囲での近 変態での電気抵抗増加の式を現象論的パラメーターを用 似式を求めると いて導いた。このパラメーターを決定するため,C、C尼型
念=1−1・5プ (12)灘≧ll元漂不▲㌶ぽ㌶㌶
となる。この式は形式上Mutoらの式に類似している。 を測定した。その結果∬吻を,ある組成の合金がとり得 (12)式の計算値を図一7中に一点鎖線で示しているが, る最大の規則度,4っ。を最大規則状態と完全不規則状態 Mutoらの式より大きな∬の値まで実験値とだいたい一 との電気抵抗の差,4ρエを最大規則状態と規則度∬にお 致している。 ける電気抵抗の差,∠∬を玩と∬との差とすると,現象
lo
O.8
く£O.6
4 吉o.4
O.2
O O2 0.4 0.6 0.8 1.O
論的パラメーターはθ寂となり,
∠ρ∫_¢3エ(∠エ)3 4ρ。一 揚
という関係が,ある組成の試料の測定結果をもとに得ら れた。この式は,逆に他の種々の組成の合金の測定値を 再現し,その近似式はMutoらが提案した式と係数の値 を除いて一致する。これらの点から我々の得た式が妥当 であると思われる。
しかし,パラメータθΩの意味は現在のところ不明で
ある。
謝辞
X 本実験遂行に際し,真空封入装置の使用でご迷惑をお
_亙き.e3x剛3−_..±.卜1.5,・ かけしました共鵬座応用物理学縫の増永将二助教
△烏 Xえ ▲ρ0 授,試料分析の労をおかけしました金属工学科,植田安
一..一…・.卜、 一._坐・.1−、・ 昭搬蜘娚助手ぽた試料切咄しのため・フ・
△ρb △ρb インカッター使用のためご便宜を計って下さいました,
図一7 他の研究者による式との比較 迎静雄教授,西尾一政助手に心から感謝の意を表します。
文献 3)杉山旭:金属物性基礎講座4・金属電子論II丸善
欝麟驚竃運∵ 璽鷲驚;1:=一一
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