身体的ガイドを用いた左手箸操作練習
箸操作技能と学習効果の関係 山 裕司 ),中村 明香 )
要 旨
本研究では,箸操作技能の違いが左手箸操作練習における身体的ガイドの効果に及ぼす影響について検討し た.
対象は理学療法学科 年生 名である.箸操作について 分間の指導を行った後, 分間の左手箸操作によ る数珠玉移動個数を評価した( 回目評価).次に,身体的ガイドを装着して 回目評価を実施した.最後に,
身体的ガイドをフェイディングしながら 分間の箸操作練習を実施し,終了後 回目評価を実施した. 回目 評価の数珠球個数が中央値以上を技能良好群,未満を技能不良群として分類し,箸操作技能の違いが身体的ガ イドの効果に与える影響を検討した.
回目の数珠玉個数増加量と初回数珠玉個数の間に有意な正相関( )を認めた.逆に,
回目の数珠玉個数増加量と初回数珠玉個数の間には相関を認めなかった( ).技能不良群では,身 体的ガイドが有効に機能した群で 回目間の数珠玉個数増加量は有意に大きく(無効群 個 有効群 個 ), 回目評価における数珠玉個数と 回目間の数珠玉個数増加量の間には, の 有意な相関を認めた.一方,技能良好群内では,身体的ガイドは練習成績に影響を与えなかった.
以上のことから,開始時点で箸操作技能が良好な対象者ほど,反復練習が有効に機能するものと考えられた.
動作技能が不良な場合,身体的ガイドによって箸操作が可能な状態にした上で反復練習をさせることが必要で ある.
キーワード 箸操作,身体的ガイド,学習,日常生活動作
平成 年度 高知リハビリテーション学院紀要 第 巻
【はじめに】
片麻痺患者や切断患者などが行う日常生活動作の 多くは,障害を有する以前には経験していない動作 であり,その練習は新たな動作の学習過程として捉
えられる.動作練習では反復練習が行なわれるが,
動作技能の低い患者では失敗を繰り返すことが少な くない. ら )は,学習過程における度重なる 失敗経験は意欲の低下と学習能力の低下を引き起こ 報告
)高知リハビリテーション学院 理学療法学科
) 高知病院 リハビリテーション部
すことを報告しており,動作学習場面でも失敗の少 ない学習過程を創出する必要がある ).
我々は ),左手による箸操作技能の向上を目的 とした身体的ガイドを考案し,そのフェイディング 過程からなる箸操作練習プログラムの有効性につい て報告した.しかし,どのような対象者に身体的ガ イドを用いた練習が有効に作用するのかは明らかに なっていない.本研究では,左手箸操作の練習過程 において,箸操作技能の違いが身体的ガイドの効果 に与える影響を検討した.
【方法】
対象は理学療法学科 年生 名(男性 名,女子 名,年齢 歳)である.左手箸操作練習 を 名のグループ毎に実施した.
まず左手による正しい箸操作についてモデリン グ・口頭指示による指導を 分行った後, 分 回の左手箸操作による数珠玉移動を実施させ,移動 できた数珠玉個数を記録した( 回目評価 図 ). 次に,動作学習促進のために我々が考案した身体的 ガイド(図 ))を装着し,練習を行わず 回目評 価を実施した.最後に,上記の身体的ガイドをフェ イディングしながら 分間の左手による箸操作練習 を実施し,終了後 回目評価を実施した.
回目評価結果から,中央値以上を技能良好群,
未満を技能不良群として分類した.さらに,身体的
ガイドによって作業成績が中央値以上に向上した群 をガイド有効群,中央値未満の改善であった群をガ イド無効群として分類した.そして,箸操作技能の 違いが練習成績に与える影響を検討した.
統計的手法としては,一元配置分散分析と 検 定,スピアマンの順位相関係数を用い,いずれも危 険率 %を有意水準とした.
【結果】
数珠球個数は, , , 回目評価の順に,
, , 個であり,身体的ガイドの実施,
反復練習によって数珠球個数は有意に増加した(
).
平成 年度 高知リハビリテーション学院紀要 第 巻
図 箸操作能力の評価方法
分間の内に隣の皿に移動できた数珠玉の数を計測した.
数珠玉は 個とし,反対側の皿に全ての数珠玉を移動させ た後,また元の皿に数珠玉を戻させた.
分間の評価を, 分間の休息を挟んで 回行い,総数 をデータとして採用した.
第 , 指 屈曲位保持用ロール 対立位保持用テープ 図 身体的ガイド
回目評価間の数珠玉個数増加量と初回数珠 玉個数の間には,順位相関係数 の有意な 正相関を認めた( ). 回目評価間の 数珠玉個数増加量と初回数珠玉個数の間にも,順位 相関係数 の有意な正相関を認めた(
,図 ).一方, 回目評価間の数珠玉個 数増加量と初回数珠玉個数の間には,相関を認めな かった( ).
技能良好群は 例で, , , 回目評価の順に,
, , 個であった.身体的ガイド では有意な数珠玉数の増加を認めず,反復練習に よって数珠球個数は有意に増加した( ). 技能不良群は 例で, , , 回目評価の順に,
, , 個であり,身体的ガイドに よって数珠玉数は有意に増加したが( ), 反復練習による増加は有意ではなかった.
技能良好群内でガイド有効群と無効群の成績を比 較すると, 回目間の数珠玉個数増加量( 個
個)には差が無かった.
技能不良群の中でガイド有効群と無効群の成績を 比較すると, 回目間の数珠玉個数増加量(
個 個)はガイド有効群において有意に大きかっ た( ). 回目評価における数珠玉個数と
回 目 間 の 数 珠 玉 個 数 増 加 量 の 間 に は,
の有意( )な相関を認めた(図 ). ガイドを実施しても成績が伸びなかった無効群で は,反復練習による成績向上がない者が 例中 例 いた.
【考察】
本研究では,箸操作技能の違いが身体的ガイドを 用いた左手箸操作の練習成績に与える影響について 検討した.
数珠球個数は,身体的ガイドの実施,反復練習に よって有意に増加し,これらの練習方法が有効に機 能することが確認できた. 回目評価間および 回目の数珠玉個数増加量と初回数珠玉個数の 間に有意な正相関を認め,練習開始時点で箸操作技 能が良好な対象者ほど成績が向上しやすいものと考 えられた.また, 回目の数珠玉個数増加量と 初回数珠玉個数の間には相関を認めなかったため,
練習開始時点で箸操作技能が良好な者は,身体的ガ イドの効果というよりも,単純な反復練習が有効に 機能したものと考えられた.清宮らは ),箸の種類,
移動する物体の性状を変化させることによって難易 度の異なる箸操作課題を設け,左手による箸操作能 力の推移を観察している.その結果,難易度の低い 課題では,練習の反復によって成績が向上したのに 対し,困難な課題では個体差が大きく,明らかな成 績向上が認められなかった.よって,初回成績が良 かった対象者にとって今回の課題の難易度が低かっ たことが,反復練習による箸操作技能の向上につな がり,逆に成績が不良なものでは難易度の高さが学 習を阻害したものと考えられた.
技能良好群内でガイド有効群と無効群の成績を比 較すると, 回目間の数珠玉個数増加量( 個 個)には差が無かった.よって,これらの対象 者では練習による箸操作技能向上に身体的ガイドが
平成 年度 高知リハビリテーション学院紀要 第 巻 平成 年度 高知リハビリテーション学院紀要 第 巻
図 回目評価における数珠玉個数と 回目 評価間における数珠玉個数増加量の関係 図 回目評価における数珠玉個数と 回目
評価間における数珠玉個数増加量の関係
与える影響は小さいものと考えられた.技能不良群 の中でガイド有効群と無効群の成績を比較すると,
回目間の数珠玉個数増加量( 個 個)
はガイド有効群において有意に大きかった.さらに,
回目評価における数珠玉個数と 回目間の数 珠玉個数増加量の間には, の有意な相関 を認めた.これらのことから動作技能が不良な場合,
身体的ガイドなどによってある程度箸操作が可能な 状態にした上で反復練習をさせることが技能向上を 図る上で重要と考えられた.
ガイドを実施しても成績が伸びなかった無効群で は,練習による成績向上が全くない者が 例中 例 に認められた.特にこれらの 名は, 名の中で成 績が下位の 名であった.我々の先行研究 )でも,
箸操作技能が不良な場合,反復練習による箸操作技 能の向上をまったく認めなかった. ら )は学 習過程における度重なる失敗経験は,認知的課題,
道具的課題両者における学習能力の低下を引き起こ すことを報告している.我々は ),本研究と並行し て箸操作練習中の心的事象の変化について言語報告 をもとに検討した.その中で,成績向上が得られな かったグループでは意欲の低下やイライラなどのネ ガティブな心的事象を全例に認めた.反対に,身体 的ガイド,反復練習いずれにおいても中央値以上に 成績が向上したグループでは,意欲の向上や楽しさ などのポジティブな心的事象を対象者の %に認め た.以上のことは,難易度の高い動作練習における 安易な失敗の繰り返しは,動作学習を阻害し,練習 に対する意欲を減退させることを示している.よっ て,通常の動作練習によって成功体験が得られない 場合には,動作が成功するような練習過程を創造す ることが必要不可欠である.
豊田ら )はシェイピング,チェイニング,プロン プト・フェイディング法を用いた段階的な模擬大腿 義足歩行訓練が試行錯誤型の歩行訓練よりもより早 期に義足歩行スキルを向上させたことを報告してい る.今回の結果が,その他の動作練習にも適応でき
るか否かは今後の反復実験を必要とするが,成功体 験が得られる動作練習プログラムの創出が有効に機 能する可能性は高い.
【結語】
練習開始時点で箸操作技能が良好な対象者ほど反 復練習による効果が得られ易く,身体的ガイドの使 用が箸操作技能に与える影響は小さかった.
技能不良群では身体的ガイドによって成績が向上 できた症例において箸操作技能の習得は良好であっ た.よって,箸操作技能が不良な場合,身体的ガイ ドなどによってある程度箸操作が可能な状態で反復 練習を行うことが技能向上を図る上で重要である.
【文献】
)
)才藤栄一,米田千賀子・他 リハビリテーショ ンにおける運動学習.総合リハ ,
.
)山 裕司,鈴木 誠 身体的ガイドとフェイ ディング法を用いた左手箸操作の練習方法.総
合リハ , .
)鈴木 誠,山 裕司・他 箸操作訓練における 身体的ガイドの有効性.総合リハ ,
.
)清宮良昭,長谷川聡世・他 箸つまみ動作の速 度が異なる課題を練習したときの練習効果の違 い.作業分析学研究 , .
)山 裕司,山本淳一 左手箸操作練習における 動作学習体験.リハビリテーション教育研究
, .
)豊田 輝,宮城新吾・他 プロンプト・フェイ ディング法を用いた義足歩行練習の効果.日本 行動分析学会第 回年次大会発表論文集 ,
.
平成 年度 高知リハビリテーション学院紀要 第 巻