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修士論文
BGL 発現細菌と
Clostridium thermocellum を用いた セルロースからのグルコース生産
平成 30 年度 2 月 12 日
教育学研究科 理数生活系教育領域
伊藤敏之
2
目次
要旨
第1章 緒論
第
2章
Clostridium thermocellumと
BGL発現
B. subtilisを用いたグルコース生 産
第1節 目的
第2節 材料と方法
2-2-1 BGL活性測定
2-2-2 C. thermocellum
と
BGL発現
B. subtilisを用いたグルコース生産 第3節 結果
2-3-1 BGL
発現
B. subtilis培養液の
BGL活性
2-3-2 C. thermocellum
と
BGL発現
B. subtilis培養液を用いた精製セルロー スからのグルコース生産
2-3-3 C. thermocellum
と
BGL発現
B. subtilis培養液を用いたセルロース系 バイオマスからのグルコース生産
2-3-4 C. thermocellum
と
BGL発現
B. subtilisの共培養によるグルコース生 産
2-3-5
ジャーファーメンターでの
C. thermocellumと
BGL発現
B. subtilis培 養液を用いたグルコース生産
2-3-6 C. thermocellum
と
BGL発現
B. subtilis培養液を用いたグルコース生
産時における精製
BGL添加
3
第4節 考察 第5節 図表
第
3章
BGL活性を有する土壌細菌探索 第1節 目的
第2節 材料と方法
3-2-1
培地作成と土壌細菌の培養
3-2-2 土壌細菌培養液のBGL活性測定 第3節 結果
3-3-1 BGL
活性を有する土壌細菌の単離
3-3-2 BGL
活性を有する土壌細菌を用いたグルコース生産
第4節 考察 第5節 図表
第
4章
C. thermocellumと
BGL発現
Escherichia coliを用いたグルコース生産 第1節 目的
第2節 材料と方法
4-2-1 BGL
発現
E. coliの
BGL活性
4-2-2 C. thermocellum
と
BGL発現
E. coliを用いたグルコース生産 第3節 結果
4-3-1 BGL
発現
E. coliの
BGL活性測定
4-3-2 C. thermocellum
と
BGL発現
E. coli培養液を用いた精製セルロース からのグルコース生産
4-3-3 C. thermocellum
と
BGL発現
E. coliの培養液を用いたセルロース系
4
バイオマスからのグルコース生産
4-3-4 C. thermocellum
と
BGL発現
E. coliの共培養によるグルコース生産 第4節 考察
第5節 図表
第
5章
C. thermocellumと
BGL発現
Brevibacillus choshinensisを用いたグルコ ース生産
第1節 目的 第2節 材料と方法
5-2-1 BGL
遺伝子の調製と
B. choshinensisの形質転換
5-2-2 BGL発現
B. choshinensisの選抜
5-2-3 セルラーゼ活性測定
5-2-4 C. thermocellum
培養液からのセルロソームの回収 第3節 結果
5-3-1 BGL
発現
B. choshinensisの
BGL活性測定
5-3-2 BGL発現
B. choshinensisの
60℃処理での死滅5-3-3 C. thermocellum
と精製
BGLを用いたグルコース生産
5-3-4 C. thermocellum
と精製
BGLを用いた
BGL活性別グルコース生産
5-3-5 C. thermocellumと
BGL発現
B. choshinensis用いた精製セルロースか
らのグルコース生産
5-3-6 C. thermocellum
と
BGL発現
B. chosinensisを用いた培養条件別グルコ ース生産
5-3-7 BGL
発現
B. chosinensisの大量培養
5-3-8 C. thermocellum
と
BGL発現
B. chosinensisを用いた培地成分別グルコ
5
ース生産
5-3-9 グルコース生産におけるセルロソームの添加の影響
5-3-10
バイアル瓶を用いたグルコース生産
第4節 考察 第5節 図表
参考文献
謝辞
6
第
1章 緒論
近年、地球温暖化対策として、原因と考えられている二酸化炭素の排出削減が 世界的な課題となっている。二酸化炭素の排出削減には、化石資源の使用を削減 することと、より二酸化炭素の排出量の少ない資源を利用することが必要にな る。そのため、現在、非化石資源の利用拡大が進められている(石油連盟、
2015)。 非化石資源である植物バイオマスは、持続的利用が可能な再生可能資源であり、
また、燃焼により大気中の二酸化炭素の増減に影響しないカーボンニュートラ ルである点において二酸化炭素の排出削減に有効である。その中でも、地球上に 豊富に存在し、食糧と非競合である草本系、木質系といったセルロース系バイオ マスは、安定供給が可能であるため、化石燃料に代わる有力な非化石資源として 挙げられる(村上、2008) 。セルロース系バイオマスを原料とするエネルギー製 品や化学製品の製造では、微生物が利用できる糖を原料とする微生物発酵が用 いられている。そのため、セルロース系バイオマスに含まれる多糖類であるセル ロースを分解して、発酵可能なグルコースを得ること必要になる。
セルロースの分解には、硫酸などを用いる化学的手法に比べて環境への負荷 が低く、さらに発酵阻害物質の生成を抑制できるメリットがある微生物由来の 酵素が用いられる。現在、セルロース分解に用いられる酵素は、真菌由来の酵素 である(近藤ら、
2012) 。しかし、酵素添加によるセルロースの分解は、高コス トな酵素を大量に必要とするため、グルコース生産により多くの費用を要する ことになる。
そこで本研究では、酵素添加を必要とせず、セルロース系バイオマスを分解で
きる
Clostridium thermocellumという細菌に注目した(
Demainら、
2005) 。好熱嫌
気性細菌である
C. thermocellumは、多種類のセルロース分解酵素を持ち、セル
7
ロース系バイオマスを効果的に分解する酵素複合体と呼ばれるセルロソームを 生産する。C. thermocellum は、このセルロソームによりセルロースを分解して、
主に二糖であるセロビオースを生産することができる。そして、生産したセロビ オースを栄養源として利用して様々な代謝物を生産する。先行研究では、セルロ ースを含む
C. thermocellumの培養液に、セロビオースをグルコースに変換する 酵素である
β -グルコシダーゼ(BGL)を添加したとき、培地中に多くのグルコースが蓄積させることができた(
Prawitwongら、
2013) 。これは、添加された
BGLにより、セロビオースからグルコースへの変換が促進されたためである。
セルロースからのグルコース生産の実用化には、よりコストの低いグルコー ス生産技術の開発が必要である。高価な精製
BGLの添加を必要とする先行研究 の方法では低コスト化が難しいので、酵素添加を必要としないグルコース生産 が求められる。C. thermocellum を遺伝子工学的手法を用いて改変し、BGL を発 現・分泌させることで、
BGLの添加を省くことが試みられたが、その時の
BGL活性は必要量の
1/500であった(市原ら、2015) 。
堆 肥 中 で は
C. thermocellumと
Bacillus属 細 菌 は 共 存 し て い る た め 、
C.thermocellum
と Bacillus 属細菌を共培養できるのではないかと考えた(伊藤、
2016
) 。
Bacillus subtilisは遺伝子組み換えしやすく、目的のタンパク質の生産に
長けているためこの細菌を
BGL発現細菌として用いる事を構想した。
BGL
発現細菌として大腸菌
Escherichia coliにも着目した(市原、
2017) 。
C.thermocellum
の培養最適温度が
60℃であること(Olsonら、2012) 、また、大腸
菌の生育可能な最高温度が
40~55℃であることに注目した(一色、
2010) 。これ
より、菌体内に
BGLを発現した大腸菌(BGL 発現
E. coli)を、C. thermocellumの培養液に添加した時、大腸菌の死滅・溶菌により、菌体内の
BGLが菌体外に
放出されると予想した。そして、放出された
BGLにより、セロビオースが分解
8
され、グルコースを生産することができれば、菌体破砕や精製などの工程を削減 でき、BGL の調製工程の簡略化につながると考えた(市原
2017)。
大量の
BGLを発現・分泌できる細菌を新たに開発することを目的に、
Brevibacillus choshinensis
にも着目した。B. choshinensis はタンパク質を大量に分 泌生産する特長を有しており、加えてプロテアーゼ活性をほとんど示さず、培養、
滅菌が容易で遺伝子操作がしやすいため(TAKARA) 、この細菌に
BGLを発現 させることを構想した。
本研究では、B. subtilis、E. coli、B. choshinensis に
BGLを発現させる方法を提 案する。
B. subtilis、
E. coli、
B. choshinensisに
BGLを発現させることができれば、
これを利用することでセルロース系バイオマスから低コストでグルコースを大 量に得ることができるものと予想される。この仮説を実証するために、
B. subtilis、
E. coli、B. choshinensis
を遺伝子工学的手法を用いて改変し
BGLを発現させ、こ
れを利用してグルコースを生産することを試みた。
9
第2章
C. thermocellumと
BGL発現
B. subtilisを用いたグルコース生産
第
1節 目的
セロビオースをグルコースに分解する酵素である
BGLを添加したとき、培地 中に多くのグルコースが蓄積させることができた(
Prawitwongら、
2013) 。セル ロースからのグルコース生産の実用化には、よりコストの低いグルコース生産 技術の開発が必要である。高コストである
BGLの添加を必要とする先行研究の 方法では低コスト化が難しいので、酵素添加を必要としないグルコース生産が 求められる。堆肥中では
C. thermocellumと
Bacillus属細菌は共存しているため、
C. thermocellum
と Bacillus 属細菌を共培養できるのではないかと考えた(伊藤
ら、
2016) 。
B. subtilisは遺伝子組み換えしやすく、目的のタンパク質の生産に長
けているためこの細菌を用いる事を構想した。磯崎は
BGL発現
B. subtilis(以降
BGL
発現
B. subtilis)を創出した(磯崎、
2018) 。創出した株を用いてセルロース
からのグルコース生産を目的とした。
10
第2節 材料と方法
2-2-1 BGL
活性測定
5ml
の
LB培地で
BGL発現
B. subtilisを
1晩、37℃、180 rpm で振とう培養し た。
500 μlの培養液をマイクロチューブに移した。
15000 rpmで2分間遠心分離 を行い、菌体を沈殿させ、上清を回収した。また、
500 μlの培養液をマイクロチ ューブに移し、
60℃
1時間インキュベートし、
15000 rpmで2分間遠心分離を行 い、菌体を沈殿させ、上清を回収した。これらを
BGL活性測定の酵素溶液とし た。
100μl
の
10 mM p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド (pNPG)と、280 μl の
5 mM CaCl2含有
100 mM酢酸バッファー(
pH 6.0)を試験管にとり、
3分間
60℃でプレインキュベーションした。20 μl
の
BGL溶液をここに加え、60℃で
インキュベーションした。
10分後、反応を止めるために
600μlの
400 mM Na2CO3を加えた。15000 rpm で2分間遠心分離を行い、その上清の波長
410 nmの吸光 度を測定した。
pNPG
は
BGLにより分解されると、グルコースと
p-ニトロフェノールを生じる。
1分間に
1 μmolの生成物を生じるとき、これを1ユニット
(U)と定義する。
1 mM p-ニトロフェノールの吸光係数は18.6
である。ここから、10 分間に
0.186の吸光度の増加がある場合、酵素活性は
50 U/Lとした。
2-2-2 C. thermocellum
と
BGL発現
B. subtilisを用いたグルコース生産
精製セルロース(Sigmacell Cellulose)をそれぞれ
5%、7%、10%、14%含む BM7CO培地(
1.5 g/l KH2PO4、
2.9 g/l K2HPO4、
2.1 g/l urea、
6.0 g/l yeast extract、
0.5 g/l cysteine hydrochloride、4 g/l Na2CO3、
0.5 mg/l MgCl2 6H2O、0.0075 mg/l CaCl211
2H2O
、
25 μl of 1% resazurin、
pH 7.0)を調製した(市原ら、
2015) 。また、アルカ リ処理粉砕稲わら
5%、10%を含むBM7CO培地を調製した。試験管に窒素ガス を封入し、密栓することで嫌気条件を作った。
60度で
C. thermocellumを接種・
培養し、培養
1日後に
BGL発現
B. subtilisの
LB培地培養液を 2mL 添加して再 び
60度で静置した。培養液中のグルコース濃度は、グルコース濃度測定キット
(グルコース
CII-テストワコー)を用いて測定した。12
第3節 結果
2-3-1 BGL
発現
B. subtilis培養液の
BGL活性
BGL
発現
B. subtilisの培養液中の
BGL活性を測定した(磯崎ら、
2018)。細胞
を含む培養液の
BGL活性は
119 U/L、培養液の遠心分離後上清の
BGL活性は
62.7 U/L、60℃処理培養液の遠心分離後上清のBGL活性は 77.1 U/L であった(図 1) 。培養液の
BGL活性は上清の
BGL活性に比べ有意に高かった(
p < 0.01) 。
上清と
60℃処理上清の間には有意な差はなかった。2-3-2 C. thermocellum
と
BGL発現
B. subtilis培養液を用いた精製セルロースか らのグルコース生産
C. thermocellum
を接種した
5%セルロースを含むBM7CO培地に、
BGL発現
B.subtilis
の培養液を
2mL添加し、
60度で静置培養した。培養
16日目で終濃度
3.6%セルロースから3.2%グルコースが生産された(図2)
。また、精製セルロー
ス濃度を高くすると、培養
8日目のセルロース残渣量が多くなった(図3) 。培 養
8日目における終濃度
3.6%、5%、7.1%、10%セルロースからのグルコース濃度は、それぞれ
2.7%、
2.7%、
1.8%、
2.1%であった(図4) 。
2-3-3 C. thermocellum
と
BGL発現
B. subtilis培養液を用いたセルロース系バイ オマスからのグルコース生産
C. thermocellum
を接種した
5%、
10%アルカリ処理粉砕稲わら含有
BM7CO培
地に、
BGL発現
B. subtilisの培養液を
2mL添加して
60度で培養し、培養液中の
グルコース濃度を測定した。
BGL発現
B. subtilis培養液添加後
12日目で、終濃
度
3.6%稲わらから 0.83%グルコースが、終濃度 7.1%稲わらから 2.3%グルコー13
スが、培地中に生産された(図5) 。
2-3-4 C. thermocellum
と
BGL発現
B. subtilisの共培養によるグルコース生産
3%、 5%、 10%精製セルロースを含む BM7CO培地で
C. thermocellumを
60度
3日培養し、蓋を開け
BGL発現
B. subtilisを接種しモルトン栓をして
37℃で
2日間培養した。その後、窒素ガスを再度封入し、60 度で
15日間培養した。培 養
20日目において、グルコース濃度がそれぞれ
1.62%、
2.23%、
2.41%となった
(図6) 。BGL 発現
B. subtilis接種後
2日目における
BGL活性はそれぞれ、
7.44U/L
、
15.2U/L、
22.8U/Lであった。
2-3-5
ジャーファーメンターでの
C. thermocellumと
BGL発現
B. subtilis培養液 を用いたグルコース生産
ジャーファーメンターを用いて、
16日間グルコース生産を行った。培養
16日 目において、終濃度
10%精製セルロースから2.12%グルコースが生産された(図7) 。
2-3-6 C. thermocellum
と
BGL発現
B. subtilis培養液を用いたグルコース生産時 における精製
BGL添加
10%
精製セルロースを含む培地で
C. thermocellumを
60度で培養し、培養
1日
目に
BGL発現
B. subtilis培養液を
2mL添加した。添加後
60度インキュベータ
ーで
10日間培養した。また培養
5日目に、試験管内の
BGL活性が
1000U/Lに 相当する
BGL溶液(Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum 由来
BGL溶 液)を添加した(伊藤、
2016) 。培養
10日目時点で終濃度
7.1%セルロースから、
BGL
添加有りは
3.01%、添加無しは2.25 %のグルコースが生産された(図8)。
14
第4節 考察
高価である精製
BGL溶液の添加を必要とする先行研究の方法では低コスト化 が 難 し い の で 、 酵 素 添 加 を 必 要 と し な い グ ル コ ー ス 生 産 が 求 め ら れ る
(
Prawitwongら、
2013) 。本研究で用いた
BGL発現
B. subtilisの
BGL活性を測 定したところ、培養液の
BGL活性は上清の
BGL活性に比べ有意に高かった(p
< 0.01
) (図1)。また、
C. thermocellum培養条件において
BGL発現
B. subtilisの グルコース消費はほとんどないことが分かっている(伊藤ら、
2016)。以上から、グルコース生産時には
BGL発現
B. subtilis培養液を
BGL溶液として直接投入し たら良いと判断した。
先行研究では、
C. thermocellum培養条件において精製
BGLを添加することで、
10%セルロースから約7%のグルコースが生産されている(Prawitwong
ら、
2013)。 本研究室では、
C. thermocellum培養条件において
BGL発現
B. subtilisを
2mL添 加することで、培養
11日目において終濃度
3.6%セルロースから 3.0%のグルコースを生産できた(伊藤ら、
2016) 。高濃度のグルコースを生産するために、 セ ルロース濃度を上げてグルコース生産を行ったところ、培養
8日目において、
終濃度
3.6%、
5%、
7.1%、
10%セルロースから、
2.7%、
2.7%、
1.8%、
2.1%グ ルコースが生産されることがわかった(図4)。したがって
C. thermocellumと
BGL
発現
B. subtilisを用いた高濃度グルコース生産には課題がある。
培養
12日目において終濃度
3.6%稲わらから0.83%グルコースが、終濃度
7.1%稲わらから
2.3%のグルコースが、培地中に生産された(図5) 。アルカリ処理稲
わら中のセルロース含有量を
50%とすると(市川ら、2016)セルロースからグルコースへの変換率は、 終濃度
3.6%稲わらでは
46%、 終濃度
7.1%稲わらでは
65%
であった。生産されるグルコース濃度は小さいため、稲わらから高濃度グルコー
15
スを生産するための条件検討も必要となる。
C. thermocellum
の培地で
B. subtilisの増殖が確認できることから(伊藤ら、
2016
) 、
C. thermocellumと
BGL発現
B. subtilisを共培養できるのではないかと考 えた。共培養の実験では、
3%、 5%、 10%の精製セルロースから培養20日目に おいて、それぞれ
1.62%、
2.23%、
2.41%のグルコースが生産された(図6) 。
BGL発現
B. subtilis接種後
2日目における
BGL活性はそれぞれ、7.44U/L、15.2U/L、
22.8U/L
であった。共培養におけるグルコース濃度が低い要因として、
BGL活性
が低いことが考えられた。
先行研究では、グルコース生産時に
130 rpm、
rotaly shakingの条件において培 養されていた(Prawitwong ら、2013) 。また、C. thermocellum 培養時の
pHの調 整により、セルロース系バイオマスから生産されるグルコースが増加すること が分かっている(安井ら、2015) 。よって、ジャーファーメンターで培養するこ とで、撹拌と
pH調整をすることを構想した。ジャーファーメンターを用いた培 養では、培地中のセルロースの最濃度
10%から、培養 16日目で
2.1%のグルコースが生産された(図7)。試験管での実験において、終濃度
10%セルロースを 含む培地から培養
8日で
2.1%のグルコースが生産されていた(図4)。ジャーファーメンターによって撹拌、
pH調整を行ったが、グルコース濃度は上昇しな かった。この要因として、培養時における嫌気度が考えられた。サンプル接種や
pH調整の際には一時的に蓋を開けていたため、嫌気度が低下していたと予想さ れた。つまり、撹拌、pH 調整による効果を検証できていない可能性がある。
グルコース生産時に精製
BGLを添加することで、添加無しの場合と比較して、
グルコース濃度が上昇した(図8) 。したがって、グルコース生産時における培 養液中の
BGL活性が不足している事が分かった。
以上の結果から、高濃度セルロースから、高濃度グルコース生産をすることに
16
課題あることが明らかになった。
BGL添加実験から、グルコース生産時におけ
る培地中の
BGL活性を上げる必要があることが分かった(図8) 。そのため、高
濃度セルロースから、高濃度グルコース生産するには
BGL活性を上げる必要が
ある。
17
第5節 図表
図1:BGL 発現
B. subtilis培養液の
BGL活性
BGL
発現
B. subtilisを一晩培養した。細胞を含む培養液、培養液の遠心分離後
上清、60℃処理培養液の遠心分離後上清の
BGL活性を、pNPG を用いて測定し た。
(N=3)0 20 40 60 80 100 120 140
培養液 上清 60℃処理上清
BGL活性(U/L)
18
図2:
C. thermocellumと
BGL発現
B. subtilisを用いた
3.6%セルロースからのグ ルコース生産
5%
セルロースを含む培地で
C. thermocellumを
60度で培養し、培養
1日目に
BGL発現
B. subtilisの培養液を添加した。BGL 発現
B. subtilis培養液添加後
10日目、
13日目、
16日目の、終濃度
3.6%セルロースの培養液中のグルコース濃度 を測定した。(N=2)
0 5 10 15 20 25 30 35
0 5 10 15 20
グルコース濃度(g/L)
培養日数(日)
19
図3:濃度別セルロース含有培地でグルコース生産時の培養液の様子
上段は
BGL発現
B. subtilis培養液添加前
1日目、下段は
8日目の培養液の様 子を示す。セルロースを含む培地で
C. thermocellumを
60度で培養し、培養
1日
目に
BGL発現
B. subtilisの培養液を
2mL添加した。セルロース終濃度は、3.5%
(
①②) 、
5%(
③④) 、
7.1%(
⑤⑥) 、
10%(
⑦⑧)である。
(N = 2)20
図4:濃度別セルロース含有培地でグルコース生産
セルロースを含む培地で
C. thermocellumを
60度で培養し、培養
1日目に
BGL発現
B. subtilis培養液を
2mL添加した。添加後
60度インキュベーターで
8日間
培養した。グラフ中に示されたセルロース濃度は終濃度を表す。(N = 2)
0 5 10 15 20 25 30
0 2 4 6 8
グ ル コー ス 濃度 (g/ L )
培養日数(日)
3.7%濃度3.6% 5%濃度5% 7.1%濃度7.1% 10%濃度10%
21
図5:
C. thermocellumと
BGL発現
B. subtilisを用いたアルカリ処理粉砕稲わら からのグルコース生産
アルカリ処理粉砕稲わらを含む培地で
C. thermocellumを
60度で培養し、培
養
1日目に
BGL発現
B. subtilis培養液を
2mL添加した。添加後
60度インキュ
ベーターで
12日間培養した。グラフ中に示された稲わら濃度は終濃度を表 す。(N=2)
0 5 10 15 20 25
0 3 6 9 12
グルコース濃度(g/L)
培養日数(日)
稲わら3.6%
稲わら7.1%
22
図6:
C. thermocellumと
BGL発現
B. subtilisの共培養による精製セルロースか らのグルコース生産
精製セルロースを含む
BM7CO培地で
C. thermocellumを
60度
3日培養し、蓋
を開け
BGL発現
B. subtilisを接種しモルトン栓をして
37℃で2日間培養した。
その後、窒素ガスを再度封入し、
60度で
15日間培養した。
(N=2)0 5 10 15 20 25 30
0 5 10 15 20
グルコース濃度(g/L)
培養日数(日)
3%
5%
10%
23
図7:ジャーファーメンターを用いた
C. thermocellumと
BGL発現
B. subtilisに よるセルロースからのグルコース生産
ジャーファーメンターを用いて、
14%セルロースを含む
BM7CO培地で、
C.thermocellum
を
60度で培養した。培養
1日目に
BGL発現
B. subtilis培養液を
400ml
添加し、
16日培養した。 終濃度
10%セルロース培養液中のグルコース濃
度を示した。(N = 1)
0 5 10 15 20 25
0 5 10 15
グ ル コース 濃度( g/ L )
培養日数(日)
24
図8:
C. thermocellumと
BGL発現
B. subtilis培養液を用いたグルコース生産時
における精製
BGL添加
14%
精製セルロースを含む培地で
C. thermocellumを
60度で培養し、培養
1日
目に
BGL発現
B. subtilis培養液を
2mL添加した。添加後
60度インキュベータ
ーで
10日間培養した。また、培養
5日目に、試験管内の
BGL活性が
1000U/Lに 相当する
BGL溶液(精製
TtBGL溶液)を添加した。終濃度
10%セルロース培養液中のグルコース濃度を示した。
(N=2)0 5 10 15 20 25 30 35
0 2 4 6 8 10
グ ル コース 濃度( g/ L)
培養日数
BGL添加あり BGL添加なし
25
第
3章
BGL活性を有する土壌細菌探索
第1節 目的
第
2章では、 BGL 分泌
B. subtilisを用いたグルコース生産を行った。高濃度 セルロースからのグルコース生産では、培養
8日目においてセルロース残渣が 多く、グルコース生産量は向上しなかった(図3、4) 。グルコース生産に使用
している
BGL分泌
B. subtilis培養液の遠心分離上清の
BGL活性を測定すると
62U/L
であった(図1)。
Prawitwongらの研究では、グルコース生産時の培養液中 の
BGL活性は
1000 U/Lであった(
Prawitwongら、
2013) 。
14%精製セルロース を含む
C. thermocellumの培養液に
BGL分泌
B. subtilisを
2mL添加し、培養
5日 目に、 試験管内の
BGL活性が
1000U/Lに相当する
BGL溶液 (精製
TtBGL溶液)
を添加したところ、
BGL添加条件においてグルコース濃度が
BGL添加無しに比 べ増加した。 (図8)。したがって、培養液中の
BGL活性が不足していることが、
高濃度グルコース生産の1つの課題であることがわかった。BGL 分泌
B. subtilisは遺伝子組み換えをしているため、廃液処理等の管理費用が大きいことも課題
となる。そこで、BGL 活性を有する新たな微生物を探索することにした。
26
第2節 材料と方法
3-2-1
培地作成と土壌細菌の培養
エスクリンと塩化鉄(Ⅲ)を含む
BM7CO寒天培地(1.5 g/l KH
2PO4、2.9 g/l
K2HPO4、
2.1 g/l urea、
6.0 g/l yeast extract、
0.5 g/l cysteine hydrochloride、
4 g/l Na2CO3、
0.5 mg/l MgCl2 6H2O、0.0075 mg/l CaCl2 2H2O、1.0 g/L esculin sesquihydrate、0.3 g/L FeCl3 6H2O、
25 μl of 1% resazurin、寒天
1%、
pH 7.0)を調製した。寒天培地上に 土壌懸濁液を塗布し、60 度で培養した。
エスクリンと塩化鉄(Ⅲ)を含む
BM7CO培地を調製し、
96ウェルプレート
に
200μLずつ入れ、寒天培地上に形成したコロニーをピックアップし、60 度
で
1晩培養した。
3-2-2
土壌細菌培養液の
BGL活性測定
10 mM
の
pNPG 100μlと、280 μl の
5 mM CaCl2含有
100 mM酢酸バッファー
(
pH 6.0)を混合し、
pNPG溶液とした。この
pNPG溶液を
96ウェルプレートに
190μL
ずつ入れ、土壌細菌培養液を
10μL入れ、1 晩
60度でインキュベート
することで、
BGL活性を有する培養液をスクリーニングした。
pNPG
溶液を試験管に
380μLとり、3 分間
60℃でプレインキュベーションした。
20 μlの
BGL活性がある土壌細菌培養液を加え、
60℃で
10分間インキュベ ーションした。反応を止めるために
600μlの
400 mM Na2CO3を加えた。この溶
液を
rpm 14500で2分間遠心分離し、上清の波長
410 nmの吸光度を測定した。
2-2-1
と同様に、10 分間に
0.186の吸光度の増加がある場合、酵素活性は
50 U/Lとした。
27
第3節 結果
3-3-1 BGL
活性を有する土壌細菌の単離
採取した土壌を滅菌水で懸濁し、寒天培地上に塗布した。60℃で
1晩培養す ることで、土壌細菌のコロニーを形成させた(図9) 。寒天培地上の茶色を呈色 しているコロニーをピックアップし、
96ウェルプレートにて
60℃で1晩培養し た。茶色の呈色によって、
BGL活性を有する土壌微生物培養液をスクリーニン グした(図9) 。新たな
96ウェルプレートに、pNPG 溶液
190μLと茶色の呈色 を示した土壌微生物培養液を
10μ
L加え、
60℃で
1晩反応させることで、土壌 微生物培養液が
pNPG分解活性を有していることを確認した(図10) 。その中 から特に黄色の呈色が濃いサンプルを選んだ。
BGL活性を有する細菌をプレー ト番号から
5-43-1、5-42-1、5-42-2、7-13-1とした。土壌細菌
5-43-1、5-42-1、5- 42-2、
7-13-1の培養液の
BGL活性を測定すると、
12.6 U/L、
15.6 U/L、
17.2 U/L、
13.4 U/Lであった(N=1) 。
3-3-2 BGL
活性を有する土壌細菌を用いたグルコース生産
C. thermocellum
を接種した
5%セルロースを含む
BM7CO培地に土壌細菌
5-43-1、5-42-1、5-42-2、7-13-1
の培養液
2mLを添加してグルコース生産を行った。
試験管内のセルロース終濃度は
3.6%である。土壌細菌
5-43-1、
5-42-1、
5-42-2、
7-13-1の培養液を添加後、 培養
13日目におけるグルコース濃度は
0.65%、0.61%、0.63%
、
0.64%であった(図11) 。
28
第4節 考察
BGL
がエスクリンを分解し、分解産物が塩化鉄(Ⅲ)と反応することで茶色 を呈色する。エスクリン含有寒天培地上で茶色を呈する土壌細菌コロニーを複 数取得することができた(図9) 。またこれら細菌の培養液は
pNPG分解活性を 有していた(図10) 。これらの方法で、土壌から
BGL活性を有する細菌を探索 することができた。
これらの土壌細菌
5-43-1、5-42-1、5-42-2、7-13-1の培養液を用いてグルコー ス生産を行った結果、培養
13日目におけるグルコース濃度は
0.65%、
0.61%、
0.63%、0.64%であった(図11)。2 章では、BGL 発現
B. subtilisを用いたグル コース生産において、培養
16日目で終濃度
3.6%セルロースから
3.2%のグルコ ースが生産された(図2) 。
BGL活性を有する土壌細菌の培養液を用いたグルコ ース生産において、グルコース濃度が低い要因がいくつか予想される。まず、
BGL
活性を有する土壌細菌の
BGL活性が、BGL 発現
B. subtilisの
BGL活性に 比べ、約
1/8であったことである。加えて、
BGL活性を有する土壌細菌がグルコ ースを消費する可能性があることである。
BGL発現
B. subtilisは
C. thermocellum培養条件においてグルコースを消費しないことが分かっている(伊藤、
2016)。
本章では土壌から新たに
BGL活性の高い土壌細菌の探索を考えたが、
BGL発現
B. subtilis
以上の
BGL活性を有する微生物を土壌から単離してくることは難し
いと判断した。
29
第5節 図表
図9:エスクリンと塩化鉄(Ⅲ)を含む
BM7CO培地での土壌細菌の培養(左 図:寒天培地 右図:液体培地)
採取した土壌を滅菌水で懸濁し、寒天培地上に塗布した。60℃で
1晩培養
することで、土壌細菌のコロニーを形成させた。寒天培地上の茶色を呈色してい
るコロニーをピックアップし、96 ウェルプレートにて
60℃で1晩培養した。
30
図10: 土壌細菌培養液の
pNPG分解活性
96
ウェルプレートに、
pNPG溶液を
190μLと土壌細菌培養液
10 μLをいれ、
60℃で1
晩反応させた。BGL 活性を有する微生物の培養液が入っている場合、
黄色が呈色する。
31
図11:
C. thermocellumと
BGL活性を有する土壌細菌を用いた
3.6%セルロースからのグルコース生産
5%セルロースを含む培地でC. thermocellum
を
60度で培養し、培養
1日目に
BGL活性を有する土壌細菌の培養液を添加した。終濃度
3.6%セルロースの培養 液中のグルコース濃度を測定した。(N=1)
0 1 2 3 4 5 6 7
0 5 10 15
グ ル コース 濃度 (g /L)
培養日数(日)
5-43-1
5-42-1
5-42-2
7-13-1
32
第
4章
C. thermocellumと
BGL発現
E. coliを用いたグルコース生産
第1節 目的
先行研究では、セルロースを含む
C. thermocellumの培養液に、セロビオース をグルコースに変換する酵素である
BGLを添加したとき、培地中に多くのグル コースが蓄積させることができた(
Prawitwongら、
2013) 。セルロースからのグ ルコース生産の実用化には、よりコストの低いグルコース生産技術の開発が必 要である。高コストである
BGLの添加を必要とする先行研究の方法では低コス ト化が難しいので、酵素添加を必要としないグルコース生産が求められる。
第2章では
BGL分泌
B. subtilisを開発し、これを、セルロースを含む
C.thermocellum
の培養液に添加することで、酵素添加を必要としないグルコース生
産を達成できた。市原らは、
BGL発現
E. coliを
C. thermocellumの培養液に添加
した時、大腸菌の死滅・溶菌により菌体内の
BGLが菌体外に放出されることを
示した(市原ら、
2017) 。第
4章では、
BGL発現
E. coliを用いてグルコース生産
を行うことを目的とした。
33
第2節 材料と方法
4-2-1 BGL
活性測定
2-2-1
と同様の方法で行った。
4-2-2 C. thermocellum
と
BGL発現
E. coliを用いたグルコース生産
Thermoanaerobacter brockii
由来
BGL(
CglT)遺伝子を発現する
E. coli、またこ こから調製した
CglT溶液(精製
BGL溶液)の分与を、市原らより受けた(市原 ら、
2017) 。
精製セルロースを含む
BM7CO培地を調製した。また、アルカリ処理粉砕稲わ
らを含む
BM7CO培地を調製した。試験管に窒素ガスを封入し、密栓することで
嫌気条件を作った。60 度で
C. thermocellumを接種・培養し、培養
1日後に
BGL発現
E. coliの
LB培地培養液を
2mL添加して再び
60度で静置した。培養液中
のグルコース濃度は、グルコース濃度測定キット(グルコース
CII-テストワコー)を用いて測定した。
34
第3節 結果
4-3-1 BGL
発現
E. coliの
BGL活性
2-2-1
と同様の方法で、 BGL 発現
E.coliの培養液中の
BGL活性を測定した。
細胞を含む培養液の
BGL活性は
122 U/L、培養液の遠心分離後上清の
BGL活性 は 57.0 U/L、60℃処理培養液の遠心分離後上清の
BGL活性は 85.9 U/L であっ た(図12) 。培養液の
BGL活性は上清の
BGL活性に比べ有意に高かった(
p <0.05)
。上清と
60℃処理上清の間には有意な差はなかった。4-3-2 C. thermocellum
と
BGL発現
E. coli培養液を用いた精製セルロースから のグルコース生産
C. thermocellum
を接種した
5%、14%セルロースを含むBM7CO培地に、BGL
発現
E. coliの培養液を
2mL添加し、
60度で静置培養した。培養
13日目で終濃
度
3.6%セルロースから 3.1%グルコースが、終濃度 10%セルロースから 3.6%グルコースがが生産された(図13) 。
4-3-3 C. thermocellum
と
BGL発現
E. coliの培養液を用いたセルロース系バイ オマスからのグルコース生産
C. thermocellum
を接種した
5%、
10%アルカリ処理粉砕稲わら含有
BM7CO培地に、BGL 発現
E. coliの培養液を
2mL添加して
60度で培養し、培養液中の グルコース濃度を測定した。
BGL発現
E. coli培養液添加後
12日目で、終濃度
3.6%稲わらから 0.88%グルコースが、終濃度 7.1%稲わらから 2.1%グルコース
が、培地中に生産された(図14) 。
35
4-3-4 C. thermocellum
と
BGL発現
E. coliの共培養によるグルコース生産
3%、 5%、 10%精製セルロースを含むBM7CO培地で
C. thermocellumを
60度
3日培養し、蓋を開け
BGL発現
E. coliを接種しモルトン栓をして
37℃で
2日
間培養した。その後、窒素ガスを再度封入し、
60度で
15日間培養した。培養
20日目において、グルコース濃度がそれぞれ、
0.61%、
0.99%、
1.21%となった(図
15) 。
36
第4節 考察
第2章と第3章より、
BGL発現
B. subtilisや
BGL活性を有する土壌細菌より も高い
BGL活性が要求されることを示した。 本章では、
T. brockii由来
BGL(CglT)
遺伝子発現
E. coli(市原ら、
2017)の
BGL活性を測定し、細胞を含む培養液の
BGL活性は
122 U/Lであることを確認した。培養液の
BGL活性は上清の
BGL活性に比べ有意に高かった(
p < 0.05) (図12) 。
C. thermocellum培養条件にお
いて
BGL発現
E. coliは死滅する(市原ら、2017) 。したがって、グルコース生
産時には
BGL発現
E. coli培養液を
BGL溶液として直接投入したら良いと判断
した。
先行研究では、
C. thermocellum培養条件において精製
BGLを添加することで、
10%セルロースから約7%のグルコースが生産されている(Prawitwong
ら、
2013)。 本研究室では、
C. thermocellum培養条件において
BGL発現
E. coliを
2mL添加 することで、培養
13日目において終濃度
3.6%セルロースから 3.1%のグルコースを生産できた。また、培養
13日目において終濃度
10%セルロースから
3.6%の グルコースを生産できた(図13) (伊藤ら、
2016)。2章と同様に、
C. thermocellumと
BGL発現
E. coliを用いた高濃度グルコース生産には課題があることがあきら
かになった。
培養
12日目において終濃度
3.6%稲わらから
0.88 %グルコースが、終濃度
7.1%稲わらから2.1%のグルコースが、培地中に生産された(図14)
。アルカリ
処理稲わら中のセルロース含有量を
50%とすると(市川ら、
2016)セルロースか
らグルコースへの変換率は、終濃度
3.6%稲わらでは49%、終濃度 7.1%稲わらでは
58%であった。生産されるグルコース濃度は小さいため、稲わらから高濃
度グルコースを生産するための条件検討も必要となる。
37
第
2章では、
BGL発現
B. subtilisと
C. thermocellumの共培養の実験を行った。
BGL
発現
E. coliも好気性の微生物である事から、 同様に共培養の実験を行った。
共培養の実験では、
3%、
5%、
10%の精製セルロースから培養
20日目におい て、それぞれ
0.61%、0.99%、1.22%のグルコースが生産された(図15)。グル コース濃度が小さい理由として、
BGL発現
E. coliの増殖が少なく、培地中の
BGL活性が不足していると考えられた。
4-3-1
では
BGL発現
E. coli細胞を含む培養液の
BGL活性を測定し、
BGL活性 は
122 U/Lであった。グルコース生産を行う際、
BM7CO培地
5mLに対し、
BGL発現
E. coli培養液を
2mL投入する。そのため、グルコース生産時の試験管内の
BGL
活性は
27
倍の
35U/Lとなっている。つまり、先行研究(
Prawitwongら、
2013)
で投入されている
BGL活性
1000U/Lには大きく届いていない。したがって、更
なる
BGL活性を有する微生物を開発する必要があると考えた。
38
第5節 図表
図12:BGL 発現
E. coliの条件別
BGL活性
BGL
発現
E. coliを一晩培養した。細胞を含む培養液、培養液の遠心分離後上
清、
60℃処理培養液の遠心分離後上清のBGL活性を、
pNPGを用いて測定した。
N=3
0 20 40 60 80 100 120 140 160
培養液 上清 60℃処理上清
BGL活性(U/L)
39
図13:
C. thermocellumと
BGL発現
E. coli培養液を用いた精製セルロースから
のグルコース生産
セルロースを含む培地で
C. thermocellumを
60度で培養し、培養
1日目に
BGL発現
E. coli培養液を
2mL添加した。添加後
60度インキュベーターで
13日間培
養した。グラフ中に示されたセルロース濃度は終濃度を表す。
(N = 2)0 5 10 15 20 25 30 35 40
0 2 4 6 8 10 12 14
グルコース濃度(g/L)
培養日数
3.6%平均 10%平均
40
図14:
C. thermocellumと
BGL発現
E. coliを用いたアルカリ処理粉砕稲わらか
らのグルコース生産
アルカリ処理粉砕稲わらを含む培地で
C. thermocellumを
60度で培養し、培養
1
日目に
BGL発現
E. coli培養液を
2mL添加した。添加後
60度インキュベータ
ーで
12日間培養した。グラフ中に示された稲わら濃度は終濃度を表す。
(N=2)0 5 10 15 20 25
0 3 6 9 12 15
グルコース濃度(g/L)
培養日数(日)
稲わら3.6%
稲わら7.1%
41
図15:
C. thermocellumと
BGL発現
E. coliの共培養による精製セルロースから
のグルコース生産
精製セルロースを含む
BM7CO培地で
C. thermocellumを
60度
3日培養し、蓋
を開け
BGL発現
E. coliを接種しモルトン栓をして
37℃で 2日間培養した。そ
の後、窒素ガスを再度封入し、
60度で
15日間培養した。
(N=2)0 5 10 15 20 25 30
0 5 10 15 20
グルコース濃度(g/L)
培養日数(日)
3%
5%
10%
42
第5章
C. thermocellumと
BGL発現
B. choshinensisを用いたグルコース生産
第1節 目的
第2章と第4章では、
BGL発現
B. subtilisまたは
BGL発現
E. coliを、セルロ ースを含む
C. thermocellumの培養液に添加することで、酵素添加を必要としな いグルコース生産を達成できた。先行研究では、 精製
BGLを添加することで
10%精製セルロースから
7.7%セルロースが生産されている(Prawitwongら、
2013)。 第2章で示したように、グルコース濃度をあげるために
BGL活性を向上させる 必要がある。
そこで、
B. choshinensisに着目した。
B. choshinensisはタンパク質を大量に分泌 生産する特長を有しており、加えてプロテアーゼ活性をほとんど示さず、培養、
滅菌が容易で遺伝子操作がしやすい(
TAKARA)。酵素の分泌に長けている
B.choshinensis
を遺伝子工学的手法を用いて改変し、
BGLを発現・分泌させること
を試みた。
43
第2節 材料と方法
5-2-1 BGL
遺伝子の調製と
B. choshinensisの形質転換
磯崎らは、
BGL発現
B. subtilisの開発を通して、
BGLの発現・分泌に、
lytF遺 伝子のシグナル配列が最適であることを明らかにした(磯崎ら、
2018) 。
BGL発
現
B. subtilis細胞をサンプルに、lytF シグナル配列と
CglT遺伝子領域を
PCRに
て増幅した。
冷凍保存された
Solution A(0.5M硫酸ナトリウムを含む
70mMリン酸緩衝液
(
pH6.3) ) 、
Solution B(
40% PEG6000を含む
70mMリン酸緩衝液(
pH6.3) ) 、
MT培地(グルコース 10.0 g/ L、ファイトンペプトン 10.0 g/ L、エルリッヒカツオ エキス
5.0 g/ L、酵母エキス
B2 2.0 g/ L、
FeSO4・
7H2O 10 mg/ L、
MnSO4・
4H2O 10 mg/ L、ZnSO4・7H
2O 1 mg/ L、MgCl2 20mM、pH7.0)を融解した。Brevibacillus Competent Cellsを
37℃で
30秒間、ブロックヒーターで解凍した。
12、
000 rpmで
2分間、遠心分離をして集菌し、上清をマイクロピペットで完全に除去した。
lytF
シグナル配列と
CglT遺伝子領域の
PCR産物
1μL、
pBIC DNA 100ng、超純 水
3μL加え、全量
5 μLに調製した
DNA溶液と、50 μL の
Solution Aを混合し た。混合した
DNA溶液を集菌したチューブに全量加え、ボルテックスにより菌 のペレットを完全に懸濁した。その後
5分間静置した。次に、150 μl の
Solution Bを加え、液が均一になるまで
10秒間ボルテックスミキサーにより混和した。
5、000 rpm、5
分で遠心分離をして集菌し、上清を除去した。再度、
5、000 rpm、30
秒遠心分離し、完全に上清を除去した。そして、
1 mL TM培地(グルコース
10.0 g/ L、ファイトンペプトン 10.0 g/ L、エルリッヒカツオエキス 5.0 g/ L、酵母エキス
B2 2.0 g/ L、
FeSO4・
7H2O 10 mg/ L、
MnSO4・
4H2O 10 mg/ L、
ZnSO4・
7H2O 1 mg/ L、pH7.0)を加え、マイクロピペットを使って完全に縣濁した。37℃44
のインキュベーターに
1時間置いた。その際、
15分に
1回振り混ぜた。培養液
100μLを
MTNmプレート(グルコース 10.0 g/ L、ファイトンペプトン 10.0 g/
L
、エルリッヒカツオエキス
5.0 g/ L、酵母エキス
B2 2.0 g/ L、
FeSO4・
7H2O 10 mg/ L、MnSO4・
4H2O 10 mg/ L、ZnSO4・
7H2O 1 mg/ L、MgCl2 20 mM、 pH7.0、1.5% Agar
)に播き、
37℃で一晩培養してコロニー形成させた。
5-2-2 BGL
発現
B. choshinensisの選抜
4-2-1
で形成したコロニーをピックアップして
TMNm液体培地
5mLが入った
試験管で
30℃
5日間、
120 rpmで培養した。増殖が確認できた試験管の培養液の
BGL
活性を、
2-2-1と同様の方法で測定した。
BGL活性を示す株の培養液をグリ
セロールストックとして
-80℃で保存した。
5-2-3
セルラーゼ活性測定
カルボキシメチルセルロース(CMC)が
1%となるように10mMリン酸カリ ウムバッファー
pH7.0に溶解し、これを基質溶液とした。基質溶液を
200μ
lず つ試験管に分注した。反応温度で
5分間、プレインキュベーションした。基質溶 液に酵素溶液
100μ
lを加え撹拌し、反応温度に
1分おいた。その後、
DNS試薬
900μl
を加えた。5分間煮沸し、室温に戻した後、波長
570nmの吸光度を測定
した。
0g/L、
0.1g/L、
0.2g/L、
0.3g/L、
0.4g/L、
0.5g/Lグルコース溶液
300μ
lの濃度を同様に測定することで検量線を作成し、これを用いて酵素反応により 生産された糖濃度を決定した。
1分間に
1 μmolの生成物を生じるとき、これを 1ユニット(U)と定義した。
5-2-4 C. thermocellum
培養液からのセルロソームの回収
45
C. thermocellum
を
1晩、
100mL CTFUD培地(
3 g/L sodium citrate tribasic dehydrate、
1.3 g/L (NH4)2SO4、1.5 g/L KH
2PO4、130 mg/L CaCl
2 2H2O、500 mg/L L-cysteine- HCl、
11.56 g/L 3-morpholinopropanesulfonic acid、
2.6 g/L MgCl2 6H2O、
1 mg/L FeSO47H2O、4.5 g/L yeast extract、1 mg/L resazurin、0.5%
セロビオース、pH 7.0)で培
養した。培養液を遠心分離して上清を回収し、回収した培養液を
0.20μ
mのフ
ィルターに通すことで、菌体を取り除いた。その後、10 kDa 限外ろ過膜を用い
て、
4℃、
20分、
6500 rpmにて、限外ろ過した。得られた濃縮液を濃縮セルロ
ソームとした。
46
3
節 結果
5-3-1 BGL
発現
B. choshinensisの
BGL活性測定
遺伝子導入処理後、MTNm 培地上でコロニー形成をする
B. choshinensis株を 複数取得することができた。
2-2-1と同様の方法で、
BGL発現
B. choshinensisの 培養液中の
BGL活性を測定した。細胞を含む培養液の
BGL活性は
1140 U/L、培養液の遠心分離後上清の
BGL活性は
546 U/L、
60℃処理培養液の遠心分離後 上清の
BGL活性は 1257 U/L であった(図16) 。培養液の
BGL活性と上清の
BGL活性の間には有意な差はなかった。また、上清と
60℃処理上清の間には有 意な差はなかった。
5-3-2 BGL
発現
B. choshinensisの
60℃処理での死滅BGL
発現
B. choshinensisの培養液を
1.5mLのチューブに
1mL取り、
60℃イン キュベーターで
1時間処理した。処理した培養液と、処理していない培養液を
MTNm寒天プレートに撒き、
37℃で
1晩培養した。処理した培養液を撒いたプ レートはコロニー形成しておらず、処理していない培養液ではコロニー形成し ていた(図17) 。
5-3-3 C. thermocellum
と精製
BGLを用いたグルコース生産
C. thermocellum
を接種した
10%セルロースを含むBM7CO培地に、精製
CglTを投入した。また、試験管内の
BGL活性が
1000U/Lとなるようにした。精製
CglTを投入した場合、培養
15日目において、 グルコース濃度は
4.73%であった。対して、精製
CglTを投入していない場合、培養
15日目においてグルコース濃
度は
1.69%であった(図18)。
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5-3-4 C. thermocellum
と精製
BGLを用いた
BGL活性別グルコース生産
10%セルロースを含む BM7CO
培地に
C. thermocellumを接種して、60℃イン キュベーターで
1晩培養した。その後、各試験管内の
BGL活性が
0、
200、
400、
600、800、1000U/Lとなるように精製
CglTを添加し
60℃で静置培養したところ、培養
11日目で培地中のグルコース濃度は
1.16%、
3.93%、
4.13%、
4.55%、
4.54%、
4.81%となった(図19)。5-3-5 C. thermocellum
と
BGL発現
B. choshinensis用いた精製セルロースからの グルコース生産
14%セルロースを含む BM7CO
培地に
C. thermocellumを接種して、60℃イン キュベーターで
1晩培養した。そして、
BGL発現
B. choshinensisの培養液を
2mL添加し、60 度で静置培養した。培養
15日目で終濃度
10%セルロースから 5.5%のグルコースが生産された(図20) 。
5-3-6 C. thermocellum
と
BGL発現
B. chosinensisを用いた培養条件別グルコー ス生産
pH 7
または
pH 8に調製した
14%セルロースを含む
BM7CO培地に
C.thermocellum