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戦後アメリカ国債保有構造の変貌(上)

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(1)

戦後アメリカ国債保有構造の変貌(上)

その他のタイトル A Change in Distribution of Government

Securities among Different Investors in the Post‑War Period of the U.S.A (I)

著者 池島 正興

雑誌名 關西大學商學論集

巻 55

号 4

ページ 1‑12

発行年 2010‑10‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/4778

(2)

関西大学商学論集 第

55

巻第

4

(2010

年1

0

月 )

戦後アメリカ国債保有構造の変貌(上)

はじめに

目 次 はじめに

I.

戦後国偵保有構造の長期的変化の概観

池 島 正 興

I I . 連邦政府機関・信託基金と外国人・国際機関の

l

1m

保有の増大 皿.国内民 I I } j 投賓家の構成変化

w

.国内民 1 叫投資家の国偵保有構造の変化と退職貯搭の成長(以下,次号)

V.

退職貯蓄の成長と国債の役割の変化 V I . 退職貯蓄の成長と財政危機の深化 V I I . 退職貯蓄の成長と経済格差の拡大 結 び

国債残高の,異なるタイプの投資家間への分布状況を国債保有構造と呼ぶことにしよう。

国債保有構造はどのようなタイプの国債(たとえば,短期国債かそれとも長期国債か)を選 好する投資家がどれほどの規模や按分比率で国債を保有するのかをも示すものであり, したが って.異なるタイプの国債への需要のあり方の一面をも示すものである。そうした点から.国 債保有構造は,発行する国債タイプの選択に関する財務省の国債管理や国債発行市場の態様に 影響を及ぽすと考えることができる。また,国債が,たとえば. もっばら「長期保有型」投資 家により保有されるのか,あるいは,「短期保有型」投資家により保有されるのかにより,国 債取引のあり方,すなわち.流通市場での国債の運動形態も異なるであろうから.国債保有構 造はその時々の,国債流通市場の態様や,それへの国債管理のあり方にも影響を及ぼすと考え ることができる。

したがって.国債保有構造はその時々の国債発行・流通市場の態様や総体としての国債管理 のあり方に影響を及ぽすと考えることができるのであり.それゆえにまた.国債保有構造とそ の変化が国債管理のあり方を規定する上で現実にどのような影評を与えてきたのかを検証する ことは国債管理の研究において興味あるテーマとなる。

とは言え,小論はそれを直接的な課題とするものではない。まずは,その前提として,戦後

のアメリカの国債保有構造の長期的変化の特徴それ自体を検出することが小論の課題である。

(3)

, ' ]  

関西大学

,m

学論集 第

55

巻第

4

(2010

年1

0)1)

小論では,国債保有構造の長期的変化を総投資家,一般投資家,国内民間投資家の三つの レベルに区分しつつ考察を進めていく。とりわけ,国内民間投資家の考察に力点を置く。国内 民

Iii]

投資家レベルの考察では,廂業銀行,個人などの投資家主体別でのその国債保有比率の推 移を検出した上で,近年での,二三の主要国債投資家を取り上げ,それらの国債投資の共通性 を析出するよう試みる。より具体的に述べるならば,それらの国債投資の原資に考察の焦点を 合わせ,そこに共通性が存在することを検出する。結論を先取りすれば年金プランとリンク した退職貯蓄が,内包する問題を伴いつつ,国内での国債消化源泉としての比重を高めてきた ことを明らかにする。

国内民間投資家レベルでの国偵保有=消化構造の長期的変化の考察を通して,少なくとも国 内において,資本証券としての国債の主要な経済的役割がどのように変化してきているのか,

も明らかにできるであろう。

以上が小論の対象と課題である。

I.

戦後国債保有構造の長期的変化の概観

さて,

FederalReserve Bulletin

に掲載されてきた,総国債,すなわち財務省が発行する証券 の総体の所有者別保有残高のデータは,同誌

2008

12

月号を披後に掲載されなくなった。し たがって, もっばら

FederalReserve Bulletin

のその国債データに依拠しようとするならば,同 上号に掲載された

2008

年第

2

四半期末

(6

月末)現在でのそれに関するデータが,過去のデー

タとの一定の継続性を保持しつつ,利用可能な直近のデータということになる。

そこで,

FederalReserve Bulletin

のそのデータを利用しつつ,

1955

年末を始点とし

2008

6

月末を終点とする半世紀余の長期スパンでの戦後の国債保有構造の変化を見ていくことにす る 。

1955

年末を比較の始点とするのは必ずしも厳密な意味はないものの,既に

1951

年には「財 務省・連邦準備アコード」の成立により国債価格支持政策も撤廃されていることもあり,その 時期あたりでは国債保有構造も第二次大戦の戦時国債の発行・保有の匝接的影響をかなり弱 めていたであろう, と考えるからである。

まずは,その期間での,経済に対する国債残高の比璽の変化とも関連しつつ,国債の保有=

削化構造がどのように変化してきたのか,その大枠を把握することにしよう。そのために国 債投資家を総投資家,一般投資家(総投資家から連邦政府機関・信託基金を除外したもの),

国内民間投資家(一般投資家から外国人・国際機関および連邦準備銀行を除外したもの, した がって州・地方政府は含む)の三つのレベルに区分し,それらの国債保有額の対(名目)

GDP

比率の各年末(以下,単に年と記す場合には年末を,ただし

2008

年の場合のみは

6

月末を意味 することにする)時点での経年的変化を図ー

1

で見てみることにしよう。

それを見ると,総投資家の国債保有額すなわち総国債残高,の対

GDP

比率は

1955

年には

(4)

戦後アメリカ国債保有構造の変貌(上) (池島) 3 

図ー

1

国債保有額の対名目

GDP

比率,

1955 2008

80.0% 

70.0%  60.0%  50.0%  40.0%  30.0%  20.0%  10.0%  0.0% 

1957  1960  1963  1966  1969  1972  1975  1978  1981  1984  1987  1990  1993  1999  2002  2005 

9

ー総投資家 →ー一般投資家 →一国内民間投資家

(出所)

FederalReserve Bulletin,

各号および

EconomicReport of the President,

各年より作成。

69.6

%であったが,

74

年の

32.8

%に至るまで基調的に低下し続けている。その後

81

年までは比較 的安定的に推移し.

82

年からは上昇に転じ,

93

年には

68.1

%の高さに達している。

93

年以降の 期 間 で は そ の 比 率 は

2000

年の

57.7

%にまで低下した後,上昇に転じ

2008

年の

65.5

%に至ってい る。近年では,総国債残高の対

GDP

比率は

1955

年の水準に近い状況で高止まりしているので ある。

次には,一般投資家の国債保有額(言うまでもないが,それは総投資家の国債保有額から,

政府の内部金融を意味する,連邦政府機関・信託基金の国債保有額を差し引いたものであり,

政府が国債発行により外部から借り入れた金額の残高を表す)の国債保有額の対

GDP

比率の 経年的変化を見てみよう。図ー

1

を見ればその比率は総投資家のそれとは必ずしもパラレル な変化を示してきていないことが分かる。

その比率は

1955

年では

56.8

%であり,そこを出発点として

84

年ぐらいまでは.総国債残高の それと,ほぼパラレルな関係を維持しながら変化してきている。しかし同年以降からは,一 般投資家の国債保有額の対

GDP

比率は総国債残高のそれとの乖離幅を拡大しつつ,それを大 きく下回るようになり.

2008

年の

36.4

%に至っているのが分かる。

2008

年のその数字は総国債 残高の対

GDP

比率を

29.1

%ポイントも下回るのである。

もちろん,当然の事ながら,そうした総国債残高と一般投資家国債保有額との対

GDP

比率 との乖離幅の拡大は,

1984

年からの連邦政府機関・信託基金の国債保有額の対

GDP

比率の上 昇を意味している。

次に,国内民間投資家の国債保有額の対

GDP

比率の変化を見ていこう。それは,

1955

年の

(5)

4  関西大学商学論集 第

55

巻第

4

(2010

年1

0

月 )

48.8

%から

74

年の

14.2

%にまで低下基調をたどるが,その後は上昇基調に転じて

87

年の

30.5

%に 至っている。そこまでは,総投資家および一般投資家の国債保有額の対

GDP

比率とほぽパラ

レルな変化を示している。

しかし,それ以降とりわけ,国内民間投資家の国債保有額の対

GDP

比率が

36.4

%の頂点を 記録した

93

年以降では,それは

2008

年の

14.8

%に至るまで,急激に低下し続ける形で,総投資 家および一般投資家の国債保有額の対

GDP

比率との乖離幅を拡大しているのが分かる。

2000

年以降では総国債残高の対

GDP

比率が

1950

年代並の高水準にとどまる一方で,国内民 間投資家のそれは戦後のほぽ最低水準にまで低下する, というきわめて対照的な構図となって いるのである

さて,既に見てきたように国内民間投資家の国債保有額の対

GDP

比率は一般投資家のそ れと比べても,

87

年頃からは乖離していくのであるが,それは一般投資家には含まれるが国内 民間投資家には含まれない二つの投資家グループ,すなわち,外国人・国際機関と連邦準備銀 行,のいずれの国債保有の相対的増大に起因するのであろうか。この点を確認しておこう。

図ー

2

は一般投資家の国債保有額に占める,外国人・国際機関と連邦準備銀行のそれのシェ アの経年的変化を示している。そこからは

1987

年頃から外国人・国際機関のシェアが連邦準備

図ー

2

一般投資家国債保有に占める外国人・国際機関と連邦準備銀行のシェア,

1955 2008

60.0% 

50.0% 

40.0% 

30.0% 

20.0% 

10.0% 

0.0% 

1955 1958 196119641967 1970 1973  1976 1979 1982 1985 1988 199119941997 2000 2003 2006 

‑‑‑外国人・国際機関 →←連邦準備銀行

(出所)

FederalReserve Bulle

邸.各号より作成。

(6)

戦後アメリカ国債保有構造の変貌(上) ( 池 島 )

表ー

1

総国債の保有(単位:

10

億ドル)

1955

年末

2008

6

月末 総投資家

280.8  (100.0%)  9,492.0  (100.0%) 

連邦政府機関・信託晶金

51.7  (18.4%)  4,212.5  (44.4%) 

一般投資家

229.1  (81.6%)  5,279.5  (55.6%) 

連邦準備銀行

24.8  (8.8%)  478.8  (5.0%) 

外国人・国際機関

7.5  (2.7%)  2,647.9  (27.9%) 

国内民間投資家

196,8  (70.1 %)  2,152.8  (22.7%) 

( 出 所 )

FederalReserve Bulletin. Dec.1962. p.1666 ; Statistical Supplement to  the Federal Reserve  Bulletin, Dec.2008 (http://www.federalreserve.gov/ubs/supplement/2008/12/tablel̲ 41.htm) 

より作成。

銀行のそれを上回りつつ, とりわけ

90

年代後半からは急速に上昇しているのが分かる。ここか ら,外国人・国際機関の国債保有の相対的増大が,

87

年から国内民間投資家の対

GDP

比率が 一般投資家のそれと大きく乖離していくことの主要因であったことが分かる。

以上,

1955

年〜

2008

年の期間での,総投資家,一般投資家,国内民間投資家の保有国債総額 の対

GDP

比率のそれぞれの経年的変化とそれらの相互関係を見てきた。

極めて大雑把に言えば,

1955

年から

1980

年代初頭までの期間にあっては総投資家,一般投 資家.国内民間投資家の,三者の国債保有額の対

GDP

比率はパラレルな関係を維持しつつ低 下してきた。他方,

80

年代からは,総投資家の国債保有額の対

GDP

比率は上昇基調を維持し つつも,他方,一般投資家と国内民間投資家のそれは, とりわけ9 3年以降,上昇から低下へと 基調変化し,三者の国債保有額の対

GDP

比率は大きく乖離して推移してきたのである。

その後者の期間での,三者の国債保有額の対

GDP

比率の推移の乖離は,連邦政府機関・信 託基金および外国人・国際機関が国債保有を相対的に増大させる一方で,国内民間投資家はそ れを相対的に減少させてきたことを示すものでもあった。換言すれば対

GDP

比率から見て.

総国債残高が増大する基調のもとで,国債消化において,連邦政府機関・信託基金さらには外 国人・国際機関がその比重を高める一方で,国内民間投資家は逆に比璽を大きく低下させてき たのである。

それらのことは,表ー

1

からも明瞭である。

1955

年では,連邦政府機関・信託基金は総国債 の

18.4

%を保有したが,

2008

年では

44.4

%を保有している。また,外国人・国際機関の,総国債 の保有比率も,

1955

年では

2.7

%であるものの,

2008

年では

22.7

%へと大きく上昇している。他方,

国内民間投資家は

1955

年では総国債の

70.1

%を保有したのであるが

2008

年では,その

22.7

%し か保有せず,外国人・国際機関の保有比率をも下回るのである。

II.

連邦政府機関・信託基金と外国人・国際機関の国債保有の増大

1980

年代以降に連邦政府機関・信託基金および外国人・国際機関が総国債の保有比率(総投

(7)

6  関 j 7 l . j 大学商学論集 第

55

巻第

4

(2010

年1

0

月 )

賢家レベルでの国債保有比率)を上昇させたのであるが,それをもたらした要因について簡単 に考察しておくことにしよう。まず,連邦政府機関・倍託基金の国債保有について取り上げよ う 。

連邦政府機関・信託基金は,政府勘定シリーズ

(GovernmentAccount Series)

と名付けら れた.非市場性特別国債をもっぱら保有する。

2008

年現在では.その特別国債の発行残高は

4

兆2

,880

億7

,900

万ドルであり,連邦政府機関・信託基金がその中の

4

兆2

,125

億ドルを保有す る 。

TreasuryBulletin

からは,その特別国債残高の配分状況,すなわち,連邦政府機関・イ言託 基金を構成する主要な勘定の国債保有額を知ることができる。

それによれば,

2008

年 現 在 で , 連 邦 老 齢 ・ 遺 族 年 金 保 険 儒 託 基 金

(FederalOld‑Age and  Survivors Insurance Trust Fund)

2

兆1

,402

億4

,300

万 ド ル の , 連 邦 障 害 年 金 保 険 信 託 基 金

(Federal Disability Insurance Trust Fund)

が2

,201

億3

,300

万 ド ル の 特 別 国 債 を 保 有 す る

II 

その二つの信託基金は,一般被用者, 自営業者を対象とする,社会保障法に基づく公的年金た る,連邦老齢・遺族・障害年金保険(以下,社会保障年金と記す)の積立金である。その二つ の信託基金の保有国債の合計は,連邦政府機関・信託基金の特別国債保有総額の5

6.0

%を占め る計算となる。

連邦信託基金の数は

100

以上にも上ると言われるが,その中の,社会保障信託基金と総称さ れる,わずか二つの,上述の侶託基金が,総体としての連邦政府機関・信託基金の保有特別国 偵総額の過半を保有しているわけである。

社会保障信託基金は

1984

年から国債保有比率を上昇させるようになってきたのであるが,そ れは83 年の社会保障法の改正に起因する。その改正は,社会保障税の引き上げなどの諸措置に より,その基金の収支の改善を図るとともに社会保障年金の財政方式を従来の賦課方式から修 正賦課方式へと変更することを意図するものでもあった。すなわち,「この年の改正は,短期 的な財政収支の均衡を図るだけではなく,第二次大戦後のベビーブーム期に生まれた人々が年 金受給者になる頃の年金財政の安定を図るため,今後7

5

年間の前半に積み立てた資産を後半の 年金支給の費用に充当しようとするものであった。」

2)

そうした目的が達成されて,

1984

年からは,社会保障信託基金は持続的に黒字を計上し,積 立金を累増させるようになり,それを社会保障法で運用が義務づけられている,特別国債への 投資に振り向けてきたのである。その結果社会保障信託基金は連邦政府機関・伯託基金の保 有特別国債総額に占めるそのシェアを高めつつ,特別国債の保有を顕著に増大させてきたので ある

3)

。それゆえにまた,それは,少なくとも

2008

年までは,総体としての連邦政府機関・侶

1)  U. S.  Department of Treasury, Treasury Bulletin. September 2009, Table FD3, p.23

を参照。

2)

堀勝洋「年金制度

J

社会保l

im

研究所編『アメリカの社会保障』東大{l

',

版 会 .

1989

年.第

4

章 .

94

ページ。

3) その点については.池島正典「アメリカ社会保障信託基金の国 1 i . 1 { 投府をめぐる論争」『関西大学商学論集』

52

巻第

4

号 .

2007

年1

0

月 .

4‑6

ページを参照。

(8)

戦後アメリカ国債保有構造の変貌(上) (池島) 7 

託基金の国債保有比率の上昇を可能とさせてきたのである。

次に.外国人・国際機関の国債保有比率の上昇を促進した要因について見ていこう。

さて.外国人・国際機関の国債保有比率の上昇は1

990

年代後半から, とりわけ顕著に生じて きたわけであるがそのことに関連しつつ,まずは,外国人・国際機関にとってのアメリカ国 債投資の経済的意義を確認するためにも,それのいわば前史として,

1971

年の事態に言及して おくことにしよう。

前出の図ー

2

に見るように,一般投資家の国債保有総体に占める外国人・国際機関のシェア は ,

1970

年の7

.1

%から

71

年の

14.7

%へと急伸し,それを境にして,

70

年代では,

60

年代に比べ て約1

0

%ポイントほど高いランクヘと移行しているのが分かる。

71

年を境に外国人・国際機関 の国債保有比率は,以前とは明確に区分できるほどの大きさにまで上昇するようになったので ある。そして,それをもたらした重要な要因は,言うまでもなく,

71

8

月のアメリカ政府の

ドルと金との交換の廃止,いわゆるニクソン・ショックである。

その措置により,金との交換性に基づくドルの基軸通貨制度は崩壊した。しかし,金との交 換の廃止にもかかわらず,種々の政治的・経済的条件から, ドルは依然として唯一の国際通貨 としての地位を有し続けた。そうである限り, ドルを金の購入に使えなくなった外国政策当局 は外貨準備として, ドルをせめて資産運用でもしつつ保有する, という以外に道を見いだせな かった。そして,その連用対象となるドル資産について言えばそれは.金がそうであったよ うに,高い流動性と公的準備としての安全性を具備することを必要とした。そのような条件に 最適のドル資産はアメリカ国債である。それゆえに,外国政策当局は

1971

年を皮切りに.アメ

リカ国債への投資を拡大するようになったわけである

4)

金・ドルの交換廃止は, ドルが国際通貨としての地位を保持し,また,アメリカ国債が,も っとも安全で流動性の高いドル資産としての性格を有する限り,少なくとも外国政策当局にア メリカ国債への投資=保有を強めさせるよう促進する制度的枠組みとして作用したのである。

そうした諸条件が継続的に保持されるもとでの,

1970

年代以降の, とりわけ,

90

年代後半か らの極めて顕著なアメリカの貿易赤字の拡大は外国人・国際機関が国債保有比率を急速に上昇 させるのを促進してきた。

図ー 3はアメリカのネットの国際投資ポジションを表している。同図に見るように,外国が アメリカで所有する資産の規模は経年的に順調に増大し,その結果,

1989

年からはアメリカが 外国に所有する資産の規模をも凌駕し,アメリカのネットの国際的投資ポジションはマイナス に転化した。

1990

年代後半からは,そのネットのマイナスの規模は一段と増大してきている。

そしてまた,図ー

4

からは,そうした,アメリカのネットの国際的投資ポジションの大きな変 化をも伴った,外国がアメリカで所有する資産規模の経年的推移は,貿易赤字の規模の経年的

4)マイケル・ハドソン『超帝国主義国家

アメリカの内幕』徳間普店,

2002

年 ,

41‑42

ページ,松村文武『現

代アメリカ国際収支の研究』東洋経済新報社,

1985

年 ,

177

ページを参照。

(9)

8  関西大学商学論集 第

55

巻第

4

(2010

10

月 )

10

億ドル

15,000 

12,000 

9,000 

6,000 

3,000 

3,000 

図ー

3

アメリカの国際投資ポジション(当年市場価格),

1982 2005

/ 

/ 

/.../ 

/  / 

/戸ー・ / 

/,/ 

/ 且

 

← 

. . ‑ ‑

~•

̀

 

1982  1985  1990  1995  2000  2005 

外国でのアメリカ アメリカでの外国 ネットのアメリカ

血 ) [

所有資産 所有資産 投資ポジション

( 出 所 )

AshokBarden and Dwight Jaffee,  The Impact of Global Capital Flows and Foreign Financing on  U.S. Mortgage and Treasury Interest Rates, Research Institution for Housing America, June 12, 2007,  p,4. 

図ー

4

アメリカの貿易赤字,

1982 2006

10

億ドル

‑100 

‑200 

‑300 

‑400 

‑500 

‑600 

‑700 

‑800 

1982  1986 

( 出 所 )

Ibid.,Figure2, p.4

より作成。

1990  1994  1998  2002  2006 

(10)

戦後アメリカ国債保有構造の変貌(上) (池島)

︐ 

推移とほぽ照応することが見て取れる。

「アメリカの巨大で拡大的なマイナスのネットの国際的投資ポジションはアメリカ国際収支 の巨大で持続的な経常勘定赤字(これの第一義的源泉は貿易赤字である)の直接的かつ不可避 的な結果なのである。…… アメリカが経常勘定赤字を計上するたびに,外国投資家はドル建 て証券を,より大きなネットの規模で不可避的に蓄積するのであり.実際,外国人が保有する,

アメリカの証券やドル建て資産のネットの拡大は,アメリカ貿易赤字と軌を一にして大規模に ならなければならない」

5)

わけである。

こうしてアメリカの貿易赤字により流入した巨額のドルを基礎に,それらを還流させつつ.

外国投資家はアメリカの証券や資産に投資してきたのであり,その主要な投資対象の一つがア メリカ国債であったのである(たとえば,

19822006

年の各年において,アメリカ国債は外国 が保有する総アメリカ資産の

15% 30

%弱のシェアを占めてきたのである)

6)

外国政策当局は外貨準備に最適のドル資産として.さらにはまた.対アメリカ貿易上不利と なる. 自国通貨の対ドル価値の上昇の回避をも意図して.アメリカ国債に投資し保有を拡大し てきたのである。また.外国の民間投資家は自らの国際的なポートフォリオ戦略に沿って.世 界的レベルで見て, きわめて高い流動性を有し, しかも,デイフォルト・リスクがミニマムの 債券であるアメリカ国債への投資を積極的に行ってきたのである

710

さて以上,

1980

年代以降の連邦政府機関・信託基金や外国人・国際機関の総国債保有比率の 上昇をもたらした要因について簡単に考察してきた。次には,それらの投資家とは対照的に,

同時期に,総国債保有比率を低下させてきた国内民間投賓家の考察へと進むことにしよう。

皿国内民間投資家の構成変化

表ー

2

と表ー

3

FederalReserve Bulletin

の所有者(投資家)別国債保有データに基づき作 成した,国内民間投資家の投資家別の国債の保有額および保有比率を表す。国内民間投資家の 総国債保有額の対

GDP

比率が低下した

1955‑74

年,それが上昇に転じた

74 93

年,さらに,

それが再び低下し,かつ,国内民間投資家の総国債の保有比率が戦後初めて顕著に低下するよ うになった

93

年〜

2008

年 , というような時期区分をもしつつ,戦後の国内民間投資家レベルで

5)  Bardhan and Jaffee, op.  cit..  p.3.  6)  Ibid., FIGURE 4,  p.6

を参照。

7)

次の指摘を参照。「アメリカ金融資産市場は多種の投資手段を提供するだけではなく.巨額の金額を価格 にほんのわずかな影響を与えるだけで取引できる能力を有する.非常に流動的な市場でもある。…•••ドル 資産の外国人保有が既に巨額であるにもかかわらぬ,巨額の資本流人の持続とその外国人の保有物での.

本質的にリスクのないアメリカ国債の過剰なほどのシェアは.アメリカ府産市場の特別の地位に起因する

賓本流入の規模がかなりのものである.ことを示している。」(

Craig

K .  

Elwell.  "The U. S.  Trade Deficit :  Causes, Consequences, and Cures", CRS Report for Congress, RL31032. October 11, 2007, p.7) 

(11)

10 

関洒大学廂学論集 第

55

巻第

4

(2010

年1

0

月 )

表ー

2

国内民間投資家の国債保有比率

(1)

(単位:

10

億ドル)

1955

年末

1974

年末 総 体

196.8  (100.0%)  215.5  (100.0%) 

裔業銀行

62.0  (31.5%)  55.6  (25.8%) 

相互貯蓄銀行

8.5  (4.3%)  2.5  (1.2%) 

保険会社

14.6  (7.4%)  6.1  (2.8%) 

その他法人

23.5  (11.9%)  11.0  (5.1 %) 

,}•I1 ・地方政府

15.4  (7.8%)  29.2  (13.5%) 

個人

64.7  (32.9%)  84.9  (39.4%) 

(貯蓄債券)

50.2  (25.5%)  63.4  (29.4%) 

(その他)

14.5  (7.4%)  21.5  (10.0%) 

その他

8.1  (4.1 %)  23.2  (10.8%) 

(出所)

FederalReserve Bulletin, Dec.1962, p.1666; Dec.1977. p.A32

より作成。

表ー 3 国内民間投資家の国債保有比率 ( 2 ) (単位:

10

億ドル)

1993

年末

2008

6

月末

総体

2,424.4  (100.0%) 

総 体

2,158.3  (100.0%)  l

粕業銀行

316.0  (13.0%) 

預金金融機関

115.4  (5.3%) 

マネー・マーケット・ファンド

80.5  (3.3%) 

ミューチュアル・ファンド

449.8  (20.8%) 

保険会社

216.0  (8.9%) 

保険会社

123.4  (5.7%) 

その他会社

213.0  (8.8%) 

州・地方政府公胴

522.2  (24.2%) 

,}|•I ・地方政府公庫

564.0  (23.3%) 

個人(貯蓄似券)

194.9  (9.0%) 

個人

309.8  (12.8%) 

年金基金

393.3  (18.2%) 

(貯蓄債券)

171.9  (7.1 %) 

( 民

1!ij) 226.0  (10.5%) 

(その他)

137.9  (5.7%) 

(州・地方政府)

167.3  (7.8%) 

その他

725.0  (29.9%) 

その他

359.1  (16.6%)  (III

所 )

FederalReserve Bulletin. Dec.1977. p.A32 ; Statistical Supplement to  the Federal Reserve Bulletin. 

Dec.2008 (http://www.federalreserve.gov/supplement/2008/12/table̲ 41.htm)

より作成。

の投資家の国債保有比率の変化を通観できるようにしている。

1955

年を見れば,「個人」が

32.9

%という最大の国

1

責保有比率を示している。それに次ぐのが

「商業銀行」で,その国債保有比率は

31.5

%である。それに「相互貯蓄銀行」の

4.3%,

「保険会社」

7.4

%を加えれば,金融機関全体として,

43.2

%の国債保有比率となる。さらにもっぱら非 金融法人たる事業会社から構成される「その他法人」の

11.9

%を加えれば,金融機関,事業会 社などの,全体としての営利企業の国債保有比率は

55.1

%となる。

また最大国債保有比率を誇る「個人」の所有国債の大部分は流動性のない貯蓄債券であり.

国内民間投資家保有国債総体から.その貯蓄債券を差し引いたものは市場性国債の規模を表す。

そして.「商業銀行」がその市場性国債の

42.3

%を保有する計算となる。したがって, この時期 には,市場性国債は「商業銀行」に高い集中度で保有されていたのである。

しかし,その「商業銀行」の国債保有比率は,その後一貫して低下していくことになる。「商

業銀行」のその比率は

1974

年には

25.8%, 93

年末には

13.0

%へと低下している。そして,

2008

(12)

戦後アメリカ国債保有構造の変貌(上) (池島) 1 1  

年では,さらにその比率を低下させたことによるのであろうが,「商業銀行」はデータ上では 単体の投資家としてすら扱われなくなっている。そうした国債保有比率の顕著な低下は商業銀 行にとどまらず他の金融機関にも見られる。「相互貯蓄銀行」は

74

年にその比率を

1.2

%に低下 させた後

93

年のデータで早くも,単体の投資家として取り上げられなくなっている。

2008

年のデータでは,「商業銀行」も「相互貯蓄銀行」もその他の金融機関とともに「預金 金融機関」に包摂されて取り扱われるようになっているのであるが,その「預金金融機関」の 国債保有比率はわずか

5.3

%に過ぎないのである。

1955

年のデータで単体の投資家として取り扱われ,

2008

年のデータでも同様な扱いの金融機 関は「保険会社」のみである。また,

1955

年のデータで単体の投資家として取り扱われた「そ の他法人」も

2008

年のデータでは,「その他」に包含されるようになっている。

1955

年では営利企業たる,金融機関と事業会社は合計すれば国内民間投資家保有国債総体の 過半を保有したのであるが,

2008

年では,そうした営利企業の国債保有比率は,明確な数字と しては,「預金金融機関」と「保険会社」とのを併せて

11.0

%になるに過ぎず,激減しているの である。

それでは逆に, どのような投資家が国債保有比率を上昇させてきたのであろうか。

2008

年の 国内民間投資家の国債保有状況を見ると,「州・地方政府公庫」が全体の

24.2

%を保有し,その 比率ではトップの位置を占めている。

2008

年(および

1993

年)でのデータでは「州・地方政府公庫」と表記されているが,他方

1955

年(および

74

年)では「州・地方政府」と表記されている。その両者の関係について触れ ておくならば「州・地方政府」は本来,州・地方政府財政それ自体の一般基金と)•l1 ・地方政 府職員のための退職・年金基金の双方を含んだのであるが,それが

2008

年のデータでは明確に

「J1•l ・地方政府公庫」と「年金基金(州・地方政府)」に分離されて表記された,わけである。

「 J•I、1 ・地方政府」の国債保有比率は 1955 年の 7.8%から 74年には 13.5 %へと上昇している。さ らに, 93年には,「J•I•I ・地方政府公庫」の国債保有比率が23.3%の高さにまで上昇したことから,

それが単体の投資家として取り扱われるようになっている(他方の「年金基金(州・地方政府)」

29.9

%という,

93

年で最大の国債保有比率を示している「その他」に含まれているはずであ る)。そして,

2008

年では「年金基金(州・地方政府)」もその比率の上昇を反映したのであ ろうが,単体の投資家として取り扱われている。その「年金基金(州・地方政府)」の国債保 有比率は

7.8

%であり.「州・地方政府公庫」と合わせれば,両者の国債保有比率は

32.0

%であり,

55年の「 J•l1 ・地方政府」のそれに比べて 4 倍以上の大きさにまで上昇したこととなる。

そして,

2008

年で,「州・地方政府公庫」に次ぐ

20.8

%という高い国債保有比率を示してい るのは「ミューチュアル・ファンド」である。

「ミューチュアル・ファンド」は大別してマネー・マーケット・(ミューチュアル)・ファン

ドと長期ミューチュアル・ファンドから構成される。もっぱら短期国債に投資する「マネー・

参照

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