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氏名張

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Academic year: 2021

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全文

(1)

氏 名

チョウ

エイ

学 位 の 種 類 博士(日本語教育学)

学 位 記 番 号 学位授与の日付 課程・論文の別 学 位 論 文 題 名 論 文 審 査 委 員

人博 第

126

号 平成

30

3

25

日 学位規則第4条第1項該当

譲歩関係を表す接続表現の日中対照研究

主査 教 授 ロング ダニエル

委員 教 授 西郡 仁朗

委員 准教授 奥野 由紀子

(2)

【論文の内容の要旨】

1.研究背景と目的

日本語の譲歩関係を表す複文においては、前後の節をつなげる接続表現が必須の成分 になっているのに対して、中国語の譲歩関係を表す複文においては、接続表現を使用す る場合(“形合法”)と使用しない場合(“意合法” )がある。

本研究は、日本語と中国語の譲歩関係を表す複文における接続表現(日本語の接続表 現および中国語の接続詞/接続副詞)について、対照研究の立場から、いくつかの視点 に着目し考察を行うものである。日中両言語の譲歩表現について、(1)のように日本語 と中国語の譲歩表現はうまく対応し、「ても」は「即使」、「たところで」は「虽然」に 訳せるのが常だと考えられてきた。しかし実際には日中両言語の譲歩表現の中には対応 できないものが観察される。また、(2)に示したように日本語の譲歩関係を表す複文に おいては、接続表現が必須の成分になっているのに対して、同じ意味を表す中国語の複 文においては、接続表現を使用する場合と使用しない場合がある。

(1)燃やしちゃっても心に残るものは残る。 (『ノルウェイの森』)

(1’) 即使烧了,该留在心里的自然留下。 (《挪威的森林》 )

(2)人間一人がいなくなったところで、どうってことはないと考えてしまってい ないか。 (『五体不満足』 )

(2’)你不在了,地球不是照样运转吗? (《五体不满足》 )

中国語では、 (2)の訳文(2’ )のようにないわゆる“意合法”を使用するケースが極 めて多い。しかしながら、このような現象を単なる一言語の特徴と断定するには説得力 に欠ける。中国語の複文においては、接続表現を使用したり、省略したりする場合もあ るため、接続表現の使用は自由度が高いと言われてきた。しかしながら、譲歩関係を表 す表現を使用しない場合、その理由はほかにもある。そもそも譲歩関係を表す接続表現 の使用範囲が日本語と異なっているのではないかと筆者は考える。つまり、日本語では 譲歩関係を表す接続表現が譲歩の意が薄い複文においても使用されるが、中国語ではそ ういう文脈において譲歩関係を表す接続表現の使用は認められないといったずれが存在 して、両言語の接続表現の使用範囲はかなり異なることが予想される。

そこで本研究は、これまで両言語において譲歩文(複文)に関して展開されてきた研 究の経緯および流れを整理した上で、それぞれの持つ特徴や機能を探ってみたい。また、

これに基づき、日本語と中国語の譲歩関係を表す接続表現の使用については、お互いの

鏡にした対照研究の立場から考察を行う。とりわけ、推論関係、主観性、文末モダリ

(3)

ティとの共起から、意味論的また統語論的に幅広く、よく深く考察を行いたい。それに よって、両言語の譲歩関係を表す複文における類似点、相違点を明確にするとともに、

両言語の譲歩関係を表す複文の体系やメカニズムを明らかにしたい。

2.研究課題

日本語の譲歩関係を表す接続表現の中で、最も代表的なものとしては、「ても」「とし ても」「にしても」「にしろ」「にせよ」「たところで」が挙げられる。従来の研究では、

「ても」「たところで」「としても」「にしても」「にしろ」「にせよ」の使い分け、意味、

使用制約の異同に注目して記述されているものが多く、各接続表現の意味機能に関して は、十分論じられているように思われる。しかしながら、先行研究における記述は、日 本語自体の特徴に基づいて判断しているため、見えてこない部分の存在もまだあると思 われる。そこで、他言語との比較を行うことにより、日本語の譲歩関係を表す接続表現 の機能などを再認識でき、接続表現の使い分けや特異性も一層明らかになると考えられ る。

日本語の接続助詞の使用においては、構文要素の制約をほとんど受けないものと、構 文要素の制約を受けやすいもののいずれもあり、それらを用いる際に、さまざまな構文 要素とのかかわりを考慮しなければならない。接続表現「ても」を使用する場合、主語、

述語の性質、ならびにモダリティ形式の制約を受けにくい。しかし、「たところで」「に しろ」「にせよ」は文末モダリティ形式の制約を受ける場合があり、他の構文要素との 融合性を考慮しなければならない。このように、日本語の接続表現は、さまざまな制約 を受け、日本語学習者にとって決して簡単に使いこなせるものではない。

一方、中国語においては、接続表現を果たす語彙の使用が極めて自由であることは周 知の通りである。しかしその用法はどこまで自由であるか、モダリティ制約はどの程度 あるかは殆ど考察されていない。つまり譲歩関係を表す複文における両言語の接続表現 の機能や意味用法には、どのような相違点があるか、またはどのような類似点があるか、

なぜそのような相違点または類似点があるかについては、まだ予想段階にあるものが多 い。本研究では、譲歩関係を表す複文における両言語の接続表現に関して、それぞれの 機能を考察することによって、両言語の接続表現の機能的な異同や構文上の異同などを 明らかにする。両言語の譲歩関係を表す複文における認識での相違を究明することに よって、両言語の譲歩関係を表す複文の体系的な違いも明らかになると考えられる。

具体的に以下の4つの課題を設定し、両言語の譲歩表現を対照言語学的に分析したい。

①日本語と中国語の譲歩表現における推論に関する異同

(4)

②日本語と中国語の譲歩表現に関する機能および使用範囲の異同

③日本語と中国語の譲歩表現の対応関係

④主節でモダリティ表現の使用制約に関する異同

3.各章における研究内容および結果

本研究は三部、全 11 章から構成されており、各章で行ったことは以下の通りである。

第 1 章では、譲歩関係を表す複文における本研究の研究背景、目的、日中対照研究の 意義、課題設定および研究対象、本研究の用語などについて述べた。

第 2 章では、先行研究を概観し、本研究の立場を確認した。まず、日中両言語の複文 研究における本研究の研究対象たる「譲歩複文」の位置づけを確認した。日本語では、

複う文を分類する際に、形式、構造、意味という三つの観点から行われるのに対し、中 国語では意味上からの分類しか見られなかった。それぞれの言語中における複文の分類 を明らかにした結果、日本語の「逆接条件文」と中国語の「譲歩複文」とが対応関係を 持つことが判明した。次に、これを前提として、両言語の譲歩表現に関する先行研究お よび対照研究に関する従来の研究を整理した。そこから得られた問題点と本研究の位置 づけについて詳述した。

第 3 章では、本研究の理論的枠組みと研究方法について説明した。譲歩関係を表す複 文は論理文の一種であるとされる。まず、本研究で用いた論理学の推論および推論過程 を述べた。また、採用した「対照分析」という方法の由来、および必要性を記述した。

論理学の推論に基づき、「対照分析」を通して、研究対象たる言語を多角的に把握する ことで、より広く深い研究が期待できる。また、本章では本研究のデータの詳細および その収集方法についても紹介した。

各論は第 4 章から第 9 章まで構成される。第 4 章では、譲歩関係を表す複文における 両言語の異同を論述した。まず、日中両言語の譲歩表現の構文上の類似点と相違点を明 らかにした。日本語には接続表現の使用が従属節に限定されるが、中国語では接続表現 の使用が多種多様である。「接続表現のみ」、「副詞のみ」、「接続表現+副詞」の三つの パターンが存在している。つぎに、主語と接続表現の関係を考察した。両言語とも主語 の位置に制限がなく、従属節にも主節にも出現できることは類似している。相違点につ いては、日本語では、接続表現の位置は固定されており、主語と関係していない。中国 語は接続表現の使用位置は主語と関係しており、従属節に接続表現が使用される場合、

主語の前と後ろのいずれも可能であるが、主節に接続表現が使用される場合、主語の後

ろに置かなければならない。さらに、譲歩複文において否定辞の使用が特徴であるため、

(5)

両言語とも従属節か主節の片方に出現する。しかし、主節の事態をより強調する時は、

従属節にも主節にも両方否定辞と共起するというを明らかにした。

第 5 章~第 9 章では、譲歩関係を表す接続表現をそれぞれと中国語の対応関係および 背後に潜む原因を探る。第 5 章は譲歩関係を表す典型的接続表現「ても」に関する分析 である。「ても」は譲歩を表すとよく言われているが、しかし、 「ても」は「て+も」に よって成立することから考えれば、「ても」は譲歩より、並列の用法が基本であると考 えられる。日本語の「ても」に対応する中国語の接続表現として、「也」がよく挙げら れる。なぜなら、中国語の「也」は副詞と接続副詞に二分されるからである。副詞の

「也」は「二つの事柄は同じ性質を持つ」ことを表し、また「複数条件の提示」の性格 を持つ。この振る舞いから見ると「ても」と「也」はかなり類似性が高く、それは「て も」と「也」の高対応度を裏付けた。つぎに、日中対応関係について、 「即使…也」「也」

は確定的譲歩・仮定的譲歩のどちらも表すのに対し、「虽然…但是」「但是」「却」は原 文が確定的譲歩の場合だけ訳されている。一方、「ても」と対応する接続表現が用いら れないものは、実際は接続表現を用いても不自然ではないが、表現意図によって、従属 節の推論と主節の主張や現実との対立を表す時に、用いられない場合が多いことを明ら かにした。さらに、「ても」と「也」それぞれモダリティ表現との共起も確認したが、

モダリティとの共起では、「ても」と「也」は非常に類似している振る舞いがあり、命 令、意志、勧誘、推量、疑問などとの共起が容認されることを明らかになった。

第 6 章では、「にしても」に焦点を当て対応する中国語表現を考察した。まず、先行 研究の記述と実際の調査に基づき「にしても」の意味用法を仮定的譲歩、確定的譲歩、

例示、不定語との共起、慣用表現という五つに分類した。論理学の推論の観点からそれ ぞれの意味用法の文の特徴を明らかになった。「にしても」の従属節には仮定的か、確 定的な事柄を仮定し、主節には従属節の事柄に対する評価、説明、補足などを補足して いる文が多く見られた。また、日中対応関係について仮定的譲歩においては「即使/即 便…也」「就算…也」などに訳され、中国語の虚擬性譲歩文に当たる。確定的譲歩にお いては、従属節が事実であるため、強い譲歩の意味合いを表している。中国語の「虽然

…但」「尽管…但」と同じ振る舞いを持っていることが分かった。不定語との共起の用

法と例示の用法においては、中国語の無条件譲歩に相当し、「无论」「不管」「总之」な

どと対応できる。さらに、「それにしても」が「にしても」の関連表現として取り上げ

られ、中国語に訳される際、接続詞的な表現が使用されることが分かった。最後に、モ

ダリティ表現との共起に関しては、「にしても」の主節には評価・判断のモダリティが

よく現れるが、中国語の場合、主節の語気のバリエーションは豊富であることが明らか

になった。

(6)

第 7 章では、「としても」の意味用法および対応する中国表現を考察した。まず、先 行研究の記述と実際の調査に基づき「にしても」の意味用法を仮定的譲歩、反事実的譲 歩、確定的譲歩、前接表現という四つに分類した。仮定的譲歩の用法では、従属節の条 件は「結果を換えようとする条件」と「極端条件」に分けられる。極端条件は結果事態 と相反する結果に導く傾向を示している。反事実的譲歩の用法では、推論が前提として 成り立っている。主節は実際の結果を示している。確定的譲歩の用法では、従属節で発 生した事態から、現実結果と相反するターゲットが推論されるが、現実世界では、結果 は変わらず成立する。前節表現の用法では、従属節に実行したい動作が提示され、その 試行の失敗が主節の否定表現・否定評価で表されていることが分かった。論理学の推論 から実例を通して、それぞれの用法の特徴が明らかになった。つぎに、日中対応関係に ついて、中国語訳は「ても」と似ている傾向が見られた。仮定的譲歩と反事実的譲歩の 用法では中国語の虚擬性譲歩文と一致し、「即使…也」などに訳される。確定的譲歩の 用法は、「虽然…但」などに訳されることが分かった。また、単独に取り上げられた

「前接表現」の用法では、意志形が付くため、中国語の「想」という意志を表す動詞に もよく訳された。最後に、モダリティ表現との共起に関しては、「としても」の前後節 は認識上のつながりを表している。中国語の原文も類似している特徴がみられた。主節 には意志、勧誘、推量など認識モダリティとの共起が容認されることが分かった。

第 8 章では、「にしろ」 「にせよ」の意味用法および中国語の対応関係を考察した。ま ず、先行研究の記述と実際の調査に基づき「にしろ」「にせよ」の意味用法を仮定的譲 歩、確定的譲歩、並立、不定語との共起、慣用表現という五つに分類した。「にしろ」

「にせよ」の意味用法は「にしても」と類似していることが分かった。つぎに、日中対 応関係について「にしろ」「にせよ」の対訳例は殆ど有標識であることが分かった。そ の点は、逆接条件は順接条件とは異なり、人間の通常の論理的思考に反する結果を表す ため、有標識で表すしかないからだと思われる。最後に、モダリティ表現との共起に関 しては、「にしろ」「にせよ」の主節には評価・判断のモダリティがよく現れるが、中国 語の場合、主節のモダリティには制限がないことを明らかにした。

第 9 章では、接続表現「たところで」の意味用法および中国語表現を考察した。まず

従来の「たところで」の意味用法の分類および対訳例のパターンに基づき、「たところ

で」の意味用法を仮定的譲歩、確定的譲歩と不定語との共起という三つに分けた。仮定

的譲歩の用法においても確定的譲歩においても、従属節事態の因果関係を否定すること

が観察された。つぎに、日中対応関係について「たところで」の意味用法によって中国

語訳の違いも見られた。仮定的譲歩の用法では「即使/即便…也」「就算…也」などに訳

される。確定的譲歩の用法では、「虽然…但」「尽管…但」などに訳される。この結果は

(7)

中国語譲歩複文の典型的表現と一致している。しかし、確定的譲歩の用法では、主節の みに接続表現、つまり副詞「也」「就」が使用されるパターンも見られた。言い換えれ ば、日本語で同じく譲歩を表す「たところで」を用いても、それに対応する中国語は、

「たところで」文の文の性質や前後節の譲歩関係の度合いによっても異なっている。

「たところで」に対応する表現を用いるものもあれば、中国語の表現手法の特徴と文の 自然さを維持するため、「たところで」の意味が反映されないものもある。中国語では、

「たところで」によって接続された前後節の意味的なニュアンスを的確に伝えようとす ると、様々な表現を用いることが求められ、場合によっては、対応表現を省略すること も必要とされることを明らかになった。最後に、モダリティ表現との共起に関しては、

「たところで」の主節には制限があるが、中国語の場合、制限がない。ただし、評価・

判断のモダリティがよく現れる。

第 5 章~第 9 章で各接続表現の機能、使用範囲および両言語の対応関係を以下の図 1 にまとめてみた。

図 1 日本語接続表現、意味用法、中国接続表現の対応関係

日本語接続表現 意味用法 中国語接続表現

ても

としても

にしても

にしろ

にせよ

仮定的譲歩

反事実的譲歩

確定的譲歩

不定語との共起

並立

即使/即便/纵使

虽然/虽/虽说

尽管

无论/不管/不论

…也好…也好

…也

…都

(8)

第 10 章では、第 4 章から第 9 章までの研究結果に基づき、中国語母語話者の日本語 学習者にとっての譲歩関係を表す複文における習得上の問題点を二つ指摘した。一つは 接続表現の機能に関する理解であり、もう一つは、日中両言語の節関係の相違である。

そして、そういった難点が何に起因しているかについて分析を行った。また、日本語の 譲歩関係を表す接続表現の扱われ方の現状を知るために、日本と中国で出版された教科 書などを調査し、それらに潜む問題点を見出した上で、日本語教育への改善案の提示を 試みた。それは、改善案の一つは教材における学習者の母語への配慮を考える必要があ る。もう一つは、言語を教える側が学習者の母語と目標言語のそれぞれの特徴を把握で きれば、より効果的であると指摘した。

4.今後の課題

本研究は譲歩関係を表す接続表現を対象として、日中対照の立場から記述的な研究を 行った。本研究を通じて、譲歩関係を表す接続表現における両言語の特徴や様々な類似 点と相違点を究明したものの、残されている課題はまだ多くある。

本研究では、データとして文学作品における例文を中心に検討し論じたため、両言語 の譲歩関係を表す接続表現に潜む特徴が見えていない部分が存在していることは否めな い。また、譲歩関係は単なる節と節のレベルの譲歩関係だけでなく、文と文との譲歩関 係にもある。したがって、調査資料の範囲をさらに広げ、文章・談話レベルにおける両 言語の譲歩関係を表す接続表現に関する対照研究を行うことも求められる。また、譲歩 関係を表す接続表現はほかの意味関係を表すものとのかかわり方、多重複文における相 互の包含関係などについても考察する必要がある。

今回の研究結果を入口として、今後、譲歩表現に関する研究の枠組みをさらに拡大し、

両言語の譲歩表現の諸相、譲歩表現に関する捉え方、構文諸要素との関連性などを究明

していくことによって、最終的に両言語の譲歩関係の全体像を浮き彫りにすることを目

指したい。

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