奈良教育大学学術リポジトリNEAR
言語弁別学習における言語強化の組合せ
著者 玉瀬 耕治, 豊田 弘司
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 31
号 1
ページ 201‑214
発行年 1982‑11‑25
その他のタイトル The Verbal Reinforcement Combinations in a Verbal Discrimination Learning
URL http://hdl.handle.net/10105/2345
,V。l.31猪>.1Ccul盟S。C.)堤
言語弁別学習における言語強化の組合せ
玉 瀬 耕 治 豊 田 弘 司 (奈良教育大学心理学教室) (大阪教育大学大学院)
(昭和57年4月30日受理)
学習実験における言語強化の組合せには、次の3つの場合が考えられる(1)被験者の正反応に は実験者が"Right"と言い、誤反応には"Wrong"と言う(RW)、 (2)正反応には"Right"と 言い、誤反応には何も言わない(RN)、 (3)正反応には何も言わず、誤反応には"Wrong"と言う
(NW)C このような言語強化の組合せの効果について、従来数多くの研究が行われてきた。
そのもっとも初期の代表的研究は、 Buss, Braden, Orgel, and Buss (1956)のものである。
彼らは、精神科の患者を被験者として、形、色、大きさ、および高さの異なる木のブロックを次 々に呈示して、言語強化の組合せの効果を検討した。被験者には、 "Vec"または"not Vec"と 反応させた。習得期と消去期を設け、習得期ではVec反応を正反応とし、 not Vec反応を誤反 応とした。その結果、 RW群とNW群は習得期において類似の成績を示し、 RN群よりも明
らかに成績がよかった.また、消去期では、 RW群と NW群は、般化勾配が類似していた。
これらの結果から、 Buss らは、 Nは非強化子で、 RとWは正と負の強化子であるが、 Wの 方がより強い強化値をもつと主張した。
Buss らは、 RとWそのものの強化値を問題にしたが、その後Buchwald (1959a, 1960)は、
RまたはWと対にされたNの機能を問題にした Buchwald (1959a)は被験者として大学生を 用い、材料として3桁の数字と無意味綴対が書かれたカードを用いて実験した。被験者は、ある 数字に対して、対のどちらか一方を選ぶよう求められた。その結果、習得期の成績はRW群が もっともよく、次いでNW群、そしてRN群の順であった。消去期では、 RN群での誤反応 がRW群と NW群より多かった。
Buchwald (1960)は、 Nの代わりに"mmhm" (H)を用い、 RH, HWおよびRWの3群 を比較した。材料は、先の研究で用いたものと同様である。実験は2段階に分かれており、被験 者は、まずそれぞれの組合せの下で学習した。次に、 HNの組合せの下で、別の学習をした。そ の結果、 HNの組合せの下での成績は、 HW群が他の2群よりもよかった。この結果は、 Hが Wと対にされることによって正の強化値を獲得し、 Rと対にされたHは、それ程強い負の強化 値を獲得しなかったためと解釈された。
これらの研究から、 BuchwaldはN はもともと何の強化値も持たないが、学習が進むにつれ て、 (1)それが対にされた強化子とは反対の強化値を獲得する、その際、(2) NWの時のNの方が、
RNの時の Nよりもより大きな強化値を獲得すると考えた。
このBuchwaldの考えをSpence (1964)は、言語弁別課題を用いて検討している。被験者に 内科患者を用い、 16対の単語からなるリストの各対において、どちらの単語が正しいかを言わせ た。第1試行では、被験者が選んだ単語のうちの半数を正反応とした。このリストをくり返し呈 示し、 3つの言語強化の組合せによる学習の速さを比較した。その結果、総正反応数では、 RW 群と NW群がはぼ同じで、ともにRN群よりもよかった。これは従来の結果と一致している。
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また、連続する2試行ごとに、前の試行で正反応をし、次の試行でも正反応をした割合(正一 正)と、前の試行で誤反応をし、次の試行で正反応をした割合(誤一正)を算出した。正一正の 割合は、RW,RN,およびNWの3群間に差がなかった。これは、 NW群のNがR とほぼ 同じ正の強化値を獲得したことを示唆している。誤一正の割合は、 RN群が他の2群よりも少な かった。これは、 RN群のNが他の2群のWはど強い負の強化値を獲得していないことを示 唆している。これらの結果は、 Buchwaldの考えに一致するものである。
その後Spence (1966b)は、内科患者に4選択言語弁別課題を用いて実験した。結果は、 RN 群の方がNW群よりも成績がよかった。ところが実験後の内省報告を分析してみると、 NW群 では20名の被験者全員がNをRとみなしており、 RN群では、 20名車8名しかNをWとみな していなかった Spenceはこの内省報告を重視し、あらかじめ教示によってNの意味を説明 しないかぎり、 NはRとみなされる傾向があると仮定した。
この考えは、 Spence (1966a, 1970)によってさらに検討されている Spence (1970)は大学 生を被験者にし、 4次元の2選択概念識別課題を用いた。モデルがあらかじめ決められた反応を し、それに対してRW, RNまたはNWのいずれかの条件で強化が与えられた。モデルの反応 と強化を注意深く観察しておれば正解が得られるように仕組まれている。正解は、 NをRとみ なした場合でもWとみなした場合でも得られるようになっている。各問題の観察学習後に挿入
されたテスト試行によって、被験者がNをどうみなしたかが査定された。
その結果、 NW群ではほとんどの者がNをRとみなしており、RW群と類似の成績を示し たが、 RN群ではNをWとみなしている者はわずかであった。このような結果から、Spence は言語蛍化の組合せにおいて、 RNがRWと NWより劣るのは被験者がNをRとみなす傾 向があるためだと主張した。
以上のように、言語強化の組合せの効果についてはいくつかの説明が行われてきた。これらの 中ではSpe のN‑Rという考え方が有力視されているように思われる(Barringer&Gholson, 1979)c しかし、この考えは、 Buss, Weiner, and Buss (1954)によってすでに提出されており、
先述のBuss ら(1956)によって改められたものであることに注意すべきである。 NがRの意 味をもつとすれば、消去は生じないし、強化なしで学習が成立することにもなろう Spenceら は、ほとんどの研究で言語弁別課題(Spence, 1964 ; 1966a, b ; Spence & Lair, 1965 ; Spence, Lair, & Goodstein, 1963)またはそれと類似の絵画弁別課題(Spence, 1972 ; Spence & Dunton, 1967 ; Spence & Segner, 1967)を用いて実験している。この課題の特徴について検討しておく ことも重要であろう。
この課題は、一種の暗記学習課題である。このような課題では、選択肢のうちの1つを単に選 択するだけで、次回にも同じ刺激を選択しやすくなるのではないかと考えられる。このことは、
強化を与えないNN条件を含む実験を行い、 RNおよびNW条件と比較することによって確 められよう。本研究は、言語弁別課題において選択された反応が、強化が全く与えられなくても 反復されるという可能性を検討するために行われた。
本研究では、 NN条件を設けるにあたって次の3つの場合を設定した。
(1)1つのリストの中に、RNカード、NNカ‑ド、およびNWカードを含む場合(実験1)0 (2)RN群のリストにはRNカードと NNカードを含み、NW群のリストにはNWカー
ドと NNカードを含む場合(実験2)0
(3)独立なRN群、 NN群、およびNW群を設ける場合(実験3)0
実 験 1
本実験では言語強化の組合せを被験者内要因とする。すなわち、 1つのリストの中に、 RN カ ード、 NNカード、およびNWカードを含む条件で、 Nの持つ意味について検討する。
方 法
(1)被験者 被験者は、奈良教育大学の学生20名(男子10名、女子10名)で、すべて同一条件 の下で実験を受けた。
(2)材料 課題は、 2選択言語弁別課題である。刺激カードは、 B6判のキャンパスカードに、
梅本ら(1955)の無連想価表(無連想価30‑39%)から選んだ清音2字の無意味綴対を書いたも のである。これらのカードは、 15枚を1組とし、同じカードが10組用意された。 15枚のカードの うち、3枚はNNカードで、無意味綴対が青字で書かれ、残り12枚のうち6枚はRNカード、
他の6枚はNWカードでいずれも黒字で書かれている。表1は、 15対の刺激語と各試行どとの 呈示順を示したものである。
表1 刺激語および試行ごとの呈示順
刺激語 試行 10
アヌ‑タヤ エツームナ メケートテ モソ‑ヌト シテーレエ セオーワフ チノーネヒ ノホ‑ウモ キホーニサ ソマ‑コヒ テワ一口セ チムーラコ ネソ‑へケ ミアーリト ソシーホニ
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OcM^t^soott)ol"数字は試行ごとの呈示順を示す *‑・第1試行で強化を与えないカード
(3)手続き 実験は、心理学実験室で個別に行われた。被験者は部屋に案内され、テーブルを はさんで実験者と向い合って座る。テーブルの上には、力‑ド呈示箱が置かれている。刺激カー ドは、カード呈示箱中央の窓から実験者が1枚ずつ呈示した。被験者の反応は、あらかじめプリ ントされた記録用紙に実験者によって記録された。
被験者に与えられた教示は、次のとおりである。
今から示すカードには、 2つの無意味な言葉が書いてあります。 2つのうち1つが正しい言 葉と決めてあります。あなたは、正しいと思う方の言葉を声に出して言って下さい。私は、あ
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なたの答の後で、 "あたり"と言ったり、 "はずれ"と言ったり、何も言わなかったりします。
ただし、青字で書かれたカードの時は、"あたり"でも"はずれ"でも何も言いません。あな たはいっも正しいと思う方を選んで下さい。
このような教示の後、実験に対する質問がないかどうかを尋ねた。もし質問があれば、もう一 度教示をくり返した。
1試行は、 15枚のカードに反応することであった。カードは1枚ずつ呈示され、 RN カードで は、被験者が正反応をした時に"あたり"という強化が与えられた。誤反応をした時には、何も 言われなかった。 NWカードでは、被験者が誤反応をした時に"はずれ''という強化が与えら れ、正反応をした時には、何も言われなかった。 NN カードでは、被験者の反応にかかわりな く、何も言われなかった。 15枚のカードは、ランダムな順序で、 10試行までくり返し呈示された。
第1試行では、 RNカード、 NWカードそれぞれ6枚のうち半数には強化を与え、残りの半数 には強化を与えなかった。
結果と考察
(1)正反応数 第1試行では、被験者の反応にかかわらず、 RNカード、 NW カードそれぞ れ半数ずつを正反応としたので、被験者の正反応は、各カード3つずつである。従って、以下の 分析は、第2試行以後について行った。
RNカードとNWカ‑ドの9試行の平均総正反応数は、それぞれ、 33.10(SD‑8.46)、 32.45 (SD‑6.90)で、 t検定の結果、有意差は見られなかった(t‑0.26, J/‑38)c
表2は、各カードの3試行のブロックごとの正反応数を示したものである。ブロック1は、第 2、3、4試行、ブロック2は、第5、6、7試行、ブロック3は、第8、9、 10試行から成ってい る。カード(RN, NW)とブロックをともに被験者内要因とする2×3の分散分析を行ったとこ ろ、ブロックの主効果のみがF (2/95) ‑5.26で1%水準で有意であった。
RNカードと NWカードの正反応数の問に有意差がみられなかったことは、独立なRN群 と NW群を用いた従来の結果とは一致していない。しかし、 Buchwald (1959b)は本実験と同 様に言語強化の組合せ条件を被験者内要因として実験し、 RN と NW条件問に差がないことを 示しているO彼は、この結果について、 Nが一定の強化値を獲得できないためと解釈している。
このことは次の分析において検討する。
表2 ブロックごとの平均正反応数(実験1)
3 試 行 の ブ ロ ッ ク カード 1 2 3
RN 10.30(2.74) ll.30 (2.90) ll.50(3.54) NW 9.60(1.; 10.70(3.45) 12.15(3.32)
(2) N項目の反復数
( )内は標準偏差
N 項目の反復数は、第1試行で強化が与えられなかったカードにつ いて分析した。図1は、各カードに含まれる N項目のブロックごとの反復数を示したものであ る。カード(RN, NN, NW)とブロックをともに被験者内要封とする3×3の分散分析を行っ
たところ、カードの主効果のみがF(2/152)‑ll.25で1%水準で有意であった.図1でわかる ように、 NNカードでの反復数がもっとも多く、RNカードでの反復数がもっとも少ない。こ の主効果について、さらに下位検定を行ったところ、 NNカードとRNカードの差は、 *(152)
‑2.66で1%水準で有意であったが、その他のカード間の差はいずれも有意ではなかった。
ここでNNカードのN項目の反復数が最も多くなったことは注目される。これは、あらか じめ教示で何も言われないことがわかっている場合には、被験者は、最初に選んだ項目をくり返 しやすいことを示している。 NN カードは青字で書かれており、他のカードとは区別されてい るので、他のカードからの影響は少なかったと思われる。
RNカードの反復数は試行とともにわずかに減少し、 NW カードのそれは増加する傾向にあ るが、 Buchwald (1959b)が示唆したように、同一被験者が両条件を行っているので、 Nが強化 値を獲得しにくいのかもしれない。
1 2 3
3試行のブロック
図1 ブロックごとのN項目の反復数
‑ ^^^^B??j 革
本実験では、言語強化の組合せを被験者問要因とする。 RN群では、 RNカードとNNカー どから成るリストを用い、NW群では、NWカードと NNカードから成るリストを用いてN の持つ意味について検討する。
方 法
(1)被験者 被験者は、奈良教育大学の学生40名(男子20名、女子20名)で、 RN群とNW 群に等しく割りあてられた。
(2)材料 課題は、実験1と同様の2選択言語弁別課題である。用いられたカードは、実験1 で用いたのと同じ、清音2字の無意味綴を対にして書かれたカードである。これらのカードは、
12枚を1組とし、同じカードが10組用意された。 12枚のカードのうち、4枚はNN カードで、
無意味綴対が青字で書かれ、残り8枚の黒字で書かれたカード(RN群ではRNカード、NW群 では NWカード)と区別された。
206 玉瀬排治・豊田弘司
(3)手続き 実験は、心理学実験室で個別に行われた。 RN群、 NW群それぞれに与えられ た教示は次のとおりである。
RN群:今から示すカードには、 2つの無意味な言葉が書いてあります。 2つのうち、 1つ か正しい言葉と決めてあります。あなたは、正しいと思う方の言葉を声に出して言って下さい。
私は、あなたの答の後で,"あたり"と言ったり、何も言わなかったりします。ただし、青字 で書かれたカードの時は、 "あたり"でも何も言いません。あなたは、いつも正しいと思う方 を選んで下さい。
NW群:今から示すカードには、 2つの無意味な言葉が書いてあります。 2つのうち、 1つ が正しい言葉と決めてあります。あなたは、正しいと思う方の言葉を声に出して言って下さい。
私は、あなたの答の後で、〟はずれ"と言ったり、何も言わなかったりします。ただし、青字 で書かれたカードの時は"はずれ"でも何も言いません。あなたは、いつも正しいと思う方を 選んで下さい。
RN群では、8枚のRN カードについて、被験者が正反応をした時に"あたり"という強化 を与え、誤反応をした時には何も言わなかった。 NW群では、 8枚のNWカードに対して、被 験者が誤反応をした時に"はずれ"という強化を与え、正反応をした時には、何も言わなかった。
3枚の NN カードについては、両群ともに、被験者の反応にかかわらず、何も言わなかった。
このようにして、 12枚のカードをくり返し呈示し、 10試行まで行った。
第1試行では、 RNカ‑ド、 NWカードともに、 8枚のうち半数に強化を与え、残り半数には 強化を与えなかった。全試行終了後、 RNカードと NWカードの N項目に関する被験者の受 け取り方を調べるため、 "黒字のカードで、何も言われなかった時、どう思いましたか。日 と質問 した。
結果と考察
(1)正反応数 実験1と同様に、以下の分析は第2試行以後について行った。 RN群と NW 群の9試行の平均総正反応数は、それぞれ、 49.50 (SD ‑10.41)、 54.25 (SD ‑9.30)で、 t検 定の結果、有意差は見られなかった(」‑1.48, df‑38)c
表3は、各群のブロックごとの正反応数を示したものである。2(群) ×3 (ブロック)の分散 分析を行ったところ、ブロックの主効果(F‑35.79, df‑2/76, P<.01)と交互作用(F‑3.12, df‑2/76, P<.05)がそれぞれ有意であった。交互作用について下位検定を行ったところ、ブロ
ック3で両群間に有意差がみられた(*‑2.86, df‑114, P<.01)c 表3 ブロックごとの平均正反応数(実験2)
3 試 行 の ブ ロ ッ ク
群 1 2 3
RN 14.40(3.28) 17.15(3.88) 17.95(4.52) NW 14:30(2.43) 18.40(5.03) 20.90(4.ll)
( )内は標準偏差
.これは、試行とともにNW群の方がRN群よりも成績がよくなったことを示しており、従 来の結果と一致するものであるO初期の試行で差がなかったのは、 (1)従来の2選択言語弁別課題 (Spence 1964, 1966a)では言語材料として単語を用いているが、本実験では無意味綴を用いた こと、および(2) NNカードが入っていることによるものと思われる。
(2) N項目の反復数 実験1と同様に、第1試行で強化が与えられなかったカードについて 分析した。図2は、各群の各カードに含まれる N項目について、ブロックごとの反復数を示し たものであるO 群を被験者問要因とし、強化が与えられるカード(RNカード、 NWカード) と与えられないカード(NNカード)のどちらに含まれるN項目であるのかということとブロ
ックを被験者内要因とする2×2×3の分散分析を行ったOその結果、群の主効果(F‑12.74,df‑
1/38, P<.01)、ブロックの主効果(F‑4.71, df‑2/76, P<.05)、群とカードの交互作用(F‑
12.28, df‑1/38, P<.01)、群とブロックの交互作用(F‑4.18, df‑2/76, P<.05)、および群と カードとブロックの交互作用(F‑8.26, df‑2/76, P<.01)がそれぞれ有意であった。
さらに、強化が与えられるカードと与えられないカ‑ドについて、別々に2 (群)×3 (ブロッ ク)の分散分析を行った.強化が与えられるカードでは、群の主効果(F‑29.21, df‑l/38, P<
.01)と交互作用(F‑9.67, df‑l/76, P<.01)がそれぞれ有意であった。これは、図2に見ら れるように、 NW群では試行とともに反復数が増加し、 RN群では減少する傾向があることを 示している。これらの結果は、Wと対にされたNがRの意味を獲得し、 Rと対にされたN がWの意味を獲得するという Buchwald (1959a)の考えに一致している。
実験1では同一被験者にRとWが与えられているが、実験2では、どちらか一方の強化し か与えられていないので、 Nの強化値がより獲得されやすかったと考えられる。
強化を与えられないカードでは、ブロックの主効果のみが有意であった(F‑4.82, d/‑76, P<.05)c すなわち、両群のNNカ‑ドには有意差はなく、ブロック2で減少がみられるもの の、実験1とほぼ同じ結果がくり返されているといえる。
3試行のブロック
図2 ブロックごとのN項目の反復数
208 玉瀬耕治・豊田弘司
(3)内省報告 実験後の質問に対する答は次のとおりであった。 RN群においてはNの意味 (Nは"はずれ"を意味する)を正しく言えた被験者は20名車14名であり、 NW群において、
Nの意味(Nは"あたり"を意味する)を正しく言えた者は、20名車19名であった。これらの 人数についてx2検定を行ったところ、 %2(1)‑2.77となり、 10%水準で有意な傾向がみられた。
すなわち、 NW群の方がRN群よりも Nの意味を正しく言える者が多い傾向があるといえる。
したがって、 RN群の成績が劣っているのは、この群がNの意味を明確に把握できなかったた めと考えることができよう。
実 験 3
本実験では、言語強化の組合せを被験者問要因とする。ただし、̀実験2と異なり、独立なRN 群、 NN群、およびNW群を設けて、 Nの持つ意味について検討する。
方 法
(1)被験者 被験者は、奈良教育大学の学生45名(男子15名、女子30名)で、 RN群、 NW群 およびNN群に等しく割りあてられた。
(2)材料 課題は、実験1、 2と同様の2選択言語弁別課題である。カードも実験1、 2で用い られたのと同様のカードである。これらのカードは、すべて黒字で書かれ、 12枚を1組とし、同 じカードが10組用意された。
(3)手続き 実験は、心理学実験室で個別に行われた。すべての被験者に、次の教示が与えら 'Ssm
今から示すカードには、 2つの無意味な言葉が書いてあります。どちらか1つか正しい言葉 と決めてあります。あなたは、正しいと思う方の言葉を声に出して言って下さい。
RN群では、正反応をした時に"あたり"という態化を与え、誤反応をした時には、何も言わ なかった。 NW群では、誤反応をした時に"はずれ"という強化を与え、正反応をした時には、
何も言わなかったo NN群では、被験者の反応にかかわらず、何も言わなかった。 12枚のカー ドを異なる順序でくり返し呈示し、 10試行まで行った。
第1試行では、 RN群、 NW群に対して、 12枚のうち半数には強化を与え、残り半数には強 化を与えなかった。仝試行終了後、 RN群、 NW群には、 N項目に関する被験者の受け取り方 を調べるために、 "何も言われなかった時、どう息いましたか"と質問した。その他の手続きは、
実験1、 2と同様である。
結果と考察
(1)正反応数 実験1、 2と同様に、以下の分析は、第2試行以後について行った。 RN群と NW群の9試行の平均総正反応数は、それぞれ、 75.40 (52)‑9.51)、 70.80 (5Z)‑9.10)で、
t検定の結果、有意差は見られなかった(7‑1.31, J/‑28)c
表4は、両群のブロックごとの正反応数を示したものである。2(群) ×3 (ブロック)の分散 分析を行ったところ、ブロックの主効果のみが有意であった(T‑56.57, df‑2/56, P<.01)c
これらの結果は、 NW>RNという従来の結果と矛盾しているが、後で内省報告とあわせて考 察する。
表4 ブロックごとの平均正反応敷く実験3) 3 試行 の ブ ロ ック 群 1 2 3 RN 20.80(3.39) 24.93(3.79) 29.67(432) NW 20.27(3.28) 23.00(4.32) 27.53(405)
( )内は標準偏差
(2) N項目の反復数 RN群, NW群では、第1試行で強化が与えられなかった6枚のカ ードについて分析し、 NN群でも半数の6枚について分析した。図3は、各群におけるN項目 のブロックごとの反復数を示したものである。 2 (群) ×3 (ブロック)の分散分析を行ったとこ ろ、群の主効果(F‑41.77, df‑2/42, P<.01)と交互作用(F‑9.34, df‑4/84, P<.01) がそれぞれ有意であった。
群の主効果について下位検定を行ったところ、 2群間の差はすべて有意であった(RN対NN, t‑5.27, NN対NW, t‑2.91, RN対NW, *‑2.36,いずれも4f‑42)e すなわち、 NN群が もっとも反復数が多く、次いでNW群で、 RN群はもっとも少なかった。
交互作用については、 NW群では試行とともに反復数が増加し(2と3ブロックで t‑4.12,
#‑84)、 RN群では減少し(2と3ブロックでt‑4.12, rf/‑84)、 NN群では変化していなか った。
3試行のブロック
図3 ブロックごとのN項目の反復数
210 玉瀬耕治・豊田弘司
NN群における N項目の反復数については、実験1、 2では、 NNカードが青字で書かれ、
目立ちやすかったために、反復数が多くなる可能性があった。しかし、本実験では NN群を独 立させ、綴字の色も黒にした。また、教示も比較的簡単なものにした。このような条件にしても 反復数はやはり多かったので、単に字の色の違いや教示によって反復数が多くなるという解釈は 適当でないといえよう。おそらく、 NN条件のN項目は、もともと反復されやすい性質をもち、
この性質はあまり変化しないものと考えられる。
NW群のN項目の反復数は、試行とともに増加し、 RN群のそれは試行とともに減少した。
この結果は実験2と一致しており、 Wと対にされたNはRの意味を獲得し、 R と対にされ たNはWの意味を獲得することを示唆している。
(3)反応生起率 Spence (1964)の方法に従って反応生起率を検討した。被験者ごとに各試行 の正反応を抽出した上で、直前の試行でも正反応である割合(+20 と、直前の試行では誤反応 である割合(‑%)を算出した。図4はこれを示したものである。計算の手続き上、 12枚のカー
ドすべてに正反応した被験者が1人でもあらわれると、その群の一%の値が算出できないので、
一%のグラフは試行の初期の段階で切れている。この図から、 +%、一%ともに、RN群とNW 群の間には差がないことがわかる。
この結果は、一%で両群の間に差がみられたSpence (1964)とは一致していない。彼女の報 告では、 Nが強化値を獲得する程度と速さが両群で異なるとされたが、本実験では、 N が強化 値を獲得する程度と速さには、両群で差がなかったといえる。
内省報告を調べたところ、両群ともに、全員がNの意味を正しく言うことができた。これは、
RN群の中に、 N‑Rであると言う被験者が多くいることを示したSpence(1966b, 1970)と異 なる。実験2の結果と考えあわせると、本実験では、 Nの意味づけが完全であったので、 RN群 と NW群の差があらわれなかったのかもしれない。
要約と結論
本研究は、言語弁別課題において選択された反応は、強化が全く与えられなくても反復される ことを示すために行われた。 NN条件を設けるにあたって、 RNおよびNW条件を含む1つ のリストの中にNN条件を設ける場合(実験1)、独立なRN群とNW群の中にそれぞれNN 条件を設ける場合(実験2)、およびRN群とNW群とは独立にNN条件を設ける場合(実 験3)について検討した。
被験者は大学生で、言語弁別課題としては、無意味綴対を使用した。実験1では、 NNカード のN項目の反復数は、RNカードとNWカードのそれよりも多く、最初から一定の高い水準 が維持されていた。実験2では、RNカードとNWカードのN項目は、それぞれ、反復数が 試行とともに減少または増加する傾向がみられたが、 NNカードでは一定の水準が維持される傾 向がみられた。実験3では、実験2と同様に、RN群ではN項目の反復数が減少し、 NW群 のそれは増加したが、 NN群では、試行の初期から高い水準を維持していることが示された0
本実験では、 Spence (1966a, b, 1970)が示唆したような、被験者がN‑Rとみなす傾向は とくに示されなかった。本実験の結果は、一般にRN群のNを被験者がRとみなすという考 えに疑問を投げかけるものである。選択反応を強いる課題において、被験者は何も強化が与えら れない場合、最初に選んだ反応を続ける傾向があるが、それは必ずしもN‑Rとみなしている ことを意味しないのではないかと思われる。 NW群では、 Wを避けるためにNの反応を続け る必要があるが、 RN群では、 N を避ける必要がないので、もともと持っている反復傾向が維 持されやすいと解釈される。
引 用 文 献
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The Verbal Reinforcement Combinations in a Verbal Discrimination Learning
Koji Tamase
Department of Psychology, Nara University of Education, Nara City and
Hiroshi Toyota
Department of Psychology, Osaka University of Education, 0.Jaka City
Previous studies which examined the e斤ects of verbal reinforcement combinations upon the performances of two‑alternative verbal‑discrimination learning showed that the Right‑
Wrong (RW) and the Nothing‑Wrorlg (NW) combinations were superior to the Righト Nothing (RN) combination (e. g., Spence, 1964). Three experiments were done to examine the nature of Nothing (N) which was combined with R or W by comparing with the nature of N which was not combined with R or W. The subjects in the three experiments were undergraduate students.
In the Experiment 1 RN, NW, and NN conditions were compared in a within‑subjects design. Fifteen cards of nonsense‑syllable pairs were presented one by one. On 6 out of 15 cards the subjects responses were reinforced under RN condition, on 6 cards they were reinforced under NW condition, and on the remaining 3 cards they were not given
any reinforcement (NN condition). In the丘rst trial, half of the responses on RN or NW
cards were reinforced by experimenters saying "Right" on RN cards or "Wrong" on NW cards irrespective of the subjects responses. After the first trial 9 acquisition trials were given in 9 different orders of the cards, and the responses to the three items which had been assigned as correct on the丘rst trial were reinforced according to the conditions.The results obtained were as follows : (1) the mean number of correct responses in RN and NW conditions increased with trials, but did not di鮎r from each other, and (2) the mean numbers of response repetitions to N‑item were the greatest in NN condition and the least in RN condition
In the Experiment 2 RN and NW conditions were compared in a between‑subjects design. Twelve cards of nonsense‑syllable pairs were devided into 8 cards for the RN or NW condition and 4 cards for NN condition. The subject's responses were reinforced by
"Right" or "Wrong" in the same manner as the Exp. 1. The results obtained were as follows : (l) the mean number of the correct responses in RN and NW groups increased through trials, and that in NW group was greater than that in RN group at the last three trials, and (2) the mean number of response repetitions to N‑item tended to increase in NW condition and decrease in RN condition, but that in NN condition in both groups
was maintained at a high level through trials.
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In the Experiment 3 the independent RN, NW, and NN groups were compared in a
between‑subjects design. Twelve cards of nonsense‑syllable pairs were used. In the丘rst
trial the responses were reinforced by saying "Right" on RN cards or "Wrong" on NW cards. The other procedures were the same as the Exp. 1 and 2. The results obtained were as follows : (l) the mean number of correct responses in RN and NW groups increasedthrough trials, but did not differ from each other, and (2) as were found in the Exp. 1 and
2, the response repetitions to N‑item increased in NW condition and decreased in RN condition, and they were maintained at a high level in NN condition.These results suggest that the subject has a strong tendency to repeat the responses which he selected on the丘rst trial whether the responses were reinforced or not. These 丘ndings throw some question on the Spence's hypothesis (1966, 1970) that the subject has a tendency to regard N as R. As the verbal discrimination learning is regarded as a type of rote learning, the丘rst decision of the responses seems to have an influence to the response tendency in the latter trials. The common丘ndings that the NW group shows better performance than the RN group may be explained by assuming that the subject in NW group must repeat the N responses for avoiding W but the subject in the RN group need not avoid the N responses.