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― ― 日本的生産システムのアフリカへの現地移転に関する実証研究

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日本的生産システムのアフリカへの 現地移転に関する実証研究

―南アフリカに進出した日系Y社の事例を中心に―

苑 志佳

【要約】

本稿は,南アフリカに進出した日本企業Y社の現地合弁企業SY社に対する事 例分析によって「日本的生産システムがアフリカに持ち込まれることができるか」,

という点を明らかにする.本稿の分析の重点は,生産現場における作業長の役割,

教育訓練システムおよび労使関係の3点に置く.本事例の観察を通して得られた 重要な結論の1つは,日本的生産システムを南アフリカへ移転することが可能だ という点である.SY社の生産現場に現れた日本的生産システムの要素が南アフ リカに伝播された理由として,1合弁相手の熱意,2長期駐在の日本人社員の 貢献,3生産現場で長期間をかけて育てられた作業長たちの力,という3点が挙 げられる.一方,現地の制度的ハードルが存在すれば,日本的生産システムのもっ とも重要な構成部分である現場組織にかかわる諸要素は,現地の制度に適応せざ るをえない.

【キーワード】 日本的生産システム,アパルトヘイト,B-BBEE,作業長,教育 訓練,ジョブローテーション

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I 研究課題

本稿は,日本的生産システムが新興経済地域のアフリカへ移転することが可能 かという点を明らかにする実証研究である1

現時点での日本的生産システムの議論は隔世感があるかもしれない.確かに21 世紀以降,世界経済における日本の地位は沈下している.これを象徴する現象は,

いくつかある.2010年に世界2番目の経済大国という地位が中国に奪われ,日本 GDP3位にランクダウンした.また,長らく世界に君臨した日本の製造業 も委縮している.その代わりに,中国は言葉通りの世界の工場になった.しかし,

これらの現象の背後に隠れた真実をわれわれは冷静に観察する必要がある.現在,

世界の自動車・電機・精密機械市場における日本企業は依然として強靭な競争力 を持っている.したがって,日本は現在でも世界有数の対外直接投資国であり,

有数の海外資産の債権国でもある.一般的に対外直接投資の伝統理論は,企業が 海外に現地法人を持ち国境を越えた事業活動を行えるのは,その企業が何らかの 優位性を持っているからであるとしたHymer, 1960).それでは,グローバルな 事業展開を見せている,加工組立型産業における日本企業の優位性はなんだった のであろうか.自動車や電機で代表される,これら日本企業の競争優位の源泉が モノ作りにおける強さにあることには異論がないであろう.そして,そのモノ作 りにおける強さを支えているのが日本国内工場で培われた日本的生産システムで あることにも異論がないであろうと思われる(銭,2002567頁).

ところが,日本的生産システムとは何を指すのか.もっとも狭義的なコンセプ トとしての生産システムは,「企業がさまざまな投入要素を調達し,組み合わせ,

管理する特定の方法を総称する」ものである(中村,1996).そして,日本的生産 システムという概念は特に定義しにくいものである.たとえば,経営学の視点か

1 本稿は,下記の科研費関連研究成果の1つとして特記したい.平成2629年度科学 研究費補助金基盤研究B課題番号26301023,研究課題「アフリカにおける日本企 業のものづくり戦略―組織能力の「適用」と「適応」―」,研究代表者公文 溥  法政大学教授.

(3)

らみた日本的生産システムは,おおむね次の認識である.つまり,自動車や電子・

電機製品を中心とする日本の工業製品がこれまで世界でトップクラスの国際競争 力を持ちえたのは,生産性と品質品種の高さのためであった.これらの競争力の 重要な基盤は,トヨタ生産方式に代表される日本的生産システムに見ることがで きる.それは「かんばん」や「小ロット生産」や「JIT」といった手法を用いて,

高い生産性と高い品質の同時達成を可能としてきたフレキシブルな生産システム であった.この生産システムが国際的にも評価され,1990年代以降,「リーン生 産方式」としてその基本的性格を継承する形で多くの国で導入が進められている.

そして,日本的生産システムの特徴については,これまで多くの先行研究によっ て明らかにされた.ここでは,その一部を引用することによって説明しよう.Abo

2007によれば,日本的生産システムの特徴は,なによりも生産現場における大 括りで広い権限・責任の決め方にあり,そのもとで各要員が柔軟に分業と協業を 組み合わせ,市場の変化に即応する融通性に富んだ多品種少量(小ロット)生産を 可能にする点にある.そのためには,生産現場の各要員は,所属する企業の制度 や現場の状況を熟知し,その変化に各自が一定の判断能力をもって対処するため に,幅広い知識・熟練をそれぞれの企業の現場に即して身につけなければならな (小池,1997).こうした企業特殊的多能熟練は,出来合いの専門的教育・訓練 では間に合わず,「終身雇用」を前提にした企業内のOJTで養成することになり,

それに応じた「人対応」型の仕事の評価方式―人事考課と年功制を組み合わせ た職能資格制―が成立した内部型労働市場の形成である.このシステムは,比 較的同質内向きの人々が集まって競争と協調を兼ね合わせながら仕事をしていく 産業,事業分野に適している.量産の中にも製品差別化と行き届いた品質管理が 競争優位の決め手になり,仕事現場の大勢の人々に相当の判断能力と向上心が求 められる分野である.この日本的生産システムはまた,藤本隆宏氏が整理した技 術の分類学(藤本,1997を借りれば,金型設計から最終組立・検査まで各参加 者がきめ細かい技術の「擦り合わせ」を行いながら仕上げていく自動車など「統 合型」に適している.これは,IT革命に関連して注目されているコンピュータの

「デル方式」など,出来合いの部材をコスト優先で随時外部市場から調達し組み立 てる「モヂュール型」とは区別される.そして,「指摘しておく必要があるのは,

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1990年代初のバブル崩壊後の日本経済全体の不振と1990年代のアメリカを中心 とするIT革命の進展,それとともに広がった日本的生産システム否定論の潮流 の中で,日本的生産システムの位置がかなり変わってきていることとの関連であ る.筆者は,その意味で日本的生産システムの全盛期が1980年代中葉であった ことを認め,日本的生産システムの原型もこの時期をとって構築しているが,そ れ以降現在に至るも,自動車・部品,電機部品,精密機械などにおいてはこのシ ステムとその国際優位性が崩れたとは考えていない」(Abo, 2004).

そして,1980年代以降日本製品の強い国際競争力の背後には,独特な生産シス テムが存在していることが認識されはじめて,日本的生産システムに対する国際 的関心が高まったばかりでなく,技術移転の主体として,日本企業の国際的事業 展開にかける各国の期待も,かつてなく大きくなった.こうした状況の中で,日 本的生産システムの国際移転可能性に関する関心が理論と実践の両面から急浮上 したのである.とりわけ,1990年に行われた日本企業のグローバル化のなかで,

この研究の必要性は高まった.企業の国際化がその優位性の国境を越えた展開プ ロセスにほかならないことを考えたとき,これら日本企業の海外事業活動におけ る成功は,各現地法人において日本的生産システムを如何に実現するかにかかっ ていると言っても過言ではない.しかし,日本的生産システムが海外の現地法人 において日本国内工場と全く同じ形で再現されていたわけではないことが,多く の先行研究によって明らかになっている(安保1994),安保・板垣・上山・河 村・公文1991),板垣1997),苑2006),など)2.安保1994によれば,日 本的生産システムの持つ競争優位は人的要素の役割や密接な組織間関係を重視し た「現場主義」的管理運営がもたらすものであり,作業効率と製品品質の高さに あらわれるとする.さらにそれらは日本社会に特徴的な制度や慣習に依存してい るので,この日本的生産システムの強みを歴史的文化的環境が異なる海外各国に 持ち込むのはかなり困難をともなうものである,と言う認識を基盤に置く.日本 企業の現地工場はその進出段階で,一方で最も得意とする生産システムの優位性 を最大限持ち込もうとする「適用」(アプリケーション),他方で現地のさまざま

2 ここでの議論は,銭2002の内容を引用している.詳しくは,銭2002567頁を参 照されたい.

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な社会・環境条件に合わせてそのシステムを多かれ少なかれ修正して使う「適応」

(アダプテーション)の二者択一の判断を迫られ,出来上がった工場は日本方式と 外国方式の混合度合いからハイブリッド・モデルとなっていることが示される.

そして,21世紀以降,日本企業のグローバル化は新たな段階に突入した.それ は,伝統市場の欧米,アジア市場に新興経済と呼ばれる新しい市場を加えること である.そのなかでは,アフリカという世界経済のフロンティアにあたる市場へ の進出は,上記の議論に新しい課題を提起している.つまり,日本的生産システ ムは新興経済地域のアフリカへ移転することが可能かどうか,というものである.

本稿は,日本企業Y社が資本参加した,南アフリカ共和国(以下,南アフリカ)

のダーバンにある自動車ワイヤーハーネス工場SY社を中心とする実証研究であ る.現段階では,南アフリカに進出した日本企業にかかわる情報はきわめて不十 分の状態である.このため,本稿は分析重点を,生産システムの重要の側面の,

1作業長の役割,(2教育訓練システム,(3労使関係の3点のみに置く.

5,000万人超の人口を擁し,一人当たりGDP5,000米ドルを突破した南ア フリカ2016年現在)は,アフリカ大陸において最も成熟した市場と見なされて いるが,日本からみると,南アフリカは依然として遠すぎる国である.ところが,

本事例によって示されるように,日本的生産システムがこの遠い国にまで移転さ れていることは大変興味深い.これよりの分析に関するデータは,主に2014 2017年の夏の南アフリカにある企業調査,訪問の際に行われたインタビュー で入手したものである.

II 南アフリカの直接投資環境と日系企業の進出

近年,南アフリカは日本のマスメディアに多く登場するようになったが,多く の日本人にとって南アフリカは依然として馴染みのない国の1つであろう.南ア フリカは,アフリカ大陸最南端に位置する共和制国家で,イギリス連邦加盟国で ある.東にスワジランド,モザンビーク,北にジンバブエ,ボツワナ,西にナミ ビアと国境を接し,レソトを四方から囲んでいる.かつては有色人種に対する人 種差別で知られ,それはアパルトヘイト(人種隔離政策)と呼ばれ1994年までは

(6)

合法的な政策であった.金やダイヤモンドの世界的産地であり,民主化後の経済 発展も注目されている.南アフリカは,アフリカ大陸最大の経済大国であると同 時に,アフリカ唯一のG20参加国でもある.2015年のGDP3,342.5億ドル

(約30兆円)であり,神奈川県とほぼ同じ経済規模である3

南アフリカには人口5,495万人(日本の4割強,2015年)が国土面積122万平 方キロメートル(日本の約3.2倍)に住んでいる.広い国土と複雑な歴史により,

黒人(ズールー族,コーザ族,ソト族,ツワナ族),白人(オランダ系,イギリス 系),カラード(混血),アジア系(インド人,中国人)で構成されている.アパル トヘイトの歴史を克服し,復讐ではなく和解を追求した南アフリカの国民は,そ の人種の多様さを受けて「七色の国民」とも呼ばれている4

南アフリカは,サブサハラ・アフリカの全GDP26.9%2013年)を占め,

アフリカ経済を牽引している.最大の貿易相手国は中国であり,EU,米国,日 本との貿易関係も活発であるが,最近では,その他BRICs諸国,南部アフリカ 諸国との経済関係強化も重視し始めている.20145月に再任となったズマ大統 領は,その施政方針演説の多くを経済対策に割き,長期間継続している国内のス トライキや電力不足等,経済成長の鈍化要因に言及し,鉱山労働者の勤務条件改 善や,原子力エネルギー・シェールガスの活用等,経済成長に向けた改革に乗り 出すことを表明した5

外国企業にとっての南アフリカ最大の魅力は,やはり潜在的な大市場である.

南アフリカは資本主義最後のフロンティアといわれる大市場のアフリカ大陸への ゲートウェーでもある.南アフリカでは,外国企業がビジネスを行う上で必要な インフラが整備されている.豊富な鉱物資源の高騰を背景に経済成長の他,BRICs にも加盟するなど大きな存在感を示している.所得の伸びとともに購買力が高ま り,市場としても魅力を増している.毎年5%を超えるGDP成長を誇る南アフ

3 こちらの内容は,外務省のホームページにおける紹介を参照したhttp://www.mofa.

go.jp/mofaj/area/s_africa/data.html#section1).

4 在南アフリカ日本大使館のホームページを参照http://www.za.emb-japan.go.jp/

itprtop_ja/index.html).

5 同注4

(7)

リカはサブサハラ・アフリカ全体のGDP総額の20%以上を占める経済大国であ る.そんな南アフリカの強みはサービス業にあり,通信・金融・小売り・エネル ギー分野などでアフリカ大陸を席巻している6

日本企業による対南アフリカ投資の推移は,〔表1に示された通りである.日 本企業の対南アフリカ進出の経緯について,先行研究はすでに把握しているため,

ここで高崎2012を引用する7.「日本企業による対南アフリカ投資は, 1990 代に入って本格化した.19946月のアパルトヘイト法全廃を受け,同年10 に日本は南アフリカに対する経済規制措置を緩和した.翌年1月には外交関係が 樹立され,それ以降,経済交流が発展する.財務省統計によると,日本の対南ア フリカ投資残高は1996年末の4,100万ドルから,2011年末には5倍超の24 ドルになった.二国間の貿易額は,1994年の42億ドルから,2011年には2127 億ドルに拡大した進出日本企業の数は,現在約100社に上る」(高崎2012),20 頁).

日本企業の進出はこれまで主に資源・自動車の二分野に集中してきた.資源分 野では安定供給の観点から,大手商社がプラチナ,フェロクロム,マンガン鉱山 などへ投融資を行うほか,鉱山建機メーカーが進出した.自動車分野では南アフ リカ政府が進める自動車産業政策により投資優遇措置が付与されていることから,

トヨタ自動車(以下,トヨタ),日産自動車(以下,日産)のほか,複数の部品メー カーが現地で生産を行っている.一方,近年では通信,消費市場,医療機器など の分野への進出もみられ,日本企業の活動の裾野は広がっている.

本稿の分析対象産業分野の自動車産業について述べると,世界の主要自動車メー カー7社が南アフリカで現地生産している.日系ではトヨタと日産が現地に工場 を構え,地元の雇用創出や人材育成に大きく貢献している.部品メーカーでは,

ブリヂストン,デンソー,キャタラー,トヨタ紡織,矢崎総業など,20社近くが 進出している.現地サプライヤーへの技術指導や生産設備投資への支援などが継 続して行われており,地場企業も育ってきている.現在,トヨタは南アフリカ自 動車販売市場の約2割のシェアを占め,長年トップ企業の座を守っており,南ア

6 海外市場調査研究所のホームページを参照http://southafrica.tryfunds.co.jp/reason).

7 高崎2012を参照されたい.

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フリカにおける事業を拡大し続けている.南アフリカで「ダーバンといえばトヨ タ」というほど,地元に根付いた企業としての存在感が強く,従業員教育や地域 の教育レベルを上昇させるための教育者養成プロジェクト,奨学金授与,児童福 祉といった幅広い分野での地域社会事業にも力を入れており,南アフリカ国民か ら尊敬・支持されている大企業の1つである.2016年,トヨタ系の部品メーカー が南アフリカで生産を拡大することが明らかになった.豊田合成が工場を3.5 に拡張して窓枠に取り付ける樹脂部品の生産を始め,トヨタ紡織もシートのプレ ス部品の製造ラインを設けた.資源価格の下落などで南アフリカ通貨は下落傾向 にある.現地生産の比率を高めて,別の地域から輸入する部品を減らし価格競争 力や採算性を高める.南アフリカはトヨタにとって中近東・アフリカで最大の生 産拠点となっている8

以上のように,南アフリカには,多くの投資機会と将来性があるが,同国に進 出する場合,4つのリスクがあるといわれる.南アフリカでビジネスをするにあ

たってB-BBEE政策など現地特有の規制を理解する必要がある.東南アジアな

どに比べて高い賃金や一部インフラの不足もあり,進出に際しては現地事情にあっ た計画,現地パートナーの選定が求められる.

まず,南アフリカで現地生産を行う際に,B-BBEE政策という特有なリスクが ある.B-BBEEとは,Broad-Based Black Economic Empowermentの略であ り,アパルトヘイト下において不遇な立場に立たされていた黒人,カラード(有 表1 日本企業の対世界と対南アフリカ直接投資残高の推移(単位100 万ドル)

対外直接投資残高(資産)

00年末 01年末 02年末 03年末 04年末 05年末 06年末 07年末 世界 278,445 300,868 305,585 335,911 371,755 388,197 449,680 546,839 アフリカ 758 625 1,232 2,052 1,628 1,332 2,701 3,895

南アフリカ 366 289 519 1,070 967 793 1,125 852 出所ジェトロhttps://www.jetro.go.jp/world/japan/stats/fdi.html)。

8 『日本経済新聞』電子版,2016825日.

(9)

色人種),女性などを積極的に是正するための政策である.企業はスコアカードに 基づいて採点される.所有権の黒人への移転なしには政府調達のビジネスが困難 になる.南アフリカでのビジネス活動においてB-BBEE法は,業種を問わず, 業に影響を与えている.同法は2003年に制定され,2007年に運用ガイドライン となる適正実施基準が導入された.企業のB-BBEE達成度は黒人の資本参加, 営参加,雇用均等,技能開発,優先的調達,企業育成,社会貢献の七項目で評価 される.例えば,資本参加では企業の資本総額の25%相当の株式を黒人に移転す ること,優先的調達では黒人企業,中小零細企業からの調達額の割合を全調達額 7割にすることが目標値である.政府調達の際にB-BBEE達成度が考慮され るほか,鉱業や銀行業では一定のB-BBEE資本参加比率が免許交付の条件となっ ている.このため,政府や国営企業と直接ビジネスを行う企業は積極的にB-BBEE に取り組んできた.一方,そうでない企業は競争原理に基づく経営を妨げるとし

て,B-BBEEへの取り組みを躊躇するケースもみられた9.南アフリカに進出し

た日系企業にとって,B-BBEEの順守と達成は,1つの宿命的な課題となってい る.

次に,高い雇用コストは,南アフリカに進出した日系企業の重い負担である.

東南アジアなど途上国に比べ,南アフリカの賃金水準は高く,労働争議の問題も あることが製造業にとって大きな問題となっている.他方で高等教育を受けた若 者が雇用にありつけない状況もあり,人材採用にあたっては適切な情報収集が欠

08年末 09年末 10年末 11年末 12年末 13年末 14年末 15年末 16年末 683,872 740,364 830,464 957,703 1,040,463 1,117,267 1,185,447 1,261,020 1,359,354

7,325 5,734 6,145 8,081 6,892 12,077 10,012 8,914 9,992 1,673 1,730 2,291 2,441 2,450 8,794 7,247 7,159 8,208

9 高崎2012),20頁の内容を引用.

(10)

かせない.労働者保護の意識が強いため,一度雇うと解雇も容易ではないことの

他,B-BBEEもあり,現地でビジネスをするにあたっては法務面でのプロフェッ

ショナル・サポートが重要である.南アフリカで現地生産しているトヨタの例を 挙げると,就職難のため従業員の定着率はよいが,ワーカー年収は150万円(社 会保障・ボーナス等含む)に達しており,一方,生産性は低いので,人より機械 を使って生産する方向に進んでいる.ボディー溶接もすでに3割がロボットであ る.タイやメキシコと比べて南アフリカ労働者の質は低いが,それでも十年前と 比べると少しは改善されたとのことであった.したがって,裾野産業も未熟であ り,部品企業数も少ないのでサプライヤーの売り手市場である.不良品が多く,

バイヤー(組立企業)のほうが納品された部品の品質をチェックするという,東ア ジアでは考えられない状況もあるようである10

3のリスクは,インフラニーズの高まりである.南アフリカは優れたインフ ラを有しているが,急成長する中でインフラへのニーズが高まっている.しかし ながら,アパルトヘイトの影響からか,こうしたインフラ整備を支える人材に不 足し,人材育成は南アフリカの喫緊の課題の1つとなっている.

4のリスクは,やはり治安問題である.悪名の高い南アフリカの治安問題は 外資企業の現地生産・経営にまで影響を与える場合もある.治安問題の近因は,

かつてのアパルトヘイト政策と高い失業率である.アパルトヘイト撤廃によって,

それまで人種差別を受けていた黒人などの所得は大幅に向上した.20012011 年の10年間における世帯所得の伸びを人種別に比べると,白人以外の伸び率が 白人を上回っている.特に,黒人の所得伸び率が高く,白人の伸び率の2倍であ る.ただ,人種別の所得格差はいまだに非常に大きい.特に,黒人の所得水準は,

アジア系やカラードよりも大幅に低く,白人の7分の1にすぎない.アパルトヘ イト廃止から20年が経過しても,アパルトヘイトによる負の遺産はいまだに解 消されていないことが示されている.そして,南アフリカの失業率は,人種別に 大きな格差が存在する.白人の失業率が7%であるのに対し,その他のグループ の失業率は高く,特に,人口の8割を占める黒人の失業率は足元でいまだに27%

10 大野2016の内容による.

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と著しく高い.黒人の失業率の高さの原因として,まず,黒人主体の与党ANC の支持母体でもある労働組合が非常に強力なため,賃金上昇率が高く,企業側が 新規雇用を抑制していることが挙げられる.さらに,アパルトヘイト時代に黒人 の教育環境が劣悪だったことによる後遺症で,黒人の知識・技能が企業側の求め る水準に達していないことも指摘されている.一方,雇用環境の悪さは,南アフ リカの治安の悪さの大きな原因になっていると指摘されている.例えば,殺人事 件の発生率を見ると,南アフリカは,米国の8倍,日本の40倍と著しく高いこ とがわかる.南アフリカのこうした犯罪発生率の高さは,大きな貧富の格差など を背景に黒人の失業者や低所得層が犯罪に走りやすいことが大きな原因である.

このような治安状況の悪さに対応するため,在南アフリカ日系企業では,駐在員 の安全確保のための必要な防犯装置等にかかるコストが非常に高くなっており,

これが,日系企業の南アフリカ進出を躊躇させる要因にもなっている.このよう に,南アフリカの治安の悪さは,外国企業の対南アフリカ投資を妨げかねないほ どの大問題となっているのである11

以上のように,様々な不利な経営環境の中で,日系企業は現地経営を行ってい るだけでなく,その経営効率を向上するために,日本国内で慣れた制度,慣行い わば日本的生産システムを現地に積極的に移転している.以下では,矢崎総業の 出資企業SY社の事例によってその実態を分析する.

III Y 社のグローバル化と南アフリカ進出

自動車部品ワイヤーハーネスなどの専門メーカーY社は1941年に創業し,資 本金は現在32億円であり,企業規模と比べると,少資本金と言えるかもしれな いが,ワイヤーハーネス分野では世界屈指の企業である.創業以来のY社は「世 界と共にある企業」と「世界から必要とされる企業」を社是とし,国内外で事業

11 ここの記述は,三菱UFJリサーチ&コンサルティング2014)「南アフリカ経済の現 状と今後の展望―サブサハラ・アフリカ市場攻略拠点として注目される南アフリカ

―」調査レポートhttp://www.murc.jp),1718頁の内容を参照した.

(12)

を大きく展開している.企業の目立った特色としては,1非上場企業であること,

2オーナー会社であること,が挙げられるが,3海外展開を積極的に進めてい ることである.

Y社の海外進出は1962(昭和37年)9月タイに電線ケーブルを生産する合 弁会社を設立することに遡る12.歴史的には,タイに進出した後の1980年代後半 から本格的なグローバル展開を行い,1990年代に16カ国,2000年代に10カ国 に進出し,海外事業を拡大してきた.2016年現在,Y社グループ全体の従業員数 289,300名で,内訳は国内21,600人,海外が267,700であり,つまり,海外 の従業員数は国内の12.3倍という計算になる.グループ全体の法人数は173で,

そのうち,海外が106,国内が67,という構成であり,海外事業は国内に比べて より規模がかなり大きい.また,進出する海外地域は44カ国に及ぶ.海外事業 は,3つのグループに分かれている.そのうち,「アジア・オセアニア」グループ は最大で,12カ国87拠点があり,142,000名の従業員を抱えている.2番目の

「北・中・南アメリカ」グループは,10カ国106拠点,78,100名の従業員がいる.

そして,3番目の「ヨーロッパ・アフリカ」グループは,人員規模こそ最小であ 47,600名)が,その展開国の数は22カ国で最多である.本稿の分析対象の SY社は,このグループにある13

Y社のグローバル化を生産面で見てみると,生産量は1990年を100とした場 合,2006年は約300となり,15年間で3倍に増加している.1990年頃から本格 的な海外展開が始まっているが,それに伴い海外生産量も増え,1990年には海外 生産比率が33%であったのに対し,2006年では81%となり,海外生産が大きく 増加している.また,海外で生産し,日本に輸入し,日本で販売する,いわゆる 逆輸入が,日本での販売量の約50%を占めている14

なぜY社はグローバル化を進めたのか.理由は大きく分けて次の3つ,1 スト競争力の強化と労働力確保,2海外カーメーカーに対する最適供給(最適生

12 Y社のホームページを参照した.

13 Y社のホームページの掲載内容による.

14 守永2007Y社のグローバル化にきわめて詳しいので,是非,参照されたい.

(13)

産),3日本カーメーカーのグローバル化への対応,が挙げられる15

まず,コスト競争力の強化と労働力確保については,以前は海外に対する製品 の供給は,日本国内で製造し,輸出で対応した.1960年代に高度経済成長に入 り,1970年代にかけて,日本国内の労働力が不足してきた.このため,Y社は国 内の過疎地に労働力を求めて国内生産を拡大したが,それにも限界があった.ま た人件費の高騰によるコスト競争力の低下もあった.それに加え,日本からの輸 出では為替リスクも伴うことから,海外へのシフトを拡大した.

次に,海外メーカーに対する最適供給についても,日本国内生産品の競争力の 低下による輸出対応での限界,また1980年代より海外のユーザーが拡大したこ とにより,輸出での対応が一層困難になり,人件費の安い海外での生産にシフト して,完成車メーカーに近い場所で最適生産をし,物流コスト等を削減すること により,コスト競争力を確保した.

3に,Y社がグローバル化を進めた最大の理由は,日本の完成車メーカーの グローバル化への対応であった.1990年には日本の完成車メーカーの海外生産比 率は20%弱であったが,2006年にはほぼ50%となっており,こうした日本自動 車メーカーのグローバル化の進展に伴い,Y社もグローバル化を進めた.その理 由として,1コスト競争力の確保,2納期・リードタイムの短縮,3物流コス トの削減,に加えて,4完成車メーカーの現地調達比率の向上への対応などが挙 げられる.完成車メーカーは進出先の国から一定の現地調達比率が求められてい るが,その現地調達比率向上のため,生産を完成車の近くへシフトしてきた.以 上の結果,Y社は日本,アメリカ,ヨーロッパ,アジア,アフリカそれぞれの地 域で,世界の殆どの完成車メーカーに部品を供給している.

Y社のホームページには,下記のグローバル化の方針が書かれている.つまり,

Y社グループは,生産,販売,研究開発を世界規模でネットワーク.そのすべ てはリアルタイムで結ばれている.国内・海外へのタイムリーな製品の供給,刻々 と変化する世界情勢を先取りする製品群の開発,そしてグローバルネットワーク が可能にするY社グループならではの効率的な生産・流通体制など,「必要なと

15 同脚注14

(14)

きに,必要なものを,最適なルート,最適なコストで世界のどこへでも供給でき る」万全の体制を整えている」.

そして,Y社グループは現在,アフリカ3カ国6拠点を持つ.アフリカ進出国 の最初の事業は,2000年のモロッコ工場の設立である.現在,モロッコには3 所の拠点がある.同じ北アフリカ地域のチュニジアには2拠点もある.そして,

本稿の対象企業SYは,2006年に設立した現地法人であり,アフリカ南部におけ る唯一の生産拠点でもある.

IV SY 社の現地経営状況と日本的生産システムの移転現状

4‒1 SY 社の概要と経営状況

〔表2SY社の概要である.Y社が南アフリカ進出を実現した時期は2006 年であった.南アフリカ進出の最大動機は,同国の自動車市場の拡大と南アフリ カに現地生産を展開した日系および欧米系自動車完成車メーカーの部品需要へ対 応するためであった.会社の立地をダーバンに決めた理由は,地理的にトヨタな ど生産メーカーの工場に一番近いことと,すでに現地生産の経験をもつSY社と いう企業の存在,という2点以外に,南アフリカの他の都市に比べてダーバンの 治安環境が比較的によいという利点も挙げられる.

〔表2に示したように,SY社は自動車用ワイヤーハーネスを生産する合弁企 業で,製品を南アフリカで現地生産を行う日系および欧米系自動車メーカーへ供 給する.われわれが2017年に訪問調査した際に,企業の従業員数は2,100名に 達している.日本人駐在者は3人しかいない2014年の時点では1人).合弁パー トナーのSY社は,もともと現地の優秀なワイヤーハーネス生産企業であった.

同社は,現地の投資会社M社グループの子会社として,1989年に操業開始した.

1993年にトヨタの現地会社から「Best small supplier」の認証を取得し,1996 年から,トヨタのカローラ用ワイヤーハーネスの生産を開始した.さらに,2001 年にフォード社からも同様の認証を取得して現地で有力なワイヤーハーネスメー カーとなった.20064月にY社は,同社に出資し25.1%の所有権を取得し,

南アフリカにおける最初の拠点をもつようになった.Y社はマイナー出資者であ

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るのに,現地合弁パートナーから寛大に受け入れられた.つまり,Y社側は25.1%

しか所有していないが,合弁会社の重要な意思決定の際に50%の投票権を有す る.現地パートナーのM社の74.9%の所有権は,R社およびその他の株主が共 同所有する.2回の訪問調査から得た印象は,合弁双方の関係がきわめて良好と いうものであった.SY社との合弁以来,最小限に日本人関係者数を抑えるのは 日本Y社側の1つの方針である.2014年の訪問調査の際に,日本人出向者は1 人しかいなかったが,2017年の訪問時に出向者は3人になった.

そして,SY社の経営状況は,概ね良好だという根拠がいくつかある.その1 つは,企業規模の継続的拡大である.われわれの1回目訪問調査の2014年には 1,800名程度の従業員を抱えたが,3年後の2017年には従業員数が2,100名まで 増加した.これは当然,工場の経営状況の良好さを示す証の1つであろう.また,

製品の受注先企業も,最初のトヨタにGM,フォードなど相次いで加わった.こ れから,日系企業のいすゞ,日産からの注文も予定されている.そして,現在の 年間総売上高は,約10億円であるが,今後,いすゞや日産の仕事が受注見込み 20億円まで上昇することが期待されている.さらに,われわれが調査した現 場にも活気溢れているという印象から考えると,経営状況の良さが窺がえる.で は,SY社の良いパフォーマンスを支える力は何であろうか.自動車市場の持続

表2 SY 社の概要

会社名 SY

所在地 スタンガー(ダーバン)

操業開始 19895

所有形態 合弁会社(日本Y社側出資率25.1% 主要生産品目 自動車用ワイヤーハーネス

取引先 トヨタ、GM、いすゞなど 合弁開始 20064

従業員数 2,10020173月)。日本人出向者3 出所2014年、2017年現地訪問時に聞き取った情報による。

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的拡大という客観的な好条件やSY社経営陣の経営戦略と能力は当然重要である が,工場の管理運営に不可欠の生産システムも大きく貢献しているに違いない.

本来,南アフリカの既存企業で,日本人出向者数も極端に少ないSY社における 管理運営面では,現地の色彩が強いはずであるが,われわれの2回の訪問調査か ら受けた印象は,正反対である.つまり,工場の生産システムには多くの日本的 な要素が存在している.これは一体,どういうことであろうか.以下では,SY 社における日本的生産システムの移転状況を説明する.

4‒2 効率的な生産現場を支えるキーポイントオールマイティな作業長 作業長は,企業を構成する各種の管理者のうち,生産現場にあって各種作業者 を直接に指揮・監督する職位であるが,日本の工場組織は,それを構成する成員

(とくに小集団とその成員)の全員参加が求められる.このような組織にあっては,

集団の活力が現場の小集団にあり,集団のリーダー(職場にあっては監督者)の役 割が大きくなるとされる.日本の工場の場合,生産現場の作業長の役割は様々あ るが,企業・工場の計画にもとづく作業長訓練では,監督者に必要な資格要件と して,1仕事の知識,2会社についての全般的な知識,3作業指導を行う知 識,(4作業方法改善の技能,(5統率の技能の5つがあげられており,「教え 方」,「改善の仕方」,「人の扱い方」の3技能が監督者の基本的技能とされる.さ らに職場における労務管理の必要性の増大とともに,(4面接による部下の理解 の技法,5個々の部下に「やる気」を起こさせるモティベーション管理,6 題従業員の扱い方,(7職場小集団のモラール形成,(7組織開発などが,監督 者に必要な技能として含まれるようになった(森,1995).このような製造現場で 中核となるのが職場リーダーであり,部下の教育,製品品質の確保,納期遵守,

改善など彼らの果たす役割は大きい.日本の製造業の発展を支えた柱の1つは,

よく教育されモラールの高い熟練作業者と,新人のしつけと教育を担い,彼らを 熟練作業者として育成する責務を担ってきた熱心な現場作業長からなる製造現場 の活力にあった(田村・福田,2003pp.205218).

上記のように,日本の工場では,内部から昇進した作業長が単なる労務管理(現 場規律の維持,人事考課)だけでなく,現場作業チームの運営(日程計画の検討,

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要員への作業割り当てと作業状況の把握,部品・材料の確保,教育・訓練),工程 の技術的管理(作業標準の設定,設備の保全,品質の維持,作業改善活動)に積極 的に関与し,職場間の連携で重要な役割を果たすなどの役割を果たす.一般的に は,海外の企業・工場における作業長「フォアマン」foremanの実質的な職務 内容,職務権限は,それよりもかなり限定されている.それでは,SY社の場合 どうであろうか.

ワイヤーハーネスの生産は高度な労働集約的作業性格を持つ.つまり,材料・

部品から完成品までの生産過程には人間の手に負うところがきわめて大きい.こ のため,生産現場では,人海戦術によって作業を行う.一方,生産過程で発生し たミスは,製品のワイヤーハーネスに致命的な影響を与えるだけでなく,企業の 競争力と信頼性にも傷を付ける.なぜなら,不良品のワイヤーハーネスは,自動 車事故の原因になるからである.日本国内のワイヤーハーネスの工場では,強い 現場主義的作業組織―柔軟な作業チーム,多能工的作業員,能力の高いかつオー ルマイティな作業長など―のもとで効率的な生産現場を形成している.そのう ち,能力の高いかつオールマイティな作業長の存在は,きわめて重要である.

SY社の生産現場における作業長という要素は,かなり日本的な特色をもつ.

2,000人以上の従業員を抱えるSY社では,生産現場のヒト管理はきわめて重要

である.工場の聞き取りによると,現在,SY社の工場生産現場の中心人物は, ループリーダーG/Lとよばれるベテランである.1人のグループリーダーのも とでは,6人のチームリーダーT/Lがいる.チームリーダーの助手役はサブ チームリーダーSub T/Lである.そのもとでは,2025名のオペレーター が日常的な生産作業を行う.このうち,日常的な生産作業と個々のオペレーター と密接に管理するキーパーソンは,チームリーダーである.一般的に日本の製造 業工場における作業長は,幅広い管理権限と柔軟な対応能力さらに高い作業技能 を持つが,これに対して海外の工場現場における作業長の権限と能力は一段下が る.しかし,SY社の場合は異なる.われわれが調査したSY社の工場現場にお けるチームリーダーは,幅広い仕事―日常的な作業管理,出勤管理以外に(ジョ ブローテーション,星取り管理を含む)教育訓練,改善活動,品質管理,目標管 理,メンテの関与まで―に責任を負う.特筆すべきは,チームリーダーを中心

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とする改善と提案活動の展開である.生産現場における改善活動が数年前から導 入され,現在,チームリーダーは主導してテーマを提出する.活動は,作業時間 内と作業時間外の両方で行われている.そして,月間1回のペースで提案ミーティ ングも実施している.こちらもチームリーダーが主導する.提案が採用された場 合,賞状が渡されるが,金銭的奨励はない,という.ここのポイントは,やはり 日本の国内工場で活発に展開される改善や提案活動はSY社の工場現場でも同様 に実施されていることである.しかも,チームリーダーがこれを主導するという ことである.リーダー役のチームリーダーは,高い作業技能と知識がなければ,

これを主導することは当然できないであろう.

このような幅広い管理は当然,外部からスカウトした作業長にとってやりきれ ない.SY社の場合,作業長は「内部昇進」という慣行ができている.まず,空 きポストがあれば,オペレーターはこれをアプライすることができる.ただし,

オペレーターからサブチームリーダーへの昇進は,少なくとも1年以上の経験が 必要である.そして,作業長になる場合には,「16のルールとガイダンス」を遵 守しなければならない.〔表3は,「16のルールとガイダンス」の詳細内容を示 すものであるが,これをみる限りでは,日本の国内工場の作業長に負けないほど,

幅広い責任と権限が書かれている.実際,われわれが工場現場でインタビューし た作業長は,豊富な現場生産知識と情報を熟知しているという印象を受けた.2017 年の訪問調査した時に,現場を案内してくれた女性作業長は,工場のオペレーター として入社して現在はグループリーダーとして活躍している.彼女のもとでは6 人のチームリーダーがいる.聞き取りによると,彼女は,この工場での勤続は20 年という生産のベテランである.

そして,現場作業長のもう1つの特徴として,全員が女性でカラード(有色人 種)であることが挙げられる.SY社の工場現場の作業員はほとんど女性であるの で,女性の作業長は当然かもしれないが,カラードという特徴は,SY社の経営 方針を反映していると考えられる.工場側の説明によると,10年前に,SY社の 管理層は白人,チームリーダーはインディアン系,オペレーターは黒人という人 種分布であった.現在,管理層には黒人の姿が見られる以外に,もっとも変化し たのは黒人のチームリーダーが目立つことである.われわれの工場訪問の際に,

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現場を案内してくれた作業長には黒人の方が多い.これについて,既述した

B-BBEEへの取り組みと関係する.本来,民間部門は,B-BBEE関連法令の法

的拘束を受けないが,国営企業による入札や,事業の許認可審査において,

B-BBEEを推進する企業は優遇されることが多い.このため,南アフリカでビジ

ネスを行う企業にとって,B-BBEEの推進は大きなインセンティブとなってい る.SY社も例外ではない.2013年のSY社の評点は76点で,LEVEL 4と認証 された.2017年の訪問時はLevel 4との説明であった.要するに,現場作業長に カラードで女性を抜擢するのは,この工場の方針と戦略である.

表3 16 のルールとガイダンス

1 ラインバランスとスピードセッティング 2 目標達成を保障

3 職場ルールの順守 4 ムダ在庫を防ぐ 5 過少在庫を防ぐ 6 自働化Jidoka 7 平準化Heijunka 8 ムダの排除

9 欠勤管理

10 問題発生の原因究明 11 職場能力の強化

12 安全管理

13 教育訓練

14 報告する

15 同僚を尊重する

16 残業管理

出所工場訪問調査の際に聞き取った情報に基づいて作成。

参照

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