1. 問題の所在
日本の大学において簿記教育の在り方について問われ始めて久しい。経営学 系の学部の中には簿記教育を必修科目から外し、資格取得を含めた主体的な受 講する意思がある学生のみを対象にするところも増えてきていることも事実で ある。技術教育の側面を有する簿記教育であるが、会計情報としての財務諸表 のメッセージを解読するにおいては、その会計情報が作成されるプロセスがブ ラックボックスのままであっては、会計情報の受け手は定式化された固定的な 解読しかできず、問題点がわかってもどこから着手すべきかということを自ら 探すことはむずかしいという局面に遭遇することになる。
従来であれば資格取得ということを目標に技術取得過程における重要な要素 である反復練習を主体的に行う受講生の割合が多かった。しかしながら、近年 においては学生のライフスタイルの変化もあり、従来通りの「習うより慣れよ
(Practice makes perfect)」一辺倒では学生が受容できなくなりつつある現状に 対し、資格取得の準備を通じて反復練習を行うということは脇に退けるとすれ ば、その代わりにどのような手段を用いればよいかという問いに簿記教育に携 わる教員は直面することになる。ここに、本論文にて考察する問題の所在があ るのである。
本論文では、簿記教育のあるべきカリキュラム自身を検討するのではなく、
簿記教育の運営方法の検討を行う。簿記教育は技術習得的側面があるため、演
マークシート方式の小テストを導入した 簿記教育のケーススタディ
三 好 出
習を通じて理解した内容と記帳技術を含めた技術を結合させながら技術を身 に着けてゆく必要がある。課題を課しても課した時には行うが、そうでないと きには自ら進んで行うことがないならば、毎回課題を真摯に取り組ませるとい う要素を講義運営の中に組み込めば効果はあるだろう。「毎回」ということが 必要であり、隔週であったり、ランダムであったりした場合ならば、課題を課 したり課さなかったりする運営方法と何ら変わりはない。しかし毎回課題を課 しその場で取り組ませるとすれば、毎回担当教員は採点を行わなければならな い重労働を強いられることになる。教員の負担を少しでも減らすために、本論 文の対象としている方法はマークシート方式である。読み取りは
PC
とスキャ ナーが処理するため、アウトプットされた結果は表計算ソフトがあればいか様 にも加工が可能である。さらに、マークシート方式であれば教員の採点負担を 低減させるだけでなく、受講生にとっても何が要点であるかを明確に確認にす ることが可能であり、マークシート方式の課題を取り組む中で簿記教育におけ る課題である理解したことと技術を習得とを結合させるという演習が可能であ ると考える。当然従来の日商簿記検定3
級などの資格取得のための演習と比べ れば小規模な演習となるが、資格取得を通じた反復練習を念頭に置かないこと を前提としているため、そうした規模の大小は問題が生じることはない。では上記のモデルに基づき、実際に筆者が毎回マークシート方式の小テスト を講義に取り入れたケースを以下に分析することとする。
2. 講義内容
立正大学経営学部では簿記原理
1
と簿記原理2
を3
クラスで運営しており、1
クラスは既学習者対象、2クラスは初学習者対象としている。筆者が担当し ているクラスは初学習者対象であり、初学習者対象の一方のクラスの担当教員 との打ち合わせの上、進捗ならびに到達レベルを含めた内容を同一としている。まずは、学生に開示しているシラバスを提示することにする。
科目名
:
簿記原理1B(単位数 2.0)
簿記原理
2B(単位数 2.0)
(簿記原理
1B、簿記原理 2B
はそれぞれ90
分1
コマの講義であるが前 期連続講義)分野系列
:
専門科目<共通基礎科目(経営総合特論除く)>(当該科目は必修科目として位置づけられている)
授業の目的
:
本講義は、簿記の学習未経験者を対象としています。本講義は、商業簿記の 必要性やイロハについて学習します。また、日々の取引から財務諸表の作成ま でのいわゆる「簿記一巡」を柱にして、現金取引の他、各種の信用取引などの 簿記処理や会計理論の説明をし、決算整理仕訳について学習します。これらの 学習は、個人企業における簿記処理の知識を付与することを目的としています。
到達目標
:
学生が簿記の取引から財務諸表の作成までの簿記一巡について説明でき、仕 訳→元帳転記→試算表の記入や精算表の作成をすることができます。また、現 金取引の他、小切手の処理、掛け取引などの処理について説明でき、仕訳処理 することができます。
授業外学修・授業外学修時間
:
簿記は日々の学習の積み重ねが大切です。授業は常に前回の内容を踏まえて 行われるので、予習より各回の復習を十分にしてください。なお、上記に記し た授業以外の学修は計
60
時間以上を目安に行うこと。授業計画
:
【第
01
回】簿記の必要性・仕訳処理【第
02
回】5つの要素・仕訳処理①【第
03
回】5つの要素・仕訳処理②【第
04
回】仕訳から貸借対照表・損益計算書の作成【第
05
回】貸借対照表・損益計算書の作成【第
06
回】仕訳→元帳転記→試算表【第
07
回】仕訳→元帳転記→試算表→精算表および決算手続き【第
08
回】現金取引【第
09
回】当座取引【第
10
回】小口現金・その他預金【第
11
回】仕入帳・売上帳【第
12
回】商品有高帳【第
13
回】商品有高帳・決算整理仕訳【第
14
回】得意先元帳・仕入先元帳・貸倒処理【第
15
回】貸倒引当金の処理※なお、授業内容は進捗度によって変更することがあります。
成績評価の方法
:
授業への取り組み姿勢(20%)および期末試験(80%)で評価します。
教科書
:
『簿記原理-日商簿記
3
級(第2
版)』、城 冬彦、税務経理協会 (2012)次にシラバスに対応した当初に立案した教授案のなかで主要な部分を以下に 示すことにする。
第
01
回:オリエンテーション(簿記の必要性・仕訳処理)企業活動の内、「資金調達活動→資金運用(投資)活動→利益の稼得」に注 目させ、「調達→運用」状況を数値で示したものが貸借対照表であり、「利益の 稼得」状況を示したものが損益計算書であることを提示する。
貸借対照表は調達した項目については他人調達(負債)と自己調達(純資産)
とし、運用の項目については会社の財産(資産)として定義する。そのうえで、
自己調達としての純資産を増加させる要因を収益、その逆概念を費用として定 義づける。なお、借方、貸方の歴史的な意味を説明することなく、今までの活 動の中で右側(貸方)に調達状況、左側(借方)に運用状況を示すことが定着 したとの説明に留め、一定期間の資金の状況を運用状態と調達状態とから同時 並行的に記録・計算・伝達しようとするところに意味があることを強調する。
講義の展開を示すとすれば次の式(1)~式(4-1)の展開のごときである。
m
期における資金運用形態をX、資金調達形態を Y
とすれば式(1)
となる。式
(1) X
m= Y
m資金の運用形態を資産
A
とし、資金調達形態を他人調達と自己調達に分け、他人調達(負債)を
L、自己調達(純資産)を C
とし、Xm= A
m、Ym= L
m+ C
mを式
(1)
に代入すれば式(2)
となる。式
(2) A
m= L
m+ C
m期末時点で財産法的計算構造を導入して利潤計算を行う場合、追加元入れ資 産がないと仮定したうえで、元入れ資産を
Cp
mとし、元入れ資産と期末の純 資産C
mとを比較し、元入れ資産が増加分である当期純利益をΔ+g
m、元入れ資 産が減少分である当期純損失をΔ-g
mとすれば、Cm= Cp
m+ Δ
+g
mまたはC
m=
Cp
m+ Δ
+g
mを式(2)
に代入することになり、式(3)
と式(4)
が成立する。式
(3) A
m= L
m+ Cp
m+ Δ
+g
m式
(4) A
m= L
m+ Cp
m- Δ
-g
mさらに梯子形式ではなくここに勘定形式を適用すれば、同一勘定に記録され る正の要素と負の要素とはそれぞれ反対側に記録されることになるため、式
(4)
の負の数を移行して式(4-1)
が成立する。式
(4-1) A
m+ Δ
-g
m= L
m+ Cp
mしかしながら講義においては、数式アレルギーともいえる学生が多くなって いる近年において、数式の展開において説明することは講義運営に支障をきた すため、資本等式を展開することなく、図式化することによって上記式
(1)
~式
(4-1)
を理解させることに努める。まず、貸借対照表のフォーマットを紹介し、[図
1]
の空欄箇所に適切な用語 を記入させながら、式(1)
と式(2)
の内容を理解させる。[
図1]
引き続き次の例
(1)
~例(3)
を[
図2]
に適切な用語と数値を記入させながら 数式(3)
~数式(4)
の内容を理解させる。例
(1)
自己調達200
円を現金調達、他人調達100
円を現金調達、現金300
円 として運用例
(2)
現金300
円を商品300
円と交換し、商品300
円として運用 例(3)
商品300
円を350
円販売し代金を現金で回収[
図2]
ここで貸借対照表の利潤計算構造を確認させるために
[
図3]
に適切な数値 を記入させることにより、式(3)、式 (4-1)
の定着化を図る。そのうえで、[図
4]
を使ってどちらが黒字の貸借対照表であるか赤字の貸借 対照表かをイメージ的に整理させる。実際の事例として、[図
5]
を使って2003
年と2006
年の航空会社(ANAとJAL)の貸借対照表を開示し、貸借対照表が示すメッセージを読み取らせる。
[
図3]
[
図4]
[
図5]
総じて、あるルールに基づいて作成された貸借対照表はメッセージを伝えて いるということを理解させ、そうしたメッセージを作成するプロセスの学習を 通じて、そのメッセージを解読するための礎を習得するところに本講義の意義 があることを強調する。
第
02
回:5つの要素・仕訳処理①基本恒等式である「運用状況=調達状況」の復習し、その基本恒等式に元入 れ資産を増加させる要因を収益とし、逆に減少せる要因を費用と定義した上で、
資金移動の状態を追加することにより、生成される勘定記入の一般法則を理解 することが目的となる。講義の展開を示すとすれば次の式の展開のごときにな る。
式
(1)
から生成された式(2)
に、収益Cr
m、費用Ce
mの要素を追加するとすれば、式
(5)
が成立する式
(5) A
m= L
m+ Cp
m+ Cr
m- Ce
m(Crm
> Ce
mの場合、Δ+g
m)(Crm
< Ce
mの場合、Δ-g
m)次に資金の移動を式
(1)
に組み込むとすれば、基本恒等式であるため増加の恒等式である式
(6-1)
と減少の恒等式である式(6-2)
とが成立する。式
(6-1)
Δ+X
m= Δ
+Y
m 式(6-2)
Δ-X
m= Δ
-Y
m式
(6-2)
は減少要因であるため、式(6-1)
と式(6-2)
とを組み合わせると式(6-3)
が成立する。式
(6-3)
Δ+X
m- Δ
-X
m=
Δ+Y
m- Δ
-Y
m式
(2)
は式(1)
から生成された式であるため、式(6-3)
と同じ性質を有するこ とになり、式(7-1)
が成立する。式
(7-1)
Δ+A
m-
Δ-A
m= Δ
+L
m+ Δ
+C
m-(Δ
-L
m+ Δ
-C
m)元入れ資産
Cp
mに収益Cr
m、費用Ce
mの要素を追加し、それぞれの増減があ るため、m期の純資産の増減を整理すれば、式(7-2)が成立する。式
(7-2)
Δ+C
m- Δ
-C
m= Δ
+Cp
m- Δ
-Cp
m+ Δ
+Cr
m-
Δ-Cr
m- (
Δ+Ce
m- Δ
-Ce
m)
ここで式
(7-2)
を式(7-1)
に代入すると式(8-1)
が成立する。式
(8-1)
Δ+A
m- Δ
-A
m= Δ
+L
m- Δ
-L
m+ Δ
+Cp
m- Δ
-Cp
m+ Δ
+Cr
m- Δ
-Cr
m- (
Δ+Ce
m- Δ
-Ce
m)
勘定形式を適用すれば、同一勘定に記録される正の要素と負の要素とはそれ ぞれ反対側に記録されることになるため、式
(8-1)
の負の数を移行して式(8-2)
が成立する。式
(8-2)
Δ+A
m+ Δ
-L
m+ Δ
-Cp
m+ Δ
-Cr
m+ Δ
+Ce
m= Δ
-Ce
m+ Δ
+Cr
m+ Δ
+Cp
m+ Δ
+L
m+ Δ
-A
m式
(8-2)
に勘定形式たる借方と貸方の要素で線で結ぶとすれば[
図6]
の通り になる。[
図6]
ここで
[
図6]
を勘定記入の一般法則化すべく図式化すれば[
図7]
の通りに なる。[
図7]
式
(5)
~式(8-2)のごとき展開は、講義の運営に支障がきたすことが予想 されるため、最終的には[
図7]
に集約する形で、基本恒等式に天秤の均衡概 念を加える、イメージ的に説明することで、集約するものとする。天秤の均衡 概念とは、天秤の傾きが残高の大きさを示すものであり、傾きの大きさを明確 にするために、傾いていない逆側に均衡になるまで重りを加算すれば、その加 算した重りが加算する前の残高を示すという考え方である。例えば、第
1
回で示した貸借対照表の運用状態=調達状態に始まり、調達状 態を他人調達(負債)と自己調達(純資産)に分解する。純資産を増やす要素 が収益であるから、収益が発生ということは純資産の残高が減少する側に天秤は傾くことになり、純資産は貸方であることから、収益の発生は貸方に記載す ることになる。また純資産を減らす要素が費用であるから、費用が発生すると いうことは人資産の残高が減少する側に天秤は傾くことになり、純資産は貸方 であることから、残高が減少するということは傾きが小さくなるということで あり、傾きを小さくするためには逆側、つまり借方に加算する必要があるから、
費用の発生は借方に記載することになる。
本来ならば、すべての
5
要素の減少について説明することが必要であるが、勘定形式の場合、増加の逆は減少であるため、増加の記載すべき一般法則さえ 見出すことが出来れば、減少はその逆側に記載すればよいということは演繹的 に容易に理解できる内容である。したがって、いささかハウツーもの的になる ものの、5つの要素の増減の一般法則すべてを説明することなく、5つの要素 の増加の要素のみを理解させ、減少の要素は演繹的に増加の場合とは逆側であ ると推定させることで理解させることが有益であろう。総じて、最終的に
[
図7]
に集約させることになり、さらには[
図8]
を理解させることが必要最小限 の勘定記入の一般法則ということに絞り込むことが可能となる。[
図8]
第
03
回:5つの要素・仕訳処理②第
2
回までの講義の中で勘定記入の一般法則にしたがって、企業の取引を科 目と金額に記号化するそのプロセスの演習を行う。簿記の初学習者にとってど の取引箇所を記号化すべきか暗中模索のところである。したがって、演習を行う前に、問題文に記号化すべき取引の箇所に下線を引かせ、その上に取引の
5
要素ならびに勘定科目をメモさせ、それぞれの要素が増加であるか減少である かを時間を与えて分析させる。正解を告げたのち、その5
要素の増減の分析か ら勘定記入の一般法則に従い、借方または貸方に記載するかを判断させる。第
04
回:仕訳から貸借対照表・損益計算書の作成企業の取引を科目と金額に記号化した日々の記録から
5
つの要素の集計たる 中間メッセージとしての各勘定記録を行った後、最終メッセージたる貸借対照 表、損益計算書を作成する演習を行う。ただし、各勘定記録は集計済みとして 演習を行う。ここで
[
図4]
で展開した式(4-1)
について確認を行い、貸借対照表において 天秤の均衡概念から当期純利益として記載するのは貸方、当期純損失として記 載するのは借方であるということを理解させる。また、損益計算書においても、天秤の均衡概念から当期純利益として記載するのは借方、当期純損失として記 載するのは貸方であることを理解させる。特に、記載するということは均衡に なるように加算しているのであり、それは残高の大きさと借方残高または貸方 残高であるかを明確にするための計算方法であることを明確にさせる。
さらに、会計期間という意味から、ストック計算たる財産法の考え方とフロー 計算たる損益法の考え方を紹介する。
第
05
回:貸借対照表・損益計算書の作成貸借対照表と損益計算書との利潤計算構造の演習を行い、財産法による利潤 計算結果と損益法による利潤計算結果が一致するところに注目させ、貸借対照 表と損益計算書との利潤計算結果が一致することを確認させる。さらに、演習 を通じて式
(5)
の意味を整理させる。第
06
回:仕訳→元帳転記→試算表仕訳帳と元帳の関係、並びに記帳方法について学習する。取引の網羅性を確 保するために仕訳帳においては日付順、中間メッセージとしての勘定記録の意 味を理解させるとともに、元帳において相手勘定を記載する、また元丁欄への 記載ならびに仕丁欄への記載は、仕訳帳と元帳との相互補完関係に基づくデー タの復元性を担保するための記帳方法であることを確認させる。元帳への複数 勘定記録の誤記入を確認するための意味と集約化することの利便性の意味を試 算表に見いだせさせる。
第
07
回:仕訳→元帳転記→試算表→精算表および決算手続き仕訳→元帳転記→試算表までの情報は完成している前提とし、勘定記入の一 般法則から作成された試算表の情報から、取引
5
要素に集約することにより利 益または損失の把握が可能となる精算表の役割を演習を通じて理解させる。総 じて、企業の取引から記号化し、中間メッセージとしての勘定記録、最終的な メッセージとしての貸借対照表と損益計算書の作成までの一連の手続きを一督 させることが可能となる。第
08
回:現金取引簿記上の現金の範囲ならびに現金過不足(暫定勘定)の処理について理解す る。現金の範囲となる他人振出しの小切手については当座取引にてまとめて演 習する。さらに、現金の実際有高と帳簿残高との不一致のために暫定勘定とし ての現金過不足勘定の意味と、不一致原因が判明したときの確定勘定への振替 処理について理解する。
振替処理については今回以降の箇所で多用する処理であるので簡単な例題か ら理解させることに努める。例えば
A
からB
に物を動かしたとき、Bでは増 加しA
では減少するという公理に注目させ、勘定記録においては天秤の均衡概念から、増加する
B
ではA
と同じ側に、減少するA
では残高を減少させる という意味から逆側に記載するということを、[図9]
を用いて理解させる。[
図9]
第
09
回:当座取引[
図10]
のように、空欄に適切な語句を記入させることにより、当座預金口 座開設から小切手取引についての一連の手続きについて理解させ、なぜ当店が 小切手を振出たら当座預金が減少するか、他店振出の小切手を受け取ったら現 金となるかを理解させる。さらに、他人振出の小切手を裏書した場合、かつて 振出した小切手を受取った場合などの応用についても考察させる[
図10]
当座借越処理(二勘定制)について短期の無担保借入であることを理解する。
さらに、当座預金出納帳における月末締切処理が振替処理であることを理解す る。
第
10
回:小口現金・その他預金小口現金の一連の手続きについて理解する。特に会計係は支給ならびに報告 を受けた時(補給したとき)に仕訳として処理し、用度係は支給(報告)なら びに支払を行ったときに小口現金出納帳に記録しその記録に基づいて会計係に 提示報告する点について強調する。
小口現金出納帳における週末締切の処理が振替処理であることを理解する。
第
11
回:仕入帳・売上帳代金の流れと商品の流れが同時に成立している一般商品売買(三分法)につ いて理解する。
返品(物品移動有り)、値引き(物品移動なし)手続きについて理解し、仕入(費 用)の返品・値引き、ならびに売上(収益)の返品・値引きは残高を減少させ ることによって該当金額を取り消す逆仕訳であることを理解する。
第
12
回:商品有高帳代金の流れと商品の流れが同時に成立している一般商品売買(三分法)につ いて理解する。
商品有高帳は商品残高を求めることが目的であること、ならびに払い出し原 価の方法(先入先出法、移動平均法)について理解する。
第
13
回:商品有高帳・決算整理仕訳8
桁精算表の計算構造について理解する。特に売上原価の算定方法について[
図11]
に基づいて理解し、その算定方法に基づいて振替処理により仕入勘定 にて売上原価を計算することを理解する。[
図11]
決算時においても現金過不足の原因が不明である場合には雑損勘定または雑 益勘定に振り替えるのであるが、振替先が雑損(費用)または雑益(収益)で あるかは、振替元である現金過不足勘定の残高が借方残高であるか貸方残高で あるかで判断できるようにする。
第
14
回:得意先元帳・仕入先元帳・貸倒処理補助簿(得意先元帳、仕入先元帳)を作成する意味を理解する。補助簿の月 末締めの処理が振替処理であることを理解する。
第
15
回:貸倒引当金の処理内部留保のとなる費用未支出項目の意味について理解する。貸倒引当金の調 整仕訳処理について理解する。
3. 講義のスタイル
講義は受講生に購入させているテキストならびに配布資料をすべて
ンダーラインを引かせたり、余白には図式化した要点を書きこませたりしてい る。
この方式の利点は、帳簿記入の方法を説明する際に、受講生がスクリーンを 見ながらどこに記入するかを教師の指示通りに演習できるという点である。多 目的教室において、総勘定元帳や精算表の枠を板書するだけで時間を要するだ けでなく、受講生自身の学習の流れを止めることがないという点が利点である。
黒板においては、重要な点のみを残しておき、スクリーンの画面が切り替わっ たとしても、重要な点を確認しながら確認できるということも有益である。一 方で、171名登録の大教室での講義展開は最後尾の学生にはスクリーンが見辛 いという点がある。
本方式によれば、指定したテキストがオリジナル参考書となり、復習する際 に有益なツールとなりうる点が注目すべき点である。一方で、余白箇所が少な い場合、復習として類似する演習問題数を増やしたい場合には補足資料を配布 しなければならないが、テキストに挟み込むだけでは抜け落ちてしまう場合が ある。
理解した内容と記帳方法などの技術の習得を結合させるために、講義で展開 内容を次の講義の冒頭で復習し、その箇所について毎回小テストを行う。小テ ストはマークシート方式で、理解するということに重きを置いている。簿記と いえば技術の習得について従来から言われていることであるが、その延長線上 にある結果としての資格取得とは切り離し、各論点を確実に理解することに主 眼を置くのであれば、出題された選択肢の中から適切なものを選び取ることが 出来れば十分であると考える。大学の単位認定が
100
点満点中60
点以上であ り、選択肢が4
択であれば1
選択肢の確率は25%
であり、確率的に選ぶだけで は到底認定基準には届かない。また、2択までに絞り込むことが出来たとして も50%
の確率であり、これも認定基準には届かない。理解をしているという評 価の基準を60%
とするならば、マークシート方式で行っていたとしても質が落ちるとは判断することはできない。検定試験の準備は理解の上に成り立つ受験 指導であり、それは資格支援の講義などの別の科目に委ねるところである。
マークシート方式の小テストは最終講義に解答なしで冊子にして受講生に配 布し、講義で展開した内容のポイント確認として役立つ点においても有益であ ろう。技術の習得には暗記することも重要項目の一つであるが、初学習者と してはまずは
4
択であるならば確実に2
択にまで絞り込むことが出来る能力を 育成し、さらに絞り込んだ2
択から1
択に確実に絞り込むことが出来る能力に まで高めることが出来れば、マークシート方式による小テストの演習によって 暗記するという習得要素はほぼ大半は達成されているといえよう。分野こそ異 なるが国家試験の一つである基本情報技術者試験の出題形式を鑑みるとマーク シート方式であるから暗記要素が排除されているとは考えにくい。そうした学 習ツールとして毎回実施した小テストを冊子として配布することは意味がある と考える。本講義ではチュータ実習として上級生の簿記の既学習者が初学習者を指導 するシステムと併用している。171名の登録者の講義において
3
名のチュータ 実習生の数は十分とはいえないものの、教師が説明しているときにおいても チュータ実習生が巡回し、受講生の躓きに対して迅速に対応しているのも大変 有益である。また、チュータ実習生から受講生の問題演習の進捗度についての 伝達も講義の進度修正のために大変有益である。出席情報については正確に収集できるよう学生
ID
カードから入出時間を読 み取ることにした。4. 小テストの出題形式
小テストの出題形式は単純な選択方式から空欄穴埋め方式にまで多岐にわた る。例をいくつか示すとすると、[図
12]
の通りである。[
図12]
5. マークシート方式小テスト導入の結果
14
回に渡って実施した小テストの結果と受講者の受講時間との関係を確認 すると[
図13]
の通りである。受講時間は13
回に渡って記録した入室時間か ら集計した結果である。この集計に結果は、遅刻者に対しては遅刻した時間分 受講時間が短くなり、公欠、病欠の場合にはその講義の時間は0
分として、90分×
2
コマ×13
回=2,340
分を最大値として横軸にプロットした結果である。小テストはすべて
100
点満点で採点し、全合計を1,400
点満点として縦軸にプ ロットとした結果である。なお、定期試験ならびに追試試験未受験者はプロッ トしていない。さらに、定期試験を受ける最低要件である受講時間の半分である
1,170
分と、理解している基準を単位認定基準の
60%
とし、小テストの60%
である840
点に それぞれ基準線をプロットしている。まず、全体の傾向として受講時間に比例して小テストの累積点数が上昇し ている傾向を読み取ることが出来る。次に、基準線に基づく象限ごとにみる と、第
1
象限(受講時間が1,170
分以上、小テストが840
点以上)が167
名中111
名(66.5%)、第2
象限(受講時間が1,170
分未満、小テストが840
点以 上)が167
名中0
名(0.0%)、第3
象限(受講時間が1,170
分未満、小テスト が840
点未満)が167
名中6
名(3.6%)、第4
象限(受講時間が1,170
分以上、小テストが
840
点未満)が167
名中50
名(29.9%)となっている。[
図13]
では次に、[図
13]
に定期試験の結果を重ね合わせることとにする。定期試 験は100
点満点であるために、小テストの累積を100
点満点に換算してプロッ トした図が[
図14]
である。凡例の小テスト100
は[
図13]
で示した小テスト の点数を100
点満点に換算した結果である。小-
第1
は[
図13]
において第1
象限に属していた受講生が定期試験でどの象限に移動しているかを示してい る。小-
第3
は[
図13]
において第3
象限に属していた受講生が定期試験でど の象限に移動しているかを示している。小-
第4
は[
図13]
において第4
象限 に属していた受講生が定期試験でどの象限に移動しているかを示している。[
図14]
ここで
[
図14]
に示した定期試験での移動をさらに明確するにするために、[図 13]
で示した象限ごとに定期試験の移動をプロットした図が[
図15]
である。なお矢印は移動のベクトルを示しており、矢印の先が移動先である。
[
図15]
第
1
象限に属していた受講生が第1
象限に留まった人数は111
人中103
名(92.8%)、第
1
象限に属していた受講生が第4
象限に移動した人数は111
人中8
名(7.2%)、第3
象限に属していた受講生が第2
象限に移動した人数は6
人 中2
名(33.3%)、第3
象限に属していた受講生が第3
象限に留まった人数は6
人中4
名(66.7%)、第4
象限に属していた受講生が第1
象限に移動した人 数は50
人中34
名(68.0%)、第4
象限に属していた受講生が第4
象限に留まっ た人数は50
人中16
名(32.0%)である。つまり第
1
象限(受講時間が50%以上、小テストが 60%以上)に属してい
る受講生が定期試験で理解しているレベルに到達した割合は92.8%、第 4
象限(受講時間が
50%以上、小テストが 60%未満)に属している受講生が定期試験
で理解しているレベルに到達した割合は68.0%、第 3
象限(受講時間が50%
未満、小テストが
60%未満)に属している受講生は定期試験で理解している
レベルに到達した割合は33.3%となり、小テストで理解しているレベルに達
している受講生は定期試験においてもほぼ同様の結果を、また小テストで理解 しているレベルに達していない受講生であっても、受講時間を確保していれば、定期試験前に準備を十分に行えば理解しているレベルに達する傾向があること がわかる。
定期試験においては、マークシート方式にて3題出題し、第
1
問仕訳10
題(4 択形式)、第2
問得意先元帳(逆進穴埋め形式)、第3
問精算表(順進穴埋め形 式)であった。第4
象限から第1
象限に移動した受講生の定期試験について注 目すると、素点の全体の平均点は100
点満点中82.7
点、第1
問の平均点は30
点満点中25.8
点(正答率85.9%)
、第2
問の平均点は30
点満点中29.3
点(正 答率97.6%)
、第3
問の平均点は40
点満点中27.6
点(正答率69.1%)であるこ
とを鑑みれば、全体的に網羅的に理解しているレベルに達していることがわか る。簿記原理1B、簿記原理 2B
の教材はテキストと配付資料ならびに小テスト であるため、最終講義から定期試験までの1
週間の間にそれらの教材を効果的に活用した推測される。
最後に大学で実施している授業評価アンケートの結果を確認しておこう。
アンケート回答数は履修登録者
171
名のうち104
名(60.8%)であった。当 該アンケート結果において本分析と関与するアンケート項目は次の通りであ る。Ⅰ
-Q2:授業にどの程度出席しましたか。
① 10%以下
② ほぼ
25%
③ ほぼ
50%
④ ほぼ
75%
⑤ ほぼ
100%
Ⅰ
-Q3:あなたの受講態度(遅刻状況・授業への集中度・死後の有無・予習復
習などの総合評価で)はどうでしたか。
① 非常に良い
② 悪い
③ 普通
④ 良い
⑤ 非常に良い
Ⅰ
-Q4:この科目の授業 1
回に対して、授業外学習(予習・復習)を何時間くらいしましたか。(連続授業は
1
時限あたりで換算してくださいあ。集中授業 の回答の必要はありません。① 全くしていない
② 30分未満
③ 30分~
1
時間未満④ 1時間~
1
時間30
分未満⑤ 1時間
30
分~2
時間未満⑥ 2時間~
3
時間未満⑦ 3時間~
4
時間未満⑧ 4時間以上
Ⅲ
-Q1:授業の内容を理解できましたか。
① 全く理解できなかった
② あまり理解できなかった
③ どちらともいえない
④ 少し理解できた
⑤ 大変よく理解できた
質問項目Ⅰ
-Q2、Ⅰ -Q3、Ⅰ -Q4、Ⅲ -Q1
における単純集計を行うと[
図16]
の通りである。[
図16]
I-Q2 人数 I-Q3 人数 I-Q4 人数 III-Q1 人数
1 1 1.0% 1 2 1.9% 1 24 23.1% 1 2 1.9%
2 1 1.0% 2 3 2.9% 2 34 32.7% 2 10 9.6%
3 6 5.8% 3 39 37.5% 3 31 29.8% 3 32 30.8%
4 20 19.2% 4 29 27.9% 4 7 6.7% 4 37 35.6%
5 75 72.1% 5 29 27.9% 5 5 4.8% 5 20 19.2%
NA 1 1.0% NA 2 1.9% 6 1 1.0% NA 3 2.9%
104 100.0% 104 100.0% 7 0 0.0% 104 100.0%
8 1 1.0%
NA 1 1.0%
104 100.0%
さらに、質問項目Ⅰ
-Q2
を独立変数として、質問項目Ⅰ-Q3、Ⅰ -Q4、Ⅲ -Q1
それぞれとクロス集計を行うと[
図17]
の通りである。[
図17]
Ⅰ
-Q2(3,4,5)×Ⅰ -Q3(3,4,5)は回答者の 92.8%
であり、本分析の第1
象 限と第4
象限の属する受講者の合計96.4%
とほぼおなじ受講生とみてよいであ ろう。さらにⅠ-Q2(3,4,5)×Ⅲ -Q1(3,4,5)は回答者の 82.7%
であり、本 分析の第1
象限に留まった受講生と第4
象限から第1
象限に移動した受講生のI-Q3
1 2 3 4 5 NA
1 1.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 1.0%
2 0.0% 0.0% 1.0% 0.0% 0.0% 0.0% 1.0%
3 0.0% 1.0% 3.8% 0.0% 1.0% 0.0% 5.8%
4 1.0% 1.0% 10.6% 3.8% 1.9% 1.0% 19.2%
5 0.0% 1.0% 22.1% 24.0% 25.0% 0.0% 72.1%
NA 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 1.0% 1.0%
1.9% 2.9% 37.5% 27.9% 27.9% 1.9% 100.0%
I-Q2
I-Q2 I-Q2
III-Q1
1 2 3 4 5 NA
1 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 1.0% 0.0% 1.0%
2 0.0% 0.0% 1.0% 0.0% 0.0% 0.0% 1.0%
3 0.0% 0.0% 1.9% 1.0% 2.9% 0.0% 5.8%
4 1.0% 1.9% 6.7% 3.8% 4.8% 1.0% 19.2%
5 1.0% 7.7% 21.2% 29.8% 10.6% 1.9% 72.1%
NA 0.0% 0.0% 0.0% 1.0% 0.0% 0.0% 1.0%
1.9% 9.6% 30.8% 35.6% 19.2% 2.9% 100.0%
I-Q4
1 2 3 4 5 6 7 8 NA
1 1.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 1.0%
2 0.0% 1.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 1.0%
3 0.0% 1.9% 2.9% 0.0% 0.0% 1.0% 0.0% 0.0% 0.0% 5.8%
4 6.7% 6.7% 2.9% 0.0% 2.9% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 19.2%
5 15.4% 23.1% 24.0% 6.7% 1.9% 0.0% 0.0% 1.0% 0.0% 72.1%
NA 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 1.0% 1.0%
23.1% 32.7% 29.8% 6.7% 4.8% 1.0% 0.0% 1.0% 1.0% 100.0%
合計
82.0%
とほぼ同じとみてよいであろう。つまり、受講生の受講態度に関す る自己評価と理解したという自己評価の関係は、小テストの結果と定期試験の 結果との関係に置き換えて読み替えることも可能ではなかろうか。一方アンケート結果から授業外学修時間が不足していることが明確になった ことは残念な結果である。シラバスや講義の初回においては「授業以外の学修 として計
60
時間以上を目安に行うこと」を開示している。単純に15
回で60
時間と換算すると、1時限あたり4
時間ということになる。Ⅰ-Q2(3,4,5)×
Ⅰ
-Q4(1,2,3)は回答者の 83.7%(授業外学修時間が 1
時間未満)であり、4分の
3
の時間が不足していることになる。しかしながら、最終的な結果である 定期試験の結果を鑑みた時に、その不足している時間を少なからず毎回の小テ ストによる復習が補強の一助の役を担っていると読み取ることも可能ではなか ろうか。6. 今後の課題
課題を与えることにより同様の効果を得るためには、簿記原理の場合には学 友の計算結果を複写することが出来ない課題としなければならず、そのために 受講者全員にすべて異なる問題を与える必要があるが、実行可能性が乏しい案 と判断をせざるを得ない。そこで短時間であっても毎回小テストを行い、会計 情報作成プロセスに向き合わせることでどこがポイントであるかを明確にでき るという点でマークシート方式であっても効果があるということが明らかと なった。それは第
1
象限に留まった受講生の割合から明らかである。また毎回 の小テストで理解したレベルに達していない受講生であっても、集中の確認に よって効果があることをある程度は読み取ることが出来る。しかしながら、第4
象限に属した受講生が、1週間の間にどのような準備をしたかは今回の分析 結果からは読み取ることはできない。次に第
1
象限に属している受講生が僅かであるがそのまま同一象限に留まっておらず、また第
4
象限に属している受講生全員が第1
象限に移動していない。こうした事象を少しでも回避するためには要点を確認する小テストの受験をさ らに真摯に向き合わせることが必要であり、定期試験と同じようなルールでの 着席にさせるなど緊張感を持たせた運営方法も一案であろう。また出席状況な らびに小テストの結果を開示していないが、個人情報を守る方法を講じて開示 することも一案といえよう。
更に、簿記原理単体で完結することなく、他の科目と連動することにより、
関連する内容と結びつけることが可能であり、「授業外学修・授業外学修時間」
に取り組ませることに繋がるであろう。点から線とするためには学部全体での カリキュラム策定に取り組まな変えればならず、すくに実施できる対策とはい えない。
最後に毎回小テストをしない簿記原理との結果の比較によってどちらの方策 がより効果的で合理的かを検討する余地も残っている。小テストを実施せずと も同じ効果があるのであれば、受講生にも教師にも負担が多い毎回の小テスト は過剰な部分と言わざるを得ず、小テストを含めた復習に要する時間を
30
分 とすれば、前期15
回の講義で30
分×15
回=450
分を削ることにより、講義 時間にゆとりが生じることになる。【参考文献】
『大学教育と会計教育』
藤永 博 他著、2004年、創成社
『複式簿記の原理』
森藤 一男 著、1985年、中央経済社
『現代企業会計通論』(三訂版)
森藤 一男 著、2000年、中央経済社
『会計教育方法論』
柴 健次 他著、2007年、関西大学出版部
『簿記会計教育論」(第2版)
脇山 昇 著、2009年、中央経済社