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博士論文要約重度障がいのある乳幼児を訪問する看護師の実践の様相:
自宅で生活を始めてからの1年間に焦点をあてて
Home Visit Nursing Practice for Infants with Severe Motor and Intellectual Disabilities:
Focusing on the First Year since They Started Living at Home
鈴木 健太Suzuki, Kenta
Ⅰ.序論
昨今の医療の進歩により周産期の子どもの救命率が向上し、それに呼応するように重度 障がい児の数が年々増加している。ノーマライゼーションの思想の普及に伴う重度障がい 児の
QOL
向上にむけた動きや、重度障がい児がNICU
に長期入院することによってNICU
のベッド数が不足している問題を背景に、重度障がい児への退院支援が推進されている。退院した重度障がいのある乳幼児は、基礎疾患や合併症により健常児以上に健康管理に 留意が必要であり、また親は医療的ケアや高度な病態の判断に強い身体的・精神的負担を 抱え、新たな生活に慣れるまでに
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年前後の時間を要することが報告されている。この状 況を受けて訪問看護を利用する重度障がい児の数が増加している中 、約6
割の事業所は訪 問依頼を断った経験を有しており、その理由には複雑な病態の子どもの特徴を短期間で把 握することや、生活に悩み疲弊している親へ療育方法を指導することへの難しさが挙げら れている。一方で上記のような困難感を抱きながらも重度障がいのある乳幼児の自宅へ訪 問を続ける看護師たちが存在しているものの、既存の研究では退院後1
年間を通しての訪 問看護師の実践に焦点を当てたものは見当たらず、彼らがどのような実践を行っているの かを記述することが、今後の小児訪問看護の普及のために急務であると考え た。Ⅱ.目的
自宅で生活を始めてからの1年間において行われる、重度障がいのある乳幼児の自宅を 訪問する看護師の実践の様相を明らかにする。
Ⅲ.方法
研究デザインには質的記述的研究を選択した。データ収集はフィールドワークを用い、
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-2回/月の継続的な訪問場面の参与観察、看護師と親へのインタビュー、カルテからの情 報収集を行った。参与観察は各看護師に
7-10
回(合計35
回)、半構成的インタビューは 各看護師に2
回ずつ(平均75
分/回)行った。データ分析はEmerson, Fretz,& Shaw
(1995/1998)が記すフィールドノーツの分析方法を参考に、子どもが退院してからの時間の経過や、看 護師の実践に関するデータのパターンおよびバリエーションに着目しながら進めていった。
本研究は日本赤十字看護大学の研究倫理審査委員会の承認を受けた後(予備調査
2016-96,
本調査
2017-077)、研究協力施設での許可を得た上で研究活動を開始した。特に子どもの
研究参加については代諾者の選定と十分な情報提供に配慮した。
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Ⅳ.結果
A.研究参加者の概要
研究参加者は小児訪問看護を専門に行う事業所に
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年以上所属する看護師4
名と、その 看護師が担当する退院後1
年以内の家族4
組であった。子どもたちは複数の医療的ケアが 必要な状態で、生後3
ヵ月から11
ヵ月までに自宅へ退院していた。B.自宅で生活を始めた家族の状況
退院直後の親たちは退院に至るまでの数ヵ月におよぶ入院生活によって、子どもを一番 理解しているのは入院施設の医療者であり、医療者に指導された通りにケアを行うしかな いと考えざるを得ず、医療者によって育児が導かれるような状況に置かれていた。また子 どもは退院後に環境の変化や成長・発達によって新たな病態や行動を見せ始め、親は子ど もに適したケアを迷いながら試行錯誤し続ける日々をおくっており、この
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年間は家族に とって自宅という新たな環境で共に生活することに必死に適応していく期間でもあった。このような状況にある退院後の家族に対して、看護師たちは以下の実践を行っていた。
C.家族主体の生活に向けた4つの実践 1.その子の特徴と必要なケアを把握する
看護師は乳幼児の特徴や重度障がい児の特徴では説明できない「その子の特徴」を探し 出すために、子どもに遊びやリハビリを兼ねた様々な刺激を与えると、子どものちょっと した反応や僅かな変化から特徴に関する情報を拾い集めていた。またその特徴から子ども の今後の変化を推測すると、これから必要となるケアを思案していた。次に看護師は親か ら看護師の知らない普段の子どもの情報を引き出すことと、看護師の集めた情報を親の情 報と照らし合わせることを通して、その子の特徴と必要なケアへの理解を深めていった。
2.試行錯誤する親を支える
看護師は親が主体となって育児することを意識しながら、ケアを試行錯誤する親を後ろ から支えていた。看護師は相談される内容から親のアセスメントを確かめると、普段の会 話の中で看護師のアセスメントをさりげなく発信することで、看護師のアセスメントの視 点を徐々に伝えていった。そして看護師は試行錯誤した末の親の判断を確認すると、その 判断が正しい場合は明確な承認によって親の自信を積み重ね、親にケアの必要性を理解し てほしい場面ではケアの選択肢を伝えてから見守り続けることで親自身の決断を待ち、親 の判断が看護師にとって気になるものであれば子どものその後の経過をフォローすること で親がケアを判断する機会自体を守ろうとしていた。看護師はこのような親の判断へのフ ィードバックを通して、親自身がケアを判断することを後押ししていた。
3.機を見て踏み込む
看護師は「退くところと、今っていうところはあって」と話すように、ケアを試行錯誤 する親へ支持的にかかわる一方で、時に家族の状況に応じて看護師から積極的にかかわ っ ていた。例えば看護師は現行のケアによる子どもの身体的な負担や親の疲労度を見極める
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と、「まずは(家族が)転ばないようにする」ことを意識して、子どもの呼吸状態を落ち着 かせるケアを直接行ったり、親の休息を確保するために睡眠導入剤の使用を提案したりす ることで、初めての自宅での生活が継続できる状況を整えていた。また子どもの僅かな変 化から成長のチャンスと必要になるケアを見出すと、「今は伸びていく時期なので、やって あげたいし見過ごせない」と話す看護師は、たとえ親がそのケアの必要性を理解していな くても、看護師が新たなケアを行い続けて子どもの反応を引き出すことで親に新たなケア を促したり、ケアの内容を調整して子どもが成長・発達しやすい状況を整えたりすること で、子どもの成長・発達のチャンスを逃さないようにしていた。
4.家族に活用される役割を担う
訪問を重ねてその子なりの成長・発達や親のケアの習熟が見受けられるようになると、
看護師は「看護師を上手く活用したりして、何をお手伝いしてもらうかも判断したりする ことが大切」と語り、自身を家族に活用してもらうようにかかわり方を変えていった。看 護師は子どもの状態と親のケアの習熟具合から生活の安定を捉えると、親に子どもの状態 やケアの有無の判断を促し、親から依頼されたケアを 実施することに努めるようになった。
D.家族の状況と共に変化し移り変わっていく実践
この
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年間において看護師の実践は、その子の特徴と必要なケアを把握することから始 まり、試行錯誤する親を支え、機を見て踏み込みながら、やがて家族に活用される役割を 担うかかわりに移り変わっていった。しかしこの実践の移り変わりは時間の経過によって 一方向に進んでいくものではなかった。看護師の実践は、少しずつ安定していく家族の状 況と共に看護師が実践の変化を繰り返すことによって、試行錯誤する親を支える場面の多 い訪問や機を見て踏み込む場面の多い訪問を経ながら、少しずつ家族に活用される場面の 多い訪問が増えていくこと で徐々に移り変わっていった。 そしてこの実践の変化とは、1
度の訪問の中でケア毎にかかわり方が切り換わったり、状況に応じて同じ言動に異なる実 践の意味が帯びたり、子どもの状態が変わる度にかかわり方を変更したりすることで生じ ていた。このような実践の変化の末に、看護師が家族に活用されるようにかかわる場面が 増えていくにつれて、家族はその子なりの成長・発達を遂げ、医療者に導かれた 育児では なく親自身の判断によって育児を行う、家族主体の生活を形作っていった。Ⅴ.考察
A.家族主体の生活に向けた実践の意味
親は我が子との生活の中で不安定な子どもの病態や夜中まで続くケアに翻弄され、目の 前のケアを
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つずつこなすことに必死であった。特に退院直後は子どもの命を守ることに 追われて子どもの成長・発達にまで目を向けられず、育児の感覚を抱く余裕のない健常児 の育児とはかけ離れた生活をおくっていた。この状況の中で親は医療的ケアなどの試行錯 誤を通して子どもにとって適切なケアに習熟し、そのケアを親自身の考えに沿って実施で きるようになることで我が子を育児する手応えを徐々に掴んでいた。この過程において看4
護師はケアを試行錯誤する親を支えることによって、障がいがあるために医学的なかかわ りが優先される中でも、親が育児の手応えを感じながら生活することに貢献していた。
初めて家族が揃って生活を始めるこの 1 年は、新たな家族の形を築く時期でもあった。
しかし子どもは障がいによって親にしがみついたり、吸啜したりといった愛着行動を起こ し難く、親もまたケアに終始して休む間もない生活の中で、健常児とは異なった成長を見 せる子どもの愛着行動に気づき難い状況にあり、親子間の愛着形成は難渋していた。この 点において親に子どもの成長・発達を気づかせ、子どもが成長・発達しやすい状況を作り 出す看護師の実践からは、愛着形成を促して親子間の絆を深めるはたらきが示唆された。
また家族はこの
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年間の中で子どもの体調悪化や親の疲弊などによって様々な問題に直面 しており、ケアを試行錯誤する親を支え、家族の状況に合わせて機を見て踏み込む看護師 の実践は、直面する問題を乗り越えることで家族の結束が強まることに寄与していた。看護師の実践は家族との相互作用から生まれていた。看護師は絶えず変化する家族のニ ーズを子どもの成長や親の疲労度などから推測し続けることで、常に適切な実践を行うこ とを可能にしていた。また結果からは「やるしかない」と無意識のうちに何かに突き動か されながら行われる実践が度々見受けられた。こうした実践は看護師が毎週のように子ど もから愛着行動を受け続けることで療育行動を促される感覚を持ち始め、その感覚が子ど もの発する微かなサインを親が見逃している場面に遭遇して「勿体ない」「(ケアを) や ってあげたいし見過ごせない」と更に掻き立てられることで生じていると考えられた。こ のことから本研究における実践とは、単なる看護師と家族の相互作用ではなく、看護師が 子どもの存在によって親と同じように療育行動を促されながらも、その感覚を親に向けた 実践を通して間接的に子どもを支援することで家族主体の生活に繋げるという、看護師、
子ども、親による特徴的な三者関係によって成り立っていることが示唆された。
B.家族を取り巻く実情と支援体制の課題
本研究での家族の生活は一見順調に滑り出したかのように映るものの、親の疲労や虐待 によって自宅での生活が断念される事例も報告されており、家族主体の生活以前に生活を 継続することの危うさがうかがえた。また医療的ケアの存在によって各サービスの利用が 制限されてしまう現状に対して、看護師には退院後の生活を支える福祉への貢献が期待さ れると共に、専門的な実践が可能な事業所が各地域の先頭に立って家族を支援できる訪問 看護体制を整備することで、小児訪問看護の普及および質の向上に寄与すると考えられた。
Ⅵ.結論
本研究の実践から、訪問の度に子どもの僅かな反応の変化を拾い集めるかかわりを繰り 返すこと、親がケアの試行錯誤の末に自ら判断する機会自体を守ること、時に踏み込んだ かかわりを駆使することの必要性が示唆された。また看護師がこの時期の実践が絶えず変 化を繰り返すものである認識を持ち、刻々と変化する家族のニーズを推測しながら適切な 実践を行い続けることで、家族が家族主体の生活を形作ることに貢献 できると考えられた。