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中世英詩「梟とナイティンゲール」(II) 関本栄一(訳註)
(31.10.1)
543.ナイティンゲールは,これに答えて次のように喋べりだしました.
「いやはや,とんでもないですよ!お前さんは,もう一つの私の抗弁を 御拝聴すべきですよ.まだまだわれわれの場合(事件)は,判決を下すに 時期尚早の感だよ.黙って,私の云うことをお聞きなさい.私は,ただ, 事実を申述べて,お前さんの自信満々の主張を打ち負かしますよ.
549.鼻は,これを聞いて云い出しました.
「そんなことは,恐らく正しい筋道ぢやないよ.お前は,御自分が求むる がままに,私を告発(批難)したではないか.だからこそ,私はお答え 申上げたんだ.だが,我々が,お互いに判決を仰ぎに赴く前に,私もお前
昭PS3
同様,お前が私に対して抗弁したように, ‑一言申上げたいね.私の云い分 に対して,できるなら答弁なさるがいいよ.
556.おい!あわれな奴よなツ!お前は.お前は例のキンキンする(鋭 い)咽喉(声)をもってる外には,一体何のお役にたってるのか云ってご ちんよ.お前は小賢しくも片言を云うけれど,その他の何の役にもたって ないね.何故ッて,お前の体つきは小さく弱々しく,召していらっしゃる 衣も長くはないね.一体,お前は,人間様の間にあって,どんなお役にた
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っているんかね.やってることといったら,あわれな臨璃1).がやってるこ とと同じぢやないか!人間様は,お前が恰も気でもふれたかのように叫ん でる声以外,お前から何等の御利益を受けてないんだよ.そして,お前は, おのれの歌声(鋭い叫び声)を使い果・してしまうと,もはや,お前には何 の才もないんだよ. (何の取柄もないんだよ.)
569.アルフレッド大王棟は,その賢いお言葉のなかで,こう申されて るよ. ‑勿論,大王様の御言葉たるや,至言で全く道理に徹しています がね.1‑
『何人であれ,稚拙な歌などは長いこと珍重せず.』2)とね.
574.何故ッて,歌う以外に,何にも為し得ぬものは,価値がないから だ.だから,お前は極く下らん代物さ.つまり,お前にはペチャペチャ鳴
む
る以外,何の取柄もないからさ.お前の体には艶がなく,色は薄黒くて唯 かつくようで,私にや,小さな媒ぼけた糸玉のように思えるよ.凄々しく なく,肥えてもいないし,丈も高くないね.
581.つまりお前には美的素質が全く欠けておるので,これといって素 晴らしさは殆どないのさ,私や,お前を他のことでもせめるよ.お前は,
Ei:巳mtサ.
人間様の囲込‑そこでは生垣とかこんもりした森が近くにあって,山査 子ともろもろの小枝が繁茂しているんだが‑に飛んでくる時は,何時も 美しくもないし清楚でもない.人間様は,仕事をするためにそこにやって
くるが,お前はそこに飛んでいって住みついてしまい,他の清々しい場所 を避けてしまうのだ.
591.私が夜毎,鼠をもとめて飛んでる時,お前は人眼につかぬ場所に
hらく苔
いなさるんだ.森の中とか,葦鹿の中で,隠れて歌ってなさるんだ.人間 棟がお尻を突き出すような場所で,誰かにみられてるんだよ.それなのに, お前は私の食物のことで私をせめたて,私のことを如何物(悪食)家だ とお云いだね.ところでそういうお前こそ‑嘘を云っちやいけないぜ!
蜘昧とか飛んでる小さな虫とか,みみずの他に何を食ってるのかね. ‑ お前がもしこういう食物を樹の割目に見付けようものなら.ところがだ, 私やもっとまっとうな仕事を(人間様に)果してやれるのさ.つまり,臥
や人間様のお住居を油断なく見張ってさしあげれるんだよ.また,私の仕
中世英詩「臭とナイティンゲ‑ル」 (II)
5E
事ときたら,まことに御立派なものさ.何故ッて!人間様のおあがりなさ る食物に手助けしてあげてるからね.私や,納屋にいる鼠を捕え,暗くな っては教会の鼠をも捕えるのさ.何故だッて!私や,教会(神のお住い)
か
を心から愛しているので,私にとって,教会から彼のいまいましい鼠を根 絶やしにすることは大切な仕事なんだよ.もし私が,いかほど極悪な奴で も捕えることができるなら,そ奴を教会には金輪際立入らせませんよ.私 か愉快な歌を歌っている時,他の棲家を断られても,私にや,森の中にあ る年中,葉が繁り,緑したたるきづた‑たとい雪が降ったり,霜が降り たりしても‑におおわれた大木があるんだよ.しかも,そこに,私や素 晴らしい砦をもってるんだよ.冬は暖かく,夏は掠しいのさ.私の棲家は 艶やかな緑色になると,お前の巣からは少しも覗き見できないんだ.それ なのに,お前は見当違いのことを云って私を非難しているね. ‑私のひ なの巣は少しも清潔ではないというような嘘を吐いてね.
629.だが,そんなこと(汚らわしいという欠点)は,他の多くの動物 も御同様だよ.馬小屋にいる馬とか,牛小屋にいる牛は,ともどもそこで 彼奴等にとってふさわしいことをしてるんだよ.そして,ゆりかごのなか の幼児は‑勿論,生れの卑しきも,尊きも問わず‑彼等が大人になっ たら,当然やめるようなことを幼年期にはしてるぢやないか.実際,幼児 がそういうことを防ぎえようかね. (そうしないようにできるかね.)たと い,そのような不始末な行為が行われてても,それや必要に余儀なくされ てるんだよ.だからこそ,遠い昔から,人口に牌泉している諺‑『必要 とあらば,おしゃべり婆も小走りする.』3)‑があるんだよ.
639.さて,私にや,他にも申開き(答弁)することがある.お前には, 私の喝にやってきて,その構造や如何にとみる気持がおありかね.もしも, お前が賢ければ,学びとることができるんだがね.私の巣は,ちょうど私
の子供達にとって非常に居心地のよいように,中程はうつろで広々として おり,内側から外側にむけて四方八方に編まれておるんですよ,子供達は, 必要に応じて,そこにやってくるんだが,お前が(子供達に)ぶつぶつ小 言を云ったようなことはやらせないんだよ.私達の仲間は,人間様の住居 について充分なる注意を払い,従って,私達の棲家もその方法に則って造 られるんだ.人間棟の住居に数ある工夫のなかでは,とりわけ納屋の隅に 後架(人眼につかぬ場所)があることなんだよ.というのは,滅多にそこ にはゆかないからだよ.私の子供達もそうだがね.まあ!静かにしろ!こ のおしべり奴ツ!さあ,干支を収めろ!4)お前は飛去った方がよかろう!
お前は今まで苦境にたったことがないから,私が云ったことに対して決し て答弁できないだろうよ.」
659.ナイティンゲールは,この言葉を聞いて,殆ど何と云ってよいや ら途方にくれてしまい,熱心に歌うことの他に何か自分の助けとなる(役 立つ)ものはないかと考えました.轟の抗弁に対して答弁することは必要 でありました.さもなければ,この論争から,希望も空しく退かねばなら ぬだろう.実際,道理(真理)と正義(筋道の通った理くつ)と斗うとい うことは難しいことです.心が千々に乱れている場合には,人間は悪知恵 を弄さねばならなくなる.このような人は,猶かぶりをするに違いない.
つまり,もしも心の内が人々に暴露しないようにかくしおおされるならば, 相手に咳払いをして(八方美人主義者になって)もっともらしい言い訳を
せねばならないんです.
675.そして,人が口に出して云うことと,心に考えていることとが異 なっている場合には,すぐと一言々々が横道に外れてしまうものです.つ まり,講先と心とが相反目していれば,抗弁(言い訳)も横道に外れてし まうものです.しかし,そうはいっても,そういう時こそ,人間の口舌の
中世芙詩「臭とナイティンゲ‑ル」 (II)
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手助けとなるものがございます. ‑それこそウイット(機智)なのです が‑.人間は,どうしてよいか迷っている時ほど,心が鋭くなっている ことはないからです.そこで,人の心が非常な危機に直面している時こそ, 先づ始めに,機智がでてくるのです.アルフレッド大王は,その昔,金言 を云われました. ‑この金言は未だに人々の心の奥底に記憶されており ますが‑
『災難(不運),もっともはげしき時,救いの手はもっとも手近にあり.盟) と.
と申しますのは,機智というものは,困厄の時にこそ心の中に生長し,し かもその困厄のために却って大きくなるからです.
691.それ故,人にして心に知恵を欠いてないならば,決して思慮分別 を失っているのではないのです.しかしながら,人にして一度知慧をを失 ったら,その時こそ,その人の物事に対する思慮分別の一杯つまっている 宝庫がきりとられてしまったといっても過言ではないのです.もし知恵を もちあわせないならば,彼の宝庫のどこにも思慮分別を見出すことはでき ないでしよう.というのは,アルフレッド大王は,彼の金言のなかで申さ れている. ‑彼は常に正しい口調で云っておられるが‑
× × × × × ×6)
701.ナイティンゲールは,細心の注意と知慧を用いて,困難なつらい 立場に対処して,充分な深慮をもって考えこんだのです.その結果,彼女 の陥ったひどい困難な立場の中で,まことに時宜をえた申し開きを兄いだ
しました.
707.そこで,ナイティンゲールは云い出しました. 「臭めッ!お前さ んは.私にむかって,私が幸福をあまねく人間様の間にひろめながら,夏 の季節にのみ歌うほかは,何もできないぢやないかとお尋ねだね.何故,
私のたしなみについてお開きにならないんですか.私が身につけているも のは,すべてお前さんのより上等なんだよ.私が歌う歌一つだって,お前
さんの仲間が知ってなさるのよりずうっと素晴らしいんだよ.まあまあ, だまってお開きなさい!その理由を話すから.
一体,人間様は何のために此の世に生れてきたかを,お前さん御存知か ね.天国を祝福するために生れてきたんだよ, ‑天国には永遠に変るこ となき歌(神を讃美する歌)と喜悦とが存在してるのですよ.それ故,喜 びを少しでも知っているものは天国を求めてやまなのだよ.
721.それ故,世俗の人間は聖なる教会で歌い,聖職(学のある人達) にある人達は聖歌をおつくりになります.そのような聖歌によって,人々 が何処にゆ'くべきか,そして何処にとどまるべきかを考えさせるのです.
つまり.その歌は,人間が,天国の至福をいだいても,さらにその至福を 忘れないで,その喜びを充分考えさせ,教会の教え(声)にも意を払わせ, 天国の喜びが如何に光輝なものかを考えさせるのです.学僧も,隠者(修 道士)ち,僧正も,神の会堂のあるところでは,真夜中に起き出でて,秤 の栄光を諾える歌を詠唱するんです.
735.そして一方̲国中至る処におる教区の牧師さんは,陽の光がさし 昇ると詠唱するんですよ,私は,その間,歌える限り歌って,彼等に御助 力申上げるのです,つまり,私は彼等と共に,夜も昼も歌いますので,彼 等は私をみると一段と楽しくなり,一段と早く歌を詠唱したくなるのです.
また,私は,たえず人々のために,彼等の心が幸福になるようにと御注意 し,同時に,人々が常に永遠に変らざる歌を心に抱けるよう御祈り申上げ てるんですよ.
743.さて,汝,臭めッ!お前さんは止木にとまって引込んでいなさい!
このことについてペチャペチャロをさしはさむことはあるまい.私や,我
中世英詩「桑とナイティンゲ‑ル」 (II)
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々が,彼の至聖なるローマ法王様の御前で聖断を下していただきにゆくの に喜んで同意しますよ.お前さんに,また別のことを聞かせてやろうよ.
全イングランドを救うためにも,決して私やお前さんにやつけられないよ.
何故,お前さんは,私の弓乱魚に非難の言葉を浴せる′のかね.私の体は丈も 大きくなく,同時に,体つきも小柄だから非力なんだとほざきましたね.
お前は,自分がロにしたことの意味も分らずに,ただ根も葉もないたわ言 を吐いたに過ぎないんだよ.私や完全に洗れんされており,数多の能力を 身につけているからこそ,このように大胆なんですよ.
758.私や,ウイット(機智)の用い方にも,数多の歌う技術にも熟練 しておりますので,力には頼らないのですよ.だから,アルフレッド大王 様が,次のように云われたのは,誠に至言であります.
『力のみでは,知慧に対抗すること能わず.』7'と.実際,屡々,ほんの 少しの老練さによって成功し,大いなる力によって失敗に終るというよう なことがありますね.老練さ(或いは策略)によって少しも力がなくても, 城郭や都邑を人間はかちとることができるんです.また,老練さによって 城塁はぬかれ,勇敢な騎士達も鞍から拙り出されるんですよ.ろくでもな い力なんて一文の債打もないんですが, ××××××××××8'知禁に匹 敬するものはないんです.
773.例えば,馬は人間よりも力が強いが,何等知慧をもっていないな らば,馬はその背に大きな荷物を乗せて一団の馬の先頭にたつことは出き ないで,杖とか拍車の痛手を蒙むり,水車小屋の入口にしっかりいわえつ けられて立たせられ,命令されることに唯々諾若々と従うのですよ9).これ というのも馬が知憲を欠いているからで,力があるにもかかわらず,小さ な子供に対しても恭順の意を表さなくてはならないんです.
783.人間は,単的に云うなら,力と知憲とをもって,彼に対抗しうる
何ものもないように防禦するのです.だからあらゆるものの力が一つにな っ∴たところで,人間の知慧はそれよりも一層強力なのです.何故なら,知 愚をもてる人間は,地上のすべての生物の支配者となるからです10)私も
同様で,お前さんが一年中歌い続けるよりも,一つの歌でよいことができ る・のです・私は,私の老練さのために人々に愛せられ,お前さんは,お前 さんの倣慢さ(あつかましさ)によって人々に嫌われるんだよ.お前さん は,私がただ一つの能力しか持ってないからとて,尚更患いのだとお考え でしたね.もし,二人の男が格斗をし11)お互いに激しくたたきつけ,一 人は何回も強打を相手にくらわし,相手はただ一発の強打しかもってない が,しかもおのれの沢山の奇襲戦法(読計)を秘密にしておき,その強打 たるやどんな敵に対しても有効打であり,しかも一寸の間互いに打ち合っ てから,その一発で敵を打ち倒したとすれば,このように一発が彼にとっ て有効打である場合には,一体,更に強打(或いは読計,奇襲打)を考え る必要があろうか.
お前さんは,多くの手練手管を駆使できるとおっしゃってるが,その点, 私や,お前さんとは違うのですよ.
807.お前さんの手練手管を‑まとめにしても,私の知意だけの方がず っと勝っているんだよ.猟犬共が数多の狐を追い廻している時,猪はたっ た一つの読計しか知りませんが12)自分独りでじっとしているんですよ.
なるほど,狐は非常に沢山の策略を知っていますが,獲犬一匹からも巧み に逃れるような素晴らしい策略を知りません.何故ッて,狐は,真直ぐな 道と曲りくねった道とは知っていますよ.また,樹の枝に隠れてぶらさが ることも知っていますので13)t猟犬共は途を失い,荒野にと戻っていきま すんですよ.その他,生垣の近くに,身を潜め,最初の道筋を外らしてか ら再び間髪をいれずに,もときた遣えと戻ってゆきます.そうすると,猟
中世英詩「臭とナイティンゲ‑ル」 (II)
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犬の臭覚なんか効力がなくなってしまい,彼,猟犬にしてみれば,種々な る香がいりまじっているために,進むべきか,戻るべきかとんと分らない んですよ.
825.もし,狐にしてこのような手練手管を忘れると,彼は最後には穴 倉の中にもぐりこんでしまうんですよ.しかしですよ!彼は,なるほど自 分の策略を弄するに機敏で賢こくはありましょうが,自分の赤い衣(毛皮) を失わないようにと心に深く銘記してはいないんですよ.
一方,猪は,ただ一つの手練手管しか知りませんが, ‑つまり,小池 に逃げるか,沼地に逃げるか‑逃げる場合には,素晴らしくはい上るの が巧妙なんです.しかも,はい上ることによって,立派に自分のグレイの 毛皮(衣)を守ってゆくんですよ.ところで.私にも同じようなことがい えるんですよ.つまり,私の一つの機智の方が,お前さんの用いる‑ダー スもの手練手管よりずうっとましだということを」.
837.これを聞いて,泉は次のように云い始めました. 「待った!待っ た!お前はまるで云ってることが真実であるかのように,つくろってもっ ともらしく述べたてていなさる.お前の言葉は,全く口先がお上手で,ち っともらしく賢こそうなもんだから,聞いてるものはみんな,お前が本当 のことを云ってるとお思いだよ.
まあ,待った!待った!俺様にも反駁させろ!さあ,今こそ,お前の嘘 八百が暴露すりや,お前が大仰に嘘をならべたてたことがはっきりするん Kta
849.例えばだね.お前は自分が人間様のために歌い,この現世という 地上から永遠の国(天国)‑そこでは永遠に詠唱がつづくが‑えの旅 路をも人間様にお教え申上げてるといってるが,お前が公然とこういう嘘 を吐くとは,もっとも驚くべきことだよ.お前はただ歌っているだけで,
人間様を神の御国えといともたやすくお連れ申上げるとお思いかね.いや!
とんでもない!天国にゆきつくまでは,おのれのおかした罪悪に対して神 の御恵みを求めるべく,長いこと改悟の涙を流さねばならないということ を彼等に覚らしむるべきだよ.
860.そこで,わしの(人間棟に対する)御忠告は,天なる神を思い求 めている輩は,歌うよりも,むしろ涙を流しておった方が手近なんだとい うことだ.何故ッて!罪悪をわが身に背負ってないものは一人だっており やしないからね.それ故,人間は,この現世を去る前に(この世に生きて る限り),改悟の涙を流さねばならんのさ.つまり,心の楽しみを味う前に は痛ましい気持を味わねばならんようにさ.
867.私や,こういう点で人間様をお助け申上げてるんだよ! ‑神様 ち(このことを)お見通しなんだッ! ‑私や,決して人間様にむかって 馬鹿げたことを歌ってやってるんではないんだよ.何故ッて!私にとって, 歌はすべて人間棟が御銘々おのれの罪業をお考えなさるようにと,神様え の思慕と改悟の気持が含まれてるんだよ.そこで,人間様はおのが罪業に 坤吟するんだよ.つまり,私や,私の歌でもって人間様がおのが罪業に, 意を決して,はんもんするようにと切にお願いしてるんだよ.
875.もし,お前がこの点をもっと論駁したいなら,お前が歌う以上に, 私やおのが涙を流していた方がましだよ.つまりだね.もし,正しきこと が薯しきことに勝っているならば,お前の歌より私が涙を流している方が ましだということさ.世の中には,全く有徳にして,心常に清らかな人も おるけれど,彼等とてもこの現世から離れることを願っているのだ,彼等 にとって,この世におるということは悲しみに過ぎないからだよ15)何故 ッて,彼等自身は救われているけれども,彼等の周囲において,悲痛のほ かは何ものもこの現世においては彼等はみないからなんだよ.彼等は他人
中世莱詩「臭とナイティングール」 (II)
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のために血涙をしぼり,またキリストの御恵みのあらんことを願っている のだ.
887.そこで,私はといえばこの両方の立場にある人々をお助け申して るんだ.私のロ(口舌)にはこの両方の立場にある人々の心をいやし申上 げる力があるんだ.つまり,有徳の人を助けて,彼等の希求しているもの を得させるのだよ.そして,彼等が自ら求めたものにて心充されている時 は,彼等のために歌ってさしあげるのだ.また,一方,罪深き人々をも同 様に助けているんだ.本当の精神的苦痛とは郡辺にあるかを教えて.
893.だが,私や他の理由からでもお前を論駁いたしますぞ.というの は,お前は樹枝にとまっている時,お前の歌を聞かんとするすべての人々 の心をそそのかして肉欲えといざなっているからだ,お前は天国の喜びを 全く無視しておるが,このことに対して発言しうる資格がないからだよ.
きよ
お前の歌はすべて卑摂なものだよ.何故なら,お前の歌には聖い感情が少 しもないからだよ,だから,お前の歌をば誰一人として教会にて僧侶が詠
しらべ
唱している歌の調とは思わないだろうよ.
903.だが,私や他のことについてもお前に反駁するつもりだ.お前が, ひょっとして筋道の通った釈明(いい訳)ができるかどうかと思ってね.
一体,何故,お前はおのれの歌をもっと必要としている他の人々のために 歌ってやらないんだね16)ぉ前はアイルランドでは決して歌おうともしな いし,スコットランドにゆくこともないんだね.一体,何故,ノールウェ イに渡っていったり,ガrルウェイ17'の人達のために歌ってやらないのか ね.それらの地方には歌についての技法をほんの少しでも身につけている 人が住んでないというのが理由ですね.
それならば,何故お前はそれらの地方で,僧侶達に歌って聞かせお前の 歌い方を幾らかでもお教え申上げないんだ.更に,彼等に天国にいる天使
がどういう風に歌っているかをお前の調で導いてやらんのかね.
917.お前は水量の多い流れの近くより湧き出て,徒らに平原の彼方に と流れてゆく問に,山腹を全く干しあがらせてしまう役にたたない泉のよ うにふるまってるんだよ.だが,私や北方えも南方えも出かけてゆくので あらゆる土地においてよく知られてるんだよ.また東方でも西方でも,を ちこち問わず,私やおのれの天職にしたがい,お前の異端の(または誤っ た)歌によって人間棟がたぶらかされないように,喧しい調子で人間様に 御注意申上げているんだよ.
私は人々が長いこと罪に坤吟されぬように私の歌でお導き申上げている んだ.また,私は人々が御自分を欺くことをおやめなさるようにと願って いる次第だよ.何故なればだね,人間棟は来世において悪魔の伴侶となる よりは,此の現世において涙を流していた方がよいからね.」
933.ナイティンゲ‑ルは腹をたててしまいましたが,また同時にいさ さか恥ぢいっていました.と申しますのは,島が,彼女がとまって,叫声 をあげている場所‑つまり,人間様の住居の後にあって,時々用をたしに くる(四阿のこと?)雑草の中にある場所‑のことを批難したからでし た.そこで,彼女は一刻の間深く考えこんでいました.何故なれば.怒る ことによって,知恵を失ってしまうものだということを心に深く刻んでお ったからでした.アルフレッド大王も次のように申されております. 「人 様に憎まれている人は,事をうまく仕終えること滅多になし.また,怒れ る人はうまく抗弁すること滅多になし18) 」と.
945.何故なれば,人が怒ると心の血は湧きたち,その結果,怒れる血 潮が荒れ狂う大河のように流れでてすべての心の働きを抑え,ただ激情の みが心に残るのです.心は,このようにしてその光りを失い,真理も正義
も認識することができなくなるのです.ナイティンゲ〜ルは鼻の述べた趣
中世英詩r臭とナイティンゲ‑ル」 (II)
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旨を充分考え,怒れる心をしづめました.彼女は怒って馬り合うような言 葉をつかうよりユーモアにとんだ言葉でいうことができれば,その方がま
しだと思いました.
955.彼女は次のように云いだしました.
「鼻!さあ,私の云うことよく聞きなさい.お前さんをやりこめますぞ.
お前さんのやり口は強そうにみえて実は破り易いからね.お前さんは,臥 が人間様の御住居の背後を飛んでいるとお仰言ったね.そりゃ本当のこと だが.その棲家こそ私達のものなんですよ.
貴婦人と殿方とが,ふしどを共になされている傍にとまってお二人様の ためにお歌いする心構えなんですよ.お前さんは貿こいお方が天下の公道 が処々ぬかっているからとて,公道にそれてゆくとお思いかね.また,お 天道様はお前さんの巣が汚ないからとて,黄道からそれてお前さんの巣の 上にひざLをよせないのだとお思いかね19)それで私が殿方と御婦人とが もっともおむつましい時に近づくのは私にとって当然のことであり慣習な のです.お前さんは御自分の歌い方をば,恐しい程力強く高音で歌えるか らとて自慢し,また,お前さんは人間様にむかって罪悪に坤吟して涙を流 すようお教えしているんだと云い張っていなさるね.
975.一体,人間様が‑人々々,あああわれなる者かなといわん許りに涙 を流し叫び声をあげたらどうだろうかね.また,もし彼等がお前さんと同
じように金・切声をあげるならば,恐らく彼等はめいめいの心をおびやかす ことになろう.人は,たとい自分の罪に欺き悲しんで涙を流しても,精神 をおちつけて荒れ狂った声をだしてはならないんです.しかし,神を讃美 する場合には,人は力をふりしぼって芦高らかに歌うべきなんです.だが, 教会でのお祈りの時の讃美歌は余りにも声高く,且長く歌ってはならない んですよ.お前さんは金切声をあげて涙を流しているが,私は歌っている
んです.お前さんの調は悲歓の歌であり,私のそれは喜びの歌なんです, 987..お前さんはこの現世におさらばすべく叫んで涙を流し,またお前 さんの南限が張り裂ける程金切声をあげていればよいさ!今までのべた二 組の中,何れを人間が幸福にさせ,何れが人間を悲歓にくれさせるだろう かね.我々二人の運命は,お前さんが悲歓にくれ,私が幸福であるならば, それでよいとしよう!だが,お前さんは,私が此の地を離れて他の土地で 歌わないかと再三おたづねだね.とんでもない!幸福がまったく訪れない ような人々の間にまじって私は一体何をすべきでありましようか.そうい う土地は貧相で美しくもなくて,荒涼たる荒地なんですよ20)
1000.すなわち,懸崖が天空に接し,その土地では雪やあられが日々の 天候なのですよ(彼等が知ってるものといえば,雪とあられなんですよ.) いと恐しくさくぱくたる土地なんです.r住民は狂暴で極めて貧しいんです.
被等は平和を維持したり,他の土地の人々と友情あふるる交際をもできな いし生活様式にも意を払わないんですよ.彼等は魚類や肉類を狼のように 引き裂いて生のままで喰うのです.彼等はミルクを飲むには飲むが,しか
も乳衆のままでなんです.その他の飲物は何も知らないし,酒やビールも 知りませんよ.事実,彼等は野獣のような生活をしており,あたかも地獄 からやってきたもののように,ざらざらした皮膚でおおわれているんです
よ.
1015.彼等にさらによい生活を教え,狂暴な生活をやめるようにと,た とい誰か有徳な御方がその地に赴いても, ‑昔,ローマから一人の御方が 赴かれたように‑‑‑その御方はきっと祖国におられた方がよかったことだ ろう21.何故なれば,ただ御命を失ってしまうにすぎないだろうからです.
有徳な方々は,かくも無法な住民に私の歌える歌を拝聴させようとなさ るより,できるならば,野猪に盾や槍を揮う術をお教えなさった方がまし
中世莱詩「臭とナイティンゲ‑ル」 (II)
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でございますよ.そんな土地で,私が歌ったってどうなるもんでしようか, 私が彼等のために長く歌ってやっても,私の歌は滅茶々々にされてしまう でしょう.何故ッて,端綱も馬勤も,はたまた鋼鉄類でつくられた道具に よっても,彼等の気狂いじみた振舞を阻止することができましようかね.
1031.しかし美わしく幸福にみちている土地,しかもその地に住める人 々が上品な慣習を身につけている土地では,私や私の咽喉を大いに利用す るのですよ.何故ならその地ではお役にたつことができ,彼等に喜ばしき おとづれ,つまりいくらかでも神を讃美する歌を歌ってさしあげるからで す.次のようなことが音の金言で云われており,今なお名言として残って おりますよ.すなわち,
『人は収穫を刈り入れんと信ずる場所を耕やし種子を蒔かねはならぬ22)』
と.何故なら,草も生えず実も結ばぬ場所におのが種子を蒔くもの者は気 狂いですからさ.」
1043.鼻はこういった抗弁を聞くと,論争する覚悟ができ,怒髪天を突 き,両の眼をかっと見開いて抗弁しました.
お前は人間棟のお住居を守っているとおっLやたね.美わしい草花が花 を開き,葉が茂っており,恋する者同志が一つふしどに相抱いて横たわっ ているが,せんさく好きな眼が向けられるのを守ってやっているどね23) お前はある時,四阿(又は婦人の居間)の近くで歌って‑私やその場所
を知ってるんだがね‑‑御婦人に道ならぬ恋をお教えしたものさ.そして.
お前さんは低音や高音をまぜて歌って,彼女に恥づべき道,姦淫や悪い噂 のたつようなことを教えたものさ.そこで殿方(御婦人の思われ人)は, すぐとお前を捕えるためにとりもちやらかすみ綱やらをととのえておくこ
とにお気付きになったんだよ.案の定,お前はそのような仕掛の仕組んで ある潜戸の処えやってくるや,一つのわなの中に捕えられてしまったのさ.
1061.お前は向腔を蹴られ,法に照らして下されたお前の判決は,荒ば れ馬によって八つ裂きにされるということだったね.そうなってから,お 前が奥方または処女を‑お前のお好きな方何れにせよ‑そそのかして 理に適わぬ道に走らせるものかどうか試してこらんよ.結局は,おのれの 歌によって,お前はおりの中で,望みも空しく奥方や処女の尻を追いまく
っているんだということが,本当にお分りになるんさ.」
1067.ナイティンゲ‑ルはこの抗弁を聞くと,‑もし彼女が人間であ ったら剣と槍先を揮って,泉にいどみかかったであろうが,そうかといっ て,もっとよい方法で斗う術もなかったので‑彼女は自分の武器として 分別ある言葉を用いました.今も昔も,「巧妙に発言する者は巧妙に斗う者 た」といわれておりますし,彼女はおのが口舌にも何か救いの手が期待で きると望みました.またアルフレッド大王も「巧妙に発言する者は巧妙に 斗える者だ糾)」とおっしゃっております.
1075.そこで彼女は叫びだしました.
「何ですッて!私を恥しめるために,こんな云い廻しを,お前さんはなさ るんですか.殿方(ここでは妻を寝取られた夫のこと)こそ,恥しめを受 けたんですよ.彼は奥方に対してしっと心をいだいていたので,どうあっ ても他の殿方が妻の処にきて語ろうのを見るに忍びず,常日頃断腸の思い がしたんですよ.
1081.そこで,彼は奥方をとある四阿に押込められたんですよ.‑こ れは奥方にとっては,まことに手ひどい仕打ですが‑.そこで,私は奥 方に対して大変御同情申上げ,またその御心労をお痛わしく思いまして, できるだけ早く,しかも長いこと私の歌でもって奥方をお慰め申上げたん ですよ.そこで,こうしたことが,その騎士が私に対してお怒りになった 仔細なんですよ.そしてロ惜しまざれに私を憎んだんです.その騎士はお
中性英詩「臭とナイティンゲ‑ル」 (II)
63
のれの恥辱を私めに押しつけましたが,却って彼自身にふりかかる災難と なりましたよ.ヘンリー王様25)がこの事件をとくと御賢察下されまして
‑ああ,神様!王様の御霊に御恵みと垂れ給え! ‑公権喪失者(又は 法益をはく奪せられた者)とされたんです26)っまり,その騎士は口 惜しさとしっとのあまり,御英明な君主の御統治遊ばされている土地にお
いて, ′卜島を捕え死刑を宣告したが如き悪虐無道な振舞をしたんですね.
1099.ヘンリー王様のこの御処断は私の仲間に名誉をもたらしたので した.と申しますのは,その騎士は直ぐと財産を失い,私に対して首ポン ド支払ったからです.以来,私のひな鳥達はいとも健やかに且幸福そうに 止り木に止まっていますよ. (育っていますよ)そして彼等はその後幸福
そうに日々を送っていますがこれもまた宣なる哉というところですよ.
1105.私はこんな風にものの見事に仇討をしましたので,それ以後は, 再び以前より大胆に喋べるのですよ.というのは,一皮事の成行が好転し
てからは,私や前にもまして楽しい気持になってるからです.私や,自分 が歌いたいとのぞむ処何処ででも歌うことができますよ.誰も思い切りよ く再び私の歌を邪魔する者がないからですよ.しかるに,お前さんについ
hコ巴iMi'M
て一言すれば,お前さんはあわれな奴さ!お前さんはあわれな変化だッ!
お前さんにや,誰でもがお前さんの体を‑ひねりできそうもないような, おのが姿をひそかにかくすうつろな樹の幹を見つけ出せないし,知ること もできないからさ.
1115.何故ッて!修道院27)にいる少年僧や宮仕いの若者や,村人や作 男達もみんなお前さんに危害を加えようとしているんだよ.だから,彼等 が,お前さんの止り木にとまっている姿を一度みたら,彼等は物入れに石 を入れて,お前さんにむかって,その石を続けざまに激しく投げつけ,重 傷を負わせ,揚句の果は,お前さんの醜悪な肉体をば,石で打ち殺してし
まうんだよ.もし,お前さんがひょっとして,一発御見舞を受けて大地に 打ち倒れると,その時こそ始めて立派に人間様の御役にたつんだよ.何故 って,お前は人間様によって小枝に吊り下げられ,お前さんの醜い胴体と 恐しい爪とをもって,人間様のために荒々しい獣かから穀物を守ってやれ るのさ,お前さんは,頻死の状態で,血の気も多いだろうが,価値のない 代物さ.だが,案山子としては,お前さんはとびっきり素晴らしいよ.何 故なら新たに種子が蒔かれた場所に,もしお前さんのくたくたになった胴 体が近くに吊り下げられてあるだけで,かやくぐり,かわらひら,みやま がらす,大塊などは,あえて近寄ろうとしないからね.
1133.また,春暖の候に,樹々が華を開き,若い膏がほころび生育する 場所で,小鳥達はそれらをあえて摘み取ろうとしないんですよ. ‑もし, お前さんが彼等の頭上にぶらさがっておればね.お前さんの生涯は(死に 臨んだ時以外は)全く悪逆無道なもので,何の役にもたたないんですよ.
この世に生を享けている間は,お前さんの容貌はいとも恐しいものだとい うことを,今こそ,しかと知ることができましようね.
1142.お前さんは絞首刑にされた時でさえも,以前は,お前さんにむか って叫声をおげた小鳥達も,なお,お前さんを恐れているんだよ.また, 人間様がお前さんに対して怒りにもえているのも至極もっともなことさ.
というのは,お前さんが,常日頃,人間様の心の苦しみを歌っていなさる からだよ.つまり,お前さんの歌は,人間様28)の不幸に,いつもつながっ ているし,お前さんが,夜通し叫んだあとでは,人間様はひどくお前さん を恐れるのだよ.お前さんは,誰かが,近き将来死ぬような場所を云い, 常にあれやこれやの不幸を予言することさえしますね.つまり,お前さん は財産の喪失や,友人の破滅,その他,家屋の火災,人間世界の戦争,盗 賊の略奪,はたまた,地方の農民に衝撃を分える家畜の伝染病,さらには,
中世英詩r泉とナイティンゲ〜ル」 (II)
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妻が夫を失うということや,人々の問の議論をも予言しなさる.
1161.常日頃,お前さんは人間様の不幸について歌っており,お前さん のおかげで人々は,悲痛なあわれなお気持になるんだよ.こういう理由か ら,お前さんは棒きれや,石や,芝や,土くれでひどく打たれて,遂には お前さんには逃れうる場所が全然残されれなくなってしまうんだよ.お前
さんみたいに公・の布告を町中に知らせる役人風をふかせ,悪い報道を布告 し,たえず人々に迎えられない知らせをもたらし,不幸な出来事をふれ廻 る輩に呪あれ!全能な神ならびに社会的に身分ある方々の窓が布告役人風 を吹かす輩のうえに爆発せんことを!」
1175.轟は,この言葉を聞くと一瞬の間も待てずに非常に手きびしい言 葉で答えだしました.
「こりゃ驚いた!お前は聖職に任命されたのかね?それとも任命されな かったことを呪っているのかね?お前さんは,まるで僧職の役目を遂行し ているね.私やお前が,何時の日か,僧籍にあったかどうか.また‑たと い教会からの破門について充分御存知としても‑弥轍を歌るかえどうか 怪しいもんだね.私をば,こんな具合にもう一度呪ったのは,お前の昔か らの威の手なんだよ.私や,お前の罵晋雑言に対して,いとも手軽に答えおとし
てやるさ.荷馬車引きがいつも「ほれ29)進め!」といってるようにな.一 体,何故,お前は私の予言や物事を理解する能力を批難なさるんかね.確 かに,私や,世の中のすべての事象に如何なる運命がふりかかるかという ことをよく御存知様なんだよ.私や,餓蛾や外国の軍隊の侵攻,ならびに 一体誰が長命するかも御存知なんだ,また.奥方が殿方に御愛想づかしを するかもね.私や,一体,誰が縛首にされるか,はたまた非業の最後を遂 げるかを知っている.また,もし人間様が戦っている場合,何れの側が 放北するかも承知の助さ.私や,疫病神が家畜の群にとりついて,死神様
にとつかまってしまうことも御承知だ.更に,私や,何時の日樹々が咲 き乱れるか,穀物が実るか,家屋が火事にあうかを予言でき,また,人間 様が貧しき者になるか,富める者になるかも虫の知らせで予知できるし, 船が海原で浸水して沈むことも,雪が降って,苛酷にも大地に張りつめて
しまうことも,その他諸々のことを知っているんだよ.
1208.つまり,書物から得た知識を充分御存知だし,福音(神の国のお とづれ)についても,お前に話してやりたいと考えてる以上に知っておる んだよ.何故ッて,私や,度々教会に出かけていって,沢山の知恵を学ん でくるからだよ.そこで,私や,それらの知恵のもつ象徹的な意味や予感 を充分よく知り,同時に他のことについても知るんだよ.もし,誰かが, 叫び声をあげて追跡されていると30))事態がどうなるか,事前に察知して
しまうんだ.で,私や,屡々,私の大いなる知恵のために,却って心痛み, しょげきって止り木に止ってることがあるんだよ.私や,不幸事が人間様 に忍び寄ってくるのを知ると,懸命になって叫び,人間様に寝ずに注意し てやるようにいってやり,適切な御忠告を与えてやるんだよ.
1223.アルフレッド大王様も,次のような名言を云っていらっしゃるか らね‑人間‑人々々が胸に秘めておくようにと‑
『もし,汝が災害をば,やってくる前に予知するなら,その力を殆どもぎ とることができようぞ. 』と.
そこで,大いなる不慮の災害は,人間様がそれに対して注意し警戒を怠 らないならば,それだけ弱くなるものなんだよ.恰度,一本の矢が,如何 様に弓の弦を離れて飛んでくるかを知るならば,その矢は的を外れるのと 同じことさ.何故ッて,もしお前が,一本の矢がお前目がけて突き進んで くるのを知れば,お前は見事に身をかわして,逃れることができるからだ よ.
中世英詩「臭とナイティンゲ‑ル」 (ID
67
1233.また,もし人間様が面目を失すると,何故その人の心の苦痛は私 のせいだとするのだろうか.なるほど,私や,人間様が面目を失するよう なことを事前に知っておるが,だからといって,その責には応じきれない ね.お前はお盲さんが,路に迷って真直ぐに歩けないで,溝におちこんで, 溝の中で泥だらけになっているのをみると, ‑私や,一部始後を見てい るんだが‑私のおかげで,早目におちこんだのだとお考えだね32)私の 知恵というのも全く同じなんだよ.何故なら,私や,自分の止り木に止っ ている時には,非常に明確に,或る人に災難がふりかかってくること察知 しますよ.それだからといって,災難がふりかかってくるとは,露知らぬ 者が,私がその事情を知っていたのにといって,私をば批難すべきでしょ うか.私が人間棟より賢いという理由だけで,人間様の不幸な災難に対し て貴を負わさるべきだろうかね.私や,何か不幸なことが人間の身近かに あると知ると,思いきり声を出して叫び,心から災難に対して身構えるよ
うにと希い願うんだよ. ⊂何故なら思い設けぬ災難が身近にせまっている からね,コ
1255.私や,かように声を高くして休むことなく叫ぶけれども,すべて 物事は神の御意志のままにやってくるんだ.だから,私が人間様に本当の ことを話して苛々させているからとて,何故私めにぶつぶつ不平を云いな さるんだ?私や,一年中人間様に警告を与えているのだよ.それだからこ そ不幸な災難が近づかないのだよ.私や,ホ‑ホーと鳴いてる時こそ,何 か災難が近づいているんだということを人間様に知らせたいために歌って るのだよ.何故なら,,人間は誰だって,災難の恐しさなんか知らないから とて,何か不運が身近に迫ってることなんか恐れないで,うまく逃れるん だというよなことを口幅ったく云えたもんじゃない.それゆえ,アルフレ ッド大王様は,賢明にも次のように申されましたが,.このお言葉こそ福音
書のように絶対的真理なんですぞ.
『富める者は,却っておのれに一層たよる33)』と.もし人間様にしてひど くおのれの幸運を信用しなければ,恐らく彼は多くの幸運をうるであろう.
1275.例えば, 『如何に暑くとも凍しくなるし,如何に白いものでも汚 れる.また,如何に親しくても憎しみが湧いてくる.如何に愉快なことで も腹立たしくなる.しかして,永遠ならざるものはすべて消滅し,此の世 の幸福もすべて消滅する34)』ということだよ.
さあ,お前は全く大編者だということがはっきりとお分りだろう.何故 なれば,お前が,私をば恥しめて云った事柄はすべてお前の名誉を汚すよ
うなことになるんだよ.状況がどうあろうと,一勝負毎に,お前はおのれ の一撃をくらっているのさ^35)お前は私にむかって馬首雑言をほしいまま にしたけれど,それらは,かえって私を以前よりも堂々たるものにしたの さ.お前が,もっとよい趣味を見出ださないなら,お前は汚名以外の何も のをもかちとりえないよ. (第二部了)
⊂害主1
1)ウァイト氏の「セルボーンの博物誌」によれば.みそさざいは鳥の腰巾着で, 人の住む家屋の軒先など利用しないで厳しい霜などをものともしないというこ
とで,あわれなという形容詞はそれなりに意義がある.尚, AlexanderNeckam には,寓話としてこのみそさざいがとりあげられている. 「或時,鳥が集まって, 王様を選ぼうとしたが,その際,最も高く飛べる者を王様にしようと意見の一致 をみた.そこで,鷲が,自分こそは当然「王」たるべき資格ありと主張したが, みそさざいは,自分は鷲の頭の処に乗かってゆくから一番高い処を飛べるんだと 主張し,結局,みそさざいが「王」となった」というのである.この寓話は中世 期によく知られていた話であり,プリニイ(Pliny)とかアリストテレスは,み そさざいのあだ名を「王様」としている.
2)アルフレッド大王の格言には,これに当るようなものは別にない(Atkins, Eric Gerald Stanley参照) ̀bare song'‑a mere song.例えば, for a (mere) song (二束三文で,捨値で)という成句もあるように, ̀songとは̀trifle'と
中世英詩「臭とJ‑イティンデール」 (II)
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いうことである.
3)これに類似した諺は,中世以降英語以外でもよく知られている.例えば,1709 年の̀Dyke's English Provebでは, "Need makes the naked man run or the naked queen spin."そして,意味を次のように註訳している, "I suppose, to cover their nakedness"と. (Atkins)
4)この表現は, Oxford Diet, of English Proverbs (1948)には, ̀Hang up one's hatchet, TO'[‑to cease from one's labours, to res]としてでている.
また, ̀Sir Gawain and the Green Knight'467行にもみられる.
5)この諺も中世においてよく知られていた.スコットランドの諺では, "When
bale is at highest, as the poet singeth, boot is at nighest."
6) 5)と同じ格言.
7)アルフレッドの格言は, ̀ Wy‑J'‑vte wysdomeisweole wel vnwur手>‑(With‑
out wisdom is wealth very worthless) A. 119.となっている.
8) Cテキストには省略されており,この訳証では,一応ここはCテキストによ った.何故ならば,ここのところは7)の格言の繰返えLとみられるからであ
!
る.尚,アルフレッド大王の格言に̀Wit andwisdom, 」atalletyingouergo手''
‑(Wit and wisdom which surpass all things)というのがある.
9)チョオサーの「トロイルスとクリセイデ」第一巻218行以下に,勇士ルノー がシャレマ‑ニュ大帝に対抗しえた父より譲られた天馬ベーヤルのことが言及 してある.後この馬は大帝での和睦に際し水に溺れさせた. 「‑‑栗毛の駿馬バ ヤルドは,最後に長い鞭にはげしく打たれて,初めて思う「われ肥え,毛も刈り たて,曳草につながれたまま躍りあがりはしたが,われはただ一匹の鳥にすぎぬ, われもまた馬の錠にた‑つつ仲間と共に車曳く身だ.」‑ ‑.(刈田元司氏訳参照) 10) 783行以下ここまでの要旨は,;知恵が狂暴なる力を征服することをいっておる,
が,一面,詩人の論理は誤まっているともみられる.何故なる「力」をも加えて おるからである.そうすると,前述の駿鳥も弱々しい子供に従わねばならぬとい
う論理を弱めるからだ. (この項, E.G. Stanley氏の説を参照)
ll)ここでは,懸賞(乃至は)職業拳斗選手が,挑戦者を全部打ち倒して勝利を手 にすることをのべているが,ちょうど,桑とナイティンゲ‑ルの口論のやりとり ち,同様だということを意味している.
12)猪と狐の寓話は,エラスムスも言及しているし,またベーコンの, ̀Advance‑
ment of I」earning'の第六書にも言及されておる.以下の寓話は,この前に述 べられている格斗のことを倒託する材料として提供されているのである.
13) 「狐が樹に隠れてぶらさがる」ということは,例のフランス中世詩「狐物語‑
狐ルナールの物語」にも出てくる.こうして絶好の場所を占めて論争を優列に展 開するために.
14)ここのところより,892行までは,泉の口を通して,聖ベルナールの「隠者は 人に教えないで,涙を涜しているのが義務だ」という言葉を反映させている条で ある. Atkins氏は更に,詩篇126節6章(Vulgate 125.6)についての中世の 説教に此戟している. 「人間がおのれの罪業に流す涙‑‑,キリスト教徒の罪業 のために流す涙‑‑,この現世を憎みて流す涙‑‑,天国をもとめて流す涙‑・, 一体,このように涙を流して何の報があろうか?永遠の救済と,永遠のみ光と, 永遠の生とである.」という説教と比較している.
15) ̀The XI Pains ofHell'に同じような句がある.つまり, 「この世の大麻者, 大嘘つき,不実な者共は,ただ悲痛な気持をいだくばかりだ」と.
16)ナイティンゲ‑ルがある地方では鳴らないということは一般にいわれている ことで, Alexander Neckamも,ウェイルズの或る河の一方の河岸では噛り, 他方の河岸では鳴らないといっている.
17)スコットランドの南西端の地方.
18)元来は,裁判において答弁もしくは抗弁する際のことを述べたもので,弁護依 頼人にあまりにも慈悲を仰ぐような抗弁(答弁)をすれば成功しないし,依頼人 に正しき判断を下すよう答弁をすれば,冷静な考えがでてきっと裁判に成功する
ということである.
19) ̀Handlyng Synne,'(2299/)に, 「太陽は牛馬の糞を照らすからとて,その輝 やきを失うものではない」という句がでているが,詩人はナイティンゲ‑ルのロ を通してこの句をかりている.
20)以下1014行までは,アルフレッド大王の̀Orosius'におけるのノールウェ イの描写に頗る頬似せる描写である,そして,ここの荒涼たる士地住民,衣食な どの描写法は中世文学においては共通的なものである.
21) 「ローマからきた有徳の御方」の名前ははっきりしないが,三人の法王の使節 の名が考えられる. Atkins氏はCardinal Vivian, K. Huganin氏はNicholas Breakspear, Borsch氏はCardinal Gualaをあげているが.最後のは,この詩 の創作年代からいって無理であろう.何れにせよ,明確ではない.
22) 「アルフレッド大王の格言」にも「種蒔くものは誰でも苅入れるべきだ」とい うような格言があり,ウィクリフの言にもあり,尚,ガララヤ書6章7, 8節 を参照のこと.・
23)以下の話は,マリ・ド;フランスの̀LayoftheAustic'にもとづいている.
24)アルフレッド大王の格言, ̀A wise man can enclose much in few wor由・.
中世英詩「臭とナイティンゲ‑ル」 (II)
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and a fool's bolt is soon shot'(458‑60)参照. 「貴人は口数少なくも思いは 探し,愚者は直ぐ口を出して直ぐ黙せられる.」
25)ここにいう「‑ンリー王様」に該当すると思われる王は,‑ンリー一世(1170‑
35), ‑ンリー二世(1154‑89),ヘンリー三世(1216‑72), Young King Henry (1170‑83)と四王がいるが,この詩の創作年代,並びに学者の諸意見によれば, ヘンリー二世がこの王であると採るのが最良である.彼は偉大なる君主として 国民の尊敬を受け,且文学に対して心からのパトロンであったからである.
26)この判決は,この詩の創作年代においては被告人に対する追放という実刑では なくて,たんに被告人を裁判の庭にたたす刑事上の手続きに過ぎないということ である.
27)たんに, 「少年や少女」と訳すより, EricGerald Stanley氏の註を参照して,
「修道院にいる少年僧‑‑」と訳出してみた.
28)以下1330行までは, A.C. Cawly氏の説によれば, 1186年9月16日の天 文学上の所謂「合」, (2個の天体が同じ黄経または赤経に来ること)に関連して おり,従ってこの詩の創作年代を決定することにもなるということである.ま たRoger of Hovedenの年代記には, 1184年の項に,黒死病の来るべき時期
と恐怖とがヴィヴィドに描写されているそうである.
29)この呼掛の旬は,馬車引きが,馬を左或いは右に寄せる時の命令であって,こ ういう論争の場合に用いられている時は,先に出た「千曳を収めろ‑ !」「引っこ め!」という意味で相手を噸弄しているのである.
30) ̀hue and cry'というのが原文の意味で,重罪犯人を見た者が義務として叫 逮,犯人追跡の言葉である.
31)これと同じような意味で用いられる格言が多々ある.例えば, ̀Forewarned is forearmed.'(警戒は警備である)とか, ̀ A danger forseen is half avoided.
(予知せる危難はなかば避けたのと同じだ)とかである.ただ,アルフレッド大 王の格言にはこれと同じようなのは見当らないようである.
32)以下の臭のナイティンゲ‑ルに対する論駁は‑つまり,予め知っているよ うな災難についてとった態度えの批難‑ボエシュウスの「哲学の慰め」第5章 第6節以下のことを頭にえがいて,詩人が創作したものである.
33)この格言はアルフレッド大王の次のような格言を思い出させるものだ. 「この 世の金銀を所有し,自由にすることができたとしても,人間は倣懐になってはな らない」と.また, ̀Proverbs of Hendyng'にも, ̀The richer you are, the more you must look to your spiritual welfare.という格言がある.
34) 33)の格言の内包せる思想の具体的な敷街である.
35) ll)の註に言及してあるレスリングえのmetaphorである.
× × × ×
先の第一部とこの第二部(第三部にて完結予定)の訳註は,主としてErie Gerald Stanley氏編註のNelson's Medieval and Renaissance Libraryのテキ ストにより,尚,その他, Atkins氏のテキスト, G. Grattan氏並びにSykes 氏編のE.E.T.S版によったものである.第三部完了後,解説,批評など稿を 改めて書く予定で,その際,参考文献などは詳細に掲げることにしている.