オーストラリア短期英語留学プログラムの 5年間を振り返って
松村 真樹
キーワード:海外短期語学留学(研修)
長崎大学は平成18年度(2006)から学部学生向けに,海外の大学で3~4 週間程度の語学研修を行う海外短期語学留学プログラムを開始した。英語の プログラムについては,平成19年(2007)2月に第1回研修生を西オーストラ リアのパースにあるエディスコーワン大学付属英語センターに派遣し,3週 間の研修を実施した。それ以降,平成23年(2011) 3月までに計5回の同研 修を実施している。各回の参加人数は下の表のとおりである。筆者は,6年 前の立ち上げ準備の時点からこのプログラムに携わり,実施時には毎回,引 率者として参加学生のグループに同行してきた。本稿は,これまでに実施し た5回の研修に関する総括的報告である。
長崎大学オーストラリア短期英語留学プログラム:学部・学年別参加人数 第1回(H18年度) 第2回(H19年度) 第3回(H20年度) 第4回(H21年度) 第5回(H22年度)
実施期間 2007年2月18日
~3月11日
2008年2月23日
~3月16日
2009年2月28日
~3月22日
2010年2月27日
~3月21日
2011年2月26日
~3月20日
参加人数 20 22 21 21 38
学年
学部(学科)別内訳 ・
1年 2年 1年 2年 1年 2年 1年 2年 1年 2年 3年 院生
教 育 12 1 13 7 2 8 2
経 済 3 1 3 2 4 2 4
環 境 2 1 2 1 4 3 1
工 学 2 2 1 3
水 産 1 1
医
学 医 学 科 2 3 2 1 7 1
保健学科 3
歯 学 1 1 4
薬 学 3 2 4
1.プログラムの趣旨及び対象学生
海外短期英語留学プログラムは,西オーストラリアのパースにキャンパスを もつエディスコーワン大学(ECU)で実施されるホームステイプログラムであ る。プログラムの期間は3週間で,春休み中に実施される。
本プログラムの目的は,英語が使用されている環境に学生を派遣すること により,学生の英語発信能力の育成をさらに高めることにあり,全学教育(一 般教養教育)における必修の英語科目と連携しながら実施している。すなわ ち,このプログラムを修了した学生には,全学教育必修科目の英語の単位が 付与される。プログラムの内容は,特にスピーキングとリスニングを中心と した英語スキルの獲得に重点を置いているが,オーストラリアという多民族・
多文化社会において,国際言語である英語を実際に使用しながら,異文化の 人々と交流することにより,異文化理解と自国の文化への理解をさらに深め てもらうことを念頭に置き,そのための活動も研修内容に含んでいる。学生 たちは,パースの一般家庭にホームステイし,日常英会話の実践的トレーニ ングを行うとともに,各家庭特有の異文化的背景についての理解を深めるこ とを期待される。
参加者は,2年次に履修する全学教育英語科目を1単位認定する関係から,
1年次後期修了者を対象にしているが,それ以外の学年で単位認定を目的と しない学生の参加も可能である。プログラム発足当初は25名程度の参加者を 想定していたが,上の表が示すように,第4回までの参加者はプログラム実 施最低人数である20名をかろうじて満たす程度であった。しかし第5回目に は,募集要項の充実,募集期間の拡張,さらに広報活動にこれまで以上に力 を入れた結果,参加者が38名にまで増加した。加えて,以前に参加した学生 からのいわゆる“口コミ”によって,本プログラムが学生の間で知られ始め たことにもよると考えられる。
2.実施場所
派遣先である西オーストラリア州の州都パースは,世界各国からの移住者 や旅行者が集うオセアニア有数の世界都市である。治安は良好で,英語学習 のためのホームステイや異文化体験学習に適していると同時に,ノーベル賞 受賞者バリー・マーシャル教授がいる西オーストラリア大学(UWA)がある など,アカデミックな雰囲気にも満ちている。また,オーストラリアの歴史
と文化を学ぶ際に欠かせないオーストラリア先住民(アボリジニー)の文化 に触れることができる見学地も豊富である。長崎大学短期英語留学プログラ ムは,パースにキャンパスをもつエディスコーワン大学(ECU)の付属英語 センターであるPerth Institute of Business and Technology(PIBT)において,
長崎大学生を対象にした特別クラスをオーダー・メード方式で設定してもらう 形で実施されてきた。第1期と第2期は,パース市内から車で30分ぐらいの 距離にあるチャーチランズ・キャンパスで授業が行われたが,その後,大学付 属の英語センターのキャンパス移転に関係して,第3期以降は,市内から10 分程度の距離にあるマウントローリー・キャンパスで実施している。
3.プログラム内容
1)初日オリエンテーションでは,パース滞在とホームステイに関する一 般的な注意事項のあと,英語のレベル判定テストが行われる。判定テストの 結果によって,参加学生は2~3つのクラスに分けられ,それぞれのクラス 担当教員のもとで英語の授業を受ける。午前中の授業は朝9時に始まり,10 時45分から30分間の休憩をはさんで,午後1時まで行われる。昼休みは45分 間で,午後の授業は1時45分から始まり,4時まで続くが,その間,3時頃 に15分程度の休憩が含まれる。授業内容は,読む,聞く,話す,書く,のす べてを総合的に網羅する形で進められる。時折,フィルムなどを用いて,オー ストラリア先住民(アボリジニー)の文化を紹介するような授業が行われた り,西オーストラリアの歴史や文化を学ぶ授業も組み込まれている。また,
同じ英語センターで学んでいる他国からの留学生との合同英語授業が,週に 2~3回の割合で行われる。担任教員と他の英語教員との連携で実施される ものであるが,この「ミングル・クラス」は本学の学生にも好評である。
2)長崎大学側から,単位認定のための審査資料の一部として,研修中に エッセイを1本書いて提出するという課題を加えてもらっている。学生は,
クラス担当教員から自分が書いたエッセイに対して添削指導を受け,帰国後,
修了証書及び成績証明書と一緒に全学教育事務室へ提出する。その後,本学 の全学教育外国語科目委員会において,英語担当教員が出席率,成績,エッ セイの内容を総合的に評価して成績判定を行い,合格者には,2年次に履修 することになっている全学教育の「英語コミュニケーションⅢ」又は「総合 英語Ⅲ」のいずれか1科目の1単位を付与する。当該科目の成績についても,
本学の成績評価基準に換算して付与される。
3)長崎大学の要望で,エディスコーワン大学で日本語を受講しているオー ストラリア人学生との合同クラスを期間中2回設定してもらっている。担任 教員とエディスコーワン大学教員との連携で実施されるもので,ゲームやク イズを用いてお互いの文化に関する知識交換を行う。また,書道をオースト ラリア人学生に指導するといった活動を通じて,学生たちは英語で日本文化 を紹介することを体験する。
4)エクスカージョン(実地見学)は,週1回,期間中3回実施される。
見学先では現地ガイドの英語による説明が行われるため,単なる観光ではな く,英語学習の一環と考えられている。第1週目のエクスカージョンでは,
パースから電車で30分ほど南に下ったところにあるフリーマントル(Fremantle)
を訪れる。インド洋に面したこの港町で,学生たちは,古い町並みを見学す ることによって,西オーストラリア発展の歴史を学ぶ。第2週目のエクスカー ジョンでは,スワンバレー(Swan Valley)ツアーに参加し,カバシャム
(Caversham)自然動物公園でカンガルーやコアラを見たり,ワイナリーやチョ コレート工場を見学する。そして最後の週には,インド洋に浮かぶリゾート 地,ロットネスト(Rottnest)島への1日ツアーという大きなイベントがある。
オーストラリアの自然を体験するという企画であるが,ここでも現地ガイド による歴史,自然,環境などについての説明に耳を傾ける。なお,エクスカー ジョンは,プログラムの一部として実施されるため,原則として全員参加で 実施している。
5)プログラムの最終週に,学生たちはそれぞれが選んだテーマについて の英語によるオーラルプレゼンテーションを行う。このために,第1週目か ら,プレゼンテーションの方法についての講義を受ける。時間の制約から,
テーマについては,限られた時間内で準備できるものを選んでいる。まず,
本学の学生同士で発表し合ったあと,他国からの留学生の授業に出向いて行っ て,より多くの人を相手にプレゼンテーションを繰り返すので,回を重ねる ごとに,プレゼン能力が向上しているようである。
4.これまでの成果
1)これまで5回の研修を通じて,事故や事件に巻き込まれたケースは一 度もなかった。また,ケガや病気等で研修を途中で断念する学生もいなかっ
た。毎年,参加者全員がプログラム修了証書を手にして帰国している。その 結果,単位認定率は100パーセントである。現地の治安が良いことと合わせて,
派遣前オリエンテーションで滞在中の危機管理についての指導を行っている ことの成果と考えてよい。また,学生たちが現地スタッフと引率教員の指示 に従って良識ある行動をしていることの現われともいえる。今後も,危機管 理には万全の体制で臨む必要がある。
2)英語運用能力の向上については,学生によって差がある。自分から機 会を作って学外でも英語を使うことに積極的な学生がいる一方,英語学校の カリキュラムをこなすことだけで精一杯の学生もいるのが現状である。そう ではあるが,帰国後のアンケートで,「リスニング力は自分でもわかるほどに 向上した」という意見が毎回多数聞かれることから判断して,この語学留学 プログラムが学生の英語力向上に貢献していると考えてよい。
3)このプログラムのもうひとつの効果は,海外或いは異文化体験そのも のから得られるものである。これまで参加した学生たちは一様に,「オースト ラリアのライフスタイルや文化を実際に体験してとても興味深かった。」「外 国でホームステイをするという経験ができて視野が広がった。」「他国の人た ちと交流する楽しさを知った。」「異文化の人々とのコミュニケーションの大 切さを学んだ。」などの感想を持って帰国している。このように,国際交流の 意義は,実際に体験すること,自分の肌で感じることによって認識されるの ではないだろうか。
5.今後の課題
1)参加を希望する学生にとっては,派遣前の日常の英語学習と,この短 期語学留学をどのようにタイアップさせていくかが今後の課題となる。なぜ なら,参加者のなかには,留学のための事前準備が不十分な学生が常に見ら れるからである。渡航前に留学先の情報を収集することは当然のこととして,
そのほかにも,ホームステイに必要な英会話表現や日本の事柄に関して英語 で説明するための語彙をもっと習得しておくことが求められる。それによっ て,同じ3週間でも,より大きな効果が期待できるにちがいない。このことは,
すべての学生にあてはまる。よく聞かれるのは,「行けば何とかなる」という 考えだが,実際には,留学準備において準備し過ぎるということはないはずで ある。普段の英語の授業をそうした準備に少しでも役立てることが望ましいが,
もしそれが容易でないならば,何か別の方策が検討されるべきかもしれない。
2)ホームステイ先の変更が毎回1~2名の割合で生じている。ホストと コミュニケーションをとる機会が少ないという苦情や,その他学生の希望に 沿わないというが理由が多い。ホームステイ先に問題があれば,変更できる ことは事前に学生に伝えているが,オーストラリアは多民族社会であり,現 実には様々なホストファミリーが存在し,必ずしも学生がイメージしている 家庭にホームステイできるとは限らないのが実情である。ホームステイは学 生にとって,この短期留学における最大のチャレンジである。その点を踏ま えて,現地スタッフと協力して,ホームステイ先のマッチング方法を充実さ せていく必要がある。
3)開始以来,本プログラムへの参加を希望する学生が増加しているが,
費用の面で実現できない学生がいることも確かである。大学の国際化や国際 人養成のための教養教育の充実という本学の理念からすれば,将来的には,
すべての学部にわたって参加人数が増加していくことが望ましい。そのため には,なんらかの形で学生の経済的負担を少しでも軽減する措置を検討する ことが今後の課題となるであろう。その一方で,本プログラムの存在が,学 生の英語力向上(少なくとも英語学習に対するモティベーション向上)に対 して,どの程度貢献しているのかを,英語教育の観点から検証評価して,数 値化することが望まれる。本当に効果が期待できるプログラムであれば,そ れに対する支援の道が開かれるかもしれない。
参考文献
永井・村瀬(2006)「長崎大学における大学間交流の新しい取り組み」『留学 交流』第18巻12月号
pp.10-13
松村真樹(2007) 「第1回オーストラリア短期英語研修:単位認定と海外体 験学習の両立を目指して」『長崎大学留学生センター紀要』
第15号
pp.1-16
松村真樹(2008) 「第2回オーストラリア短期英語研修実施報告―参加学生 のホームステイ体験を中心に―」『長崎大学留学生センター 紀要』第16号
pp .111-116
(留学生センター准教授)