金 沢大学 十 全 医 学会 稚 誌 第8 8巻 第1 号 1 3‑3 7 (1 9 7 9)
生 体胸 管の Ⅹ 線 学 的 考察
‑ リ ン パ 管造 影 法 を 利 用して 一
金 沢大学 医学 部 放射 線医学教 室 (主任 : 高 島 力 教 授)
宮 谷 博 久
(昭和5 4 年1月6 日受付)
な お本論文の要 旨は, 第6 7 回 日本医学放 射 線 学 会 中部 地 方 会に て発表し た.
Kin m o nt h 法.J2Jに よって報 告さ れ た直 接リ ン パ 管 造 影法は. 肉眼解 剖学的研 究にた よ ら ざ る を 得 な かっ
たリン パ系の研究を生体で、 そ の動 態 的、 形 態的な観 察 下で の研究へ と 発展さ せ た. 従って胸管も同 様にそ の生体で生理的な流れに よって観 察 可能と なっ た.
胸管は下肢, 腹部 等のリン パ系を統 合し静 舵 系に導 び く 人体 申最大 卜最長の リン パ本幹であ る. 発生学的 観 点か ら論ずると. 下 等 脊 椎動 物になっ て始めてリン
パ洞の形成が み ら れ 上進化に伴い脊椎 下リン パ洞が 2 本の胸管と な る・ 爬 虫 類, 鳥 類では 通常 左 右2 本の胸 管が み ら れ 噂 乳類以上におい ては 1 本の胸 管と な り. 人体で は右鯉弓動 脈 由 来の胞大 動脈の消 失に伴って右 側胸管は消 失し. 左側胸管だ け が残 存す る様 式が 一般 的な 形 態であ る3卜5J.し か し な が ら右 側 胸 管の過残 様 式
に よっ て は, し ば し ば破格 (Va riatio n) と して認 め ら れる・ ま た乳ビ槽は脊椎 下リン′ヾ洞の尾 方適残と考え ら れてお り・ そ の過残 部 位は乳ビ槽の解剖 学 的位 置関 係 を支配 す る3】.
以上の様に胸 管は乳ビ槽を起 始 部と し左 内頸 静脈お よ び左鎖骨下 静脈の合す る静脈 角に開口 し. そ の走行 中 には縦 隔リンパ節や鎖 骨上 窟リン パ節と も 密接な 関 係 を 持って い る・ 従 って縦 隔内 各種 疾患 な かんず く 悪性リ
ン パ腫 症 や癌のリン パ節 転移の症例におい て胸 管の状 態 を知ること は 臨床 上重要であ る. し か し な が ら 個体 差 が か な り 認 め ら れ る管であ る た め生 体 内で順行 性に 造 影 す ることに よっ て. それ らの関係や破 格を熟知 し てお くことは臨 床上, 必要で あ る. 以上, 縦隔 リン パ 系の病 的 状 態を 理解す る た めの基 本であ る 正常 胸 管の 形態の認 識 は 臨床 家にとって重要であ る.
13
そ こ で本研究は K in m o nth 法のリン パ 管造影 法を 用い第1 に胸 管の形態 的 観 察と して, 胸 管の全体 像, 乳
ビ槽, S egm e ntal ple x u sfo r m atio n, 終 末 部につ い て , ま た 縦 隔リ ン パ節. 鎖骨上 窟リン パ節の描 出にっ い て . それぞれ Ⅹ線学的に検討し た. 第2 に破格を持
たない正常型 胸管の生体 内にお け る 走行状 態を性 別, 年令別, 大動脈 延長の程 度 別, 胸 廓 巾の大小 別の4 つ の観 点 か ら Ⅹ線 解 剖学的に観 察す る目 的で胸 管と 胸 椎 および大 動 脈との距離を計 測し統 計処理 を加え るこ とによって分析し た.
研 究 方 法
1 . リン パ管 造 影の手 技
本研 究 に 使用 し た リ ン パ 管 造 影 方 法
は, Kin m o nth 法に準じて行っ た. 患者を背 臥 位にし 両側と も 母 址 と第2 址の址間皮 下に色 素 剤 (Pate nt b lu e V 液 あ るい は0.5 % Ev a n s b lu e 液 ) を約2rn.e 注
射 する・ 約1 5 分 後. 足背.第1 ある い は第2中址 骨上
の皮 下に局所 麻酔 を 行い縦ま た は横切 閲し色 素に染っ
た リ ンノヾ管を みつ け る. 周 辺の脂肪や結 合織を充分 剥 離 しリ ン パ管造 影 用 27 G 貿状 針を リン パ 管 内に 穿刺 し 固定する. 葉状 針を 造 影剤注入 器に セッ トし油 性造 影 剤. Li piodol ul tr afluid の注入を 開始す る. こ の 油 性 造 影 剤はヨ ー ド化ケシ油脂肪酸エ チル エ ステル ,
ヨード含量 3 8 WノW % であ る. 注 入器は電動 式 自 動 注 入 器 を 用い2 kg /C m2 の圧力で毎 分約0 .1 mL の速度で 両 側 1 0 〜 1 4 m上の造影剤 を注 入し た. 撮影は造 影 剤 注 入 終 了 直 後 および 2 4時間後に施 行さ れ,そ れ ぞ れ 胸部 正側. 腹 部正 面 と 両斜 位,骨盤正面Ⅹ‑P を 撮影し た.
T he rad iolo gic study of tho r a cic d uct in t he hu m an o n ly m phogr a ms. H iroh isa
Miya h ni・ Depa rtm e ntof Rad iology・ Scho ol of M edicin e,Ka n a z aw a U niv ersity(D ire cto r;
Pr of・ T・ Taka sh im a M . D).
直後 像で は主にリン パ管 像が得ら れ. 2 4 時 間 像で は 主にリン パ節 像を得ること ができ る. 撮 影に使 用し た X 線発生 装 置は東芝勉K X O‑1 5, 管球は東 芝 製 D P X・ 9 1 3, 増感 紙は極 光L T・2 を使 用し. F F D 1 50c m ,胸 部
正 面 Ⅹ・P は管電流2 0 0m A. 管 電圧 9 5 Kvp. 6 / 1 2 0inp で撮影し, 胸部 他 面Ⅹ‑P は管 電 流1 0 0m A, 管 電 圧 9 5 K vp,8/1 2 0inp で撮 影し た.
Ⅱ. 対 象
1 . 胸管の形 態に関す る観 察
昭和4 2年4月か ら昭和53 年3月まで の期 間に金沢 大 学医学 部 放 射 線 科で施 行さ れ た K in m o nth 法リ ン
パ管 造 影3 9 6 例のう ち リン パ管 造 影 上 異 常が み ら れ ず, かつ リン パ管 造 影で得ら れ た胸 部 正 側Ⅹ‑P 上. 胸 管の走行が横隔膜の高さ か ら静 脈 流 入 部まで確認可 能 な 1 2 0 例 を 研究対 象と し た.男5 3 例.女6 7例であ る. 年令 分 布は表1 に示し た.
2, リン パ節描 出に関 する観 察
対象 は 1 の胸 管の形 態に関す る観 察で用いた対 象と 同じである.
3. 胸 管の走行 位 置に関 する観 察
上記 し た 1 の胸 管の形態に関 する観 察で用いた対 象
のうイち胸 管に破格を有す る症 例2 4例を除外し た 96 例 を対象 と し た.
Ⅲ. 観察項目, 統計 的 処理 につい て 1. 胸 管の形態に関す る観 察 項 目 1) 胸 管の全 体 像の形態 2) 乳ビ槽の位 置
3) Segm e ntalple x u sfo r m atio n 4 ) 胸管終 末 部の形 状
2. リン パ節 描 出に関す る観 察 項 目 1) 縦隔 リン パ 節描 出につい て 2) 鎖 骨 上 寄リン パ節 描 出に つい て 3. 胸管の走行 位置に関 す る観 察 項 目
胸 管の走行 位置 を 調べる た め に胸 椎を基 準と して正
Tab le l : Se x a nd age ofthe c a s e s.
r 叫e
Se x Male Fe m ale
く1
.9 4 2 .
2 0 ‑ 2 9 6 6
3 0 ‑ 3 9 6 7
4 0 ‑ 4 9 5 7
5 0 ‑ 5 9 1 8 】2 0
6̲0 ‑ 6 9 8 1 4 . 7 0 く ¢. ′.1 1■
でOtal , ■■■5■3 ・ 6う
面像お よ び側面像で図1‑a,図 2・C の如く計 測し得ら れ た結 果に つい ては性 別. 年 令 別, 大 動 脈延長の程 度 別. 胸廓 巾の大 小 別の観察 項 目 別に検 討し た.
ま た 大動脈の延 長の進行によって胸 部 大 動 脈と胸 管
の位置 関係が どの様に変化す る か を知る目 的で胸 部 大 動脈を基準と し た胸 管の走 行を正面 倣お よ び側 面 像で 図 1‑b . 図 2‑d の如く計 測し,大 動脈延長の程 度に分け て比較 換言寸 し た.
1) 性別 男 性, 女 性 2) 年 令 別
3 9 才以下, 4 0才か ら 5 9 才までt60 才以上の3 段 階に分け検 討し た.
3 ) 大 動 脈延長の程 度 別
通常, 大 動 脈の延長を客 観 的に評価す る基準は な
いた めに,本研究では次の様にしてその評 価を し た. 胸部 正 面X‑P におい て個々 の胸 椎 左 縁か ら胸 部 大 動脈左 縁まで の距 離を計 測し. その平 均 値と標 準 偏 差 を 加 え た 数 値 が 2.7c m 未 満 の 症・例 を
mil d, 2.7c m か ら 3.5c m 未 満 の 症 例 を
m ode r ate,3.5c m 以上の症 例を s e v e r e と分 類し た. す な わ ち椎体か ら胸 部大動 脈ま での距 離t お よ び大 動脈の蛇行の2 っ の因 子で大 動 脈延長の程 度を
F ig.1.T he m e a s u r e m e nt s e ctio n o n A‑P vie w ・
*T D : tho r a cic du ct
生 体 胸 管の Ⅹ線学 的考 察
F i g、2.T he m e a s u r e m e nt s e ctio n o n late r al vie w .
Tab le 2 : Se x a nd degr e e oftho r a cic wi dth.
Se x Tho r a cic
W用t h
Mdle Fe m ale
A ‑ P Vl e W
Na r r o w̲ 6 44 5 0
椚 de 3 5 皿 4 6
Late r・al Vl e W
Na r r o w ロ 41 4 8
椚de 3 4 1 4 4 8
Tab le 3 : A ge a nd degr e e ofa o rtic elo ngatio n.
Ao rt ic A ge S Cle r o sうs
< 3 9 4 0 ‑5 9 60 く
Mう11 d 21 4 l 2 6
Mode r ate 8 2 0 12 4 0
Se v e r e ロ 皿 1 8 3 0
3 0 35 3 1 96
15
評 価 し た. な お 2.7c m . 3 .5c m と い う mi ld.
m ode r ate,S e V e r e と そ れ ぞ れの群を区分し た数 値
は絶 対 的な基 準では な く統 計 的に比較検 討し や す く 症 例 が片 寄ら ない様に設 定し た数値であ る. 4) 蜘 廓 横従 および前後 径の大 小別
胸 部正面Ⅹ・P で第8胸 椎 中 央の高さで胸 廓の構 繕を計 測し, 平均 値2 7.4c m よ り大きい症 例を
Wide,小さい症 例 をn a r r o w と し, 正 面 像にお け る 胞管と 胸椎との関係 が そ れによってどの様に変 化す るか を検 討す るの に使 用し た. ま た胸 部 側面X・P で は第8 胸機 中 央の高さでその前 縁か ら最 短の胸骨後 血まで の距 離を計測し. その平 均 値1 2.5c m より大 きい症例 を wi de,小さい症 例を n a r r o w と し側 面 像にお け る胸 管と胸 椎との関係が そ れによっ てどの 様に変 化す る か を検討す るの に使 用し た.
良2, 点3 に観 察 項目 別の症例 数を示し.性 別と胸 廓 巾の大小 別, 年 令別 と大 動 脈延長の程 度別との相 関々 係につ い て言己載し た.
実 際の計測にはノギスを用い1/2 0m m の精 度で 測 定 し 1/1 0m m の位まで記載し た. ま た胸 管の走行 経過
中に ple x u s を形成し ている郎放では,主 幹を有して い
るple x u s は主 幹を計 測の対象 と し. 主 幹を有さ ない
p le x u s は計測の対象 か ら除 外し た.
4. 統計 的 処理方 法
平均値 主=
法Ⅹi
分 散 S2= よi蔓1 (Ⅹト 音)2
標準 偏 差 S =ノよi蔓1
(Ⅹi ‑斎)2
棲準 誤 差 S更= 某
標準 鮎 率 盲詰×1 0 0( %)
平 均 値の比 較 t= 7宗袈
t く2.0 有 意差 な し
t > 2.0 有 意の差く危険率5 % ) t > 2.6 甚だ有意の差 (危険率1 % )
おのおの観察 項 目で分類し た群につ い て . 個々 の胸 椎の高さで平 均 値を算 出し有 意差判定を行なっ た.
結 果
Ⅰ. 胸 管の形態に関す る 観察結 果 1 . 胸管の全体 像の形 態 (図 3.表4)