金 沢 大学 十 全医 学 会維 誌 第1 0 8巻 第1 号 9 1‑ 1 0 2 (1 9 9 9)
ヘ ム オ キシゲ ナ ー ゼ 1
欠
損症
1家
系におけ
る遺
伝子 異 常
な ら びに細 胞
傷害機構の解
析金 沢 大 学 医 学 部 医 学 科小 児 科 学 講 座 ( 主 任: 小 泉 晶一教 授)
金 田 尚
ヘ ムオ キ シ ゲ ナ ー ゼ 1 (he me o xy ge n a s e‑1, H O‑1) (E C l.1 4.9 9.3) は 2椎 類 あるヘムオ キ シ ゲ ナ ー ゼの1つ であ り, 細 胞 内ヘ ムをど リベルジン,
一酸 化 炭 素お よ び鉄に代 謝す る律 速 酵 素と し て作 用 する. 種々 の酸 化ス トレ ス下 で急 速に誘 導さ れ る
こと で有 効な自 己 防 衛 機 構の1つ と し て作 用す る と同時に, 体 内 鉄 代 謝の恒 常 性にも 重 要な役割 を 果た し ている. 最 近, H O‑ 1 ノック ア ウ トマ ウス の解 析に よ り Ⅲ0‑1活 性の欠 損が成 艮 障 ※, 酸 化スト レスへ の脆 弱 性, 貧血, 多臓 器に お よぶ異常な鉄
沈着 を もた らすこと が示さ れ た. し か し な が らヒト疾患でこれ ま で H O‑1欠 損が直 接の楠 田と なったものは皆 無である. 今 臥 重 度の発 育 遅 延と遷 延 する全 身 性の炎症をきた し た 6 歳 別 巳に おいて最 初の ヒト Ⅲ0‑1欠損 症 を 同 定し, 患 者お よ び患 者 家 族
のH O‑1 蛋 白 発 現, H O‑1遺 伝 子 変 異お よ び酸 化ストレ スに対す る細 胞 脂弱 性を評 価し た. Epstein‑Ba rr ウ イル ス形 質 変 換B 細 胞 株 Oymphob la stoid c ell lin e,L C I) を用いた免疫 組 織 化 乍 及び イム ノブロ ッテイ ング に より, ,哲、者r甘来のL C L で はヘ ミン, 塩 化 カ ド ミウ ム, 亜枇 酸 など多様な刺 激 曝 露の際, H O‑1産/とが完 仝に欠刺し ていること が明ら か と なった. さら に 正常 対 照や他
の患 者家 族 由 来のL C L で はヘミン誘 導の細 胞死 に対し完 全に批 扶刑を示し た一 方で, 患 者由 来のL C L で はヘ ミンに よt) 誘 導 さ れ る細 胞 傷 害に対し て非 常に過 敏であった. これ ら は E O‑1 が酸 化ス トレ ス時の細 胞 防御に おいて重 要な 役 割 を 果た すこと を 示 唆する. H O‑1 m R N A の発 現はへミン刺 激 後のL C L を使 用し て逆 転 写P C R 法 (r e v e r s etr a n s c ribed‑P C R,R TIP C R) で検 討し た. 患 者で は 2 つの異なっ たバ ンド が検 出さ れ, P C R 産 物を 用いた ダ イレク ト シ ー ケン ス法に より, 長い バ ンド は父方 対 立 遺 伝 子に由 来し たエ クソ ン3領 域 内の2塩 基対 欠 失に, 短い バ ンド は母 方 対立遺 伝 子に由 来し た完 全 なエクソ ン2スキッ ビング 変 異に‑ ・致し ていること が判 明し た. 両 変 異ともフ レ ー ム シ フトを生 じ て H O‑1 蛋白 質は甲・期 翻 訳 終 結し ていた. 患 者 家 族の 保 因 者 診 断は R T‑P C R なら び に変 異 特 異 的P C Rを 用いてエクソ ン3 領 域 内の 2塩 基 対 欠 尖, エクソ ン2スキッ ビングを各々同 定し, 患 者の姉は父 由 来の変 異 対立遺 伝 子を 持つ保 因 者で あ ること が決 定さ れ た. いずれの変 異 対立遺 伝子とも1 0 0孝一の非血 緑 健 常 者 対 照 群で は検 糾さ れなかっ た. これ らの結 果か ら患 者は H O‑1変 異の複 合ヘ テロ接 合 体と確 認さ れ, ま た Ⅲ 0‑1 は実 験 培 養細 胞内, 生体 内を 問わずストレ ス誘導に よ る細 胞 傷 害の際に重 要な防御 的 役 割を果た し ていること が強 く 示唆さ れ た.
K ey w o rds h e m e o xy ge n a s e‑1,he min (fe r ripr otopo rphyrin Ⅸ chlo ride),0 Ⅹidativ e stre s s, a n n e Xin
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生物は進 化の過 程で大気 中に人量に存f仁する酸 素を電J
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受容 体と し て, 嫌 気 性 呼 吸に比べよ りエ ネルギ ー 牛成効 率の痛い酸 化 的リン酸 化を行 うこと で地 球 内 環 墳に適 応してきた. 同時に 細胞 内で 生成さ れ る活 性 酸 素種は= 血球の殺 菌作 用や制 癌 作 川 と し て 生体 防 御 機 構に利 用さ れ るもの の, その強ノコな 生物 毒性
のた め僅かの量でもス トレ スと なり 得る. 活性 酸 素 種はこれ ま で動 脈 硬 化や炎症, 虚 血 性 心 疾 患l 胃 粘膜 障 害な どの疾 病のみ な らず 発 癌や老化との関連 性が知ら れ て おり, 生物は前件 酸 素 種 を消 去す る機 構な し に は 生存できない1). 多 様な抗 酸 化 防御 機 能を 有し た 生物のみ が現 在 まで進 化 を遂 げたのは当 然の摂理 である. 生 体 内での抗 酸 化 酵 素 群と し て ほ前 駆 物 質 を 除 去 する ス ー パ ー オ キ シ ド ジス ムク ー ゼ, カ タ ラ ー ゼ, グルタ チ オンペ
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ルオ キ シ ダー ゼ が代 表 的2) である が, 熱ショ ック ファ ミリ ー の
lい にも 酸 化スト レスに より 臓く 誘導さ れ, 傷 害 部位の構 造お よ び機 能の保持 作 刷を有す るものが存 在す る:iトl)
ヘ ムオ キ シ ゲ ナ ー ゼ(he m e o xy ge n a s e,H O) (E C l.14.99.3) は
ヘム分 解の律 速 酵 素で ポル フ ィリン環へ の酸 素添 加に よ りヘム を開 環さ せ, ヒ リベ ルジン,
一 酸 化 炭 素, 鉄が 生成さ れ る5).
H O に は H O l互= H O‑1) と白0 2型 (H O‑2) の2 種 類が存 在 するも
の の
, 全 く 異なった単一一一コ ピー 遺伝 子に由 来し, ヌク レ オ チ ド 配 列ヤアミノ酸 構 成に お け る相 同性は極め て低い̀う)H卜1 1j. H O‑2 は構 成 的に合 成さ れ中 枢神 経 系や精 巣で優 位に存 在し, 糖 質コ ルナコ イ ド 以外の ストレ ス刺 激に は全 く 反応しない(5). 最 近で は H O‑1遺 伝 子 発 現の制御6) や射 精7) への関 与が解 明さ れつ つ
平 成1 0年1 1月2 6 日受付, 平 成1 1 年1 月22 日受理
A b br e viatio n s : bp, ba s e pair s;d N T P, de o xyribo n u cle otide tripho sphate; F IT C,fl u o r e s c einis oth io cya n ate; H B ,
hepe s bu触r; H O, he m e o xy ge n a s e;IL,inte rle ukin;L C L ,1ym phobla stoid c ell lin e;P B S, Ph o sphate‑buffe r ed s alin e; R T・P C R,r e V e r S e tr an S C ribed‑P C R;T B S,
′什is‑bufEe r ed s alin e
9 2 金
あるもの の, 生 理 作 用は未だ不 明な点が多い.
一 方, H O‑1 は
従 来, 熱ショ ッ クファ ミ リ ー の 一 員である熱ショ ック蛋 白3 2 (he at‑Sho ck pr otein 3 2) と し ても 知ら れ るストレ ス誘 導 型の抗 酸 化 酵 素であり12 ), 肝 脾な どの網 内 系 を 中 心に体 内で普 遍 的に 存 在 する5)6). H O‑1 自 体に は直 接の防 御 作 用は なく, 酸 化ス ト レ ス に対し て は抗 酸 化 作 用や抗 炎 症 作 用を有 する, ヘ ム分 解
の代 謝 産 物である ど リベ ルジン, 一 酸 化 炭 素ならび に 二次 産 生 物であるフェ リ ナンが増 生さ れ る こ と で生体 防 御に働いてい
る1 3卜1 6). 通 常マクロ ファ ー ジ 以外での発現は検 出 限 界以 下 で ある が, ヘ ミン17)18), 酸 化リ ボ蛋 白1 9) な どの酸 化ストレ スや 高 熱2(‑) だけでな く, 亜枇 酸1 2) に代 表 され る重 金 属, 紫 外 線Ⅰ2) や 可視 光線21), 炎症 性サ イ ト カ イン2 2ユ, エ ンド ト キ シン2 3), 低 酸 素24) など多 種に わ た るス トレ ス刺 激に より 短 時 間で数 十倍
レ ベ ルにまで発 現が増 強さ れ る. こ れ ら は E O‑1遺 伝 子のプロ
モ ー タ ー額 域に11 S F (he atqsho ck n u cle ar fa ctoわ,A P→1(a ctiv ato r pr oteinTl), N F 〟B (n u cle a rfa cto r K B) などの制 御 因 子が結 合 する こ と で配 明 され ている25卜2即. 以 上 か ら H O‑1 は他の熟ショ
ックフ ァミ リ ー と同様にストレス下 で急 速に発 現 すること で 生
体防御に働いているもの と考 えら れ ている2 8卜31)
最 近Po s s ら32)3 3)は H O‑1 ノック ア ウトマウスを 作 製し, H O‑1 欠損マウスは 一 定の過 齢を超 える と巨大 分 子 群の酸 化 傷 害, 組 織破 壊 なら び に慢 性 炎 症を自 然に発 症 する こ と, また貧 血 も 合 併し て綱 内 系臓 器での食 細 胞と実 質細 胞 内へ の鉄 沈 着 を きたす
ことを 報 告し ている. これ らの事実よりH O‑1 欠損は単にス ト レス応答に対 する脆 弱 性だけで なく, 酸 化ス トレ スに よ って集 積し た細 胞 内 遊 離 鉄の排 除と再 利 用の障害が重 要である と し て いる. し か しなが らこれまでヒト H O‑1欠損 症の報 告例はな く,
ヒトの ストレ ス応 答に お け る H O‑1の生体 防 御 物 質と し ての役 割は不明 な 点が多い.
今 回, 2歳2 ケ月 時より 強い血 管 内皮 傷 害を伴っ た原 因 不 明
の慢 性 炎症が持 続し, 貧血, 低ビ リル ビン血症, 肝 膿 大を認め ている 6歳の男 児に おいて, H O‑1欠 損 を 同 定し34), 患 者お よ び 患 者 家 族の細 胞レ ベ ルでの スト レス応 答に お け る細 胞 傷 害と H O嶋1発 現との関連 性 を 評 価 する と同 時に, 患 者の遺 伝 子レベ ルでの変 異の同 定な ら び に家 族 内保 因者の診 断 を 試み, 患 者 病 態との因果 関係 を検 討し た.
対 象お よび 方 法
L :対 象
対 象は金 沢 大 学 医 学 部 小 児 科に て経 過 観 察 中のH O‑1欠 損 症 患 者お よ びその家 族の1家系である( 囲1). 患 者以外の家 族は
いずれも 健 康であ り, 母 親に は 2 度の流 産 歴がある. 後 述の検 査は全て家 族への説 明お よ び同 意を得た 上 で実 施し た. 患 者病 歴は以下の通 りである.
患 者 ( 図1 , Ⅱ‑5) : 2 歳2 ケ月 時に弛 張 熱と全 身性の紅斑の 出 現があ り 近 医 を 受 診 した. 明ら かな 身 体発 達遅 延があ り, 著 明 な 肝 腫 大を伴っていた が牌 臓は触 知さ れなかった. 腹 部 超 音 波 検 査と99 mTc コ ロ イドシンチ グ ラフ ィ ー か ら無 脾 症と確 認さ れ た. 血液 検 査で は著 明 な 白 血 球 増多(5 1,6 0 0//∠l), 血小 板 増 多(2,2 6 0,0 0 0/〃1), 血液 凝 固 線洛 系の克 進 (フ ィブ リ ノ ゲン1 0 9
mg/dl, フ ィブ リ ノ ゲン分 解 産 物D ダイマ ー 1 8 6.1 iLg/d l, ト ロ ンビン ー アンチ トロ ンビンⅠⅠⅠ複 合 体2 0 2.2 /Jg/ L, プ ラスミ ン ー α 2プ ラス ミ ンイ ン ヒビ タ ー 複 合 体2 2.3 m g/d l, V O n
W illebr an d 因子 活 性 58 0 %, トロ ンボモジュリン1 2 F U/ml) お
よ び W H O 分 類でのⅤ型 高 脂血症 (血清 総コ レ ステロ ー ル 5 5 2
m g/dl, ト リ グl) セ リ ド 6 3 8 mg/dl) を 認め た. 血清フ ェリ チン
(78 0 ng/d l), 乳 酸 脱 水 素 酵 素 (1 7,7 4 0 I U/ U , アス パ ラギン酸 ア ミノ基転 移 酵 素 (4 4 2 I U/ U は共に 上昇し ていた が, ア ラニ
ン アミノ基 転 移 酵 素は 正常 範 囲 内であっ た.
一 方, 小 球 性 低 色 素性 貧血 (赤 血 球1.4 8×1 0(ソ/∠1, ヘモグロビン濃 度4.9g/dl) が 持 続し血清ハプ ト グロビン濃 度の上昇 (8 7 8 m g/dl) を 認め てい たの に対し て, 血清ヘ ム濃度は異 常 高 値 (4 9 0/∠M) を, 血清 稔 ビ リル ビンは低 値 (0.1 ‑ 0.3 mg/dl) を推 移し ていた. 経 過 中に
Co o mbs 試 験が数 回施 行さ れ た が直接, 間 接 共に常に結 果は全
て陰 性であっ た. インタ ー ロイ キン(inte rle uk in,I L) ‑6 は軽 度 高 値 を 示し た が, 他の血 清サイト カインはⅠし2, 腫 瘍 壊死因子
a (tu m o r n e c r o sisfa cto r‑α), インタ ー フ ェロ ンγ (inte rf tr o n‑ γ) はいずれも正常範囲 内であっ た. また紹 介 医入院 時に開 腹 肝 なら び に腎 生 検が施 行さ れ た. 肝 組 織で は グ リソ ン鞘への軽 度リン パ球 浸 潤 を 認め たのみ で線 維 化や脂 肪 変 性な ど は著 明で な か った. 腎 組 織で は糸 球 体は軽 度メサンギ ウム基 質増 殖を認 め るのみ であっ た が, 透 過 電 子 顕 微 鏡 像で は基 底 膜か らの血管 内 皮 細 胞 解 離と内皮 細 胞下の沈 着 物 を 認め た. ベ ルリン青に よ る鉄 染 色で は腎 尿 細 管, 肝 実 質 細 胞な ら び に Kupffe r細 胞に鉄 沈 着 を 認め た. 開腹 生検 時に左 季 肋下 に は癒 痕 病 変 を 認め た が 脾 臓と は同 定 困 牡であっ た. 当 科 初 診 時か ら経口ステロイ ド剤,
非ス テロイ ド性 抗 炎 症 剤の投 与と定 期 的な 輸血 に よ る治 療が行 わ れ, 溶血性 貧血 の進 行 抑 制 まで に は至ら な かった が全 身の炎 症 反 応は比 較 的 良 好にコ ントロ ー ルさ れ, 重 篤 な 感 染の合 併 も なく 経 過し ていた. し か し発 症か ら 4 年が経 過し た時 点で慢 性 硬 膜下 血腫 を併 発し た. 穿 頭 洗 浄 術は成功し た が, 術 後 経 過 中 に感 染の合併に続い て, 突 如 心 肺 停 止をきた し, 死 亡し た. 患 者は病 理 解 剖 を 行い, 現 在死亡原 因 を 究 明し ている.
】l. 方 法
1 . EpsteinqBa r r ウ イル ス形 質 変 換B 細 胞 株 Oymphobla stoid
c ell lin e,L CU の樹 立
イン フ ォ ー ムドコ ンセン トを 得た患 者, その家 族お よ び 3 字Ⅰ
の健 常 者よりヘ パ リン加 末 梢 静 脈血 よりフ ィ コ ー ルーハイ
パ ー ク (F ic oll‑Hy paqu e) 比 重 遠 心 法に て分 離し た単 核 球 を
ⅠⅠ
1 2
3
4メ
5Fig.1. Ped igr e e with H O‑1 de丘cie n cy.T he ar r O Windic ate s the Pr Oba nd ofthe ped igr e e. C ir cle s
,fem ale s; Squ a r e S, m ale s; s mall clo s ed cir cle s,al) O rtio n s;half・filled, the pate r n al o r m ate rn al hete r ozy gOte;負11ed,th e c o mpo 11 nd hete r o zygote.
鹿 野 軒 数 乳 瞥 温 乳 計