熱応力割断中のき裂進展形状と応力拡大係数の解析
本村 文孝*1・今井 康文*1 才本 明秀*2
Analysis of the Stress Intensity Factors and the Shape of a Crack Growth on a Thermal Stress Cleaving
by
Fumitaka MOTOMURA*,Yasufumi IMAI*,Akihide SAIMOTO**
3D finite element analysis of thermo-elastic problem was performed to relate between the crack front geometry and the crack growing velocity in a thermal stress cleaving. In a stable crack growth, the crack front geometry through a plate thickness becomes so as for the stress intensity factors to distribute as much same value along a crack front. The faster a crack growing velocity, the wider a crack front leaves from a center of heat source to show stronger stress singularity. Analyzed result explains well the experiments.
Key words: Thermal Stress Cleaving, Interference Fringe Method, Unsteady Thermal Elasticity, Finite Element Method, Virtual Crack Closure Integral
1.まえがき
テレビや携帯電話のディスプレイに使用される液晶 やPDP基板としてガラスの役割は大きく,更なる加工 効率の改善が嘱望されている.本研究では液晶基板素 材であるソーダガラスを,熱応力を利用して割断する 際のき裂進展挙動の撮影に成功したので,有限要素解 析による破壊挙動の説明を試みた.
2. 実験方法および実験結果
実験装置の概観を図1に示す.顕微鏡に作動距離の 長い倍率5倍の対物レンズを取付けガラス端面から板 厚方向を観察する.その際,ガラス板厚内部を進展す るき裂の開口量を測定するために,撮影系に垂直方向 から,ハーフミラーを介して観察光を入射させる.観 察光には4つにピークを持つ超高圧水銀ランプを用い るが,432[nm]の波長を入射させるためにバンドパス フィルタを光路中に設置した.開口したき裂面にて干 渉した干渉縞を CCD カメラにて撮影し,ビデオ録画 した.録画した画像を静止画とし,画像処理を施すこ とで,ガラス板厚方向全長の干渉縞を解析し,き裂開 口形状の分布を計測した.
2.1 き裂先端の撮影位置決め
試験片寸法 300×25×1.1[mm]のソーダガラスの 25[mm]幅を対称割断する際のき裂進展の様子を撮影 した.実験ではレーザ照射位置を固定して,リニアガ イドのステージに載せたガラス板を移動させた.割断
中央部付近のき裂はレーザ照射位置後方を,ほぼ一定 距離を保ちながら熱源を追従する.き裂先端近傍を撮 影するには,レーザ照射中心位置とき裂先端の距離を 予め測定しておく必要がある.熱源移動速度に対する き裂とレーザ照射中心位置の関係を図2に示す.測定 した加熱条件のもと,ほぼ直線関係である.
2.2 連続照射の干渉縞画像
撮影された干渉縞の画像を図3に示す.加熱条件と して,レーザ照射出力 4.7[W],レーザ照射径 5[mm]
の連続照射に対して,熱源移動速度4~8[mm/sec]につ いて実験した.図中のき裂進展方向は画面の左から右 であり,上方が加熱面側である.安定き裂進展中のき
Fig.1 Experimental setup
平成17年12月14日受理 http://www.lb.nagasaki-u.ac.jp/reports/kougaku/default.html
*1機械システム工学科(Department of Mechanical Systems Engineering)
*2大学院生産科学研究科(Graduate School of Science and Technology)
裂先端形状は加熱面側が先行しており,熱源移動速度 の上昇に伴い,先行の度合いは小さくなった.先行の 度合いは板厚 1.1[mm]に対して 0.4~0.7[mm]と非常 に小さい.また,板厚中央付近のき裂先端形状を直線 に近似したときの,板厚内のき裂進展方向への傾斜角 を図4に示す.有限要素解析ではき裂先端形状を直線 と見なし,熱源移動速度毎のき裂進展方向への傾斜角 に用いた.
Fig.2 Distance between a crack tip and a heating center
(a) 4mm/sec
(b) 8mm/sec
Fig.3 Optical interference fringes along a crack
front
Fig.4 Crack front inclination through the thickness 2.3 き裂開口量と応力拡大係数の算出
実験より得られた干渉縞画像に離散的フーリエ変換 と最大エントロピー法を併用することで,板厚方向に 分布するき裂先端の開口形状を精度良く得ることがで きる.得られた縞次数よりき裂先端か法線方向の距離 の関数として開口量を求めることで,板厚全長の応力 拡大係数が算出できる.応力拡大係数の算出には以下 の式を用いた,
( )
⎟⎟⎠⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
−
= ⋅
→ r
lim E KI r
δ ν π
041 2
2 (1)
ここで,δはき裂開口量の半分,rはき裂先端に垂直 な法線方向のき裂先端からの距離である.材料物性に は縦弾性係数E=71.6[GPa],ポアソン比ν=0.23を用 い,平面ひずみ状態とした.実験ではδとrの関係を 縞次数より決定する必要があり,関数近似が必要とな る.本研究では次の式を用いた.
( r b )
3/2c b r
a − + −
=
δ
(2)
式(2)のa,b,cが未知数であり,式(1)のδ/√rはaに 相当する.式(2)には一般的に右辺第1項までが使用さ れるが,前報(1) より関数近似に用いる縞次数の数によ っては,応力拡大係数の精度が極端に低下することが 示されている.つまり第1項のみを用いて応力拡大係 数を精度良く求める場合は,よりき裂先端近傍の開口 量を測定する必要がある.一方,第2項までを含めた 関数近似では,縞次数の数に寄らず,応力拡大係数の ばらつきも少なく,信頼性の高い評価が可能である.
もちろん式(1)が示すようにr→0の外挿による応力 拡大係数は項数に寄らず一定値に収束することは分か っているが,第2項までを使う有効性の1つにき裂先 端から離れた位置までの開口形状をうまく近似出来る ことが挙げられる.
次にき裂先端における応力拡大係数の分布を図5に
0 5 10 15 20 25 30 35
0 2 4 6 8 10
velocity [mm/sec]
angle [deg]
0 1 2 3 4 5 6 7 8
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
velocity [mm/sec]
distance [mm]
d
示す.平面ひずみ状態における応力拡大係数はほぼ 0.75~0.85[MPa√m]の範囲にある.但し,今回の干渉 縞画像では加熱面側でハレーションが起こり,き裂先 端近傍の縞次数をうまく評価できなかった.
Fig.5 KI distribution in the thickness 3. 解析方法
実験から得られたき裂進展挙動,特にき裂先端形状 のき裂進展方向の傾斜を説明するため,有限要素解析 をおこなった.熱源の移動に伴い,温度場は時間的に 変化するので,3次元非定常熱伝導解析によって得ら れた温度場を用いて,離散化した要素節点の温度より,
温度荷重を求め,非定常熱弾性解析をおこなった.
数値解析では非定常温度場の計算に差分法を,熱弾 性場の計算に有限要素法を用いた。差分法と有限要素 法に用いた節点が一致しない場合は,8 節点アイソパ ラメトリック要素による内挿により,有限要素の節点 温度を求めた
3.1 差分法による非定常温度場解析
レーザ加熱を模擬するために,温度境界条件として 熱流束を与えた.矩形板の表面を照射径内で均一な加 熱密度の移動円形加熱源により形成される温度場は板 表面からの放熱を考慮して,次式で表わせる.
{ }
(
inf in,j,k)
n k , j , i
n k , j , i n
k , j , i n
k , j , i n
k , j , i n
k , j , i n
k , j , i
T ch T
q dt ch T dt
h dt
T T
T T h T
T dt
⋅ −
−
⎟ +
⎠
⎜ ⎞
⎝
⎛ − ⋅ +
+ + +
⋅ +
= + − + − +
+
ρ α ρ
κ κ
2 2
1 6
2
2 0
1 1 1 1
2 1 1
ここで,κ,ρ,c,αの熱物性値はそれぞれ熱拡散率,
密度,比熱,対流熱伝達係数であり,h,dtは離散 化した要素サイズ,タイムステップである.ちなみに 上式はレーザ照射面側の熱伝導方程式である.
差分法では境界における要素寸法の取扱いに特に注 意を要する.温度評価点は考える要素中央となるため,
外部境界に接する要素には偏平な要素を充てることで,
外部境界に接する節点温度を求めることが一般的であ る.本解析では要素寸法を全て0.1[mm]四方の正六面 体で離散化した.このため,加熱開始の極初期段階に タイムステップあたりのエネルギが過剰な領域があり,
十分小さなタイムステップとする必要があった.解析 ではタイムステップを 0.1[msec]とすることで安定し た解が得られた.
3.2 有限要素法による3次元熱弾性解析
三次元解析に用いた加熱面平面内の要素分割の一例 を図6に示す.解析では,き裂が板幅半長あるので,
対称性を利用して板幅半分についてモデル化した.熱 源中心がモデル長さの半長 50[mm]まで移動したとき に,き裂先端が 45[mm]にある場合である.加熱源中 心およびき裂先端近傍で要素サイズが最小となるよう に分割した.また解析ではき裂先端形状がき裂進展方 向に傾斜した場合の板厚方向の要素分割をする際,傾 斜角による比較をおこなうために,加熱面側のき裂先 端位置を揃えた.
4. 解析結果
4.1 非定常温度場解析
熱源中心が移動する対称面内の板厚方向温度分布を 図7に示す.加熱面側表面の最高温度点は熱源移動方 向と逆の熱源径端部にあり,板厚 1.0[mm]ではあるが, 低速の熱源移動速度でも,非加熱面側の最高温度点は 熱源後方にあることが分かった.また熱源移動速度が 上昇すると,表裏面の最高温度点の距離は広がった.
本試験片寸法では,実験中に観察されたき裂先端位置 は表裏面の最高温度点に挟まれた領域にあり,熱源か ら離れた位置では板厚方向で一様温度になるが,き裂 先端位置は板厚方向に温度勾配が大きい領域にあたる.
熱源中心とき裂先端の距離は熱源移動速度の上昇によ り,広がる傾向にあり,熱源中心から 15[mm]離れた 温度分布は板厚方向にほぼ一様となっている.
4.2 2次元熱弾性解析
三次元非定常温度場の板厚方向に平均した温度分布 を適用して二次元熱弾性解析をおこなった.応力状態 は 平 面 応 力 で あ る . 熱 源 中 心 が 板 端 部 よ り 中 央 50[mm]まで移動したとき,き裂先端が熱源後方の任意 位置にある場合の応力拡大係数について,熱源移動速
度4~10[mm/sec]について図8に示す.熱源からき裂
先端までの距離が離れると,応力拡大係数が上昇する ことが分かった.また熱源移動速度が速くなると,き 裂先端位置による応力拡大係数の変化は緩やかになり,
ピーク値もより遠方となった.より大きな応力拡大係 数を得るためには,熱源移動速度の上昇に伴い,熱源 とき裂先端の距離は離れなければならないことになり,
図2の結果をうまく説明できている.
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1
plate thickness [mm]
KI [MPa√m]
4 [mm/sec]
6 [mm/sec]
8 [mm/sec]
Fig.6 Finite element division for 3-D analysis
(a) 4[mm/sec]
(b) 10[mm/sec]
Fig.7 Temperature distribution on a symmetric plane
4.3 2次元熱弾性解析
三次元非定常温度場の板厚方向に平均した温度分布 を適用して二次元熱弾性解析をおこなった.応力状態 は 平 面 応 力 で あ る . 熱 源 中 心 が 板 端 部 よ り 中 央
50[mm]まで移動したとき,き裂先端が熱源後方の任意
位置にある場合の応力拡大係数について,熱源移動速
度4~10[mm/sec]について図8に示す.熱源からき裂
先端までの距離が離れると,応力拡大係数が上昇する ことが分かった.また熱源移動速度が速くなると,き 裂先端位置による応力拡大係数の変化は緩やかになり,
ピーク値もより遠方となった.より大きな応力拡大係 数を得るためには,熱源移動速度の上昇に伴い,熱源 とき裂先端の距離は離れなければならないことになり,
図2の結果をうまく説明できている.
Fig.8 KI distributions at an arbitrary crack tip location
4.4 3次元熱弾性解析
二次元解析では板厚方向におけるき裂進展方向への き裂面の傾きを考慮できないので,三次元解析をおこ なった.実験より,安定き裂進展中のき裂先端形状は ほぼ直線的であったので,き裂進展方向に傾斜したき 裂先端形状を直線と見なして解析をおこなった.
(a) Inclination angle is 0 degrees
(b) Inclination angle is 32 degrees 0.0
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 distance[mm]
KI[MPa√m]
4[mm/sec]
6[mm/sec]
8[mm/sec]
10[mm/sec]
-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
dept from the surface[mm]
KI[MPa√m]
3mm4mm 5mm
6mm
-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
depth from the surface[mm]
KI[MPa√m]
2mm 3mm 4mm
5mm 6mm
Fig.9 KI distributions in the thickness 図9に熱源移動速度4[mm/sec]の場合,(a)傾斜角ゼロ
と,(b)実験より得られた傾斜角32°について,熱源と
き裂先端の距離を変化させた場合の応力拡大係数の板 厚方向分布を示す.傾斜角を考慮することで,応力拡 大係数の板厚方向分布が均一になる熱源とき裂先端の 距離があることがわかる.また傾斜角を考慮しない場 合,板厚方向への応力拡大係数は加熱面側が大きく,
加熱面から遠いほど減少する傾向が見られた.つまり,
き裂は加熱源側が先行することで,熱源に近づいた加 熱源側のき裂先端の応力拡大係数は破壊靭性値以下に なる.非加熱面側に近いき裂先端は,結果として傾斜 したき裂先端形状になる.
5. 結言
三次元有限要素法を用いた非定常熱弾性解析より,
安定き裂進展中のき裂は,き裂先端における応力拡大 係数が均一になるようにき裂先端形状を板厚方向に変 形させていることが示せた.また,二次元有限要素解 析同様,熱源移動速度の上昇に伴い,より大きな応力 拡大係数を得るためには熱源中心からき裂先端までの 距離は離れる必要があり,実験結果と良い一致を得た.
参考文献
(1) 長崎大学工学部研究報告, 35-65, (2005)