九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
ステレオビジョンカメラによる再構成路面情報に基 づくトラクタの挙動予測
愼, 素煐
http://hdl.handle.net/2324/4110557
出版情報:Kyushu University, 2020, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
氏 名 SHIN SOYOUNG
論 文 名 Prediction of Tractor Behavior Based on Reconstructed Terrain Profiles Using Stereo-vision Camera
(ステレオビジョンカメラによる再構成路面情報に基づくトラクタ の挙動予測)
論文調査委員 主 査 九州大学 教 授 井上英二 副 査 九州大学 教 授 田中史彦 副 査 九州大学 准教授 岡安崇史 副 査 九州大学 准教授 平井康丸
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
トラクタの転倒・転落事故による我が国農業従事者の死亡者数は,現在,年平均90人程度で推移 しており,農作業死亡事故発生の最大の要因となっている。これらの事故に対する安全性の確保に は,ROPS(roll over protective structures)と呼ばれる安全キャブ・フレームの装着が有効とされ ているが,本装置は転倒・転落時のオペレータの防護が主目的であり,転倒・転落事故そのものを 回避する手段ではない。
本論文は,転倒・転落事故を未然に防止することを目的に,トラクタ前方の走行路面形状(起伏)
をステレオビジョンカメラ画像から再構成した路面数値データを入力値とする,トラクタの3次元 力学モデルの構築に加えて,同モデルに基づく運行挙動予測シミュレーションを実施し,シミュレ ーション結果とトラクタの走行実験結果との比較・照査から,予測精度の評価と向上に関して検討 を行ったものである。
はじめに,トラクタ本体へのステレオビジョンカメラの設置・計測条件を検討し,複数条件の下 で走行路面の画像撮影と3次元数値データの再構成を行っている。その結果,再構成の精度には,
カメラの取付位置・角度,機体振動,起伏乗り越し時の重心移動が大きく影響していることを明ら かにしている。これらの影響を取り除くため,カメラのピッチ・ロール軸方向の回転を制御する 2 軸型ジンバル(電動スタビライザー)キット,3Dプリンターで製作した供試ステレオビジョンカ メラ接続治具,および,各回転軸方向のモータのPID駆動制御プログラムを組み合わせることによ り,トラクタ走行時の動的環境下でもカメラ姿勢を所定の状態に維持できるジンバルシステムを開 発している。その結果,本システムを導入したステレオビジョンカメラは,所定の取付角度を一定 にした状態で路面情報を安定的に計測可能であり,計測精度も飛躍的に向上することを実証してい る。
次いで,再構成された路面数値データをトラクタ 3次元力学モデルへ入力し,起伏乗り越え時の 機体のロール挙動の解析を行い,実走行実験結果との比較・照査を行っている。その結果,カメラ の取付角度が走行路面に対して90度の場合,再構成した路面数値データと実測値とのRMSEは他 の取付角度(10度および20度)に比べて最小となった。しかしながら,取付角90度でのトラクタ 本体へのカメラ設置は路面形状の早期取得の面から現実的ではなく,トラクタ前方の路面情報を早 期取得するには,取付角度 10度~20度が適当であることがわかった。そこで,路面形状の再構成 精度が比較的低い10度~20度のトラクタ挙動の予測精度向上を図るため,機体挙動の予測結果と,
ジンバル内蔵の慣性センサからの情報を観測値として,拡張カルマンフィルタを適用している。そ
の結果,路面形状の再構成精度が低いステレオビジョンカメラの取付角度条件下でも,取付角90度 の下で得られた機体のロール挙動のシミュレーション結果と同程度の予測精度が得られることを明 らかにしている。
以上要するに,本論文は,トラクタの転倒・転落事故の未然回避を目的に,ステレオビジョンカ メラによる走行路面の3次元再構成手法の開発と,得られた路面情報に基づくトラクタの運行予測 シミュレーション手法の構築により,路面形状の変化に起因するトラクタ挙動の予測精度の向上を 図ったものであり,トラクタをはじめとする圃場機械が関与する農作業事故件数の低減,ならびに 農業生産システム設計学の発展に寄与する価値ある業績と認める。
よって,本研究者は博士(農学)の学位を得る資格を有するものと認める。