九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
マイケル付加およびアルドール反応におけるナノセ ルロース増強型不斉有機分子触媒反応
ナリハリフェチャ, ジェシカ, ラナイブアリマナナ
http://hdl.handle.net/2324/4474894
出版情報:Kyushu University, 2020, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
氏 名 Naliharifet ra Jessica Ranaivoarimanana
(ナリハリフェチャ ジェシカ ラナイブアリマナナ)
論 文 名 Nanocellulose-Enhanced Asymmetric Organocatalysis in Michael Additions and Aldol Reactions
(マイケル付加およびアルドール反応におけるナノセルロース増強 型不斉有機分子触媒反応)
論文調査委員 主 査 九州大学 教 授 北岡 卓也 副 査 九州大学 教 授 近藤 哲男 副 査 九州大学 准教授 一瀬 博文
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
本論文は、有機典型元素のみからなる分子触媒を用いる高度な物質変換反応において、樹木由来 のセルロースナノファイバー(ナノセルロース)が、有機分子触媒反応の高効率化や生成物の不斉・
立体構造の制御に関与する現象および機構について検討したものである。
まず、針葉樹パルプから調製した表面酸化セルロースナノファイバー(TEMPO-o xid ized ce llu lose nanofibe r; TOCNF)を反応場とし、アミノ酸の(S)-プロリンを有機分子触媒とする不斉マイケル付加 に供したところ、シクロヘキサノンとトランス-β-ニトロスチレンの反応において収率が 35%から 88%に大幅に向上し、鏡像体過剰率(enantiome ric e xcess; ee)も改善される現象を見出している。様々 なケトンおよびニトロアルケンの組み合わせに対して反応増強効果が見られ、カルボン酸自体には 高い触媒活性はなく、高分子電解質のカルボキシメチルセルロースで効果がないことから、TOCNF が固体結晶であり、界面にカルボキシ基が規則的に配列しているナノ構造の関与が示唆されている。
次に、同反応系をシクロペンタノンと4-ニトロベンズアルデヒドを基質とする不斉アルドール反 応に適用したところ、収率99%でsyn体の(R,R)-エナンチオマーを89% e eで得ることに成功してい る。これは、TOCNFを添加しない場合の収率18%および64% e eと比べて著しく高効率かつ高選択 的であり、当該有機分子触媒反応系において、TOCNFがエナンチオ選択性を向上させることを見出 している。また、TOCNFがプロリン分解の主要因であるオキサゾリジノンの生成と、それに続く重 合を阻害することを NMRによる反応モニタリングで明らかにしている。さらに、詳細な分子動力 学シミュレーションにより、芳香族アルデヒド基質がセルロース Iβ表面の(100)面に配向吸着するこ とで、エナミン中間体の求核攻撃の方向に制約を与える反応機構を提唱している。木質系天然素材 であるナノセルロース結晶では、不斉炭素が高密度かつ規則的に配列しており、この人工合成不可 能な天然界面が不均一系触媒反応の反応場として有用であることが示唆されている。様々な種類の ナノセルロースや多糖系ナノファイバーを用いて、創薬に有用な不斉環化反応のビギネリ反応やロ ビンソン環形成反応にも展開しており、新しい概念の触媒反応システムとして期待が持たれる。
以上要するに、本論文は、持続可能な開発目標 SDGs への貢献が期待される環境に優しいグリー ン化学の有機分子触媒反応の開拓において、従来法の触媒自体の分子設計ではなく、触媒活性のな いナノセルロースを共存させることで、触媒反応の高効率化や生成物の不斉・立体構造を制御でき る可能性を示したものであり、サスティナブル資源科学および生物資源化学の発展に寄与する価値 ある業績と認める。よって、本研究者は博士(農学)の学位を得る資格を有するものと認める。