Research Paper of
The Institute for Accounting Study
Senshu University
No.30 2015.
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History and Issues about the Effectiveness of the Bank Cost Accounting :
Requirements of the Bank Cost Accounting that Contribute to the Growth Strategy
Masayuki Tanimori
はじめに 1873 年に澁澤栄一による日本で最初の銀行(第一国立銀行),1876 年には三井組によっ て民間ではじめて三井銀行(現 三井住友銀行)がそれぞれ設立された。銀行では早い時 期から複式簿記が導入され,管理会計についてもその名称が一般化する 1920 年代前の 1899 年∼1903 年には,すでに三井銀行において営業店別経営と営業店別の貸出標準額設 定管理が行われてきた記録がある。 『三井銀行 100 年のあゆみ』(三井銀行,1976 年)によれば,当時の各営業店別の損益 結果に基づいて 1911 年までに横須賀・足利・函館・和歌山・三池・四日市の 6 店舗が実 際に廃止されるに至ったとされる。ただし,当時の損益管理は,財務会計と区別されず, たとえば預金利息は営業店にとっての支出として原価の 1 つとされていた。 また,1956 年の大蔵省銀行局長通牒によれば,預金科目ごとの原価計算により採算状 況を検討することと,営業店別の独立採算制を完備して不採算店の廃止等の意思決定を検 討することが必要とされた。企業内部の管理会計にまで護送船団行政の影響がうかがえ る。その後,高度成長期には企業の旺盛な資金需要に比例して銀行の業績がよくなり,管 理会計は利益よりも貸出量などボリューム管理重視に傾注していった。 多くの金融機関では,バブルが崩壊し不良債権化するまでボリューム管理重視の管理会 計では十分に機能できないことが分からなかった。バブル崩壊後は,良質な金融ビジネス によって適切な利益をあげ,不良債権を処理しつつリスク管理を徹底し,資本を棄損する ことなくできれば増やす方向に向く管理会計が求められるようになった。 その結果,1990 年代半ばに相次いで管理会計が高度化された。信用リスクが計量化さ れて,予想されるリスク見合いのコスト(信用コスト)が管理会計に算入された。また, 金利リスク管理や ALM(資産負債管理)高度化を目的とする FTP(Funds Transfer Pric
ing;資金振替価格制度)が導入された。同時に,原価計算についても伝統的原価計算1に
代わって ABC(ActivityBased Costing;活動基準原価計算)の導入が進んだ。
最近では,非期待リスク量を部門ごとに計算して資本を割り当てる経営資源配分を導入 するところもある。その場合,配賦された資本に対する収益性を管理する指標として RAROC(RiskAdjusted Return on Capital)や SVA(株 主 付 加 価 値;Shareholder’s Value Added)がある。
3.2 標準的な銀行 ABC の内容
士銀行よりも少し前に ABC を導入したあさひ銀行や,さくら銀行でも同様に「業務の種 類別原価計算」の発展形としての ABC 適用であった。!木(2000)によれば,あさひ銀 行は伝統的原価計算の改善として ABC が適用されたとされるが,その伝統的原価計算は 図表 4 の「業務の種類別原価計算」であった。さくら銀行では前身の三井銀行の当時より 顧客別原価計算と店別原価計算が実施されており(谷守,2000),それら顧客別原価計算 の内容とは「業務の種類別原価計算」と同様のものであった。 さらに,諸井・米田(1978, p. 92)によれば,伝統的原価計算の事務に関する業務区分 に「単位事務原価計算」が適用されていた。この単位事務原価計算とは,前述の式 A の 通り事務件数に 1 件あたり処理標準時間を乗じ,事務量を算定するが,その事務量の割合 で最後に総費用を配賦している。このことからも銀行の伝統的原価計算における事務量の 役割が ABC の適用にあたっての重要な要素になっていたといえる。 3.5 銀行 ABC と TDABC の関係性
営業店 人件費 施設費 本部 人件費 販売費 事務センター 業務委託費 【経費】 配賦 預金業務 【アクティビティ】 【コストオブジェクト】 口座開設 営業店 商品 チャネル 入金 出金 営業店 【プレイヤ】 窓口 営業 本部 人事 企画 事務センター 振込業務委託 振替その他 振込 送金 貸金庫 ※本部費やセンター費等を元に,間接費を段階的に配賦し,より正確な営業店や商品別の原価を算出する。 ABC(活動基準原価計算) 配賦 配賦 4.4 銀行 ABC 導入当初のケーススタディーまとめ 銀行 ABC は,従来の「業務の種類別原価計算」の延長で事務の効率化の観点での経営 への適合性が認められたので,事務やシステム処理に関する原価計算の分野では一定の効 果があった。しかしながら,次の 3 点で導入時点から銀行 ABC には限界があきらかであ った。 第 1 に,オペレーショナルな活動以 ! 外 ! の活動ついては,納得感の高いコストドライバの 適用が実務的には困難であった。そのため,経営の意思決定に十分に適合しているとはい えない17。もともと銀行はほとんどが間接費であり,その原価計算には ABC が適してい ると考えられたはずであるが,オペレーショナルな業務活動以外のいわゆる「渉外営業の 活動」や「本社の企画部門の活動」などの間接費の管理については,銀行 ABC では十分 に管理できているとは言えない。すなわち,ABC で期待される間接費の管理の精緻化に ついては,現状の銀行 ABC では十分に機能していない。 第 2 に,銀行 ABC は事務量データをもとにしたコストドライバにすることで事務効率 化の面で適合性は高い反面,活動数が細かくなりすぎて銀行全体の経営への適合性があい まいになる傾向にある。事務量分析は,各営業店の適正人員を管理し,事務効率の改善に 図表 9 地方銀行 B の ABC 処理内容
出典:株式会社アイネット NEWS RELEASE,2012 年 11 月 9 日(http://www.inet.co.jp/topics/pdf/20121109.pdf )。
ス業務量は,顧客からの要求や取引であるため,その主体はあくまでも顧客側にある。い かに銀行側が商品サービス業務量を自らコントロールしようとしたとしても,顧客という 相手のある話であり,顧客がどう行動するかがすべての鍵となる。つまり,本質は銀行に 対する顧客の行動を予測するということである。 すなわち,銀行 ABC の運用上の問題点を解決するための対応案は,コストドライバの 予測(すなわち,顧客ごとの商品サービス業務量の予測)にある。さらに,その本質は 「コストドライバによって顧客行動分析を行うことで,顧客の行動を予測することができ る」ことにある。ただし,銀行では顧客行動分析のために限らず,コストドライバ分析自 体これまで十分に行われたことはない。一般に,コストドライバ分析とは,Shank and Govindarajan(1993)のいうコストドライバ分析のことをいう。Shank らのコストドライ バ分析とは,戦略分析を目的として構造的ドライバと遂行的ドライバを区別し,企業の戦 略的優位を明確化することにある。 本稿でいうコストドライバ分析は,顧客行動を分析し予測することが目的であり, Shank らの戦略的分析目的とは異なる。ただし,Shank らの構造的/遂行的ドライバの区 分については顧客行動分析のためのコストドライバ分析においても有用である。 7.1.1 顧客行動分析の方法
ィー・リソース確保の考え方が求められる。 7.2.2 顧客関係性に基づく差別化の考え方 欧米のリテール銀行においては,2000 年代後半から,顧客維持率と顧客ロイヤリテ ィーの向上のために RBP が適用されている。RBP とは顧客との関係性をもとに金利や手 数料の価格を最適にする手法である。リーマンショック後の欧米のリテール銀行で,収益 の維持と拡大のための施策として RBP の適用が一層進んだ。たとえば,Citibank や Bank of America ではサービスの提供だけでなくシステムの特許申請28までされており,その他
り,顧客別原価計算に顧客関係性が適用される検討ではない。
28 Citibank, N. A. の 2000 年 特 許 認 定(Relationship management system and process for pricing financial instru-ments based on a customer's relationship with a financial institution, U. S. Patent No. 6049782)と,Bank of America の 2011 年特許出願(Relationship-based pricing, U. S. Patent Application 13/209, 574)などがある。 29 RBP は他の小売業界や流通業でよく適用されているとされる。日本においては,取引状況にしたがって 関係性のステージを設けてポイント付与,契約状況による住宅ローン金利の優遇,口座の残高によって振込 が月に数回まで無料になるなどは RBP の初期の適用例である。 30 伝統的原価計算で配賦基準とされた資金量(残高)は,契約・行動・信頼のどの関係性情報にもあてはま らないので,顧客関係性の強化については全く考えられていなかったといえる。 参考文献 青木章通(2010)「顧客価値を評価する顧客別収益性分析の進展と課題―顧客生涯価値との関係からの検討 ―」『会計学研究』第 36 号,pp. 1−25。 伊藤嘉博(2011)「第 5 章 活動基準原価計算」 淺田孝幸・伊藤嘉博責任編集『戦略管理会計(体系現代会計 学)』中央経済社,pp. 127−154。 岩垂至・芳野武雄(1936)『銀行原價計算』非凡閣,pp. 1−3。 小野譲司(2008)「契約型サービスにおける顧客関係」『日本マーケティングジャーナル』Vol. 28, No. 2, pp. 15−27。 加藤和根(1930)『銀行原価計算の研究』森山書店。 君島美葵子(2012)「顧客別収益性分析に基づく意思決定―顧客セグメント別損益計算書の検討―」『国際経営 論集』No. 44, pp. 21−36。 金融情報システムセンター事務局(2003)『「金融機関におけるリスクを考慮した収益管理」勉強会報告書』 (財)金融情報システムセンター,pp. 61−82。 金融情報システムセンター調査部(2006)「リスク管理・収益管理に関するアンケート調査報告」『金融情報シ ステム 2006(冬号)』(財)金融情報システムセンター,No. 282, pp. 51−52。 金融庁金融審議会(2003)『リレーションシップバンキングの機能強化に向けて』金融庁,pp. 12−24。 古賀健太郎・谷守正行(2010)「日本の金融業における管理会計と競争力」『一橋ビジネスレビュー』第 58 巻 2 号,pp. 90−105。 櫻井通晴(1998)『新版 間接費の管理―ABC/ABM による効果性重視の経営』中央経済社,p. 231−233。 櫻井通晴(2000)『ABC の基礎とケーススタディ―ABC からバランスト・スコアカードへの展開』東洋経済 新報社。 櫻井通晴(2009)『管理会計 第四版』同文舘出版,p. 347。 島田康人(2004)「顧客別収益性分析の進展―期間的な問題を考慮した意思決定方法の検討―」『原価計算研 究』Vol. 28, No. 2, pp. 71−80。 島田康人(2009)「顧客別収益性分析の適用方法の考察」『原価計算研究』Vol. 33, No. 2, pp. 59−68。 志村正(1995)「ABC の意思決定における役割と資源消費モデル」『情報研究』Vol. 16, pp. 99−111。
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