『江戸八百韻』に見える「?」の訓みについて
著者 田中 巳榮子
雑誌名 國文學
巻 98
ページ 93‑107
発行年 2014‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/9230
はじめに ﹃江戸八百韻﹄に見える﹁吟﹂の 訓みについて
後に刊行された﹁合類節用集﹂に初めて見え︑それよりも古い
辞書には見えない︒また︑現在の﹁あつかい﹂に対応する漢字
は﹁扱﹂であり︑﹁鯵﹂を﹁あつかい﹂として使用されることは
︵1︶
ない︒拙稿一一○一一では︑同じ﹁江戸八百韻﹂の﹁胴郷﹂を﹁ヤ
︵2︶
サシ﹂と読むこと︑拙稿一一○一一一では︑﹁富流舗抜﹂の﹁悶る﹂
を﹁イキル﹂と読むことなど︑中国の字義に対応しない例につ
いて検討を加えてきた︒同様に︑本稿では﹁吟﹂を﹁アッヵヒ﹂
と読むことに注目して︑漢字と訓みの関係について検討するこ
とを目的とする︒
テキストには︑天理図書館綿屋文庫の﹁江戸八百韻﹂を使用
した︒また︑本文中の用例の傍線は稿者が付記した︒ 田中巳築子
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近世初期俳譜集﹁江戸八百韻﹂は︑﹁俳譜大辞典﹂に﹁既に談
林調にも嫌らずして更に何らかの新句境を開拓しようとする要
求が表に発し︑俳風革新の第一声を挙げたものとして俳諸史上
注目すべき作品である︒﹂とある︒用字の採択にも新句境を目指
す創意工夫が窺え︑
ソヨ 髪に鳥おどし強弓を引︵幽山五八八︶
アソカヒ 鯵の中もはなれし庵の月︵言水五八九︶
と﹁吟﹂を﹁アッカヒ﹂と読む句が見える︒
右の句の﹁鯵﹂は︑﹁仲直りをさせようと取成している間に﹂
と﹁仲裁﹂の意で用いられる︒このように︑﹁アッカヒ﹂に﹁略﹂
を当てるのは︑辞書では﹃江戸八百韻﹂︵一六七八年刊︶の二年
ハダケル ︹俳字節用集︺︵上九︶吟︿口を﹀︵一八一一一一一年刊節用集大系 ﹁鯵﹂は︑日本の辞書では以下のように収録されている︒
︵一︶日本の辞番 辞書類での﹁畷﹂と﹁アッカヒヲ︶﹂
︹説文解字注︺芸略﹂張口也︿小雅珍号修号毛日嘆大見﹀ ︹漢和三五韻︺︵坤巻麻Ⅳオ︶函修︿クチハルヲホクチ﹀上馨
努韻日又麻韻張口也︵一六
八六年板古辞書研究資料叢
刊第五巻大空社︶
たらす ︹男節用集如意宝珠大成︺︵言語︶吟すかす也︵一七一六年
刊節用集大系二六巻︶
ダラス ︹雅言俗語俳譜翌桧︺︵言語︶亜睦︿すかすなり﹀︵一七七九年
刊古辞書研究資料叢刊第一
○巻大空社︶
また︑中国の辞書では以下のような収録が見える︒ ︹新撰字鏡︺︵天治本盲嘆く丁羅反張口也緩唇也又丁佐反言猶
腎垂也﹀
︹類衆名義抄︺︵観智院本旨吟︿砂加反張口又多音又昌者 反唇下オホクチ禾タシ虚
帯反﹀︵仏中四二・四︶
夕 ︹白河本字鏡集︺︵一一巻︶略︵左訓シ︶︿ヲホクチハタヵリ
テワタ︑シ﹀
夕 ︹倭玉篇︺︵夢梅本︶︾略︵左訓シャ︶︿張口也︵左訓クチヲハル
ナリ︶唇下垂完︿左訓クチビルシタニタ
ル︑﹀
︹倭玉篇︺︵篇目次第言略︿虚紙切シ反ヲホクチハタカリ
皮堕唇垂﹀
夕 ︹倭玉篇︺︵慶長一五年版︶略︿ハタカリテヲホクチ﹀ クラスヲ ︹運歩色葉集︺函略︿1人﹀ ダラス ︹伊京集︺略
シヤ ︹合類節用集︺︵巻八下︶坤修︵左訓アッカレ﹂︶
アソカヒ ︹書言字考節用集︺︵第十一冊言辞門九︶恥修
︵二︶中国の辞書 六○巻大空社︶ 鯵︿俗用一此字﹃或用一
一一
暖字↓於吟義床詳﹀
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峰中世後期から多く見られるとある︒但し︑見出し字には
﹁扱﹂と﹁暖﹂はあるが﹁略﹂は記されない︒そこで︑﹁アッカ
ヒ︵うこに対して︑日本の古辞書ではどのような漢字が当てら
れているかを次に示してみたい︒
︹新撰字鏡︺︵天治本旨喝︿於月反傷熱也阿豆加布﹀
︹類緊名義抄︺︵観智院本言徳︿多勤反ノリサィハィメク ムトルヲクルアッシノホル
アッカフ﹀︵桃上三六︶・念熱︿アッ
カフ﹀︵法中八八︶
︹色葉字類抄︺零育︿アッカフ﹀・喝︿同﹀︵前田本下三○ウ/
黒川本下二五オ・ウ︶・念熱︿アッカフ﹀・敦
養︿同﹀︵前田本下四○オ/黒川本下三三
オ︶
︹温故知新書旨機・熱・喝・微・鶴・卿・暖・唾・初︵以上態
蕊門︶・念熱︵複用門︶・柄樺︵モ・複︶
︹運歩色葉集旨扱・暖・操・椛奄
︹倭玉篇︺︵篇目次第盲熱︿如折切セチ反ネチ反アッシァ ︵三︶漢字辞書での﹁アッカヒ﹂に対応する漢字
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︵中華民国六五年全園各大瞥局︶ シャノーIワ−1タリ ︹字棄︺亜﹁曙﹂薗昌者切車上声張口詩小雅降り号修号又大︲
ノノノ
ト.ンテラ ロ貌又唇下川垂貌又衆意囲哩於是珍︲然外南侯一也
ノシノ−ノ
又園尺里切音恥義︲同又圃丑亜切音姥義同又囲丁可
切多上︲聾義同又叶語敵呂切音杵悶昌陶閃馴圏圃園
ノニシテタリハー
紫焔嘘阿高癖垂下堕重︲星従︲坐錯︲落修修堕音吐
︵和刻本辞書字典集成第三巻汲古書院︶
タ クチヲハル ︹大贋益会玉篇︺卵﹁略﹂︵左訓シャ︶︿虚紙尺篤一一切張口﹀
︵和刻本辞書字典集成第二巻汲古書院︶
以上の辞書に﹃異体字研究資料集成﹂所収の﹁古俗字略﹂︵二
期八巻巻三・三七︶と﹁五経文字﹂︵別巻一下三六︶を付け
加えておくと
︹古俗字略旨嘆く大口﹀騨移捨套︿並同上﹀
︹五経文字旨略︿昌志反昌也反大也見詩大雅﹀
と収録がある︒
以上のように︑中国の辞書では﹁口を張る︑唇下がり垂れる︑
大口の貌﹂という義であり︑いずれにも﹁アッカヒ︵Z﹂に対
アツカヒ 応する義は見られない︒本稿で取り上げた﹁鯵﹂は︑同じ字形
であっても中国の字義とは対応しない日本独自の用法である︒
﹁日本国語大辞典﹂に﹁あつかひ﹂を﹁仲裁する﹂意に用いるの
ツカフアダ︑カタクマシ温盛
也﹀・蕪︿在火見如雪切トモスア
ッカフ﹀.鳴くイコフヨテアッカフ
イ祷同共﹀
サウ ︹倭玉篇︺︵慶長一五年版︶函扱︵左訓サッ︶︿トルアグルヒ
クヲサムウルサシハサムア
ッカウ﹀
︵四︶節用集での﹁アッカヒ﹂に対応する漢字
︹日本国語大辞典︺︵第二版二○○一年小学館︶
あつかい︻扱・暖︼あれこれと世話をする︒両者の間に立っ
て争いをとりなすこと︒訴訟や紛争の仲裁︒調停︒示談︒
かしらとして人々を取り締ること︒人の相手になって話し
たり︑もてなしたりすること︒あれこれと操作して動かす
こと︒⁝⁝
とあり︑また︑動詞﹁あつかう︻扱・暖・刷︼︵他︶﹂では︑右
の名詞とほぼ同じ意が記され︑左の語誌︵2︶に記される︵六︶
の用法には︑﹁両者の間に立って争いをやめさせる︒仲裁する︒﹂
とある︒ 抄・温故知新書の﹁念熱﹂︑または︑新撰字鏡・温故知新書・篇 目次第の﹁熱・喝﹂などは熱くて苦しむ様を表し﹁仲裁する﹂ とは意味が異なる︒しかし︑﹁日本国語大辞典﹂﹁角川古語大辞 典﹂﹁大言海﹂などでは︑﹁熱﹂と﹁扱﹂の関係の記事が見え︑ 自動詞から他動詞への変化に伴い︑﹁熱さに苦しみ煩う﹂意か ら︑﹁物事を処理する﹂意を持つようになることが記されてい る︒
︵五︶現代の国語辞典
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︹伊京集旨扱・描・観・宰・捕/︹明応五年本︺︹易林本節用
集旨扱/︹天正十八年本節用集旨扱・宰・撚/︹鰻頭屋本節
用集旨扱・暖/︹黒本本節用集︺恥扱・宰・荊/︹合類節用
アッカウシヤ 集︺恥扱︿又柵同取扱﹀・暖︿又略︵左訓アッカヒ︶同﹀/︹香 アッカヒ脚脚 言字考節用集︺恥扱・和諭・略︿俗用二此字﹃或用二暖字雪於吟義二
未し詳﹀/︹俳字節用集旨和諭︿暖/扱﹀
︵三︶︵四︶の辞書の中で︑﹁扱﹂は︑︵三︶の運歩色葉集・倭
玉篇︵慶長一五年版︶︑︵四︶では全ての節用集に﹁アッカヒ
︵フ︶﹂に対応する漢字として収録がある︒一方﹁睦﹂は︵三︶
では全ての辞書において収録されない︒類緊名義抄・色葉字類
生︒熱さに苦しむ︒熱がる︒暑さのために悩み煩うところ
から︑処置に窮する意に転じうる契機を持ち︑てこずる︑
もてあます意の他動詞﹁扱ふ﹂との交渉が考えられる︒
︹時代別国語大辞典室町時代編︺︵一九八五年三省堂︶ アッカィ卿脚 あつかひ︻扱一﹁扱・宰・柵﹂︵黒本節用︶︒人の相手になっ
て︑その人に対する評価に応じた対応︑取扱いをすること︑
もてなし︒﹁あひしらひ﹂︒ある人や事柄を話題としてあれ
これと各自の意見を述べること︒意見や立場を異にするも
のの間に立って事態をとりまとめ︑また︑妥協・和解する
ようにとりなすこと︒調停︒仲裁︒⁝⁝
あつかい とあり︑同書の略した記事の中には︑﹁宰物のかしら﹂︵和漢通
あつかい 用︶﹁柄手にて物をなおす也﹂︵和漢通用︶の記述がある︒動詞
γツカフ アソカウH ﹁あつかふ︻扱ふ︼︵動四︶﹂では︑﹁扱﹂︵易林節用︶﹁扱・椿﹂
アッカウ脚 アヅカウアッカウアッカウ ︵正宗節用︶﹁扱・暖﹂︵鰻頭節用︶﹁宰・扱・樵﹂︵天正節
用︶﹁手︑言葉などで処理する︒口︑手︑足などで処理する﹂︵日
葡︶と記す︒
︹大言海︺︵昭和七年冨山房︶
あっかひ︵名︶一捌一︵ニアッカフコト︒アッカフ仕方︒
待遇︵二︶戦争︑争論︑訴訟ナドノ仲裁︒和解︒調停
動詞﹁あつかふ︵他動︑四︶﹂でも﹁扱﹂のみが見出し字であ
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︷開園︵1︶もとは自動詞﹁あっかふ︵熱.暑︶で︑熱・病・
心痛など﹁事態に対して身をもって苦しみ煩う﹂ような意
であったものが︑﹁身を煩わせて事態に対処する﹂意に転
じ︑他動詞に変わっていくのにともなって︑﹁身を煩わせ
る﹂ことよりも﹁事態に対処する﹂ことの方に重点が移り︑
やがて前者の意味特徴は忘れられ︑単に﹁物事を処理する﹂
意となったものか︒
︵2︶中古から中世前期の物語などの例では︑何に対処する
かによって︑さまざまな文脈的な意味が見られるが︑かか
わりを持つ事態のためにあれこれ心を尽くして身を煩わせ
る点では共通している︒中世後期から多く見られる︵六︶
の用法も︑他人のもめごとに対して身を挺して処理すると
ころから生れたものと思われる︒
︹角川古語大辞典︺︵一九八二一九九九年角川書店︶
あつかひアッヵィ︻扱一世話をすること︒協定・裁判︒また︑
仲裁示談︒
とあり︑動詞﹁あつかふアッヵウ﹂では﹁扱・練﹂の漢字が見出
し字となっている︒また﹁熱﹂を当てる﹁あつかふ﹂には︑次
のような語釈が見える︒
あつかふアッカウ︻熱かふ︼﹁あつし︵熱︶﹂の語幹からの派
︹古文書古記録語辞典旨暖あつかい鯵︑扱とも書く︒①世
間のうわさ︑評判︒②支配︑領知︒③紛争解決のための仲裁︑
ゆ麓 調停︒紛争当事者がその解決を第一二者に委ね和解する制度
らゅうにん ︵中人制︶︒貸借︑売買︑土地争いなどの民事と︑刃傷︑殺人
などの刑事︑また合戦などの仲裁にも及んだ︒..⁝.
︵東京堂出版︶
︹古文書撰大辞典旨あつかい暖・鯵・扱・刷①扱いと同じ︒
あれこれと世話をすること︒紛争などの調停をすること︒②
近世用語では仲裁︑調停人などをさし︑訴訟などを内済し和 ︵六︶古文書辞典
前掲の古文書辞典での﹁あつかい﹂に対応する漢字には︑﹁暖・
略・扱・刷﹂があることから︑古文書における﹁略﹂の用例を
︵3︶
探すことを試みた︒しかし︑古文書では﹁暖・刷・扱﹂が用い
られるが︑﹁鯵﹂の用例は見受けられない︒時代が遡るが﹃本朝
続文粋﹂︵巻第一雑詩︶に︵﹁熟﹂の右傍に異本での表記﹁塾﹂
を稿者が付記した︒︶
︵鶴︶
門熟安木梗挟箭共甥喝
︿門熟木梗を安んず箭を挟み共に吟喝たり﹀
と見える例があり︑﹁吟唱﹂は︑唇の垂れ下がって正しくない様
を表す︒﹃五山文学新集﹂では次の二例が見える︒三巻﹁流水 解させること︑また︑その人の意︒取扱ともいう︒
︵柏書房︶
﹁近世古文書辞典﹂︵国書刊行会︶でも︑前掲の古文書辞典と
同様に︑見出し語の漢字には﹁暖﹂以下﹁略﹂も記され︑語釈
もほぼ同じである︒しかし︑これらの古文書辞典に示す用例で
の漢字表記は﹁暖・刷﹂であり︑見出し語の漢字に﹁略﹂があ
るのにも関わらず︑﹁吟﹂の使用例は示されない︒
二﹁畷﹂の用例とヨミ
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り︑﹁扱﹂の語源には︑自動詞﹁あつかふ一悶熱一﹂の﹁心シラ
ヒス︒無ヅカフ︒懸念ス・﹂の意の﹁他動二鞠ジタルナリ︑もて
あつかふト云フガ正シキナルベシ﹂と記される︒
︹古語大辞典︺︵一九八三年小学館︶
あっかひ︻扱ひ︼アッカイ︹名︺①世話をすること︒②交渉
や訴訟などの斡旋・調停をすること︒
以上の国語辞典の用例では︑﹁アッカヒ﹂に﹁扱・暖・刷・線・
椿﹂の漢字は見えるが︑﹁略﹂を用いる例は示されない︒
句意は﹁暖かいので春のようだと願されそうであるが︑季節
は小春︵十月︶である﹂と解釈するのだろう︒右の﹁ダラス﹂
のョミは︑第一節の︵一︶に掲載した﹁運歩色葉集﹂﹁伊京集﹂
クラス に﹁略﹂と見え︑時代が下り一七七九年刊の﹁雅言俗語俳譜
ダラス 翌桧﹂︵言語︶にも︑同様に﹁鯵︿すかすなり﹀﹂とある︒﹁世話 みなそやあ玄やかしそだてニさやうたらしつかひ 用文章﹄︵上︶には﹁皆親之騒生育たる故候左様之者は略遣 泌ろく 候へは下路/︑仕者にて候﹂という一文が見え︑﹁志不可起﹂の
見出し語﹁だます﹂の項には﹁⁝⁝たらすと云もだます二通テ
キコユたらすはとらかすノ署語力なはたらしナド︑云事アリ尤
ダル 垂義にも通ベシ﹂とある︒﹁唐話辞書類集﹂︵第九集徒柾字葉︶
には﹁那睦︿船ノ主﹀︵巻之三︶﹂﹁略口横議︿大言ヲ吐コト﹀︵巻
之五このような用例が見え︑後者の﹁略﹂は︑﹁口に出す﹂意
を表し少し仲裁の意に近づく感がある︒
以上のように︑現段階では︑﹁略﹂を﹁アッカヒ﹂と読む事例
を見出す事が出来ず︑﹃江戸八百韻﹂での用法は︑個人的な用法
なのか︑今後も用例を探し出し検討する余地がある︒
前掲の古文書辞典では﹁あつかい﹂の見出し語の漢字に﹁吟﹂
があり︑その中の﹁古文書僻大辞典﹂と同じ柏書房が出版する
﹁近世古文書︹解読字典︺﹂には︑﹁暖﹂の収録はあるが﹁吟﹂は
収録されない︒﹁古文書糾大辞典﹂の﹁アッカヒ﹂の見出し字に
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集﹂︵枯香小仏事︶には
如梅噌哩夜之待三曾而椅龍華︑似金色頭陀之持一継而生鶏
足
とあり︑﹁梅略哩﹂は五山文学新集の中の﹃梅花無尽蔵﹄︵第四︶
に﹁梅多里﹂と見え︑市木武雄氏の注釈に﹁弥勅菩薩の号﹂と
ある︒或は﹁梅﹂は梅花無尽蔵主人の万里をさすことがあるこ
と︑また和尚の号に用いられることも多く︑﹁梅のたり夜﹂と読
み﹁万葉集﹂三二八○番に見える夜をほめる語﹁たり夜﹂とす
るか︑いずれにしても音訳﹁たり﹂と読む︒もう一例﹁五山文
学新集﹂第五巻﹁雪樵独唱集﹂︵四︶に孔子の弟子の名﹁漆離鯵
︵しっちょうしや︶﹂が見えるが︑これらの﹁吟﹂は﹁仲裁﹂で
ないことは確かである︒それならば近世初期の俳文学作品では
﹁吟﹂が見られるか︑﹁古典俳文学大系CDIROM﹂により︑
﹁鯵﹂と同時に﹁節用集﹂に収録がある﹁アッカヒ︵Z﹂に対
応する漢字を検索してみた︒その結果﹁柄﹂は﹁もむ・ひねる﹂
として使用されるが﹁あつかふ﹂ではない︒その他の﹁橘・醜・
宰・和諭﹂の漢字は見えず︑﹁アッカヒ︵Z﹂には﹁暖﹂又は
﹁扱﹂を当て︑ただ一例﹁吟﹂を用いる句がある︒しかし︑﹁略﹂
に付される振り仮名は﹁アッカフ﹂ではなく﹁ダラス﹂である︒
クラス ①あた︑かに吟といふが小春哉白雪﹁蕉門名家句集﹂
は︑﹁相手の前をふさぐようにして立つ︒立ちはだかる︒﹂など
とある︒五八九番の句を争いの当事者の間に立ちはだかって︑
操め事を解決すると解釈し︑﹁立ちはだかる﹂と﹁あつかふ﹂の
情景描写に﹁鯵﹂を用いたとするのが︑最も妥当であると考え
られる︒
︵4︶