学校での器楽教育における創造性に関する和訳研究
加 納 暁 子
Japanese translation study on creativity in instrumental education at school Akiko KANO
はじめに
本稿は “Making Music in the Primary School〜Whole class instrumental and vo- cal teaching”(Nick Beach他編,2011)1)より,Chapter11 “Creativity and instrumen- tal skills development” (Nick Beach)の和訳研究により,学校の授業内における,楽 器の演奏技能の発展と創造性の関連について考察する。
“Making Music in the Primary School〜Whole class instrumental and vocal teach- ing〜” (『小学校における音楽創造〜クラス授業による器楽と声楽の教育〜』)は,イギ リスにおいて,小学校のクラス授業の中で,地域等で活動を行っている音楽家と学校の教 師が協働しながら楽器演奏の指導を行う際の内容や方法の理論と実践について述べられて いる。全15章からなるが,本稿では序章の一部,及び第11章「創造性と楽器の演奏技能の 発展」について和訳,及び考察を行う。
序章では本書の背景,及び全体の構成について説明されている。本稿では,その内の背 景について和訳を行う。
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序章(一部抜粋)
21世紀も11年目に入り,イギリスでは子どもたちが小学校において器楽や声楽で音楽を 経験する方法にも静かな革命が起きている。かつては,選ばれた学校でしか器楽教育はな されていなかった。しかし,今は,子どもたちは音楽を共に創造するためにクラス授業で 楽器を学ぶ。それは演奏者としてだけでなく,作曲者,即興者,批判的な聴衆としてであ り,クラス担任と器楽の教員が一緒になって音楽の勉強を支えている。イギリスではこの ような教育は「クラス授業による器楽と声楽の教育」(WCIVT)と一般的に呼ばれている。
この音楽学習に対する新しいアプローチは,すべての教師にとって重要な挑戦である。器 楽指導の「師匠と見習い」のモデルは,もっとも適切で効果的に演奏技術を発展させる方 法として何世紀にもわたって広く受け入れられている。しかし,大きなグループや全体の クラス授業には単純に移行できない。個人や小グループを広範囲にわたって教えている器 楽の教師や地域の音楽家は,全体のクラス授業を行う際に新しい指導技術とアプローチの 開発が必要になると感じている。同様に,クラス授業を教えている教師やサポートスタッ フは,正式な音楽指導技術が欠落しているため,子どもたちの音楽学習をサポートできな いと誤解している。
事例:クラス授業における金管楽器と木管楽器のレッスン
クラリネットとトランペットのクラスは「C Jam Blues」3)を演奏している。この曲 はビッグバンドのスタイルであるが,2つの音しか用いない。彼らが演奏するとき,彼 らはビッグバンドである。彼らはビッグバンドのように動き,スイングする。限られた リソースにもかかわらず,彼らは音楽家たるものを経験している。彼らの技術の発展は,
もちろん部分的ではあるが,全体を支える一つのパートになっている。
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本書はイギリス政府が支援を行い,学校のクラス授業において,地域で活動をしている プロフェッショナルやアマチュアの音楽家の力を借りながら,器楽や声楽の指導を行うた めの原理や指導内容,方法について実践事例を伴いながら明らかにされている。また,理 論書ではなく,学校の教師と音楽家がディスカッションをできるような活動,課題に挑戦 したり探究できるような例題や活動が示されている。本書全体では,器楽教育の歴史,障 害児への指導,評価など多岐にわたっているが,本稿では創造性と楽器の演奏技能との関 連について述べた章について和訳を行い,考察を行う。
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第11章「創造性と楽器の演奏技能の発展」
序
楽器を演奏することは,人間の業績の中で身体的,聴覚的,視覚的技能2)のもっとも多 くの組み合わせが要求される。楽器のスペシャリストの反応は,音楽を創造したり創造的 に表現したりする活動とは別に,技術的な能力への近道として認められているドリルや ルーティンに頼っている。これは教師が子どもに技能を受け渡す「単純な」プロセスとし て見られている。音楽を創造すること,創造性の中に根付く活動は,その指導と学習にお いて皮肉にも非創造的となっている。
創造性と技能の発展の関係性は複雑である。楽器を学ぶ目的は,音楽を作り出すこと,
音楽的な意味を作り出し,伝達することである。そのために,子どもたちは楽器の演奏技 術を含む技能が必要となる。しかし,音楽を作り出すことと分けてしまうと,不毛な活動 に陥らせるだけでなく,最初の段階で技能を発展させることを取り去ってしまう。効果的 に創造したものを伝えることが出来るための新しい技能を学んでいる子どもは,真の音楽 的目的に対する理解が欠如したルーティンを繰り返している子どもよりも早く上達する。
私にとってピアノを演奏することを学ぶということは,歩くことを学ぶのと同じくらい 自然なことであった。私の父は自然であるべきという観念を持っていた。私は音楽的問題 と技術的問題の境界線がない基本原理のもとで育てられた。(ダニエル・バレンボイム 1999)
本章では,子どもたちを創造的に活動させる支えとなる創造的学習について論じ,音楽 的技能を発展させ,より深いレベルまで理解させる機会を与える。本章の終わりでは,ど のようにすれば創造的学習に技能の発展を組み込むことが出来るのか考察する。
事例:新しい音を学ぶ
ヴァイオリンのクラス授業において,今までは開放弦の練習であったが,指で押さえ る音に入ろうとしている。教師は模範を示し,クラスは開放弦のミとファ♯を交互に演 奏し,サンバの打楽器の伴奏に合わせながら模倣する。ある子どもはとても上手くでき るが,別の子どもは・・
アプローチA
3つのグループに分かれ,2つの音を用いた短いサンバスタイルの練習をしている。
練習している間,教師はそれぞれのグループの所へ行き,サポートしたり質問に答えた りしている。子どもたちは残りの授業でこのパターンを演奏し,流暢に,正しい調子で,
リラックスした弓の持ち方で演奏した。レッスンはこのプロセスと問題点は何であった かについて話し合って終わった。
アプローチB
学校の教師が出来ない子どもの手助けをしている間,ヴァイオリンの先生が模倣練習 を続けている。2つの音を使った曲はホワイトボードに貼られている。教師はどの音が どれなのかをクラスに示し,実際にやって見せる。音を示すことと音を追っていく組み 合わせを通して,だいたいの子どもは曲を合理的かつ効果的に学んだが,アプローチA に比べて子どもたちに流暢さやゆとりは欠けている。
音楽において,「演奏することを学ぶ」ということは「演奏すること」と同じである。
2006年のラジオインタビューで,ダニエル・バレンボイムは「指は音楽的ではないものに 対して動かされるべきではない」という見解を示し,スワンウィックの「音楽を欲するこ とは,私たちが演奏することの核心でなければならない」という信念を支持している。
(1999)この両見解における含意は,私たちは音楽に関するものを子どもたちに勧め,そ れによって子どもたちは最初のレッスンから音楽家たるを理解し始める。彼らは音楽的判 断に基づいて決定をし,聴き,可能性を探究する。
次の事例にみられる,弦楽器の専門家とクラス担任が教えているレッスンにおいて,私 たちは2つの考えられるアプローチを見てみる。
この事例では,アプローチAの活動を,即興,創作,あるいは2つの組み合わせと定 義することができる。しかし,ここで重要なことは,新しい技能の発展は,創造的,音楽 的な活動の中に組み込まれているということである。技術的なゴールは,子どもたちを学 習のプロセスに引き込み,コントロールを与えるという創造的な手段によって達成され る。どちらのアプローチもメリットはあるが,アプローチAの方が,より豊かな音楽的 経験をもたらす。アプローチAでは,ジェフリーやウッズ(2009:71)のいう,「活動,
リスクを負う,経験,問題解決」に従事している。それは技能の発展のための明確な手段 であり,音楽的な考えを効果的に伝える。アプローチBでももちろん技能は発展するが,
発展のための理由や,音楽の使い方において明確さに欠ける。
また,音楽的,創造的な観点が技術的なものや読譜よりも強調されているので,子ども
活動11-1 創造性と技術の発展について考えてみよう
・あなたが最近クラスで指導した技能と,あなたが指導したその方法について考えてみ よう。
・あなたの指導はアプローチAとアプローチBのどちらを反映したものか考えよう。
・創造的な活動の中に,技能の発展を組み込むために再びこの技能を教えるなら,どの ような変更を行いますか?
事例:木管楽器のクラス授業
学校の教師と楽器の教師は,1920年代のジャズに基づいたプロジェクトを企画した。
器楽のレッスンにおいて,子どもたちは1920年代のジャズ作品と,典型的な旧来のジャ ズ様式による即興セクションに取り組んでいた。美術の授業において,子どもたちはピ カソの「3人の音楽家」という絵画を見て,この作品がどのように構成され,音楽家の コラージュ表現はどのようになっているかについて話し合っている。
たちがより音楽に集中できる点は注目に値する。音楽の演奏に含まれる楽譜の複雑さは計 り知れないものであり,初心者は主に「音符」を読むことに集中する。演奏者の集中を他 に移し,客観的に聴けるようになれば,楽器を演奏するという身体的特性に気づくことが 出来る。
創造的な学習
クラフト(2005:55)は「革新,表現を促進し,子ども自らの考えを適用することは『創 造的学習』の核心を形作る。そして,子どもたちを力強く知識の生成へと引き込む」と述 べている。創造的な学習は一つの考えの現れであり,規則通りの定義を持たない。そして 次のような特徴が述べられている。
・教師は指導者ではなく,協働創造者であり,子どもたちが自らの学習を展開できるよう に支える。
・教師は常に子どもの想像や即興に従事する方法を探す。
・子どもたちがリスクを負う際,支える。「〜したらどうなるだろう」と問いかけ,前進 し挑戦する。
・子どもたちは自らの,そして互いの活動を評価するよう促される。
創造的学習は,子どもたちにより深くて根本的な変化をもたらす可能性を持っている が,子どもを支えるために教師がある程度のリスクを負い勇気を持つことが求められる。
おそらく楽器の演奏技能を伝統的に発展させる方法とは反対の目的であるが,バレンボイ ムやスワンウィックの述べていることとは矛盾しない。ここで提案することは,子どもの 想像性(イマジネーション)が技能の発展も含めて音楽を作り出すすべての面と連動する 環境を開発させていくことである。
この器楽のレッスンにおいて,教師は「もしこの絵画の音楽版を作るとしたら,何を しますか?」と問いかける。そして,小グループに分かれてこのことについて話し合う。
数分後,一人の児童が「分かった!」と突然言う。彼はジグソーパズルのような絵画の 性質と,それが作品の根底を成していることを関連付けた。この創造的な関連付けは残 りのグループのきっかけとなった。他のグループのメンバーは音を取り始め,同時に演 奏することを提案した。彼らは授業の残りでこのアイデアに戻り,それが子どもたちの 想像と独創性に火をつけることとなった。アイデアは飛び込んでくる。一人の児童が3 週間前にやっていたジャズの曲をやろうと提案し,この曲の断片を使って,異なる方法 で結びつけた。
彼ら独自のアイデアに熱狂し,子どもたちはグループに戻って作品に取り組み,15分 後には演奏し録音もした。そして,彼らは絵画のアイデアと構造をいかに効果的に表現 したかについて話し合った。
活動11-2 創造的学習の背景を作り出す
・上記の事例について「創造的学習」の特徴の点から分析しよう。教師が「協働創造者」
として活動し,子どもの想像に携わる方法を探すには,どのような活動を展開させて いけば良いだろうか?
・同僚(他の音楽家,他の創造芸術の先生)とどうすれば同じようなプロジェクトが考 案できるか話し合おう。計画するときに,創造的学習の特徴と関係させ,あなたの行 うことが,創造的学習の特徴に確実に好機を与えるようにしよう。
・これらの特徴を背景にレッスンの効果を分析しよう。
つながりを作ることは,創造的学習の重要な特徴である。それは,子どもたちが現在の 基礎の上に新しい知識を構築するという構成主義的な学習のためだけではなく,学習を深 める際,想像(イマジネーション)を利用するためである。この事例において,児童は音 楽領域の中と音楽領域を超えた間で,創造的なつながりを作っている。創造的であるとい うことは,このようなつながりを作り出すことであり,ドリルや反復よりも,クラリネッ トの技能の基本的な理解をもたらす新しい方法としてつながりを用いることである。
器楽のクラス授業の中での仲間との創造的学習
前の事例で見たように,クラス授業の中で小さなグループに分かれて作業をすること は,創造的学習にとって理想的な環境を与えることになる。子どもたちは互いに協働創造 者になり,互いのイマジネーションを利用し,互いに試みを支え,リスクを負い,結果を 評価し,反省する。技能の発展という観点からも利益をもたらす。
・子どもたちは自らのレヴェルで活動することができる。
・より高いレヴェルの技能を持つ子どもは頼りになる。
・仲間の手本は目的を達成することができる。
事例:仲間との学習
トランペットのクラス授業において,新しい音を学ぶために「トレアドールマーチ」
という曲を学んでいる。授業では前もって喚起される雰囲気を書いたワードリストを 作っている。そして今日の授業では,3つの音から構成されるオープニングファンファー レのうち,2つの音はすでに学習しており,「新しい音」を追加する。教師は5人組の グループにクラスを分け,それぞれのグループに才能のある児童を混ぜている。グルー プにはこのセクションを異なった方法で演奏して,リスト内の異なった言葉と関連付け るという課題が出されている。彼らは一つの言葉と,このセクションを演奏する方法を 選び,授業の残りの時間でそれを演奏してみせる。授業では,表そうとした言葉はどれ か,そして説明するために(技術的なものではなく)音楽的な言語を使用する。2人の 教師がグループを見て回り,必要に応じて技術的なサポートを行う。あるグループでは,
より高いレヴェルの技能を持つ子どもがおり,短い時間で教師からの要求に応えてい た。
活動11-3 技術指導の中に創造性を組み込む
・あなたが子どもたちに伸ばしたいと思う技能を確かめよう。
・音楽的に創造的である内容の中で技能を発展させるために,子どもたちが必要とする 学習を組み込んでみよう。
・音楽的な目標を確かめ到達する際,子どもたちに対してどのような機会を創出しサ ポートしていくかを決めよう。
仲間との学習は,イギリスにおける「Musical Futures」4)において広範囲にわたって唱 えられている。これは「より民主的な学習方法であり,仲間との学習を通したグループの 中で技能を役立たせ,教師は専門家のマントを脱ぎ棄てる。そして生徒と教師が授業の中 で共に内容と目的を構築していく学習方法に基づいている。」(DʼAmore 2009:45)また,
このような方法を通して,教師が指導者としてではなく,協働創造者である創造的学習の 特徴を反映している。
このような方法を通して,小グループは特別な問題を探し求め解決を共有する場となり うる。その問題は子どもたちによって作られ,解決を探し求め,障害に出会い,サポート を得て結果に至る。
この事例は,技術練習へのアンチテーゼであり,技能を発展させるためのアプローチと してよい例となる。ここでのプロセスは特別な技術的問題の発展に内在する音楽的問題と の同一化から始まる。教師は制限を設けているが,子どもたち自身で問題を明確にしてい る。すなわち,彼らが実現したいと思った雰囲気を表現するために,どうやってこれらの 音を演奏するかである。子どもたちは問題を解決するために,外部の専門家を適切に頼り ながら協働作業をする。彼らのアプローチの成功は,教師の推奨によるものではなく,問 題を解決した成功によるものである。すなわち授業の残りで,選択した雰囲気について話 し合ったことである。
授業を行った後
・どのようにうまくいったか評価しよう。子どもたちは容易く自らの基準を見つけまし たか?
・子どもたちが互いの学習をサポートできる創造的な方法をリストアップしよう。
結 論
音楽教師としての私たちの目的は,若い人たちに音楽家であるという経験ができるよう にすることである。つまり,音楽的判断が出来て,ユニークかつ有益な方法で自身を表現 できるようにすることである。楽器を学ぶ際の技術的な挑戦は必要である。しかし「グラ ドゥス・アド・パルナッスム」5)のアプローチでは,技術の発展は結果として起こるもの であり,次の課題へ取り掛かる前にそれぞれの技術は鍛えられる。学習者にとってこの効 果は一連のハードルのようなもので,次はより高くなり,もっとも高いものを飛んでパル ナッソス山で報酬を得ることが出来る。
音楽を創造する際の技術や技能は複雑で,正しい方法があること,または限られた正し い方法があることを私たちは知っている。創造的な学習とは,子どもたちが好きなように 演奏することが許されたり,数世紀にわたって構築された効率的に技術を学ぶ方法を捨て たりすることではない。子どもたちは音楽的な考えを伝達するために楽器を効果的にコン トロールできる必要があり,私たちはそのコントロールを容易にする身体的必要条件につ いて多くを知っている。
しかし,創造的学習が私たちにもたらすものは,「子どもたちに新しい知識を得る機会 を与えよう」という衝動によってもたらされる技能の発展とは二者択一的である。(Craft 2005)しかし,この二者択一の道を行くために,教師はリスクを犯し,予想もしない結果 を受け入れる必要がある。もしも,私たちが子どもたちの学習(のコントロール)を手助 けするなら,私たちは学習の結果(のコントロール)も手助けしている。私たちの役割は 教師としてではなく,学習のファシリテータ,あるいは学習をサポートする足場の建設者 である。しかし,結果が不確実であっても,創造的音楽学習に活動的に取り組む子どもた ちが,音楽家であることに対してより深い洞察を得られるようになることは確実である。
参考文献
Booth,W.(1999)For the Love of it. Chicago : Chicago University Press.
Craft,A.(2005)Creativity in Schools: Tensions and Dilemmas. London: Routledge.
DʼAmore,A.(ed.)(2009)Musical Futures: An Approach to Teaching and Learning.
London: Paul Hamlyn Foundation.
Holt,J.(1977)Instead of Education. London: Pelican.
Jeffrey,B and Woods,P.(2009)Creative Learning in the Primary School. London:
Routledge.
Swanwick,K.(1999)Teaching Music Musically. London: Routledge.
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考 察
本稿にて和訳を行った章は,楽器の演奏指導と創造性との関連について述べられてい た。元来,器楽指導は「師弟制度」のようにマンツーマンで行われ,その教材の中には練 習曲が含まれる。練習曲は技術向上のために必要なテキストであるが,単調なものが多い ため,大抵の子どもは飽きてしまう。原書は個人指導ではなく,学校の授業において,演 奏家と教師のティーム・ティーチングの形態で設定されているが,子どもの能力差や器楽 の一斉指導など困難な点は予測される。しかし,各事例において,創造性を刺激するよう な器楽指導の実践例が取り上げられていた。
最初の事例で「C Jam Blues」において使用される「ソ」と「ド」の音を,仮に反復練 習で延々と続ければ,音楽の本質からかけ離れたものになる。しかし,バンドの伴奏(音 楽家によるライブ演奏や録音音源)があれば,子どもたちは2音のみでジャズの雰囲気を 感じ取り,曲の一部として演奏することが可能になる。2番目の事例では,新しい音を学 ぶ際,ホワイトボードに楽譜を貼り,それを見ながら演奏するアプローチBと,サンバ の伴奏に乗りながら演奏するアプローチAが比較されていた。学校の一斉授業ではアプ ローチBの手法をよく散見するが,アプローチAの方が音楽と関連付けながら学習する ことができる。3番目の事例はピカソの絵画と音楽を結びつけている。即興で作った音の 断片と既習のジャズの曲を組み合わせることによって,絵画から気づいたコラージュ技法 を音楽で創作,表現している。ただ闇雲に創作を行うのではなく,構造を意識する,美術 と音楽の共通点を見出すなどの多角的な学びが行われている。最後の事例は言葉のリスト
(例えば「堂々と」「輝かしく」「前進するように」などが考えられる)を選び,その言葉 に合った表現を考えさせるものである。単純な曲でも様々な弾き分けが考えられ,多様な 表現方法を子どもたち自身が探究しながら学ぶことが出来る。
これらの事例では,演奏家と学校の教師が協働しながら楽器の指導を行っているが,日 本の一般的な音楽の授業において,演奏家の支援がない場合でも,応用は可能である。た だ楽器の運指法の反復練習をしたり,楽譜を読んで再現するだけの演奏表現ではなく,音 楽の本質と関わらせ,創造力や想像力を伸ばす工夫や指導が必要であるといえる。
注
1)“Making Music in the Primary School 〜Whole class instrumental and vocal teaching〜”Edited by Nick Beach, Julie Evans and Gary Spruce, Routledge,2011 2)本稿ではskillを技能,techniqueを技術と訳す。
3)デューク・エリントン(1899〜1974,アメリカ)によって1942年に作曲される。ジャ ズのスタンダードナンバーとして演奏され,「ソ」(G)と「ド」(C)の2音のみで構 成され,即興で展開されていく。
4)イギリスにおいて音楽を学ぶことの出来る非営利団体の学校(音楽教室)。子どもか ら大人,音楽の教師まで,声楽,器楽や音楽理論,合奏等,有料や無料のレッスンが 提供されている。
5)ラテン語で「パルナッソス山への梯子」という意味。パルナッソス山(ギリシャ)は 芸術や学問の聖地であるため,芸術の教則本の題名として用いられている。ここでは,
クレメンティ(1752〜1832,イタリア)のピアノ練習曲集(1817年,1819年,1826年 に作曲)を指しているものと思われる。