博士学位申請論文概要書
成長ベンチャー企業の
インターナルコミュニケーションプロセスの構造解明
− 従業員の満足を実現する戦略的プロセスに関する探索的研究 –
Internal communication process in growing venture companies:
An exploratory research by a mixed method on how internal communication satisfaction is increased through strategic communication process
2014 年 4 月
早稲田大学大学院 商学研究科 博士後期課程 学籍番号 35093010-6
古屋 光俊
Mitsutoshi Furuya
指導教授:東出 浩教 教授
目次
第 1 章 序論 ... 3
第1節 研究の目的... 3
第2節 研究の背景... 4
第3節 研究の意義... 4
第4節 論文の構成... 5
第 2 章 先行研究調査 ... 6
第1節 インターナルコミュニケーションの定義と5要素モデル... 6
第2節 従業員のインターナルコミュニケーション満足度... 6
第3節 リーダーのコミュニケーション... 6
第4節 本研究のオリジナリティとプロセス研究という未開拓の分野... 6
第5節 リサーチクエスチョン... 7
第 3 章 研究方法 ... 9
第1節 研究戦略... 9
第2節 リサーチデザイン... 9
第3節 サンプリング... 10
第 4 章 CSQ スコアによる量的分析とケースの分類 ... 12
第1節 12ケースのCSQスコアの集計結果... 12
第2節 12ケースの分類 (H2群、H1群、L群の分類) ... 13
第 5 章 GTA による汎用プロセスモデルの生成 ... 14
第1節 CSQサーベイで分類された質的データのGTAによる分析... 14
第 6 章 成長ベンチャー社長のインターナルコミュニケーション意識 ... 15
第1節 成長ベンチャー企業のプロファイルと社長の意識... 15
第 7 章 インターナルコミュニケーションの組織的な取組みの比較 ... 16
第1節 12ケースのクロスケース分析... 16
第 8 章 CSQ 統合プロセスモデルの生成 ... 19
第1節 CSQのコミュニケーションパターン... 19
第2節 CSQ統合プロセスモデルによるCSQトップ企業のプロセス分析... 20
第 9 章 議論 ... 21
第1節 組織の拡大とインターナルコミュニケーションプロセスの発達... 21
第2節 研究への示唆... 22
第3節 実務への示唆... 23
第 10 章 結論 ... 24
第1節 研究のまとめと研究の限界... 24
第2節 今後の研究分野としてのインターナルコミュニケーション研究... 26
第 1 章 序論
第 1 節 研究の目的
本研究は、成長を目指すベンチャー企業の社長に、どのようにすれば成長を促進する効果的、
戦略的なインターナルコミュニケーションを実現できるかという問いに答えを与えることを 目的とする。成長ベンチャー企業では、日々、従業員が増加し、組織は拡大し続ける。社長は、
どうやって求心力を失わずに、組織を維持発展していくのかについて思い悩むはずである。
社長の発する言葉は、従業員に価値観を共有させ、従業員の姿勢・行動を目標に向かわせる。
共通の目的をもって活動する企業において、インターナルコミュニケーションの重要性に異論 を唱える人はいないであろう。しかしながら、企業におけるコミュニケーション研究において、
内部に対して発せられるインターナルコミュニケーションは、複雑で、組織内部における範囲 が広く、企業の個別の事情が影響することから、多くの事例研究はあるものの、一般化された 理論は少ない。コミュニケーションというダイナミックな活動を、動的に、プロセス面で解明 した研究は少ない。更に、これまでの研究は、大企業におけるインターナルコミュニケーショ ンが主流で、成長ベンチャーをテーマにしたインターナルコミュニケーション研究は少ない。
成長ベンチャーの成長要因は様々であるが、筆者は、成長の源泉として、内部リソースにス ポットライトを当てる。特に、「人」に焦点を当てる。社長が、インターナルコミュニケーシ ョンを有効活用して、「人」を活かし、強い組織を作り、従業員を成長させ、企業を成長に導 くモデルを考える。社長のコミュニケーションに対する意識や行動に焦点をあてる。
先行研究によれば、インターナルコミュニケーション満足度(ICS)が高い従業員は、仕事 の満足度 (JS) も高い。JS は、企業成長に繋がる。従って、成長ベンチャー企業の従業員は、
ICSが高いはずである。本当にそうなのか。本研究では、図1に示す、社長のインターナルコ ミュニケーション意識が、組織のインターナルコミュニケーションプロセスに影響を与え、組 織のプロセスが従業員の ICSに影響し、JS等の様々な変数を経由して企業成長を実現するモ デルを想定する。従って、成長ベンチャー企業のインターナルコミュニケーションの汎用的な プロセスモデルを実務的に利用できるツールとして提示できれば、ベンチャー企業の社長は、
ツールを使って、ICSを高め、企業成長を実現できる。
図 1:インターナルコミュニケーションによる企業成長のモデル(筆者作成)
(実線は直接的な影響、点線は間接的な影響)
従業員の仕事の 満足度、生産性 等の様々な媒介
変数 従業員のイン
ターナルコミ ュニケーショ ン満足度 社長のイン
ターナルコ ミュニケー ション意識
本研究領域(筆者のオリジナリティ) 先行研究
企業 成長 の 実現 組織のイン
ターナルコ ミュニケー ションプロ
セス
第 2 節 研究の背景
企業を取り巻く環境が不確実な昨今の状況において、持続的な企業成長の実現を考えるとき、
不確実な時代を生き抜ける従業員一人一人の対応力、現場力といった力の重要性がより一層増 している。一方、実社会においては、積極的に「働きがい」を感じている人は4人に1人しか いないという調査もある。「働きがい」を高めるには、従業員に向けたインターナルコミュニ ケーションの強化は戦略的である。インターナルコミュニケーションは、米国を中心に、その 重要性が標榜され、1980年には、大企業を中心とした多くの実証的研究によって、ICSの測定 尺度が確立した。ICSは、仕事の満足(JS)、生産性 (Pro)、組織コミットメント、顧客の満足 といった様々な媒介変数を経て、最終的に企業成長に正の影響を与える。
成長ベンチャー企業は、社長が従業員全員に直接コミュニケーション出来る数 10 名の小規 模組織から、100 名、数100 名、1000 名規模と発展する。成長の過程において、社長との直 接的なコミュニケーションは少なくなり、ミドルを通じた間接的なコミュニケーションが増加 し、悩みも多いはずである。
日本においては、経営戦略としてのインターナルコミュニケーション研究は、これからであ り、研究の余地は大きい。中小企業やベンチャー企業を対象として、これからの成長戦略の観 点でインターナルコミュニケーションを研究し、経営に資するモデルを提示することは、学問 的にも、実務的にもニーズは強いと考えられる。
第 3 節 研究の意義
本研究の意義を、理論面、実務面、社会面で述べる。
理論的な意義は、以下の3点である。
第一は、コミュニケーション研究という面である。本研究は、これまでほとんど研究されて こなかった、ダイナミックなコミュニケーションプロセスを、社長のコミュニケーション上の 意識に着眼し、仕事の満足や企業パフォーマンスに影響を与える構造について、包括的に説明 する理論を提示する。
第二は、ベンチャー企業研究という面である。社長と従業員の相互作用であるインターナル コミュニケーションという内部リソースに焦点をあて、成長ベンチャー企業の経営を、組織の インターナルコミュニケーションプロセスの面から、どうすれば失速することなく、組織を拡 大、発展し続けられるかについて法則を見出そうとした例はほとんどない。
第三は、インターナルコミュニケーションという動態的なプロセスを扱った研究という質的 側面である。本研究では、研究方法の困難さを克服するために、質的研究アプローチだけでな く、理論的に確立している量的研究アプローチも併用する。
実務的な意義は、成長ベンチャー企業社長に対して、経営戦略として効果的なインターナル コミュニケーションプロセスのツールや実践法を、体系化された理論的枠組みの形で提供する ことである。
社会的な意義は、本研究成果を利用することで、より多くの成長ベンチャーが輩出されるこ と、ベンチャーの成長速度が速まること、より一般的にはベンチャー企業だけでなく、より広 く生き生きと働く従業員が多い企業が増えることである。これらは、全て日本の未来につなが る。
第 4 節 論文の構成
第1章は、序論である。本研究の全体的な流れ、目的、背景等を中心に議論する。
第2 章は、先行研究調査である。1980 年代より大きく発展した従業員の ICS(本研究では 代表的な測定尺度であるCommunication Satisfaction Questionnaire (CSQ)を利用する)と JSに代表される他の変数との関係性を述べ、「インターナルコミュニケーションによる企業成 長モデル」を提示する。一方、リーダーのコミュニケーションについても、変革型リーダーシ ップや組織内コミュニケーションの代表的な理論を整理する。先行研究調査、議論の結果とし て、既存の研究の欠缺部分である、インターナルコミュニケーションプロセスを発見し、リサ ーチクエスチョンを定義する。
第3章は、研究方法である。本研究に最適なリサーチデザインを説明する。なぜ、ミックス 法アプローチの並行的トライアンギュレーション戦略(Creswell, 2003)や質的データのグラ ウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)分析を採用したか、サンプリング、調査対象企業、
データ収集方法について説明する。
第4章から第8章までは、結果である。それぞれの章で、第2章で定義したリサーチクエス チョン(5問)に対する答えとして命題を各章末で提示する。
第4章では、CSQサーベイによるCSQスコアの量的分析によって、ICSとJS、Pro、やる
気度 (Ded)、企業成長との関係性を成長ベンチャー企業について検証する。成長ベンチャー企
業に対してもCSQが有効なこと、12ケースをH2/H1/L群の3つに分類できることを示す。
第5章では、ICS = H群のケースを中心に、社長及びミドルのインタビューデータ(質的デ ータ)をGTAにより分析する。24個の組織のプロセス概念の生成、概念間の関係をまとめる 6 個のカテゴリーの生成、そして、カテゴリーをつなぎ合わせることで、汎用プロセスモデル が生成される流れを示す。
第 6 章では、汎用プロセスの原因となる、社長のインターナルコミュニケーション意識を、
成長ベンチャー企業3ケースの社長のインタビューデータから生成する。
第7章は、12ケースのクロスケース分析である。それぞれのケースで実践されているインタ ーナルコミュニケーションの組織的な取組みを整理し、企業規模(大規模/中規模/小規模)軸 と、CSQサーベイの結果(H2/H1/L)軸で、クロスケース分析を行う。結果として、H2群ケ ースのインターナルコミュニケーションの優れた組織的な取組みを明確にする。
第8章では、CSQサーベイと汎用プロセスモデルを統合し、CSQ統合プロセスモデルを生 成する。統合モデルを使って、CSQスコアのトップ企業は何が違うのか、その差がどこにある かについて、プロセスの視点で説明できるかを検証する。
第9章は、議論である。リサーチクエスチョンが、命題によって答えられたことを確認する。
CSQ統合プロセスモデルを利用して、成長ベンチャー企業の組織拡大過程におけるインターナ ルコミュニケーションプロセスの変化、組織の発達モデルとの関係について考察する。最後に、
研究への示唆、実務への示唆を与える。
第10章は、結論である。研究のまとめを行い、本研究の限界を述べ、インターナルコミュ ニケーション研究の重要性と将来性を提示し、日本における研究の発展性、新しい研究の可能 性、今後の研究テーマ、将来の研究の方向性について述べる。
第 2 章 先行研究調査
第 1 節 インターナルコミュニケーションの定義と 5 要素モデル
本研究では、インターナルコミュニケーションを組織における全てのコミュニケーションと 定義する。社長、ミドル、一般従業員の3層のピラミッド間における縦、横のコミュニケーシ ョンである。コミュニケーションモデル(大田, 1994)を参考に、「発し手(誰が)」「受け手(誰 に)」「メッセージ(何を)」「メディア(どうやって)」「ウェイ(どのように)」の 5 要素に分 解して分析を行う。
第 2 節 従業員のインターナルコミュニケーション満足度
従業員のインターナルコミュニケーション満足度 (ICS)に関する研究は、1980年代から、米 欧を中心として始まった。ICS の測定尺度を開発し、妥当性、信頼性を検証しながら、ICS、
JS、Pro等の他の変数との相関性に関する実証的な量的研究がほとんどである。CSQは、ICS の代表的な測定尺度であり、本研究でも利用する。多くの先行研究を整理すると、ICS(第一 先行変数)が増すと、JS(第二先行変数)が増し、JS は、組織コミットメント、従業員ロイ ヤルティ、顧客満足度(総称して「媒介変数」という)に影響を与え、これらの媒介変数を通 して、最終的には、企業成長(結果変数)に影響を与えるというモデルが出来る。
第 3 節 リーダーのコミュニケーション
リーダーコミュニケーションの研究は、1980年代から盛んになってきたリーダーシップ研究 の文脈の中で行われてきた。リーダーシップは、組織の活動を導き、促すように、ある人から 他の人に対して影響を与えるプロセスと定義されるため、コミュニケーションが大きなウェイ トを占める。コミュニケーションの観点で共通しているのは、変革期、企業成長期において、
社長やミドルリーダーは、積極的にコミュニケーションを行い、従業員に主体性を持たせて、
巻き込むという議論である。その中で、変革型リーダーシップと近年の成長ベンチャーのリー ダーシップ論である起業家的リーダーシップは、コミュニケーションと深い関係があり、社長 のコミュニケーション意識に影響を与えることが分かった。また、組織全体のプロセスではな いが、リーダーのコミュニケーションをプロセスとして捉えた研究例も紹介する。
第 4 節 本研究のオリジナリティとプロセス研究という未開拓の分野
先行研究調査によって、本研究のテーマである組織のインターナルコミュニケーションプロ セスの研究については限定的であり、いわんや、本研究で取り上げる様な、組織の全てのコミ ュニケーションを研究範囲とし、その組織的な制度、仕組み、枠組みまでをも考慮した全社的 なプロセスの解明はなされていない。リーダーのコミュニケーションからのアプローチも断片 的である。更に、従業員のインターナルコミュニケーション満足度を向上させるとう視点で、
インターナルコミュニケーションプロセスは研究されていない。従って、これらは、既存理論 の限界、既存の研究の欠缺部分であり、図2に示すように、インターナルコミュニケーション は、研究エリアとしてブラックボックスである。研究分野としても新しく、確立された研究デ ザインも存在しない。
図 2: インターナルコミュニケーションが企業成長に影響する全体図 (筆者作成)
図2に示すように、企業成長に影響を与える要因は、大きく内部要因と外部要因に分かれる。
そのうち、本研究によって、点線内のブラックボックスが解明されれば、社長のインターナル コミュニケーション意識→組織のインターナルコミュニケーションプロセス→従業員のインタ ーナルコミュニケーション満足度→仕事の満足度→顧客満足度等→企業成長のルートが明確に なる。これが、筆者が提唱する、インターナルコミュニケーションによる企業成長モデルであ る。
但し、インターナルコミュニケーションプロセスは、企業の独自プロセスであることによる 普遍的な研究の難しさ、コミュニケーション以外の企業の個別要因(外部要因、内部要因等)
の影響は無視できないことの難しさといった研究上の壁がある。どのような方法で、どのよう なメッセージを発信すると従業員のインターナルコミュニケーション満足度はあがるのか。従 業員の満足度を向上させるインターナルコミュニケーションプロセスとは何か。これらについ て、様々な企業の社長やミドルによる組織的なコミュニケーション活動をケースとして調査し、
帰納的方法で一般化を試みた研究はない。
第 5 節 リサーチクエスチョン
研究の欠缺部分が明確になった。図 3 は、研究フレームワークであり、網掛け部分が研究の 欠缺部分である。すなわち、社長のコミュニケーション意識を起点とし、組織のプロセスを経 て、従業員の満足度向上につながる一連のプロセスである。
インターナルコミュニケーション [本研究エリア]
顧客満足度 組織コミットメ ント
ロイヤルティ その他の変数
外 部 要 因
企
業
成
長
その他の変数 リーダーのコミュニケーショ
ンへの要求(特定の目的)
その他の変数
生産性
組織コミットメ ント
信頼、権限委譲 仕事のパフォー マンス
その他の変数 仕事の満足度
その他の変数
その他の変数 社
長 の 意 識
従 業 員 の 満 足 度 組
織 の プ ロ セ ス
図 3: 研究フレームワーク (筆者作成)
(実線は直接的な影響、点線は間接的な影響)
ここで、本研究のリサーチクエスチョンを提示する。
[リサーチクエスチョン]
1. インターナルコミュニケーション満足度と仕事の満足度、生産性の正の関係性(CSQサー ベイのフレームワーク)は、国内の成長ベンチャー企業でも成り立っているのか。成長ベ ンチャー企業のインターナルコミュニケーション満足度(ICS)は、低成長ベンチャー企業 と比べて本当に高いのか。CSQサーベイは成長ベンチャー企業の従業員満足度を測定する 調査方法として有効か。
2. 組織のインターナルコミュニケーションプロセスは、社長のインターナルコミュニケーシ ョン意識を原因とし、従業員のインターナルコミュニケーション満足度を結果とするプロ セスと考えられる。この時、成長ベンチャー企業における汎用的なプロセスモデルとはど のようなものか。
2.1. プロセスを記述するための要素として、どのような概念があるか。
2.2. それらの概念は、どのようにカテゴリー分けできるか。
2.3. カテゴリーを使って、プロセスを汎用的なプロセスモデルとしてどのように記述でき るか。
3. 成長ベンチャー企業社長のインターナルコミュニケーション意識には、どのような特徴が あるか。それは、汎用プロセスモデル全体に影響を与えているか。
4. ICSが高い成長ベンチャー企業は、インターナルコミュニケーションにおいて、実際に、ど
のような組織的な取組みを実践しているのか。ICS が低い企業とは、組織的な取組みの点 でどのような違いがあるのか。そのような組織的な取組みは、ICS にどのような影響を及 ぼすのか。
5. CSQサーベイとインターナルコミュニケーションの汎用プロセスモデルを統合したモデル
を作ることはできるか。出来上がったCSQ統合プロセスモデルは、成長ベンチャー企業に おけるICSのスコアの高さを、プロセス的に説明できるか。CSQ統合プロセスモデルは、
成長ベンチャー企業にとって、実務的に有効な診断ツールと成り得るか。
組織の インターナルコ ミュニケーショ
ンプロセス 社長の
インターナル コミュニケー ション意識 リーダーコ
ミュニケー ションへの
要求
研究の欠缺部分 先行研究
従業員の インターナル コミュニケー ション満足度
先行研究
成長ベンチャー企業のインターナルコミュニケーション
第 3 章 研究方法
第 1 節 研究戦略
本研究のリサーチクエスチョンに答えるためには、どのような研究方法が適切であろうか。
構造を解明する、或いは、プロセスを解明するという点では、質的研究戦略が使われることが 多い。本研究の場合、質的研究アプローチ単独による研究デザインに加えて、ICSに関する量 的先行研究成果も有効活用すると、研究の厚みが増すことになる。そこで、量的アプローチと 質的アプローチを統合するミックス法戦略(並行的トライアンギュレーション)を採用した。イ ンターナルコミュニケーション分野でのミックス法による研究はほとんど行われていない。
このデザインは、調査研究者が、1 つのケースのデータ収集を、量的及び質的手法を同じ時 間枠の中で同時に、平等の重みで並行して行う。量的データとしては、妥当性、信頼性が多く の研究で検証された CSQ を客観的な測定尺度として使う。質的データとしては、社長やミド ルへのインタビューを行う。プロセス理論の探求や創出を目的とする研究の場合、質的研究、
特にGTAを利用した質的研究が有効であり、本研究もGTAを利用する。
第 2 節 リサーチデザイン
リサーチは、大きく7段階に分かれる(図4)。各ステップを経て、リサーチクエスチョンにひ とつずつ答えていく。
[リサーチデザイン:7 ステップ]
第 1 ステップ:調査協力企業の成長性分類(量的データを利用)
12ケースの調査協力企業を公開情報(ホームページに記載されている財務情報、有価証券 報告書)、非公開情報(社長のインタビューを通じてヒアリングされた財務情報)によって、
売上、営業利益、従業員数の観点から、成長性を判断する。過去5年間の推移によって、成 長性High、Middle、Lowに分類する。結果は、第4章に記載する。
第 2 ステップ:インターナルコミュニケーション満足度による分類(量的データを利用)
調査協力企業のCSQサーベイの結果によって、ICS、JS、Pro、Ded、成長性の関係性を 検証する。そして、調査協力企業をICSの高さから、ICS = High のH群、ICS = Low のL 群に分類し、更に、JSの高さから、H群をJS = HighのH2群、JS = LowのH1群に分類 する。結果は、第4章に記載する。
第 3 ステップ:汎用プロセスモデルの生成(質的データを利用)
調査協力企業の質的データ(インタビューデータ)を、GTAにより分析する。第2ステッ プの分類による ICS = High (H群:H2群とH1群)とICS = Low (L群) の2つの質的データ を対比することで、継続的比較を行い、新たな発見がなくなる(理論的飽和)まで、データ 収集 → 比較分析を繰り返す。データ収集は、合計12ケースで理論的に飽和し、その時点で 終了した。収集されたデータをもとに、インターナルコミュニケーションプロセスの概念、
カテゴリー、汎用的なプロセスモデルを生成した。結果は、第5章に記載する。
第 4 ステップ:成長ベンチャー企業社長の意識分析(質的データを利用)
調査協力企業の中で、成長ベンチャー企業3ケースの社長の質的データ(インタビューデ ータ)から、社長のインターナルコミュニケーション意識として共通な部分を抽出する。ま
た社長の意識が、第3ステップで生成された汎用プロセスモデルにどのような影響を与えて いるか考察する。結果は、第6章に記載する。
第 5 ステップ:組織的な取組みの比較:クロスケース分析(質的データを利用)
調査協力企業の質的データを利用して、実際のインターナルコミュニケーションの組織的 運営を、12ケースそれぞれをシングルケースとして整理する。整理された12ケースのデー タを、企業規模(大規模/中規模/小規模)、CSQサーベイの結果(H2/H1/Lの3グループ)
の分析軸で、表の形に整理し直し、特に、H2群ケースの際立った組織的な取組みの特徴を明 確にする。更に、インターナルコミュニケーションの組織的な取組みの違いが、ICSの8つ のディメンジョンのどこに差をもたらすのかを分析する。結果は、第7章に記載する。
第 6 ステップ:CSQ統合プロセスモデルの生成
CSQサーベイと第3ステップで質的データから得られた汎用プロセスモデルを統合して、
成長ベンチャー企業のCSQ統合プロセスモデルを生成する。CSQ統合プロセスモデルは、
CSQサーベイよるICSが高くなるインターナルコミュニケーションプロセスとは何かを説明 するモデルである。CSQサーベイで想定するコミュニケーションパターンを整理し、汎用プ ロセスモデルと、ICSのディメンジョン単位で統合する。最後に、CSQ統合プロセスモデル によって、CSQサーベイ結果のトップスコアのケースとその他のケースのスコアの違いが、
プロセス的に説明出来るかを検証する。結果は、第8章に記載する。
第 7 ステップ: 組織の発達によるインターナルコミュニケーションの変化の考察
リサーチクエスチョンに対する回答を整理した上で、CSQ統合プロセスモデルが、組織の インターナルコミュニケーションの診断ツールとして実務的に有効であることを様々な視点 から提示する。また、組織の発達によるインターナルコミュニケーションプロセスの違いを 検証する。結果は、第 9 章に記載する。
第 3 節 サンプリング
本研究では、サンプリング基準を、企業規模(30 名から 3000 名)、成長性(5年間で売上、
営業利益、又は従業員数が2倍以上成長)、経営者(通算5年以上経営)、業種(小売業、サー ビス業、特殊技術製品の製造業、インターネット・IT関連企業)とした。
サンプリング方法とサンプル数は、研究の品質を左右するので慎重、かつ現実的に考えた。
複数の企業ケースを理論的な基準に従って飽和するまで理論的にサンプリングする方法とし た。Eisenhardt(1989)が提唱する、分析のために必要な現実的なサンプル数、4〜10社とし た。時間的制約から、以下の母集団を通じて調査依頼を行い12ケースから協力を得た。
①三菱-UFJ青年経営者セミナーのメンバー企業又はその紹介企業:
三菱東京UFJ銀行をメインバンクとする400社以上の中小、中堅企業。財務的に健全な 創業オーナー企業。成長性は、MiddleとLow。2012年の調査で7社が調査に応諾。
②一般社団法人 東京ニュービジネス協議会(NBC):
IPO大賞受賞企業は、成長性でHighにあたる成長ベンチャーである。2013年の調査で、
成長性High 2社、Middle 1社、Low 1社の4社が調査に応諾した。
③アントレプレナーオブザイヤージャパン(EOY = Entrepreneur Of The Year):
アクセラレーティング部門受賞企業は、成長性 High の成長ベンチャーである。2013 年 の調査で、成長性High 1社が調査に応諾した。
図 4: リサーチデザイン (筆者作成)
理論的飽和
成長ベンチ ャーの汎用 プロセスモ デルの生成
成長ベンチャー企業のCSQ統合プロセスモデル生成
組織の発達によるインターナルコミュニケーションの変化の考察 理論的サンプリング (調査対象企業抽出)
インタビュー調査 CSQサーベイ調査 公表情報調査
インタビューデータ(質的)
自由回答 (質的)
スコア (量的)
情報 (質的)
情報 (量的)
コミュ ニケー ション の組織 的取組 みの クロス ケース 分析 GTAによ
る分析
成長性 分析
スコアの 差を分析 概念、カテ
ゴリー生成
プロセスモ デル生成
過去5年間の売 上、利益、従業員 数の推移、増加率 企業規模別、CSQサーベイ別の分類
ICS、JS、 Pro、Ded、
相関分析
CSQによる 分類 CSQサーベ
イ計算
成長性の分類
成長ベンチャ ーのコミュニ ケーションの 組織的取組み
の特徴 成長ベン
チャー社 長のコミ ュニケー ション意 識の生成 成長ベ ンチャ ー社長 のコミ ュニケ ーショ ン意識 の分析
CSQサーベイが想定するコ ミュニケーションパターンの 整理(5要素モデルで分析)
ICSの質問項目
(CSQサーベイ)
4章
8章 7章
4章
6章
5章
9章 3章
第 4 章 CSQ スコアによる量的分析とケースの分類
第 1 節 12 ケースの CSQ スコアの集計結果
12ケースのプロファイル(表1)とCSQのスコア(表2)を示す。
表 1: 調査協力企業の概要 (筆者作成)
ケース 業種 上場 従業員 売上 成長 調査時期
K ソフトウェア開発業 非 2850 300 H 2013.8
L 眼鏡小売業 上 2600 300 H 2013.9
J ゲームアプリ開発業 上 650 152 H 2013.6
H 精密バネ製造業 上 310 82 M 2013.4
B 塾サービス業 非 300 15 M 2012.8
F 特殊ガラス・薄膜品製造業 上 290 55 L 2012.7
I ケースFと同じ 上 290 55 L 2013.5
C おもちゃ小売業 非 260 32 M 2012.8
D 自動車部品製造業 非 140 30 M 2012.9
E 物流・受託製造業 非 90 7 L 2012.6
A 特殊内装建材製造業 非 40 11 M 2012.6
G 温度センサー製造業 非 30 5 M 2012.9
注:企業のケース名に意味はない。数字は調査時期の前年度。売上:億円、従業員:人 (パート含む) 表 2: 12 ケースの CSQ サーベイの結果 (筆者作成)
ケース 従業 員数
成長性 ICS JS Pro Ded
平均 偏差 平均 偏差 平均 偏差 平均 偏差
K 2850 High 4.7 0.9 5.6 1.1 4.1 1.2 5.6 0.9
L 2600 High 4.3 0.7 4.9 1.2 4.2 1.2 5.5 1.0
J 650 High 4.0 0.8 4.5 1.3 4.2 1.2 4.8 1.3
H 300 Middle 4.1 0.8 4.3 1.4 4.4 1.2 4.8 1.3
B 300 Middle 4.2 0.7 5.1 1.2 4.1 0.8 5.1 1.0
F 290 Low 3.3 0.7 3.8 1.3 3.5 1.3 4.1 1.2
I 290 Low 3.8 0.8 4.6 1.4 3.7 1.2 4.8 1.3
C 260 Middle 4.0 0.6 5.0 0.9 3.9 1.0 5.2 1.1
D 140 Middle 3.7 0.8 4.3 1.3 4.2 1.0 4.1 1.1
E 90 Low 3.5 0.6 4.1 1.2 3.8 0.6 3.7 1.0
A 40 Middle 4.2 0.8 5.2 1.1 4.1 1.0 5.4 0.9
G 30 Middle 4.1 0.8 4.5 1.4 3.9 1.4 4.6 1.0
平均 - - 4.0 - 4.7 - 4.0 - 4.8 -
図 5: インターナルコミュニケーション満足度と仕事の満足度、生産性、やる気度(筆者作成)
仕事の満足度 JS(縦軸) 生産性 Pro(縦軸) やる気度 Ded(縦軸)
インターナルコミュニケーション満足度(ICS)横軸 3.5
4 4.5 5 5.5 6
3 4 5
D
A K B
L
FE I JHG C
3 3.5 4 4.5 5 5.5
3 4 5
G B K H
F I D E
CJ AL
3.5 4 4.5 5 5.5 6
3 4 5
L K C A
F E
D G HB J I
図5は、ICSを横軸に、JS、Pro、Dedを縦軸にプロットした図であり、全て正の相関関係 が確認でき、特にJS-ICSとICS-Dedは、相関性が強いことが分かる。成長ベンチャー企業で も、CSQのフレームワークは成立し、CSQによる調査は有効であると確認された。
なお、データ(表2)の妥当性と信頼性については、各ケースの回答者数は、ケースJを除
いて Downs(2004)の基準を満たさないが、理論通りデータ間の正の相関性が確認できたため、
データを分類するという本研究の目的の範囲においては、信頼性、妥当性は担保していると考 えた。
第 2 節 12 ケースの分類 (H2 群、 H1 群、 L 群の分類 )
12ケースをICSとJSの組合せから表3のように、H2(ICS = H、JS = H)、H1(ICS = H、
JS = L)、L(ICS = L、JS = L)の3つに分類する。なお、平均値以上をH、平均値未満をLと した。図6に分類を記載すると、綺麗にグルーピングされたことが分かる。
表 3: 12 ケースの ICS と JS による分類 (筆者作成)
Code 従業員数 成長性 ICS JS Pro Ded 分類
K 2850 H H H H H
H H2
L 2600 H H H H H
J 650 H H L H H H1
H 310 M H L H H
B 300 M H H H H H2
F 290 L L L L L
L L
I 290 L L L H H
C 260 M L H L H
D 140 M L L H L
E 90 L L L L L
A 40 M H H H H H H2
G 30 H M L L L H1
図 6 : 12 ケースの分類(筆者作成)
ここで、第4章で提示した結果と、それに関連する理論的な考察を踏まえ、命題を構築する。
[命題1]
1-1. インターナルコミュニケーション満足度と仕事の満足度、生産性との正の関係性(CSQの 3.5
4 4.5 5 5.5 6
3 3.5 4 4.5 5
D
A K B
L
F
E I JHG C
H1 H2
L
インターナルコミュニケーション満足度(ICS)
仕事の満足度(JS)
フレームワーク) は、国内の成長ベンチャー企業でも成り立つ。
1-2. 成長ベンチャー企業のインターナルコミュニケーション満足度は、成長性が低いベンチャ ー企業に比べて高い。仕事の満足度、生産性も、成長ベンチャー企業の方が高い。
1-3. やる気度も、仕事の満足度と同じ傾向を示し、成長ベンチャー企業の方が高く、インター ナルコミュニケーション満足度と正の相関関係がある。
1-4. CSQサーベイは、成長ベンチャー企業の従業員満足度を測定する調査方法として有効であ
る。
第 5 章 GTA による汎用プロセスモデルの生成
第 1 節 CSQ サーベイで分類された質的データの GTA による分析
GTAによる概念の生成は、次の通り。① 分析ワークシートに、ICS = H群の事例を抜き出 し、類似の事例(H)を追加していく。② 対比例(HR)があれば記載する。③ L群について も類似例(L)、対比例(LR)を追加する。④ データを解釈して、定義を記述し、定義を凝縮 表現したコトバ(短い表現)を概念名とする。
次に、個々の概念について、他の概念との関係を、コミュニケーションの5要素(発し手、
受け手、メッセージ、メディア、ウェイ)を考えながら、発し手が同じ概念は、同一のカテゴ リーになるように、概念間の関係性を考えてまとめ、カテゴリーを作る。
最後に、時間的関係性、因果関係、ピラミッド構造の3階層(社長、ミドル、一般従業員)
におけるコミュニケーションフローを考えて、プロセス図を一定の方向性(左から右に)を示 すように描く。表4に、生成されたカテゴリーと概念、図7にプロセス図を示す。プロセス図 は、カテゴリーの根拠となる実際のインタビューデータから、発し手と受け手を特定し、対応 するカテゴリー間を (→) で結ぶ作業を丁寧に行った。以下に例を示す。
(例) 社長の意思→①→強いリーダーとしての社長の存在感→④→ミドルの育成と部門管理 社長の意思→①→強いリーダーとしての社長の存在感→⑥→仕事への誇りと成長の実感
[説明] 社長が、ミドルや従業員の成長を意識して、ミドルや従業員の間で、自分の存在を示して、直接自 らの言葉で繰り返し、従業員の成長を訴えるコミュニケーションプロセス。
.
表 4: カテゴリーとカテゴリーに含まれる概念 (筆者作成)
項目 カテゴリー カテゴリーに含まれる概念 H/共通
A 社長のメッセージ創造と継続的な 伝達意思
A-1.社長は、理念を作り、浸透させる。
A-2.現状と将来像、変革を語り、従業員を導く。
A-3.強い企業文化を作って、従業員の自律的行動を促す。
A-4.お客様第一を、従業員に繰り返し伝える。
A-5.社長のメッセージ対する従業員の理解を確認する。
H H H 共 H B 強いリーダーとしての目に見える
社長の存在感
B-1.社長は、強いリーダーシップを示す。
B-2.社長が、社員集会で熱く全社員に語る。
B-3.社長は、とにかく、わかりやすく伝える。
B-4.社長は、従業員との距離を縮め、信頼関係を作る。
H 共 共 共 C ミドルのリーダーシップ育成と中
核的存在しての自由で、チャレンジ ングな部門管理
C-1.ミドルに、リーダーの役割を意識させコミュニケーションさせる。
C-2.ミドルに、自由にやらせる。
C-3.ミドルは、積極的に部下と情報、価値観を共有する。
C-4.ミドルは、部下を公正に評価し、フィードバックする。
C-5.社長は、ミドル同士の交流を起こす。
H 共 H 共 H
D 仕事に対する誇りとチャレンジを 通じた成長の実感(個人)
D-1.失敗を許容し、チャレンジさせ、成長させる。
D-2.個人の具体的な行動に落とす。
D-3.従業員に誇りを持たせる。
D-4.表彰を通じて従業員に期待像を示す。
共 H 共 H E 一体感を感じられるオープンで活
発な社内の雰囲気(集団)
E-1.活気ある、話しやすい職場、雰囲気を作る。
E-2.仕事を離れた、従業員の交流の場を作る。
E-3.社員旅行に行って人間関係を深める。
E-4.価値観の合った人を採用する。
共 共 H H F 専門スタッフによる積極的な活性
化とぬくもりの伝達
F-1.専門部門を設けて、活性化する。
F-2.社内広報で、会社をもっと好きにさせる。
H H
図 7: 成長ベンチャー企業のインターナルコミュニケーションのプロセスモデル (筆者作成)
ここで、第5章で提示した結果と、それに関連する理論的な考察を踏まえ、命題を構築する。
[命題2]
2-1. 汎用プロセスモデルを構成する概念は、表4に提示した24個である。
2-2. 24個の概念は、表4に提示した6つのカテゴリーに分かれる。
2-3. 図7に提示した汎用プロセスモデルとして記述できる。
第 6 章 成長ベンチャー社長のインターナルコミュニケーション意識
第 1 節 成長ベンチャー企業のプロファイルと社長の意識
社長の意識を明確にするために、高成長ベンチャー3社(表5)のデータを利用した。
⑦
⑨
⑪
⑫
⑩
⑧
⑥
⑤
④
③ ②
①
A: 社長のメッセージ創 造と継続的な伝達意思
(社長の伝達意思)
B: 強いリーダーとしての目に見える社長の存在感
(強いリーダーとしての社長の存在感)
G:従業員の インターナル
コミュニ ケーション
満足度 の向上
(従業員の 満足度向上)
D: 仕事に対する誇りとチャレンジを 通じた成長の実感
(仕事への誇りと成長の実感)
C: ミドルのリーダーシップ育 成と中核的存在しての自由で、
チャレンジングな部門管理
(ミドルの育成と部門管理)
E: 一体感を感じられるオープンで活発な 社内の雰囲気
(一体感と活発な社内の雰囲気)
F: 専門スタッフによる積極的活 性化とぬくもりの伝達
(専門部門による活性化)
表 5: 高成長ベンチャー企業のプロファイル (筆者作成)
ケース ケースJ1) ケースK ケースL
業種 ゲームアプリ IT 眼鏡小売チェーン
上場 東証一部 未上場(MBO実施) 東証一部 売上
(億円)
2008 23 (2009/8) 201 (2008/6) 74 (2009/8)
2013 152 (2012/8) 296 (2013/6) 365 (2013/8)
成長率 561% (4年間) 47% (5年間) 393%(4年間)
営業利益
(億円)
2008 0.8 (2009/8) 34(2008/6) 1.4 (2009/8)
2013 28 (2012/8) 2 (2013/6) 62 (2013/8)
成長率 3400%(4年間) -94% (5年間) 4329%(4年間)
従業員数
(人)
2008 128 (2009/8) 1,400 (2008/6) 630(2009/8)
2013 650 (2013/8) 2,850 (2013/4) 2,600(2013/8)
成長率 408% (5年間) 104%(5年間) 313%(4年間)
注1)ケースJは、2013年度は2013年12月決算の16ヶ月変則決算のため、2012年度の数値を記載する。
注2)財務データは、最新データと4年前、又は5年前(HPで入手可能な場合)のデータにて比較した。
注3)成長率は、(2013年 – 2008年)/2008年で計算。
3ケースの社長の言葉を丁寧に拾い、12個のインターナルコミュニケーション意識を生成し た。H2群のケースK、ケースLのインタビューによって、両ケースの社長の非常に強いコミ ュニケーション意識が明らかになり、社長の意識→インターナルコミュニケーションプロセス の関係性が明らかになった。ここで、命題を構築する。
[命題3]
3-1. 成長ベンチャー社長は、組織の拡大のために、毎年、継続的に、大量の人を採用する。組 織が失速しないように、執拗なまでのコミュニケーション意識を持ち、コミュニケーショ ンにこだわる。インターナルコミュニケーション意識の特徴は、次の通りである。
[成長ベンチャー企業の社長のコミュニケーション意識]
① 強烈なメッセージを繰り返し送る ② 強力なリーダーシップを発揮する
③ 場を設定する ④ 価値観のあった人を採用する ⑤ 社員の理解度をチェックする
⑥ 企業文化を維持する ⑦ ミドルをリーダーとして鍛える
⑧ 一体感を維持する新しいコミュニケーション手段を開発する
⑨ 社員に成長の機会を与える ⑩ 横のコミュニケーションを無理矢理取らせる
⑪ 評価は、誰しも文句をいう ⑫ ベンチャーの成長は、人の採用である
3-2. 成長ベンチャー企業の社長の強烈なインターナルコミュニケーション意識が、後段の組織 のインターナルコミュニケーションプロセスを形成する。社長が意識した内容を行動とし て実践するために、成長ベンチャー企業の社長は、汎用プロセスモデルのカテゴリー、コ ミュニケーションパスを活用して、具体的なアクションを行う。社長の意識が原因となり、
組織のプロセスが発生する。
第 7 章 インターナルコミュニケーションの組織的な取組みの比較
第 1 節 12 ケースのクロスケース分析
12ケースのインターナルコミュニケーションにおける組織的な取組みを比較するために、企 業規模(大/中/小)、CSQサーベイ結果(H2/H1/L)で整理すると表6のようになる。メッセージ は、「発し手」を考えてICSのディメンジョンとの対応を付けた。(OP: 会社情報の伝達、OI: 部
門情報の伝達、CC: コミュニケーションの風土作り、MQ: メディア品質の維持、SC/Sub : 上 司・部下のコミュニケーション、HC: 横のコミュニケーション、PF: 評価のフィードバック)
表 6: 12 ケースのインターナルコミュニケーションの組織的取組みの比較 (筆者作成)
企業規模 小 中 大
CSQサーベイの結果 H1 H2 L L L L L H2 H1 H1 H2 H2 メッセージ メディア ケース G A E D C I F B H J L K 会社の理念、方向
性、財務情報 (OP,CC,MQ)
全社集会
社長のプレゼン/情熱
⑫
▲
⑫
◯
②
▲
⑫
▲
②
◯
⑫
▲
⑫
▲
④
◯
⑫
◯
⑫
◯
④
◯
⑫
◯
幹部会 ◯ ◯ ▲ ◯ ◯ ▲ ▲ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
社長のメッセー ジ伝達(OP, CC)
対面(わかりやすさ) ◯ ◯ ▲ ▲ ◯ ▲ ▲ ◯ ▲ ▲ ◯ ◯
Web(わかりやすさ) ▲ ◯ ◯
社長への社員の 理解度のフィー ドバック(なし)
月報/ミドル経由 ◯ ◯
対面 (オープンな会議) ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ランチ会 ◯ ◯
社長とのCOM
(CC)
社長との飲み会 ④ ⑤ ① ② ② ② ② ② ① ② ④ ②
社員旅行/合宿 ◯ ◯ ◯ ◯
社員間のCOM
(HC)
イベント ◯
②
◯
②
◯
①
◯
②
◯
②
◯
②
◯
②
◯
②
◯
②
◯
⑫
△
④
◯
⑫
サークル活動 ◯ ◯ ◯
ボランティア活動 ◯ ▲
社員飲み会(会社補助) ◯ ◯
社内広報部門の活動 ▲ ▲ ◯ ◯
社内報(紙) ▲ ◯ ◯
専門スタッフの活動 ◯
横のCOM(HC) 自発的なCOM ◯
ミドルのランチ会 ◯
従業員の勉強会 ◯ ◯
業務連絡(OI, CC, MQ, SC, Sub, HC)
会議 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
対面 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
メール ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
グループウェア ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
評価 (PF) 面談 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
表彰 ▲ ▲ ▲ ◯ ◯ ◯
採用(なし) 対面/Web ◯ ◯ ◯
注) ◯:全社効果あり、△:幹部社員のみ、①:年1回開催、②:年2回開催、④:年4回開催、⑫:毎月開催、▲:効果疑問
表6の網掛けした部分から、H2群は、全社集会、社長のメッセージ、社長へのフィードバ ック、社内イベント、社内広報部門、採用のコミュニケーションに特徴があり、ICSのOP、
CC、MQ、HCに影響を与えていることが分かった。採用のコミュニケーションは、CSQにデ ィメンジョンがないが、成長ベンチャーでは必要なディメンジョンと分かる。社内広報部門に ついては、H2 群の社長は、明確な設置意識、何を行わせるかについての具体的なイメージを 持っていた。
ここで、第7章で提示した結果と、それに関連する理論的な考察を踏まえ、命題を構築する。
[命題4]
4-1. 大規模 H2 群の成長ベンチャー企業は、社長、ミドル、一般従業員の各階層において、次 のような具体的なインターナルコミュニケーションを組織的な取組みとして実践する。(下 線は、特徴的な内容)
(1) 社長は、自分のメッセージを、全社集会で対面で、或はWebで、直接、熱く、分かりやす く、従業員に伝達する。そして、きちんと伝わっているか、従業員からのフィードバック を、月報、或はミドルの報告、或はその場で取得して、必ず理解度を確認する。伝わって なければ、伝わるまで何度も繰り返し話す。言い放しはしない。
(2) 社長は、価値観の共有、企業文化の維持を重視し、従業員に全社集会で繰り返し話す。新 卒採用の段階から、社長の言葉で会社の理念と学生にとってのチャレンジと成長の機会を 語り、本当に価値観を共有できる学生のみを採用する。採用後の研修や入社後も、全社集 会や個別に、繰り返し、理念を語り続ける。
(3) 組織が拡大するに伴い、ベンチャーとしての精神を失い、大企業傾向になることを避ける ために、一人一人の関係性が希薄になることを抑え、インターナルコミュニケーションの 活性化、従業員の一体感の醸成、社内の明るく、オープンで話しやすい雰囲気の醸成のた めに、社長直下でコミュニケーション専門部門、スタッフを組織して活動させる。コミュ ニケーション専門部門(或は、社内広報部門とも呼ばれる)の任務は、全社イベントの企 画、運営、従業員同士の交流の促進、社内報の発行による社長メッセージの伝達、「こん な人もいるんだ」という社員紹介によって、従業員同士が知り合う場を提供し、会社を好 きにさせる。
(4) 社長は、拡大する組織運営を実施することは、自分1人では困難であると自覚し、積極的 にミドルを信頼し、権限委譲し、仕事を任せて、チャレンジさせる。リーダーとしてのス キル向上のための研修を行い、社長の分身として、部門内への理念の浸透、行動規範に則 った目標達成を実現する。
(5) ミドルレベルにおける他部門との交流促進は、課題であるが、ミドルのリーダーとしての 意識レベルを向上させ、自発的な横のコミュニケーション(対面、メール)や、強制的な ランチ会等によって、情報交換はもちろん仕事を超えた相互の理解まで深めさせる。
(6) 従業員同士の気楽な、ざっくばらんな飲み会は有効である。毎月の会議終了後に飲み会を 開催する等、日頃から社長やミドル主導で、従業員同士の交流の場を設定する。
(7) 年に一回、宿泊を伴う合宿研修、或は社員旅行を実施する。普段接することのない他部門 の人達と、寝食を共にすることで、深い人間的な交流、親睦を深める機会を提供する。
4-2. 大規模H2群の成長ベンチャー企業の組織的な取組みは、他のケースと比較して、以下の 点で違いがある。
① 専門スタッフによる多彩なイベント、社内報等を通じた従業員間のコミュニケーショ ンの制度的仕組みが出来ている。