ジェロンディフ記号素の存在について
川 島 浩 一 郎 KAWASHIMA KOICHIRO
福 岡 大 学 Université de Fukuoka
E-mail: [email protected]
ふらんぼー(Flambeau) vol.44 2018, p.42-60.
原 稿 受 理 2018-12-06 ; 最 終 版 2019-02-10
抄 録
発 話 中 のある切 片 が表 意 単 位 の実 現 形 であるためには、その切 片 を他 の切 片 (ゼロ切 片 でもよい) と入 れ換 えることによって、知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じることが必 要 である。この原 理 を システマティックに適 用 することによって、「en + -ant」を実 現 形 とするジェロンディフ記 号 素 の存 在 を 示 すことができる。したがってジェロンディフをつくる en は、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 ではないと言 って よい。またジェロンディフの構 成 要 素 としての-ant は、現 在 分 詞 記 号 素 の実 現 形 ではない。
Résumé
Pour identifier un segment d’un énoncé comme unité significative, il est nécessaire que ce segment remplisse les deux conditions suivantes : (a) ce segment peut être remplacé par un autre. (b) ce remplacement apporte une distinction de sens « intellectuel » à cet énoncé. L’application systématique de ce principe de commutation permet de conclure que dans le gérondif il existe un monème dit gérondif (en + -ant), qui est une tout autre chose que le monème prépositionnel en ou que le monème participe présent.
キ ー ワ ー ド ジ ェ ロ ン デ ィ フ, 現 在 分 詞, 不 定 詞, 前 置 詞
© ふらんぼー Flambeau 44 (2018) pp.42–60.
183-8534 東 京 都 府 中 市 朝 日 町 3-11-1 東 京 外 国 語 大 学 フランス語 研 究 室 183-8534 French Section, Tokyo University of Foreign Studies, 3-11-1 Asahi-cho Fuchu City, Tokyo
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0. はじめに
ジェロンディフの中 心 部 分 は、接 尾 辞 として-ant をもつ動 詞 形 と en による連 辞 として 構 成 される。たとえば (1) においてジェロンディフの中 心 部 分 である en remontant は、接 尾 辞 として-ant を持 つ動 詞 形 (remontant) と en による連 辞 として構 成 されている。このジ ェロンディフにおける動 詞 記 号 素 の実 現 形 が remont-であることには、ほぼ議 論 の余 地 は ない。
(1) Tout en remontant Kearney Street, le tacot retrouva un semblant de stabilité.
(Guillaume Musso, L’appel de l’ange, Collection Pocket, 2011, p.35)
(2) Remontant la rue de Belleville, ils marchaient. (Thierry Jonquet, Du passé faisons table rase, Collection Folio, 2006, p.129)
ただし、ジェロンディフの中 心 部 分 をつくる en および-ant がどのような表 意 単 位 の実 現 形 であるのかについては、かならずしも見 解 が一 致 してはいない。まず、ジェロンディフに おける en と-ant がそれぞれ別 の記 号 素 の実 現 形 であるのか、あるいは同 じ一 つの記 号 素 の実 現 形 であるのかで主 張 が分 かれうる。また、これらの en と-ant をそれぞれ異 なる記 号 素 の実 現 形 であるとした場 合 には、ジェロンディフを構 成 する en が前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 である en と同 一 のものであるのかという点 で見 解 が分 かれうる。ジェロンディフの構 成 要 素 としての-ant が、現 在 分 詞 をつくる-ant と同 じものであるのかどうかも重 要 な論 点 となる。
本 稿 の主 要 な目 的 は、ジェロンディフの構 成 要 素 である en および-ant が、同 じ一 つ の記 号 素 の実 現 形 であることを明 確 に示 すことである。つまり本 稿 では、「en...-ant」という 不 連 続 な形 式 の実 現 形 を備 えたジェロンディフ記 号 素 が存 在 することを、具 体 的 な分 析 によって明 らかにする。たとえば (1) の en remontant における en は、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 で は な く 、 ジ ェ ロ ン デ ィ フ 記 号 素 の 実 現 形 の 一 部 分 で あ る 。 同 じ く (1) の en remontant における-ant は、現 在 分 詞 をつくる記 号 素 の実 現 形 ではなく、ジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 の一 部 分 に過 ぎない。ジェロンディフの中 心 部 分 となる en remontant は、
(2) にみられるような現 在 分 詞 のremontant に en を加 えた結 果 ではない。
1. 基 本 的 な用 語 および概 念 、事 実 の確 認
1.1. 表 意 単 位 および記 号 素 を認 定 するための必 要 条 件
1.1.1. 表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件
発 話 中 のある切 片 が表 意 単 位 の実 現 形 であるためには、その切 片 を他 の切 片 (ゼロ 切 片 でもよい) と入 れ換 えることによって、知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じること が必 要 である。ゼロ切 片 という用 語 は、切 片 が不 在 の状 態 を意 味 する。ゼロ切 片 を実 現 形
とするような言 語 単 位 の存 在 を前 提 とした概 念 ではない 1。知 的 意 味 という用 語 は、大 略 、 言 語 共 同 体 において共 有 される客 観 的 、離 散 的 な弁 別 にもとづく意 味 のことを指 す。
条 件 (a) 発 話 の一 部 分 において、その切 片 を他 の切 片 (ゼロ切 片 でもよい) と入 れ 換 えることができる。
条 件 (b) この入 れ換 えによって、知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じる。
つまり発 話 のある切 片 が表 意 単 位 の実 現 形 であるためには、少 なくとも上 の条 件 (a) お よ び 条 件 (b) が み た さ れ る こ と が 必 要 で あ る 。 た と え ば 下 の (3) お よ び (4) で は 、 mercrediとvendrediを入 れ換 えることができる。つまりmercrediとvendrediが条 件 (a) を みたす。また mercredi と vendredi の入 れ換 えによって、(3) や (4) の意 味 に客 観 的 、離 散 的 な 弁 別 が 生 じ る 。 つ ま り mercredi と vendredi が 条 件 (b) を み た す 。 し た が っ て mercredi と vendredi はそれぞれ、少 なくとも on est ...という文 脈 において、表 意 単 位 の実 現 形 であるための必 要 条 件 をみたしていると考 えてよい。
(3) On est mercredi. (Fred Vargas, Sans feu ni lieu, Collection J'ai lu, 1997, p.252) (4) On est vendredi. (Fred Vargas, L'homme aux cercles bleus, Collection J'ai lu, 1996, p.140)
(5) On est vendredi soir, [...]. (Maxime Chattam, Maléfices, Collection Pocket, 2004, p.521)
入 れ換 えの可 能 性 が検 証 の対 象 となる切 片 には、いわゆる「ゼロ切 片 」も含 まれる。
たとえば (4) と (5) にみられるように、on est vendredi soir の soir はゼロ切 片 (切 片 が不 在 の状 態) と入 れ換 えることができる。この入 れ換 えは (4) と (5) に、知 的 意 味 にもとづ いた弁 別 を生 じさせる。この観 察 によって、(5) における soir は表 意 単 位 の実 現 形 として の必 要 条 件 をみたすと考 えることができる。
ただし、条 件 (a) および条 件 (b) をみたす発 話 の切 片 が表 意 単 位 の実 現 形 である とはかぎらない。たとえば [pwa] における [p] と [bwa] における [b] は、条 件 (a) と条 件 (b) をみたす。しかし、これらの [p] や [b] を表 意 単 位 の実 現 形 と言 うことはできない。
これらの [p] や [b] は表 意 単 位 の実 現 形 ではなく、音 素 つまり最 小 の弁 別 単 位 の実 現 形 である。また (3) と (4) にみられるように、mercredi の mercre-と vendrediの vendre-は 条 件 (a) と条 件 (b) をみたす。しかし、これらのmercre-やvendre-が表 意 単 位 の実 現 形 であるのか、表 意 単 位 の実 現 形 の一 部 分 に過 ぎないのかは、考 え方 にもよると思 われる。
(6) Je vais au concert ce soir. (Fred Vargas, Dans les bois éternels, Collection J’ai lu, 2006, p.35)
(7) Je vais à la fac, [...]. (Anna Gavalda, Je voudrais que quelqu'un m'attende quelque
1 たとえば on est vendredi soirのsoirを、ゼロ切 片 と入 れ換 えることはできる。しかし、この事 実 が、on
est vendredi
part, Collection J'ai lu, 1999, p.35)
なお表 意 単 位 の実 現 形 に相 当 する切 片 を、話 線 から知 覚 可 能 な形 として切 り出 すこ とが常 にできるとはかぎらない。たとえば (6) の au において、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 に 相 当 する切 片 および定 冠 詞 記 号 素 の実 現 形 に相 当 する切 片 は、知 覚 可 能 な形 としては 現 れていない。これらの切 片 が重 ね合 わさった切 片 が、au という実 現 形 だと言 ってよい。記 号 素 は必 ずしも、(7) における à (前 置 詞 記 号 素 の実 現 形) や la (定 冠 詞 記 号 素 の実 現 形) のように知 覚 可 能 な形 で実 現 するとはかぎらないのである。
1.1.2. 記 号 素 の実 現 形 としての必 要 条 件
最 小 の表 意 単 位 を、記 号 素 と呼 ぶ。つまり記 号 素 という用 語 は、それ以 上 小 さな表 意 単 位 に分 割 することのできない表 意 単 位 を意 味 する。最 小 の表 意 単 位 は、形 態 素 とも 呼 ばれる。
(8) Pierre est grand. (Sylvie Testud, Gamines, Collection Le Livre de Poche, 2006, p.120)
(9) Une peur panique grandissait dans le ventre de Maude. (Guillaume Musso, Sauve- moi, Collection Pocket, 2005, p.1113)
この定 義 から、記 号 素 の実 現 形 の内 部 にあって、かつ表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたすことのできる切 片 は、その記 号 素 の実 現 形 全 体 しかないことになる。記 号 素 の実 現 形 とは、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす切 片 を、その内 部 に一 つ しかもたない切 片 のことだと言 ってよい。たとえば (8) の grandの内 部 にあって、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす切 片 は、この grand という切 片 全 体 しかない (1.1.1.
を参 照)。この grand が、記 号 素 の実 現 形 だからである。
なお、ある切 片 が表 意 単 位 ないしは記 号 素 の実 現 形 であるのかどうかについては、
文 脈 ごとの検 証 が必 要 である。表 意 単 位 とその実 現 形 が「1 対 1」に対 応 するとはかぎらな いからである (1.3.を参 照)。ある文 脈 で記 号 素 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす切 片 が、他 の文 脈 においても同 じ条 件 をみたすとはかぎらない。たとえば [grã] という切 片 は、
(8) の grand において表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。一 方 [grã] が (9)
の grandissait において当 該 条 件 をみたすかどうかはについては、議 論 の余 地 がある。
1.1.3. 表 意 単 位 抽 出 のための必 要 条 件 の必 然 性
発 話 のある切 片 が表 意 単 位 の実 現 形 であるためには、その切 片 が、少 なくとも次 の 条 件 (a) および条 件 (b) をみたすことが必 要 である。条 件 (a) 発 話 の一 部 分 において、
その切 片 を他 の切 片 (ゼロ切 片 でもよい) と入 れ換 えることができる。条 件 (b) この入 れ 換 えによって、知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じる。この二 条 件 は、発 話 の切 片 が
表 意 単 位 の実 現 形 であることの必 要 条 件 である (1.1.1.を参 照)。
(10) Il a l’air d’un homme bien, [...]. (Maxime Chattam, La théorie Gaïa, Collection Pocket, 2008, p.326)
(11) Combien ça coûte ? (Elle, 7 mars 2005, p.191)
条 件 (a) をみたさない切 片 を、表 意 単 位 の実 現 形 であると言 うことはできない。条 件 (a) に反 して、かりに (10) の homme および bien を (ゼロ切 片 も含 めて) 他 の切 片 と入 れ換 えることができないと仮 定 してみよう。この仮 定 によれば、これらの homme と bien は一 体 化 して、分 離 することが不 可 能 である。つまり (10) におけるhommeとbienはいずれも、
いわば (11) の combienにおけるcom-や-bienと同 様 に、記 号 素 の実 現 形 の一 部 分 に過 ぎないことになる (1.1.2.を参 照)。
また条 件 (b) をみたさない切 片 を、表 意 単 位 の実 現 形 であると言 うこともできない。
条 件 (b) に反 し,(10) のbienを他 の切 片 と入 れ換 えることはできるが、この入 れ換 えによ
って (10) に知 的 意 味 にもとづいた弁 別 は生 じないと仮 定 してみよう。この仮 定 のもとでの
bien を、表 意 単 位 の実 現 形 と言 うことはできない。どのような実 現 形 を用 いても (たとえば bien であろうが sérieux であろうが galant であろうが) 知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じない文 脈 がもしあるとすれば、それは表 意 機 能 そのものが働 きえない文 脈 であると 考 えざるをえない。
したがって、発 話 の切 片 が上 記 の条 件 (a) あるいは条 件 (b) をみたさないとき、そ の切 片 を表 意 単 位 の実 現 形 とみなすことはできないと言 ってよい。条 件 (a) をみたさない 切 片 は、記 号 素 の実 現 形 の一 部 分 に過 ぎない。条 件 (b) をみたさない切 片 がもしあると すれば、それは表 意 単 位 が現 れえない文 脈 にしか現 れえないような切 片 のはずである。
1.1.4. 発 話 の残 りの部 分 に対 する推 定
より大 きな表 意 単 位 の実 現 形 からより小 さな表 意 単 位 の実 現 形 の除 去 した残 りの切 片 には、表 意 単 位 の実 現 形 が含 まれると推 定 してよい。表 意 単 位 の実 現 形 は、表 意 単 位 の実 現 形 によってのみ構 成 されるからである。たとえば (12) の quel courage が表 意 単 位 の実 現 形 であることを前 提 にしてみよう。この quel courage における courage は、(13) の
méli-mélo との入 れ換 えにみられるように、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす
(1.1.1.を参 照)。このとき、quel courage から courageを除 去 した残 りの切 片 である quelもま た、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。実 際 quel courage の quel は、(14) の du との入 れ換 えにみられるように、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたしている。
(12) Quel courage ! (Amélie Nothomb, Antéchrista, Collection Le Livre de Poche, 2003, p.31)
(13) Quel méli-mélo ! (Nicole de Buron, Chéri, tu m'écoutes ?... alors répète ce que je viens de dire..., Collection Pocket, 1998, p.140)
(14) [...], du courage ! (Thierry Jonquet, Mon vieux, Collection Points, 2004, p.23) (15) Je peux entrer ? (Cécile Krug, Demain matin si tout va bien, Collection J’ai lu, 2004, p.140)
(16) Vous me laissez entrer ? (Tonino Benacquista, Trois carrés rouges sur fond noir, Collection Folio, 1990, p.64)
(17) Je peux fumer ? (Fred Vargas, Dans les bois éternels, Collection J’ai lu, 2006, p.176)
(18) Vous avez une lampe ? La mienne est trempée. (Fred Vargas, Pars vite et reviens tard, Collection J'ai lu, 2001, p.318)
この推 定 方 法 は、動 詞 形 における表 意 単 位 の抽 出 にも利 用 することができる。たとえ ば (15) における je peux という切 片 は、(16) の vous me laissez との入 れ換 えにみられる ように、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす (1.1.1.を参 照)。また (15) におけ る entr-という切 片 は、(17) の fum-との入 れ換 えにみられるように、表 意 単 位 の実 現 形 とし ての必 要 条 件 をみたす (1.1.1.を参 照)。よって je peux entrerから je peux および entr-を 除 去 した残 りの切 片 である-er (音 声 的 には概 ね [e]) もまた、表 意 単 位 の実 現 形 としての 必 要 条 件 をみたすと考 えてよい。なお、この-er を実 現 形 とする表 意 単 位 は不 定 詞 記 号 素 と呼 ばれる (2.2.を参 照)。
この推 定 方 法 は、特 定 の文 脈 において他 の切 片 と入 れ換 えることのできない切 片 の 分 析 にとってとくに、必 要 不 可 欠 であると思 われる。たとえば (18) における la mienne の la は 、 ゼ ロ 切 片 も 含 め て 、 他 の 切 片 と 入 れ 換 え る こ と が で き な い 。 た だ し la mienne と mienne は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。つまり la mienne は ma lampe などと入 れ換 えることができ、mienne は lampe などと入 れ換 えることができる。また、この入 れ換 えによって知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じる。このことから、la mienne にお ける la もまた表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたすことが推 定 可 能 である。表 意 単 位 の実 現 形 である la mienne から表 意 単 位 の実 現 形 である mienne を除 いた残 りの部 分 である la もまた、表 意 単 位 の実 現 形 であるはずだからである。
1.2. 表 意 単 位 と表 意 単 位 の境 界 確 定
1.2.1. 表 意 単 位 としての境 界 の存 在
発 話 のある切 片 と他 の切 片 の間 に表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 (切 れ目) があ るためには、それらの切 片 それぞれが表 意 単 位 の実 現 形 であることが必 要 である。表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 は、表 意 単 位 の実 現 形 の間 にしかないからである。複 数 の切 片 の間 に表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 があるためには、その境 界 に隣 接 して、複 数 の表 意 単 位 の実 現 形 がなければならない。
(19) Je ne fume plus. (Marc Levy, Mes amis Mes amours, Collection Pocket, 2006,
p.67)
(20) Je ne bois plus. (Fred Vargas, Dans les bois éternels, Collection J’ai lu, 2006, p.238)
(21) Je ne fume pas. (Jean-Christophe Grangé, La ligne noire, Collection Le Livre de Poche, 2004, p.86)
したがって、ある切 片 と他 の切 片 の間 に表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 があるため には、それらの切 片 がそれぞれ、表 意 単 位 の実 現 形 であるための必 要 条 件 をみたすこと が必 要 である。たとえば (19) の fume と (20) の bois の入 れ換 えにみられるように、(19) の fume は表 意 単 位 の実 現 形 であるための必 要 条 件 をみたす (1.1.1.を参 照)。また (19) の plus と (21) の pas の入 れ換 えにみられるように、(19) の plus は表 意 単 位 の実 現 形 で あるための必 要 条 件 をみたす (1.1.1.を参 照)。よって (19) のfumeとplusは、それらの間 に表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 があるための必 要 条 件 をみたしていると言 ってよい。
なお、切 片 間 に表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 があると言 える場 合 、それらの切 片 を実 現 形 とする表 意 単 位 の間 に表 意 単 位 としての境 界 があると言 うこともできる。たとえば (19) において fume を実 現 形 とする表 意 単 位 と plus を実 現 形 とする表 意 単 位 は、それら の間 に表 意 単 位 としての境 界 があるための必 要 条 件 をみたしている。(19) における fume と plus が、上 で検 討 したように、それらの間 に表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 があるため の必 要 条 件 をみたしているからである。
1.2.2. 表 意 単 位 としての境 界 の不 在
発 話 中 の二 切 片 が表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたさない場 合 、これらの 切 片 の間 に表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 (切 れ目) はないと言 ってよい。ある切 片 と 他 の切 片 の間 に表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 があるためには、それらの切 片 がそれぞ れ、表 意 単 位 の実 現 形 であるための必 要 条 件 をみたすことが必 要 だからである (1.2.1.を 参 照)。この必 要 条 件 がみたされない場 合 、そこに、表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 があ ると言 うことはできない。たとえば (22) の asseyons-nous において-ons という切 片 だけを、
他 の切 片 と入 れ換 えることはできない。この-ons を-ez と入 れ換 えれば、(23) の asseyez- vous にみられるように、nous もまた vous と入 れ換 わってしまう。同 様 に (22) の asseyons- nous において、nous という切 片 だけを他 の切 片 と入 れ換 えることはできない。この nous を vous と入 れ換 えれば、(23) の asseyez-vous にみられるように、-ons もまた-ez と入 れ換 わ ってしまう。つまり asseyons-nous における-ons や nous は、それぞれ個 別 では、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたしていない (1.1.1.を参 照)。この観 察 は、asseyons-nous における-ons とnous の間 に、表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 がないことを示 している。
(22) Asseyons-nous. (Albert Camus, Caligula suivi de Le malentendu, Collection Folio, 1958, p.121)
(23) Asseyez-vous, s’il vous plaît. (Maxime Chattam, In tenebris, Collection Pocket,
2002, p.226)
なお、切 片 間 に表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 がない場 合 は、それらの切 片 の間 に は表 意 単 位 としての境 界 はないことになる。つまり、これらの切 片 は同 一 の表 意 単 位 の実 現 形 である。たとえば (22) の asseyons-nous における-ons と nous は、同 一 の表 意 単 位 の実 現 形 であると言 ってよい。(22) の-ons と nous の間 に、表 意 単 位 としての境 界 がない からである。
1.3. 表 意 単 位 と実 現 形 の非 「1 対 1」的 な対 応 関 係
1.3.1. 表 意 単 位 と実 現 形 の多 様 な対 応 関 係
表 意 単 位 とその実 現 形 の間 に、1対 1の対 応 関 係 があるとはかぎらない。声 の大 きさ、
話 す速 さ、アクセントの相 違 、男 女 差 、年 齢 差 、地 域 差 、個 人 差 など、音 声 面 での様 々な 違 いに着 目 すれば、同 一 の表 意 単 位 の実 現 形 は無 数 に存 在 することになる。表 意 単 位 と 実 現 形 の間 に厳 密 な 1 対 1 の対 応 関 係 が生 じるほうが、むしろ希 な偶 然 とさえ思 える。
(24) Asseyez-vous, ma bonne amie... (Pierre Siniac, Femmes blafardes, Collection Rivages/Noir, 1981, p.25)
(25) Entrez, entrez... Assoyez-vous... (Anna Gavalda, Ensemble, c'est tout, Collection J'ai lu, 2004, p.407)
(26) J'ai le temps. J'en ai trop. (Tonino Benacquista, La commedia des ratés, Collection Folio, 1991, p.41)
(27) Tout peut arriver en cinq minutes. (Guillaume Musso, Parce que je t’aime, Collection Pocket, 2007, p.23)
(28) Je pense que le destin n’existe pas. (Guillaume Musso, Je reviens te chercher, Collection Pocket, 2008, p.46)
また、異 音 同 義 や同 音 異 義 の事 例 も少 なくない。たとえば (24) の asseyez と (25) の assoyez のように、同 一 の表 意 単 位 が異 なる実 現 形 をもつことがある。これは、異 音 同 義 あるいは変 異 体 と呼 ばれる現 象 である。また中 性 代 名 詞 記 号 素 の実 現 形 である (26) の en や前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 である (27) の en のように、異 なる表 意 単 位 が (音 声 的 な 微 細 な違 いを除 けば) 同 じ形 で実 現 することも珍 しいことではない。この現 象 は、同 音 異 義 と呼 ばれる。
したがって表 意 単 位 と「表 意 単 位 の実 現 形 」の対 応 関 係 を厳 密 に特 定 するためには、
実 現 形 を決 定 的 な論 拠 にすることはできない。表 意 単 位 とその実 現 形 が、1対 1に対 応 す るとはかぎらないからである。たとえば (26) や (27) の en が表 意 単 位 の実 現 形 だからと いって、(28) の pense の内 部 にある-en-が表 意 単 位 の実 現 形 であるということにはならな い。また (26) や (27) の en にみられるように、同 一 の実 現 形 だからといって同 一 の表 意
単 位 の実 現 形 であるともかぎらない。意 味 と形 の関 係 は、一 意 的 に定 まるとはかぎらないと 言 ってよい。
1.3.2. 現 在 分 詞 とジェロンディフの形
ジェロンディフに含 まれる動 詞 形 と現 在 分 詞 の動 詞 形 は、同 形 であっても、同 一 の表 意 単 位 の実 現 形 であるとはかぎらない。たとえば (29) の en passant に含 まれる passant と (30) におけるpassant を、同 形 であるというだけの理 由 で、同 じ表 意 単 位 の実 現 形 であ ると判 定 できるわけではない。よって (29) の en passant における-ant と (30) の passant における-ant が、同 一 の表 意 単 位 の実 現 形 であるともかぎらない (3.2.を参 照)。表 意 単 位 と実 現 形 の対 応 関 係 を特 定 するためには、実 現 形 を決 定 的 な論 拠 にすることはできない からである (1.3.1.を参 照)。
(29) En passant, elle jeta un coup d'œil à l'horloge de la chambre. (Guillaume Musso, Et après..., Collection Pocket, 2004, p.122)
(30) Il imagina Yolande Vigot passant son après-midi devant sa table. (Pierre Siniac, Femmes blafardes, Collection Rivages/Noir, 1981, p.138)
(31) Je repars en France demain soir. (Guillaume Musso, Sauve-moi, Collection Pocket, 2005, p.60)
また、ジェロンディフの冒 頭 部 分 に現 れる en と前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 である en が、
同 形 であるからといって、同 一 の表 意 単 位 の実 現 形 であるとはかぎらない。たとえば (29) の en passant に含 まれる en と (31) の en France における en を、同 形 であるというだけの 理 由 で、同 じ表 意 単 位 の実 現 形 として同 定 できるわけではない (3.2.を参 照)。表 意 単 位 と実 現 形 の対 応 関 係 が、一 意 的 に定 まるとはかぎらないからである (1.3.1.を参 照)。
1.4. 機 能 辞 としての前 置 詞 記 号 素
他 の 表 意 単 位 の 統 辞 機 能 を 表 示 す る た め の 記 号 素 を 、 機 能 辞 と 呼 ぶ 。 た と え ば (32) のparce que や (33) のsiは、機 能 辞 の実 現 形 である。実 際 (32) のparce queは、
この発 話 におけるvous gênez tout le monde ici の統 辞 機 能 を表 示 している。また (33) の si は、この発 話 における vous restez の統 辞 機 能 を表 示 している。
(32) Soyez raisonnable, parce que vous gênez tout le monde ici. (Fred Vargas, Pars vite et reviens tard, Collection J'ai lu, 2001, p.14)
(33) Si vous restez, je reste. (Fred Vargas, Dans les bois éternels, Collection J’ai lu, 2006, p.143)
(34) En une seconde, elle le détesta. (Jean-Christophe Grangé, La ligne noire, Collection Le Livre de Poche, 2004, p.479)
(35) Je suis trop jeune pour mourir ! (Guillaume Musso, Et après..., Collection Pocket, 2004, p.175)
前 置 詞 記 号 素 は、機 能 辞 であると言 ってよい。たとえば前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 であ る (34) の enや (35) のpour は、機 能 辞 の実 現 形 として機 能 している。実 際 (34) の en は、この発 話 における une seconde の統 辞 機 能 を表 示 している。(35) の pour は、この発 話 における mourir の統 辞 機 能 を表 示 している。
2. 動 詞 記 号 素 とそれを非 動 詞 化 する記 号 素 2.1. 動 詞 記 号 素 の存 在
述 辞 としての動 詞 形 に含 まれる記 号 素 の実 現 形 が、不 定 詞 、現 在 分 詞 、過 去 分 詞 およびジェロンディフにも共 通 して現 れることがある。たとえば (36) の passe に含 まれる記 号 素 と同 一 の記 号 素 の実 現 形 は、(37) の passer、(38) の passant、(39) の passé そして (40) のen passantにも含 まれると言 ってよい。そう考 えないかぎり、これらのpasse、passer、 passant、passé、en passant に共 通 部 分 は何 もないことになってしまう。これらの実 現 形 には、
同 一 の記 号 素 の実 現 形 が含 まれていると考 えたほうがよい。
(36) L’œil malicieux, Ariel Wizman passe. (Elle, 7 mars 2009, p.16)
(37) Une idée qui vient de passer. (Françoise Dorin, En avant toutes !, Collection Pocket, 2007, p.103)
(38) Le temps passant, elles en viennent à se faire couper et colorer les cheveux.
(Elle, 7 mars 2005, p.158)
(39) Passé le pont, les véhicules garés n’importe comment attendent leurs conducteurs sortis acheter de l’alcool et du tabac détaxés. (Jean Echenoz, Je m’en vais, Minuit, 1999/2001, p.184)
(40) En passant d’un cliché à l’autre, une évidence lui sauta aux yeux. (Guillaume Musso, L’appel de l’ange, Collection Pocket, 2011, pp.119-120)
この記 号 素 は、動 詞 記 号 素 と呼 ばれる。その実 現 形 が、様 々な動 詞 形 の共 通 部 分 と なりえるからである。不 定 詞 、現 在 分 詞 、過 去 分 詞 、ジェロンディフには、動 詞 記 号 素 の実 現 形 が含 まれると言 ってよい。動 詞 記 号 素 の実 現 形 が、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたすことは自 明 である (1.1.1.を参 照)。たとえば (36) の passe における動 詞 記 号 素 の実 現 形 (pass-) は、他 の切 片 (たとえばparl-) と入 れ換 えることができる。また、そ の入 れ換 えによって、知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じる。
したがって、不 定 詞 、現 在 分 詞 、過 去 分 詞 、ジェロンディフには、述 辞 としての動 詞 形 には含 まれないような表 意 単 位 の実 現 形 が含 まれることになる。不 定 詞 、現 在 分 詞 、過 去 分 詞 、ジェロンディフは、述 辞 としての動 詞 形 ではないからである。つまり、不 定 詞 には動
詞 記 号 素 の実 現 形 を不 定 詞 化 する表 意 単 位 の実 現 形 が含 まれる (2.2.を参 照)。現 在 分 詞 には、動 詞 記 号 素 の実 現 形 を現 在 分 詞 化 する表 意 単 位 の実 現 形 が含 まれる (2.3.1.
を参 照)。過 去 分 詞 には、動 詞 記 号 素 の実 現 形 を過 去 分 詞 化 する表 意 単 位 の実 現 形 が 含 まれる (2.3.2.を参 照)。ジェロンディフには、動 詞 記 号 素 の実 現 形 をジェロンディフ化 す る表 意 単 位 の実 現 形 が含 まれる (3.1.と 3.2.を参 照)。
逆 に言 えば動 詞 記 号 素 は、いわば述 辞 に特 化 した表 意 単 位 である。動 詞 記 号 素 の 実 現 形 は、それ単 独 では、述 辞 としてしか用 いることができない。たとえば (36) の passe における動 詞 記 号 素 の実 現 形 (pass-) は、それ自 身 では、述 辞 としてしか使 うことができ ない。この pass-を述 辞 以 外 の位 置 で使 うためには、上 にみたように、他 の表 意 単 位 の実 現 形 が必 要 である。
2.2. 不 定 詞 記 号 素 の存 在
2.2.1. 動 詞 記 号 素 と不 定 詞 記 号 素
不 定 詞 には、動 詞 記 号 素 の実 現 形 が含 まれる。たとえば (41) のchercheと (42) や (43) の chercher には、同 一 の動 詞 記 号 素 の実 現 形 が含 まれると考 えざるをえない。そう 考 えないかぎり、(41) の chercheと (42) や (43) の chercherには、共 通 部 分 が何 もない ことになってしまう (2.1.を参 照)。
(41) Leguennec cherche Relivaux. (Fred Vargas, Debout les morts, Collection J'ai lu, 1995, p.192)
(42) Pourquoi tu es venu me chercher, je ne te demandais rien. (Arnaud Desplechin, Comment je me suis disputé... (ma vie sexuelle), Hachette, 1996, p.91)
(43) Elle a beau chercher, elle ne trouve pas d’autre mot ! (Françoise Dorin, En avant toutes !, Collection Pocket, 2007, p.280)
(44) Cassie a beau insister, il se mure dans le silence. (Serge Brussolo, La fenêtre jaune, Collection Le Livre de Poche, 2007, p.93)
不 定 詞 には、動 詞 記 号 素 の実 現 形 だけでなく、動 詞 記 号 素 の実 現 形 を不 定 詞 化 す る表 意 単 位 の実 現 形 も含 まれる。つまり、この表 意 単 位 は動 詞 記 号 素 の実 現 形 を非 動 詞 化 する。実 際 (42) や (43) の chercher のような不 定 詞 は、(41) の chercheのような述 辞 に特 化 した動 詞 形 ではない。このように動 詞 記 号 素 の実 現 形 を不 定 詞 化 する表 意 単 位 は、
不 定 詞 記 号 素 と呼 ばれる。
なお、動 詞 記 号 素 の実 現 形 を不 定 詞 化 する切 片 は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたしている。たとえば (43) の chercher は、(44) の Cassie a beau insister にみ られるように他 の切 片 と入 れ換 えることができ、この入 れ換 えによって知 的 意 味 にもとづい た弁 別 が発 話 に生 じる。つまり、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす (1.1.1.を 参 照)。また (43) の chercher には、動 詞 記 号 素 の実 現 形 が含 まれる (2.1.を参 照)。よっ
て chercher から動 詞 記 号 素 の実 現 形 を除 去 した残 りの部 分 もまた、表 意 単 位 の実 現 形 と しての必 要 条 件 をみたすと推 定 してよい (1.1.4.を参 照)。この残 りの部 分 が、不 定 詞 記 号 素 の実 現 形 にほかならない。
2.2.2. 前 置 詞 記 号 素 と不 定 詞 記 号 素
前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 と不 定 詞 句 によって構 成 される連 辞 は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。たとえば (45) の sans parler は、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 で ある sans と parler という不 定 詞 による連 辞 である。この sans parler は、たとえば (46) の
pour draguer にみられるように他 の切 片 と入 れ換 えることができ、それによって知 的 意 味 に
もとづいた弁 別 が発 話 に生 じる。よって (45) の sans parler は、表 意 単 位 の実 現 形 として の必 要 条 件 をみたすことになる (1.1.1.を参 照)。
(45) [...] et j’attends, sans bouger, sans parler. (Tania de Montaigne, Tokyo c’est loin, Collection Pocket, 2006, p.156)
(46) Pour draguer, il faut résister au « non ». (Frédéric Beigbeder, L’Égoïste romantique, Collection Folio, 2005, p.52)
(47) Il ouvrit la bouche pour parler, [...]. (Maxime Chattam, Le 5e règne, Collection Pocket, 2003, p.383)
前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 と不 定 詞 句 による連 辞 において、動 詞 記 号 素 の実 現 形 は、
表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。たとえば (45) の sans parler における動 詞 記 号 素 の実 現 形 (parl-) は、同 じく (45) の sans bouger にみられるように、他 の切 片
(たとえば boug-) と入 れ換 えることができる。また、その入 れ換 えによって、知 的 意 味 にもと
づいた弁 別 が発 話 に生 じる。よって sans parlerにおける動 詞 記 号 素 の実 現 形 (parl-) は、
表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたすと言 ってよい。
前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 と不 定 詞 句 による連 辞 において、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 は、
表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。たとえば (45) の sans parler における sans は、(47) の pour parler にみられるように、他 の切 片 と入 れ換 えることができる。また、
その入 れ換 えによって、知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じる。よって sans parler の sans は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたすと言 ってよい。
以 上 の観 察 から、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 に導 かれる不 定 詞 には、不 定 詞 記 号 素 の 実 現 形 が含 まれると考 えてよい。たとえば (45) の sans parler は、表 意 単 位 の実 現 形 とし ての必 要 条 件 をみたす。また、このsans parlerにおける動 詞 記 号 素 の実 現 形 (parl-) も、
表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。そして、この sans parler における sans も 表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。よって表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす sans parler から、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす sans と parl- を除 去 した残 りの切 片 である-er (音 声 的 には概 ね [e]) もまた、表 意 単 位 の実 現 形 として の必 要 条 件 をみたすと推 定 してよい (1.1.4.と 2.2.1.を参 照)。この残 りの切 片 が、不 定 詞
記 号 素 の実 現 形 にほかならない。
2.3. 現 在 分 詞 記 号 素 と過 去 分 詞 記 号 素 の存 在
2.3.1. 現 在 分 詞 記 号 素 の存 在
現 在 分 詞 には、動 詞 記 号 素 の実 現 形 が含 まれる。たとえば (48) のvientと (49) の venant には、同 一 の動 詞 記 号 素 の実 現 形 が含 まれる。そう考 えないかぎり、(48) の vient と (49) の venant には、共 通 部 分 が何 もないことになってしまう (2.1.を参 照)。
(48) Il vient de Caen. (Fred Vargas, Dans les bois éternels, Collection J’ai lu, 2006, p.64)
(49) Pour cela, elle n'utilise que des produits bio venant d'Aubergne. (Elle, 7 mars 2005, p.74)
また現 在 分 詞 には、動 詞 記 号 素 の実 現 形 を現 在 分 詞 化 する表 意 単 位 の実 現 形 が 含 まれる。つまり、この表 意 単 位 は動 詞 記 号 素 の実 現 形 を非 動 詞 化 する。実 際 (49) の venant のような現 在 分 詞 は、(48) の vient のような述 辞 に特 化 した動 詞 形 ではない。この ように動 詞 記 号 素 の実 現 形 を現 在 分 詞 化 する表 意 単 位 は、現 在 分 詞 記 号 素 と呼 ばれる。
現 在 分 詞 記 号 素 の実 現 形 は、一 定 して接 辞 的 な-ant である。
なお、動 詞 記 号 素 の実 現 形 を現 在 分 詞 化 する切 片 は、表 意 単 位 の実 現 形 としての 必 要 条 件 をみたす。たとえば (49) の venant d'Aubergne や d'Aubergne は、表 意 単 位 の 実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。これらの切 片 は他 の切 片 と入 れ換 えることができ、そ の入 れ換 えによって知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じるからである (1.1.1.を参 照)。 よって、venant は表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。表 意 単 位 の実 現 形 から より小 さな表 意 単 位 の実 現 形 を除 去 した残 りの部 分 は、表 意 単 位 の実 現 形 である (1.1.4.
を参 照)。また (49) の venant には、動 詞 記 号 素 の実 現 形 が含 まれる (2.1.を参 照)。よっ て venant から動 詞 記 号 素 の実 現 形 を除 去 した残 りの部 分 もまた、表 意 単 位 の実 現 形 とし ての必 要 条 件 をみたすと推 定 してよい。この残 りの部 分 が、現 在 分 詞 記 号 素 の実 現 形 に ほかならない。
2.3.2. 過 去 分 詞 記 号 素 の存 在
過 去 分 詞 には、動 詞 記 号 素 の実 現 形 が含 まれる。たとえば (50) のsurprendと (51) の surpris には、同 一 の動 詞 記 号 素 の実 現 形 が含 まれる。そう分 析 しないかぎり、(50) の surprend と (51) の surpris には、共 通 部 分 が何 もないことになってしまう (2.1.を参 照)。
(50) C'est vrai qu'au début ça surprend, [...]. (Brigitte Aubert, Funérarium, Collection Points, 2002, p.185)
(51) Simon, surpris, n’avait rien dit. (Françoise Sagan, Aimez-vous Brahms..., Collection Pocket, 1959, p.50)
また過 去 分 詞 には、動 詞 記 号 素 の実 現 形 を過 去 分 詞 化 する表 意 単 位 の実 現 形 が 含 まれる。つまり、この表 意 単 位 は動 詞 記 号 素 の実 現 形 を非 動 詞 化 する。実 際 (51) の surpris のような過 去 分 詞 は、(50) の surprend のような述 辞 に特 化 した動 詞 形 ではない。
このように動 詞 記 号 素 の実 現 形 を過 去 分 詞 化 する表 意 単 位 は、過 去 分 詞 記 号 素 と呼 ば れる。
なお、動 詞 記 号 素 の実 現 形 を過 去 分 詞 化 する切 片 は、表 意 単 位 の実 現 形 としての 必 要 条 件 をみたす。たとえば (51) の surpris は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 を みたす。これらの切 片 は他 の切 片 (gênéなど) と入 れ換 えることができ、その入 れ換 えによ って知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じるからである (1.1.1.を参 照)。また (51) の surpris には、動 詞 記 号 素 の実 現 形 が含 まれる (2.1.を参 照)。よって surpris から動 詞 記 号 素 の実 現 形 を除 去 した残 りの切 片 もまた、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみた すと推 定 してよい。この残 りの部 分 が、過 去 分 詞 記 号 素 の実 現 形 にほかならない。
3. ジェロンディフ記 号 素 の存 在
3.1. Tout を伴 うジェロンディフ
ジェロンディフの前 に、tout という切 片 が現 れることがある。たとえば (52) の tout en marchantおいては、en marchant というジェロンディフにtout が前 置 されている。一 方 (53) の en marchant は、tout を伴 っていない。
(52) Tout en marchant, le Flétan respire mieux que tout à l’heure. (Jean Echenoz, Je m’en vais, Minuit, 1999/2001, p.119)
(53) Vous faites du bruit en marchant. (Fred Vargas, Les jeux de l'amour et de la mort, Édition du Masque, 1986, p.95)
(54) Tout en parlant, il les observait l'une et l'autre. (Jean-Christophe Grangé, L'Empire des Loups, Collection Le Livre de Poche, 2003, p.316)
前 に tout を伴 うジェロンディフ全 体 は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたし ている。たとえば (52) の tout en marchant は、他 の切 片 (ゼロ切 片 など) と入 れ換 えるこ とができ、その入 れ換 えによって知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じる。よって (52) の tout en marchant は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす (1.1.1.を参 照)。
ジェロンディフに前 置 される tout は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたして いる。たとえばtout en marchant の tout は、(53) の en marchant にみられるように、ゼロ切 片 と入 れ換 えることができ、その入 れ換 えによって知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じる。よって tout en marchant の tout は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたすと
考 えてよい。
また、tout を伴 うジェロンディフにおける動 詞 記 号 素 の実 現 形 は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。たとえば (52) の tout en marchant における動 詞 記 号 素 の実 現 形 (march-) は、(54) の tout en parlant にみられるように、他 の切 片 (たとえば parl-) と入 れ換 えることができ、その入 れ換 えによって知 的 意 味 にもとづいた弁 別 が発 話 に生 じ る。よって tout en marchant における動 詞 記 号 素 の実 現 形 (march-) は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたすと言 ってよい。
他 方 、tout を伴 うジェロンディフにおけるen は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたさない。たとえば (52) の tout en marchant における en は、他 の切 片 と入 れ換 える ことができない。ゼロ切 片 との入 れ換 えも不 可 能 である。よって tout en marchant における en は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたさない (1.1.1.を参 照)。
これと同 様 に、tout を伴 うジェロンディフにおける (動 詞 記 号 素 の実 現 形 に後 続 する 接 尾 辞 的 な) -ant は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたさない。たとえば (52) の tout en marchant における-ant は、他 の切 片 と入 れ換 えることができない。ゼロ切 片 との 入 れ換 えもできない。よって tout en marchant における-ant は、表 意 単 位 の実 現 形 として の必 要 条 件 をみたさないと言 ってよい。
以 上 の観 察 事 実 は、前 に tout を伴 うジェロンディフにおける en と-ant の間 に、表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 (切 れ目) がないことを示 している。たとえば (52) の tout en marchant においては、tout をゼロ切 片 と入 れ換 えることができる。動 詞 記 号 素 の実 現 形 (march-) を 、 他 の 切 片 (た と え ば parl-) と 入 れ 換 え る こ と も で き る 。 よ っ て tout en marchant において en あるいは-ant を、ゼロ切 片 などの他 の切 片 と入 れ換 えることができな いのは、これらの en と-ant の間 に表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 がないからだと考 えざる をえない (1.2.2.を参 照)。
したがってtoutを伴 うジェロンディフには、「en...-ant」を実 現 形 とする表 意 単 位 が使 用 されていることになる。これらの en と-ant は、同 一 の表 意 単 位 の不 連 続 な実 現 形 であると 考 えてよい。そこに、表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 がないからである (1.2.2.を参 照)。こ の「en...-ant」を実 現 形 とする表 意 単 位 は、ジェロンディフ記 号 素 と呼 ばれる。それが、動 詞 記 号 素 の実 現 形 をジェロンディフ化 する最 小 の表 意 単 位 だからである (2.1.を参 照)。
なお tout を伴 うジェロンディフにおける「en...-ant」は、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたしている。すでに上 で検 討 したように、たとえば (52) の tout en marchant は 表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。また、このtout en marchant における tout や動 詞 記 号 素 の実 現 形 (march-) も、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす。よ って表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす tout en marchant から、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたす tout と march-を除 去 した残 りの切 片 である「en...-ant」もま た、表 意 単 位 の実 現 形 としての必 要 条 件 をみたすと推 定 してよい (1.1.4.を参 照)。この残 りの切 片 である「en...-ant」が、ジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 にほかならない。
3.2. Tout を伴 わないジェロンディフ
ジェロンディフの前 にはtout という切 片 が現 れることもあれば、それが現 れないこともあ る。たとえば (55) の tout en mangeant においては、en mangeant というジェロンディフに tout が前 置 されている。一 方 (56) の en mangeant や (57) の en partant は、tout を伴 っ てはいない。
(55) Tout en mangeant, il consulte les livres qu'il vient d'acheter. (Tonino Benacquista, Quelqu'un d'autre, Collection Folio, 2002, p.343)
(56) Comment pouvait-elle garder la ligne en mangeant autant ? (Guillaume Musso, La fille de papier, Collection Pocket, 2010, p.145)
(57) En partant, fermez la poste et jetez les clés dans la boîte aux lettres. (Guillaume Musso, Et après..., Collection Pocket, 2004, p.120)
ジェロンディフという存 在 は、その前 にtout があってもなくても、同 一 の統 辞 的 ステイタ スを備 えていると考 えてよい。たとえば (55) における toutを伴 う en mangeant と tout を伴 わない (56) の en mangeant は、同 じ表 意 単 位 の実 現 形 である。そうでないと考 える理 由 は、とくにない。
したがって tout を伴 わないジェロンディフには、「en...-ant」を実 現 形 とするジェロンデ ィフ記 号 素 が使 用 されているはずである。というのも tout を伴 うジェロンディフにおいて、ジ ェロンディフ記 号 素 の実 現 形 が用 いられているからである (3.1.を参 照)。ジェロンディフは tout の有 無 にかかわらず、同 じ統 辞 的 ステイタスを備 えていると考 えざるをえない。
なおジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 における en は、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 ではな い。前 置 詞 記 号 素 の中 には、enという実 現 形 を持 つものがある (1.3.2.を参 照)。しかし、ジ ェロンディフに用 いられる en は、「en...-ant」というジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 の一 部 分 に過 ぎない。この en と-ant の間 には、表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 がない (3.1.を参 照)。
同 様 にジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 における-antは、現 在 分 詞 記 号 素 の実 現 形 で はない。現 在 分 詞 記 号 素 もまた、これと同 じ-ant という実 現 形 をもつ (1.3.2.と 2.3.1.を参 照)。しかしジェロンディフに現 れる接 尾 辞 的 な-ant は、「en...-ant」というジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 の一 部 分 に過 ぎない。この en と-ant の間 には、表 意 単 位 の実 現 形 としての境 界 がないのである。
3.3. 機 能 辞 としてのジェロンディフ記 号 素 : 不 定 詞 記 号 素 や現 在 分 詞 記 号 素 との相 違
3.3.1. ジェロンディフ記 号 素 と不 定 詞 記 号 素
ジェロンディフ記 号 素 は、機 能 辞 である。ジェロンディフ記 号 素 は、「en ...-ant」を実 現 形 とする (3.1.と 3.2.を参 照)。この記 号 素 は、動 詞 記 号 素 の統 辞 機 能 を表 示 するための 表 意 単 位 である (1.4.と2.1.を参 照)。たとえば (58) の en mangeant において、ジェロンデ ィフ記 号 素 の実 現 形 (en...-ant) は、動 詞 記 号 素 の実 現 形 (mange-) の統 辞 機 能 を表
示 していると言 ってよい。ただし、ジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 の一 部 分 に過 ぎない en は、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 ではない (3.2.を参 照)。
(58) [...], l’appétit vient en mangeant ! (Marc Levy, Toutes ces choses qu’on ne s’est pas dites, Collection Pocket, 2008, p.298)
(59) Manger la rassure. (Serge Brussolo, La fenêtre jaune, Collection Le Livre de Poche, 2007, p.45)
(60) Mon hobby, c'est manger. (Elle, 30 mai 2005, p.150)
(61) Tu m'emmènes manger quelque part ? (Guillaume Musso, Sauve-moi, Collection Pocket, 2005, p.369)
(62) On lui donnait régulièrement à manger. (Thierry Jonquet, Du passé faisons table rase, Collection Folio, 2006, p.226)
(63) On a de quoi manger pendant longtemps ? (Maxime Chattam, Le 5e règne, Collection Pocket, 2003, p.454)
(64) Jean-Hugues Andrieu buvait, du muscadet glacé, méthodiquement, rapidement, sans manger. (Brigitte Aubert, Funérarium, Collection Points, 2002, p.103)
一 方 、不 定 詞 記 号 素 は機 能 辞 ではない。不 定 詞 記 号 素 は、動 詞 記 号 素 の実 現 形 を 非 動 詞 化 する表 意 単 位 である (2.2.1.を参 照)。しかし、動 詞 記 号 素 の統 辞 機 能 を表 示 す るための表 意 単 位 ではない。たとえば (59) から (64) の manger にみられるように、発 話 における不 定 詞 の統 辞 機 能 は多 岐 にわたる。不 定 詞 記 号 素 は、動 詞 記 号 素 の実 現 形 が 担 う統 辞 機 能 を特 定 するための表 意 単 位 ではない。
実 際 、不 定 詞 記 号 素 の実 現 形 は前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 と共 起 することが少 なくな い。機 能 辞 である前 置 詞 記 号 素 との共 起 は、不 定 詞 記 号 素 が機 能 辞 ではないことを示 唆 している (1.4.を参 照)。たとえば (64) の sans manger においては、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 である sans、動 詞 記 号 素 の実 現 形 である mang-そして不 定 詞 記 号 素 の実 現 形 である- er が共 起 している (2.2.2.を参 照)。この sans manger にあっては、mang-の統 辞 機 能 を表 示 しているのは sans である。不 定 詞 記 号 素 の実 現 形 が、mang-の統 辞 機 能 を表 示 してい るわけではない。
したがって、ジェロンディフ記 号 素 と不 定 詞 記 号 素 の統 辞 的 なステイタスは、大 きく異 なると言 ってよい。ジェロンディフ記 号 素 は、機 能 辞 である。一 方 、不 定 詞 記 号 素 は機 能 辞 ではない。
なお、ジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 の一 部 である-ant と不 定 詞 記 号 素 の実 現 形 は、
条 件 変 異 体 の関 係 にはない。MARTINET (1979) や BONNARD (2001) には、ジェロンディ フにおける en を前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 とみなすことによって 2、ジェロンディフにおける- antと不 定 詞 記 号 素 の実 現 形 を条 件 変 異 体 の関 係 にあるとする記 述 がある 3。しかし、ある 記 号 素 の実 現 形 が、他 の記 号 素 の実 現 形 の一 部 分 と変 異 体 の関 係 をもつようなことは考
2 MARTINET (1979). La grammaire fonctionnelle du français : 114 B (2001). Les trois logiques de la grammaire française : 81
えにくい。ジェロンディフ記 号 素 と不 定 詞 記 号 素 は、上 にみたように、統 辞 的 なステイタスも 異 なっている。そもそもジェロンディフにおける en は、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 ではない。
3.3.2. ジェロンディフ記 号 素 と現 在 分 詞 記 号 素
ジェロンディフ記 号 素 は、機 能 辞 である。ジェロンディフ記 号 素 は、動 詞 記 号 素 の統 辞 機 能 を表 示 するための表 意 単 位 である (3.3.1.を参 照)。たとえば (65) の en arrivant において、ジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 (en ...-ant) は、動 詞 記 号 素 の実 現 形 (arriv-) の統 辞 機 能 を表 示 している。
(65) Je te téléphonerai demain en arrivant. (Marc Levy, La prochaine fois, Collection Pocket, 2004, p.43)
(66) Et soudain, elle fût là, vêtue d’astrakan, [...], comme Cendrillon arrivant au bal.
(Pierre Boileau & Thomas Narcejac, Terminus, Collection Folio, 1980, p.153)
同 様 に、現 在 分 詞 記 号 素 も機 能 辞 である。現 在 分 詞 記 号 素 は、動 詞 記 号 素 の実 現 形 を非 動 詞 化 する表 意 単 位 であるであると同 時 に、動 詞 記 号 素 に統 辞 機 能 を与 える表 意 単 位 でもある (2.3.1.を参 照)。たとえば (66) の arrivant において、現 在 分 詞 記 号 素 の実 現 形 (-ant) は、動 詞 記 号 素 の実 現 形 (arriv-) に、Cendrillon を限 定 するという統 辞 機 能 を与 えている。
(67) En sortant de l’immeuble, elle composa le numéro d’Adam, [...]. (Marc Levy, Toutes ces choses qu’on ne s’est pas dites, Collection Pocket, 2008, p.46)
(68) Sortant de la chambre à l’étage, Francesca se précipita. (Guillaume Musso, L’appel de l’ange, Collection Pocket, 2011, p.339)
(69) N’importe qui d’autre, en faisant ça, m’aurait dégoûté. (Sébastien Japrisot, L’été meurtrier, Collection Folio, 1977, p.47)
(70) Faisant mauvaise figure, elle se pencha vers lui. (Marc Levy, Toutes ces choses qu’on ne s’est pas dites, Collection Pocket, 2008, p.113)
ジェロンディフは、現 在 分 詞 にenを加 えたものではない。ジェロンディフ記 号 素 と現 在 分 詞 記 号 素 は、互 いに別 物 である。ジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 における en は、前 置 詞 記 号 素 ではない。またジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 における-ant は、現 在 分 詞 記 号 素 の実 現 形 としての-ant とは別 物 である (3.2.を参 照)。たとえば (67) の en sortant は、
(68) にみられるような現 在 分 詞 のsortant に前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 であるen を前 置 させ たものではない。同 様 に (69) の en faisant から en を除 去 すれば、(70) の faisant になる わけでもない。ジェロンディフ記 号 素 と現 在 分 詞 記 号 素 は互 いに異 なる記 号 素 であって、
そこに表 意 単 位 としての共 有 部 分 はない。
4. おわりに
ジェロンディフは、動 詞 記 号 素 の実 現 形 とジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 を中 心 とす る連 辞 である。ジェロンディフ記 号 素 は、「en ...-ant」という不 連 続 な形 式 を備 えた実 現 形 を もつ。よってジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 における en は、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 として のen とは別 物 である。またジェロンディフ記 号 素 の実 現 形 における-antは、現 在 分 詞 記 号 素 の実 現 形 としての-ant とも、不 定 詞 記 号 素 の実 現 形 とも別 物 である。これらの記 号 素 は、
互 いに異 なる表 意 単 位 である。そこに表 意 単 位 としての共 有 部 分 はない。
(71) En rentrant chez lui, Tom se rasa. (Fred Vargas, Les jeux de l'amour et de la mort, Édition du Masque, 1986, p.57)
(72) Rentrant de voyage, il se précipiterait, la bouche en cœur, un cadeau dans la poche. (Pierre Boileau & Thomas Narcejac, Terminus, Collection Folio, 1980, p.103)
したがってジェロンディフは、現 在 分 詞 に en を加 えたものではない。ジェロンディフ記 号 素 と現 在 分 詞 記 号 素 は、互 いに別 物 だからである。たとえば (71) の en rentrant は、
(72) にみられるような現 在 分 詞 のrentrantに、前 置 詞 記 号 素 の実 現 形 である enを前 置 さ せたものではありえない。
(73) C’est après, en y pensant dans le taxi, que ça m’a rappelé quelque chose.
(Sébastien Japrisot, Compartiment tueurs, Collection Folio, 1962, p.206)
(74) Mais les jours où je travaille, j'avale un sandwich sans y penser. (Elle, 30 mai 2005, p.150)
ジェロンディフ記 号 素 は、機 能 辞 である。一 方 、不 定 詞 記 号 素 は機 能 辞 ではない。よ って、この二 つの記 号 素 は統 辞 機 能 が大 きく異 なる。この観 点 から考 えても、ジェロンディ フ記 号 素 の実 現 形 の一 部 分 としての-ant は、不 定 詞 記 号 素 の実 現 形 とは別 物 である。よ って、たとえば (73) の en y pensant における-ant が、(74) の sans y penser における-er と 条 件 変 異 体 の関 係 をもつことはないと言 ってよい。
参 考 文 献
BONNARD, H. (2001). Les trois logiques de la grammaire française, Paris: Duculot.
MARTINET, A. (1979). La grammaire fonctionnelle du français, Paris: Credif.
川 島 浩 一 郎. 2013年. 「動 詞 を非 動 詞 化 する記 号 素 について — 現 在 分 詞 記 号 素,過 去 分 詞 記 号 素,不 定 詞 記 号 素,ジェロンディフ記 号 素 —」. 『福 岡 大 学 人 文 論 叢 』44-4: 765-788.
川 島 浩 一 郎. 2013年. 「非 動 詞 化 記 号 素 における対 立 」. 『ふらんぼー』38: 13-30.