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わが国のブロードバンド整備に関する実証的研究

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Academic year: 2021

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(1)

  課題設定

 2001年 e-Japan 戦略の重点計画では,2006年まで にわが国でのインターネットに接続可能な超高速回線 は1000万加入,高速回線は4000万加入を目指すとい う国の政策的なインフラ整備目標が掲げられていた.

そして2005年に政府が公表した「IT 政策パッケージ 2005」においては,先の戦略におけるインフラ整備 が完遂したことを受けて,「今や我が国のインター ネットは,世界で最も早く,安くなり」と総括が行わ れた.現在では「2010年へ向けた次世代ブロードバ ンド戦略」が策定され,民間主導による全国的なデジ タルデバイド解消が目標とされている.

 高度情報化投資における社会的情報基盤整備として は,現在の情報通信技術の進歩を考慮に入れても,将 来的には一般的に FTTH 回線を指向していると考え られる.しかし,FTTH 回線供給サービスに関する 近年の急速な市場競争の激化により,その回線供給を 担う通信事業者の経営的状況は非常に厳しいことが推 測される.実例として,FTTH 回線供給サービスの 開始以降関東圏内では合計5事業者が新規に参入し た.ところが,事業開始後3年しかたたない2006年 時点で,関東圏内において実質的に新規加入者獲得活 動を積極的に行っている事業者は,2事業者に集約さ れてしまっているほどである.

 また,毎月の事業者から公表される加入者に関する 情報から推測すると,既に人口過密な都市部やその近 郊部での高度情報通信に関する設備投資はほぼ完了し たものと考えられる.しかしながら全国的に見ると,

未だそのサービス供給可能エリアは限定的で,特に郊 外部における継続的な設備投資の必要性が指摘されて いる.

 FTTH を中心とした全国的な高度情報化投資に関 する先行する研究としては,情報通信政策研究所が 行った,アンケート調査結果を用いたものがある.こ れは便益と費用との評価を行った費用─便益分析であ (注1).まず表明選好に基づく選択確率モデルから需 要曲線を想定した上で消費者余剰を推計して求めた年 毎の累積社会的便益を求める.次に,地域メッシュ情 報から供給コストを積み上げるという積算方式で集計

した総投資費用とを比較するというものである.

 しかし,便益が費用を上回ることが明らかになった にもかかわらず,実際に FTTH 回線を供給している 事業者は,更なる積極的な投資を控えている現実があ る.また,先行研究においても今後の課題として指摘 されている通り,民間主導によるデジタルデバイド解 消を目指す国の目標に資する必要もある.そのために は,今後も実際に供給を担い続けるであろう通信事業 者の経営的側面を取り入れたうえで,改めて供給側か ら見た全国的な高度情報化投資に関する検証を行うこ とも必要なのではなかろうかと考えたわけである.

  分析の手順

 わが国における高度情報通信分野の特定サービスに 係わる実証的研究は,その投資の歴史が浅いことによ るデータ収集上の制約等により,非常に限られたもの しか存在しない.特に,国全体としてマクロ経済学的 分析から FTTH を対象とした研究としては,先に挙 げたものしかない.しかしながら,本研究においては,

実際の投資主体たる通信事業者側の視点を分析に取り 入れるために,まず通信事業者の FTTH 回線供給事 業に関する経営効率を明らかにし,通常民間の企業が 設備投資に一般的に用いている Discount Cash Flow 法を用いて,決算短信等の実際の事業者実績データを 基に分析を行う.

 つぎに,国の民間主導による整備という目標を検討 すべく,この分析で導き出したパラメータを用いて,

全国的な整備を行う場合の経営効率を推測する.この 際には,後に先行研究との比較を行えるように,将来 の需要予測等の不確実要素は,先行研究において推測 したものと同様の仮定を採用する.

 わが国の FTTH 回線供給事業者の中で,貸借対照 表および損益計算書等の会社決算値に FTTH 事業に 関する事項を明確に区分経理し公表している通信専業 事業者はない.通信事業では一般的には固定系事業と してひと括りの中に合算され公表されている.しか し,電力系通信事業者については,法律によって電気 事業と電気通信事業との会計分離の規則が規定されて いることから,情報通信事業に関する決算値のみを取 り出して集計することが比較的容易である.ただ多く

†早稲田大学大学院国際情報通信研究科博士後期課程 (注1) 高地他(2006)

わが国のブロードバンド整備に関する実証的研究

An Empirical Study of The Infrastructure for  

The Advanced Information and Telecommunications Network in Japan

Shoichi TAGUCHI

(2)

の電気事業者は資本的に関係のある会社を通じて FTTH 回線供給事業を行っているため,やはり不明 確な部分が存在する.東京電力株式会社はある程度の 期間,電気事業者本体の決算に反映させていることか ら,本研究においては,同社の平成17・18年度の決 算値を基に分析を進める.分析の前提条件は,前述の 先行研究において用いられている設備投資額と需要関 数に関する条件をそのまま適応する.分析手法は通 常, 事 業 者 が 投 資 計 画 等 に 用 い る Discount Cash  Flow の手法により既存事業者の FTTH 事業の経営効 率を計測する.

 通常事業者が投資計画等に用いる Discount Cash  Flow 法とは,投資計画段階において想定される毎期 の期待キャッシュフローを,一定の割合にて割引いて 現在価値を推計し,その現在価値の合計額が計画して いる投資総額を上回れば投資を実行するという考え方 である.投資実行の適否という択一的な選択を判断す ることに適した分析手法であり,この経営効率の検証 結果を通して,既存の事業者の新規通信サービス供給 に係る設備投資に対する経営的な考えかたが明らかに なる.

 現在実際に FTTH 回線を供給している事業者は,

更なる積極的な設備投資を控えている現実がある.そ れは,Discount Cash Flow 法を用いた事業価値の評 価だけでは,FTTH 回線供給事業のような,急激に 需要の立ち上がりつつあるような新興市場に関して は,事業価値を過小評価してしまう恐れもあると考え られる.また,めまぐるしく市場環境が変化する情報 通信事業の事業特性に起因する将来の不確実性を考慮 する必要もある.そこで本研究においては,金融オプ ション理論を実物設備に拡張した Real Option の理論 を活用し,その Option 価値を事業価値として評価に 含めて検証することとする.

 この Real Option の理論とは,将来の不確実性に対

する柔軟性をも数値化して考慮に取り入れるようとす るものである.投資計画実行の後その計画期間の中途 における計画の中止或いは延期等の経営的自由度を Option 価値として捉え,投資主体はその Option を行 使或いは放棄する柔軟性を有しているという考え方で ある.

 本研究における Real Option 価値の算出方法として は,Cox, Ross and Rubinstein によって整理された2 項 Decision Tree モデルによるイベントツリーを示し た.これは,最終計画年の Option premium からそれ ぞれの項の生起確率と社会的割引率とを用いて,現在 時 点 で の オ プ シ ョ ン 価 値 を 割 引 く か た ち で Real  Option の現在価値を求めるものである.

 Real Option に関する各種の先行研究においては,

算定期間中の社会的割引率やプロジェクトの不確実性 としてのボラティリティー等の各種入力項目が一定の ト レ ン ド を 有 す る と 仮 定 し た う え で,Black and  Scholes による方程式(注2)を用いて Option premium を 求めているものもある.しかし,本研究においては,

FTTH 回線供給事業の新規性に鑑み,将来性に対す る一定のトレンドを想定することは困難であると判断 する.そこで,最も基本的な事業拡張性オプションを 含む離散確率モデルを想定することが妥当であると考 えて,Black and Scholes による方程式は採用しない ことにする.

 また,本推計において用いた変数の設定条件とし て,現資産価格は行使期間における各期毎の割引現在 価値の合計値とする.行使価格は先行研究において推 計した全国的な FTTH 投資に要する総費用とする.

行使期間は,同じく先行研究において推計した高需要 および低需要仮定時の社会的便益が総費用を上回るた めにそれぞれ必要とする期間とする.ボラティリ ティーは事業の新規性を考慮し,Real Option に関す る多くの先行研究と同様に事業の新規性を考慮し標準 0

10000 20000 30000 40000

(高地他 2006)

千 人

高加入数 低加入数

高加入数 3410 5312 11035 19615 28664 35270 38058

低加入数 3410 4496 8588 14067 19351 23058 24472

0 1 2 3 4 5 6

図1 FTTH 加入者数の推移

(注2) v:収益,B:プロジェクトの便益,C:プロジェクト の費用,r:割引率,T:権利行使期限,s:ボラティリティー,

を示す.

  / /

(ln( / ) ( / ) )

d rt d

V B e d C e e d

d B C r T T

d d T

−∞ −∞

= ⋅ ∫ − ⋅ ⋅ ∫

= + + ⋅

= −

2 2

1 2 2 2

1 2

2 1

2 2

2

c p c c p c

s s

s

(3)

偏差0.14を仮定する.無リスク金利は近年のわが国の 基準割引率および基準貸付利率(注3)を考慮し,0.01を それぞれ設定する.

  計測の結果

 Discount Cash Flow 法を活用することによって,

東京近辺における FTTH 回線供給事業の経営効率の 指標である固定資本回転率(注4)と投資効果率(注5)とを 推計した(表1).

 まず初めに,固定資本回転率は東京都区部で 0.465,

また東京都区部を含めた東京近辺で 0.37 および投資 効果率は 0.07 と推計された.これは,他の通信サー ビスに比較して極めて低い経営効率になっている(表 2).また FTTH 経営効率も,東京近辺においては東 京中心地域から離れるほど低下していくことの可能性 が明らかにされた.

 半面,他の通信サービスでは既に一通りの設備投資 計画が完了し,設備投資の回収期間に達している.し かし,これから供給設備の設備投資を積極的に推進し ていこうとする FTTH 回線供給事業については,一 般的に指摘されているように,初期には投資額にみあ う売上高が十分には得られていない.そして営業経費 の占める割合が大きいといった一時的な経営効率低下 要因が多く存在することが想定される.このことか ら,この経営効率の低さは一般的に指摘される巨大な 設備産業の初期投資段階の特徴の可能性を示している と言えよう.

 以上の結果を基に引き続き全国規模の FTTH 投資 を行った場合の経営効率を推計した.全国的な経営効 率を推計するうえでは,データ上の制約が非常に大き い点を考慮した.投資効果率は先に用いた0.07に固定 したまま,固定資本回転率を,東京都区部と東京近辺 との比率が世帯密度の一次関数であるとの単純化した 仮定をたてた.

 世帯密度と供給設備の線路の水平距離は,厳密には 一次関数の相関があると単純化することは少し議論が 生じるかもしれない.しかしながら,わが国郊外部の 集落の地形的な特徴として,可住に適した土地は極め て限られ,単位面積あたりに家屋が一様に分布してい るのではなく,ある程度密集して存在しているのもで あることに鑑み,本研究においては集落の密集する地 点間を結ぶ部分に多くの線路の水平距離部分が含まれ るものと仮定して一次関数を採用した.また加えて現 在の2社による寡占供給から独占供給になったものと 仮定し,投資効果率0.315を導出した.

 これらの結果から,人口密度の過密な首都周辺にお いても,Discount Cash Flow 法で求めた正味の投資 効率は厳しく,全国的な投資の実行は非常に厳しいも のになるであろうことが明らかにされた.また,先行 研究と本研究におけるに設備投資総額の集計手法には 大きな違いが存在しない.そこから国の目指す民間主 導による全国的なデジタルデバイド解消のための投資 は,従来事業者が採用してきた Discount Cash Flow

表1 FTTH 回線供給事業の経営効率実績値 設備投資額

(単位:億円)

固定資本

回転率 投資効果率

DFC に よ る 事業現在価値

(単位:億円)

リアルオプショ ン・プレミアム

(単位:億円)

リアルオプショ ン価値(注6)

(単位 : 億円)

東京都区部

実績 218 0.465 7% −158.4 172.6 14.2 東京都内のみ

供給 東京近辺

実績 218+334 0.37 7% −510.5 520.4 9.9

東京都内,横 浜,川崎,さ いたま,千葉 各市等

表2 決算短信等から導かれる各社の経営効率(注7)

事業者名 固定資本回転率 投資効果率 事業特性

ボーダーフォン 1.18 32.8% 移動電話

USEN 2.35 39.23% 有線放送・ISP

KDDI 2.12 38.5% 総合通信事業

NTT 1.02 39.45% 総合通信事業

FTTH 供給事業 0.315 7.0% FTTH 供給事業

(注3) 基準割引率および基準貸付利率とは,従来「公定歩合」

として日本銀行により公表されていたものの現在的な呼称.

(注4) 固定資本回転率=売上高 / 固定資産

(注5) 投資効果率=(システム維持費+減価償却費+税引前 利益)/ 固定資産

(注6) リアルオプション価値=DFC による事業現在価値+

リアルオプション・プレミアム

(注7) 平成16年度決算値にて集計,但しボーダフォン社のみ 15年度決算値にて集計.これは,決算上において当該事業 者が比較的明確に,移動電話の経営効率を他の投資分と切 り分けることが可能な理由による.

(4)

法という投資基準の考え方では実行が困難なことが明 らかにされた.

 そこで,民間主導の設備投資計画において,状況に 応じて投資計画の延期または中止の判断を行い,投資 実行段階における経営的自由度を投資主体に与えるこ とが可能である場合を想定した.その経営的自由度を 金融オプション理論を用いて実物設備に拡張した Real Option 理論から導出したオプション価値を事業 価値の評価に含めて,改めて全国的な投資効率を再推 計した.

 結果は,需要に先行研究において推計された需要曲 線の低加入率のケースを基に算出した加入者数を想定 した場合には,Discount Cash Flow 法で求めた正味 の事業価値と Real Option 価値との合計が,総投資額 を14.7年後に上回ることとなった(図表1)(注8)  この結果は,先行研究において社会的便益に基づい て求められた必要年数である11年を上回る.Discount  Cash Flow 法においては,消費者余剰分を考慮に入れ る事が困難であることや,限界費用と会計上の費用に 関する科目の考え方の違いなどにより,厳密な意味で の比較は行えない.しかしながら,ある程度の推計手 法の違いを超えて,先行研究の必要年数に関する結論 を支持していると言えよう.

 また,需要に先行研究において推計された需要曲線 の高加入率のケースを基に算出した加入者数を想定し た場合にも,同様に Discount Cash Flow 法で求める 正味の事業価値と Real Option 価値との合計が,総投 資額を8.8年後に上回ることが示され(図表2)(注9) 先行研究の結論である8年を若干上回る.しかしこち らもやはり先行研究の必要年数に関する結論を維持し ていると言えよう.

 需要に関する仮定の違いにより,低加入者数の場合 に総投資額を上回るために必要とする期間が長くなる 傾向は,先行研究における累積の消費者余剰部分の効 果が,経年的に増大してゆくためと言えよう.一方,

高需要時の推計ではその必要期間が比較的短いため に,累積の効果も限定的であり,期間の乖離も低く抑 えられていることが示されている.

 この2つの結果から,国の民間主導によるデジタル デバイド解消の方針に資するため,事業者の事業計画 に用いる Discount Cash Flow 法に Real Option 価値 を加えて事業計画をたてることにより,FTTH 回線 供給事業者の全国的に自律的な投資が行われる可能性 があることが明らかにされた.つまり,民間事業者に 投資計画の中途段階で,状況に応じて投資計画の延期 または中止の判断を行い,投資実行段階における経営 的自由度を与えることで,全国的な投資の可能性が示 唆されたわけである.

  結語

 本研究においては,国の政策である民間主導による FTTH 整備の可能性を検証するために,決算短信等 の事業者の実績データを用いて,Discount Cash Flow 法により,今後とも引き続き高度情報化投資の主体を 担うであろう通信事業者の FTTH 回線供給事業に関 する経営的分析を行った.

 その結果,当該事業は経営環境として比較的恵まれ ていると思われる首都周辺においてさえ既に事業者収 益を確保することが困難である可能性があることが明 らかにされた.

 本研究においては,民間による全国的に自立的な投 資促進のため,金融オプション理論を実物事業資産に 適用した Real Option を適用することを提案した.

 その結果,先行研究での表明選好に基づく選択確率 モデルから消費者余剰を推計して求めた年毎の累積社 会的便益が総投資費用を上回るために必要とする期間 に比べて,若干長くはなるものの,必要な期間に関し て同じ傾向を示す可能性が明らかにされた.(表3)

 これは,本研究において採用した Discount Cash  Flow 法および Real Option 価値の計測手法が,先行 研究において考慮されていた消費者余剰部分等を含ん でいないことに起因しているためと考えられる.しか しながら,結果において,Real Option 適用導入後の Option 価値が,その消費者余剰部分を補うに足る可 能性を示唆している.

 わが国の FTTH 回線供給事業は,国の政策的後押 しもあり通信事業者の投資意欲も非常に活発のように

(注8) コール計算シートのリアルオプション・プレミアムが DFC による事業現在価値を上回るために必要とする期間.

具体的には,図表中の,リアルオプションプレミアムのコー ル値の合計額が,[プロジェクト現在価値]である年毎の割

引のキャッシュフロー現在価値の総計と,[システム投資 額]との差[DFC による事業現在価値]を上回るために必 要とする期間を示す.

(注9) 注8に同じ 表3 FTTH に関する研究比較

供給設備費用 需要 分析方法 比較対象 収益が費用を上回る

ために必要な期間 先行研究 地域メッシュ情報を用いた

コスト積上方式

表明選好に基づく

選択確率 費用便益分析 消費者余剰 (高加入者)8年

(低加入者)11年

本研究 同一条件 同一条件 D i s c o u n t  C a s h 

Flow 法 Option 価値 (高加入者)8.8年

(低加入者)14.7年

(5)

見受けられる.とはいえ,実際にはそのサービス供給 可能なエリアは大都市近郊に限られていることを考え ると,通信事業者は郊外部での投資にはより慎重に なっていることが推察される.国の民間主導によるデ ジタルデバイド解消の方針に資するためには,通常事 業者が事業計画を立てる際に用いる Discount Cash  Flow 法に加え,投資主体たる FTTH 回線供給事業者 に,投資計画の中止或いは延期に関する経営的自由度 を与えることで,民間による全国的に自律的な投資が 行われる余地がある可能性が明らかにされた.

 ただ場合によっては,その Option 価値に相当する 部分に対して,国や地方自治体が,ある種の補助金の ような基金等を創設することや,供給設備の一部公費 による整備の是非も,今後再検討する必要が生じてく ることもあるかもしれない.

 今後の更なる精緻化のためには課題も残されてい る.まず本研究においては,全国的な FTTH 投資を 分析対象としているにもかかわらず,データ収集の制 約から,特定の電気事業者のデータのみを用いて分析 を行った.FTTH 投資の大きな担い手は,旧第一種 電気通信事業者であり,これを除いて分析すること は,分析結果の信頼性に必ずしも十分とはいえない部 分も存在するが,本研究においては,FTTH 投資の 全般的な傾向を詳らかにすることを第一義と捉えてい るので,今後各投資主体からのデーダの公表が進め ば,再度検討の必要が生よう.また,本研究において は FTTH の全国的な独占供給体制を仮定した上で,

わが国の集落分布の特徴を考慮して,供給設備の線路 の水平距離が世帯密度的に一次関数的に相関すると強 い仮定に基づき固定資本回転率の推計を行った.しか しこれはひとつの仮定であるに過ぎず,データの集積 が進めばこの課程の妥当性についても当然再度検討の 必要が生じるものと考える.

 次に,先行する研究が需要関数を想定した上で社会 的便益を推計したものであるので,一般的には事業者 の事業実績からの分析を行う際には生産関数を想定す るものであるが,FTTH 回線供給事業の新興性によ る収集可能データ数の制約を考慮し,今回は Discount  Cash Flow を中心とした手法を採用した.

 従って,事業継続の後に収集可能データ数の制約条 件が解消した際には改めて生産関数や費用関数を用い て,ネットワーク外部性を計測するといったような側 面からの考察が必要となろう.

  ま た, 本 研 究 に お い て は, 費 用 ─ 便 益 分 析 と Discount Cash Flow 手法との比較において,消費者 余剰分を考慮に入れる事が困難であることや,限界費 用と会計上の費用に関す考え方の違いなどにより,厳 密な意味での比較は行えなかったため,それらを考慮 に入れる形での更なる論理の精緻化も課題となろう.

 最後に,本研究における Real Option の計測は,離

散分布の事業リスクを使用したが,連続分布の事業リ スクによる計測の更なる精緻化も課題となろう.

参考論文

Black and Scholes (1973) The Pricing of Options and  Corporation Liabilities: Journal of Political Economy  81, p637-654.

Panayni and Trigeorgis (1998) Real Option: The Case  of Information Technologies and International Bank  Expansion, The Quarterly Review of Economic and Finance, Vol38, p675-p692.

高地圭輔 他「日本の FTTH 費用便益分析の試み」

情報通信政策研究所ディスカッションペーパー  2006年

高橋宏直「社会資本整備の評価手法へのリアルオプ シ ョ ン の 適 用 に 関 す る 研 究 」 国 総 研 報 告 No22  2005年

レノ・トゥリジオリス著 川口有一郎他訳「リアルオ プション」エコノミスト社 2001年

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図表1 全国へFTTH投資を行った場合(低需要) 仮説定義対数正規分布標準偏差10% 計算定義計算結果 売上高49111.02億円法定耐用年数6プロジェクト現価61379.5 投資効果率7法人所得税50DFCによる事業現在価値−16574.5 投資効果3437.8億円加重平均資本コスト5利益変化率0 システム投資内部利益率 初期投資額77954億円 年間維持費率10 年間維持費7795.4億円 現在価値計算(単位:億円) 0123456789101112131415 収入 投資効果3437.84531.08654.213310.118314.721831.223162.923880.924382.424650.624921.825195.925473.125753.326036.6 支出 システム投資額77954 システム維持費7795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.4 減価償却費12992.312992.312992.312992.312992.312992.3 利払税引前利益−17350.0−16256.8−12133.6−7477.6−2473.01043.415367.516085.516587.016855.217126.417400.517677.717957.918241.2 法人所得税0.00.00.00.00.0521.77683.78042.88293.58427.68563.28700.38838.88978.99120.6 減価償却費12992.312992.312992.312992.312992.312992.30.00.00.00.00.00.00.00.00.0 フリーキャッシュフロー−77954−4357.6−3264.4858.85514.710519.313514.07683.78042.88293.58427.68563.28700.38838.88978.99120.6 割引乗数0.950.910.860.820.780.750.710.680.640.610.580.560.530.510.48 キャッシュフロー現価−4150.1−2960.9741.84537.08242.210084.45460.75443.75346.15173.85006.74844.64687.44535.04387.2 プロジェクト現価61379.5 DFCによる事業現在価値−16574.5 利益変化率 入力変数計算変数 1.リスクフリーレートの年率0.011.1ステップでの増加1.150273799 2.原資産の現在価値61379.52.1ステップでの減少0.869358235 3.行使価格779543.リスクフリーレート0.01 4.オプション満期までの年数154.リスク中立確率(増加)0.50065494 5.年間標準偏差0.145.リスク中立確率(減少)0.49934506 6.1年あたりのステップ数1 原資産のイベント・ツリー(単位:億円) 0123456789101112131415 061379.45170603.17481212.98193417.164107455.317123603.035142177.333163542.861188119.068216388.435248905.947286309.989329334.879378825.282435752.797501235.025 153360.73161379.45170603.17481212.98193417.164107455.317123603.035142177.333163542.861188119.068216388.435248905.947286309.989329334.879378825.282 246389.59153360.73161379.45170603.17481212.98193417.164107455.317123603.035142177.333163542.861188119.068216388.435248905.947286309.989 340329.17346389.59153360.73161379.45170603.17481212.98193417.164107455.317123603.035142177.333163542.861188119.068216388.435 435060.49940329.17346389.59153360.73161379.45170603.17481212.98193417.164107455.317123603.035142177.333163542.861 530480.13335060.49940329.17346389.59153360.73161379.45170603.17481212.98193417.164107455.317123603.035 626498.15530480.13335060.49940329.17346389.59153360.73161379.45170603.17481212.98193417.164 723036.38926498.15530480.13335060.49940329.17346389.59153360.73161379.45170603.174 820026.87523036.38926498.15530480.13335060.49940329.17346389.59153360.731 917410.52820026.87523036.38926498.15530480.13335060.49940329.173 1015135.98617410.52820026.87523036.38926498.15530480.133 13158.59415135.98617410.52820026.87523036.389 入力変数計算変数11439.53213158.59415135.98617410.528 1.リスクフリーレートの年率0.011.1ステップでの増加1.1502737999945.05211439.53213158.594 2.原資産の現在価値61379.450842.1ステップでの減少0.8693582358645.8139945.052 3.行使価格779543.1+名目レート/ステップ1.017516.308 4.オプション満期までの年数154.リスクフリーレート/ステップ0.01 5.年間標準偏差0.145.リスク中立確率(増加)0.50065494 6.1年あたりのステップ数16.リスク中立確率(減少)0.49934506 7.1+リスクフリーレートの年率1.01 リアルオプション・プレミアム コール計算シート(単位:億円) 0123456789101112131415 017082.0223317.0431309.2541342.0353680.3668564.6586220.51106888.59130869.35158566.22190505.51227325.54269760.59318655.25374981.06439855.574 111172.7315770.8221877.1629799.2539832.0552235.5667224.8884985.51105720.64129718.63157403.99189331.66226139.96268563.15317445.831 26786.339964.3014372.3920336.9128193.6838253.0050763.9365897.9283776.89104558.42128544.78156218.40188134.21224930.538 33735.925744.208680.0612866.7918672.5926475.3236606.8549291.7464618.5982603.04103372.83127347.33155008.984 41797.202915.674656.187303.4311223.3416847.4124621.7834911.8147881.0363433.0081405.60102163.410 5711.791228.982095.223519.505809.299390.0314797.8322607.7333247.1346683.5862223.584 6207.50385.07709.181294.182335.494156.097263.7912393.1820441.2532037.714 733.6267.83136.84276.05556.901123.462266.424572.189223.723 80.000.000.000.000.000.000.000.000 90.000.000.000.000.000.000.000 100.000.000.000.000.000.000 0.000.000.000.000.000 0.000.000.000.000 0.000.000.000

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図表2 全国へFTTH投資を行った場合(高需要) 仮説定義対数正規分布標準偏差10% 計算定義計算結果 売上高49111.02億円法定耐用年数6プロジェクト現価66754.9 投資効果率7法人所得税50DFCによる事業現在価値−11199.1 投資効果3437.8億円加重平均資本コスト5利益変化率0 システム投資内部利益率 初期投資額77954億円 年間維持費率10 年間維持費7795.4億円 現在価値計算(単位:億円) 0123456789 収入 投資効果3437.85328.511083.419728.428803.535428.338262.539448.740277.1 支出 システム投資額77954 システム維持費7795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.47795.4 減価償却費12992.312992.312992.312992.312992.312992.3 利払税引前利益−17350.0−15459.2−9704.4−1059.38015.714640.530467.131653.332481.7 法人所得税0.00.00.00.04007.97320.315233.615826.616240.8 減価償却費12992.312992.312992.312992.312992.312992.30.00.00.0 フリーキャッシュフロー−77954−4357.6−2466.93288.011933.017000.220312.615233.615826.616240.8 割引乗数0.950.910.860.820.780.750.710.680.64 キャッシュフロー現価−4150.1−2237.52840.39817.313320.115157.610826.210712.110469.0 プロジェクト現価66754.9 DFCによる事業現在価値−11199.1 利益変化率 入力変数計算変数 1.リスクフリーレートの年率0.011.1ステップでの増加1.150273799 2.原資産の現在価値66754.92.1ステップでの減少0.869358235 3.行使価格779543.リスクフリーレート0.01 4.オプション満期までの年数94.リスク中立確率(増加)0.50065494 5.年間標準偏差0.145.リスク中立確率(減少)0.499345061.150273691 6.1年あたりのステップ数1 原資産のイベント・ツリー(単位:億円) 012345678910 061379.45170603.17481212.98193417.164107455.317123603.035142177.333163542.861188119.068216388.435 153360.73161379.45170603.17481212.98193417.164107455.317123603.035142177.333163542.861 246389.59153360.73161379.45170603.17481212.98193417.164107455.317123603.035 340329.17346389.59153360.73161379.45170603.17481212.98193417.164 435060.49940329.17346389.59153360.73161379.45170603.174 530480.13335060.49940329.17346389.59153360.731 626498.15530480.13335060.49940329.173 723036.38926498.15530480.133 820026.87523036.389 917410.528 10 入力変数計算変数 1.リスクフリーレートの年率0.011.1ステップでの増加1.150273799 2.原資産の現在価値66754.940832.1ステップでの減少0.869358235 3.行使価格779543.1+名目レート/ステップ1.01 4.オプション満期までの年数94.リスクフリーレート/ステップ0.01 5.年間標準偏差0.145.リスク中立確率(増加)0.50065494 6.1年あたりのステップ数16.リスク中立確率(減少)0.49934506 7.1+リスクフリーレートの年率1.01 リアルオプション・プレミアム コール計算シート(単位:億円) 0123456789 012866.7918672.5926475.3236606.8549291.7464618.5982603.04103372.83127347.33155008.984 17303.4311223.3416847.4124621.7834911.8147881.0363433.0081405.60102163.410 23519.505809.299390.0314797.8322607.7333247.1346683.5862223.584 31294.182335.494156.097263.7912393.1820441.2532037.714 4276.05556.901123.462266.424572.189223.723 50.000.000.000.000.000 60.000.000.000.000 70.000.000.000 80.000.000 90.000 10

参照

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