権力監視機能を果たせない日米メディア企業
著者 浅野 健一
雑誌名 評論・社会科学
号 72
ページ 63‑114
発行年 2003‑12‑25
権利 同志社大学人文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004597
はじめに
同志社大学の新聞学専攻を創設したリベラリスト︑和田洋一氏
は一九四八年一二月一日発行の﹁同志社学生新聞﹂の特集記事
﹁見よ屈辱の歴史﹂に﹁学園に迫りくるファッショの嵐﹂と題
して次のように書いている︒
︽︵略︶だが果たして﹁真の自由﹂はやって来たのだろうか?
そしてあの暗黒のファシズムは完全に息の根を止めたろうか?
残念ながら﹁否﹂という他はない︒世の中にはなお封建の名残り
が根強くあり︑また新たなファシズムが芽生えつつあるのではな
かろうか?︵略︶我等はこの期に当たって当時を回想し反省し輝
かしい自由の地﹁同志社﹂を︑そして日本を新たなファシズムか
ら守ろうではないか︒︾
大日本帝国の崩壊から三年後に︑和田氏は早くもネオ・ファシ
ズムが日本に芽生えていると警告したのであった︒詳しくは﹃大
学とアジア太平洋戦争﹄︵白井厚氏編︑日本経済評論社︶所収の ﹁戦時中の同志社﹂を参照してほしい︒
日本を戦争のできる国にするための悪法が一九九九年から次々
と成立してきたが︑ついに戦争宣言法﹁有事法﹂が通り︑イラク
への自衛隊派兵を可能にするテロ特措法が通過して︑自衛隊が米
国の侵略・強制占領を続けるイラクへ参戦することが決まった︒
二〇〇三年一一月三〇日︑イラクで日本人外交官二人が殺害され
ても派兵が強行される︒戦後日本が守ってきた憲法前文と第九条
をなきものとする戦地への参戦である︒航空自衛隊の先遣隊が一
二月二七日クウェートに到着した︒こんな暴挙がまかり通るの
は︑日本にマスメディア企業︵商売︶はあっても︑ジャーナリズ
ムが消えつつあるからだ︒
一一月九日に行われた衆議院選挙の結果にも︑マスメディア企
業は重大な責任がある︒最大の争点は﹁憲法前文と第九条﹂と自
衛隊のイラク派兵問題だったのに︑﹁政権交代﹂だけに焦点を当
てた︒憲法問題では民主党の松下政経塾出身である若手のほうが
より危険である︒ところが︑メディア企業は︑護憲勢力をつぶす
︹ 研 究 ノ ー ト ︺ 権 力 監 視 機 能 を 果 た せ な い 日 米 メ デ ィ ア 企 業
浅 野 健 一
― 63 ―
ための︑二大政党制を煽った︒日本が米英軍のイラク侵略戦争に
参加しようとしているときに︑﹁公自由明党﹂とも言うべき与党
が勝ったのだから︑大変な事態だ︒同志社大学の元講師︵憲
法︶︑土井たか子氏が選挙区で落選したのが象徴的だ︒土井氏が
﹁拉致﹂に責任があるかのようなネガティブキャンペーンが展開
された︒﹁護憲﹂が古臭いようなメディア報道が目立った︒
憲法を首相が蹂躙しても︑都知事が朝鮮半島と日本の歴史を改
ざんし︑﹁シナ﹂と言っても︑メディアはほとんど何も言わな
い︒この先に︑改憲発議があり︑徴兵制が復活する恐れが強まっ
た︒
極右の小泉純一郎首相は︑一一月九日に行われた衆議院選挙結
果を受けて一〇日︑自民党本部で記者会見し︑イラクへの自衛隊
派遣について︑﹁自民党︑公明党︑保守新党は︑︵派遣は︶必要だ
とはっきり申し上げてきた︒その勢力が安定多数を確保でき︑国
民の支援︑支持を得ることができた﹂と述べた︒
総選挙でイラク派兵問題はほとんど争点にならなかったことを
知った上での発言である︒その小泉発言を村田晃嗣同志社大学法
学部助教授がマスメディアで全面支持する︒一二月二六日付の朝
日新聞﹁広告﹂の頁で︑村田氏は﹁日本が自衛隊を派遣するしか
選択の余地はない﹂﹁派遣を取りやめたら世界の多くの国が失望
し国益にも大きな影響を与える﹂と主張︒その上で︑イラク派兵
は国民の義務だとまで述べた︒同志社の広報費を使ってのプロパ
ガンダである︒村田助教授は一二月一〇日の京都新聞では︑﹁自 衛隊が攻撃を受ける可能性は高いと思う︒が︑変動する国際社会
の中で犠牲を出さないで外交を運営するのは困難だ﹂と断言して
いる︒
同じ日︑一四日からの日本︑韓国訪問を前に︑ラムズフェルド
米国防長官は︑日韓のメディアと記者会見した︒自衛隊のイラク
派遣に関連して現地の治安状況について﹁いつでもどこでも︑あ
らゆる︵敵の︶攻撃を防ぐことは不可能だ︒危険な仕事だと思
う﹂と述べた︒
小泉政権は︑イラク復興費の分担に関しては︑二〇〇七年まで
の四年間に総額五十億
訐をを針方るす出拠︶︵円億百五千五約既
に固めている︒
憲法を遵守する責任のある総理大臣が︑自衛隊は軍隊であると
言い切っているのに︑マスメディア企業はそれを論評もしない︒
有事法は第一反対党の民主党も賛成した︒これまで護憲の立場
に近かった朝日新聞︑毎日新聞も民主党の修正案を支持した︒参
議院では九〇%が賛成した︒大政=体制翼賛体制の確立である︒
小泉首相が大きな顔をできるのは︑メディア企業が本来の権力
監視機能を果たしていないからだ︒
小泉政権が日本の政治や経済を﹁改革﹂したことなど一度もな
い︒憲法違反の靖国神社参拝を四度も強行し︑自衛隊を軍隊だと
言い張り︑朝鮮民主主義人民共和国︵DPRK︑朝鮮︶を敵視し
て有事法を成立させた︒麻薬取引疑惑のあるアーミテージ国務副
長官に命令されて自衛隊をイラクに派遣しようとしている︒郵便 権力監視機能を果たせない日米メディア企業
― 64 ―
局を民営化する必要がどこにあるのか︒国や自治体が公共サービ
スを担って当然だ︒国家観︑社会観などのイデオロギーも作風も
全く異なる公明党と野合しているくせに︑民主党はどこの政党と
組むのかと批判する︒
日本経済の一部が順調だというが︑政府の経済政策と無関係な
半導体などのハイテク部門が健闘しているだけだ︒経済政策に影
響を受ける産業は不況のままで︑失業率もそのまま︑中高年を中
心に自殺が三万五千人を超えた︒
マスコミ企業は︑小泉政権が何の﹁改革﹂もしていないし︑今
後の展望もないのに︑小泉政権に異を唱える人々を﹁抵抗勢力﹂
とレッテルを貼って不当に非難する︒
また︑安倍晋三氏が自民党幹事長に就任したことを︑﹁三代続
けての自民党幹事長﹂﹁若さをアピール﹂などと賞賛した︒朝日
新聞は﹁人﹂欄で︑﹁毛並みの良さ﹂︵上野麻子記者︶と指摘し
た︒人を門地で区別するのは憲法違反だ︒
安倍氏の母方の祖父は岸信介元首相だ︒岸氏は東条英機内閣の
商工大臣で︑朝鮮人強制連行を指揮した︒極東軍事裁判でA戦犯
として巣鴨刑務所に拘禁されていた︒安倍幹事長は︑極右・歴史
改竄主義者でもある︒﹁改造﹂内閣は戦争準備内閣であり︑朝鮮
敵視を続けるという宣言だ︒
安倍氏は︑就任の記者会見で﹁長州︵山口︶出身の政治家とし
て恥ずかしくない仕事をしたい﹂と語った︒いまどき︑薩摩︑長
州などという出自を持ち出すことがアナクロなのだ︒ 大新聞はこぞって︑安倍氏は拉致問題で活躍して国民の人気を
集めたと報じたが︑新聞社がそう書いたからの人気だ︒安倍氏
は︑一年前の日朝首脳会談の場にいながら︑小泉首相がサインし
たピョンヤン共同宣言を無視して︑拉致被害者五人の一時帰国を
永住帰国に変えた︒官房副長官時代に︑朝鮮は﹁ほとんど暴力団
がやっていることをやっている﹂などの暴言を散々発した安倍氏
は︑幹事長就任後にさっそく朝鮮を誹謗中傷する発言を展開して
いる︒
拉致問題が﹁進展﹂しないのは安倍氏と︑安倍氏が連れてきた
中山恭子内閣参事と︑極右・米国追随政治家︑官僚の約束違反が
主な原因である︒
新内閣︵タレント内閣︶の誕生直後に行われたメディア各社の
世論調査で︑小泉内閣支持率が一〇ポイントも上がった︒メディ
アが︑この戦後最も危険な新政権の本質を伝えないからだ︒
九月二八日のNHK政治討論会で︑安倍幹事長は︑自衛隊をイ
ラクに送ることの正当性を全く説明できなかった︒共産党書記長
に︑﹁共産党はサダム・フセインを擁護した﹂などと荒唐無稽な
批判を行った︒公明党の冬柴幹事長は︑イラクで大量破壊兵器が
見つからなかったことについて︑﹁いまから探すんだ﹂と言い放
ち︑﹁日本が中国で隠していた毒ガスが最近︑破裂したように︑
どこかで出てくる﹂などと全くとんちんかんな発言を行った︒冬
柴氏は︑旧日本軍が朝鮮でも毒ガスなど化学兵器を使ったことを
知らないのだろうか︒しかし︑新聞がそれを報じてもいない︒
― 65 ―
権力監視機能を果たせない日米メディア企業
安部氏は総選挙の直前には︑﹁一年前︑イラクの子供たちは裸
足で歩いていた﹂と語った︒イラクで取材してきた豊田直己氏は
﹁大ウソだ︒国際社会の経済制裁下でも︑人々はしたたかに生き
ていた﹂と︑浅野ゼミ三回生に述べている︒
イラク侵略を行った米英では︑政権がうそをついて戦争に走っ
たことをメディアが厳しく批判しているのに︑米政権の言いなり
になって自衛隊派兵まで決めた小泉政権は安泰なのである︒
日本では天皇もほとんどの政治家も世襲である︒閣僚の認証式
をテレビで見たが︑天皇から﹁拝命﹂を受けて︑うやうやしく最
敬礼して受け取るシーンを見て︑﹁皇軍﹂に侵略されたアジア太
平洋の人々が見たら︑どう思うだろうか︒﹁神国日本﹂の現状こ
そ異様ではないか︒
野中広務・前衆議院議員の﹁小泉首相は自分の息子を自衛隊に
入れてイラクに行かせるべきだ﹂との発言はまともである︒
イラク出兵を強行しようとする小泉政権に対して明確な批判が
出るのは投書欄だけだ︒
朝鮮外務省代弁人は九月一六日︑談話を発表し︑過去の清算が
朝・日国交正常化のための必須不可欠の条件になるとの立場を明
らかにして︑日本が朝鮮人民に働いた一〇〇余万人の虐殺蛮行な
ど︑重大な人権問題に関して次のように要求した︒﹁日本は当
然︑事件別に真相を調査︑公開すべきであり︑これに対する個別
の謝罪とともに被害者とその遺族にそれ相応の補償を行なうな
ど︑過去の清算に臨むべきである﹂︒ 安倍幹事長は︑政権与党の責任者として︑朝鮮の要請に真摯に
応えるべきだ︒それなしに︑﹁拉致﹂も解決しないのである︒
日本社会全体は一九九九年以降︑猛烈な速度で反動化してき
た︒民衆ファシズムの時代だ︒学生の極右化現象も看過できな
い︒公教育で歴史を教えられず︑マスメディアに登場する歴史改
ざん主義者や体制派御用文化人の言説をそのまま受け入れている
のだ︒知的退廃が進んでいる︒
街の書店には︑日本のアジア太平洋諸国への侵略の過去を隠蔽
し︑現在の韓国・朝鮮や中国に対する蔑視的な書物が並んでい
る︒
国会議員の多くが﹁親の七光り﹂政治家である︒女性議員は七
%しかいない︒社会科学に無知な米CIA工作員みたいな人々
が︑閣僚になり︑外交をすすめている︒こういう連中と大新聞︑
放送局などのメディア幹部の思想は酷似している︒歴史観の欠
如︒平和・非戦の憲法の無視︒記者クラブ制度下で権力との癒着
が進み︑ジャーナリズムは衰退化の一方である︒瀕死の状態と表
現してもいい︒
米英の侵略を止められなかった世界のメディア︒戦争が始まる
と最初に死ぬのはジャーナリズム︵人民の知る権利︶だと改めて
思う︒米英のイラク侵略で一七人の記者が死亡︑うち六人は米軍
に白昼︑公然と虐殺された︒
米英のメディアは大量破壊兵器の未発見について︑﹁権力者の
うそ﹂を激しく追及している︒日本のメディアでは首相と外相ら 権力監視機能を果たせない日米メディア企業
― 66 ―
の﹁ウソ﹂を追及する言論がほとんどない︒自衛隊をイラクへ派
兵する法案が通り︑国際テロ組織﹁アルカイダ﹂の指導者ウサマ
・ビンラディン氏が語ったとされる音声テープの声明で︑同氏
が︑イラク戦争で米国を支援する日本など六カ国も攻撃対象にな
り得ると警告していたことが一〇月一九日までに分かった︒声明
が本物なら︑日本攻撃の可能性に初めて言及したことになる︒
AP通信によると︑カタールの衛星テレビ・アルジャジーラが
一八日︑同氏の声明として放送した音声は︑米軍のイラク占領を
﹁不当で︑とてつもない愚行﹂と非難︒さらに﹁我々は適切な時
期と場所で︑この不当な戦争に参加している国に対応する権利が
ある﹂と述べ︑英国︑スペイン︑オーストラリア︑ポーランド︑
日本︑イタリアを名指しした︒アルカイダなどが︑日本を武力攻
撃を加える対象国に指定したのに︑総選挙で大きな争点にならな
かった︒
野中広務・元自民党幹事長は︑一一月一一日夜︑総選挙の開票
結果が出る中で︑テレビの取材に対して︑﹁日本は戦前のような
危険な状態に入っている︒なぜイラクに自衛隊を出すのか︒自衛
隊をイラクに送る法律案を無記名で通したのは︑政治家として無
責任だ﹂と強調した︒﹁マスコミは責任がある﹂とも強調した︒
日本はアラブ世界の敵になろうとしている︒かつて私はインド
ネシアでの特派員経験をもとに﹃日本は世界の敵になる﹄という
本を出した︒また︑〇二年一二月CityUniversityofHongKong︵香港城市大学︶で︑一二月五日から七日まで開催されたMedia EthicsinAsiaandIssuesofGovernanceという国際シンポジウムに
パネリストとして招待され︑発表した︒本誌のi︵148︶〜xiii︵136︶ページに掲載した︒東アジアの人権と民主主義の脅威は日
本︵軍事支出世界二位︶と米国︵大量破壊兵器をほぼ独占︶であ
ることを論じた︒また〇二年一一月八日には米ボストンで︑米国
の外交政策に強く反対しているマサチューセッツ工科大学︵MI
T︶のノーム・チョムスキー教授と対談した︒この対談で日米当
局者が世界の脅威であることを確認した︒
まさに︑二〇〇三年秋︑日本は世界の人権と民主主義を破壊す
る脅威となった︒民衆ファシズムの時代に入った︒憲法を守るべ
き首相が︑自衛隊は軍隊と断言する︒人種差別主義︑国粋主義の
石原都知事の不当発言︒米英によるイラクへの侵略戦争︑その後
の軍事占領支配を無条件に全面的に支持する日本政府︒それを全
く批判できないマスメディアと知識人の問題は深刻だ︒
カタールの衛星テレビ局・アルジャジーラを取材︵﹁創﹂〇三
年一〇月号︑﹁欧米メディア独占に挑戦するアルジャジーラ﹂を
参照︶した︒
ジェシカさん救出の捏造︒四月九日のイラク・バグダッドでの
フセイン像の倒壊は︑米軍の
!演出
"だった︒
自衛隊のイラク派兵は戦後日本の最悪の事態だ︒
一〇月一五日の朝日新聞は︑拉致被害者の地村夫妻の手記を掲
載した︒夫妻は︑日本政府が﹁帰さない﹂と決めたので︑日本に
留まることにしたと書いている︒政府に従うしかなかったという
― 67 ―
権力監視機能を果たせない日米メディア企業
のだ︒これで安倍晋三氏や拉致議連︑家族会らのウソが判明︒し
かし︑メディアは全く追及しない︒
メディアは︑権力に先んじて朝鮮民族を見下し︑嬉々として朝
鮮を誹謗中傷する︒私は朝鮮新報に三回連載し︑七月から︑メデ
ィア批評を毎月連載している︒この連載に対して︑﹁それでも日
本人か﹂﹁反日は大学教授を辞めろ﹂などのメールが多数来てい
る︒
日本を危機から救うには︑朝鮮と韓国を中心としたアジア太平
洋の人民による日本の過去の犯罪についての徹底した追及しかな
いと私は確信する︒
本稿では︑まず第一部で︑日本の企業メディア関係者が︑まる
で﹁国家公務員1種︵報道職︶﹂のような愛玩犬の役割を果たし
ていることを具体例を挙げて述べてみたい︒第二部では︑米英の
イラク侵略と米国のメディアについて書きたい︒
﹇1﹈瀕死の日本ジャーナリズム
1石原都知事の妄言を客観報道
日本の新聞︑テレビは人民にとって最も切実で重要なニュース
を大きく報じないことが多い︒朝鮮通信によると︑〇三年一〇月
二一日の﹁労働新聞﹂は︑金正日総書記が︑日本との関係改善問
題と関連し︑﹁日本との関係では︑日本がかつてわが国とわが民
族に及ぼした罪業をきれいに清算する問題が基本﹂とし︑﹁罪多
き過去を伏せていては関係改善など話にもならない﹂述べたこと を伝えた︒私が知る限り︑このニュースは毎日新聞に小さく載っ
ただけで︑ほかの新聞には出なかった︒
朝鮮外務省スポークスマンは既に︑﹁過去の清算が朝・日国交
正常化のための必須不可欠の条件になる﹂との立場を明らかにし
ていたが︑〇二年九月一七日以降︑総書記が﹁関係改善の基本は
過去の清算だ﹂と明言したのは初めてのことである︒日朝首脳に
よるピョンヤン宣言では︑日朝の過去について一定の決着がはか
られていたはずで︑日本側の﹁拉致﹂を理由にした宣言無視の外
交が︑総書記の発言を招いたのだと思う︒日朝の今後にとって重
要なニュースを黙殺する日本メディアに私はあきれ果てている︒
一方︑日本のメディアは︑国粋主義者で女性蔑視や人種差別発
言を繰り返す石原慎太郎・東京都知事の度重なる妄言を無批判に
垂れ流し︑真正面から批判しない︒圧倒的な支持を得て再選され
た石原知事は血迷っているとしか思えない︒
都知事は一〇月二八日︑朝鮮による拉致問題の解決を訴える
﹁救う会東京﹂の集会で基調講演した際︑一九一〇年の日韓併合
に触れ︑﹁彼ら︵朝鮮人︶の総意で日本を選んだ﹂﹁どちらかとい
えば彼らの先祖の責任﹂などと述べ︑当時の朝鮮人が日本との併
合を望んだとの見方を示した︒
毎日新聞によると︑日本民族のルーツを話す中で︑﹁︵日本は︶
決して武力で侵犯したんじゃない︒むしろ朝鮮半島が分裂してま
とまらないから︑彼らの総意で︑ロシアを選ぶか︑シナを選ぶ
か︑日本にするかということで︑近代化の著しい同じ顔色をした 権力監視機能を果たせない日米メディア企業
― 68 ―
日本人の手助けを得ようということで︑世界中の国が合意した中
で合併が行われた﹂と話した︒また︑﹁私は日韓合併を一〇〇%
正当化するつもりはない﹂としたうえで﹁彼らの感情からすれ
ば︑そりゃやっぱりいまいましいし︑屈辱でもありましょう︒し
かし︑どちらかといえば彼らの先祖の責任であってね﹂と述べ
た︒
朝日新聞によると︑石原知事はまた﹁植民地主義といっても︑
もっとも進んでいて人間的だった﹂とも述べたという︒
石原知事は同三一日の定例会見で︑﹁︵当時の韓国は︶中国ある
いはロシアに併合されそうにあって︑それならば︑ということで
清国の実質的な属領から解放してもらった日本に下駄を預けた︒
それが正確な歴史です﹂と述べた︒
日本の政治家が朝鮮について暴言を繰り返してきたが︑これほ
どひどい見解表明はないと思う︒
毎日新聞は一一月一日︑定例会見の発言を伝えたが︑発言につ
いて﹁識者に聞いた﹂という記事を載せただけだった︒ソウル市
立大学の教授の談話と︑極右の西尾幹二氏の寄稿を載せた︒新聞
の主体性を放棄した﹁両論併記﹂である︒
石原氏は﹁シナ﹂という表現を一時やめていたが︑また使い始
めた︒同志社大学の中国人留学生たちは﹁なぜ新聞やテレビは石
原知事を徹底的に批判しないのか﹂と怒っている︒
石原氏はとんでもない歴史認識を持っており︑強く批判される
べきだ︒それと同時に︑石原氏の歴史改ざん発言内容を﹁事実﹂ として報じるだけで︑石原氏の見解について︑真っ向から批判し
ないマスコミ企業はもっと批判されるべきだろう︒
日本は﹁併合﹂の五年前に︑事実上︑朝鮮を強制占領した︒日
本の侵略に心ならずも協力した朝鮮の人がいたことを否定しな
い︒生きるために思想信条を売り渡す人間はどこにもいる︒他国
を侵略する政府はいつも︑それなりに侵略を正当性するために︑
あらゆる手段を使って︑でっちあげ︑捏造を行うのである︒一九
七五年末に起きたインドネシアの東ティモール侵略も同じだ︒
米国のメディアは権力批判の姿勢を後退させているが︑日本の
マスメディア報道よりはかなりましだと思う︒〇三年一〇月二二
日号の米誌﹁ニューズウイーク﹂は︽﹁拉致﹂された北朝鮮報道︾
と題するコラムを載せた︒デーナ・ルイス氏の署名で︑サブ見出
しは︑︽拉致問題についてはもっと自由な報道と議論が必要だ︾
だった︒
︽この一年︑メディアに根を張ったように登場し続けている話
題がある︒北朝鮮による日本人拉致問題だ︾︽被害者にインタビ
ューできるのは︑彼らの眼鏡にかなった記者だけ︾
︽拉致被害者と彼らの苦しみを忘れてはならない︒だが︑一つの
見方だけでなく︑さまざまな観点から問題をとらえることも同じ
くらい重要なのだ︾
まことに適切な指摘である︒
石原知事は︑九月一〇日︑日本の外務省の田中均外務審議官の
自宅で発火物とみられる不審物が見つかった事件について︑﹁爆
― 69 ―
権力監視機能を果たせない日米メディア企業
弾を仕掛けられて︑当ったり前の話だ﹂と発言した︒
首都東京の知事が︑爆弾が仕掛けられても当然という発言をし
たのだ︒田中氏が﹁そういう目に遭う当然のいきさつ﹂なんてな
い︒たとえあったとしても︑公人がテロ行為を容認してはいけな
い︒ところが︑石原知事は九月二五日の都議会本会議で︑同発言
に言及し︑﹁外務省が何をやっているか認識し直してくれた﹂と
述べた︒そのうえで︑狙い通りの効果をゴルフに例え﹁インテン
ショナル︵意図的な︶フックですな︒うまくパーオンしたと思い
ます﹂と自画自賛した︒
メディアはこの発言を客観報道するだけで︑石原氏を辞任に追
い込む構えを全く見せない︒それどころか︑彼の三男が衆議院選
挙で自民党から立候補するというニュースを伝えた︒三男は﹁父
と兄の選挙運動をして︑政治に目覚めた﹂と述べた︒もうどうし
ようもない一家だ︒三男を落選させたのは︑都民の良識だった︒
2朝鮮中央テレビがテレビ朝日を批判
〇三年七月三一日から八月七日まで朝鮮を取材した︒
この調査に基づき︑沖縄タイムスに三回︵九月一一︑一二︑一五
日︶連載した︒
朝鮮当局は︑日本のテレビが朝鮮中央テレビの放送をビデオで
流し︑偏向していると非難した︒特に金正日総書記の誹謗中傷の
ほか︑アナウンサーが絶叫しているなどと面白おかしく取り上げ
ているが︑全く主権国家を蔑視するひどい報道だ︒ 朝鮮中央テレビとラジオを運営管理する朝鮮中央放送委員会の
チェ・チャンスン報道局長︑リ・クァンチョル部長︑リ・ヒョン
チョル記者の三人に会った︒チェ・チャンスン報道局長は﹁日本
の六大テレビ・ネットワークはどこも私たちの了解なしにニュー
ス︑ドラマ︑映画などを衛星からとって無断で放映している︒特
にテレビ朝日はひどい︒著作権侵害だ﹂
テレビ朝日は六︑七月にファクスで二回︑映像を使いたいと許
可を求めてきた︒それは︑その限りにおいて︑了解したのだが︑
それで何でも使えると勝手に解釈し︑その後は無許可でている︒
﹁アナウンサーは絶叫しているというが︑朝鮮では南も含め︑
あのような発生の仕方をしている︒標準語をきちんと話している
のだ﹂
テレビ朝日は無許可で朝鮮中央テレビの放送を録画してオンエ
アしているだけでなく︑悪質な捏造までしているという︒
テレビ朝日は七月に前に放送した﹁女性の手﹂という映画の中
の一シーンを︑ニュース番組の中で二十秒から三十秒流した︒こ
の映画は自然災害が続いて食料不足が深刻化したときに︑食料工
場で働く女性の姿を描いた映画だが︑﹁朝鮮では家庭の主婦の手
もこんなに荒れている﹂と放送︒映画については全く説明しなか
った︒
また︑朝鮮中央テレビでは家庭向けの料理番組を放送してお
り︑ジャガイモを使った料理をオンエアした︒﹁お米がないので
ジャガイモを食べている﹂というナレーション︒このときも映像 権力監視機能を果たせない日米メディア企業
― 70 ―
の出所を隠して放送した︒
朝鮮中央テレビのアニメがおもしろおかしく使われたこともあ
るという︒
朝鮮中央放送委員会の正式の会議で︑日本のテレビ局の無断使
用︑捏造について取り上げ︑日本の朝鮮総連の担当部署からテレ
ビ朝日に抗議するように依頼した︒朝鮮総連の担当者が連絡した
はずだという︒
日本の放送局は二〇〇〇年ごろから︑朝鮮中央テレビに協力関
係を結びたいと言って来たそうだ︒とりわけ︑NHK︑TBSが
熱心だったが︑国交がないので正式に締結できなかった︒
小泉首相の訪朝の際や︑調査団が来たときは︑同行記者が朝鮮
中央テレビの施設を使って中継放送した︒最近は全く連絡がない
という︒
朝鮮も〇三年四月に世界著作権機構に加入した︒APテレビな
どは事前にきちんと許可を求めてくる︒部長は﹁全く初歩的なこ
とで良心のある人間ならこんなひどいことはできないはずだ︒報
道倫理に違反している︒同業者として非常に残念なことだ﹂と語
った︒
3チョムスキー氏︵米マサチューセッツ工科大学教授︶との対
談
ノーム・チョムスキー氏︵米マサチューセッツ工科大学教授︶
と私との対談本が〇三年三月︑現代人文社から出版された︒タイ あらがトルは﹃抗う勇気チョムスキー・浅野対談﹄︵ToResist–Chom-
sky&AsanoTalk︶︒日本語訳は椎名亜由子さん︒
前述したように︑〇二年一一月八日にマサチューセッツ工科大
学︵MIT︶の教授研究室で行った英語での対談をもとに︑豊富
な資料と脚注をつけて出版した︒チョムスキー氏との対談の要旨
は﹁週刊金曜日﹂一二月二二日号にも掲載された︒
本のタイトルは︑対談の最後の対話からとった︒原文は次のよ
うだった︒
Asano:DoyouhaveamessagetoJapanesejournalistsandpeople-
whoaretryingtochangesociety?
Chomsky:Toresist;there’snothingelse.京都で発行されている英字誌“KyotoJournal”は〇三年一〇月
に発行された第五四号で︑対談の英文の抜粋︵約六〇〇〇単語︶
を載せた︒
本誌xiv︵135︶〜xxxiv︵115︶ページに︑対談の英語版を掲載
する︒
チョムスキー氏との対談の前に︑共同通信の二年先輩で東南ア
ジアや外信部で一緒に仕事をした芥川賞作家︑辺見庸さん︵早大
客員教授︶と国際電話で話したのもよかった︒辺見さんは︑﹁浅
野君ならチョムスキー教授と合うと思う﹂と指摘し︑チョムスキ
ー氏の思想的背景などを解説してくれた︒いいアドバイスをもら
った︒辺見庸さんは月刊﹃プレーボーイ﹄〇二年六月号で対談
︵﹃メディア・コントロール﹄集英社新書に収録︶した︒辺見さん
― 71 ―
権力監視機能を果たせない日米メディア企業
は﹃永遠の不服従のために﹄︵毎日新聞︶で︑チョムスキー氏の
印象について詳しく書いている︒
日本でも︑有名になったチョムスキー氏への不当な非難が目立
ってきた︒中でも︑﹁非現実的﹂と非難したNHKキャスターは
哀れであった︒
普通の市民の政治感覚を大切にして︑自分で考え行動するチョ
ムスキー氏は︑米国の代表的な良心の知識人だと私は思うが︑日
本の大マスコミの﹁ジャーナリスト﹂はそう思わないらしい︒
私は﹁週刊金曜日﹂一二月二二日号の﹁対談を終えて﹂で︑日
本の友人からの情報をもとに︑NHKの﹁ニュース
10﹂で一二月
四日︑チョムスキー教授のドキュメンタリー映画﹁チョムスキー
9・
11 PowerandTerror﹂︵製作・配給=シグロ︶を紹介した
が︑最後にキャスターが﹁チョムスキー氏の意見は実際の外交に
は非現実的﹂というコメントで結論付けたことを批判し︑﹁どう
したらテロや凶悪犯罪をなくすことができるか﹂を考え︑改革の
道筋を提案するのがジャーナリストの仕事ではないのかと書い
た︒
当時︑私はロンドンで在外研究中だったため︑一二月末に日本
に一時帰国してから調べると︑実際の放送は一二月四日午後一一
時からの︶NHKの衛星放送BS1の﹁BS
23
ワールドニュー
ス﹂だったことが分かった︒同番組の﹁カルチャー&ピープル﹂
というコーナーで︑︽﹁チョムスキー9・
11﹂対テロ戦争への疑
問︾と題してオンエアされた︒ 友人の記憶に残ったキャスターが︑藤沢秀敏キャスター︵NH
K報道局︶のようだったので︑一二月二五日に藤沢氏本人に確か
めて分かった︒
藤沢氏と私はAFS国際奨学生の同期生で︑一九六六年から一
九六七年まで一緒に米国へ留学した︒藤沢氏は徳島県の出身で︑
四国の試験から一緒だったので親しくしていた︒早稲田大学政経
学部を卒業後︑米国留学の後︑NHKに入り︑香港︑マニラ︑ワ
シントンなどの特派員を歴任︒数年前まで﹁ニュース9﹂のキャ
スターだった︒
番組では︑女性キャスターがチョムスキー教授の写真を背景
に︑﹁静かな反響を呼んでいるあるドキュメンタリー映画につい
てお伝えします﹂﹁映画の主役はこちら﹂と語り︑経歴を紹介し
た︒
続いて︑藤沢キャスターが﹁チョムスキーさんはベトナム戦争
以来︑武力に訴える米国の外交政策を批判し続けてきました﹂と
述べた後︑﹃9・
11去﹁︑てし示でプッをア本の︶秋春藝文︵﹄年
の同時多発テロ事件後には︑アフガニスタンへの攻撃の可能性が
高まる中で︑この著作の中で﹃米国に報復する資格はない﹄と主
張するなど︑その論調は賛否両論を巻き起こしてきました﹂と述
べた︒
女性キャスターが﹁米国が対イラク攻撃に向かって突き進む
中︑チョムスキーさんはどんなメッセージを伝えようとしている
のか︑まず映画の一部を御覧ください﹂とコメント︒ 権力監視機能を果たせない日米メディア企業
― 72 ―
映画のタイトルに続いて︑二〇〇二年三月二二日に米カリフォ
ルニア州ポロ・アルトでの講演の模様が映し出され︑チョムスキ
ー氏が﹁﹃対テロ戦争﹄なる言葉は眉つばです︒世界最悪のテロ
国家が率いているのですから︒米国に﹃対テロ﹄を語る資格など
ない﹂と話した場面が流れた︒
女性キャスターが﹁映画は同時多発テロ後に︑チョムスキーさ
んによる講演活動とインタビューで構成されています︒ナレーシ
ョンはなく︑語り続ける姿がひたすら記録されています﹂とコメ
ント︒
再び映画に戻り︑チョムスキー氏が﹁賠償すべき国の一つがア
フガンなのです︒米国とロシアがあの国を破壊しました︒二十年
間の間にめちゃくちゃにしたのです︒援助でなく賠償すべきなの
です﹂と述べる︒
ここで映画からの映像が終わり︑﹁この映画を撮ったジャン・
ユンカーマン監督に先日話を聞きました﹂との前振りでユンカー
マン監督が登場する︒藤沢キャスターが左にいて︑女性キャスタ
ーが監督の左に座っている︒
﹁まず︑映画をつくろうとした意図は﹂と女性キャスターが質
問︒画面の左上に﹁制作の意図﹂という字幕︒
﹁米国で反対意見が聞こえてこない︒﹃9・
11﹄の本が出て︑さ
すがにチョムスキーさんだと思った︒多くの人に伝えたいと思
い︑映画をつくった﹂
藤沢キャスターが﹁米国ではチョムスキー氏の発言に対してで すね︑こう非愛国的だとか︑それから︑まあ︑あまりにも理想論
だけ説いていて︑具体性がない︑現実性がないといった批判の声
も強いと思うのですが︑この映画にはどうして敢えてどうして反
対論を入れていないんですか﹂と質問︒左上に﹁反対意見を入れ
ない理由﹂という字幕が出ている︒
﹁チョムスキーの意見が米国のメインストリームのメディアに
反映されない︒チョムスキーの声がなかなか聞こえてこないか
ら︑映画としてつくった﹂﹁彼の意見が正しいかどうかは観客が
見て判断すればいい﹂
﹁九月一一日に特別公開した後︑同月二八日から都内の劇場で
一般公開が始まり︑当初の予定を上回り︑二カ月を超えるロング
ランとなった﹂
映画を見た若者三人の声がビデオ録画で流れた︒
女性キャスターが︑映画を見た日本人の反響について監督に聞
いた︒
﹁米国への疑問が︑米国の中でも勇気を持って平和のために活動
している人がいることを知ってくれたと思う︒チョムスキー氏
は︑確かに理想的な考えを持っている人だ︒道徳に基づいて発言
する︒しかも高い基準を要求する︒そういう人がいまの世の中に
は必要だと思う﹂
女性キャスターが﹁この映画は日本向けにつくったもので︑米
国での公開は予定がなかったそうですが︑先日ニューヨークでも
上映され︑たくさんの人が詰め掛けた︒上映の後議論の輪がで
― 73 ―
権力監視機能を果たせない日米メディア企業
きた︒批判の声もあったそうなんですが︑議論が巻き起こること
が監督としては非常にうれしかった︑ということをおっしゃって
いました﹂と述べる︒
ここで︑藤沢キャスターにカメラが移り︑次のように述べた︒
﹁チョムスキーさんの意見は外交政策としてはですね︑非現実
的と言えるものが多いと私自身も思うんですね︒ただ︑同時多発
テロ事件以降ですね︑米国では︑政府に批判的な意見が言いにく
い雰囲気の中で︑このアフガニスタンへの軍事行動に反対するな
どして論議を呼んだことに彼の真骨頂があると思いますね﹂
﹁非現実的﹂というところで何度かとちった︒書いたものを読
み上げているようだった︒女性キャスターが﹁そうですね︑は
い﹂とうなずいて番組は終わった︒
この番組では︑チョムスキー氏の映画の中での発言から︑﹁ア
メリカにはテロ報復の資格はない﹂などの部分を主に紹介して︑
アメリカがこれまで何をやってきたかを具体的に述べた箇所は全
く放送されなかった︒
一時帰国した二〇〇二年一二月末︑東京渋谷で﹁チョムスキー
9・
11 PowerandTerror﹂を見た︒若者が多い︒対談のとき
のことを思い出しながらチョムスキー氏の発言を聞いた︒言葉の
一つひとつが的確で︑聴く人の心を打つ︒すばらしい映画だ︒映
画が終わった後︑チョムスキー氏の本がよく売れていた︒リトル
モア社の﹁チョムスキー﹂︵映画の公式カタログ︶は二万部を超
えたという︒ その後︑二〇〇三年一月八日︑ユンカーマン監督に会った︒彼
もAFS国際奨学生のOBで︑アメリカから日本への一年留学プ
ログラムの一期生で︑一九六九年から一年間︑慶応義塾志木高校
で学び︑スタンフォード大学に進んだ︒監督はこう私に話した︒
﹁映画はナレーションも一切入れず︑チョムスキー氏の語りだ
けに徹した︒とにかく話がうまく分かりやすい︒トークの面でも
天才だ︒チョムスキー氏の人間性を知るために︑仕事以外の場面
も撮りたかったが︑誰がそんなものを見たいでしょうか︑と言っ
て硬く拒否された︒他人のプライバシーにも関心がないし︑自分
のプライバシーは守るという強い意志だった︒
私もベトナム反戦世代で︑チョムスキー氏は当時から反体制︑
フェミニズム運動のリーダーの一人だった︒それから一貫して東
ティモール︑中南米︑トルコなどでのアメリカの侵略に異議を唱
えてきた︒
日本人に︑アメリカには戦争に反対する人たちがこんなにたく
さんいるということを知ってもらえたと思う︒日本の社会もいま
非常に危険な方向に向かっている︒今の日本の北朝鮮に対する強
迫観念︵obsession︶はとにかく異常だ﹂
4放送した番組について回答もしないNHK
友人の情報では︑この番組は﹁ニュース
10﹂ということだった
が︑彼の記憶違いだった︒﹁週刊金曜日﹂の編集担当者は外国に
いた私に代わって︑NHKに確認の電話を入れたが︑NHKがま 権力監視機能を果たせない日米メディア企業
― 74 ―
ともに対応しなかった︒
﹁週刊金曜日﹂編集担当者は︑私が原稿を送ってゲラが出た一
二月一二日ごろNHK広報部に電話し︑﹁週刊金曜日﹂の編集者
であることを告げて︑﹁NHKのニュース
11で︑チョムスキー教
授の映画を取り上げたらしいが︑確認したい﹂と問い合わせた︒
電話に出た広報部員は﹁担当者がいないので分からない﹂と答え
た︒編集担当者は再びNHKに電話をかけて︑今度は視聴者セン
ターに同じことを聞いた︒センターの職員は﹁ニュース
11という
番組はない︒そういうあやふやなことでは答えられない﹂と指
摘︒編集担当者は﹁チョムスキー教授の映画を取り上げた番組は
何か教えてほしい﹂と依頼したが︑﹁ニュースは刻々と変わって
おり︑何を放送したかについては︑いちいち答えることはできな
い﹂などという対応だったという︒
﹁週刊金曜日﹂編集部が日時をだいたい特定した上で︑番組の
内容について広報部などに取材しているのだから︑﹁担当者が戻
ったらこちらから連絡します﹂という対応ぐらいはすべきであろ
う︒
番組名が分からないから取材しているのであり︑番組名を間違
えたことに文句をつけるのはどうか︒フジテレビなどの民放の広
報部であればもっと親切に対応するはずだ︒
藤沢氏はチョムスキー教授に関して︑実際の外交としては現実
的でないとコメントしたことについて︑﹁映画を撮ったユンカー
マンさんにはスタジオで来てもらい︑収録した︒あの番組はバラ ンスがとれたどこからも文句の出ない公平︑公正な内容だと自信
を持っている︒チョムスキー教授の言い分だけを伝えると一方的
になるので︑全体のバランスをとるためにあのようなコメントを
した︒どういうコメントをするかはキャスターの自由だ︒私のコ
メントについての論評もまた自由だ﹂と語った︒
NHKのニュースのほとんどは官庁︑大企業など体制派の一方
的な言い分の報道ではないか︒例えばブッシュ大統領がイラクを
非難するとき︑イラクの言い分を伝えてきたのだろうか︒反体
制︑反政府の意見を報道するときだけ︑反対意見︑異論を伝えろ
という︒チョムスキー氏を取り上げた映画で﹁反対意見をなぜ入
れなかったのか﹂と聞くのを見て︑あまりにNHK的過ぎると思
い笑ってしまった︒
藤沢氏は﹁週刊金曜日﹂の対談記事について知らなかった︒
私が友人の情報が不確かで︑またNHK広報部などが取材に答
えなかったため︑﹁ニュース
10をとこたい書﹂とータスャキの説
明したところ︑藤沢氏は﹁番組名が違っているのは問題だ︒事実
確認ができないのになぜ書いたのか﹂と指摘した︒
私は︑﹁NHKに聞いてもまともに答えてくれなかった︒NH
Kも含めて︑テレビはオンエアされた番組を検証することが非常
に難しい︒また報道機関は自分が取材されると︑あまり親切には
対応しない︒名誉毀損の当事者またはその代理人にしかビデオも
見せない︒せめてメディア研究者には開示すべきだと思う﹂と話
した︒
― 75 ―
権力監視機能を果たせない日米メディア企業
藤沢氏は﹁アーカイブズをつくっており︑対応している︒週刊
金曜日からNHKへの取材の件は︑私は全く関知しておらず︑関
係ないことだ﹂と強調した︒
藤沢氏はリトルモア社から映画の台本を活字にした﹃ノーム・チ
ョムスキー﹄が出版されていることを知らなかった︒
NHKの﹁週刊金曜日﹂への対応は不適切である︒文藝春秋や
新潮社からの取材であればもっと丁寧に対応したのではないかと
思われる︒
ニュース番組のほぼすべてをデジタル化してHPで公表してい
る英国のBBCなどから学ぶべきであろう︒
二〇〇一年秋︑チョムスキー氏にインタビューした全国紙記者
の特派員も﹁会う前と後では印象が大きく変わった︒悪くなっ
た︒結局︑あらゆる権力を一方的に批判するだけで︑今後どうす
べきかを全く言わないからだ﹂という印象を漏らしたという︒
チョムスキー氏は評論家・学者としてひとごとのように言うの
ではなく︑普通の常識を基準にして︑自分が住み働く地域・職場
から市民として権力に抗して闘うことを実践してきた︒私の印象
は会った後︑さらによくなった︒
藤沢氏も全国紙記者も︑ブッシュ政権や小泉政権のすすめる
﹁戦争﹂という名の﹁テロ﹂を防ぐために︑両政権の言い分を垂
れ流す広報宣伝に﹁参加しないこと﹂を誓うべきだろう︒戦争を
煽るのではなく︑戦争をなくす努力を続けるのがジャーナリスト
の現実的な生き方であろう︒ 5﹁日本人は侵略の歴史を認めない﹂という諦め
ロンドンでの八カ月にわたる在外研究をいったん終えて︑日本
とオセアニア︑アメリカを回る途中の二〇〇二年一二月︑中国の
三都市を回った︒香港城市大学で開かれた国際学会﹁アジアにお
けるメディアと民主主義﹂で︑日本は今世紀もアジアの平和と安
全にとって脅威であり︑その主要な原因は教育とマスメディアが
極右勢力に支配されているからだという発表を行った︒
その後︑かつて魯迅が教鞭をとったアモイのアモイ大学と︑マ
スメディア研究ではトップの上海の復旦大学で︑新聞学部の学生
と大学院生を対象に講義をした︒日本の特派員の人たちや地元の
テレビ局の記者も聞きに来てくれた︒
中国の教員︑学生は熱心に私の話を聞いてくれたが︑アモイ大
学のある助教授が講演後︑﹁あなたの意見にだいたい同意する
が︑一点だけ違う︒それは︑日本が過去の侵略の事実を認めない
のは︑日本人がもともと自分たちを優秀だと考える性格︵キャラ
クター︶だからで︑メディアのせいではない︒日本民族の性格は
どうやっても変わらない﹂と英語で言ってきた︒
また︑復旦大学でも日本の国立大学で国際関係論の博士号をと
ったという講師が講演後に日本語で︑﹁あなたは検閲に反対とい
うが︑日本のような国には︑国際法も含む法律で軍国主義や侵略
を美化する言論を禁止するしかない︒日本の国民は日本軍慰安婦
や南京大虐殺を否定する言論にだまされているからだ﹂と断言し
た︒ 権力監視機能を果たせない日米メディア企業
― 76 ―
﹁日本人はそういう民族なのだ﹂とレッテルを貼られてしまっ
たら︑日本や日本人を変えようとする試み自体が無意味というこ
とになり︑石原知事が中国人にラベリングしているのと同じこと
になるのでないか︒また︑法律で言論を統制することは危険だと
説明したが︑二人は納得してくれなかった︒
中国の知識人の間では︑中国政府が日中国交正常化の際︑日本
に対し︑戦時賠償を全面放棄したことについて批判の声が高まっ
ている︒日本人は約束したはずの歴史教育を怠り︑中国は賠償を
受けなかったために経済発展が遅れたということで︑日中共同声
明の改定を求めている︒また︑﹁最近でも日本軍が残した爆薬が
爆発して負傷し︑元日本軍慰安婦の女性が今もトラウマに苦しん
でいる︒国家として賠償を放棄しても︑日本の中国侵略による被
害者が個人的に日本に補償を求める権利がある﹂︵張達紅・南京
師範大学副教授︶という意見が強まっている︒
一方︑上海で会ったメディア・グループの幹部は﹁日本人に靖
国問題で講義しても何も変わらない︒日本と経済で協力するため
にも過去のことはもう忘れたほうがいいのかもしれない﹂と述べ
た︒韓国でも最近︑﹁日本人に過去の歴史についていくら言って
もムダだ﹂という声をよく聞く︒
日本人は歴史健忘症だと諦められているのだ︒
日本の若者の多くも﹁過去を振り返るより︑われわれ若者は未
来をみつめていくべきだ︒戦争を知らない世代同士で︑音楽やス
ポーツを通じた交流でアジアの若者と仲良くなれる﹂という考え 方だ︒果たしてそうだろうか︒
私は一二月一五︑一六日︑南京を訪ねた︒南京大虐殺から六五
周年行事が終わった直後だった︒中国では﹁侵華日軍南京大屠殺
遇難同胞紀念館﹂という南京大虐殺記念館で︑記念館の壁には
﹁遇難者VICTIMS遭難者300000﹂と刻まれている︒資料館
の入り口には︑砂地に数え切れない数の頭蓋︵がい︶骨の列が安
置されている︒その後ろには︑乳児から高齢者まで多数の遺骨が
折り重なるようになった﹁万人抗﹂が発掘されたままに再現され
ている︒銃剣が貫通した痕が見える︒当時の写真︑文書︑新聞記
事︑書籍︑日本軍の遺留品などが整然と陳列されて︑日本軍によ
る残忍で凄惨な加害の歴史を告発している︒
南京大虐殺記念館の最後のコーナーに︑中国と日本の学者︑ジ
ャーナリストが出版した本が展示されていた︒私のメモによれ
ば︑壁にこんなメッセージがあった︒
︽歴史上の教訓を忘れてはならない︒日本帝国主義は中国に対
して侵略戦争を引き起こして︑中国人民にはなはだしい災難をも
たらした︒日本人民もその被害を受けた︒一九七二年に中日両国
は国交を正常化し︑中国と日本は友好関係を打ち立て︑絶えず強
化発展させてきた︒しかし︑歴史を歪曲し︑侵略戦争を美化しよ
うとする日本国内における一部分の人々の企てに警戒心を高めな
ければならない︒
強い国が弱い国を支配してきた︒中国が日本帝国主義に侵略さ
れたのは︑当時︑中国の発展が遅れ︑国力が弱かったからであ
― 77 ―
権力監視機能を果たせない日米メディア企業
る︒中国は他国に侵略されないために中国共産党の指導の下で建
国を進めなければならない︾
このメッセージの最後のところが気にかかった︒確かに人類の
歴史は︑強国が弱小国を侵略し︑抑圧支配する繰り返しであっ
た︒しかし︑これを逆に読むと︑弱い国は強い国に侵略されても
やむを得ないということにならないか︒中国人の大学院生や学生
との討論でも︑﹁中国は再び外国から侵略されないためにも核兵
器が絶対に必要だ﹂という人が多かった︒過去の歴史を考える
と︑そのような意見になるのはよく理解できる︒しかし︑私は敢
えて中国人の友人に対し︑﹁強い国も弱い国も︑大きな国も小さ
な国も︑対等の関係で共存するのが国連憲章の理念であり︑二一
世紀の世界は軍事力ではなく対話の力で外交をすすめるべきだ︒
建国のときに強い軍事力を必要としたのは理解できるが︑安保理
常任理事国五カ国だけが核兵器を保有するのは異常だ︒核兵器を
段階的にでも減らすためのイニシアティブを中国に求める﹂と訴
えた︒
中国の人々が︑﹁国権の発動たる戦争を︑武力による威嚇又は
武力の行使は︑国際紛争を解決する手段としては︑永久にこれを
放棄する﹂という日本国憲法第九条の精神を︑現実の政治の中に
生かしてほしいと思う︒
6朝鮮を敵視するマスメディア
二〇〇二年一二月末︑八カ月ぶりに日本に戻った︒上海から関 西空港に向かう航空機の中で︑NHKテレビのニュースを見た︒
拉致事件被害者五人の再会がトップで取り上げられ︑﹁政府が永
住帰国を決める前に︑全員がそう決めていた﹂とか︑朝鮮の総書
記の﹁バッチを外した﹂と報道していた︒五人の気持ちがそんな
にうまく﹁一致する﹂ものかという疑問はNHK記者にないのだ
ろうか︒
家族会と密接な関係にある﹁北朝鮮に拉致された日本人を救出
するための全国協議会﹂︵以下︑救う会︶の佐藤勝巳会長は︑帰
国した五人を朝鮮に返さないという﹁拉致被害者家族連合会﹂
︵以下︑家族会︶の決定は﹁救う会﹂が誘導したことを公表して
いる︒
二〇〇三年一月二四の﹁週刊金曜日﹂に高嶋伸欣琉球大学教授
が書いたところによると︑佐藤会長は複数の場で次のように公言
している︒
︽五人が帰国する当日朝︑五人を返さないことにしようと家族
たちに佐藤氏が提案した︾︽﹁時期をみて︑必ず招集をかける︒そ
こで帰さないという態度表明をする︒これは絶対に口外しちゃい
かん︒タイミングが問題だから﹂と伝えた後︑一〇月二二日に
﹁今だ﹂と判断して﹁子どもを帰さない﹂という声明を﹁家族会﹂
と﹁救う会﹂の連名で発表した︾︽結果として﹁家族が自分の娘
や息子を帰さないと言うのですから︑政府がそれでも返しなさい
なんて言えるはずがない﹂﹁これが初めて運動が政府を動かした
瞬間です﹂︾ 権力監視機能を果たせない日米メディア企業
― 78 ―
朝鮮は﹁北﹂と略され︑金正日総書記︑マスゲーム︑﹁テポド
ン﹂などの映像が繰り返し使われ︑薄気味悪い国というイメージ
がこれでもかこれでもかというふうに流される︒まさに洗脳だ︒
テレビに出る平沢勝栄・西村慎吾両氏など﹁拉致議連﹂の極右
国会議員の﹁邦人救出でわが軍を出せ﹂﹁いまの憲法は無効﹂な
どの言動はもうむちゃくちゃだ︒若い民放アナウンサーが﹁ミサ
イルが日本に飛んできたらどう対処すべきか﹂などとコメントす
るのを見て︑大変なことになっていると実感した︒﹁朝鮮叩き﹂
は最近まだ収まってきたほうだという︒ピークのときはすさまじ
かったのだろうと思う︒
欧州で八カ月住んだ私には︑日本のマスコミ企業の﹁拉致﹂事
件報道は︑異常としか言いようがない︒良識派とされてきた新聞
までが︽日本政府はその異常さを踏まえ︑普通の国に変わるよ
う︑国交交渉を通じて促していく必要がある︾︵九月二〇日の朝
日新聞社説︶︽この国を﹁普通の国﹂に誘導していくことが隣国
である日本の責任︾︵九月一八日の毎日新聞・政治部長署名記事︶
などと︑朝鮮の﹁体制変革﹂まで煽っているのに呆れた︒
朝鮮を敵視し︑朝鮮民族全体を蔑視する洪水のような報道で︑
在日朝鮮人が襲われている︒朝鮮国家と朝鮮民族に対するあから
さまな蔑視︑差別意識のすさまじさに暗澹たる思いだ︒
不況が深刻化する中で︑偏狭な国家主義に傾倒していく土壌が
生まれてきている︒この国はまさに東アジアと世界の脅威だ︒
二〇〇三年一月に出版された人権と報道・連絡会編﹃検証・ ﹁拉致帰国者﹂マスコミ報道﹄︵社会評論社︶に︑私は︽欧州で考
える﹁拉致﹂報道︾と︽﹃週刊金曜日﹄が問題なのか?︾の二本
を書いたので︑読んでほしい︒﹁週刊金曜日バッシング﹂では︑
﹁敵﹂の陣地で取材し︑﹁敵﹂の言い分を宣伝するのはけしからん
という論調だった︒朝鮮から伝えるのは偏向だという人間はジャ
ーナリストをやめたほうがいい︒
﹁徴兵制は違憲ではない﹂と公言した石破茂衆議院議員が第二
次小泉内閣の防衛庁長官に就任した︒﹁北朝鮮に拉致された日本
人を早期に救出するために行動する議員連盟﹂︵拉致議連︶の会
長だった︒
有事立法に明確に反対するマスメディアもほとんどなくなっ
た︒憲法がこれほどまでに蹂躙されているのに︑真正面から反対
する新聞︑テレビは消えた︒
﹁拉致﹂もまた犯罪である︒犯罪を捜査するのは警察・検察の
はずだ︒帰国した被害者五人にいまだに事情聴取もしていない︒
松本サリン事件の被害者︑河野義行氏︵長野県公安委員会委員︶
は﹁拉致事件は刑事事件であり︑拉致された日本人は犯罪の被害
者である︒警察・検察がまず真実を明らかにしていくべきだ︒外
国が絡んでいるのであれば︑国際機関を通して連携すべきだ︒警
察の姿が見えないのは不思議だ︒拉致事件の被害者を支援する特
別な法律ができたのはいいことだが︑他の犯罪の被害者にはこう
した国のケアがないのはおかしい︒サリン事件では国は医療費も
出してくれない︒不幸にも犯罪に遭った人たちを国と社会が支え
― 79 ―
権力監視機能を果たせない日米メディア企業
る仕組みを整備したい︒
!加害者
"が誰であるかによって対策が
異なるのはどうか﹂と話している︒
家族会のメンバーの一人は﹁拉致事件で︑日本がかつて行った
植民地時代のことが帳消しになった﹂と発言した︒拉致被害者の
家族としての枠を大きく踏み外す政治的発言だ︒
﹁週刊金曜日﹂〇三年一月二四日号の竹内一晴記者の記事によ
ると︑﹁新しい教科書をつくる会﹂は二〇〇二年一二月二六日︑
東京大田区で集会を開いたが︑﹁家族会﹂代表のY氏とY氏の
妻︑と事務局長のH氏らが初めて参加した︒﹁拉致議連﹂の中川
昭一会長︑平沢勝栄事務局長らが招かれた︒
また︑同日︑中学の公民教科書として唯一﹁北朝鮮による日本
人拉致事件﹂を取り上げている﹁新しい公民教科書﹂︵扶桑社︶
の執筆者らは東京で記者会見し︑﹁疑わしき事件﹂などとした記
述について﹁事実が確認された﹂として文部科学省に対し︑より
確定的表現に訂正する申請をし︑承認されたことを明らかにし
た︒
一方︑強制連行や日本軍慰安婦など植民地支配の問題について
は﹁事実がはっきりしていない﹂とし︑﹁日本人の教科書として
国の立場を忘れるような言論はやるべきではない﹂と主張した︒
﹁家族会﹂と﹁救う会﹂は︑明確に政治的立場を明らかにし
た︒
一月一四日には小泉首相が首相就任後︑三回目の靖国神社参拝
を強行した︒小泉首相は一一月八日︑訪問先のインドネシア・バ リ島で︑〇四年以降も毎年一回参拝すると記者団に表明した︒公
約のほとんどを破っている小泉氏が靖国参拝の公約だけは忠実に
守っている︒
誰もが反対できない﹁拉致﹂被害の問題を前面に押し出し︑偏
狭なナショナリズムを煽り︑軍国主義化を狙う勢力がこの国を乗
っ取ろうとしている︒
7アメリカの﹁核﹂査察を
﹁拉致﹂被害者報道によってつくり出された日本の世論は︑朝
鮮が二〇〇三年一月十日︑核不拡散条約から脱退を宣言したこと
で︑さらにエスカレートした︒朝鮮は︑米国が九四年十月の米朝
合意に基づく軽水炉建設の約束を守らず︑〇二年一二月には﹁核
疑惑﹂を理由に重油の供給停止を強行してきたことへの自衛措置
だと説明している︒朝鮮はこの間︑一貫して︑米国に不可侵条約
の締結と︑朝鮮半島の非核化を求めてきた︒
ところが︑日本のマスコミは︑朝鮮を﹁悪の枢軸﹂と不当に呼
ぶブッシュ米政権の情報を垂れ流し︑朝鮮が今にも日本を核攻撃
する危険性があるかのようなデマ報道を繰り広げている︒日本の
マスコミは英語のnuclearを︑朝鮮に関してだけ﹁核﹂と訳し︑
しかも﹁核開発﹂を﹁核兵器開発﹂と同義語にしている︒日本国
内では︑nuclearの場合は﹁原子力﹂と表現し︑世界三位の核施
設を持っているが︑日本の﹁核兵器開発﹂を問題にするマスメデ
ィアがあるだろうか︒ 権力監視機能を果たせない日米メディア企業
― 80 ―
またベトナムでは核開発計画が進み︑インドネシアも原子力発
電所を建設する計画を発表したが︑両国に対して﹁核兵器開発﹂
を問題にしない︒朝鮮だから問題にしているだけなのだ︒
朝鮮が核開発をするなら︑日本も核武装すべきだという議論が
公然と出てきた︒
また︑アメリカべったり﹁右翼﹂政治家とマスコミ企業は︑在
日米軍基地には莫大な数の核兵器が装備され︑朝鮮に照準を合わ
せていることを忘却している︒
アメリカは朝鮮といまも戦争状態にある︒一九五〇年に始まっ
た朝鮮戦争は五三年七月に﹁休戦協定﹂が結ばれ︑休戦になった
ままだ︒アメリカ軍率いる対朝鮮国連軍はソウルに司令部を︑日
本の座間に後方司令部を置き︑横田︑横須賀︑佐世保︑沖縄の嘉
手納・ホワイトビーチなどの基地に舞台を配置し︑それらの基地
には星条旗と国連旗がはためいている︒アメリカの戦闘機︑輸送
機︑空母︑艦船などは本国と日韓両国を何の制限もなく自由に行
き来出来るのだ︒
朝鮮はアメリカとの戦争状態を終わらせ︑相互不可侵条約の締
結を求めている︒アメリカの核兵器を東北アジアから撤去させる
ことを要求するのも当然だと思う︒
アメリカはかつてのローマ帝国にも似た世界最大の強国になっ
た︒一九九二年から二〇〇一年の間に一四二〇億ドル分の武器を
世界各国に輸出した︒アメリカの軍事費は世界の国防費の三六%
を占め︑一九九九年の世界で起きた紛争の九二%に︑アメリカは 武器または軍事技術を供給した︒
パナマ︑イラク︑ソマリア︑ハイチ︑アフガニスタンではアメ
リカ軍自ら武器・軍事技術を与えた現地部隊・勢力と対峙した︒
アフガン侵攻に続いて︑フィリピン︑グルジア︑コロンビアなど
にも軍事介入している︒
〇三年一月十日の朝日新聞夕刊﹁窓﹂で︑桐村英一郎論説委員
は︑︽ブッシュ大統領の米国は︑何が何でもイラクを攻撃する構
えである︒その一方で︑北朝鮮には﹁対話の用意﹂があるとい
う︾と述べた後︑︽北朝鮮は核施設の再稼動を宣言し︑査察官を
追い出した︒長距離ミサイルは持っているし︑戦争になれば﹁ソ
ウルは火の海になる﹂などと物騒なことも口にしてきた︾︽攻撃
したら危ない国が瀬戸際政策をもてあそび︑安全とみた相手がや
られる︒共に平和解決が第一とはいえ︑米国の身勝手外交はモラ
ルハザードを世界に一層広げはしないか︾と書いた︒産経新聞の
﹁産経抄﹂もここまでは書かないであろう︒
同日の毎日新聞朝刊の﹁余禄﹂はテレビ映像に何度か見た︽小
学生の女の子たちがニコニコと笑っている︾映像が︽何か︑すご
く気持ち悪かった︾︽北朝鮮の独裁体制を雄弁に語るもの︾など
と論じた︒
一月二三日の毎日新聞で高畑昭男・論説委員はコラム︽論外で
すか?論説室より︾で︑︽もともと三万七〇〇〇人の米兵は韓国
防衛に米国に引き込む﹁人質﹂だ︾という珍説を持ち出して︑
︽二〇年も三〇年もこの︵朝鮮の︶体制と付き合うシナリオを考
― 81 ―
権力監視機能を果たせない日米メディア企業