1 課題と視角
(1)課 題
本稿の課題は,国内流通におけるプライベー トブランド(以下 PB)が積極的に展開されて いるなか,ナショナルブランド(以下 NB)メー カーの PB 戦略について方向性を解明すること にある。この背景には,近年,寡占化する国内 流通小売が相次いで PB 開発を行っていること が挙げられる。「チェーンストアエイジ」(2014)
によれば,2013 年度の国内流通小売の PB 売 上高は3兆円に達すると述べている。一部では,
欧米流の商品戦略手法の流入であると言われて いるが,世界的に見ても PB のマーケットシェ アは拡大し続けていることから,国内において 今後も拡張していくことは,明らかであろう。
2007 年に刊行された Kumar & Steenkamp の『Private Label Strategy』は,メーカーお よび流通小売における,PB に関するマーケ ティング戦略に提言を加えている。同著が展開 した提言のポイントは以下の 2 点に要約でき
る。1 つ目はメーカーが生産余剰を埋め合わせ るための PB 受託は,経営面において非常に危 険であること。2 つ目は流通小売が,トップブ ランドの NB を模倣した PB を展開しても決し て永くは続かないことである。一方,この研究 成果に対しては,メーカーが PB を受託するこ とにより販売チャネルが確保され,安定した経 営の実現が可能となり,且つ流通との協働によ り新たなナレッジが形成されるというメリット の指摘もある。もちろん,小売流通・メーカー において,それぞれの強みを活かしてビジネス を補完し合う形は,ある種のバリュー・チェー ンの理想形であるかもしれない。しかし,これ までの事例で見られた結果においては,NB ブ ランドを持つメーカーが,PB 受託によって企 業の独立性を保ち,且つ著しく成長した企業 は見当たらない。PB が,一部の産業で, 毒 饅頭 1)とささやかれている現状において,PB 受託が今後メーカーにとって経営面で好影響を 生むことができるであろうか。ここで 2 つの疑 問点が生じる。
PB ブームにおけるメーカー戦略の考察
―家庭紙メーカーの PB 戦略の方向性―
Consideration of the manufacturing strategy in Private-label Brands
—What dose impact on household paper manufactures “PB” bring about?—
阿部 正樹
ABE, Masaki
2009 年以降,流通小売各社の経営方針において,PB 強化が打ち出されている。所謂,PB ブー ムが再燃したのである。その背景から,多くのメーカーでは,PB 供給の要請を受けている。つ まりメーカーにとっては,取引関係維持あるいは自社ブランド価値低下の懸念のいずれかを天 秤にかけなければならない課題に直面しているのである。本稿では家庭紙産業を取り上げ,メー カーの PB 受託メカニズムを実証分析により解明し,当該産業メーカーにおける PB 戦略につい て,ひとつの方向性を示す。
キーワード: プライベートブランド,PB ブーム,家庭紙産業,生産余剰,負の循環
なぜメーカーは PB を受託するのか,なぜ流 通小売は PB を拡大するのか,という点である。
これらのうちメーカーが PB を受託する理由 は,従来から指摘されていた大手流通との取引 関係の維持の他に,生産稼働率の向上を目的と した余剰生産設備の穴埋めがある。一方,流通 小売は,顧客を囲い込むために他店との差別化 を図る目的から企業オリジナルのブランドを持 ちたいという理由が考えられる。
しかしながら前者の理由において,いまひと つ重要な論点を強調しなければならない。それ はメーカーの生産余剰から生じる PB 受託が,
結果的に自らのブランドエクイティを棄損して しまう危険性を孕んでいるという点である。こ のようなリスクがあるにも関わらず,メーカー は委託を引き受けるのであろうか。
【図 1】は,PB 受託の危険性を示したメー カーにおける「負の循環」である。余剰生産分 の穴埋めを起点とした PB 受託は,生産稼働率
の向上による 1 品当たりの固定費低減が得られ る。しかし,次第に流通からの低コストや更な る品質サポート要求にあって,NB との知覚品 質差が徐々に失われることとなり,自社のブラ ンドエクイティが失われて,全体の売上が減少 していく。これが負のスパイラルである。
この点は,Kumar & Steenkamp が『Private Label Strategy』において,生産稼働率の向 上を狙った PB 受託による経営の意思決定が,
メーカーにとって十分に留意しなければならな い理由として掲げた中心的な主張のひとつでも あった。しかし,わが国においても,現実には,
一部のトップメーカーを除けば,大手流通小売 との「取り組み強化」や「競合取引メーカーの 集約」の甘言を鵜呑みにし,取引関係維持の 観点から PB を受託してきたのである。それは 1960 年代から 70 年半ばにかけた高度成長期の スーパーマーケットの類型から推測される流通 小売の規模拡大およびメーカー・流通小売り間
図 1 メーカー PB 受託の「負の循環」
出所:Kumar Nirmalya & Jan-Benedict E. M Steenkamp (2007)『Private label strategy』p.140. を基に筆者作成。
NBメーカーの 余剰生産力
PBを受託し 供給を開始する
流通の影響力が 増大してくる
流通からの更なる品質と サポートを要求される NBとPBとの品質ギャップが
解消していく 消費者がNBへの プレミアム感が
低くなる やがてNBの売上が
減少していく
PBへの関心の薄い メーカー
一時的な脅威
品質のベン チマーク 脅威が解消
のパワーバランスの格差が生まれた結果である と言える。
これらの事実に対して,筆者は,メーカー側 における 2 つの課題を指摘しておきたい。1 つ 目は PB を受託する当該産業およびメーカーの 構造的問題,2 つ目は当該企業の戦略的意思決 定における経営体質上の課題である。
(2)視 角
本稿は,主に消費財メーカーの視角に立って 論じる。なぜなら,PB ブームにおける垂直的 な企業間関係を構成する源流はメーカーであ り,特に消費財は長年,卸や小売の系列化を通 じた販売,所謂「二重マージン」によって収益 性を維持してきたからである。しかし,垂直的 企業関係の川下に位置する小売業の組織化と寡 占化の進展によって,多くのメーカーが持続的 な収益を確保することは困難になりつつある。
流通小売がサプライチェーン上での上位に君臨 することは,今後も想定され,将来のメーカー における戦略を見通すうえで,この点に光を当 てるべきだと考えるからである。
先述の通り,PB の起点は流通小売から発せ られたものであるが,そもそもメーカーが PB を受託しない限り,PB の実現は遠いものと なってしまう。なぜメーカーが PB を受託する のかという点を明らかにし,本稿の目的である
「PB ブームにおけるメーカー戦略の方向性」を 論じたい。それには前述の 2 つの課題からメー カーの実像について可能な限り,論点を挙げる べきだろう。
流通小売とメーカーについて論点を整理する と,流通小売側は内外価格差等を背景に攻める 立場にあるため,その戦略展開は明確であり,
むしろ方法論が問題となる。一方,メーカー側 は守る立場から環境変化に立ち向かわなければ ならない面を持っており,NB 同士への対抗策 はもちろんのこと,PB 供給を行うか否かを含 めて事業戦略やブランド戦略を再検討しなけれ ばならない。また,メーカーはこれらの流通
小売と競合メーカー間の競争に曝される点で,
PB の今日的問題はメーカーの本質的課題であ ると言ってよい。
メーカーの PB に対する戦略研究として Cook
& Schutte(1967)がある。この研究は,PB シェアへの影響要因として,景気動向,過剰 生産設備,産業の上位集中度,NB / PB 価格 差,広告,商品ライフサイクルの 6 つを取り上 げるとともに,メーカーにおける戦略指針と して,3 つのブランド戦略を示している。それ は,①「製造業ブランド戦略」(Manufactures’
Brand Policy), ②「 流 通 業 ブ ラ ン ド 戦 略 」
(Distributer’s Brand Policy),③「混合ブラン ド戦略」(Mixed Brand Policy)である。
Cook らは,国内メーカーが PB 戦略の策定 において参考にすべき研究成果であるものの,
その論拠としては,海外の事例を基に説明され ていることが多く,必ずしも流通スキームが異 なる我が国の事情をカバーしているとは言えな い。本稿では,国内における特定した産業を取 り上げ,その実例を基に Cook らが示した PB シェアにおける影響要因を定性・定量の両面か ら検討するというアプローチを試みる。
(3)対 象
本稿では主にメーカーの視点に立って検討を 進めてゆくが,その際の検討対象として,ティ シュペーパーやトイレットペーパーを主に取り 扱う家庭紙産業に着目する。また,その中で も,コモディティ化が著しく進んでいるティ シュペーパーに焦点を当て触れていく。なぜな ら,当該マーケットは寡占市場であるにも関わ らず,トップメーカーを含めた上位メーカー各 社全てが PB を受託している点で,他産業と比 べて稀有な事例だからである。一般的に生産段 階の集中度の低い産業・カテゴリーほど,PB の市場シェアが大きい。このような産業は他に 類を見ないのである。その点で,経営戦略研究 は決して多くなく,研究の社会的意義も大きい と考えられる。
(4)家庭紙 PB 研究の視角
PB の受託要因を整理した大野(2010)によ れば,受託するプロセスは,2 つのルートで示 されている。それは,不況期における消費減退 と産業内のシェア競争激化によるものである。
ただ,前者の論理展開にはやや疑問を持たざる をえない。PB ブームが不況を背景に伸長して きたという説明に対しては納得できる部分があ るものの,逆に好況では PB が減少するという 論理に関しては,もう少し丁寧な議論が必要な のではなかろうか。少なくとも PB ブームが叫 ばれている国内の景況において,PB の伸長に 関係する論拠は未だ十分になされていない。こ の様に景気以外の要因も併せて見ていかなけれ ばならないのである。
もう 1 つの起点となっている家庭紙産業内に おける各メーカーのシェア争いは,PB 受託が シェアを上げるための戦術として選択されてき たことは一応の説明がつく。この背景にはティ シュペーパーのコモディティ化が挙げられるだ ろう。これまで家庭紙メーカーにおいてはシェ ア争奪の手段として熾烈な価格競争が繰り返さ れてきた。この競争によって,国内における ティシュペーパーの普及率は高まったものの,
当該商品の価格弾力性が高い商品にシフトする という傷跡が残った。消費者が品質やブランド よりも価格によって商品の購買をするようにな り,コモディディ化が促進されたと言えよう。
後述するが,当該商品の PB 受託に拍車をかけ る要因となってしまったのである。
(5)PB の定義
本稿で取り上げる PB とは,NB と対局した ものと位置付ける。すなわち,NB が全国的に 販売できる商品であるのに対して,PB の販売 が限定的或いは排他的である点を第一の基準と する。次に,流通小売が資本関係にないメー カーに PB を委託して製造しているか否かを第 二の判断基準としたい。よって NB に準じた特 定の流通小売において販売されるブランドを
SB(Store Brand)やエクスクルーシブ・ブラ ンドと呼ぶが,本稿では,これらのブランドも PB に含める。
2 ブームの到来
(1)なぜ PB が広がったか
流通小売の進展とともに PB が伸長したこと は,他著において多く論じられている。Hoch
(1993)によれば,その背景には景気動向が存 在しており,不況期に PB シェアが高まり,好 況期には低下するという見解が示されている。
日本国内においても,これまで大手流通企業の PB 開発が,国内の好景気に沸いている時期で はなく,景気後退が始まる不況期において実行 されてきたのは事実である。
もう 1 つの視点として,NB 商品の価格競争 の限界が挙げられる。特に,ティシュペーパー をはじめとする日用雑貨品など知名度の高い NB 商品は,ロスリーダー(目玉商品)として チラシ特売によって展開し,店舗への集客力を 高め,多品目購買を狙う戦略を採ってきた従前 の販促手法であった。しかし,競合流通小売の 相次ぐ出店により価格競争に陥り,消費者の参 照売価を下げ,更なる価格競争に至ったのであ る。ここに PB 開発が粗利率の確保,競争企業 間の差別化の観点から積極的に行われたことの 説明がつく。以下では,PB が広がった背景と して以下の 3 つに整理する。
① 景気低迷による消費者の受容性が拡大し やすい環境があったこと
② 各流通小売間の競争激化による差別化と 粗利率の確保
③ 商品を供給するメーカー側の操業安定性 とシェア維持拡大の思惑
上記の整理から明らかなように,PB ブーム が継続している背景には,景気変動以外の別の 要因が存在すると考えられる。
(2)PB に対する消費者の意識変化
本節では,消費者の意識の変化を中心に据え
て PB が継続的にブームとなっている要因を探 る。【図 2】と【図 3】が示すように,2013 年 に PB 商品を購入した経験者のうち,約 73%
が満足を感じていた。この調査結果は,PB に 対する知覚リスクが薄れ,価格と品質の連想効 果が打ち消され,NB との品質知覚差が解消し つつあることを示唆していると言えよう。以 上見てきたように,消費者の購買意欲の変化 によって PB は不況時の一時的なトレンドでは なく,継続的な現象になりつつある。つまり,
メーカーにとっては,流通小売が主導で開発 する PB という新たな競争相手が出現したこと を意味する。次章では,流通小売に目を向け,
PB 開発をめぐる動向について確認してみたい。
3 国内外流通の動向
(1) 国内における PB ブーム加速のもう 1 つ の側面
近年,日本の流通小売が相次いで PB 開発に 躍起になっている理由がある。それは慢性的 な低利益体質である。昨今の店舗面積の上昇 が,更なる低利益体質を生むことは予測できる が,伊藤(2005)は,流通小売り側の伝統的な 商品調達に対して指摘をしている。それは商談 によって商品原価を引き下げることはしても,
生産から販売に至るまでの全体コストをコント ロールする姿勢がなかった点であり,この経営 姿勢こそが低利益体質を招いてきた一因とも言
図 2 購入した PB 商品の満足度
出所:ネットリサーチ DIMESDRIVE(2013)。
とても満足 9.1%
まあまあ満足 64.2%
どちらとも言えない 23.5%
あまり満足していない 2.5%
図 3 PB 商品の購入理由(購入経験者)
出所:ネットリサーチ DIMESDRIVE(2013)。
8.9%
0.7%
2.0%
5.2%
6.6%
6.6%
8.2%
13.2%
13.4%
16.2%
17.8%
36.9%
77.5%
特に理由なし その他 欲しかった銘柄が品切れだったから 原材料・製法に拘っているから 使いやすいから 店頭で目立っているから 品質表示がしっかりしているから 大手スーパーの商品だから 商品が信頼できるから スーパーが責任を持って販売していそうだから おいしいから メーカーブランドの劣らない品質だから 価格が安いから
えよう。歴史的に見れば,高度成長期に大幅 にビジネスを拡大したスーパーマーケットは,
「売上が良ければ利益が付いてくる」2)という錯 覚を持ち,現在でも企業文化に根付いているこ とも付け加えておく。
【表 1】に示したのは,流通小売の PB 導入率,
導入理由である。まず,PB の導入率であるが,
80%以上の流通小売において展開されており,
国内ほとんどの店舗において PB が売られてい る。
ここで,着目したいのは,PB の導入理由 において最も多い回答が「価格競争力の強化」
(2013 年 83.6)となっている点である。この回 答者の立場が特定できなかったが,流通小売は 安価販売によって客数を増やすという意識が高 く,前述した「売上が良ければ…」の思想を依 然引きずっていることが見て取れる。
次に注目すべき点は,やはり粗利の確保であ ろう。前述したように,店舗面積拡大によって 固定費が増大している一方で,大幅な売り上げ 増が望めない以上,1 品あたりの粗利率を高め ることが株主はじめステークホルダーから求め られることは明らかである。国内における流通 小売の多くは,PB を安価で販売することで客 を引き寄せ,関連商品購買を狙い,トータルで 粗利を確保するといった発想に基づいている。
PB 導入の理由として,「差別化できる商品に よって企業価値が向上する」(2013 年 32.8)と いう回答も見受けられたが,現状の認識におい ては前者の方が大勢を占めていると言えよう。
(2) 海外流通小売(グローバルリテイラー)
の PB 導入事例
PB を語るうえで,欧米の歴史的動向を無視 するわけにはいかない。特に,グローバルリテ イラーの動きは国内における流通小売のベンチ マークとなっている事実があるからである。
現在,グローバルリテイラーと称される Wal-Mart,Tesco,Metro,Kroger は, 競 合 企業との差別化を図るために,積極的に PB を開発し売場に導入している。例えば,Wal- Mart ではサブ・カテゴリーの品揃えを PB メ インにして,NB は上位 3 位までしか扱わない と明言している。また,ドイツ最大の食品流通 小売業である Aldi は,売上の 95%が PB であ る。PB シェアの高い流通小売業は,PB のブ ランド・ポートフォリオを構築し,スタンダー ド PB,プレミアム PB,低価格 PB を品揃え し,PB シェアを高めている。最近では,ディ スカウンターに対応するためにさらに低価格 の PB が導入されている。英国に本拠を持つ Tesco などはプレミアム PB より価格が高いベ ンチャーブランドの PB も導入している。
流通小売業各社がメーカーの存在や商品製造 のノウハウを知ると,中間流通をスキップし直 接メーカーに発注する取引形態となり,PB 化 がいよいよ加速するに至る。欧米における再販 業者の垂直統合の歴史は古い。またその拡大 化・寡占化の規模も日本とは比較にならないほ ど巨大である。自社のサプライチェーンマネジ メントを確立し,ブランド展開をするには相当 数のロットが必要になり,また大量の商品を売 り切る流通小売業の販売力が前提となる。この 表 1 PB 商品についてのアンケート
出所:「平成 25 年スーパーマーケット年次統計調査」を基に筆者作成。
◆ PB の導入率
取り扱っている 取り扱う予定 取り扱っていない n
2010 年 82.2 13.8 2.4 253
2011 年 88.9 0.8 10.3 252
2012 年 83.5 2.2 14.2 267
2013 年 83.3 2.3 14.4 222
◆ PB の導入理由(MA)
価格競争力
の強化 粗利益の
確保 商品品質
向上 企業価値
向上 省エネ環境
配慮 n
2012 年 77.0 81.5 37.8 35.6 3.2 222
2013 年 83.6 83.1 37.2 32.8 7.7 183
差異 6.6 1.6 -0.6 -2.8 4.5
ように規模が大きくて完全な市場支配力のある 流通小売業が,買い取りと販売の責任を持って 製造販売するのが欧米で展開されている現在の PB の姿である。
(3)米国における消費者の PB に対する知覚 Kumar & Steenkamp が 2007 年に発表した
『Private Label Strategy』では,消費者同盟が 実施した米国のティシュペーパーに関する調査 結果が示されていた。その結果が【表 2】であ る。同図から明らかなように,P&G 社の Puffs
($1)には明確な品質知覚が認められたものの,
多くの PB は NB と品質知覚上,遜色のない ことが判明した。特に,Kimberley Clark 社の Kleenex($1)よりも高評価の PB が出現した ことは注目すべき事実である。
ここで Kumar らが主張したいポイントは,
米国の消費者の知覚レベルにおいて,ティシュ ペーパーの NB と PB の品質差が減少している という点であり,彼らは,メーカーの存在が 危うくなっていることに警鐘を鳴らしている。
【表 2】は,NB に PB よりも明確に優れた知覚 品質が備わっていなければ,コストパフォーマ ンスに優れた PB が選定され,いずれ NB が買 われなくなることを示唆している。
このように,米国の消費者がティシュペー パーに対する知覚は,もはや NB と PB の境界 線を無くしていると言っても過言ではない。
(4)今後,国内 PB の発展をどのように見るか わが国の PB 市場は,現在 2 兆 8,400 億円程 度である。全体に占める比率にして約 7%と なっており,欧米のそれが約 20 〜 26%を占め るのに比べると相対的に低い。しかし,先述の 通り,流通小売企業間の競争激化やプレミアム PB の台頭など,流通小売が NB より上回る品 質と価格を実現する商品開発が進んでゆけば,
今後 PB シェアは高まると予想される。国内で は,PB の売り上げベスト 4 は「トップバリュ」,
「セブンプレミアム」,「コープ」,「CGC」であ り,PB 全体の約 75%のシェアを占める。こ れらの PB は,品目数の増加や品質向上,マス 広告による PB イメージの向上等の企業努力に よって今後とも増加すると予想される。
それでは,国内における流通小売業の PB 展 開は現在いかなる段階にあり,PB シェアは今 後どのように推移するのであろうか。これま では NB の模倣による低価格志向を目指してお り,品質よりも店頭売価をかなり意識したコス ト設計であった。しかし, セブンプレミアム シリーズ や トップバリュセレクト に代表 されるように近年,プレミアム PB を志向して いる動きとなっており,国内流通の PB 展開段 階は,従前の価格競争から次にステージに移行 しつつある。
将来的に予測されることとして,各流通小売 においてプレミアム PB の出現が今よりも多く
表 2 米国におけるティシュペーパーの品質に関する消費者調査
Category Excellent Very good Good Fair or poor
Facial tissues($/100 tissues) *Puffs ($1) Safeway Select ($0.80) *Kleenex ($1) Publix ($0.70)
Stop & Shop ($0.60) Albertsons ($0.80)
American’s Choice ($0.70)
Kirkland Signature (Costco) ($1.10)
Great Value (Wal-Mart) ($0.60)
Kroger ($0.60)
Trader Joe’s ($0.60)
Winn-Dixie ($0.80)
※ NB
出所:Derived from Battle of the Brands Consumer Reports, August 2005, 12-15 一部抜粋。
なるとともに,安価な PB も同時に展開し,二 極化が図られていくのではないだろうか。欧米 の動向から分かるように,流通小売において は,ディスカウンターや CVS など今後様々な 業態間との競争において対応する必要があるた め,PB においても価格バリエーションを持つ 必要がある。そのような状況下で,メーカーの プレゼンスを発揮していくためには,本来強み とされる商品開発力と消費者の動向を察知する マーケティング力がより問われていくだろう。
4 家庭紙メーカーの現状
(1)家庭紙産業の事情背景
本章以降は,メーカー側に視点を移して,
PB をめぐる現状や戦略について論じていきた い。その際,メーカーが PB を受託する理由や その戦略性をより具体的に明らかにする目的 で,家庭紙メーカーに着目した議論を進める。
当該産業の特徴を【図 4】に示しておきたい。
同図は,国内のティシュペーパー市場の規模 と 2002 年を基準とした NB と PB それぞれの 伸長率推移を表したものである。当該市場規模 は,2003 年の 1,028 億円をピークに年々減り続
け,2014 年には 859 億円となり,2003 年に急 伸する前年の 2002 年と比べても約 5%減少し た。この背景には,国内の人口減による需要減 やティシュペーパー 1 カートン当たりの枚数減 の仕様変更による単価下落も存在するものの,
NB より 2 割程度安い PB の伸長による要因が 大きいと言わざるを得ない。
また更に事実を付け加えるとするならば,
2011 年から 2014 年の 3 ヶ年に渡るマクロミル 社 QPRⓇ調査3)において,ティシュペーパーの PB 銘 柄 数 は 2011 年 95sku,2012 年 103sku,
2014 年 104sku と 108%増加している。この事 実に加え,PB 売上伸長率が勝っているという ことは,市場において,NB の存在感が希薄に なっていることを証明しているのである。
家庭紙トップメーカー各社が,NB/PB を区 別せず,積極的に PB を受託した結果であると 言えよう。序章で触れた家庭紙メーカーにおけ る構造的問題と戦略的意思決定に影響を及ぼす 経営体質がこのような事実に帰着したことは明 らかである。
図 4 ティシュペーパーの市場規模と NB/PB 伸長率(2002 年比)
出所:インテージ社データを基に筆者作成。
111% 105%
97% 95% 92% 90% 88% 88% 91% 87%
141%
109%
132%
179%
136%122% 136% 131%
168% 172%
101%96%
83% 75%
0 200 400 600 800 1,000 1,200
2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
10%
30%
50%
70%
90%
110%
130%
150%
170%
190%
市場規模(億円)
NB伸長率 PB伸長率
(2) 家庭紙産業の生産余剰による PB 受託の 観点
これまでの先行研究では,メーカーが PB 受 託の理由の一因として生産余剰の PB による穴 埋めが指摘されていた。この点に関しては,家 庭紙産業が比較的生産部門のプレゼンスが高い 企業文化の産業特性を踏まえると,当てはまる ものと考えられる。日本国内の上位家庭紙メー カーが PB 供給を行ってきた要因に関する検証 は,次章においてデータを用いて行うが,メー カーにとって生産余剰部分を PB で補うことが 果たして最善の策であるかについては疑問が 残る。PB 拡大による NB への影響,そして,
Kumar(1997)らが「負の循環」のなかで指 摘した,顧客の消費意欲の低下に繋がるという 懸念について,各家庭紙メーカーが戦略上どこ まで考慮に入れているかは不明である。もしも 仮に,生産余剰の穴埋めのみを重要視して PB を受託してきたならば,それは非常に危険な経 営判断である。【図 4】で確認した NB/PB 伸長 率が顕著に示しているように,市場が縮小傾向 にある中で PB の構成比が年々高まることは,
NB の存在感が薄れつつあるからである。
もう少し,生産設備の稼働率と PB 受託の 関係について考えてみよう。稼働率の低下し たメーカーは,ラインの稼働率を安定させるた めに遊休設備を利用して自社以外の商品である PB の生産を行い,商品当たりの固定費の低下を 図る。言い換えれば,経営状況,特に売上の悪 化したメーカーが製造ラインの稼働率安定化を 目的に,PB 受託に踏み切るということである。
以上が一般的な理解であるが,次章ではデー タを用いて実証分析を行い,PB を受託する メーカーのメカニズムについての議論を行う。
5 家庭紙メーカーの PB 受託メカニズム の解明
(1)家庭紙産業における実証
前 章 で 確 認 し た よ う に,Cook & Schutte
(1967)の研究では,PB に関連してメーカー
側が採用するブランド戦略として 3 つの戦略が 類型化されている。そして,Cook らは,3 つ のうちいずれの戦略が採用されるかという選定 段階には 6 つの要因が影響すると主張してお り,それが,景気動向,過剰生産設備,産業の 上位集中度,NB/PB 価格差,広告,商品ライ フサイクルであることは既に述べた。
本章では,Cook らの研究を参考にして,家 庭紙メーカーが PB を受託する理由について,
データを用いて実証する。その際,見過ごして はいけないのは,ティシュペーパー市場のシェ アの大半を占めるわが国の各上位メーカーは,
既に PB を受託している点である。したがって,
本章で検証を行うのは,どの因子が PB 受託に 影響を与えているのかという点では変わりがな いが,NB メーカーが PB を「当初受託した」
理由ではなく,NB メーカーが PB を「現在も 受託し続けている」理由となる。このことは,
PB 受託による経営への影響を考察し,今後の 方向性を示すという本稿の主旨に合致するもの と考えられる。
なお,本章の検証に当たっては,Cook らの 用いた 6 つの変数を,検証する意義と日本の家 庭紙産業の特性をふまえてアレンジした。例え ば,家庭紙産業においては,商品のライフサイ クル因子についてメーカー間の定量的な数値を つけることが困難である。また広告費も同様で あり,ティシュペーパーの場合は,現在,メー カー各社において集中的且つ大規模な広告投入 はほとんどない。今回,新たに加えたのは,商 品の価格弾力性,カテゴリー内の店舗取扱比 率,在庫回転率である。価格弾力性については,
既に 10 年以上前から PB を受託している家庭 紙産業においては,消費者の品質・価格に対す る知覚が変わっている可能性があるため付加し た。店舗取扱率については,先述のようにわが 国でティッシュペーパー等の日用品の主要な販 路となっているスーパーマーケット,ドラッグ ストア,コンビニエンスストアの力は強まって おり,メーカーは店舗の棚に並べてもらうこと
を第一の目標に置いて日々活動しているためで ある。そして,在庫回転率についても,先述の 通り,PB は流通小売による全量買取りが前提 となっており在庫回転率を上昇させるためメー カーが受託している可能性があり,変数として 妥当だと判断した。
本章における実証分析は,多変量解析の一手 法である二項ロジスティック回帰分析を用い る。この分析手法を用いた理由は,PB 受託/
非受託という名義尺度が家庭紙メーカーを取り 巻く要因(独立変数)との因果関係を明らかに するためである。PB 受託/非受託を目的変数 とし,以下に説明する 6 つの独立変数を用いて 強制投入法と変数増加法ステップワイズ(条件 付き)による 2 段階の分析を行う。また分析の 前処理として,独立変数間に相関がある場合,
互いに影響し信頼性のある結果とならない可能 性がある多重共線性を回避するため相関分析も 行った。この処理によって相関の高い独立変数 の一方を採用し,適合モデルの構築が可能とな る。
本分析手法で家庭紙メーカーにおける PB 受 託のメカニズム解明のために,その動機を探 る。これまでの先行研究で言われてきた生産余 剰による PB 受託が起点であるのか,それとも 別の理由から受託しているのかを統計分析手法 を用いて要因を探索しようというわけである。
本調査では,分析に用いた統計ソフトは IBM 社 SPSS Statistics ver.22 と し た。6 つ の 独立変数及び 1 つの従属変数の内容については 以下の通りである。
Ⅰ.生産余剰指数
家庭紙工業会の統計データを参照。2007 年 以降の各メーカーの最大月間生産数を 100 とし たときの 2012 年,2013 年,2014 年それぞれの 平均月間生産数量を除算したもの。
Ⅱ.当該商品の価格弾力値
2014 年 9 月〜 2015 年 8 月の週別市場パネル データ(04SRI-W インテージ社)を参照。当 該商品とは,ボックスティシュペーパー 5 個
パックとした。ただし,ボックス内の枚数につ いては各社で異なっているが,大手 4 社におい てはほぼ同様の仕様であることから,当該商品 群を選択した。
Ⅲ.当該商品の上位集中度
2014 年度(1 〜 12 月)の市場パネルデータ
(04SRI-M インテージ社)を参照。ボックス ティシュペーパー 5 個パック市場におけるメー カー別の金額シェア。
Ⅳ.NB と PB の価格差
2014 年 9 月〜 2015 年 8 月(52W)の週別市 場パネルデータ(04SRI-W インテージ社)の 市場パネルデータを用いて,期間内且つ当該商 品群のメーカー毎の総平均価格と PB の総平均 価格の差分を示した。
Ⅴ.カテゴリー内の店舗取扱い率
Ⅳに同じく,市場パネルデータを使用。当該 カテゴリーを品揃えしている店舗の割合。例え ば,当該商品群を 1 つでも品揃えしていれば対 象店舗となり,そのうちどの銘柄を採用してい るかの割合となる。
Ⅵ.在庫回転率
日本家庭紙工業会の統計データを用いて,年 度内における各月の平均在庫量と平均生産量
(t ベース)を除算し算出した。Ⅰ.生産余剰 指数との相関が高い可能性は無視できないが,
メーカーが PB を受託する理由として安定した 出荷量を見込む観点として在庫回転率の向上が 期待できることから,説明変数に加えた。
Ⅶ.PB 受託/非受託
最後に,従属変数については,PB 非受託=
0,受託= 1 とした。メーカー内の PB 構成比 率を採用しなかった理由は,ある時点で大手流 通の PB を受託した(或いは他メーカー移管し た)際に,データ間の大きな乖離が生じて各因 子との連関が掴みにくいこと,また【図 5】に 示したような著しい PB の伸長率のなかで,各 メーカーが戦略的に NB との構成比をコント ロールしているようには見受けられず,意思決 定上においては PB を受託するか否かの 2 点に
絞り込まれていることが予測されるためであ る。
分析項目のうち,6 つの説明変数項目につい ては計量尺度のデータで量的変数である一方,
従属変数である受託可否は名義尺度のデータで あり,二値の質的変数であるため,二項ロジス ティック回帰分析におけるモデル適合を図るた め,まず初めに Pearson の積率相関分析を行っ た。【表 3】から分かるように,Ⅲ.当該商品 の上位集中度とⅤ.当該カテゴリー内の店舗取 扱い率の強い相関(r = 0.958,p > 0.01)がみ られた。この状態のまま二項ロジスティック回 帰分析を行った場合,明らかに多重共線性によ るモデル適合が期待できないため,いずれかの 説明変数を削除しなければならない。
前述の通り家庭紙産業におけるティシュペー パー市場は寡占上位メーカー 4 社全てが PB を 受託していることは明らかにされている。
よって,ここではⅢ.当該商品の上位集中度
を分析から削除することとした。次に,当該商 品の上位集中度を除く 5 つの説明変数を用いた 強制投入法による二項ロジスティック回帰分析 を行った(【表 4】)。
上記のオムニバス検定における有意確率が
(p = 0.000)であることから有意差が認められ る。即ち,「これらの因子が PB 受託に影響し ない」という帰無仮説を棄却するものである。
また,モデルの一般的な適合度を示す統計量と して Cox & Snell および Nagelkerk R2 値から 本モデルは適合していると言える。ここで,方 程式中の変数にある生産余剰指数の B 値,有 意確率および Exp(B)について着目してほし い。この値については PB 受託/非受託の影響 が大きいと言えない。
前述したように,先行研究では,メーカーが PB を受託するひとつの要因として生産余剰が 挙げられていた。しかし,家庭紙産業とりわけ ティシュペーパー市場においては,その影響が
表 3 Pearson の積率相関分析結果 相 関
生産余剰指数 当該商品の価格弾力値 当該市場の
上位集中度 NB と PB の
価格差 当該カテゴリー内
の店舗取扱い率 在庫回転率
生産余剰指数
Pearson の相関係数 1 -.139 -.123 -.481** -.321 .560**
有意確率 (両側) .455 .508 .006 .078 .001
N 31 31 31 31 31 31
当該商品の価格弾力値
Pearson の相関係数 -.139 1 -.263 .140 -.159 -.038
有意確率 (両側) .455 .153 .454 .393 .839
N 31 31 31 31 31 31
当該市場の上位集中度
Pearson の相関係数 -.123 -.263 1 .118 .958** .042
有意確率 (両側) .508 .153 .526 .000 .824
N 31 31 31 31 31 31
NBとPB の価格差
Pearson の相関係数 -.481** .140 .118 1 .173 -.029
有意確率 (両側) .006 .454 .526 .351 .877
N 31 31 31 31 31 31
当該カテゴリー内の 店舗取扱い率
Pearson の相関係数 -.321 -.159 .958** .173 1 -.184
有意確率 (両側) .078 .393 .000 .351 .322
N 31 31 31 31 31 31
在庫回転率
Pearson の相関係数 .560** -.038 .042 -.029 -.184 1
有意確率 (両側) .001 .839 .824 .877 .322
N 31 31 31 31 31 31
**. 相関係数は 1%水準で有意(両側)
見られないという結果が出された。それでは,
生産余剰を除いた説明変数のうち,どれが影響 しているのか,再び分析を行ってみたい。次は モデルの適合度を優先し,影響のない説明変数 を除外する変数増加法ステップワイズ(条件付 き)を採用する。【表 5】の結果から,家庭紙 メーカーが PB 受託し続ける要因として,当該 商品の価格弾力値と当該カテゴリー内の店舗取 扱い率の 2 つの因子が影響として強いことが読 み取れる。Kumar(2007)が示した「負の循 環」では,メーカーの生産余剰が起点となって おり,すなわち,それが PB を受託する理由と
して挙げられていた。この点を統計的手法で検 討することは不可能である。しかし仮に PB 受 託を開始したきっかけが生産設備の余剰にあっ たとしても,国内の家庭紙メーカーが現時点で PB を「受託し続けている」理由は,価格弾力 値と当該カテゴリー内の店舗取扱い率にあるこ とが明らかとなったと言えよう。
以上,本実証分析から導き出された含意は,
大きく 2 つに要約できる。1 つ目は当該商品す なわちティシュペーパーの価格弾力性それはコ モディティ化を表し,NB と PB の知覚品質の 差がなくなってきていることである。もちろ 表 4 二項ロジスティック回帰分析(強制投入法)の結果
モデル係数のオムニバス検定
カイ 2 乗 自由度 有意確率
ステップ 29.550 5 .000
ステップ 1 ブロック 29.550 5 .000
モデル 29.550 5 .000
モデルの要約
ステップ -2 対数尤度 Cox-Snell R2 乗 Nagelkerke R2 乗
1 13.392a .615 .820
方程式中の変数
B 標準誤差 Wald 自由度 有意確率 Exp(B)
ステップ 1a 生産余剰指数 -8.827 19.846 .198 1 .656 .000
当該商品の価格弾力値 -.887 .450 3.880 1 .049 .412
NB と PB の価格差 -.056 .067 .681 1 .409 .946
当該カテゴリー内の店舗取扱い率 .148 .056 6.838 1 .009 1.159
在庫回転率 .134 .122 1.198 1 .274 1.143
定数 -1.065 16.584 .004 1 .949 .345
a.ステップ 1: 投入された変数 生産余剰指数,当該商品の価格弾力値,NB と PB の価格差,当該カテゴリー 内の店舗取扱い率,在庫回転率
表 5 二項ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)の結果 モデルの要約
ステップ -2 対数尤度 Cox-Snell R2 乗 Nagelkerke R2 乗
1 23.630a .464 .618
2 15.786b .584 .778
方程式中の変数
B 標準誤差 Wald 自由度 有意確率 Exp(B)
ステップ 1a 当該カテゴリー内の店舗取扱い率 .117 .042 7.888 1 .005 1.125
定数 -2.126 .769 7.639 1 .006 .119
ステップ 2b
当該商品の価格弾力値 -.725 .317 5.214 1 .022 .484
当該カテゴリー内の店舗取扱い率 .150 .063 5.674 1 .017 1.162
定数 -5.869 2.082 7.950 1 .005 .003
a.ステップ 1:投入された変数 当該カテゴリー内の店舗取扱い率 b.ステップ 2:投入された変数 当該商品の価格弾力値
ん,知覚品質には単に商品の機能や性能だけで なく,信頼性やサービス,雰囲気などの価値も 含まれるわけだが,知覚品質を担保する「ブ ランド」の要素が NB において機能しなくなっ てきたことを意味している。つまり,① NB と PB の品質差を消費者が知覚できていないこと を示していると同時に,②ブランド力の強い NB を展開していた上位メーカーが PB に参入 したことで NB のブランド力を下げたことを意 味している。この点では Kumar(2007)の「負 の循環」後半部分とも合致し,NB を持つ家庭 紙メーカーにおいて,深刻な問題と言ってよい であろう。
2 つ目は当該カテゴリー内の店舗取扱い率で あるが,これまで各メーカーは流通小売に対 して,PB を受託することにより同時に自社の NB も取り扱ってもらうことを期待していた。
この点は,Kumar も述べているように,PB を 受託したからといって,NB のマーチャンダイ ジングのサポートを優先的に得られる保証はな いのだ。この妄想からメーカーはそろそろ目覚 めるべきである。更に言うならば,1 つ目の事 実を踏まえると NB のブランド力低下と PB の プレゼンスの向上は,いずれ NB の消滅を示唆 することに着目しなければならない。一時的な 売上やシェアを得るための PB 受託は,中長期 的に見ると家庭紙メーカーにおいては自らの首 を絞めることになりかねないのである。
第 1 章で示した Kumar の「負の循環」にも あった通り,現在,家庭紙産業(ティシュペー パー)においては,第五局面迎えている。即ち NB と PB との知覚品質ギャップが解消し,NB のプレミアム感が低下している段階に来ている と言って良いだろう。この状況を踏まえれば,
家庭紙メーカーが今後「負の循環」のスパイラ ルに陥った場合には,NB の生産・販売量が減 少し,いよいよ工場の生産余剰が到来すること を覚悟しなければならない。今回の分析を通じ て,当該産業およびメーカーの構造的問題が大 きく浮かび上がったことを指摘しておく。
(2) なぜ家庭紙メーカー各社は PB を受託し 続けるのか
前節の分析を通じて,家庭紙メーカーが PB を「受託し続ける」要因は,メーカー間のシェ ア争いや,当該商品の価格弾力性にあることが 明らかになった。家庭紙メーカーが PB を受託 し続けている現段階では,著しい PB ティシュ ペーパーの伸長を背景に,消費者の NB と PB の知覚品質差が肉薄し,NB のブランド力が低 下しており,PB から撤退できない事態にまで 及んでいると言えよう。つまり,家庭紙各メー カーは,「受託し続けている」というより,「受 託し続けざるを得ない」という方が適切ではな いかと考察する。
これらの点は,家庭紙産業が生産・販売量を 追い求めるプロダクトアウト志向であることを 浮かび上がらせる。PB 生産に専心して売上高 が伸びていけば,当然の帰結としてメーカーの レゾン・デートル4)ともいえる NB の売上高 が減少することは誰の目にも明らかであるが,
そこを推しても実践してきたのである。冒頭に 示したように,家庭紙メーカーが抱える 2 つの 課題である構造的問題と戦略的意思決定におけ る経営体質の問題が大きく影響しているのであ る。
改めて整理すると,今日,家庭紙メーカーが あえて PB 作りに励む理由には主に次のような ものが挙げられる。まず,PB は基本的に流通 小売からの「特注品」であるため,原則的に返 品がない。合意した注文数だけ,確実に出荷 が可能となる。現在のようにモノが売れない 時代に「完全買取り」は生産計画を立てやす く,メーカーにとって非常に魅力的な取引であ ることは間違いない。また PB の場合には,プ ロモーションコストがほとんどかからなくて済 む。NB を売ろうとする際には TVCM をはじ めとするマス広告を露出する必要があり,制作 に関する金銭的或いは時間のコストなど多く発 生する。
これらを踏まえ PB 受託メリットについて以
下に列挙する。
A)安定した販売先の確保
B) 自社 NB 以外の商品を作ることによる販 売シェアの増大
C)広告宣伝費減額への期待
一方,デメリットとしては,A)は PB が実 績として定着していくと,NB と同様,PB も 経営計画に組み込まれていき,当該 PB が自社 にとって不可欠なアイテムへと変貌する。つま り小売流通から PB の更なるコスト要求があっ た際には,断りにくい環境に迫られるというこ とである。B)は,NB 商品とのカニバリゼー ションの懸念が挙げられる。小売流通からの PB に対する品質要求が厳しくなり,NB との 品質格差が減少して,NB の存在を侵食してい く可能性がある。C)に関しては,メーカーは これまで多額の広告宣伝費をかけ,様々なチャ ネル販路や多くのユーザーを獲得してきた。こ のことは商品ブランドのみならず企業イメージ も合わせて築いてきた点を見過ごしてはいけな い。B)の要因も加わり,企業ブランド構築の ための投資が,PB 供給先の流通小売の企業イ メージ拡大へと転化されていくのである。
以上のように,メーカー・流通小売それぞれ の立場からのメリット・デメリットを総括して 考えると,カテゴリー内で一定の地位を確保 しているメーカーにとっては,長期的に見て,
PB を受託する魅力は少ないと考えられる。
それでは,なぜ家庭紙産業の各メーカーは PB を受託するのか。
その示唆は,Cook & Schutte(1967)より 与えられている。同氏らは,メーカー戦略の 1 つとして流通業ブランド戦略(Distributers Brand Policy)を展開するメーカーの特徴とし て次の点を指摘する。「競争者との関係で,低 下する市場地位を強化しなければならない決定 的な時期に経営的能力を欠くところがあったた め,自社ブランドによる展開を放棄し,主要な マーケティング機能を流通業に委ねなければな らなくなった」。このタイプの企業の特徴とし
て,研究開発能力が限定されている点も指摘し ているが,最も真意を衝いている指摘はマーケ ティング計画,リサーチ能力が比較的限定され ているという点であろう。
6 総括とインプリケーション
(1)総 括
本稿では,近年,国内流通小売が主導する PB ブームの一端を担っているメーカーに光を 当て,家庭紙産業を事例として取り上げ,PB 戦略の方向性を解明することを目的に,分析を 進めてきた。
本稿の検討を通じて得られた結論のポイント は,次の通りである。
これまでのメーカーと流通小売の関係性は,
製造と小売販売というそれぞれの役割を担って いた。しかし,PB ブームが巻き起こっている 現在においては,メーカーの競合相手は,も はやメーカーのみならず取引先である流通小 売にまで及んでいる。そして,PB がその構造 変化に拍車をかけていることに,いち早く家 庭紙メーカーは,気が付かなければいけない だろう。本稿での実証結果からも明らかな通 り,メーカーが PB を受託し続けるメカニズム については,当該商品の価格弾力値と当該カテ ゴリー内の店舗取扱い率の 2 つの因子が強く影 響している。家庭紙メーカーは,従前のシェア 争いの戦術であった PB を戦略的にコントロー ルし,市場形成していかなければ,やがて流通 小売にイニシアティブを奪われていくことを念 頭に置く必要がある。特にコモディティ化が進 み,消費者の知覚レベルで NB と PB の差が無 くなっているティシュペーパーにおいては,現 状から脱却する方向に舵を取らなければ,メー カーの存在意義を失ってしまうことが本研究か ら明らかになったのである。
以上が本稿から得られた結論であるが,PB 受託をめぐるメーカーの戦略上の意思決定は,
取引先である流通小売の動向を踏まえたもので あったことは言うまでもない。