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Aging&Health No.84 light

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(2)

第4回

スキヤキにみる日本人の長寿法

食文化史研究家

綜合長寿食研究所所長

永山久夫

連 載

寿

  ﹁

﹂に

寿

C

  ﹁

寿

寿

寿

寿

  ﹁

、肉

調

、﹁

(3)

最新研究情報

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

27

巻頭言

よりよい生活習慣の実践で健康寿命の延伸を ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

4

東京都健康長寿医療センター理事長 井藤英喜

対談 シリーズ第21回 生き生きとした心豊かな長寿社会の構築をめざして

将来、ロボットと人間が共存する社会に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

22

株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長         東京大学先端科学技術研究センター特任准教授 高橋智隆

公益財団法人長寿科学振興財団理事長 祖父江逸郎

<表紙> プロパイロット

髙橋 淳さん

(撮影/丹羽 諭)

長寿たすけ愛講演会2017 in 豊田/大和郡山/香川 ・・・・・・・・・

28

ル ポ

地域の鼓動

幸福度日本一をめざすキラリと輝く“新しき村” ・・・・・・・・・・

36

宮崎県児湯郡西米良村

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

42

特 集

健康長寿新ガイドライン

─健康長寿のための12 か条

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

6

東京都健康長寿医療センター研究所副所長 新開省二

健康長寿のための食事と栄養

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

10

東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム研究員 横山友里

高齢者の健康と運動

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

13

国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究部部長 島田裕之

高齢者の社会参加と健康

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

16

東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム研究部長 藤原佳典

高齢期の生活機能の維持

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

19

桜美林大学老年学総合研究所所長        

国立長寿医療研究センター理事長特任補佐 鈴木隆雄

健康長寿の秘訣

健康長寿の秘訣

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

5

エッセイ

100歳を元気に迎える長寿科学

第4回 裸足で若返り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

40

白澤抗加齢医学研究所所長 白澤卓二

エッセイ

日本人の長寿食

第 4 回 スキヤキにみる日本人の長寿法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2

食文化史研究家・綜合長寿食研究所所長 永山久夫

インタビュー

いつも元気、いまも現役

80を出して 20を残す

(4)

巻 頭 言

 厚生労働省が2017年7月に公表した2016年の「簡易生命表の概況」に よると、日本人の平均寿命は男性が80.98歳、女性が87.14歳と過去最高 となった。男性の平均寿命が初めて80歳を超えたのは2013年であるが、 以来4年連続して男女ともに平均寿命が80歳以上となり、わが国はまさ しく超高齢社会に突入している。

 健康寿命とは、WHOが2000年に提唱した概念で、「健康上の問題で 日常生活が制限されることなく生活できる期間」をいう。WHOが2016 年に公表した2015年の日本人の健康寿命は74.9歳で世界一であり、大変 喜ばしい。しかし、厚生労働省の発表によると、2001年から2010年に かけて、わが国は男女ともに健康寿命も平均寿命も徐々に延びてはい るが、残念ながら健康寿命の延びは平均寿命の延びほどではない。  このことは、高齢者の要介護期間が延びていることを意味する。要 介護期間が延びることは介護費用の増加と同時に、要介護高齢者の多 くは医療上の問題も持っていることから、医療費用の増加ももたらし ている。さらに、要介護状態が長くなることは、高齢者自身も、家族 も、誰も望まない状況であり、高齢者のQOLの大きな低下要因につな がる。

 このような状況に対処する目的で、健康寿命を延ばす方策について の研究が盛んに行われるようになり、本特集でも最新の成果がくわし く述べられている。その研究結果を大きくまとめると、健康寿命を延 伸するためには、しっかり栄養を摂り、適切に身体を動かし、孤立せ ず、社会とつながりを持ち、生きがいのある生活を送ることが重要だ と考えられる。

 これらの成果をふまえて、自治体や地域の中でさまざまな健康寿命 延伸策が講じられている。顕著な効果を上げている例をみると、①健 康寿命延伸策に関する広報を徹底して行っている、②栄養・身体活動・ 社会参加などの健康寿命延伸策を実施するための組織づくり、指導者 養成、仲間づくりを上手く行っている、③健康寿命延伸策を実施する ためのさまざまな場を工夫してつくっている――などの共通点がある。  さらに注目すべきは、生活習慣病が健康寿命に大きく関わり、要介 護の大きなリスクとなることが明らかになってきていることである。 健康寿命延伸のために生活習慣病をどのように管理すべきかについて はまだ結論が出ているわけではないが、高齢者における生活習慣病の 管理は、若年者より少し緩めで無理のない管理であるほうがよりよい 結果をもたらすという情報が多い。

 適切な栄養摂取、身体活動、社会参加によりQOLの高い生活を送る ことは生活習慣病管理の基本でもある。よりよい生活習慣の実践が生 活習慣病を改善させるとともに、健康寿命の延伸につながると考えら れる。

 これら最近の知見を活かし、多くの高齢者が住み慣れた地域でより 長生きし、そして長生きできたことをこころから楽しめるという質の 高い超高齢社会を構築したいものである。

よりよい生活習慣の実践で

健康寿命の延伸を

井藤英喜 いとうひでき

1944年生まれ

1970年 京都大学医学部卒業 1972年  東京都健康長寿医療セ

ンター(旧称:東京都 養育院付属病院、東京 都老人医療センター) 内科

1981年 同内分泌科医長 1992年 同内分泌科部長 1999年  東京都保健医療公社

多摩北部医療セン ター副院長 2002年 同院長

2006年  東京都健康長寿医療セ ンターセンター長 2015年より現職

専門分野: 老年内科、糖尿病、脂 質異常症

     医学博士

東京都健康長寿医療センター 理事長

(5)

健康長寿の秘訣

 今号特集では、東京都健康長寿医療センターが 2017 年に発表した「健康長

寿新ガイドライン」の「健康長寿のための 12 か条」を紹介するとともに、“健

康長寿の秘訣”を各先生方にご執筆いただいた。

(6)

健康長寿の秘訣

特 集

なぜ「新」ガイドラインなのか

 東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療セン ター研究所)では、1990年に東京都小金井市で、1991年に 秋田県内外村で、それぞれ65歳以上の地域高齢者を対象に 前向き研究を開始し、2001年までの10年間、死亡やADL (Activities of daily living;日常生活動作能力)障害の発生

を追跡し、健康長寿の要因を調べた。

 その成果は、長期プロジェクト研究報告書「中年からの 老化予防総合的長期追跡研究」(略称TMIG-LISA)として まとめられ、Geriatrics Gerontology Internationalの第3巻 Supplementに関連する12個の学術論文が掲載された。ま た、報告書の内容を平易にまとめ、小冊子『サクセスフル エイジングをめざして』を発刊するとともに、健康長寿を 達成するための「元気で長生きする十か条」を策定した。こ れらがわが国における元祖、健康長寿ガイドラインである。  以来15年以上が経過した。この間の国内外における健康 長寿の研究の進展はめざましいものがある。例えば、 PubMedで健康長寿に相当する“healthy aging”をキーワー ドにして検索すると、2000年以降、健康長寿に関する研究 報告は飛躍的に増えてきている。また、扱われる領域も広 がり、分析の深化がみられるなど、健康長寿に関する研究 は、質・量ともに充実してきている。

 わが国においても、近年、国立長寿医療研究センターが フレイルや認知症をターゲットとした大規模な疫学研究を 実施し、また、JAGES(日本老年学的評価研究)などの社 会疫学研究が発展し、それぞれ大きな成果を上げつつある。

 一方、東京都健康長寿医療センター研究所においては、 第2期TMIG-LISA(2001 ∼ 08年)が終了したのち、2009年 からは研究目的や研究地域が異なる4つの長期縦断研究が 並走しており、それらを統合した研究も成果を上げつつあ る。いずれも健康長寿に資する研究という点で共通してい る。2000年以降のこうした国内外の疫学研究の進展とその 成果をふまえた、健康長寿に資する新しいガイドラインが 求められていた。

新ガイドライン策定の経緯

 こうした背景のもと、東京都健康長寿医療センターの井 藤英喜理事長から筆者に「新ガイドライン」を作成するよ う指示があった。そこで、まず、2016年6月に健康長寿ガ イドライン策定委員会(委員長:新開、事務局:横山、本 川)を立ち上げ、新ガイドライン策定に向けて、検討すべ き課題や策定に向けたプロセスを検討した。

 また、第1回健康長寿ガイドラインでは、その成果物が 十分普及しなかった点を反省し、ユーザー目線を十分意識 し、できるだけ平易な内容かつユーザビリティーの高いも のにすべきと考えた。そこで、健康教育の教材づくりで実 績のある社会保険出版社に参画してもらい、「新ガイドラ イン」のもろもろの成果物を作成していくことにした。  検討会は、2016年8月5日の第1回(テーマは食・栄養)か ら月1 ∼ 2回のペースで合計12回開催した。検討会では、 策定委員会から指名されたコーディネーター(所内研究員) のほかに、3 ∼ 5名の専門家(所内外から招聘)がテーマに 関連した研究報告をしたのち、コーディネーターが進行役

新開省二

東京都健康長寿医療センター研究所副所長

【略歴】 1984 年:愛媛大学大学院医学研究科博士課程修了、愛媛大学助手(医学部衛生学)、 1990 年:同講師、1991 年:同助教授、1992 年:同助教授(医学部公衆衛生学)、 1998 年:東京都老人総合研究所地域保健部門研究室長、2005 年:同 社会参加とヘル スプロモーション研究チーム研究部長、2009 年:東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム研究部長、2015 年より現職

【専門分野】老年学、公衆衛生学。医学博士、公衆衛生修士

健康長寿新ガイドライン

(7)

⑦健康食品やサプリメント、⑧地域力、⑨フレイル、⑩認 知症、⑪生活習慣病、⑫介護・終末期である。それら課題 ごとに、一般の高齢者にこころがけてもらいたい要点/合 言葉を示したものが、「健康長寿のための12か条」である (図1)。

 いずれも重要な課題ばかりであるが、このうち「食生活」、 「体力・身体活動」、「社会参加」の3つは最も重要な基本項

目と考えており、筆者らは「健康長寿の3本柱」と呼んでい る。

2.健康長寿新ガイドライン エビデンスブック

 検討会で報告され議論された内容をベースにして、12の もとになった学術的知見(エビデンス)や具体的目標値・目 安が示された冊子である(140ページ)(図2)。

 読者対象として自治体や地域で働く専門職(保健師、栄 養士、医師、理学療法士など)や老年学・老年医学の教育 者・研究者・学生を想定して作成したが、一般の方にも十 分活用いただけると考えている。

となって質疑およびまとめを行った。検討会での研究報告 および議論は、その後のパンフレットづくりに生かされ、 また「健康長寿のための12か条」に集約していった。

 さらに、全12回の検討会が終了したのち、各回のコー ディネーターおよび研究報告を行った専門家に依頼して、 ガイドライン項目と実践目標およびそれらの根拠をできる だけ平易にまとめてもらい、これをエビデンスブックとし て取りまとめた。

 こうして、2017年6月に「健康長寿のための12か条」(図1)、 「健康長寿新ガイドライン エビデンスブック」(図2)、「各

論パンフレット」(図3)が完成した。筆者らは、これら3つ を総称して「健康長寿新ガイドライン」と呼ぶことにした。

健康長寿新ガイドライン3部構成

1.健康長寿のための12か条

 検討した12の課題は、①食生活、②お口の健康、③体 力・身体活動、④社会参加、⑤こころ(心理)、⑥事故予防、

(8)

されることがわかってきた。機能的健康度とは、心身機能、 生活機能、社会機能の3ドメインにおける機能の高低をさ す(図4)。そして、この機能的健康に影響を与える二大要 因は、中年期以降次第に増えかつ重症化してくる疾病と、 75歳以降顕著になってくる心身機能の加齢変化である( 5)。したがって、健康長寿を達成するには、中年期以降疾 病の予防や管理をしっかり行うことはもちろん、高齢期に おける心身機能の加齢変化を抑制する生活習慣を身につけ ることが重要となる。

 しかし、疾病の予防や管理のための生活習慣と、心身機 能の加齢変化を抑制する生活習慣とが必ずしも同じとは限 らない。また、中年期ではなく高齢期にふさわしい生活習 慣、欧米の高齢者ではなくわが国の高齢者にふさわしい生 活習慣とは何かを明らかにする必要がある。

 さらに、機能的健康度は(家族を含めた)個人側の要因の みでなく、個人を取り巻く地域環境によっても影響される。 例えば、私たちの研究によれば、ソーシャルキャピタルが 高い地域に住んでいる高齢者ほど、心理的健康や身体的健 康が良好なのである(図6)。

3.各論パンフレット

 一般の方(特に高齢者)向けに、ふだんからこころがけて いただきたい日常の過ごし方や健康管理の方法をわかりや すくまとめた(図3)。主に自治体、保険者、高齢者団体が 住民・加入者・会員向けに啓発用教材として利用すること を想定している。

 なお、「健康長寿のための12か条」(ポスター)、「健康長 寿新ガイドライン エビデンスブック」、「各論パンフレッ ト」(12種類)は、それぞれ社会保険出版社1)より販売され

ている。

新ガイドラインの特徴

 当センター研究所は、1972年の設立以来、疫学研究を重 視し、都内外で大規模な長期縦断研究を行ってきた。その 目的は、健康長寿の要因の解明とその延伸手法の開発であ る。

 健康長寿の疫学研究では、地域在住の大勢の高齢者に参 加いただき、さまざまな健康に関連するデータを集めると ともに、参加者のその後の健康状態の推移を前向きに調査 していくものである。追跡していく過程では、要介護状態 となる人もいれば、長く元気を維持される人もいる。その 差がなぜ生じたのかを、当初集めたデータにさかのぼって 比較分析するのである。

 そうした研究から、元気で長生き、すなわち健康長寿を 実現できるかどうかは「機能的健康度」に最も大きく左右

生命レベル

心身機能構造

生活レベル

活動

人生レベル

参加 心とからだの働き、

からだの部分など (身の回りの行為、生活行為 家事、仕事など)

家庭内の役割、仕事、 地域社会参加など

図4 機能的健康の3つのドメイン

図3 各論パンフレット

(9)

参 考

1) 株式会社 社会保険出版社 TEL 03-3291-9841(代)

疾病 老化

機能的健康

CVD(心血管疾患) などの疾病負荷↑

(重症化)

栄養、体力 心理・社会 (サルコペニア)

(ロコモ)

フレイル(身体的、認知的)

図5 機能的健康を低下させる医学的二大要因

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

20 30 40 50 60 70

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5

20 30 40 50 60 70

信頼感 高

横軸は行政区内で「一般的に人を 信頼できる」と回答した人の割合

ソーシャルキャピタル(信頼感)が高い 行政区ほど健康状態がよい!

信頼感 高

(%)

(%)

図6 ソーシャルキャピタルと健康(地区レベルの分析)

養父市高齢者健康調査2012より作成  「健康長寿新ガイドライン」では、こうした問題意識を

ベ ー ス に し、 そ れ に2015年 に 発 刊 さ れ たWHO world report on ageing and healthの中で提案された“Healthy Ageing”の枠組みを加味して、わが国の高齢者の健康余命 をさらに延伸するうえで重要と思われる12の課題を取り上 げ、それぞれに対する「処方箋」を示した。その「処方箋」 の根拠の多くは当センターで得られたものであるが、研究 が手薄な課題については外部の専門家の力を借りて検討し た。

 初回のガイドラインがTMIG-LISAという1つの研究プロ ジェクトの成果に基づいてつくられたのに対し、「新ガイ ドライン」ではその後15年間の当センターや国内のさまざ まな研究成果を反映させ、具体的な目標値や対処方法を示 したほか、フレイルや認知症、介護・終末期といった今日 的な課題にも挑戦し、現時点での「処方箋」を提示した。 したがって、まったく新しいより広範で実用的なガイドラ インができたと考えている。

まとめ

 いわゆる医学的ガイドラインは、無作為化比較試験、メ タ解析あるいはシステマティックレビューなどを行って、 統計学的に有意差のみられたエビデンスを中心にして作成 される。国内の研究報告が少ない場合も多いため、欧米の 研究を含めて検討されるのが常である。

 しかし、欧米の研究成果をそのままわが国にあてはめる ことはできない。彼我で、遺伝的背景、社会・経済・文化 的背景が大きく異なっており、欧米人にあてはまっても、 日本人にはあてはまらないことが少なくない。健康長寿に 関する要因においてもしかりである。

 今回のような健康長寿ガイドラインの策定においては、 できるだけ日本人を対象にした研究成果に基づいて作成す ることが望ましい。2000年以降、この分野でのわが国の研

(10)

健康長寿の秘訣

特 集

はじめに

 ヒトが胎児期から高齢期に至るまで生涯を通じて健康で あるために、日々の食事は重要な役割を担っており、各ラ イフステージに応じて食事の量や質を工夫することが必要 である。特に高齢期では、疾病予防のみならず、加齢に伴 う心身機能の低下を遅らせるフレイル予防の観点から、良 好な栄養状態の維持を図ることが重要である。

 本稿では、高齢期のフレイル予防における食品摂取の多 様性の意義に着目して、健康長寿のための食事と栄養につ いて概説する。

地域高齢者を対象とした栄養疫学研究

 食事・栄養が健康にどのように関連するかについては、 主に人(集団)を対象とした栄養疫学的手法を用いた研究に より明らかにすることができ、世界各国でさまざまな研究 が進められている。健康長寿に関わる食事と栄養を明らか にするためには、高齢者を対象とした栄養疫学研究が必要 不可欠であり、アウトカムである「健康」や、曝露要因で ある「食事」の評価を目的に応じて適切に行うことが重要 である。

 高齢期の健康は、疾病の有無のみならず、機能的な健康 が重視され、近年「フレイル」という概念が注目されている。 フレイルとは、高齢期に生理的予備能が低下することで 種々のストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、 要介護状態、死亡などさまざまな負の健康アウトカムを起 こしやすい前障害状態のことである。

 曝露要因である「食事」の評価については、従来の栄養 疫学研究では、個々の栄養素・食品群に着目した研究がほ

とんどであったが、日常生活下ではこれらを組み合わせた 「食事・料理」として摂取していることから、現在では、食 事の質やパターンの分析を用いた研究も盛んに行われてい る。フレイルと食事・栄養の関連についても、食品レベル・ 栄養素レベル・食事レベルでの検討が行われ、Lorenzo-Lópezらが報告したシステマティックレビューにおいては、 19本の観察研究のエビデンスがまとめられている1)

 このように、フレイルと食事・栄養の関連に関するエビ デンスは着実に蓄積されているものの、本システマティッ クレビューに含まれる研究のほとんど(19本中12本)が食文 化の異なるアメリカおよびヨーロッパでの研究であるため、 日本人高齢者の食事の特性をふまえたエビデンスを構築す ることが喫緊の課題となっている。

国民健康・栄養調査からみた日本人高齢者の

食物摂取状況と栄養状態の現状

 われわれは、日本人高齢者の食物摂取状況や栄養状態の 現状を把握するため、2003 ∼ 11年までの国民健康・栄養 調査における65歳以上高齢者22,692 名のデータを用いて検 討を行った。その結果、日本人高齢者では年齢階級が高く なるほど、①エネルギー摂取量の減少をはじめ、多くの栄 養素や食品群の摂取量が減少すること、②低栄養傾向の高 齢者の割合(BMI 20kg/m2以下、アルブミン 4.0g/dL以下

を低栄養傾向と定義)は増加することが明らかになった2)

これらの結果は、高齢期はエネルギーをはじめ、数多くの 栄養素や食品群の摂取不足が問題となる可能性があるとと もに、その予防・改善に向けては、特定の食品群や栄養素 ではなく、食品摂取の質に着目する必要があることを示唆 している。

横山友里

東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム研究員

【略歴】 2014 ∼ 16 年:日本学術振興会特別研究員(DC2)、2016 年 3 月:東京農業大学大 学院修了(農学研究科 食品栄養学専攻)、2016 年 4 月より現職

【専門分野】栄養疫学、公衆栄養学。博士(食品栄養学)

(11)

た5)6)。その結果、横断研究により、DVSが高いほど、筋

量が多く、身体機能(握力、通常歩行速度)が高いことが示 された(図3)。また、4年間のコホート研究により、DVSが 高いほど、四肢骨格筋量の低下リスクが抑制される傾向が みられ(P for trend=0.068)、握力の低下および通常歩行速 度 の 低 下 リ ス ク が 有 意 に 抑 制 さ れ た( 握 力:P for trend=0.043、通常歩行速度:P for trend=0.039)(図4)。  以上の結果から、多様な食品を摂取することは高齢期の サルコペニア予防に防御的に働くことが明らかとなった。 DVSを構成する10食品群のうち、肉、魚、卵、牛乳、大豆 製品は筋たんぱく合成に関わるたんぱく質を、野菜、果物 は酸化ストレスや炎症抑制に関わる抗酸化ビタミンを豊富 に含んでいる。したがって、これらの栄養素の複合効果に よって筋量や身体機能の低下が抑制された可能性が考えら れた。

食品摂取の多様性に影響する要因

 高齢期は加齢に伴うさまざまな要因(咀嚼機能の低下、 買い物の便・不便の問題、配偶者との死別など)が食品摂 取に影響を及ぼすことから7)8)、これらの要因への配慮も必

要である。食環境の整備では、2017年、厚生労働省が国と してはじめて配食事業の栄養管理のあり方を整理し、事業 者向けのガイドラインを作成・公表し9)、地域高齢者の健

康支援における配食の役割が期待されている。高齢者の 食・栄養の課題は今後ますます増加することが予想される

食品摂取の多様性得点の栄養学的特徴

 国民健康・栄養調査から示された結果をふまえ、われわ れは高齢者の食事を評価するにあたり、「食品摂取の多様 性(Dietary Variety)」に着目した。食品摂取の多様性の評 価法は世界各国でさまざまな方法が開発されており、評価 に用いる構成食品や得点化の方法はそれぞれ異なるが、そ の多くは摂取した食品数を考慮するというシンプルな方法 であることが特徴である。

 当研究所では、熊谷らが「食品摂取の多様性得点(DVS)」 を開発しており3)図1)、主食や嗜好品を除き、日本人が普

段食べる主菜・副菜・汁物の約80%(国民健康・栄養調査 に基づく摂取重量ベース)を占める食品群として、肉類、 魚介類、卵類、牛乳、大豆製品、緑黄色野菜類、海藻類、 果物、いも類、および油脂類の10食品群の1週間の食品摂 取頻度から評価する。各食品群に対して、「ほぼ毎日食べ る」に1点、「2日に1回食べる」、「週に1、2回食べる」、「ほ とんど食べない」の摂取頻度は0点とし、その合計点を DVSとするものである。

 DVSが高いということは、どのような栄養学的な特徴を 反映しているのだろうか。このことを明らかにするため、 当研究所では、成田らが地域高齢者におけるDVSと栄養素 等摂取量との関連を検討している4)。DVSの分布から、0

∼ 3点、4点、5 ∼ 6点、7 ∼ 10点の4区分に分け、栄養素 等摂取量は3日間の自記式食事記録(目安量法)を用いて評 価した。その結果、DVSの区分が高くなるほど、エネル ギー摂取量は変わらないものの、体重当たりのたんぱく質 摂取量が有意に増加し、穀類エネルギー比は減少傾向で あった。また、ビタミン(ビタミンK、ナイアシン、パント テン酸)、ミネラル(カリウム、マグネシウムなど)、食物 繊維量など種々の栄養素との関連がみられた。

 以上の結果から、DVSが高いということは、主食を控え めに、たんぱく質やビタミン、ミネラルを多く含むおかず を中心とした「栄養素密度の高い食事」を反映しているこ とが示唆された(図2)。

食品摂取の多様性得点と

筋量、身体機能との関連

 DVSを用いて高齢期の健康との関連を検討した研究では、 高次生活機能との関連などが報告されている3)。われわれ

は、フレイル・サイクルの中核として位置づけられている サルコペニアに着目し、地域高齢者(約1,000名)のデータ から、筋量と身体機能との関連を横断的・縦断的に検討し

図1 食品摂取の多様性得点(文献3)

❶肉 点 ❻緑黄色野菜 点

❷魚介類 点 ❼海藻類 点

❸卵 点 ❽いも 点

❹大豆・大豆製品 点 ❾果物 点

❺牛乳 点 油を使った料理 点

あなたの点数は?        点

栄養素密度が

低い 得点

得点

栄養素密度が高い

炭水化物

おかず ごはん・パン・麺類

肉・魚・卵 大豆製品・野菜 海藻・牛乳・果物

(12)

の食事・栄養について概説した。メタボリックシンドロー ム予防を中心とした中年期とは異なり、高齢期は健康づく りの重点をフレイル予防にシフトさせ、食事の量や質を工 夫することが必要になる。多様な食品摂取を確保すること は、多様な栄養素の摂取や筋量・身体機能の低下抑制に関 わることから、食・栄養面からのフレイル対策において食 品摂取の多様性の意義は大きいと考える。

 今回研究に用いた食品摂取の多様性得点は10の食品群の 摂取頻度から簡便に評価できることが特徴であり、チェッ クシートによるセルフチェックや栄養教育を通じて改善可 能であることも示されていることから10)11)、エビデンスに

基づく地域高齢者の健康支援策として今後、実践現場で活 用されることが期待される。

が、高齢者の食を取り巻く状況をふまえて、解決に向けた 対応策を検討していく必要があるだろう。

まとめ

 本稿では、地域高齢者を対象とした栄養疫学研究の知見 をもとに、食品摂取の多様性に着目して、健康長寿のため

参考文献

1) Lorenzo-López L, Maseda A, de Labra C, et al.(2017)Nutritional determinants of frailty in older adults: A systematic review. BMC Geriatr. 17, 108.

2) 横山友里,北村明彦,川野因,他:国民健康・栄養調査からみた 日本人高齢者の食物摂取状況と低栄養の現状.日本食育学会誌.In press

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10) K i m u r a M , M o r i y a s u A , K u m a g a i S , e t a l .( 2 0 13 ) Communitybased intervention to improve dietary habits and promote physical activity among older adults: a cluster randomized trial. BMC Geriatr 13, 8.

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Low Medium High 0 37.0 37.5 38.5 39.0 38.0

39.5 除脂肪量(kg)

a

b

Low Medium High 0 26.5 28.0 27.5 27.0 29.0 29.5 28.5

30.0 握力(kg)

a

b

Low Medium High 0 15.6 15.8 16.0 16.2 16.6 16.8 16.4

17.0 四肢骨格筋量(kg)

a a

b

Low Medium High 0 1.28 1.30 1.34 1.36 1.32

1.38 通常歩行速度(m/s)

図3 食品摂取多様性得点と筋量、身体機能との横断的関連(文献5)

データは平均値±標準誤差。異符号間で有意差あり(p<0.05)

調整変数:性、年齢、研究地域、教育年数、居住形態、喫煙習慣、飲酒習慣、 運動習慣、主観的咀嚼能力、既往歴(高血圧、糖尿病、がん、脳卒中、心疾 患、慢性閉塞性肺疾患)、入院歴、body mass index

1.00 0.670.64 1.00 0.73 0.28 1.00 0.60 0.43 1.00 0.59 0.43 0 0.5 1 1.5 2

Low(0-3点) Medium(4-6点) High(7点以上) 除脂肪量

(kg) 四肢骨格筋量(kg)

握力

(kg) 通常歩行速度(m/s)

比︵

95

図4 食品摂取多様性得点と筋量、身体機能との縦断的関連(文献6)

(13)

○○○○●○○○○●

○○○○●○○○○●

【略歴】 ○○○○●○○○○●○○○○●○○○○●○○○○●○○○○●○○○○●○○○○● ○○○○●○○○○●

【専門分野】○○○○●○○○○●

健康寿命と認知症

 疾病や事故および犯罪などがどれだけ社会に損害を与え ているかを測る指標として、障害調整生命年(disability-adjusted life year:DALY)が国際比較のために用いられ ている。これは、死亡が早まることによって失われたであ ろう寿命(生命年)の概念を、健康でない状態、すなわち障 害によって失われた健康寿命換算の年数を含めた健康指標 として世界保健機関(WHO :World Health Organization) にて定義された。病気、健康状態のDALYは、総人口につ いて死亡が早まることによって失われた年数と、人びとの 健康状態に生じた障害によって失われた年数の合計として 計算される。

 2016年における日本のDALYに関連する主要な疾患は、 腰頚部痛、アルツハイマー病と他の認知症、虚血性心疾患、 脳卒中、感覚器障害の順に上位を占め、アジア以外の高い 水準の社会人口統計学的特性を持つ地域と比較してアルツ ハイマー病やその他の認知症による影響が大きい(表1)1)

 今後の日本の人口動態をみると、高齢者に占める後期高 齢者の割合が上昇し、加齢に伴い有病率が上昇する認知症 の問題はますます大きくなるものと想定される。また、平成 25年国民生活基礎調査の結果では、要介護状態の原因の約 16%が認知症であり、脳血管疾患に次いで第2の原因となっ ている。女性に限ってみれば、18%が認知症を原因として 要介護状態となり脳卒中を抜いて第1の原因となっている

島田裕之

国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究部部長

【略歴】 2003 年:北里大学大学院医療系研究科臨床医学リハビリテーション医学専攻博士課程修 了、東京都老人総合研究所研究員、2005 年:Prince of Wales Medical Research Institute 客員研究員、2006 年:東京都老人総合研究所日本学術振興会特別研究員、 2010 年:国立長寿医療研究センター室長、2014 年より現職

【専門分野】老年学、リハビリテーション医学。博士(医学)

高齢者の健康と運動

表1 DALYに関連する主要な疾患 日本と世界の比較(文献1)

北アメリカ オーストララシア パシフィックアジア・ 西ヨーロッパ 南ラテンアメリカ 日 本

1 虚血性心疾患 腰頚部痛 腰頚部痛 腰頚部痛 虚血性心疾患 腰頚部痛

2 腰頚部痛 虚血性心疾患 アルツハイマー病と

他の認知症

虚血性心疾患 腰頚部痛 アルツハイマー病と

他の認知症

3 肺がん 皮膚および皮下組織の疾病 脳卒中 アルツハイマー病と他の認知症 脳卒中 虚血性心疾患

4 薬物乱用 抑うつ障害 虚血性心疾患 感覚器障害 皮膚および皮下組織の疾病 脳卒中

5 糖尿病 偏頭痛 感覚器障害 脳卒中 下気道感染 感覚器障害

6 慢性閉塞性肺疾患 感覚器障害 皮膚および皮下組織

の疾病

肺がん 感覚器障害 皮膚および皮下組織

の疾病

7 皮膚および皮下組織

の疾病

他の筋骨格系障害 自傷 皮膚および皮下組織

の疾病

交通事故 肺がん

8 脳卒中 脳卒中 肺がん 偏頭痛 糖尿病 自傷

9 抑うつ障害 肺がん 糖尿病 抑うつ障害 偏頭痛 下気道感染

10 アルツハイマー病と

他の認知症

アルツハイマー病と 他の認知症

(14)

構造の強化や損失の減少、アミロイド蓄積の減少、電気生 理学的特性の強化や遺伝子転写の変化などが想定されてい る4)表2)。このように、運動による脳の機能保持や向上の

メカニズムは多岐にわたり、これらの要因が独立して、もし くは相互作用をしながら効果を発揮するものと考えられる。

運動による認知機能向上のフロー

 運動が認知機能に対して良好な影響を及ぼすメカニズム は複雑であり、生物学的、行動学的、社会心理学的レベル の各階層において脳機能に影響を及ぼし、これらの総体と して認知機能向上効果が発揮されると考えられる(図2)。  生物学的レベルでは、インスリン抵抗性の改善からシナ プス機能の向上、脳容量の増加へとつながり、それが認知 機能の向上に寄与すると考えられる。また、運動により脳 血流量が増加し、それとともにBDNFやIGF-1などの神経 栄養因子の増加によるシナプス機能の向上5) 6)や脳容量の

増加を介して認知機能の向上がもたらされると考えられる。  行動学的レベルでは、運動による睡眠状態の向上による 身体活動の向上、もしくは疲労感の低下を介して身体活動 レベルが向上する。そして、身体活動の向上から認知機能 の改善が期待できる。運動の実施そのものによる身体活動 量の向上、および身体機能の向上による身体活動の向上や、 疲労感の解消から認知機能の向上に資する刺激量が担保さ れると考えられる。

 また、社会心理学的には、運動によるうつ症状の解消に よる認知機能の向上効果が期待できる。また、うつ症状の 緩和により社会的ネットワークの再構築が期待でき、その 社会的ネットワークの向上による認知機能の向上効果が認 められる。さらに、うつ症状の緩和により認知的活動性が 向上し、それが認知機能向上に寄与する。また、運動によ る自己効力感の向上から社会的ネットワークの構築が促進 され、認知機能向上につながると考えられる。

図1)。これらから、認知症は高齢者の健康な生活を阻害す る主要な原因と考えられ、予防のための取り組みが必要となる。

認知症の予防

 認知症の多くは高齢期において発症するが、認知症の予 防は高齢期のみではなく、人生を通した取り組みが必要で あるとの提言がなされ、可変因子の制御により35%の認知 症が予防可能であるとされた2)。それらの因子は、年代に

より分類され若年期においては低い教育歴が影響し、その 影響度は8%であると試算された。中年期には難聴(9%)、 高血圧(2%)、肥満(1%)が影響力を持ち、その改善によっ て12%の認知症予防が可能であるとされた。高齢期には喫 煙(5%)、うつ(4%)、身体活動の低下(3%)、社会的孤立 (2%)、糖尿病(1%)が危険因子と同定され、これらの解消

によって認知症の15%を抑制可能であるとされた2)

 また、これらの因子を削減するための対策として脳のダ メージや炎症の抑制、認知的予備力の向上に有効である聴 力の保護、教育、認知的トレーニング、社会ネットワーク の構築、うつの抑制、肥満の減少、禁煙、糖尿病、高血圧、 脂質異常症の治療、非ステロイド系抗炎症薬利用、地中海 食の摂取、運動の必要性が示された2)。特に運動について

は、脳のダメージや炎症の抑制、認知的予備力の向上すべ ての要素に対する有効性が確認され3)、取り組む必要性の

高い介入内容の1つであると考えられる。

運動による脳の健康に対する

メカニズムの多様性

 運動を含む環境要因は、脳の健康保持に対して影響して いることが多くの動物研究によって明らかにされてきた。運 動が脳に及ぼす効果の潜在的なメカニズムをまとめたレ ビューをみると、一般的な危険因子の低減として、脳血管 疾患のリスクや炎症の抑制、脳の成長因子の増加に伴う脳

全例 男性 女性

その他・ 不明・不詳

25%

高齢に よる衰弱 14%

骨折・転倒 12%

認知症 16%

関節疾患 11% 心疾患 (心臓病)

5% 脳血管疾患 (脳卒中)

17%

その他・ 不明・不詳

33%

高齢に よる衰弱

11% 骨折・転倒 6%

認知症 14%

関節疾患 5% 心疾患 (心臓病)

5% 脳血管疾患 (脳卒中)

26%

その他・ 不明・不詳

21%

高齢に よる衰弱 15%

骨折・転倒 15%

認知症 18%

関節疾患 14% 心疾患 (心臓病)

4% 脳血管疾患 (脳卒中)

13%

図1 要介護の原因疾患

(15)

の研究成果が待たれる。ただし、運動の実施は、DALYに 影響する虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病、疼痛、抑うつ障 害、肺がん、慢性閉塞性肺疾患、転倒、筋骨格系障害など のリスクを軽減し症状の改善も期待できることから、認知 症予防以外の観点からも推奨すべきであろう。

まとめ

 運動の習慣化は認知症のリスク削減に効果的であり、認 知症予防を目的として運動を推奨することは妥当であると 考えられる。しかし、現時点において運動の実施が認知症 の発症遅延に有効であることを証明した研究はなく、今後

参考文献

1) DALYs GBD, Collaborators H. Global, regional, and national disability-adjusted life-years (DALYs) for 333 diseases and injuries and healthy life expectancy (HALE) for 195 countries and territories, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. . 2017;390(10100):1260-1344.

2) Livingston G, Sommerlad A, Orgeta V, et al. Dementia prevention, intervention, and care. . 2017.

3) Livingston G, Sommerlad A, Orgeta V, Costafreda SG, Huntley J, Ames D, Ballard C, Banerjee S, Burns A, Cohen-Mansfield J, Cooper C, Fox N, Gitlin LN, Howard R, Kales HC, Larson EB, Ritchie K, Rockwood K, Sampson EL, Samus Q, Schneider LS,

Selbaek G, Teri L, Mukadam N: Dementia prevention, intervention, and care. Lancet. 2017 Jul 19. pii: S0140-6736(17)31363-6. 4) Rolland Y, Abellan van Kan G, Vellas B. Physical activity and

Alzheimer's disease: from prevention to therapeutic perspectives. . 2008;9(6):390-405.

5) Kang H, Schuman EM. Long-lasting neurotrophin-induced enhancement of synaptic transmission in the adult hippocampus.

. 1995;267(5204):1658-1662.

6) Figurov A, Pozzo-Miller LD, Olafsson P, Wang T, Lu B. Regulation of synaptic responses to high-frequency stimulation and LTP by neurotrophins in the hippocampus. . 1996;381(6584):706-709.

表2 運動を含む環境因子による脳機能改善のメカニズム(文献4より作成)

一般的な危険因子の低減 1. 心血管危険遺伝子の減少:高

血圧、耐糖能、インスリン抵 抗性、脂質プロフィール、太 り過ぎ

2. 脳卒中のリスクを低減 3. 脳の血流および酸素供給の向

4. 内皮の一酸化窒素産生の促進 5. 炎症の減少

6. ラジカル酸化タンパク質の蓄 積の減少

7. 脳の可塑性の促進 8. 認知的予備力の向上 9. より高い社会活動

強化された電気生理学的特性 1. 高頻度刺激の応答における増強

2. シナプシンとシナプトトロフィンレベルの増加 3. グルタミン酸受容体の増加(NR2BとGluR5)

脳の細胞構築の強化

1. 樹状突起長の延長、神経前駆細胞増 殖、樹状の複雑化

2. 海馬における血管の成長 3. 皮質の血管の成長 4. 小脳における血管の成長 5. ミクログリアの増殖

6. 歯状回における強化された短期およ び長期増強

7. 増加した脳の毛細血管密度 8. 神経線維の拡大の推進

9. 皮質におけるミクログリアの増殖 10. 神経新生および増殖

11. 海馬組織の損失の減少

12. 分化したニューロンの数の増加

脳の成長因子の増加 1. 脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加 2. インスリン様成長因子-1(IGF-1)の増加 3. 血管内皮細胞由来増殖因子(VEGF)の増加 4. セロトニンの増加

5. アセチルコリンの増加 6. 性線維芽細胞増殖因子の誘導

アミロイド蓄積への影響 アミロイド蓄積の減少

上昇したAPPのレベル下での海馬の機能の強化

他のメカニズム 1. 遺伝子転写の変化

2. 中枢神経系におけるカルシウムレベルの上昇

図2 運動による認知機能向上のフロー

認知機能↑ 生物学的レベル

インスリン 抵抗性 ↓

シナプス 機能 ↑

脳血流量↑

BDNF↑ IGF-1↑

脳容量 ↑

睡眠状態 ↑

疲労感↓

身体機能↑ 身体活動↑

自己 効力感 ↑

社会的 ネットワーク ↑

認知的 活動 ↑

社会心理学的レベル

社会心理学的レベル

運動

うつ症状↓

行動学的レベル

(16)

健康長寿の秘訣

特 集

はじめに

 少子高齢社会が進行するわが国では、高齢者は健康や社 会経済的側面から最大多数の弱者となりうる。一方で、高 齢者は持続可能な共生社会の実現をめざすうえでは、就労 やボランティアといった有償・無償の社会貢献の担い手と しても期待される。

 筆者は、ライフコースに応じた健康度(=生活機能)と社 会参加活動の枠組みを体系的に示した()1)。本来、人と

社会との関わりとは長い人生の中で徐々に対象や形態を変 えながらシームレスに継続されていくべきものである。  本稿の目的は、高齢期の社会参加について、ボランティ ア活動や生涯学習活動というように単一の活動に限局する ことなく、ライフコースに応じた社会参加が健康に及ぼす 影響について整理することとする。

社会参加のステージと社会関係

 「社会参加」(social participation)についての統一された 定義はないが、実践的な活動と置き換えた場合には、「他 者との相互関係を伴う活動に参加すること」と定義すると 考えやすい。本稿では、高齢者の社会参加・社会貢献をプ ロダクティビティの理論2)に基づき操作的に、①就労、②

ボランティア活動、③自己啓発(趣味・学習・保健)活動、 ④友人・隣人などとのインフォーマルな交流、⑤要介護期 の通所型サービス利用──の5つのステージを定義する。  高齢者の社会参加のステージは重層的であり、求められ る生活機能や社会的責任により高次から低次へと階層構造 をなす。また、社会参加の基盤には、社会的役割や社会関 係がある。本稿では、人とのつながりや交流という側面を

「社会関係(social relationships)」と呼ぶ。さらに社会関係 は、友人や知人の数といった社会的ネットワークに代表さ れる構造的側面と、対人的な資源やサービスのやり取りを 表す社会的サポートに代表される機能的側面に大別する。

高齢期の就労と健康

 近年、65 ∼ 69歳の高齢男性の約50%、女性の約30%が 就労している点から社会参加の第1ステージである「就労」 に注目する必要がある。その背景には、高齢者の経済的自 立や生きがいを促す点や、女性に比べて社会的孤立傾向が 強いとされる男性の社会参加の機会3)として支持される可

能性がある点が考えられる。

 海外における高齢者の退職と健康に関する研究では、① 定年退職は精神的健康にポジティブな影響がみられるが、 ②主観的健康感や身体的健康に対してはネガティブな影響 がある場合もある。さらに、③作業労働者と事務労働者と いった職種による差、自発的退職と解雇や健康問題といっ た自発的でない退職による差など、諸要因による違いが報 告されている4)

 筆者らの首都圏ベッドタウンにおける4年間の追跡研究 によると、定年後、働いていた人が退職した場合に比べて 就労を継続する場合は、フルタイム、パートタイムともに 健康維持に有効であるとともに、定年以降の就労からの離 脱により精神健康は、最初の2年間で低下し、生活機能は4 年間にわたり徐々に低下することが示された。また、8年 間の長期追跡により、男性では初回調査時点で就労してい る人は、地域にかかわらず基本的日常生活動作能力 (BADL)の低下が有意に抑制されていた5)

藤原佳典

東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム研究部長

【略歴】 1993 年:北海道大学医学部卒業、京都大学病院老年科などに勤務、2000 年:京都大学大学 院医学研究科修了、東京都老人総合研究所地域保健部門研究員などを経て、2011 年より現職 【専門分野】公衆衛生学、老年医学、老年社会科学。医学博士

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