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Vol.65 , No.1(2016)063横山 裕明「Dakinivajrapanjara所説のタントラ分類をめぐる諸問題」

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(1)

・VP 所説のタントラ分類[D54b6]

劣った者たちのためにクリヤータントラがある.非クリヤー(?)ヨーガ (bya min rnal ’byor)2)は,それよりも優れた者のためにある.

・ĀM の記述(VP からの引用としている箇所)[D109a3]

劣った者たちのためにクリヤータントラがある.さらに優れた者のために チャルヤーとヨーガ(spyod rnal ’byor)がある.

以上のように,VP 本文では「非クリヤー」(bya min)という語があるのに対し, ĀM では「非クリヤー」が「チャルヤー」(spyod)に置き換わっている.そこで注 目したいのが,アバヤーカラが ĀM の別の箇所や他の著作でもクリヤー階梯と ヨーガ階梯の間にチャルヤー階梯を設定している点である.

・ĀM [D109] . . . bya ba’i rgyud ni . . . spyod pa’i rgyud ni . . . rnal ’byor gyi rgyud ni . . . ・VĀ [pp. 429–430] . . . kriyācaryātantrayoḥ . . . yogayoginītantrāṇām apīty . . .

このことから,アバヤーカラはチャルヤー階梯を含んだタントラ分類法を日常 的に用いていたと考えられ,その内容は後述のラトナーカラと全く同じものであ る.アバヤーカラは,VP に対して自らのタントラ分類法に沿った改変を施して 引用した可能性が高いと考えられる.さて,それでは VP 本文の「非クリヤー」 という語はどのように読むべきであり,他に同様の用例が見出せるのかが問題と なる.次節では,VP と他典籍のタントラ分類法を比較したい.

3.VP

と他典籍のタントラ分類比較

後述の表を見て分かる通り,タントラ分類法は数も階梯の捉え方も多岐に渡っ ている.しかし,非クリヤーという語は,他の分類法に用例を見出すことができ なかった.そもそもクリヤー階梯よりも上の階梯に非クリヤーと名付けるとは考 え難い.おそらく非クリヤーという語は,それまでの所作実践の階梯と瞑想実践 たるヨーガ階梯を隔てるために用いられており,ヨーガ階梯にかけて「外的所作 を行わない瞑想実践階梯」3)を意味するものであろう.また,ヨーガ階梯を含ん でいながらチャルヤー階梯がないタントラ分類法は,ブッダグフヤおよび同様の 分類を説く弟子の著作のみである.このタントラ分類法は,ヨーガタントラの上 位階梯であるヨーゴーッタラ等が未だ用いられておらず,既に上位階梯が説かれ ていながらチャルヤー階梯を説いていない VP のタントラ分類法とは事情が異なっ ている.なお,上位階梯を説くタントラ分類法の中でチャルヤー階梯を含まない Ḍākinīvajrapañjara 所説のタントラ分類をめぐる諸問題(横 山) (147)

Ḍākinīvajrapañjara 所説のタントラ分類をめぐる諸問題

横 山 裕 明

1.はじめに

本稿では,インド後期密教タントラの 1 つである VP を取り上げる.VP は,自 らをヨーギニータントラと称しており,その特徴の 1 つである全女尊マンダラを 説いている.しかし,島田 1983 で指摘されているように,VP にはヨーギニータ ントラの重要な特徴とされる第四灌頂やタントラ的身体論に関する用語が説かれ ていない.なお,それらの用語は註釈書にも確認できないと同著で指摘されてい るが,VPṬ の中には確認できる.ただし,その記述は強引な解釈に基づくもので あり,VP と DK の会通を目的としたものである可能性が高い1).また,VP では 男尊によって構成された十忿怒尊が説かれている.このように,VP は一般的に 知られているヨーギニータントラとは異なった特徴を含むタントラである. さて,VP の説くタントラ分類法は,おそらく VP 本文よりもアバヤーカラグプ タの著作である ĀM における引用文によって知られているであろう.しかし,こ の ĀM の記述は VP 本文とは少し形が異なっている.その理由として,アバヤー カラが VP 本文に改変を施して引用した可能性が考えられる.そこで,VP 本文と ĀM の記述を比較した上で,アバヤーカラが改変を施したと考えられる根拠につ いて述べたい.また,VP 所説のタントラ分類法と同じものが他に見られるのか を検証し,さらに VP が書かれた当時に隆盛を誇っていたヨーギニータントラの 名称を確認することで VP と他文献の先後関係解明の足掛かりとしたい.

2.VP

所説のタントラ分類と ĀM の記述の比較

まずは VP 所説のタントラ分類法と ĀM の記述を比較する.なお,校訂テクス トおよび他版の異訳である Ph は,本稿で問題となる箇所のみを示す. (146) 印度學佛敎學硏究第 65 巻第 1 号 平成 28 年 12 月 ─ 379 ─

(2)

・VP 所説のタントラ分類[D54b6]

劣った者たちのためにクリヤータントラがある.非クリヤー(?)ヨーガ (bya min rnal ’byor)2)は,それよりも優れた者のためにある.

・ĀM の記述(VP からの引用としている箇所)[D109a3]

劣った者たちのためにクリヤータントラがある.さらに優れた者のために チャルヤーとヨーガ(spyod rnal ’byor)がある.

以上のように,VP 本文では「非クリヤー」(bya min)という語があるのに対し, ĀM では「非クリヤー」が「チャルヤー」(spyod)に置き換わっている.そこで注 目したいのが,アバヤーカラが ĀM の別の箇所や他の著作でもクリヤー階梯と ヨーガ階梯の間にチャルヤー階梯を設定している点である.

・ĀM [D109] . . . bya ba’i rgyud ni . . . spyod pa’i rgyud ni . . . rnal ’byor gyi rgyud ni . . . ・VĀ [pp. 429–430] . . . kriyācaryātantrayoḥ . . . yogayoginītantrāṇām apīty . . .

このことから,アバヤーカラはチャルヤー階梯を含んだタントラ分類法を日常 的に用いていたと考えられ,その内容は後述のラトナーカラと全く同じものであ る.アバヤーカラは,VP に対して自らのタントラ分類法に沿った改変を施して 引用した可能性が高いと考えられる.さて,それでは VP 本文の「非クリヤー」 という語はどのように読むべきであり,他に同様の用例が見出せるのかが問題と なる.次節では,VP と他典籍のタントラ分類法を比較したい.

3.VP

と他典籍のタントラ分類比較

後述の表を見て分かる通り,タントラ分類法は数も階梯の捉え方も多岐に渡っ ている.しかし,非クリヤーという語は,他の分類法に用例を見出すことができ なかった.そもそもクリヤー階梯よりも上の階梯に非クリヤーと名付けるとは考 え難い.おそらく非クリヤーという語は,それまでの所作実践の階梯と瞑想実践 たるヨーガ階梯を隔てるために用いられており,ヨーガ階梯にかけて「外的所作 を行わない瞑想実践階梯」3)を意味するものであろう.また,ヨーガ階梯を含ん でいながらチャルヤー階梯がないタントラ分類法は,ブッダグフヤおよび同様の 分類を説く弟子の著作のみである.このタントラ分類法は,ヨーガタントラの上 位階梯であるヨーゴーッタラ等が未だ用いられておらず,既に上位階梯が説かれ ていながらチャルヤー階梯を説いていない VP のタントラ分類法とは事情が異なっ ている.なお,上位階梯を説くタントラ分類法の中でチャルヤー階梯を含まない Ḍākinīvajrapañjara 所説のタントラ分類をめぐる諸問題(横 山) (147)

Ḍākinīvajrapañjara 所説のタントラ分類をめぐる諸問題

横 山 裕 明

1.はじめに

本稿では,インド後期密教タントラの 1 つである VP を取り上げる.VP は,自 らをヨーギニータントラと称しており,その特徴の 1 つである全女尊マンダラを 説いている.しかし,島田 1983 で指摘されているように,VP にはヨーギニータ ントラの重要な特徴とされる第四灌頂やタントラ的身体論に関する用語が説かれ ていない.なお,それらの用語は註釈書にも確認できないと同著で指摘されてい るが,VPṬ の中には確認できる.ただし,その記述は強引な解釈に基づくもので あり,VP と DK の会通を目的としたものである可能性が高い1).また,VP では 男尊によって構成された十忿怒尊が説かれている.このように,VP は一般的に 知られているヨーギニータントラとは異なった特徴を含むタントラである. さて,VP の説くタントラ分類法は,おそらく VP 本文よりもアバヤーカラグプ タの著作である ĀM における引用文によって知られているであろう.しかし,こ の ĀM の記述は VP 本文とは少し形が異なっている.その理由として,アバヤー カラが VP 本文に改変を施して引用した可能性が考えられる.そこで,VP 本文と ĀM の記述を比較した上で,アバヤーカラが改変を施したと考えられる根拠につ いて述べたい.また,VP 所説のタントラ分類法と同じものが他に見られるのか を検証し,さらに VP が書かれた当時に隆盛を誇っていたヨーギニータントラの 名称を確認することで VP と他文献の先後関係解明の足掛かりとしたい.

2.VP

所説のタントラ分類と ĀM の記述の比較

まずは VP 所説のタントラ分類法と ĀM の記述を比較する.なお,校訂テクス トおよび他版の異訳である Ph は,本稿で問題となる箇所のみを示す. (146) 印度學佛敎學硏究第 65 巻第 1 号 平成 28 年 12 月 ─ 378 ─

(3)

 3)想定される Skt. は akriyāyoga- だけではなく,akriyaṃ yogaṃ という形も考えられる.  4)ヴィマラバドラの Vajrāmṛtapañjikā(Toh no. 1649)は詳細を判断できない.[D22b1] 一切タントラとは,クリヤータントラとヨーガタントラと秘密タントラとその他である.  5)ここでは同様の分類法を説く弟子の著作などは割愛した.

 6)以下で D を例示するが,Ph と相違するところもあり,一篇ずつの名称は確定し難 い.[D54b5]① kye yi rdo rje dkyil ’khor sangs rgyas kun/ / ② gsang mdzod ③ rdo rje bdud rtsi ’byung ba dang/ / ④ ’khor lo sdom pa ⑤ gur dang ⑥ ’byung gnas ni/ / rnal ’byor ma rgyud drug tu rab tu grags/ / ① 一切仏ヘーヴァジュラマンダラ,② グフヤコーシャ, ③ ヴァジュラアムリタ生起,④ チャクラサンヴァラ,⑤[ヴァジュラ]パンジャラ, ⑥ 根源は,6 つのヨーギニータントラとして有名である.

〈一次文献〉

ĀM Āmnāyamañjarī. [D Toh no. 1198, P Ota no. 2328].

DK Dvikalpa. Snellgrove, David L[lewellyn], ed. The Hevajra Tantra: A Critical Study. Part II, Sanskrit and Tibetan Texts. London: Oxford University Press, 1959.

Vajrāvalī. Mori, Masahide, ed. Vajrāvalī of Abhayākaragupta. Buddhica Britannica Series Continua. Tring: The Institute of Buddhist Studies, 2009.

VP Ḍākinīvajrapañjara.[D Toh no. 419,P Ota no. 11,チョーネ(C)no. 10,ナルタン (N)no. 371,トク宮(T)no. 380,河口(K)no. 379,シェルカル(Sh)no. 297,

プタク(Ph)no. 458].

VPṬ Ḍākinīvajrapañjaraṭippati. Kaisar Library 230 = Nepal-German Manuscript Preservation Project C26/3.

〈二次文献〉

Isaacson, Harunaga, and Francesco Sferra. 2015. “Tantric Literature: Overview South Asia.” Brill’s Encyclopedia of Buddhism I, Literature and Languages. Leiden: Brill.

Kuranishi, Kenichi. 2011. “Notes on the Classification of Buddhist Tantras: The View of Jinadatta and Śrīdhara.”『豊山教学大会紀要』39: (306)–(316). 島田茂樹 1983「Vajrapañjara と Hevajra」『印仏研』32 (1): 188–189. 種村隆元 2010「密教の出現と展開」奈良康明・下田正弘編『新アジア仏教史 2 インド II 仏教の形成と展開』佼成出版社,210–262. 横山裕明 2016「Ḍākinīvajrapañjara の文献学的研究」博士論文(大正大学).http://id.nii.ac.jp/ 1139/00000697/. Accessed July 5, 2016. 〈キーワード〉 Ḍākinīvajrapañjara,Āmnāyamañjarī,Dvikalpa,アバヤーカラグプタ,タ ントラ分類,非クリヤー,ヘーヴァジュラ,ヨーギニータントラ (大正大学綜合佛教研究所研究員,博士(仏教学)) Ḍākinīvajrapañjara 所説のタントラ分類をめぐる諸問題(横 山) (149) 例は VP の他に確認できず4),基本的にチャルヤーという階梯はヨーガタントラ の上位階梯が用いられるよりも以前から定着していた様子が窺える.ヨーガタン トラの上位階梯が説かれていながらチャルヤー階梯を含まない VP 所説のタント ラ分類法は,一見するとラトナーカラやアバヤーカラが説く五分法に近いように 思われるが,その正確な位置を推定することが困難な独特の分類といえる. ・タントラ諸分類5)(M =マハーヨーガ,U =ヨーゴーッタラ,N =ヨーガニルッタラ) 著者(文献) 分法数(階梯) ブッダグフヤ(『上禅定品広釈』Toh no. 2670) 二分法(クリヤー・ヨーガ) ヴィラーサヴァジュラ(Nāmamantrārthāvalokinī, Skt., Toh no. 2533) 三分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ) ブッダシュリージュニャーナ(『大口伝書』Toh no. 1853) 四分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・M) ジナダッタ(『秘密集会難語釈』Toh no. 1847) 四分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・N(Jñānavajrasamuccaya, Toh no. 447) 五分法(カルパ・クリヤー・チャルヤー・ウバヤ・M(Śrījñānavajrasamuccaya, Toh no. 450) 五分法(カルパ・クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・N

ラトナーカラ(Muktāvalī, Skt., Toh no. 1189) 五分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・U・N) ムニシュリーバドラ(Pañcakramaṭippaṇī, Skt., Toh no. 1813) 四分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・ヨーギニーヴァナラトナ(Rahasyadīpikā, Skt.,Toh no. 1449) 五分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・M・ヨーギニー) アティシャ(『菩提道燈難語釈』Toh no. 3948) 七分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・カルパ・ウバヤ・M・N

4.まとめ

アバヤーカラは,VP 本文に自らのタントラ分類法に沿った改変を施して ĀM に引用した可能性が高い.しかし,VP 所説のタントラ分類法は独特な内容であ り,その正確な位置を推定することは現時点では困難である.ところで,VP は 当時隆盛を誇っていた 6 つのヨーギニータントラの名称を列挙している6).その 中でも現行典籍に近い名称が確認できる Guhyakoṣa(Toh no. 829 または Guhyagarbha, Toh no. 832)や Vajrāmṛta(Toh no. 435 または Amṛtodya, Toh no. 3778)との比較は,VP の内容や他文献との先後関係を明らかにしていく上で貴重な手がかりになり得る.

 1)VP には広本ヘーヴァジュラタントラ三十儀軌五十万頌の全体像が説かれており,DK と の会通をはかる註釈者の登場は必然といえる.広本全体像は横山 2016, pp. 91–106 参照.  2)Ph も同じ.ただし,N・T・K・Sh では bya min(非クリヤー)が bya ba(クリヤー) となっている.この前にもクリヤーは説かれているので西系統写本における誤写と推 測される.

(148) Ḍākinīvajrapañjara 所説のタントラ分類をめぐる諸問題(横 山)

(4)

 3)想定される Skt. は akriyāyoga- だけではなく,akriyaṃ yogaṃ という形も考えられる.  4)ヴィマラバドラの Vajrāmṛtapañjikā(Toh no. 1649)は詳細を判断できない.[D22b1] 一切タントラとは,クリヤータントラとヨーガタントラと秘密タントラとその他である.  5)ここでは同様の分類法を説く弟子の著作などは割愛した.

 6)以下で D を例示するが,Ph と相違するところもあり,一篇ずつの名称は確定し難 い.[D54b5]① kye yi rdo rje dkyil ’khor sangs rgyas kun/ / ② gsang mdzod ③ rdo rje bdud rtsi ’byung ba dang/ / ④ ’khor lo sdom pa ⑤ gur dang ⑥ ’byung gnas ni/ / rnal ’byor ma rgyud drug tu rab tu grags/ / ① 一切仏ヘーヴァジュラマンダラ,② グフヤコーシャ, ③ ヴァジュラアムリタ生起,④ チャクラサンヴァラ,⑤[ヴァジュラ]パンジャラ, ⑥ 根源は,6 つのヨーギニータントラとして有名である.

〈一次文献〉

ĀM Āmnāyamañjarī. [D Toh no. 1198, P Ota no. 2328].

DK Dvikalpa. Snellgrove, David L[lewellyn], ed. The Hevajra Tantra: A Critical Study. Part II, Sanskrit and Tibetan Texts. London: Oxford University Press, 1959.

Vajrāvalī. Mori, Masahide, ed. Vajrāvalī of Abhayākaragupta. Buddhica Britannica Series Continua. Tring: The Institute of Buddhist Studies, 2009.

VP Ḍākinīvajrapañjara.[D Toh no. 419,P Ota no. 11,チョーネ(C)no. 10,ナルタン (N)no. 371,トク宮(T)no. 380,河口(K)no. 379,シェルカル(Sh)no. 297,

プタク(Ph)no. 458].

VPṬ Ḍākinīvajrapañjaraṭippati. Kaisar Library 230 = Nepal-German Manuscript Preservation Project C26/3.

〈二次文献〉

Isaacson, Harunaga, and Francesco Sferra. 2015. “Tantric Literature: Overview South Asia.” Brill’s Encyclopedia of Buddhism I, Literature and Languages. Leiden: Brill.

Kuranishi, Kenichi. 2011. “Notes on the Classification of Buddhist Tantras: The View of Jinadatta and Śrīdhara.”『豊山教学大会紀要』39: (306)–(316). 島田茂樹 1983「Vajrapañjara と Hevajra」『印仏研』32 (1): 188–189. 種村隆元 2010「密教の出現と展開」奈良康明・下田正弘編『新アジア仏教史 2 インド II 仏教の形成と展開』佼成出版社,210–262. 横山裕明 2016「Ḍākinīvajrapañjara の文献学的研究」博士論文(大正大学).http://id.nii.ac.jp/ 1139/00000697/. Accessed July 5, 2016. 〈キーワード〉 Ḍākinīvajrapañjara,Āmnāyamañjarī,Dvikalpa,アバヤーカラグプタ,タ ントラ分類,非クリヤー,ヘーヴァジュラ,ヨーギニータントラ (大正大学綜合佛教研究所研究員,博士(仏教学)) Ḍākinīvajrapañjara 所説のタントラ分類をめぐる諸問題(横 山) (149) 例は VP の他に確認できず4),基本的にチャルヤーという階梯はヨーガタントラ の上位階梯が用いられるよりも以前から定着していた様子が窺える.ヨーガタン トラの上位階梯が説かれていながらチャルヤー階梯を含まない VP 所説のタント ラ分類法は,一見するとラトナーカラやアバヤーカラが説く五分法に近いように 思われるが,その正確な位置を推定することが困難な独特の分類といえる. ・タントラ諸分類5)(M =マハーヨーガ,U =ヨーゴーッタラ,N =ヨーガニルッタラ) 著者(文献) 分法数(階梯) ブッダグフヤ(『上禅定品広釈』Toh no. 2670) 二分法(クリヤー・ヨーガ) ヴィラーサヴァジュラ(Nāmamantrārthāvalokinī, Skt., Toh no. 2533) 三分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ) ブッダシュリージュニャーナ(『大口伝書』Toh no. 1853) 四分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・M) ジナダッタ(『秘密集会難語釈』Toh no. 1847) 四分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・N(Jñānavajrasamuccaya, Toh no. 447) 五分法(カルパ・クリヤー・チャルヤー・ウバヤ・M(Śrījñānavajrasamuccaya, Toh no. 450) 五分法(カルパ・クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・N

ラトナーカラ(Muktāvalī, Skt., Toh no. 1189) 五分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・U・N) ムニシュリーバドラ(Pañcakramaṭippaṇī, Skt., Toh no. 1813) 四分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・ヨーギニーヴァナラトナ(Rahasyadīpikā, Skt.,Toh no. 1449) 五分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・M・ヨーギニー) アティシャ(『菩提道燈難語釈』Toh no. 3948) 七分法(クリヤー・チャルヤー・ヨーガ・カルパ・ウバヤ・M・N

4.まとめ

アバヤーカラは,VP 本文に自らのタントラ分類法に沿った改変を施して ĀM に引用した可能性が高い.しかし,VP 所説のタントラ分類法は独特な内容であ り,その正確な位置を推定することは現時点では困難である.ところで,VP は 当時隆盛を誇っていた 6 つのヨーギニータントラの名称を列挙している6).その 中でも現行典籍に近い名称が確認できる Guhyakoṣa(Toh no. 829 または Guhyagarbha, Toh no. 832)や Vajrāmṛta(Toh no. 435 または Amṛtodya, Toh no. 3778)との比較は,VP の内容や他文献との先後関係を明らかにしていく上で貴重な手がかりになり得る.

 1)VP には広本ヘーヴァジュラタントラ三十儀軌五十万頌の全体像が説かれており,DK と の会通をはかる註釈者の登場は必然といえる.広本全体像は横山 2016, pp. 91–106 参照.  2)Ph も同じ.ただし,N・T・K・Sh では bya min(非クリヤー)が bya ba(クリヤー) となっている.この前にもクリヤーは説かれているので西系統写本における誤写と推 測される.

(148) Ḍākinīvajrapañjara 所説のタントラ分類をめぐる諸問題(横 山)

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