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ま え が き

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Academic year: 2021

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ま え が き

有限な地球という制約条件の中で,いかにすれば豊かな社会を維持発展で きるかとの問いに,人類はまだ解答を出せていないと思う. じつは,何が本 当に課題なのかも,情緒的な情報があふれで,よくわからないでいることが 多い.皆が地球の温暖化を防止したいと思っているが,問題の本質が何で本 当はどうしたらよいのか分かっているのだろうか.例えば,バイオ燃料を使

うと,どの程度二酸化炭素の排出を減らすことができるのだろうか.そのコ ストは許容範囲なのだろうか,他への悪影響が出たりはしないのだろうか

「化学物質」についても,そのため環境が悪化したと思う人がいるが,そうな のだろうか. もしそうなら,役に立っている多くの化学物質をいったいどの ように使えばよいのだろうか.

こういった問題に対して,化学者,化学技術者の立場から事実を科学的に 認識し合理的な対策を出そうというのが,本書で扱う化学環境学である.

本書は,環境の現状とその問題点について化学の視点に立って総合的に解 説し,さらに,その問題を解決するために必要な化学的な技術とそのあり方 を述べたものである.これらをあわせて「化学環境学」と呼ぶこととした 化学環境学は新語ではないが,従来のものを発展的に再定義したつもりでい る.本書はいわばこの定義による化学環境学の概論・試論でもある.

人類は圧倒的に強大な自然に対して譲歩しながらも厳しい挑戦を続け,よ り便利で、より豊かな社会へ向けて文明を築いてきた.いまでも自然の力のほ うが圧倒的であるが,人類が進める地球規模の開発は気候までも変えてしま いそうな勢いである ところが,近年,開発による副作用が人類自身の持続 性を危うくする恐れのあることがわかって未来に対する不安が広がってい

る.

『化学の指針シリーズ化学環境学~ (御園生誠著/裳華房)

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νt  ま え が き

このような状況の下で環境を維持しさらには改善したいと皆が願っている が,その願いをかなえるためには,まず,環境の構成要素とその量的関係や 動的挙動を正しく理解せねばならない.なぜなら 環境は非常に複雑で不確 実性が大きく,対策を立てるためには対象を多面的に理解することが欠かせ ないからである.誤って理解したり,局所的にしか見ないで判断したりする と,良かれと思つでしたことが逆に悪影響をもたらすことが少なくない マ スメディアや科学者を含め,社会全体に,環境の全体像を見誤った情緒的な 理解と行動が広がっているように思う.そのため,本書では,なるべくデー タを用いて客観的に記述するように努めた.データをわずらわしく思ったら 読み飛ばしてもよいが,データがあったことは覚えていて機会を見つけて確 認していただきたい データは毎年更新される またデータの精度もさまざ まである.変化の大きいものはなるべく最新のデータを選び¥精度について も確認を心がけたが必ずしも十分で、はない.最近はインターネットで容易に 最新データが入手可能なので,信頼性をクロスチェックしつつそれらを活用

されたい.

本書では,全体を環境の理解と対策に分け,まず,環境の現状と問題を解 説しその後に対策技術とそのあるべき姿を述べた すなわち,まず第l章 で化学環境学の全体像を把握したのち,第 2~4 章で環境の現状を理解して

もらうようにした続いて,第 5~10章に対策技術とその基盤となる知識 やツールを解説した.問題提起型の記述がしばしばあるが,単純化しすぎた 記述を押し付けるより,読者に考えてもらうことを期待したためである.

理解(第 2~4 章)と対策(第 5~10章)はおおむね 「狭義の科学」と「技 術(工学)Jに対応する.両者は,近代になって密接な関係をもつようになっ たが,それぞれ「科学のための科学

J

と「社会のための科学」とも呼ばれるも ので,異なる歴史をもち ねらいや方法論が異なる.狭義の科学は知的好奇 心を駆動力として発展し 心を豊かにする文化の一部となる もちろん,技 術などを通して社会に貢献することもある.一方 技術は,目的をまず設定

(3)

ま え が き Vll 

し(ものやサービス),それから目的実現のための手段を合理的に設計しさ らに具現化して社会に直接的に提供する.いずれの技術も,多くの科学・技 術分野のみならず人文・社会科学および現実の社会・経済の知識を必要とす る.化学技術も同様で, 化学はその主要な要素の一つであるが, 化学の単純 な延長や応用(=リニアモデル)ではない.

本書の内容は,著者が東京大学時代に考えた環境触媒の延長線上にあり, その後勤めた工学院大学における「化学プロセス環境学」と「環境化学工学」 の講義をベースにしたものである.総合性とデータを重視したこと以外に,

環境改善の技術と化学物質に関する記述に力を入れた点が特徴である.本書 が,環境を正しく理解し適切な行動をするための出発点,そして健全な基礎

となることを願っている

章の数と講義時間とが整合しないかもしれないが,講義の目的に応じて各 章を適宜伸縮・分割して対応していただければありがたい.その際,巻末の 参考書のリス トが役立つであろう.演習問題には,正しい理解のための計算 問題や復習のための問題と,正解が必ずしもないもので読者に自由に (でき ればじっく り)考えていただきたいものの両方がある.なお,第1,9章およ びあとがきはすでに発表した著者の総説,論説を編集 ・補筆したもの.第2, 11章の一部も同様既発表の解説を編集したものである.

おわりに,本書の内容について,製品評価技術基盤機構 (ナイ ト)・化学物 質管理センターのスタ ッフはじめ多くの方から助言や示唆をいただいたこと

を感謝する.また,本書を執筆する機会をくださった井上祥平東京大学名誉 教授,出版に当たりお世話になった裳華房小島敏照,山口由夏両氏に謝意を 表する.

20078月

御 園 生 誠

参照

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