「自由に思考」するために
三枝省三(就実大学経営学部)
西山敦士(広島高等商船専門学校)
An Insight for Thinking Freely
Shozo Saegusa Atsushi Nishiyama
要旨:筆者らの苦い経験から自由な思考の大切さを問題提起した。スキルとしての発想力は大切で あるが、考え方としての思考がより重要となる。自由な思考の議論を展開するために創造性に対す る定義を試みた。基礎となる多くの知識の構築、それら知識間の融合、そして発案である。創造性 を推進するためにもそのプロセスの自由思考を阻害しているバイアスにとらわれないためには何を どうすることが大切かを吟味した。そして、新しい創造力は鍛錬できることを記し、自由思考をす る方法を考察した。さらに、直観と閃きに対する考察をし、基礎的知識の集約とそれらの間の揺ら ぎが新しい考えを可能にすることを述べ、これらを具現化するプログラム案を提示した。自由な思 考を得るためには「ものごとに拘らず」観察し考察することが大切であり、そのためにも多くの人 との出会いがある。
Abstract: From our bitter experience, we raised the issue of the importance of free thinking. The ability to think as a skill is important, but thinking as a way of thinking becomes more important. We have tried to define creativity in order to develop a free-thinking argument. It is the construction of a lot of underlying knowledge, the fusion of those knowledge, and the idea. In order to promote creativity, we examined what is important to avoid being bound by the thinking bias that hinders free thinking in the process. New creativity can be disciplined and ways to think freely are considered. Intuition and inspiration are incited, and the aggregation of basic knowledge and the fluctuations between them enable new ideas are discussed. We presented a program proposal that embodies these.
キーワード: 創造性、自由な思考、メタ認知思考
Keywords: Creativity, Free Thinking, Metacognitive Thinking
1.はじめに
思考する時何か目的を持って始める。それが生活であれ、仕事であれ。その目的が明確で具体的
な目標値設定が可能なほど、戦略的な構想となり実行は極めてスムーズになる。そして、活動はプ ロジェクトと言っていいものとなる。例えば引っ越しである。X月X日8:30に業者が来て、結果翌 日には新しい生活が始まる。そのための準備をどうすればいいか、から始める。雑多で時間を後倒 しにする細かなこと以外には何もトラブルはないだろう。あるとすれば我々が知らないだけであり、
その知らないものを考え、早急に手に入れることを考えればいい。
一方、新しいイベントとか、他社にはない新製品や新技術を創出しその結果として差別化を成す とか、シャッター通り対策に地域活性化を図るためのアイデアの創出には別な思考が必要である。
既にどこかで実行していても既存のものとの差別化が要求される。あるいは、矛盾した状況の中で、
両方に適合できる案の創出や最適解が求められる。そこでは制約条件は高く、しかしながら他には ないアイデアの創出が必須となる。
第1の例ではトラブルなく、楽しい引っ越しをどの様にアレンジするかに喜びを得ることにな る。第2の例では世の中に無いアイデアの創出が大きな課題であり、同時にそれを発案しようと考 えることに喜びを見つけることになる。さて、それを実践するにはどうすることが必要なのか、何 を基準に考えればいいのかが、本論のテーマである。
言葉を変えると今までの経験に左右されないで、自由な思考の中で、新しい発想は出来るのか?
と言い換えてもいい。新しいと思える思考も往々にして、今までの知識と思い込みによるバイアス がかかっている。新しい発想をしたと思っても、多くの場合「それはどこかで見た」ものとなって いる。このバイアスを取り除きながらどうして自由な発想を得ていくのか、である。
2.思考法の分類と新しい発想の必要性
そこで、これらの思考パターンを図1の様に分類試行する。ここでは技術系コンサルタントを意 識しながら分類を開始している。即ち、エンジニアのための発想法分類としてもいいだろう。
図1 各種思考法の分類
横軸右側には効率(短時間で解決できるか?)と対極には偶然性の評価(世の中に無いか?、時 統合創造型思考
総合(機能、新しさ)
間よりも新規性)を持ってきている。一方、縦軸は、分析的であるか総合的であるか?という軸で ある。当然であるが分析した結果の後は対策をし、設計をすることになる。
このマトリクスでは以下の様に考えている。
第1象限に「仮説思考法」・・・技術トラブルが発生し、その原因究明と対策案の創出を考える ことになる。製品の市場でのトラブルでは原因を同定すると同時に限りなく顧客に迷惑を掛けない で、対策案を講じることが必要である。このような時は、原因を推定(仮定)し、それに向かうシ ナリオを考える。その物語を逐次検証することで確認を取りながら最短で原因究明と対策を講じる。
この流れを考えることで、そうでない現象が発生したときに直ぐに気が付くことが出来る。ここが 第1の自由な発想のポイントである。第1の主原因に固執すると多分に間違った対策するか、もし くはそれで完了と思い込むことになる。これは犯罪捜査の冤罪を生むことと凡そ同意である。
ここで大切なのは与えられる条件である。第1象限ではおよそ境界条件とか与件はある程度明確 に分かっていて、それらの制約条件下での最適な解を追求することになる。分かっている境界条件 はとても重要で、このカテゴリーの中で関連する知識を学習・習得することが可能である。例えば、
騒音問題なら、機械力学、騒音工学、流体力学、制御工学などがそれである。経営のマネジメント なら、経済学、経営戦略論、マーケティング、生産科学論などとなる。担当者はものすごいスピー ドで現場対応しながらもそれらの知識を吸収することが可能である。即ち新人をここに投入し、大 いなるトレーニングの場とすることも可能である。
事故対応が第1象限とすると設計問題は第3象限となる。そこで、次に、第2象限ではなく、第 3象限を記載する。
第3象限では「ゼロベース思考」・・・あらゆる可能性を拾い出すことが必要である。少なくと も現時点で考えられるあらゆる手段である。それでも作り出せなく世の中に無いものを作り出す活 動である。結果として出来上がってきても、そして有って欲しい機能表現は出来てもそれが何を意 味することか不明な状態で始めることになる。やがて、形にするための具体的な仕様に落とし込む ことになる。それをもとにさらに構想設計となる。往々にして、このプロセスを実施していない場 合が多いが、顧客がいれば、彼らと対話することで、より使えるものへの構想となる。
第2象限、「矛盾構造の思考」・・・矛盾した条件のあるシステムでの最適解の探索である。例え ば有名なライト兄弟の初飛行へのプロセスでも出てきている。そこでの設定課題は「人を乗せて操 縦可能な飛行機」の開発である。当時はまだグライダーで真っ直ぐ飛べる飛行がやっとの時代に、
この命題を設定し、それを解いたことが偉大であり、それを進めるべくライト兄弟は奔走した。人 を乗せる強固な翼を持ちながら一方では旋回などの操縦が可能な様に柔軟な翼が欲しい。この相反 する命題を矛盾構造化し、その中で解くというのはTRIZ [1]の得意とするところである。機械の極 限を追求するときには常にこの状態に遭遇する。
人と人の関わりの中では科学にはその矛盾に落ち込まない様にというのが原理原則かもしれな い。しかしながら、よく現れることでもある。例えば、「遊びに行きたいが、お母さんが宿題をや れという」ということは日常である。今までの常識に囚われず新しいソリューションを求めること
が矛盾する問題の解決策となる。これを一般化したのがゴールドラットの制約条件下での最適化へ のアプローチを考えるTOC [2]である。
これは、第1象限(仮説思考)からすると境界条件がより厳しく設定されただけと感じるであろ う。もしくは解を得るプロセスで条件が厳しくなっただけと思うかも知れない。その側面は否定で きないが、飛行機の例の様に最初から解へのプロセスは矛盾の条件の中から創出している。この矛 盾条件に気が付き、本質的な課題設定をすることが大切なアプローチとなる。
以上で第1,2,3象限の説明が終わったが、次に第4の思考に行きたい。しかしここでは第4 象限にはならない。ここでは統合型で且つ創造型の思考方法を考察しているので、これを統合創造 型思考と名付ける。
この立場は「デザイン思考」と主張する考え方もある [3]。2010年ノーベル化学賞受賞の根岸英 一氏1のいう偶発的な発見(セレディピティー) [4]もここに分類できる。大きな物語(ストーリー)
がありその物語に則して事象が発生し問題解決もなされていく。その物語から逸脱したところは、
前に進める障害ではなく、大いなる機会(チャンス)となる。根岸氏は系統的なアプローチと言っ ている。その中での偶発的発見を認めている。
ここまでそれぞれの思考の中での「自由」な思考の位置付けと必要性・可能性を示した。さらに 別な側面での自由な思考の必要性についてビジネスコンサルタントでイノベーションとか関連する 発想法に強い山口 [5]も参考に考察する。それは現在の情報社会の有り方の変化についてである。
話を進める前に、今までの思考法の特徴をまとめると以下の表1になる。
1 根岸英一氏はその著書「夢を持ち続けよう! ノーベル賞 根岸英一のメッセージ」の中で、また授賞式と受賞後の
2011年正月特別番組の中でもこのセレンディピティ―はあるとき突然でてくるのではなく、物語りの中の別な登場人 物として出てくる。この物語りが大切であると言っている。
表1.思考法の比較
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これらの思考法はそれぞれが特徴を持っており、その特徴を最大限に活用して目的を達成する。
しかし、「自由な思考」は往々にして阻害され途中で挫折を味わうことになる。それはデジタル化、
情報社会の流れのなかで、下記の阻害要因があるためと考えられる。
第1はデジタル化が進むことで急速に社会構造が変化していることである。変化のスピードが速 い。デジタル技術は複写が無料でかつ容易である。それを活用すると色々な変化を作ることができ る。意思の疎通にはSNSを使い、ビデオ通話も無料でできる。(チープ革命)[6]は今や価格の無料 化(フリー) [7]が進み、車や住宅の共同使用(シェア)[8]が普及し、在宅勤務もより可能となる。
この速さにどれほどの人が付いて行けるか?特にこれまでに職業経験を積みその経験値が社会活動 上大きな価値を発揮している方々にとって。自らが身に着けてきたその経験そのものが新しい知識 の自由を奪って、自らが馴染めない世界を創ってはいないか。
第2点は情報の普遍性の問題である。個人に属していた情報・知識は検索すれば真偽のことは別 に直ぐに出てくる。今までに多くの経験と知識を有している方々にとって、これはその価値を低下 させる大きな特性である。この変化について行けるだろうか?もしくはそれとは違う世界を再構築 可能か?AI時代に置ける人の生き残りの可能性は、人の価値を何に求めるかということにもなる。
即ち、その情報を生む側であり、情報を作りだす課題の創出が自由にできるかに掛かっている。
第3点は人生100年シフト [9]である。今までは、学習、勤労、老後余暇の3ステップモデルだ った人生設計が、学習、勤労①、勤労②、老後余暇の4ステップモデルに変わらずを得ない。2019 年春には雇用70歳、それに関連して年金の支給開始もそれに合わせる可能性を政府は表明している。
高齢者が長期間働かざる得ない状況の中、組織の中での年配者の位置付けは、前述のように気持ち のいい場所ではなくなって来ている。組織が変革するには新しい知識が必要である。それは知識の 進化と知識の創出 [10]の両方が必要であり、経験と多くの知識を持った年配者の活用で創造性を 発揮できる [11]はずであるが、それが適わなくなっている。
このジレンマからの脱出には変わりゆく姿を追い求めるのではなく、自分のやりたいことを追い 求めること [12]で、自分すら変わっていくことが必要と考える。そしてそれは、自由な思考の中 で育まれると考える。
さて、ここまでは設計をする際の思考パターンと情報社会の変化からの思考の有り様を示した。
そこでは、古い価値、過去の知識や成功体験、序列、不寛容をどう打ち破って自由な思考が出来る ようになるかと言うことに尽きる。即ち、どこまで頭を柔らかく保つことができるか、である。
3.言葉の定義試案
具体的に議論を進めるためには以下の言葉を混同することなく使うことが必要である。そこで、
後の展開にも合わせることが出来るよう、言葉を定義しておきたい。
「思考と発想」はどう違うのか。「創造性」とは何なのか?の2点である。
3.1思考と発想の違い
この2つはよく混同して使われている。普通に考えると「思考」であるが、言葉にするときは「発 想」の方が、聞き応えがある。よく使う方法論として評価が定まって著名な辞書を引用する。即ち、
広辞苑 (第7版) で、
思考とは、
① 思いめぐらすこと。考え。
② [哲](thinking)㋐広義には人間の知的作用の総称。思惟。㋑狭義には、感性や意欲の作 用として区別して、概念・判断・推理の悟性的・理性的な作用を言う。知的直観をこれ に加えることもある。
③ [心]㋐考えているときの心的過程、㋑ある課題の解決に関与する心的操作
とあり、一方、
発想とは、
①思いつくこと。思いつき。②思いや考えを形に表すこと、③音楽の曲想、曲の緩急強弱を表現 すること、
とある。そこで、これらの記載から下記の様に、これら二つの差異を明確にしたい。
思考と発想 どちらも考えることであり、思考プロセスを経て発想に至る。と考えることがで きそこに差異が明確になる。
3.2 創造性の定義試案
つぎに創造性の定義を試みる。ここでは新しいアイデアを創出するプロセスとして定義すること を考えると、以下の様な試案となる。
3.13`-cEV
QÀ¦ À¦
3.2K Cc2<#
図2. 創造性の定義(発現プロセスの視点から)
境界条件のぼんやりした知識群が脳内ネットで緩く結ばれた状態で存在している。そこに、社会 的にも意義のある目的を持った要請が発生すると、ある知識と他の知識が異質な融合をなし、別な 知識がつくられる。それだけではその知識が本当に自分にとって必要なものか、欲しかったものか が不明である。それを意思決定まで持ち込むには、それに対する情動の作用があって初めてその人 が欲しかったもの (当初の目的に沿ったもの)となる。概念的には図2となる。
以下、もう少し詳細に記載する。
この場合の情動とは、それが生まれて非常にうれしいという感情である。生まれて欲しくないも のが出てきても直ぐに排除され、記憶として残らない。もしくは残したくない。
創造性を発揮するのに基礎的事項としては関連分野での知識習得 [13]が必須である。これはチ クセントミハイ2も言っている [11]。創造性には色々な分野の知識が必要であり、そこにおける知
2 M.チクセントミハイ;アメリカの心理学者で創造性に関する多くの著書を出している。文献[11]には約100名の著
名人にアンケートを出し、その結論として、知識習得の必要を強調している。そこで、しっかりとした目標を持ち活 動している人は、年齢とともに創造性が上がると断定している。
識の定義はしっかりしているが存在のための境界条件はその時々によって変わってくる。即ち、こ れはこれだという定義はあるが、これだけに存在しているというものではなく、その周囲は非常に ぼけたものとなっている。即ち可能性のあるものとなっている。
ここに目的意識が発生すると緩いネットワークは知識と知識の結合を促進し新しいネットワーク とくなり、新しい知識を作って行くことになる。シュンペータのいう新結合ラジカルイノベーショ ン(A+B⇒異質なC)である [14]。そして、発案されたものが、社会的意義を持ち、発案者の意 思決定と行動に移ることになる。
ただこれがどの様な関係性で生まれるかということについては、ダマシオ3は情動と論理(知識)
のバランスが非常に大切となると指摘している[15]。情動で好き嫌いを振るい分け、論理で仕上げ をする。仕上げの時もそのバランスが寄与する。これが好きだからやりたいからそのための説明を 論理で実行することになる。他方、論理で積み上げたものは次の瞬間、情動でその流れが一気に変 わる可能性を持っている。そんなのは「嫌い」と言われたら今までの努力は水泡に帰す。即ち直感 とかひらめきは発想とか意思決定に無視できない存在である[16]。これらがいつ生まれるか、どの 様な条件の時に生まれるかについては後に議論する。
最後はその創造性をどう評価をするかという点である。これは分かり易さと、計測のしやすさか らランコの考え方 [17]が適切と考える。それは創造性を三つのカテゴリーに分け、評価対象の特 性に合わせた特徴的な表現がある。それらは、Originality(独創性)、Fluency(流暢さ)、Flexibility
(柔軟性)の3つであり、思考のOFFと表現してもいい。どれかが万能でそれで評価すべきだとい うのは無く、目的に応じて何を強調して計測観察するかは、活用する立場での違いで決まる。もっ ともこれら3つの相関は高い [21]。
一方、日本創造学会はホームページに創造性の定義を示している。社会的な視点での定義には極 めて有効であり領域定義も明確である。しかし、どの様なプロセスが創造性に対する理解を進める か、使う人がこれから再定義しなくてはならないので、ここでは前記の定義とした。
参考)日本創造学会での創造性の定義 [18](HPより、2019年6月15日閲覧)
定義(領域)と記すと、
人が(創造的人間/発達)
問題を(問題定義/問題意識)
異質な情報群を組み合わせ(情報処理/創造思考)
統合して解決し(解決手順/創造技法)
社会あるいは個人レベルで(創造性教育/天才論)
新しい価値を生むこと(評価法/価値論)。
3 ダマシオ:南カリフォルニア大教授。神経心理学者で感情、意思決定、意識などを司る神経系の多くの論文を輩し、
多くの受賞をしている。特に感情が高次認知に於いて大切な役割を果たすことを明らかにした(参考:Wikipedia 英 語版、2020 11/15閲覧)
(作成・高橋誠氏)
4.頭を柔らかくするには 4.1 視覚の嘘(錯覚)
多くの方が必ずどこかでみた「若い娘さんとおばあさん」の図、どちらに見えるかと言う心理試 験は有名である。どっちの、どこを主体に、何を強調して、どの視点で、と思っているとその度毎 に娘さんやらお婆さんやらに見えてくる。もう一つ面白い例がある。知人から教えてもらった。
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図3. 変身するガレージ屋根4 (出所: 明治大学博物館 [18])
図3. は三角形の波板をある意図を持って切ったものである。正面と鏡に映った図はなんと、正 面が凸の屋根なのに、後ろから見ると波板に見える。その種明かしは出所の明治大学博物館に提示 している。垂直面に気を取られ、波板の長手方向の差異に気が付かない。勿論ある角度だけで見え る現象ではあると解説している。
即ち人は多くの情報を視覚から得ており、その視覚は偏ったセンシングの仕方をしている。そし てそれが間違っていないと思っている。
これらのことは何を言っているか?もし意思決定がこのプロセスそのものだとすると多くの理に 適わない誤謬を認めなくてはならなくなり、ぞっとしてくる。これを回避することは不可能なのか?
さらに次節で考えてみる。
4.2 心の偏りをなくするために
前述では視覚バイアスを述べた。どうやら知識バイアスと心理バイアスも手伝っており、それら が自由な思考を妨げている可能性がある。そこでもう少し掘り下げ、その思考がどうなっているの か、思考をどうすると自由な発想になるのかという視点、即ちメタ認知について考えたい。思考法 としてのメタ認知に関しては第6章で考察するが、ここでは偏り(バイアス)に対する入り口の考 察をしたい。
4 明治大学先端数理科学インスティテュート 杉原厚吉作
メタ認知は、「認知活動をもう一段上からとらえること」と三宮は定義 [19]している。それを質 問形式で表現すると、
今までのことを整理してみるとどのように考えてきましたか?
あれこれと矛盾点が見えてきましたが、何がその要因か考えてみましょう。
いったい今までなにを考えていたのでしょう?
もう少し頭を冷やして考えて下さい。悪いのはどっちか、という考え方は止めませんか。
などとなる。4つの事例をあげたが、いずれも自分は第3者となり、状況を見分して分析と判断を している。即ち、考えている自分は何者で、何を考えているのか、と考えることができることは、
偏りをなくする大きな駆動力となることが分かる。これはAIにはできない思考プロセスであろう。
自分の存在を否定するとこになるから。
偏りをなくするとは、知識領域においても視点の構築においても必要なことで、より適切なメタ 認知ができるかになっていく。また、あるときある問題を解決するために観察する切り口を作成す る(即ち視点の構築)ときでも現在持っている知識群に左右されることも大いにありうる。
結果として獲得する知識領域もバランスよく学修が必要であることが分かる。これには人文・社 会・自然の各知識を適切に所有しそのうえで本人の持つ専門性を持っているのが理想的であると考 える。即ち、幅広い一般教養とある領域では突出した研究という考え方はリベラルアーツの必要性 を強調したことになる。さらに複雑化した現代では統合レベルをより広範にするために知識領域を 2つ持つことも必要である。
4.3 頭を柔らかく(漢詩で鍛えると)
なぜリベラルアーツは有るのか/必要なのか、なぜ幅広い教養と知識が必要なのか。さらに芸術 とかと言った感性に訴える領域も必要なのか。工学など実学を学ぶものから見るとなぜ一見関係の 無い学問的知識が必要なのかと思う。少し観点を変えて同様な問題提起する。空を見上げて雲を発 見したらその雲から連想できる形、モノ、を数多く拾い出してみよう。数多くがみそである。一つ 二つは簡単であるが、それを10個連想しろと言われると意外に難しい。出てこない、出てきても同 じようなものばかりとなる。これには知的トレーニングが必要である。しかし、トレーニングで何 とかなるならそれは楽しい世界が待っているに違いない。そのトレーニングを積むことでバイアス のない発想がえられる可能性がある。連想が出てくる、色々な連想が可能となる。そこで、検討中 ではあるが、そのトレーニングの一手法を次に示す。
人はなぜ象形文字という漢字を発見したのか/できたのか、そして、2つ以上を合わせて会意文 字を発明したのか。この漢字に少し焦点を絞ってみたい。ただ白川[20]も言うように「字形解釈に は誤りが甚だ多く、ほとんど謎解きに近いものもある」。逆にそれは面白い側面を持っている。例 えば「蕨(わらび)」という漢字を考えてみよう。これは会意文字である。「蕨」は図4に示す様に 4つの象形文字から成り立っている。「草」「崖」「逆」「欠」を合わせた漢字である。そこで、想像
力を切磋琢磨し下記を考える。
「草」は草冠となり草の類を意味する。「崖」の切り立った崖を表す「がんだれ」。人が逆さまに なると頭が下にくる。この形は手足が分かれているし胴体がある、さらに頭を下に崖の中腹から何 かを取ろうとする形に見えてくる。そして、取ってきた薬草は煎じて飲む。これが「蕨」だと思っ た瞬間にもう漢字の「蕨」は忘れない。蕨の物語が出来たからである。漢字学者に言わせると合っ ていないと言うかもしれない。しかし、色々5調べたものを繋ぎ合わせるとこう考えるのも一つの 解釈であると感じる。
4.3 Ij"fYZu&=_GWh`v
図4. 「蕨」を紐解く
これは面白く、調べだすと止まらない。断片的なヒントを元に大いに想像するプロセスとなる。
それを重ねると創造性の鍛錬にもなると考えられる。そこで考え出したのが、想像力チャレンジと いう、創造性鍛錬の方法である [21]。これは漢詩を使うが詳細に正確に読み解くのではない。漢 字の基本は中学時代に勉強しており、そこを前提として、想像力を発揮し、作者はたぶんこの様な 意味で書いたのだろうということを思い描く。これを一つの文章にして記述する方法である。
図5.漢文を使った想像力チャレンジ
これを間に挟んで、前後にはワード連想をやってもらう。この言葉の遊びはランコ[17]の創造力 アセスメント(Originality 独創性、Fluency 流暢さ、Flexibility 柔軟性)よりヒントを得たものであ る。流暢さは結果として数多くの連想ワードを記載することになるので、その数を計数することで
5 漢字漢和語源辞典、「蕨」https://okjiten.jp/kanji2709.html (2020 2/22 最終閲覧)
定量化することが可能である。仮説として
(1) 創造力が高く多くの思考をする人は多くのキーワードを出す (2) 漢文を使った想像力チャレンジは創造力の鍛錬となる
である。79名の本学学生(経営学部1年生)の協力を得て、前後のワード連想の増加率と漢詩説明 の字数は0.3程度の相関ではあった[21]。試験前後で40%程度の発想数増加も観測された。さらに精 緻な実証が必要ではあるが自由な発想のトレーニングツールになる可能性を持っていると考える。
想像力は創造力に通じる可能性が高い。いろいろと思案することで、多面的に物事を観察し、考 察可能である。そうするとこの状態は知っているだけではだめで、問題に即して可能性を拾い出し 吟味せよということにもなる。そこで、思い出すのが孔子のこの言葉である。
「論語:為政 第二 十五 子曰、学而不思則罔、思而不学則殆」
色々と学習しても、その学びを自分の考えとして纏めることをしなければ、身につかない。ま た、自分だけで考え、人から学ぼうとしないと、考えが一面的になり危険である6。
ただ、ここでは前半だけである。学んだことをどう活用するか、現実での出来事に対しストーリ ー性を持って捉えることができるか?ここでいうストーリー性とは前後の因果関係を明白にし、小 説のように流れを作ることである。これがあることで、物事は生き生きとしてくる。そして歴史学 に当てはめるなら、個別の知識が大きなストーリーとして見えてくる。考えることにより真実に迫 ってくる。だから忘れない。一度でてくると覚えている。新しい知識が創造された。大切なことは 知識を覚えたことではなく、新しいストーリーを作ったことであり、できたことである。
5. 直観、閃き
5.1 誰もがする珍しい体験
柔らかく考えることをもう少し考察したい。ここでは自然のままに出てくる考え、発案である。
皆さんは下記のような体験をしたことはありませんか?
寝ていて、昨日の失敗が急に思い出されて目が覚め眠れなくなった。
バスの中で、懸案の企画案が急に発案され、急いでメモを取った。
あるパターンを見ていて同じ傾向が別な機器でもあるのではと、ふと思った。
木目を見ていて、はっと、干渉縞もこのような濃淡が付けられると新しい計測法となると 思いついた(後に特殊な干渉法とかモアレ縞手法が有ることが分かった)
6 童門冬二、「男の論語」(上)、(2019), pp76 78 の解釈をもとに記している。
― 13 ―
たまたまであるが、上記は筆者の体験である。これは多くの人が体験しており、記録に残さない がために体験をしたことすら忘れていることである。
ここで話しを進めるために言葉(直観と閃き(ひらめき)の定義をしておきたい。
直観とは:多くの経験値から今発生している問題に対処するための可能性を最大にしている事例を 思い浮かべ最大限に活用すること。およそ第六感と同じ意味。
閃きとは:多くの知識、多くの経験を超えて、何となく思考ネットワークの中から湧き出すアイデ アである [22]。この発想は「A+B⇒異なったC」となるシュンペータの新結合 [14]と同じものとな る。それがある日突然の発案なのか、思考の強制発想のためなのかが違うだけである。もちろん新 結合のプロセスにおいても閃きを認めた上のことである。
とすると、これらの直観と閃きの関係は図6の様に構造化して説明が可能となる。
そしてそのプロセスを纏めると次の7つのステップとなる。
ステップ 1) 問題が発生・・・その問題を解決する方向性は何か、を考えることになる。もしくは
「何かがおかしい」がその「何か」の正体が分からない状態かもしれない。筆者はこの気持ちにな ることが多々ある。この「何かがおかしい」ということは非常に大切にしたい。必ず問題があるが、
問題点そのものが分からない状態の時この気持ちとなる。それには少しでもいいので記述してみる。
やがて問題点はここにあるらしいと気が付く。余談ではあるがこのプロセスはAI研究者の松尾
(2015) [23]も言うように人間にしかできないと考える。
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図6. 自由な思考を考慮した思考・発想の流れ
ステップ 2) 課題化・・・以上の問題を解くために課題を設定することになる。問題を紐解きその 解をどこにどこに求める、からどんな課題を設定[22][28]するかという設問の内容で解決方向やア プロ―チが大きく変わる。同じ問題にも課題の設定には多くの視点がある。即ち解決策は1つでな い。ここでは、問題レイヤーの一つ上側で視座を高く取り、間違いのない方向感覚が必要である。
設計問題では設定された課題を前に推し進める思考が必要であり、トラブルシューティングでは想 定されるプロセスを完結させる思考が必要である。いずれにしろ、問題を課題化することは問題解
決の戦略的アプローチを意味し、良い課題設定はより早くより適切な解にたどり着く可能性が大き い。
ステップ 3) 解の案出・・・そして発散の思考である。その課題を解決する解はどんなものがある のか?可能性を全部拾い出すことになる。数多くの発散思考が方法論として提案実践されている。
ブレイン・ストーミング(BS法)、マインドマップ(MM法)、カードBS法などなどがそれである。
過去の事例を探索し、その中から適正なものを拾い出し、それと今度の問題点の類似性を吟味など する。
ステップ 4) 直観へ・・・このころから直観的思考が出てくる。ただこの直観はあるとき本当に突 如として出てくるものではなく、それまでの考察と試行錯誤、そしてそれらの間をあちこちと揺ら ぎ、可能性を探っている中[13]での出来事である。高橋[25]は明確な定義はしていないが、創造的 思考は論理と直観の統合思考であると言っている。まさしく揺らいでいる。
ステップ 5) 閃きへ・・・そして突然、「アッこうしてみればどうだろう」と感じ、一気に構想を書 き上げる。閃きは今までと隔絶された全く新しいものかという問いかけもある。前記の鈴木[13]は それまでの思考で最終解に近いものがあり、それらを無意識にサーベイしている、そして最終的に これだと思ったときそれまでのプロセスを全て意識しているわけではないので、世の中で初めてと いう気持ちとなる、と説明している。しかし、それまでを意識のない状態でやっているのだから、
初めてであると言っても過言ではないと筆者は考える。
ステップ 6) 収束・・・ステップ4とステップ5は陽に意識しなくても、収束思考となる。解決側 から要請されている条件と発案が合致しているか、さらに適合性度の高い解はないかと今度は制約 条件の中で考えることになる。
ステップ 7) メタ認知・・・最後は振り返りである。この問題点でこの課題設定でよかったのか、
なぜこの結論が最適解なのかなどと振り返る。振り返りは最後にするばかりではない。メタ認知の 方法[19]を常に活用し、このプロセスでいいか、それらをさらに面白いものにするには何を考えな くてはならないかを考える。
この閃きを得るためにはどのようにしたらいいのか?
チクセントミハイ(2003)はオープンマインド状態(瞑想:フロー)を作れ、と主張する。例え ばこんな事例がある。これは私の体験でもある。
● 課題を頭に整理して仕舞い、一旦全てを忘れる、これで何を考えてもいい状態にする。
それには運動をする、バドミントンをする、シャトルがとう飛び交っているか、どう動けばい いか、これらしか頭にない状態が少なくとも 1 時間は続く。
● フィットネスセンターでふだんは動かしていない筋肉を動かす。いつも使っていない筋肉を 使ったとか違う風景を見たとかという状態が大切である。
● 冷蔵庫の中は見てきたが買い物リストを作らないで、夕食の食材をスーパーに買に来る主婦 は食材を見たとき、「あっ、あれにしよう。」と言う。そんな経験を世の男性は多々経験してい
るのではないか。
これらは個人的な体験であるが、それらを一般論として扱っているものとして、スリニ・ピレイ7
(2018)の脳科学応用ビジネスがある[27]。そこでは、柔軟な思考を発揮するための方法を提案し ている。その基幹の考え方は非集中モードであり、それがDMN(デフォルトモードネットワーク)
を刺激する必要がある。
非集中には[27]
① 適当な仮眠をとり、
② 他分野との関連付けを促進しながら、
③ 一日一度は創造的時間をつくり、
④ すこしくらいは蛇行しながら(ゆらぎ)
⑤ これはできる、私は変われると念じる。
この中で「ゆらぎ」が非常に大切である。「ゆらぎ」とは即ち、あれこれ可能性を吟味している 状況である。その可能性を吟味するときに吟味の対象が多様であればあるほど思考の変化を加速す ることである。
実は、何もないところからある日突然閃いた、ということはあり得ないというのが結論の一つで ある。3歳の子供が新型コロナウイルス撃滅の方法を思いつくことはない。一方拡大解釈をすると、
より自由な発想でイノベーションを起こす方法論があってもいい。
6. 自由な思考をえるために 6.1 メタ認知思考
ここの本論に入る前に再度、思考のパターンを考えたい。幾多の研究等で論述しているのは、発 散思考、収束思考、メタ認知思考の3本立[24]である。思考の技法として、高橋 [25]はメタ認知 の代わりに発散と収束をくりかえす統合技法と創造的意欲や態度をはかる態度技法を提示してい る。これはメタ認知思考の中を詳細に分解開示したものであると考える。
認知科学では自由に考えるために以下の教訓を得ている[19]。これらは単なる思い付きではなく、
それぞれが科学的論拠をもとにした内容である。
比較的やってはならないこと
1)思い込みが創造的問題解決を妨げる
2)習熟による慣れがよりよい問題解決を防ぐことがある
3)もっともらしいことに惑わされるな(命題論理の真偽、三段論法の結論、思い出しやすい事 例、最初の数値など)
4)「偶然」には気づきにくい
7 ハーバードメディカルスクール精神医学臨床准教授
5)仮説は修正されにくい
6)表面上の意味(カバーストーリー)に惑わされると問題の本質を見逃す 7)質問の仕方が答えを誘導する
やった方がいいこと
8)アイデアの量と質は比例する
9)「創造性は特殊な才能」という考え方は創造的思考を邪魔するので持たない 10)粘り強く考えると、よいアイデアが出る
11)アイデアをどんどん表現することが発想を促す・・・声に出す、書くなど
さらにいろいろな方々が自由発想することに挑戦している。
チクセントミハイ:フローを認識し意識的活用をせよ [11][26]・・・世界的心理学者で人 が夢中になって活動する条件を求めている。現在保持しているスキルに対してチャレンジす る目標を決め、そのレベルは少し高いところに設定すると集中度が高まり、あるいは意識の 無い状態が発生する。そして長時間かかったのにたった今し方終わった様に感じる。
佐宗邦威(サソウ クニタケ)((株)BIOTOPE代表):自分のビジョンを持て、他人モード を退けよ、ワクワク感を大切にせよ [12]
スリニ・ピレイ(ハーバードメディカルスクール准教授):チクセントミハイとは逆に集中 力という言葉に振り回されるな、非集中をもっと大切にせよ。この二つのバランスを学べ [27]
ウィリアム・ダガン(コロンビア大学ビジネススクール上級講師):ひらめき(第7感)こ そが人生を変える。その方法を学べ [22]。
6.2 頭を柔らかくするには
これらを鑑みて、さらに筆者が勝手な考察をすると ⇒基本知識を持ち
⇒多様な視点で見る選択肢(くせ)を持って ⇒日々の考える癖をつける
⇒意識したアイデアの記録(アイデアマラソン)
⇒感情を豊かにするために芸術に親しみ ⇒社会的価値のある目的意識の熟成
論理を整えて、課題さえ忘れたふとしたときのひらめきを大切にすることが大切と考える。
6.3 創造性教育方法の試案
前述のプロセスと、創造性の定義から以下の教育への方法が示唆される 1) 基礎知識の修得(これは必須である)
2)毎日の気軽に発想した項目の記載(⇒アイデアマラソン[31])
3)回りのことがらへの素朴な疑問とそれへの回答案の案出(自問自答への導き、メタ認知思考)
4) ステップアップするプロセス・・・これを図示したのが、図7である。思考力を獲得したら より難しい課題に挑戦することでその思考力を鍛えることができる。その正循環を図式化し て表している。学術的にも証明されていないが、学習者に対して常に120%の目標付与という のが経験則的には一番望ましいと考える。
6.44oslrp
AEBµ be/i Àf
q
ABµ be/i
図7. 課題とそれを解決する思考力との関連
6.4 教育プログラム例
これを具現化すると一つの試案として下記が考えられる[31][32]。これは大学初年次生を対象と して設計したプログラムである。
特徴は3ステップ型として順次高い思考力が求められるようにしている。
(1)第1ステップ(第1授業から第5授業)は基本的な発想法の習得である。発散思考としてブ レイン・ストーミング法、マインドマップ法を学習し、収束思考としてKJ法などを学習する。第1 ステップの学習のまとめとして収束思考の学習で、グループ単位で大学グッズの開発提案をし、プ ロモーションを考える。そして白板でプレゼンをし、学生間で評価をして優勝者を決める。学生自 らの参画意識とその一方では競争意識の高揚を狙った構成としている。第1ステップでは、上記に 並行して毎日の発想を記載するだけであるが毎日発想と記載するという習慣をつけるアイデアマラ ソン(IMS)を開始する。
(2)第2ステップ(第6授業〜第10授業)は論理の基本を構築するときである。IMSを日々継続 しつつ、問題解決を指導し、展開する構成である。ここでは3つの思考パターンの内、推論(帰納 法、演繹法など)、問題解決(仮説思考、ゼロベース思考、論理思考に対する批判思考)、意思決定 の基本的な考え方と手法を学習する。
A Bµ be/i
図8. 「思考発想法入門」の科目構成
(3)第3ステップはディベートである。すでに2か月以上、IMSを継続してきて、発想に多少の 自信が付いてきた頃である。またIMSを通じて思考結果のストックが出き、問題解決などで、瞬間 的な発想にも慣れてきている。今までの発想、論理構築、批判思考の総合力をここでは発揮するこ とになる。統一テーマを決め、肯定側、否定側、司会班、審判班と別れて論理を競うばかりでなく 進行と判定力も養うこととなる。ディベートは単なる論理の競争だけでなく、客観的に物事を見、
そして、第三者に有益な解決策を提供する使命も持っていることの認識を徹底させる。
このプログラムの第2の特徴は、授業として進行するプログラムに、日々のトレーニングである アイデアマラソンとを階層的に構成していることである(図9参照)。毎日アイデアマラソンを実 施し、週次には3ステップのプログラムを配置され、重厚的に思考力をトレーニング可能な様に設 計されていることである。すなわち層状的に2つの活動を利用し、「創造性」の向上を目指すプロ グラムである。
6.5" *41(
15" ),
2) ,
図9.階層型トレーニングシステムの考え方
6.5 自由な思考を求めて
本稿の立ち位置をもう少し進めるために、以下に「般若心経」と「論語」の視点を吟味したい。
1) 般若心経との視点
般若心経の冒頭に「仏説摩訶般若波羅蜜多心経 観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆 空」と続いている。その2番目に出てくる言葉「観自在」、と凡そ三分の一くらいに出てくる言葉
「心無罣礙(しんむけいげ)」がその真理を言い当てているのではないかといつも感じている。それ は、
●「観自在」=ものごとに拘らず自由な心で見ること(何ごととらわれず自由にものごとを慈悲と 智慧とで感じ観ることができる機能)
●「心無罣礙」=心を覆っている雲が晴れ自然に感じることができること[35]
である、般若心経は自由の思考の最高峰と感じている。そして言葉だけでなく多くの言葉をのこ している。ここでは、視点の自由度にのみ着眼している。即ち空間的にも時間的にも人の関係にお いても自由であり、それを感じる心の自由である。
2) 論語の視点
一方論語にも、思考と知識に関する考察がある。これはよく知られている、論語の中の(為政 第二 十五)にあらわれる。
子曰、学而不思則罔、思而不学則殆
子曰く、学びて思わざれば則ち罔し(くらし)、
思いて学ばざれば則ち殆し(あやうし)
私流に解釈し直すと、
前半:知っていても、自分の思想(思い)を作らないと思考は進まない。
後半:社会と好奇心に動機付けられた思考は色々な人と出会うたびにその可能性が別の可能性と 融合し、創造性を生み、イノベーションに繋がる。
これらは2000年以上前に既に明確に言われている。
7. まとめ
自身の苦い経験から自由な思考の大切さを展開した。今まではスキルとしての発想であったが、
考え方としての思考がより重要となる。議論を展開するために創造性に対する定義を試みた。自由 思考を阻害しているバイアスにとらわれないためには何をどうすることが大切かを吟味した。そし て、新しい創造力を鍛錬する方法を考察し、直観と閃きに対する考察をした。創造性には基礎的知 識の集約とそれらの間の揺らぎが必要で、それが新しい考えを可能にすることを述べ、これらを具 現化するプログラムを提案した。
最後に自由な思考を得るためには「ものごとに拘らず」観察し考察し続けることが大切でありそ のためにも多くの人多様な人との出会いがある。
残された課題:
本考察は途に就いたばかりである。経験則を纏めているが、検証されていない。メタ認知思考が 提示されているがどう自由な思考と関連するのか考察が浅い。自由な思考の方法論が経験をもとに 提案されてはいるが体系化されていない。般若心経の心は表面に触れているだけである。などなど、
数えればきりがない。少しずつ、志のある方々と議論を重ねていきたい。
謝辞
本随想は日立製作所・返仁会での講演(2019年7月25日大阪にて)をもとに、加筆したものであ る。講演する機会を頂いた日立製作所返仁会関西支部の方々に謝意を表す。聴講者の視点から貴重 な意見を頂いた、寺山技術士事務所代表 寺山孝男氏、高専ものづくりアドバンス㈱代表取締役 牧 野俊昭氏に厚く感謝申し上げる。
参考文献
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2. E. ゴールドラット『ザ・ゴール』翔泳社,(1999).
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6. 梅田望夫『ウェブ進化論〜本当の大変化はこれから始まる』筑摩書房, (2006).
7. C. アンダーソン著,小林弘人監修,高橋 則明訳『フリー ―<無料>からお金を生みだす新戦略』
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東洋経済新報社, (2016).
10. 野中郁次郎,徳岡晃一郎『ビジネスモデル・イノベーションー知を価値に転換する賢慮の戦略論』
東洋経済新報社, (2012).
11. M.チクセントミハイ著、浅川希洋志監訳『クリエイティヴィティ―フロー体験と創造性の心 理学』世界思想社,(2016).
12. 佐宗国威『直感と理論をつなぐ思考法〜Vision Diven』ダイヤモンド社,(2019).
13. 鈴木宏昭『教養としての認知科学』東大出版,(2016).
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20. 白川 静『常用字解』 平凡社, (2003).
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22. U. ダガン『天才のひらめきを科学的に起こす 超、思考法〜コロンビア大学ビジネススクール 最重要講義』ダイヤモンド社, (2017).
23. 松尾 豊『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』 KADOKAWA/中 経出版, (2015).
24. D. ロスステイン、L. サンタナ著、吉田新一郎訳『たった一つを変えるだけ:クラス教師も自立 する「質問づくり」』 新評論 (2015).
25. 高橋 誠編著 『新編 創造力辞典』 日科技連, (2002).
26. M.チクセントミハイ著、大森弘監訳『フロー体験入門〜楽しみと創造の心理学』世界思想社,
(2010).
27. スリニ・ピレイ著, 千葉敏生訳『ハーバード×脳科学で分かった究極の思考法』 ダイヤモンド社,
(2018).
28. 安宅和人『イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」 ISSUE Driven, 英治出版,
(2010).
29. 佐宗邦威『直感と理論をつなぐ思考法〜Vision Diven』ダイヤモンド社(2019).,
30. 野中郁次郎・勝見 明 『共感経営 「物語り戦略」で輝く現場』日本経済新聞出版(2020)., 31. S. Saegusa & T. Higuchi, Encouragement & Continuity Support System for Self-Innovative
Training of the Idea-Marathon for University Students and Company Staff”, ICCI2018 (in Osaka),
(2018).
32. 三枝省三・樋口健夫『階層構造アクティブラーニングによる大学初年次生への創造性教育法の 開発』日本創造学会論文集,Vol. 24, (2021) 掲載予定.
33. 日本創造学会ホームーページ、「創造性の定義」http://www.japancreativity.jp/definition.html(最 終閲覧日2020 11/20)
34. 花山勝友『般若心経講義』廣済堂出版(1986), 大洞良雲『現代講和・般若心経』(1976).