ライティングによる思考訓練のための誤り自動検出システム
Error Detection System for Thinking Training Through Writing Essay
中島 仁喜
1松田 憲幸
1崔 亮
2田中 孝治
2池田 満
2Toki NAKAJIMA
1, Noriyuki MATSUDA
1, Liang CUI
2, Koji TANAKA
2, Mitsuru IKEDA
2 1和歌山大学 システム工学部
1
Faculy of System Engineering, Wakayama University
2北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科
2
Japan Advanced Institute of Science and Technology, School of Knowledge Science
Abstract: Meta-cognitive is defined simply as cognition about cognition. Through our daily experiences, we notice that we did as higher level some activities than usual cognition. On the other hands, management of university hospital nursing pointed out difficulties of instruction for self-regulated learning in hospital. One reason is considered that teaching method for meta-cognitive skill has not yet been established enough when compared with cognitive skill. We have held workshops in university hospital nursing department since 2010. We organized a learning model which promotes reflective learning of the case-method for medical service education. As an implementation of the learning model, we established a learning environment that supports learners to reflect on their thinking process in their experiences by a learning strategy which consists of three case-writing phases: the description phase, the cognitive conflict phase, and the knowledge building phase. In this paper, we describe an analysis of learners’ errors in the workshop and design of error detection system to assist a tutor’s reviewing.
1 はじめに
三宮は「メタ認知とは一言で言えば,認知について の認知を意味する言葉である(中略)私たちの日常 生活をふり返ってみると,自分の考えの矛盾に気づ いたり,課題の特性を把握したうえで解決方略を選 択するなど,通常の認知よりも高次の,メタ認知とよ ぶことがふさわしい活動を行っていることに気づく」 と指摘している[1].ある程度定式化された解き方を 教わって解く数学の問題解決におけるメタ認知は, 複数の問題の解き方を振り返ってよりよい解き方を 検討する思考がメタ認知に相当する. メタ認知について向後は「人間の活動において重 要なものであり,目には見えない部分で学習力や思 考力の支えとなっているが,メタ認知の誤りを見つ けるのは難しく,指導はまだ十分に確立されていな い」「認知の研究に比べて[2][3][4],メタ認知の研究 については過去にほとんどされてきていないことも あるが,メタ認知の能力は暗黙的に学んでいること が大きな理由である」と分析している.[5] また,我々と連携する大学病院 A の看護管理職は, 指導の重要課題は看護師として自身の経験や考えを どのようにして他の看護師に教えるかといった悩み を抱えていると述べた.例えば,注射の打ち方や血圧 の測り方のようにある程度定式化された解き方につ いては,すでに効果的な指導があるが,医学の価値, 患者の価値の両方を引き受ける看護師の業務は定型 化できない答えのない問題を扱っており,メタ認知 の指導法が確立していないことが,看護の指導の現 場を難しくしている原因の一つと考えられる. 我々は,メタ認知の指導法確立を目標として,平成 22 年度より大学病院 A の看護部と連携しながら,メ タ認知の指導法を試行的に構築してきた.そして,伊 藤の言語化目標達成モデルをベースに自らの経験に ついて書き表すケースライティングとグループディ スカッションを通じて,自己内対話と他者対話の同 型性に気づかせる教育プログラムを開発した[6].具 体的には,思考を精密に吟味することを通じて,学習 者が論理的・客観的・批判的に考えることの重要性 をよりよく理解し,その傾向を強めていくきっかけ を与える.また,目標達成モデルに準じた思考プロセ スを意識し,その意味を理解し,思考スキルを獲得す ることを学習者に促すことをねらっている. 向後はメタ認知の指導について,特に誤りの診断 の難しさを指摘している.本稿は,我々が 4 年前から 実施している実際の看護師研修における指導記録を 人工知能学会研究会資料 SIG-ALST-B403-17分析し,思考記述の誤りについて検討する.
2 思知ケース
指導者が添削する,振り返り記録である思知ケー スについて概要を述べる.2.1 思知ツール
図1は,思知の基本画面構成を示している.ケース ライティングを使った思考の整理術の言語化のため に(思考 A)(思考 B)(葛藤)(知識構築)という4 つの入力画面が用意されており,図1は思考 A タブ の画面である.思知の内容は,ある看護師が自分の過 去の経験について,その時の思考を振り返って記述 したものである.思知は行単位で記述され,行番号, タグ,内容,根拠タグ,参照タグ番号で構成される.内 容は思考内容を記述した数行の文,タグは内容が思 考記述の論理構造に対応した役割を果たすもの(事 実,推定,判断,結果など)である.行番号2を例に上 げると「状態は改善したので,主治医と面談し退院の 日が決定するが,その頃より表情が固くなった」とい う内容には「事実(患者)」のタグがついている.な お推定,判断など,タグの一部には根拠タグが存在し, その論証を記述するにあたった根拠が必要となる. 例えば,行番号5の「退院について何かしらの不安を 抱いており患者自身退院はできないと思っているよ うである」という推定は,行番号「2」,「3」の内容が その論証を導き出すために必要な根拠となる. 図1 思知の基本画面構成(思考 A タブ) 思考 B タブ(図2)も思考 A タブと同じ画面構成 だが,思考 A には自分が下した判断を記述するのに 対し,思考 B にはもう一人の自分,あるいは他者のく だすであろう判断を記述しなければならない. 図2 思考 B タブ2.2 タグの種類
表1は思知ツールで使用されるタグの一覧である. タグは事実(患者),事実(医学),指針,前 提,仮定,推定,判断,医判,結果,葛藤,反省, 解消,構築の 13 種類あり,そのうち,前提,仮定,推 定,判断タグには根拠タグとして「根」を,医判断タ グ(医療的判断)には「医判根」タグ,結果タグに は「原因」タグを必要とする. 表1 タグの種類2.3 葛藤と知識構築
思考 A と思考 B を記述したら,次は2つの思考か ら検出した対立する2つの指針の間で生じる葛藤を 整理して「葛藤」として記述する(図 3). 「葛藤」を記述した後に,その葛藤の記述をもと に,対立点を解消する知識を「知識構築」として記 述していく.(図 4) 図 3 葛藤タブ 図 4 知識構築タブ2.4 添削後のレポート
指導者は,思知ケースを作成した看護師に対して 指導を行う.その方法として,優先的に指導する項目 を決め思知ケースを改定し,指導者が添削した講評 文を作成し返却する.ほとんどの思知ケースにおい て,非常に多くの誤りが見受けられるため,指導者は 指導する項目を通常二点に絞って添削を行っていた. 改定前の添削例を図 5,改定後の添削例を図 6 に示す. 講評文では思知ケースについて,全体についての一 般的なコメント,問題箇所を列挙し具体的にどのよ うな間違いを犯したのかを書き表している.講評文 の例を図 7 に示す. 図 5 改定前の添削の例 図 6 改定後の添削の例 図 7 講評文の例3 添削思考の分析
平成 22 年度より大学病院 A の看護部と連携し行 った教育プログラムによって,得た添削思考の収集, および分析ついて説明する.3.1 添削思考の収集
添削者がケースを添削する方法として,学習者が 作成した思知ケースの具体的な問題点を指摘し,そ の問題が発生する原因を特定し,問題の発生原因の 理解や問題自体の解決のために助言を行い,問題解 決後の効果を説明する,といった 4 つの手順を踏ん だ添削思考の収集を行った.なお,問題指摘に関して は,数ある問題の中から優先的に問題を選択し,指導 する優先指導法略と呼ばれる方法を取った.3.2 添削思考の分析
収集した添削思考から,前節で述べたケースの添 削手順を詳細に分析した結果,以下5種類の問題点 (誤り)に分類することができた. ・推定の根拠がない誤り・・・ステートメントに 推定を選択した場合,必ず根拠タグにそのステート メントを選択した根拠となる内容を番号で選択する 必要となる.しかし,根拠タグに番号がない場合,推 定における根拠の不選択という誤り指摘をされる. ・判断の根拠がない誤り・・・ステートメントに 判断を選択した場合,必ず根拠タグにそのステート メントを選択した根拠となる内容を番号で選択する 必要となる.しかし,根拠タグに番号がない場合,判 断における根拠の不選択という誤り指摘をされる. ・結果の原因がない誤り・・・ステートメントに 結果を選択した場合,必ず根拠タグにそのステート メントを選択した原因となる内容を番号で選択する 必要となる.しかし,根拠タグに番号がない場合,結 果における原因の不選択という誤り指摘をされる. ・葛藤の参照誤り・・・葛藤を記述する画面では, 必ず自分の思考と他人の思考の中から「指針」を選 択しなければならない.しかし,葛藤画面にて指針以 外のステートメントが選択されている場合,誤りと して指摘される. ・ステートメントが参照されていない誤り・・・ 推定,判断,結果といったステートメントで根拠タグ に根拠となった内容の番号を選択するのだが,必ず 1 つの事例データで最後に記述した番号以外の番号 を使用しなければならない.使用していない場合,参 照されていないステートメントとして,誤り指摘さ れる.4 誤り自動検出システム
3.2 節で述べた 5 種類の誤りを自動で検出するシ ステムを作成した.4.1 システムの概要
図 8 が本システムのトップ画面である. 図 8 誤り自動検出システムトップ画面 本システムはファイルの識別番号である「文章 ID」,本システムにアップロードしたユーザー名で ある「作成者」,アップロードしたファイルの名前 が記述されている「ファイル名」,アップロードし たファイルにいくつ誤りが存在するかを示す「誤り の数」,保存した日時である「保存日時」の5つで 構成されている.ユーザーは,画面右上の「アップロ ード」ボタンから,json ファイル形式の添削思考デ ータをアップロードすることができる.なお,データ をアップロードするタイミングで,システムが自動 的に誤りを検出し,トップ画面に誤りの数を表示す る.4.2 誤り検出
各ファイルごとにある「誤りの確認」をクリック することで,あるケースに対してどの誤りが発生し たかという詳細画面へと遷移する.図 9 が発生した 誤りの詳細画面である.図 9 誤りの確認画面 例えば図 9 の場合,「推定の根拠がない誤り」と 「判断の根拠がない誤り」と「結果の原因がない誤 り」と「ステートメントが参照されていない誤り」 が発生していることがわかる.さらに,どうしてその ような誤りが発生したのか,考えられる原因が発生 した誤りと共に表示されるようになっている.
4.3 誤り頻度表示
アップロードされた全てのファイルで発生した誤 りの総数と,各誤りの誤り発生頻度を表示した画面 を図 10 に示す 図 10 誤り検出結果の画面例 図 10 の場合,「推定の根拠がない誤り」が 4 件で 全体の 29%,「判断の根拠がない誤り」が 1 件で全 体の 7%,「結果の原因がない誤り」が 2 件で全体 の 14%,「葛藤の参照誤り」が 1 件で全体の 7%, 「ステートメントが参照されていない誤り」が 6 件 で全体の 43%といったように表示される.5 システムの評価
実際にシステムを用いて自動判定をし,各誤りに ついて平成 22 年度より添削された思知データ全 68 件について発生件数と発生頻度を求めた.それをま とめたものが表 2 である. 表 2 全ケースの誤り検出結果 誤り 発生回数 全発生回数に 対する割合 ステー トメントが参 照 されていない誤り 68 53% 推定の根拠がない誤り 25 19% 判断の根拠がない誤り 15 12% 結果の原因がない誤り 15 12% 葛藤の参照誤り 6 5% 一番誤りが多かったものが「ステートメントが参 照されていない誤り」で,このような結果になった のは,論証に役立っていない記述が多く,論理構造が 明確になっていないからだと考えられる.二番目に 多かったものが「推定の根拠がない誤り」であっ た.その理由として,今までの論証を元に推定をして いないと考えられる. 一方,指導者は前述のとおり,まず,学習者のケー スの誤りを洗い出し,正しいと予想されるケースを 作成する添削を行う.次に具体的な助言を与える講 評を行うが,一般に添削において多くの誤りが見い だされるため,重要な誤り 2 点に絞って指導を行っ ていた.そのため,添削過程で作成される,指導者が 作成する改訂ケースでは,主に前述の 2 点の誤りに 焦点が当たっており,ほかの多くの誤りについては 訂正されるものの,放置されるものが見受けられた. 実際の講評の場面では,指導者が焦点を当てた誤り の指導が行われるため,直接関係しない放置された 誤りは問題になることはなかった.しかしながら,改 訂ケースは学習者に提供されるため,できるだけ多 くの誤りが修正されていることが望ましいと考えら れる. 提案手法で実際の学習者が作成したケース 9 件に ついて,学習者が作成したオリジナルケースと,指導 者が作成した改訂ケースについて誤り検出を実施し た結果を表 3 に示す.表 3 学習者が作成した 9 個のオリジナルケースと 指導者が作成した改訂ケースの誤り検出数 オリジナルケース 改訂ケース ケース A 2 1 ケース B 2 1 ケース C 2 2 ケース D 1 1 ケース E 1 1 ケース F 2 2 ケース G 2 1 ケース H 2 1 ケース I 4 1 この結果から,本提案手法を改訂ケースに適用する ことで改訂ケースの誤り修正を補える可能性が示唆 された.