平成27年度プロジェクト研究報告書 教育制度-041
初等中等教育の学校体系に関する研究 報告書3
中高一貫教育の現状と制度化の政策過程に関する調査研究
平成
28
年(2016
年)3
月研究代表者 渡 邊 恵 子
(国立教育政策研究所 教育政策・評価研究部長)
はしがき
本報告書は,国立教育政策研究所のプロジェクト研究である「初等中等教育における学 校体系に関する研究」において行った,中高一貫教育の現状分析とその制度化の政策過程 に関する研究の成果を報告書に取りまとめたものです。
平成
25
年から,教育再生実行会議や中央教育審議会等において「学制改革」が議論さ れ,喫緊の政策課題となりました。本プロジェクト研究はそのような状況を踏まえ,「学制 改革」という課題への基礎資料の提供を行うとともに,より中長期的な学制改革議論にも 資する知見の探究を行うことを目的として,平成26
年度から2
年間にわたって実施しま した。これまでに「報告書1
諸外国における就学前教育の無償化制度に関する調査研究(平成
27
年3
月)」「報告書2
小中一貫教育の成果と課題に関する調査研究(平成27
年8
月)」を刊行しております。平成
10
年に中高一貫教育が制度化されてから15
年以上を経て,制度の定着が図られま した。この時点で,中高一貫教育の現状を分析し,また,制度化の政策過程を明らかにし ておくことは,今後中長期的な学制改革を検討する際の基礎資料にもなると考え,研究を 進めてきました。中高一貫教育の現状については,中高一貫教育を行う公立学校へ質問紙調査を行い,そ の結果を基に分析しました。制度化の政策過程については,戦後すぐから制度化に至るま での様々な提言や報道を分析するとともに,制度化に関わった政策担当者へのインタビュ ーを行い,制度化が実現した要因等を明らかにしております。
「初等中等教育における学校体系に関する研究」の報告書は本報告書が最終のものです が,当研究所紀要第
145
集に,本研究の一部として行った中等教育段階の学校制度改革に 関する国際比較研究の成果を掲載します。そちらも併せて御覧いただければ幸いです。本報告書が,教育に携わる全ての関係者の皆様に活用されることを願うとともに,本研 究の推進に御協力いただきました文部科学省・教育委員会・学校関係者の皆様に感謝申し 上げます。
平成
28
年3
月研究代表者
国立教育政策研究所 教育政策・評価研究部長 渡邊 恵子
本プロジェクト研究について
1.研究の目的と概要
平成
26
年7
月にまとめられた教育再生実行会議の第五次提言では,「新しい時代にふさ わしい学制を構築する」という方向性の下,具体的な施策として幼児教育の段階的無償化 を進めることや小中一貫教育学校(仮称)を制度化することなどが提言されるとともに,国は引き続き
5
-4
-3
,5
-3
-4
,4
-4
-4
などの新たな学校段階の区切りの在り方につい て検討を行うこととされた。これを受けて,中央教育審議会が同年12
月に小中一貫教育 の制度化の在り方を答申としてまとめるとともに,文部科学省は幼児教育の段階的無償化 の実現を図っている。本研究は,このように喫緊の政策課題となった学制改革を議論する際の基礎資料の提供 を行うとともに,より中長期的な学制改革議論にも資する知見の探究を行うことを目的と し,具体的には次の三つの柱を立て,研究を進めてきた。
(1)
小中・中高一貫教育に関する先行事例の成果と課題の検証(2)
諸外国における就学前教育の無償化制度や中等教育段階の学制改革の分析(3)
学制改革に関する提言が政策形成に与えた影響の分析2.研究体制と成果
前述の研究の三つの柱に対応して,一貫教育事例班,海外事例班,政策過程分析班とい う三つの班を設けた。ここでは,各班がその成果を報告した場や,成果を取りまとめた報 告書のタイトルなどを示し,本プロジェクト研究の成果の全体像を御理解いただくための 参考に供したい。
(1)
一貫教育事例班(班長:屋敷和佳総括研究官)①「報告書
2
小中一貫教育の成果と課題に関する調査研究」平成27
年8
月刊行②平成
27
年度教育研究公開シンポジウム「小中一貫教育の制度化と展開 ~小中一貫 教育の先導的取組を踏まえて~」平成27
年8
月24
日実施③「報告書
3
中高一貫教育の現状と制度化の政策過程に関する調査研究」第Ⅰ部 平成28
年3
月刊行(2)
海外事例班(班長:植田みどり総括研究官)①「報告書
1
諸外国における就学前教育の無償化制度に関する調査研究」平成
27
年3
月刊行②「国立教育政策研究所紀要 第
145
集」特集:諸外国における中等教育段階の学校制 度改革の背景と現状 平成28
年3
月刊行(予定)(3)
政策過程分析班(班長:本多正人総括研究官)①日本教育行政学会第
50
回大会発表「中高一貫教育制度化の政策過程」平成
27
年10
月11
日②「報告書
3
中高一貫教育の現状と制度化の政策過程に関する調査研究」第Ⅱ部 平成28
年3
月刊行渡邊 恵子
(国立教育政策研究所「初等中等教育の学校体系に関する研究」代表者)
研究組織
研究代表者
渡邊 恵子 教育政策・評価研究部長
所内研究分担者(
50
音順:肩書は平成28
年3
月時点,※は参加当時)磯山 武司 文教施設研究センター長(平成
27
年4
月から)今村 聡子 ※教育課程研究センター基礎研究部 総括研究官(平成
26
年7
月まで)植田 みどり 教育政策・評価研究部 総括研究官
齋藤 福栄 ※文教施設研究センター長(平成
27
年3
月まで)妹尾 渉 教育政策・評価研究部 総括研究官 橋本 昭彦 教育政策・評館研究部 総括研究官 本多 正人 教育政策・評価研究部 総括研究官
幅崎 美行 ※文教施設研究センター 専門調査員(平成
27
年3
月まで)平川 英洋 文教施設研究センター 専門調査員(平成
27
年4
月から)福手 孝人 文教施設研究センター 総括研究官 宮﨑 悟 教育政策・評価研究部 主任研究官 屋敷 和佳 教育政策・評価研究部 総括研究官 山田 素子 研究企画開発部 総括研究官
所外研究分担者(
50
音順:肩書は平成28
年3
月時点)工藤 文三 大阪体育大学 教育学部 教授・学部長
岸本 睦久 文部科学省生涯学習政策局 参事官付外国調査係 外国調査官 小島 佳子 文部科学省生涯学習政策局 参事官付外国調査係 専門職 高橋 興 青森中央学院大学 経営法学部 教授
松本 麻人 文部科学省生涯学習政策局 参事官付外国調査係 専門職 山口 勝巳 東京都市大学 共通教育部 教授
渡邊 あや 津田塾大学 学芸学部 准教授
オブザーバー(
50
音順:肩書は平成28
年3
月時点,※は参加当時)神山 弘 ※文部科学省生涯教育政策局 政策課 教育改革推進室長
(平成
27
年3
月まで)桐生 崇 文部科学省初等中等教育局 財務課 課長補佐 佐々木 亨 文部科学省文教施設企画部 施設助成課 課長補佐
(平成
27
年8
月から)篠原 康正 文部科学省生涯学習政策局 参事官付外国調査係 外国調査官 錦 泰司 ※文部科学省文教施設企画部 施設助成課 課長補佐
(平成
27
年8
月まで)深堀 直人 文部科学省文教施設企画部 施設企画課 企画調整官
三木 仁史 ※文部科学省生涯教育政策局 政策課 教育改革推進室 改革企画係長
(平成
27
年3
月まで)武藤 久慶 文部科学省初等中等教育局 初等中等教育企画課 課長補佐
研究補助者・事務補助者(
50
音順)西村 吉弘 教育政策・評価研究部 研究補助者 三宅 美佳 教育政策・評価研究部 事務補助者
事務局担当(
50
音順)植田 みどり 教育政策・評価研究部 総括研究官 宮﨑 悟 教育政策・評価研究部 主任研究官
目 次
はしがき
1
本プロジェクト研究について
2
研究組織
4
目 次
6
概 要
7
第Ⅰ部 中高一貫教育の現状分析
13
第
1
章 現状分析の目的と方法15
第
2
章 中高一貫教育校の設置18
第
3
章 中高一貫教育校における教育課程の編成29
第
4
章 学校運営のための分掌組織等41
第
5
章 中高一貫教育を推進するための取組46
第6
章 中高一貫教育校の入学者選抜とその後の進路51
第7
章 中高一貫教育校における施設の整備状況と施設面の課題55
第8
章 中高一貫教育校における成果と課題の整理66
資料① 公立中等教育学校・公立併設型中高一貫教育校一覧(平成27年度)78
資料② 質問紙調査の調査票
81
第Ⅱ部 中高一貫教育制度化の政策過程分析
93
第
1
章 政策過程分析の目的 及 び研究手法等95
第2
章 中高一貫教育に関す る 提言やアイディアな ど の変遷100
第3
章 中高一貫教育に関す る メディアの関心と地 方 自治体の政策動向120
第4
章 中高一貫教育制度化 の 要因~政策担当者の イ ンタビューを基に~135
第5
章 中高一貫教育の制度 化 をめぐるアイディア144
資料編 政策担当者のインタ ビ ュー記録
151
大槻達也氏
153
辻村哲夫氏
159
辰野裕一氏
165
小島幸治氏・田村真一氏
172
須田秀志氏
181
概 要
第Ⅰ部 中高一貫教育の現状分析
第
1
章 現状分析の目 的と方法屋敷 和 佳(国立教育政 策研究所)
第Ⅰ部では,郵送によ る質問紙調査に基づ き 平成
27
(2015
)年度現 在の公立中等教育 学 校 及 び 公 立 併 設 型 中高 一 貫 教 育 校 の 現 状 を明 ら か に す る と と も に, 成 果 と 課 題 を 分 析 し て , 国 及 び 都 道 府 県等 が 中 高 一 貫 教 育 政 策を 検 討 す る 際 に 有 効 な知 見 を 得 る こ と , 及 び中高一貫教育校の 取 組のための参考資料 を 提供することを目的 と している。質問紙調査は全校を 対 象に行い,中等 教育学 校
96.8
%,併設型中高 一貫教育校92.8
% の 回 収 率 を 得 た 。 調 査項 目 は , 中 高 一 貫 教 育の 取 組 を 支 え る 条 件 や成 果 ・ 課 題 に つ な が る 構 造 の 把 握 へ の 手 掛か り を も 得 る こ と を 意図 し て , 学 校 運 営 を 中心 と す る 設 問 を 設 け た。第
2
章 中高一貫教育 校の設置屋敷 和 佳(国立教育政 策研究所)
本 章 で は , 中 高 一 貫 教育 校 の 設 置 概 要 を 広 く明 ら か に し , 次 章 以 降の 基 礎 資 料 と す る ことを目的としてい る 。まず,平成
27
(2015
)年度現在の中高 一貫 教育校の設置は,都 道 府 県 に よ り 多 様 な 展開 を 見 せ て い る 状 況 があ る 。 学 校 数 は , 中 高一 貫 教 育 制 度 導 入 時 に国が掲げた設置目 標 である500
校を超えた が,高等学校の通学 範 囲に少なくと も1
校 は整備するという状 況 が達成されたとは言 え ない。公立の中等教育学校 及 び併設型高等学校に お ける設置学科は ,普通 科が大半を占める。
ま た , 中 等 教 育 学 校 より も 併 設 型 高 等 学 校 の方 が 専 門 学 科 を 設 置 する 割 合 は 高 い 。 さ ら に , 併 設 型 高 等 学 校 では 内 進 生 が 進 学 し な い学 科 等 も 設 置 さ れ て いる な ど , 中 等 教 育 学 校との違いがある。
現 在 , 都 道 府 県 等 で は本 格 的 な 成 果 検 証 を 行う 動 き が あ る 。 検 証 結果 を 受 け て , 中 高 一 貫 教 育 を 解 消 す る ケー ス が あ る 一 方 で , 新た に 中 高 一 貫 教 育 校 を設 置 す る ケ ー ス も あ る 。 高 校 整 備 計 画 も 踏ま え る と , 公 立 中 高 一貫 教 育 校 の 整 備 動 向 が大 き く 変 化 す る と は 考 え ら れ な い 。 今 後 ,児 童 生 徒 が 減 少 す る 中で , 中 高 一 貫 教 育 校 の整 備 を め ぐ り , 都 道 府県と市町村の調整 が 重要な課題となると 考 えられる。
第
3
章 中高一貫教育 校における教育課程 の 編成工藤 文 三(大阪体育大 学)
本 章 で は , 公 立 中 高 一貫 教 育 校 の 取 組 を 教 育課 程 の 編 成 ・ 実 施 等 の観 点 か ら 整 理 し , 現 時 点 に お け る 成 果 と課 題 を 明 確 に す る こ とを 狙 い と し た 。 そ の ため の 資 料 と し て , 質 問紙調査の回答及び 学 校要覧等を用いた。
教育課程基準の特例 は 全体で約
6
割の 学校で 活用されており,系 統 的な指導や学習内 容 の 定 着 に 有 効 で あ ると の 成 果 が 確 認 で き た。 一 方 , 学 習 の 進 度 によ っ て は つ ま ず き が ち な 生 徒 へ の 指 導 の 工夫 が 必 要 で あ る と の 指摘 も な さ れ て い る 。 教育 課 程 編 成 の 工 夫 と し て , 理 数 教 育 , 言 語教 育 , 国 際 理 解 教 育 ,表 現 , キ ャ リ ア 教 育 ,探 究 的 学 習 等 多 彩 で 特 色 あ る 教 育 が 実 施 され て い る こ と が 確 認 でき た 。 全 体 と し て , 制度 導 入 の 趣 旨 と さ れ た , 高 等 学 校 入学 者 選抜 の 影 響 を 受 けず ゆ とり の あ る 学 校 生活 の 実現 や ,6
年 間 の計 画 的 ・ 継 続 的 な 教 育 指 導に よ り 効 果 的 な 一 貫 教育 を 行 う こ と に つ い ては , お お む ね 達 成 さ れていると見ること が できる。第
4
章 学校運営のた めの分掌組織等高橋 興( 青森中央学院大学)
本 章 で は , 質 問 紙 調 査の 結 果 を 基 に , 中 高 一貫 教 育 校 が 学 校 運 営 のた め 一 体 的 に 整 備 し て い る 校 務 分 掌 組 織の 実 態 , 学 級 担 任 ・ ホー ム ル ー ム 担 任 組 織 の状 況 及 び 併 設 型 中 高 一貫教育校における 乗 り入れ授業担当教員 の 割合などについて整 理 した。
調査の結果によれば ,中等教育学校では
9
割 以上が分掌として「 教 務」,「生徒指導 」,「 各 教 科 」 「 進 路 指 導」 を 設 置 す る な ど 一 体化 傾 向 が 顕 著 に な っ てい る 点 で , 併 設 型 中 高 一 貫 教 育 校 と の 差 異が 大 き い 。 ま た , 分 掌の 数 の 面 か ら 見 て も ,中 等 教 育 学 校 で は 分 掌 が か な り 細 分 化 ・ 専門 化 さ れ る な ど , 一 貫教 育 校 と し て 必 要 な 業務 に 合 わ せ た 運 営 体 制の整備が進んでい る ことをうかがわせる 。
さ ら に , 中 等 教 育 学 校で は 前 ・ 後 期 両 方 の 学級 担 任 ・ ホ ー ム ル ー ム担 任 を 務 め る 可 能 性 の 高 い こ と が 明 ら かに な っ た 。 一 方 で , 併設 型 中 高 一 貫 教 育 校 にお い て は , 併 設 型 高 等 学 校 の 教 員 が 併 設 型中 学 校 へ 乗 り 入 れ す る割 合 は , 併 設 型 中 学 校教 員 の 乗 り 入 れ よ り も 圧 倒 的 に 高 い こ と につ い て 述 べ , 併 設 型 高等 学 校 教 員 の 一 方 的 な超 過 負 担 に な っ て い る可能性を指摘した 。
第
5
章 中高一貫教育 を推進するための取 組高橋 興 (青森中央学院 大学)
本 章 で は , 質 問 紙 調 査の 結 果 を 基 に し な が ら, 中 高 一 貫 教 育 の 目 標達 成 の た め 大 切 な 役 割 を 果 た す と さ れ てい る 中 ・ 高 校 生 が 一 体と な っ て 取 り 組 む 交 流活 動 等 の 具 体 的 な 内 容,及びそうした活 動 等の基盤となる学級 編 成の状況について整 理 した。
調 査 の 結 果 に よ れ ば ,全 体 と し て 最 も 高 率 を占 め た の は 「 健 康 安 全・ 体 育 的 行 事 」 で あ り , こ れ に 「 文 化 的行 事 」 が ほ ぼ 同 数 値 で続 き , 更 に 「 儀 式 的 行事 」 が 僅 差 で 続 い て い る 。 し か し , こ れ らと 同 じ く 「 特 別 活 動 」の 「 学 校 行 事 」 の 内 容を 構 成 す る も の で あ り な が ら , 「 勤 労 生 産・ 奉 仕 的 活 動 」 は 半 数を 割 り , 「 旅 行 ・ 集 団宿 泊 的 行 事 」 は 更 に 低 率 と な っ て い る 。 一方 で , 「 生 徒 会 活 動 」は 半 数 を 超 え る が , 「学 級 活 動 ・ ホ ー ム ル ーム活動」は
1
割に満 たない低率である。ま た , 中 等 教 育 学 校 は, 一 体 的 な 行 事 等 へ の取 組 件 数 が 併 設 型 中 高一 貫 教 育 校 よ り 多 い な ど , 取 組 へ の 姿 勢が 積 極 的 で あ る こ と も指 摘 し た 。 さ ら に , 併設 型 中 高 一 貫 教 育 校 における併設型高等 学 校の学級編成につい て は,内進生と外進生 を 「高
1
から混 合」と する学校が半数近く を 占めることを明らか に した。第
6
章 中高一貫教育 校の入学者選抜とそ の 後の進路妹尾 渉 (国立教育政策 研究所)
本 章 で は , 中 高 一 貫 教育 校 の 入 学 者 が ど の よう な 選 抜 で 決 定 さ れ ,進 学 後 に ど の よ う な道を歩んだのか, 質 問紙調査の集計結果 を 基にその実態を把握 し た。
入 学 者 決 定 方 法 の 実 施率 の 上 位 は , 中 等 教 育学 校 及 び 併 設 型 中 高 一貫 教 育 校 ( 以 下 , 併設型)とも,面接 , 適性検査,調査書 の
3
種類であった。実施 率 が最も高いのは,中 等教育学校では調査 書 (86.7
%),併 設型で は適性検査(96.1
%) であった。受検倍率の傾向から は ,中高一貫教 育校の人 気は
10
年前と比べてや や落ち着いてきて いるこ とが分 かった 。 平成27
(2015
)年 度 の平均受 検倍率 は,中 等教育 学校で は3.53
倍で,過去10
年の間に 約3
~4
倍で推移してい る。また,併設型の 平均受検倍率は3.57
倍で,10
年前と比べる と併設型全体の受検 倍 率の水準は低下傾向 に ある。中 等 教 育 学 校 後 期 課 程卒 業 者 及 び 併 設 型 高 等学 校 卒 業 者 の う ち で は, 大 学 進 学 の 割 合 が最も高く,平成
26
(2014
)年度の短大等も 含めた大学等進学率 で は,中等教育学校で79.7
%,併設型で73.9
%であった。これは 全 国の高校普通科の大 学 等進学率を上回る水 準である。また,大学 等進学者の割合は,中 等教育学校,併設型と も過去10
年で1
割前 後伸びており,過去10
年の大学進学率全体 の 平均的な伸びを上回 る 傾向にある。第
7
章 中高一貫教育 校における施設の整 備 状況と施設面の課題山口 勝 巳(東京都市大 学)
本 章 で は , 質 問 紙 調 査及 び 資 料 収 集 調 査 の 結果 を 基 に し て , 中 等 教育 学 校 及 び 併 設 型 中 高 一 貫 教 育 校 の 施 設整 備 の 実 態 や 前 期 課 程と 後 期 課 程 , 中 学 校 と高 等 学 校 の 施 設 共 用 状況を把握するとと も に,施設面での優れ た 点や課題について考 察 した。
中 等 教 育 学 校 及 び 併 設型 中 高 一 貫 教 育 校 は ,共 に 既 存 の 建 物 を そ のま ま , あ る い は 増 築 や 一 部 改 築 し て 整 備し て い る 学 校 が 大 半 を占 め て い る 。 そ の た めに , 敷 地 面 積 や 校 舎 面 積 に 大 き な ば ら つ きが 見 ら れ , 狭 隘 ( き ょう あ い ) な 運 動 場 や 校舎 , 屋 内 体 育 施 設 を 使 用 し て い る 学 校 も 少な く な く , 施 設 面 で の課 題 と し て 顕 在 化 し てい る 。 既 存 建 物 を そ のまま使用している 学 校では,技術室など の 特別教室不足の問題 が 発生している。
施 設 の 利 用 に お い て は, 中 等 教 育 学 校 で は 前期 課 程 , 後 期 課 程 の 区分 は ほ と ん ど 見 ら れ ず , 一 つ の 学 校 と して 一 体 的 に 利 用 さ れ てい る 状 況 が ほ と ん ど であ る 。 併 設 型 中 高 一 貫教育校では,ほとん どの特別教室や体育 施 設は中学校と高等学 校 で共用されているが,
中学校と高等学校の 普 通教室が別棟に分か れ ている学校も
4
割近く あり,また職員室が 中学校と高等学校で 一 体化していない学校 も3
割近くあること から ,中学校と高等学校 の 空 間 的 な 領 域 が 分 かれ て い る 学 校 も か な り存 在 し て い る と 思 わ れる 。 教 育 活 動 上 の 学 年 段 階 の 区 分 ( ス テ ージ ) を 設 定 し て い る 学校 は 多 い が , 普 通 教 室の 配 置 な ど の 面 で ス テージが考慮されて い る学校はほとんど見 ら れない。中 高 一 貫 教 育 校 で あ るこ と の 施 設 面 で の 利 点と し て は , 特 別 教 室 の利 用 に お い て 高 等 学校の充実した設備 を 使えることや体育施 設 が充実していること が 挙げられている。
今 後 の 施 設 整 備 で 留 意す る 点 と し て は , 中 高一 貫 教 育 校 の 特 色 を 発揮 で き る た め に , 特別教室や
ICT
などの設備の充実,交流を 促 すための図書室やラ ン チルーム,多目的ホ ールの整備,中高連 携 の中心となる職員室 の 一体化と充実が必要 で あると思われる。第
8
章 中高一貫教育 校における成果と課 題 の整理宮﨑 悟 (国立教育政策 研究所)
本 章 で は , 質 問 紙 調 査の 回 答 情 報 等 を 基 に ,中 高 一 貫 教 育 の 主 要 な成 果 と 課 題 と し て どのようなものが認 識 されているかを整理 し た。
基 本 的 に は 生 徒 の 側 面か ら 見 た 成 果 が 多 く 認識 さ れ て い た 。 学 力 の向 上 や 進 路 実 現 と い う よ う な 保 護 者 や 生徒 か ら 期 待 さ れ る よ うな 成 果 項 目 よ り も , 中高 一 貫 教 育 で 異 年 齢 交 流 や 教 育 活 動 に ゆ とり が 生 じ る と い う よ うな 理 念 的 に 期 待 さ れ た成 果 項 目 が よ り 多 く の 学 校 で 認 識 さ れ て いた 。 そ の ほ か , 中 高 一貫 教 育 で の 取 組 や 連 携等 を 通 じ て 教 職 員 の 成長を促すような成 果 が併設型中高一貫教 育 校を中心にやや多く 認 識されていた。
ま た , 中 高 一 貫 教 育 の取 組 期 間 が 長 く な る につ れ て , 教 育 活 動 で 生じ る ゆ と り の よ う な 理 念 的 に 期 待 さ れ る成 果 を 十 分 安 定 的 な もの と し な が ら , 希 望 した 進 路 の 実 現 の よ う な生徒や保護者から 求 められる成果も認識 さ れやすくなるという 傾 向が見られた。
一 方 で , 多 く の 学 校 で認 識 さ れ て い た 課 題 は, 一 般 的 な 高 校 入 試 が実 質 的 に な い た め に 生 じ る 中 だ る み や 生徒 間 の 学 力 差 で あ っ た。 さ ら に , 中 等 教 育 学校 で は 生 徒 の 人 間 関 係 の 固 定 化 が 課 題 に なり や す く , 併 設 型 中 高一 貫 教 育 校 で は 中 高 教職 員 の 意 識 差 が 課 題 になりやすいという , 実施形態による違い も 見られた。
第Ⅱ部 中高一貫教 育 制度化の政策過程分 析
第
1
章 政策過程分析 の目的及び研究手法 等渡邊 恵 子(国立教育政 策研究所)
本 章 で は , 第 Ⅱ 部 と して ま と め ら れ た 政 策 過程 分 析 を 実 施 し た 背 景と そ の 目 的 , 分 析 枠組みと研究手法に つ いて述べている。
中 高 一 貫教 育 の 制度 化が 最 初 に提 案 さ れて から 実 現 まで に 約
30
年の 年 月 を要 し た こ と を 背 景 と し , 政 策 提言 が 政 策 変 容 に 影 響 力を 持 つ た め の 条 件 を 析出 す る た め の 予 備 的 考察を行うことが本 政 策過程分析の目的で あ る。制度変化を,関係者や 政治家の利益(
interest
),政府における意思 決定の仕組みなど の 制 度 (institution
) , そ し て 政 策 の 持 つ ア イ デ ィ ア (idea
) の い ず れ か , あ る い は 複 数の要因の組合せで 説 明可能である,とする 政治学や公共政策学 で 一般に論じられる「三 つのI
」の考え 方,中 で もアイディアに着目 し ,具体的には 次の三つ の研究手法で進めた ことを述べる。① 過 去 の 政 策 提 言 の 内 容 と , そ れ を 取 り 巻 く 政 府 , 与 野 党 , 教 育 界 , 経 済 界 の 状 況 を 主に文献により明ら か にする。
② 新 聞 記 事 を 用 い て 中 高 一 貫 教 育 の 制 度 化 の 前 後 で の マ ス メ デ ィ ア の 報 道 の 変 化 を 見 る。
③中高一貫教育の制 度 化に関わった政策担 当 者へのインタビュー を 行う。
第
2
章 中高一貫教育 に関する提言やアイ デ ィア等の変遷本多 正 人(国立教育政 策研究所)
山田 素 子(国立教育政 策研究所)
本 章 で は 政 策 ア ジ ェ ンダ と し て の 中 高 一 貫 教育 に 内 包 さ れ た そ の 理念 ( ア イ デ ィ ア ) に 注 目 し , 更 に は そ の理 念 が い か な る フ レ ーム と 結 び つ い た か , とい う 点 を 検 討 し た 。 考 察 対 象 と す る 期 間 は戦 後 改 革 後 か ら 中 高 一貫 教 育 が 制 度 化 さ れ るま で で あ る 。 中 高 一 貫教育に関し,戦後 学 制改革から平成
10
(1998
)年の制度化(学校 教育法等の一部改正)に 至 る ま で の 間 , ど のよ う な 主 体 か ら ど う いっ た 内 容 の 提 言 が な され , そ の 提 言 が 持 つ 理 念 は ど の よ う な も のだ っ た の か , そ れ を 取り 巻 く 政 府 内 ・ 与 野 党・ 教 育 界 ・ 経 済 界 の 状 況 は ど の よ う な も のだ っ た の か な ど に つ いて , 文 献 調 査 及 び 政 策担 当 者 へ の イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 基 に , そ の変 遷 を 跡 付 け た 。 中 高一 貫 教 育 の 理 念 は 提 言さ れ た 時 期 に よ っ て 様々な理念を内包し て いたが,
1990
年代後半 に「ゆとり」というフ レームの中で同政策 が推進されることに よ り,初めて制度化を 見 るに至った。第
3
章 中高一貫教育 に関するメディアの 関 心と地方自治体の政 策 動向西村 吉 弘(国立教育政 策研究所)
戦後日本の教育政策 コ ミュニティにおける 中 高一貫教育導入の提 案 は,昭和
41
(1966
) 年以降の状況を見て も 度々注目されてきた が ,それから制度変更の 実現までおよそ30
年 を 要 し た 。 こ こ で は ,そ の 間 の マ ス メ デ ィ ア, 特 に 主 要 な 新 聞 で の中 高 一 貫 教 育 制 度 に 関する報道に見られ る 特徴に注目した。本章では,第
1
に,中 高一貫教育制度を扱 っ た新聞記事を収集し , マスメディアでど のように論じられて い るのか概観する。第2
に,「ワード マイナー(Word Miner
)」ソ フトを用い,収 集した 新聞記事に含まれる 重 要キーワードを抽出 し 重要順位を確認する。そして,第
3
に,重要 キーワードの項目群 を 設定し,新聞記事の 内 容を踏まえた分析を 行 う 。 こ れ ら を 通 じ て, ナ シ ョ ナ ル ・ ポ リ シー の 政 策 変 容 を 受 け て各 地 方 自 治 体 は 中 高 一 貫 教 育 制 度 を ど の よう に 受 け 止 め , 地 方 教育 行 政 の 政 策 に 反 映 させ る べ く 検 討 を 行 っ ていったのかという 観 点から,ローカル・ ポ リシーへのインパク ト を考察する。第
4
章 中高一貫教育 制度化の要因~政策 担 当者のインタビュー を 基に~渡邊 恵 子(国立教育政 策研究所)
本章では,平成
10
(1998
)年に中高一貫教育 の制度化が実現した 要 因について,当時 の政策担当者6
名への インタビューに基づ き 明らかにした。制度化が実現した要 因 として挙げられるの は ,次の
4
点である。① 中 高 一 貫 教 育 の 制 度 化 は , 学 制 改 革 と い う よ り は 後 期 中 等 教 育 改 革 と し て 位 置 付 け られたこと
②制度化 に先行 して平 成
6
(1994
) 年から 実 質的に中 高一貫 教育を 実施して いた宮崎 県 立 五 ヶ 瀬 中 学 校 ・ 高 等 学 校 が 全 人 教 育 を 掲 げ て 行 う 教 育 活 動 等 の 評 判 が 良 く , そ のことが制度化実現 に 良い影響を与えたこ と③ 文 部 省 ( 当 時 ) の 政 策 と し て , 「 ゆ と り 」 の 中 で 「 生 き る 力 」 を 育 成 す る 方 針 が 出 され,学校週
5
日制も 完全実施されるとい っ た一連の流れの中で 制 度化が提案された こ と な ど に よ り , い わ ゆ る 受 験 エ リ ー ト 校 化 へ の 懸 念 が 影 を 潜 め る と と も に , 私 立学校が制度化に反 対 しなかったこと
④ 中 等 教 育 学 校 , 併 設 型 に 加 え て 連 携 型 と い う 形 態 が 構 想 さ れ た こ と に よ り , 普 及 可 能性が高まるととも に ,結果として日教組 の 条件付容認を引き出 し たこと
第
5
章 中高一貫教育 の制度化をめぐるア イ ディア渡邊 恵 子(国立教育政 策研究所)
本 章 は , 第 Ⅱ 部 の ま とめ と し て , 中 高 一 貫 教育 の 制 度 化 を め ぐ る アイ デ ィ ア に つ い て 考察している。
まず,第
2
章から第4
章において明らかに な った内容を基に,中 高 一貫教育の制度化 を め ぐ る 七 つ の ア イ ディ ア ( ① 「 ゆ と り 」 の中 で 「 生 き る 力 」 を 育成 す る 方 針 , ② 学 制 改 革 で は な く 後 期 中 等教 育 改 革 と し て の 位 置付 け , ③ エ リ ー ト 教 育で は な く , 受 験 競 争 を 緩 和 す る ( 高 校 入 試を 実 質 的 に な く す ) とい う 意 味 付 け , ④ 中 高一 貫 教 育 と い う 政 策 そのもの,⑤選択的導 入という仕組み,⑥連 携型という実施形態,⑦五ヶ瀬という実例)を析出し,その分類 を 行った。
七 つ の ア イ デ ィ ア の うち , 五 つ は 制 度 化 以 前に は 現 れ て い な か っ たも の で あ る こ と か ら , 中 高 一 貫 教 育 の 制度 化 に 当 た っ て は , アイ デ ィ ア が 政 策 変 容 へ一 定 の 影 響 を 与 え た と考えられることを 指 摘した。
今 後 の 課 題 と し て , 利益 や 制 度 と の 関 係 の 探究 や ア イ デ ィ ア の 定 義の 精 査 が 残 さ れ て いることを挙げてい る 。
第Ⅰ部
中高一貫教育の現状分析
第
1
章現状分析の目的と方法
1.中高一貫教育の導入と中央教育審議会による検証
平 成
9
年6
月 の 中 央 教 育 審 議 会 第 二 次 答 申 「21
世紀を展望した我が国の教育の在り 方について」を受けて,平成11
年度から中高一貫教育制度が導入された。その後,中高 一貫教育校は,総合学科や単位制高等学校などとともに新しいタイプの高校と呼ばれ,高 校教育改革を牽引(けんいん)してきた。中高一貫教育が導入されて
10
年を経たことから,中央教育審議会初等中等教育分科会 に設けられた「学校段階間の連携・接続等に関する作業部会」は,中高一貫教育の成果と 課 題 に 関 す る 実 態 把 握 と 現 段 階 に お け る 検 証 を 行 い 改 善 方 策 等 に つ い て 検 討 す る た めの「中高一貫教育制度に関する主な意見等の整理」を平成
23
年7
月に報告した。その報告 は,平成22
年3
月に実施した「中高一貫教育に関する実態調査」の結果(1)を基礎資料と して審議され,論点ごとにとりまとめられたものである。ごく簡単に要点を紹介すると,成果と課題に関しては,様々な試行錯誤や体験を積み重ねること等を通じた,豊かな学習,
個性や創造力の伸長の実現などの中高一貫教育制度創設時に期待された成果が達成される 一方,教職員の負担感等の制度創設後に生じた課題が見られるとしている。そして,中等 教育の「選択肢」の拡大や学校設置者による特色ある教育の更なる展開の観点から,今後 とも中高一貫教育の設置が促進され,中等教育の多様化・複線化が深まることを期待する と述べており,中高一貫教育の発展を目指す方向を示した総括と言える。
2.第Ⅰ部における調査研究の目的と意図
高校教育政策を担当する都道府県教育委員会等においては,社会の変化と教育実態を十 分把握して高校教育改革計画や再編整備計画を策定しているが,変化の激しい時代にあっ て,次の策定や検討までの期間を短くする都道府県もある(2)。
教育政策研究に求められている一つは,その時々の地方における教育の現状と政策動向 を的確に把握して資料として蓄積すること,及びその分析から,都道府県等の自治体はも とより国の政策への示唆を得ることにある。さらに,実際に教育活動に携わる学校の取組 への参考資料を提供することも含めて考えることができる。
既に「中高一貫教育に関する実態調査」の実施から
6
年を経過している。第Ⅰ部では,中高一貫教育校に対する質問紙調査に基づき,平成
27
年度現在の公立中高一貫教育の現 状を明らかにするとともに,成果と課題を分析して上記研究課題に応えたい(3)。ところで,先述の「中高一貫教育制度に関する主な意見等の整理」の中で,「認識され ている課題に対しては,必要な制度の改善や各学校における取組が促されることが必要で ある。」と指摘されているものの,具体的な方策は示されていない。「中高一貫教育に関す る実態調査」は,中高一貫教育の全体像と主要な断面を明らかにしているにとどまり,限 界がある。中高一貫教育の改善方策を探るためには,中高一貫教育の取組を支える条件や
成果・課題をもたらす構造の把握が不可欠であると考えられることから,本調査研究では,
学校運営に踏み込んで調査し,先述の条件や構造の手掛かりを探ることも意図している。
3.研究対象と方法
(1)
研究対象第Ⅰ部では,中高一貫教育における,中等教育学校,併設型中高一貫教育校,連携型中 高一貫教育校という
3
種類の実施形態のうち,前2
者を主たる分析対象とする。主 に 都 道 府 県 立 の 高 等 学 校 と 市 町 村 立 中 学 校 の 連 携 に よ り 設 置 さ れ て い る 連 携 型 中 高 一貫教育校は,離島や中山間地などの人口減少や過疎化が進行する地域に多く,地域の高 等学校としての役割や地域振興の役割を担っている学校が少なくない。これに対して,中 等教育学校や併設型中高一貫教育校は都市部に設置されているのが一般的であり,数ある 高等学校の選択肢の一つとしての性格を強く持っている。このように,連携型中高一貫教 育校は,中等教育学校や併設型中高一貫教育校とは設置の背景や狙いが大きく異なると考 えられるからである。
また,後述のように連携型中高一貫教育校は,現在学校数の上で頭打ちの状況にある。
連携型中高一貫教育校については,目下,国の大きな政策課題となって地域創生の観点か ら,今後どのように整備すべきかを含めた本格的な研究が別途必要であると考えられる。
(2)
研究方法全国の公立中等教育学校及び公立併設型中高一貫教育校を対象に,中高一貫教育の取組 の現状と成果・課題に関する郵送による質問紙調査を実施し,その結果を中心に分析した。
また,特色ある取組を行っている全国の公立中高一貫教育校
5
校及び公立併設型中高一貫 教育校2
校への聞き取り調査を実施し,その聞き取り内容は各章の分析の参考にした。4.郵送による質問紙調査の概要
(1)
調査名「中高一貫教育の成果と課題に関する調査」
(2)
調査対象及び期間平成
27
年度における全国の公立中高一貫教育校31
校(4)及び公立併設型中高一貫教育校83
校(5)の全学校(資料①を参照)を対象とした。調査期間は,平成
27
年10
月下旬~11
月中旬である。(3)
調査票の回収状況中等教育学校
30
校,併設型中高一貫教育校77
校からの回答を得た。回収率は,中等教 育学校:96.8
%(30/31
),併設型中高一貫教育校:92.8
%(77/83
)であった。(4)
調査項目主な調査項目を以下に示す(調査票は資料②に掲載)。
①学校概要(後期課程[併設型高等学校]の学科名と募集定員,教職員数,学年別生徒 数,寄宿舎から通学する生徒の割合等)
②教育課程(前期課程[併設型中学校]における総授業時数,後期課程[併設型高等学 校]の週当たり授業時数,中高一貫教育に係る教育課程の基準の特例の活用,学年段 階の区分[ステージ]の設定,その他の教育課程の特色等)
③学校の組織と運営(校務分掌組織の一体的編成,学級担任の組織編成,前期課程[併 設型中学校]と後期課程[併設型高等学校]の合同行事等)
④入学者選抜と卒業生の進路(前期課程[併設型中学校]の入学者決定の方法,受検倍 率,進路別卒業生数等)
⑤施設の整備状況(校舎整備の方法,前期課程[併設型中学校]と後期課程[併設型高 等学校]による共用,中高一貫教育を行う上での施設整備の工夫と課題等)
⑥中高一貫教育の成果と課題(主な成果,主な課題)
(4)
関連資料の収集質問紙調査に際しては,学校概要を把握するために,併せて学校要覧,学校案内,学校 施設図面等の基本的な資料を収集した。
屋敷 和佳(国立教育政策研究所)
<注>
(1)
結 果の詳細は文 部科学 省ウェブサイト内に ある 下記リンク先(「中高一貫 教育に関する実態調 査(結果)データ集」『 学校 段階間の連携・接続 等に 関する作業部会(第
1
回 )資料8-2
』)を 参 照されたい。http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/045/siryo/__icsFiles/afieldfile/2010/
12/02/1299259_09.pdf
(最終アクセス日: 平成28
年1
月31
日)(2)
屋敷 和佳 「都道 府県 に おける 高校教 育改 革・再 編整備 の検討 と策 定」国 立教育 政策研 究所 プロ ジェクト研究『高等学校政 策全般の検証に基づ く高 等学校に関する総合 的研 究』(研究代表:杉 野剛)2014
,19
ペ ージ(3)
国 立教育政策研 究所で は,これまで高校教育改 革 に関するプロジェク ト調 査研究を行ってきた。その中から中高一貫 教育 に関する代表的な論 考を 取り上げると次の
3
点が ある。①工藤文三「中 高一貫教育における 教育 課程の編成及び学習 指導 と評価に関する課題」国立 教育政策研究所『今 後の後期中等教育の 在り 方に関する調査研究(中間 報告書)』(研究 代表:工 藤 文三)2007
,143
~
146
ページ,②工 藤文 三「中高一貫教育に 関す る実態調査―学校調 査の 結果概要―」国立教 育政策研究 所『今 後の後 期中等教育 の在り 方に関 する調査研 究(最 終報告 書)』(研 究代表 :工 藤文三)2008
,148
~263
ペー ジ,③坂 野慎二「 中高一貫教 育校」国 立教 育政策研究 所『高等 学 校 政 策 全 般 の 検 証 に 基 づ く 高 等 学 校 に 関 す る 総 合 的 研 究 』( 研 究 代 表 : 杉 野 剛 )2014
,207
~
220
ペ ージ(4)
広 島市立安佐北 中学校・高等学校は,平成26
年 度より学年進行に伴 い広 島市立広島中等教育 学 校へ移行している。 この2
校は校長 一人が兼務し て いるが,実施形態が 異な るため,中等教育 学校と併設型中高一 貫教 育校それぞれに調査 依頼 を行い,いずれから も回 答を得た。(5)
併 設型中高一貫 教育校 においては中学校と 高等 学校の一つの組合せを1
校と数えている。また,一人の校 長が中学 校と高 等学校を 兼務しな い場合 は,中学 校と高等 学校そ れぞれの校 長に調 査 依頼を行 った。な お,一 方の校長 から回答 があり 他方の校 長から回 答がな いというケ ースは な かった。
第
2
章中高一貫教育校の設置
1.はじめに
平成
11
年1
月に閣議決定された「生活空間倍増戦略プラン」及び平成11
年9
月に改訂 された文部省の「教育改革プログラム」において,「当面,高等学校の通学範囲(全国で500
程度)に少なくとも1
校整備されること」との整備目標を掲げた。これは,実質的に 生徒や保護者が選択することを可能とするために示したものと言われている。平成9
年に 中央教育審議会の第二次答申(以下,中央教育審議会答申)が取りまとめられた当時,私 立の中学校・高等学校を中心に,中高一貫教育は実際上相当の広がりがあったことから,中 高一貫教育制度は,特に公立学校への導入に道を開くことを主眼にしており,500
校とい う整備目標も公立中高一貫教育校の設置を促すためであったと考えられる。中高一貫教育校が設置されて既に
15
年以上が経過しているが,この目標は実現された のか。本章では,この点も含めて現在の中高一貫教育校の設置状況を広く明らかにし,次 章以降の分析等の基礎資料とする。中高一貫教育校の整備は,学校教育制度の複線化構造を進める観点から望ましいとされ るが,設置の基本は選択的導入にあり,選択的導入は学校設置者が特色ある教育を展開す る裁量の範囲を拡大することにつながるとされている。そこで,まず,数値目標を掲げな がらも,選択的導入を旨とする政策の下で実際にどのように公立中高一貫教育校の整備が 進んだのか,について検討する。
次いで,質問紙調査より,中等教育学校及び併設型中高一貫教育校のデータを集計して 基本的な姿を明らかにする。意外なことに,文部科学省の「中高一貫教育に関する実態調 査」も含めて,中高一貫教育の全体把握を目的とする調査や研究は,中高の接続の取組に 注目するものの,中高一貫教育を行う学校の規模や学科などの基礎情報の整理は十分行わ れてはいないからである。
今後の公立中高一貫教育校の整備はどのような方向にあるのか。最後に,都道府県教育 委員会等における中高一貫教育の検証報告や高校教育改革や再編整備に関する審議会答申 や整備計画資料を基に,中高一貫教育の成果・課題と今後の整備方針等を検討するととも に,今後の中高一貫教育校の設置について展望する。
2.中高一貫教育校の設置状況
(1)
設置者により異なる中高一貫教育の設置表 1
は,国立,私立を含めた平成27
年度現在の中高一貫教育校の数である。設置者別 には私立が最も多く400
校に迫っている。これに対して公立は,およそその半数である。時系列で見ると,平成
19
年度は公立の中高一貫教育校の方が多かったが,平成20
年度に 私立の数が上回るようになった。私立については,27
年度までの2
年間に130
校を超える著しい増加があったことは注目される。
公立,私立,国立それぞれの全日制高等学校と中等教育学校を合わせた学校数に対する 中高一貫教育校の割合は,私立の
30.1
%,国立の26.3
%に対して,公立は5.6
%にとどま っている。公立では,併設型中高一貫教育校と連携型中高一貫教育校の数は共に 80
校台であり,数の上では競っている。また,連携型中高一貫教育校の大半を公立が占めることは公立の 特徴の一つである。なお,公立の内訳は,都道府県立では中等教育学校
25
校,併設型中 高一貫教育校69
校,連携型中高一貫教育校79
校であり,市町村立(特別区を含む,以下 同じ)では中等教育学校6
校,併設型中高一貫教育校14
校,連携型中高一貫教育校1
校 である。市町村立の中高一貫教育校の割合は11.7%
であり,都道府県立に比べて中高一貫 教育校の割合は高い。このほか,私立には圧倒的に併設型中高一貫教育校が多く,国立には中等教育学校が多 いという特徴がある。
(2)
公立中高一貫教育校の推移図
1
のように,中高一貫教育の制度導入後,しばらくは連携型中高一貫教育校が急速に 増えたが,10
年もしないうちに頭打ちに近い状況になった。そして,平成27
年度の学校 数は併設型中高一貫教育校に逆転された。中等教育学校と併設型中高一貫教育校は,平成
10
年代後半で増加している。この時期 は,全国的に都道府県等の高校教育改革・再編整備計画が実施に移された時期であり,そ れらの計画に基づく設置であることがうかがえる(1)。その後,中等教育学校の数は余り増 えていないが,併設型中高一貫教育校は少しずつではあるが継続して増えている。区分 中等教育学校 併設型 連携型 計 (中高一貫教育校の割合
)
公立
31 83 80
194 ( 5.6%)私立
17
3754
396 (30.1%)国立
4 1 0
5 (26.3%)計 52 459
84
595 (12.4%)※併設型及び連携型は,中学校・高等学校の1組を1校として集計している。
また,国立大学附属中学校・県立高校の連携型中高一貫教育校は公立に含めている。計の括弧内は,各区分の 全日制高等学校と中等教育学校を合わせた数に対する中高一貫教育校の割合である。
出典)学校基本調査を基に作成
表1 中高一貫教育校の設置状況(平成27年度)
1 3 27 35 49 60 68 70 71 73 75 78 78 79 81 81 80
1 2
3 10
22
35 38 43 55 60 63 70 71 76 76 79 83
1
2 4
7 8 15
17 20 25 28 28 28 29 30 31
0 50 100 150 200
H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26 H27 図1 公立中高一貫教育校の推移
連携型 併設型 中等教育学校
年 度
(校)
出典)学校基本調査を基に作成