a 東京都健康安全研究センター薬事環境科学部環境衛生研究科 169-0073 東京都新宿区百人町3-24-1
b 東京都健康安全研究センター薬事環境科学部
都内新築ビルにおける室内空気中の化学物質の実態調査
角田 德子a,大貫 文a,大久保 智子a,斎藤 育江a,鈴木 俊也a,保坂 三継b
未規制物質を含む化学物質による室内空気汚染の現状を把握するため,都内新築ビルにおいて,アルデヒド類,有 機酸類及び揮発性有機化合物(VOC)77種を対象に空気質調査を行った.調査の結果,シックハウス症候群の原因物質 とされるホルムアルデヒドをはじめ,厚生労働省から指針値が示された8物質はすべて検出されたが,いずれも低い 数値で推移しており,調査期間中,指針値を超過する物質は無かった.この他に未規制物質が50種類検出され,その 中でもアセトン,トルエン,酢酸,ギ酸の検出率は調査期間中100%であった.また未規制物質については,ヘキサン
が4,280 µg/m3,2-ブタノンオキシムが3,570 µg/m3と,比較的高濃度で検出され,室内で用いられた建材が発生源であ
ると推察された.多くの物質は夏季に濃度が上昇し,冬季に減少する傾向が見られたが,未規制物質の1種である2-エ チル-1-ヘキサノールについては,冬季になっても明らかな濃度減少が見られなかった.
キーワード:室内空気,化学物質汚染,揮発性有機化合物(VOC),ホルムアルデヒド,未規制物質
は じ め に
頭痛や皮膚粘膜への刺激及び呼吸器系の症状を引き起 こすシックハウス症候群1)の原因物質の一つとして,ホル ムアルデヒドが挙げられる.ホルムアルデヒドは国際が ん研究機関(IARC)によりグループ1(ヒトへの発がん 性あり)に分類される物質であり,塗料や接着剤といっ た建材に含まれている.厚生労働省で室内濃度指針値が 定められた物質の1つであり2),建築基準法により,ホル ムアルデヒドを含む建材の内装仕上げへの使用制限や,
24時間機械換気設備の設置についての基準が設けられて いる.建築物衛生法では,新築特定建築物における空気 中ホルムアルデヒドの測定について,「使用を開始した 日以後最初に訪れる6月1日から9月30日までの間」に実施 すると定められている.これに従うと,建築物の使用開 始時期によっては,空気中ホルムアルデヒド濃度を把握 するまでに時間を要し,長期間に亘り高濃度のホルムア ルデヒドにばく露される可能性がある.ホルムアルデヒ ドを含む指針値物質の室内空気濃度は減少傾向にあると いう報告もあるが3),一方で,未規制の化学物質による健 康被害も報告されており4,5),室内汚染状況を的確に把握 し健康被害を防ぐには,指針値が設定された化学物質に 加え,多くの化学物質をモニタリングする必要がある.
このことから筆者らは,都内の新築ビルの室内を対象と し,新築当初(築後4か月)から,室内空気の化学物質汚 染の実態を把握するため,アルデヒド類,有機酸類及び 揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds,以下 VOCと略す)計77種を対象に,定期的に空気質調査を行 った.本報ではこの調査で検出した主な化学物質や,濃 度の経時変化などの結果について報告する.
実 験 方 法 1. 調査期間及び調査場所
都内新築ビルの使用目的や仕様が異なる7つの部屋(部 屋A~G)の空気をアクティブ法により30分間採取し分析 した.空気の採取は築後4か月(1月)から1年1か月(翌 年2月)まで,1~2か月に1回ずつ計8回行った.各室の内 装材については,壁は化粧石膏ボード,天井はロックウ ール化粧吸音板で共通していたが,床材は異なっており,
部屋A,B,C,Gがタイルカーペット,部屋D,Fがビニ ルシート,部屋Eが畳であった.また,空調と機械換気は,
部屋A及びGについては常時作動していたが,他の部屋で は使用時のみの作動であった.また,部屋A~部屋Cは2 階,部屋D~部屋Gは3階に位置していた.
2. 測定方法
空気採取装置の概要を図1に示す.未規制物質を含む多 種の化学物質測定に対応するため,各部屋において,
DNPH誘導体化用のアルデヒド用サンプラー(Sep-Pak
XPoSure,ウォーターズ製),VOC測定用の吸着剤とし
てTenax TA,Carboxen1016(ともにSUPELCO製),有機 酸の捕集用としてミリQ水10 mLを吸収液としたインピン ジャー(SPCミゼットインピンジャー,柴田科学製)の4 種のサンプラーを用い,ミニポンプ(MP-∑30II,柴田科 学製)にそれぞれのサンプラーを接続し,流速はVOCが 0.1 L/min,アルデヒドと有機酸が1.0 L/minで30分間空気 を採取した.アルデヒド類については高速液体クロマト グラフィー(HPLC)(Infinity 1290,アジレント・テク ノロジー製),VOCは加熱脱着装置(ATD400,パーキ ンエルマー製)及びガスクロマトグラフ質量分析計(GC-
MS)(QP2010,島津製作所製),有機酸はイオンクロマ
トグラフィー(DionexTM ICS-1000,サーモフィッシャー 製)を用いて分析した.それぞれの分析条件を表1~3に 示す.
結 果
検出された化学物質の種類と濃度は部屋間で違いがあ るが,指針値設定物質の8物質(ホルムアルデヒド,アセ トアルデヒド,トルエン,キシレン,パラジクロロベン ゼン,エチルベンゼン,スチレン及びテトラデカン)に ついては,すべてが室内から検出された.しかし,これ
らの濃度は低い値で推移し,調査期間中に指針値を超過 することはなかった.指針値設定8物質の濃度の最小値,
最大値及び中央値を表4に示す.それ以外の未規制物質に ついては,今回の測定方法では50物質が検出された.
室内から検出された物質の内,トルエン,アセトン,
酢酸及びギ酸の4物質については,調査期間中すべての室 内で検出された(検出率100%).また,総揮発性有機化 合物(Total Volatile Organic Compounds,以下TVOCと略 す)については,厚生労働省から暫定目標値として400 µg/m3という数値が提示されているが,ヘキサンが4,280 µg/m3,2-ブタノンオキシムが3,570 µg/m3と,1物質で400 µg/m3を超過する検出例があった.主な検出物質について,
以下に部屋別の傾向及び経時変化を示す.
1. 部屋別の検出物質の傾向
図2に,各部屋の主な検出物質とその割合を示す.なお 数値は一年間の平均総濃度を100%とし,各物質の濃度を 割合で表したものである.部屋Aはエタノールが最も多 く,36%を占めた.部屋B及びDは2-エチル-1-ヘキサノー ルが最も多かった.部屋Cは化学物質の総濃度平均が全 部屋中最も低かったが,ホルムアルデヒドが占める割合 が他の部屋に比較して大きかった.部屋E及びGは約50%
前後をそれぞれヘキサン,2-ブタノンオキシムが占めて いた.部屋Fはアセトンとエタノールがそれぞれ20%前後 検出された.
図 1 空気採取装置の概要
(いずれもミニポンプにサンプラーを接続)
① VOC捕集用サンプラー(Carboxen 1016)
② VOC捕集用サンプラー(Tenax TA)
③ 有機酸捕集用サンプラー(SPC ミゼットインピ ンジャー)
④ アルデヒド用サンプラー(Sep-Pak XPoSure)
③ ④
① ②
カラム ZORBAX Bonus RP 250 mm×4.6 mm,5 µm
カラム温度 40℃
移動相A アセトニトリル50:水50:テトラヒドロフラン0.1 移動相B アセトニトリル80:水20:テトラヒドロフラン0.1 グラジェント(%B) 25%(14 min)-25%/min-100%(9 min)
流速 1.0 mL/min
検出波長 360 nm(200-400 nm)
表 1 H PLC分析条件
表 2 GC-MS分析条件
脱着温度 250℃(Tenax TA)
280℃(Carboxen1016)
脱着時間 10 min
流速 30 mL/min
スプリット比 1:20 トランスファー温度 250℃
コールドトラップ温度 2℃-250℃
GC-MS
カラム DB-1 0.25 mm i.d.×30 m, 1 µm
キャリアガス He, 50kPa 検出器温度 200℃
カラム温度 40℃(3 min) - 12℃/min - 220℃(2 min) - 20℃/min - 300℃(1 min) 検出モード Scan(m / z 45 - 350)
表 3 イオンクロマトグラフィー分析条件
カラム IonPacTMAG11-HC
移動相 KOH 2.5 mM(8 min)-4 min-40 mM(8 min) カラム温度 35℃
流速 1.0 mL/min
検出器 電気伝導度(サプレッサーAERS 500)
注入量 30 µL
表 4 指針値設定物質の最小・最大値及び中央値 (µg/m3)
化学物質 最小値 最大値 中央値 指針値
ホルムアルデヒド ND 27.0 11.1 100 アセトアルデヒド ND 17.8 5.5 48 トルエン 3.1 33.0 5.5 260
キシレン ND 11.4 ND 870
パラジクロロベンゼン ND 4.6 ND 240 エチルベンゼン ND 4.5 ND 3,800
スチレン ND 4.0 ND 220
テトラデカン ND 3.5 ND 330
ND:定量下限値(2.5 µg/m3)未満
2. 主な検出物質濃度の経時変化
以下に,今回の調査において検出率が高かった物質,
及び高濃度で検出された物質について示す.
1) ホルムアルデヒド
各部屋の濃度を図3に示す.現在は建材への使用が規制 されているが,依然として,家具等からのホルムアルデ ヒドの放散の可能性は充分にある6).今回の調査において も,調査初回月に部屋A及び部屋Fで定量下限値(2.5 µg/m3)未満であった以外,すべての調査回及びすべての 部屋で検出された(検出率96%).しかし指針値である
100 µg/m3を超過することはなく,調査期間中の最高値は
部屋Bで27 µg/m3(8月)であった. 多くの部屋で,冬季 より夏季に濃度が上昇する傾向が見られた.
2) トルエン
各部屋の濃度を図4に示す.塗料や接着剤に含まれてお り,またヒトへの影響として,332 mg/m3の濃度でのばく 露で,神経行動変化が起こることが報告されている7).調
査期間中に指針値である260 µg/m3を超過することはなく,
調査期間中の最高値は部屋Gで33 µg/m3(2月)であった.
季節変動は見られなかったが,調査期間を通じて2階の部 屋(A~C)よりも3階の部屋(D~G)の方が濃度が高い 傾向にあった.
3) アセトン
各部屋の濃度を図5に示す.アセトンはネイルリムーバ ーや建材用合板やカーペットの裏張り,清掃用のワック スや光沢剤にも含まれている.他の工業的な化学物質と 比較し,毒性は低いとされるが,約560 mg/m3の濃度での 4時間ばく露で神経行動試験の行動変化8)や目への刺激や 体重減少9)などといった人体への影響も報告されている.
調査開始から5か月間は約6~40 µg/m3で推移していた が ,8月 に 部 屋D,E,Fに て そ れ ぞ れ130 µg/m3,110
µg/m3,290 µg/m3と,それまでの各部屋での最高値を大
きく上回る濃度で検出された.部屋Eでは10月に更に上昇
し,320 µg/m3と調査期間中での最高値となった.部屋D
部屋A 部屋B 部屋C
部屋D 部屋E 部屋F
8月 10月 12月 2016年2
9.2 25.3 13.5 9.2
4.8 6.3 5.5 4.4
10.7 31.7 12.2 4.7
0.0 0.0 0.0 0
0.0 0.0 0.0 0.0
0.0 0.0 0.0 0.0
0.0 3.4 0.0 0.0
0.0 2.9 0.0 0.0
35.7 23.1 45.4 10.6
0.0 3.7 8.0 0.0
0.0 0.0 0.0 0.0
0.0 0.0 10.0 0.0
0.0 0.0 0.0 0.0
0 0 0 0 0 0 0 0
49%
8% 10%
33%
平均総濃度 890 µg/m3
2-ブタノン オキシム
エタノール 2-ブタノン
その他
部屋G
図 2 新築ビルにおける各室内の空気中化学物質の検出割合
とEにおいては2か月後までには減少したが,部屋Fにお いては6か月間で徐々に減少した.
4) 酢酸及びギ酸
各部屋の濃度を図6及び7に示す.酢酸とギ酸のヒトへ の影響は,酢酸では25 mg/m3の濃度でのばく露で,鼻へ の刺激と臭気10),ギ酸では3 mg/m3のばく露で眼や気道に 対する障害が報告されている11).
酢酸の濃度は部屋E,ギ酸の濃度は部屋Bで他の部屋よ り高く,それぞれ調査期間中最高値は150 µg/m3(8月),
27 µg/m3(8月)であった.
5) 2-エチル-1-ヘキサノール
各部屋の濃度を図8に示す.2-エチル-1-ヘキサノールに よる頭痛や吐き気といった自覚症状の出現の閾値は,
65.5~336 µg/m3の間にあるという報告がある15).発生機 序は,厚労省の指針値設定物質の1つであるフタル酸ジエ チルヘキシル(DEHP)が可塑剤として使用されている床仕 上げ剤において,強アルカリ下でのDEHPの加水分解の進 行で放散されると指摘されている16).他の化学物質の挙 動と異なり,夏季を過ぎて冬季へ向かっても明らかな濃 度減少が見られず,8月より12月の方が濃度が高い部屋が 複数存在した.調査期間中の最高値は部屋Bでに270 図 5新築ビル室内空気中の
アセトン濃度の経時変化
0 50 100 150 200 250 300 350
0.5 2.5 4.5 6.5 8.5
アセトン濃度(µg/m3)
部屋A 部屋B 部屋C 部屋D 部屋E 部屋F 部屋G
1月 2月 4月 6月 8月 10月 12月 翌年2月 図 3 新築ビル室内空気中の
ホルムアルデヒド濃度の経時変化
0 5 10 15 20 25 30
0.5 2.5 4.5 6.5 8.5
ホルムアルデヒド濃度(µg/m3)
部屋A 部屋B 部屋C 部屋D
部屋E 部屋F 部屋G
1月 2月 4月 6月 8月 10月 12月 翌年2月
図 4新築ビル室内空気中の トルエン濃度の経時変化
0 5 10 15 20 25 30 35
0.5 2.5 4.5 6.5 8.5
トルエン濃度(µg/m3)
部屋A 部屋B 部屋C 部屋D
部屋E 部屋F 部屋G
1月 2月 4月 6月 8月 10月 12月 翌年2月
図 8 新築ビル室内空気中の 2-エチル-1-ヘキサノール濃度の経時変化
0 50 100 150 200 250 300
0.5 2.5 4.5 6.5 8.5
2E1H濃度(µg/m3)
部屋A 部屋B 部屋C 部屋D 部屋E 部屋F 部屋G
1月 2月 4月 6月 8月 10月 12月 翌年2月 図 7新築ビル室内空気中の
ギ酸濃度の経時変化
0 5 10 15 20 25 30
0.5 2.5 4.5 6.5 8.5
ギ酸濃度(µg/m3)
部屋A 部屋B 部屋C 部屋D 部屋E 部屋F 部屋G
1月 2月 4月 6月 8月 10月 12月 翌年2月 0
20 40 60 80 100 120 140 160
0.5 2.5 4.5 6.5 8.5
酢酸濃度(µg/m3)
部屋A 部屋B 部屋C 部屋D 部屋E 部屋F 部屋G
1月 2月 4月 6月 8月 10月 12月 翌年2月
図 6新築ビル室内空気中の 酢酸濃度の経時変化
µg/m 8
散が続いているが,部屋AとCでは調査期間を通じほぼ検 出されなかった.
6) ヘキサン
ヒトへの影響については,約3,500~8,900 mg/m3の濃度 でのばく露により,多発性神経炎を起こすという報告が ある12).1月に部屋Eで4,280 µg/m3と比較的高濃度で検出 され,翌月には6.3 µg/m3と急激に減少し,その後は10 µg/m3程度で推移した.
7) 2-ブタノンオキシム
2-ブタノンオキシムは,マウス及びラットでの動物実 験において,約1,330 mg/m3の濃度でのばく露で,肝細胞 の癌化が指摘されており13),また培養肝細胞への終濃度5 mMのばく露で,グルタチオンの低下を引き起こすと報 告されている14).2月に部屋Gで3,570 µg/m3と比較的高濃 度で検出されたが,4月には2.7 µg/m3と濃度が低下し、そ れ以降は定量下限値未満であった.
また,ヘキサンと2-ブタノンオキシムについては,比 較的高濃度での検出が1度のみ且つ1部屋のみであり,そ れ以外の調査では低濃度もしくは定量下限値未満であっ たことからグラフは示していない.
考 察
今回,調査した新築ビルの室内から多くの化学物質が 検出されたが,その大半にあたる50物質が厚生労働省に よる指針値の設定がなされていない未規制物質であった.
TVOCの暫定指針値である400 µg/m3を1物質で超過したヘ キサンと2-ブタノンオキシムも未規制物質である.部屋E におけるヘキサンの検出は,室内の板張りの部分へのヘ キサンを含むベンジン(ヘキサン含有率60%以上)等の 洗浄剤を用いた清掃に起因する可能性が考えられる.当 該板張り部分が存在するのは部屋Eのみであった.また部 屋Gにおける2-ブタノンオキシムの検出については,発生 源調査の結果,空気採取前日の室内工事で使用されてい たシリコンシーラントが発生源であることがわかった17).
多くの化学物質の濃度は夏季に上昇し冬季に低下する 傾向にあったが,これは夏季の温湿度により建材からの 放散が促されたためと考えられる.各部屋間で検出され た化学物質の種類や濃度には違いがあるが,これは室内 で用いられている床材及び壁材といった建材等が異なる
部屋D,E及びFについては,8月から一時的にアセトン の濃度が上昇した.この3部屋は同じフロアに存在し,共 通の廊下に面していたことから,空気採取の前にこの廊 下でアセトンを含む床のワックスがけや洗剤を用いた清 掃が行われた可能性が考えられる.
部屋Eにおいては酢酸が他の部屋よりも高濃度で検出さ れた.酢酸とギ酸の間に相関が高いという報告18)から,
部屋Eにおける相関を確認したところ,酢酸とギ酸の濃度 間の決定係数はR2=0.96を示し,同一発生源からの放散が 示唆された(図9).また部屋Eは今回空気を採取した部 屋の中で唯一畳を使用しており,酢酸とギ酸は畳の下の 構造合板に使用されているビニル樹脂系接着剤からの放 散の可能性が考えられる.
エタノールが他の部屋より高い割合で検出された部屋 AとFは人の出入りが多く,主に冬季におけるエタノール を含む手指の消毒剤の使用に起因すると考えられる.
2-エチル-1-ヘキサノールについては経時的な濃度上昇 が見られたが,高濃度で検出された部屋Bについては,
ビルの中で最も北側に位置する部屋であることから,コ ンクリートの含水率が高いことが予想され,床材がアル カリの影響をより強く受けたため,他の部屋よりも可塑 剤中DEHPの加水分解が進行したと推察される.
未規制物質によるシックハウス症候群の惹起は報告が あり4,5),未規制物質が高濃度で検出されている実態は看 過できるものではない.高濃度で化学物質が検出された 際の原因の特定が困難である場合も多いが,家具類の持 ち込みや工事など,化学物質の発生源は日常にも多く存 在し得る19).健康被害を引き起こすという報告が現在ま でになされていない化学物質でも,多種類の化学物質に 長期間ばく露されることで,今後健康被害につながる可 能性も充分にあり,室内での化学物質濃度の挙動には注 視が必要であると考える.一方で,個人により感受性,
症状及び原因物質がそれぞれ異なるため,化学物質が原 因である健康障害かどうかは判断が難しい一面もある.
建築物衛生法でのホルムアルデヒドの調査期間は6月か ら9月とされているが,今回の調査では,ホルムアルデヒ ドがその期間以外で最大濃度となった部屋も複数存在し た.一例として,部屋Gにおいては,6月に9.5 µg/m3,8 月に9.2 µg/m3であったのに対し,10月は25.3 µg/m3と6月 及び8月の約2.8倍であった等,部屋DとGにおいては夏季 にホルムアルデヒドの濃度が低下していた.これは夏季 に室内で空調が入り換気されていた可能性が考えらえる が,明確な理由は不明であった.
今回の結果から,汚染実態の把握とシックハウス症候 群の軽減のためには,時期や化学物質の種類に関わらな い継続的な調査が必要であることが示唆される.こうし た情報が,未規制物質による汚染改善のための行政指導 に結びつくことが期待される.
図 9 部屋Eにおける酢酸濃度とギ酸濃度 R² = 0.9644
0 5 10 15 20 25
0 50 100 150
ギ酸濃度(µg/m3)
酢酸濃度 (µg/m3)
ま と め
都内新築ビルで,室内空気中の化学物質の測定を築後4 か月から1年5か月後まで行った.その結果,厚労省から 指針値が示されている8物質はすべての室内から検出され たが,指針値を超過することはなかった.指針値物質以 外の未規制物質は50物質が検出され,またその中でもヘ キサンが4,280 µg/m3,2-ブタノンオキシムが3,570 µg/m3 と,単独で1,000 µg/m3を超過する事例も見られた.指針 値物質に加え多くの未規制物質が室内に存在している実 態が判明し,多種の化学物質に長期間に亘りばく露され ることで,健康障害につながる可能性もある.室内の状 況や使用建材によって放散される化学物質の種類や濃度 は異なり,ホルムアルデヒドを含む多くの化学物質濃度 は,夏季に高く冬季に低い季節変動が見られたが,未規 制物質の1種である2-エチル-1-ヘキサノールは,冬季にな っても明らかな濃度減少が見られないなど,化学物質に よりその挙動に差があった.室内空気の化学物質汚染実 態の把握とシックハウス症候群の軽減につなげるために は,調査時期や調査対象物質に関わらない継続的な調査 が必要であると考えられる.
文 献
1) Norbäck, D., Micheal, I.,Widström, J.: Scand J Work Environ Health, 16, 121-128, 1990.
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会環境系論文集,74(636),185-191,2009. 17) 角田德子,大貫文,大久保智子,他:平成27年度
地方衛生研究所全国協議会関東甲信静支部要旨集,
73-74,2016.
18) 呂 俊民,古田嶋智子,佐野千恵:保存科学,53, 205-213,2014.
19) 神野透人,香川(田中)聡子,古田光子,他:国立
医薬品食品衛生研究所報告,129,86-92,2011.
a Tokyo Metropolitan Institute of Public Health,
3-24-1, Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo 169-0073, Japan
Survey of Chemicals in Indoor Air in Newly Constructed Building
Tokuko TSUNODAa, Aya ONUKIa, Tomoko OKUBOa, Ikue SAITOa, Toshinari SUZUKIa, and Mitsugu HOSAKAa
Monitoring of chemical substances presented in indoor air in a newly constructed building was conducted. Seventeen types of aldehydes and 60 types of volatile organic compounds were detected in indoor air. Eight types of compounds regulated by the Ministry of Health, Labor and Welfare of Japan, including formaldehyde, one cause of Sick House Syndrome (SHS), were detected in indoor air, but these concentrations were low level. Fifty types of non- regulated substances were detected in indoor air. Above all, the detection rates of acetone, toluene, acetic acid, and formic acid were 100% throughout the investigation period. We detected n-hexane and 2- butanone oxime at maximum concentrations of 4,280 µg/m3 and 3,570 µg/m3 , respectively. Their emission sources were considered to the building materials used in the building. The concentrations of many chemicals had a tendency to increase in summer and to decrease in winter. However, the concentration of 2-ethyl-1-hexanol, one type of non-regulated compound , did not decrease in winter.
Keywords: indoor air, pollution, volatile organic compounds, formaldehyde, non-regulated substance