実世界における選択の単純化・反復により納得感を向上させる選択手法
Selection Methods Improve Satisfaction by Simplification and Repetition for Real-World Scenaries.
1W163050-7
小泉 篤志 指導教員 橋田 朋子 准教授
KOIZUMI Atsushi Assoc. Prof. HASHIDA Tomoko
概要: 日々の行動は選択の積み重ねで決定しているため,選択肢や選択する機会の多さに疲労感を覚える.その原因の1 つが選択における納得感の低下である[1].筆者は選択結果に対する納得感を高める方法として,選択の単純化と反復に着 目した.本研究では,実世界における複数の選択状況において使用可能な,選択の単純化と反復により選択結果に対する納得 感を向上させることを目的とした選択手法を提案する.具体的には,トーナメント法と分割探索法を用いた2種類の選択手 法を提案し,それぞれ日常生活の特定の状況で使用するためにスマートフォンアプリケーションとして実装した.加えてユ ーザスタディを行い,トーナメント法と分割探索法が有効であるかを調査した.
キーワード:納得感,選択,単純化,反復
Keywords : Convinced,Choice,Simplification,Repetation
1.はじめに
私たちは複数のものから何か一つを選んだり,使うお金 の額を決めたり,日常的に選択を行うことが多々ある.選 択肢や選択する機会が増えるにつれて,選択に疲れること や,自分の選択結果に対する納得感が指摘されている [1].
そこでこれらを解決するための新たな選択手法が必要と 考えられる.最近では,前者の選択疲れを解決するための 研究は多数行われており,選択を自分の意志以外の要因に 委ねて行うこと[2]や,認識技術により既存の選び方をよ り行いやすくすることが可能となっている[3].しかし,選 択結果に対する納得感の低下の問題に着目した事例は少 ない.先駆的な研究として山下は,納得感を高める上で, 選択を直観的に行うことや,選択結果が自分にとって価値 があるという根拠を明確にすること,の有効性を示してい る[4].本研究では,実世界において複雑な選択肢を単純化 して示すことで直感的に選びやすくなり,何度も何度も反 復して選択させることで自分で選び抜いた価値のある結 果だという思いやすくなるのではと考えた.そこで複数の 選択肢が同時に提示されている中で選択する状況や連続 値の中から特定の値を選択する状況を想定し,実世界での 選択を単純化して反復選択させる手法を提案する.
2.関連事例
本研究と同様に日常での選択方法を変える事例として, スイッチの選択の幅を0/1の2値から0~1へ広げること ができるGray Switch[2],日常生活で気軽に抽選できるこ とを目的とした,写真を撮影するだけで順番を決めること
ができるFacelot[3]などがある.しかしいずれも決断を機
械が委任しており,自分の意志で決断していない.また、自 分の理想の異性とマッチングすることを目的としたスマ ートフォンアプリであるTinder[5]では異性のプロフィー ルを見て,あり(LIKE)かなし(NUPE)の2 択を左右にスワイ プし,直観的で単純な選択を反復して行い,理想の異性を
図 1 提案手法使用状況 (左) トーナメント法 (右) 分割探索法
見つける.これらの選択はデジタルの情報を操作し,単純 化・反復しているが,本研究は実世界の選択を対象にする.
3.提案手法
提案する実世界の選択を単純化して反復選択させる手 法は大別すると,実世界で複数の選択肢が同時に提示され ている状況での選択と,連続値の中から特定の値を選択す る状況での選択とで異なる.そこで前者を,トーナメント 法,後者を分割探索法として提案する.
3.1.トーナメント法
トーナメント法は,実世界で複数の選択肢が同時に提示 されている状況での選択を想定したものである.ここでの 単純化とは,選ぶべき対象が複数ある場合に, スマートフ ォン(での撮影・画像処理)を介して対象を2つに絞って 表示することを,反復とは勝ち抜きトーナメント形式で2 択での選択肢の表示を繰り返すことを指す.ユーザは2択 の選択を繰り返すことで最終的に1つに決める(図1左).
3.2.分割探索法
分割探索法は,連続値の中から特定の値を決める状況で の選択を想定したものである.ここでの単純化とは,数字 をある程度離散的に表示することを,反復選択とはユーザ が求めている数値はその額より「多い」か「少ない」かの 主観的な比較を繰り返させることを指す.ユーザはこれに より選択範囲を狭め最終的に数値を1点に決める(図1右).
4.実装
4.1.トーナメント法アプリケーション
トーナメント法を用いる多数の選択肢から一つを選ぶ 状況の例として,自動販売機で飲み物を選ぶ時とする.最 初に自動販売機の写真を撮影し,飲み物の部分のみが映る ように手動でトリミング作業を行い,横列の本数を入力す る.次にそれらの値を用いて,全飲み物の単体の写真を自 動で切り抜く.単体画像を作成した後,それらのうち2枚 をスマートフォン画面に表示し,選択された画像は 1 ルー プ終了後再度表示するようにする.この操作を繰り返し行 うことで欲しいものを1つに決める.
4.2.分割探索法アプリケーション
分割探索法を用いる連続値の中から特定の値を選択す る状況の例として,食事の値段を決める時とする.最初に あらかじめ設定してある数字を画面に表示する.数字に対 して「高い」を選択すると,その数値より小さい値が,「安 い」を選択すると,その数値より大きな値が表示される.選 択するたびに候補となる数値の範囲を狭め,繰り返し選択 することで数値を1点に決める.
ここで, 表示する金額の単位,選択後表示される数値の 位置,表示される数値に対応する報酬画像の有無について, それぞれ適切な条件を簡易な実験により調査した.その結 果,数値は 10 円単位で表示し,次の数値の位置は全範囲の 2/3 離れた場所にし,報酬画像をありにした.これらを考慮 し,アプリケーションの作成を行った.
5.実験
本実験では19-23歳の男女8名にユーザスタディを行い, トーナメント法と分割探索法が有効であるかを調査した.
手順としてはそれぞれの選択手法において,システムなし とシステムありそれぞれ2試行実施し,それぞれの手法の 使用終了ごとにアンケート調査を行った.アンケートの評 価項目は「①決めた結果に対して納得できる」,「②決めた 結果を魅力的に感じる」,「③決めた結果に対して悔いはな い」,「④決める過程において悩みはない」とした.それぞ れの項目において「非常に当てはまる」を5,「全く当ては まらない」を1として,5段階評価を行った.
5.1.トーナメント法実験
5.1.1.トーナメント法実験概要
参加者には提案手法を使用した場合と使用しない場合 で自動販売機の画像の中から1つ欲しい飲み物を決めても らった.また,実施順番をランダマイズし,すべて別々の自 動販売機の写真を用いた.
図2 トーナメント法実験結果
5.1.2. トーナメント法実験結果考察
トーナメント法の実験結果を図2に示す.選択手法と評 価項目を要因とした2要因の分散分析を行った結果,選択 手法の主効果が優位な傾向があったが交互作用はみられ なかった.このことよりトーナメント法アプリケーション を用いることで選択結果に対する主観評価が高まる可能 性があることが示唆された.
5.2. 分割探索法実験
5.2.1. 分割探索法実験概要
参加者には提案手法を使用した場合としない場合で食 事に使う値段を決めてもらった.また,実施順序をランダ マイズし,決めるお題を,「朝食」・「昼食」・「夕食」・「軽食」
とした.
図3 分割探索法実験結果
5.2.2. 分割探索法実験結果考察
分割探索法の実験結果を図3に示す.選択手法と評価項 目を要因とした2要因の分散分析を行った結果,交互作用 が有意であった(F(3,21)=8.08,p<0.01).下位検定では設 問項目①「決めた結果に対して納得できる」と設問項目②
「決めた結果を魅力的に感じる」において,選択手法の単 純主効果が有意であった.よって分割探索法は,選択結果 に対する納得感を高めることができ,その選択結果を魅力 的に感じさせることが分かった.
6.まとめと今後の展望
本研究では実世界における選択において,選択肢を単純 化し,反復することで決定する手法を用いて選択結果に対 する納得感を高める選択手法を提案した.今後の展望とし て,使用できるシチュエーションの拡大や,画像認識技術 の活用,納得感を高めるための要件の追加を視野に入れて いる.
参考文献
[1] Schwartz, Barry. “The paradox of choice: Why more is less.”Harper Perennial, 2004.
[2] GraySwitch.http://grayswitch.mystrikingly.com/
(参照:2020-1-27).
[3] 金子翔真,渡邉恵太. Facelot:顔検出と顔属性をエ ントリとしたアドホックな抽選システム.情報処理 学会論文誌,2019,Vol.60,No.11,pp.1953-1960.
[4] 山下利之.「納得感」を与える意思決定システムに ついて.日本ファジィ学会誌,1995,
Vol.7,No.1,pp.44−51.
[5] Tinder.https://tinder.com/(参照:2020-1-27).
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