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何が追究され、何が残されたか? 西脇

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2014年科学基礎論ワークショップ 生物学の哲学の〈これまで〉と〈これから〉

何が追究され、何が残されたか?

西脇 与作 慶應義塾大学

狭い物理主義は今でも「進化」を「心」と同じように否定しようとするが、それに抗したのが 20世紀の生物学の哲学で、進化論中心の研究だった。その特徴は次のようにまとめられる。

1生物学の哲学の進化論による独占

1900年のメンデルの遺伝法則の再発見以来、自然選択中心の進化論(ダーウィンによれば、生 物集団内の変異、遺伝、適応度の違いの存在が選択の十分条件)から遺伝の仕組みを中核に置い た総合説(自然選択+遺伝法則+遺伝的浮動+突然変異+α)がつくられ、生物学の哲学はこの総 合説を生命現象の基礎的な理論とみなし、進化論の哲学的分析に関心を集中することになる。20 世紀中葉から生物学の哲学が科学哲学の一分野として物理学の哲学と並んで研究されるようにな るが、その研究対象は(物理学での量子力学のように)ほとんどが進化論に関わるものだった。

2進化思想から進化生物学へ

ベルクソンの『創造的進化』などとは違って、進化論は生命現象についてのイデオロギーから 科学理論へと変貌し、「進化」が生命現象を支える根本的概念だという共通の理解ができあがる。

だが、進化は歴史であり、その説明は当然物理学の説明とは違っている。生物学の哲学は進化論 の科学理論としての問題を分析哲学や物理学の哲学の先例に倣う形で扱うことになる。進化論か ら進化生物学に呼び名が変わり、進化生物学の専門的、個別的な問題が科学哲学の中心課題とな っていく。進化思想ではなく分子レベルでの遺伝学が進化生物学にはより有用だというのが現在 の常識である。

3多元論

総合説が多元(論)的であると言われる場合、進化を引き起こす要因が複数ある、進化する対 象のレベルが複数考えられる、選択が働くレベルが複数ある、といった多重の意味がある。生物 個体も多元的である。その結果、系統発生も個体発生も多様で多元的である。いずれの意味にお いても生物の構造や現象は多元的であり、したがって理論も多元論になる。生命現象が多元的で あり、それを説明する理論も多元論的であり、それが生物学の物理化学と異なる特徴だと捉えら れてきた。進化論を基礎にした社会生物学は多元的な特徴を巧みに利用したものだった。多くの 研究者は原子論が量子力学によって説明されるように、多元的な生命現象は進化生物学によって 説明される筈だと考えてきた。

4確率・統計的描像

集団遺伝学は生物個体ではなく、生物集団の変化を扱う。集団現象を扱う物理学は統計力学で あり、それに倣って形式化(数学化)されたのが集団遺伝学であり、それが総合説の理論的支柱 になっている。確率・統計概念は自然選択にも遺伝的浮動にも、そして突然変異にも適用される が、そこでの解釈は他の経験科学と同じように「頻度」解釈が採用されてきた。そのような確率・

統計によって描かれる進化像が進化の歴史という枠組みにうまく適合するかどうかは現在でもは

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2 っきりしていない。

20世紀に研究された進化論中心の探究結果を上記のようにまとめると、これまでの成果から何 が取り残されているかが見えてくる。そして、それがこれからの課題として浮上してくる。

課題1:総合説の問題、マクロな進化とミクロな進化の違い

マクロな進化には事件や出来事が原因になる場合が多い(例えば、特定の隕石衝突)。一方、ミ クロな進化は因果的な、非連続的な状態の変化(メンデル集団の世代交代による変化)として説 明される。メンデル集団の状態変化は力学的な系の状態変化と同じではないが、それに準じて理 解されてきた。

歴史的な説明と非歴史的な説明は一般的に異なると考えられているにも関わらず、ミクロな進 化の蓄積でマクロな進化が説明できることになっている。だが、中立的な変異に基づく分子進化 の蓄積が選択な表現型の進化を説明してくれるのか?それができないために、中立説やほぼ中立 説と自然選択説が対立している。さらに、マクロな進化が歴史であり、ミクロな進化が状態変化 であるなら、二つの間には概念的なギャップがあることになる。

課題2 自然選択の基本性格

進化の個々の理論はモデルであり、そのモデルがどのような特徴をもつかという解釈の違いか ら意見が分かれる。自然選択を力学的な力と同じようなものとして解釈するか、確率的な収支報 告として解釈するかがこれまでの代表的な二つの主張である。いずれの主張にも長所があり、前 者は因果的な説明と分子レベルの研究との重ね合わせに必要であり、後者は社会進化、文化進化 において選択がもつ特徴を浮き彫りにする前提になっている。選択は自然法則に重なる部分と社 会や文化に重なる部分を併せ持っている。

選択以外の進化の内部要因には突然変異、遺伝的浮動がある。これらと選択との関係をどのよ うに捉えるかは課題4として下記参照。

課題3 多元論、レベルや単位の存在、レベル間の関係(付随的、多重実現的)

生物進化にはレベルや単位があり、それら自体も進化の産物ということになっている(系統発 生はその証拠)。選択と浮動はそれぞれマクロレベル、ミクロレベルの進化要因とされている。現 在は選択説と中立説として別々に理解されているが、サンプリングという観点からはバイアスの あるサンプリングかそうでないかの違いが選択説と(木村による)中立説の違いと考えることが できる。(太田による)ほぼ中立説も含め、サンプリングを通じて統一的な進化要因としてまとめ ることができるのではないか。

(課題3を明文化すれば…)

・マクロレベルの古典力学、ミクロレベルの量子力学との対比で進化のレベルを捉える。

・Hamilton、Priceの(広義の)選択理論と文化進化、社会進化

・新たな総合:選択と浮動はいずれもメンデル集団からのサンプリングと解釈でき、バイアスの あるサンプリングが選択、バイアスのないサンプリングが浮動である。サンプリングとして選択 と浮動をまとめ上げ、最終的に選択説と中立説の総合を目指すことが課題となる(大数の法則、

少数の法則が入り乱れた総合)

参照

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