てんかん児の母親の対処行動と支援のあり方
著者 近喰 ふじ子, 汐田 まどか, 高久 信一
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 2
ページ 33‑46
発行年 2002
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010013/
てんかん児の母親の対処行動と支援のあり方
近喰 ふじ子*・汐田 まどか**・高久 信一***
Coping behavior of mothers of epileptic children and methods of support
Fujiko KoNJIKI, Madoka SHIoTA and Shinichi TAKAKu
要 旨
小児慢性疾患患児の母親の対処行動を明らかにし、その支援のあり方を検討するために、てんかん患児の母親に SBC(Stres Coping Behavior)を行った。対象はてんかん患児の母親41人であった。てんかん患児の母親は一般 の母親359人と比べ、第1因子(問題解決、p<0.01)、第2因子(気晴らし、p〈0.05)、第3因子(抑制、 p<0.01)、
第4因子(発散、p<O. Ol)、第5因子(気分転換、 p<0.01)、第6因子(回避、 p〈0.01)、第7因子(情動、 p〈0.01)、
第8因子(総合、p<0.01)共に尺度平均得点が高く、有意差が認められていた。また、てんかん発作の有無別では 第7因子(情動、P<0.05)に有意差が認められていた。すなわち、てんかん発作が継続している母親は、てんかん 発作が消失している母親に比べ情動を多く使用している傾向が伺われた。これらのことから、てんかん児の母親は 一般の母親よりも対処行動を幅広く使用する傾向があったが、我が子のてんかん発作がコントロールできずにいる 母親の状況は対処行動の中でも情動に影響を及ぼすことが示唆された。また、てんかん児の母親の対処行動を簡易 版ダイァグラムでみると、(1)問題解決型、(2)問題解決・情動型、(3)情動型、(4)その他の4型に分類でき、(1)問題 解決型と②問題解決・情動型で約85%を占めていた。これらのことからも、てんかん児の母親に対し、対処行動 を理解した上での支援のあり方が重要ではないかと思われた。
キーワード:慢性疾患患児,てんかん,母親,対処行動 はじめに
平成9年度より「疾病により長期に療養を必要 とする児童に対する療育指導D」が保健所を中心 に実施されている。すなわち、小児慢性疾患を持 っ両親の大部分の感じている精神的負担を明らか とし、その支援のあり方を検討しようとするもの である。
そこで、私たちは てんかん児の治療 とはて んかん児の発作をコントロールすることだけでは なく、てんかん児を出産・養育している母親への 心理的アプローチこそがてんかん児にとっても家 族にとっても重要なことであると考えた。そこで、
*心理教育学科 臨床心理研究室 **鳥取県立皆生小児療育センター
***日本大学生物資源科学部心理学研究室
てんかん児を養育している母親の対処行動を明ら かにし、その対処行動をふまえた上で、母親(学 校問題も含めて)への心理的アプローチを行って いくことで母親の支援の一助に繋げたいと考えた。
対 象
対象は平成10年3月から2週間にわたり、K病
院小児科神経外来受診児ならびに、その母親の18 人とK療育センター小児科外来受診児ならびに、その母親の27人の合計45人であった。しかし、配 布したテストのうちの一っでも持参しなかった4 名は除外し、合計41人(平均年齢は38.08±6.21歳)
とした。これら41人のうちの発作消失している児 は30人で、発作継続中の児は11人であった(表1)。
但し、熱性けいれん(複合型)の児は除外した。
表1てんかん児の背景
番号
名前年齢
発作状況 精神i遅滞 脳性麻i庫その他
1. K,Y. 8歳 一 『 一
2. 0.T. 19歳 一 十 一
3. M.K、 9歳 } 一 一
4. U.K. 11歳 一 一 『
5. Y.Y. 7歳 一 一 一
6. ]日LY. 8歳 一 一 一 母親の不安
ュい
7. M−M. 15歳 一 十 一
8. S.T. 10歳 十十 十 一 母親の不安
ュい
9. T.A. ll歳 一 一 一
10. E。S. 6歳 『 十 『
11.
K.K
5歳 十 十 一12. S.E. 6歳 十 十 一
13. K.K. 18歳 十十 十 一
自己主張の
ュい母親
14. K。E. 14歳 一 十 一
15. B.N. 10歳 一 十 }
16. A.H. 8歳 一 一 一
17. W.R. 12歳 一 一 }
18. K.S. 7歳 一 一 一 妊娠6カ月
19. A.N. ll歳 一 一 一
20.
S.M
3歳 一 一 一21. F.M. 9歳 十 一 一
22. K.N. 3歳 一 一 一
23. A.F. 12歳 一 十 一 子供3人共
ェてんカ、ん
24. 1.M. 13歳 十十 十 一
25. N.T. 4歳 十 十 一
26. F.K. 16歳 一 一 一
27. Y.M. 8歳 一 一 一
28. A.R. 14歳 十 十 一
29. T.M. 8歳 →一十 十 十
夫と別居中
30. S.A. 11歳 一 一 一 妹もてんか
31. Y.Y. 13歳 十十 十 一
32.
u.K
8歳 一 十 一多動
33. T.R。 3歳 一 } 一
34. W.N。 3歳 十 十 十
35. 0.T。 5歳 一 十 十
36. T.Y. 5歳 十 十 十
37. Y。A. 6歳 一 一 一
38. K.K.. 5歳 一 一 一
39. M.K. 3歳 一 一 一
40. BJ.. 7歳 一 一 一
41.. S−C.. 6歳 一 一 一
てんかん発作状況
方 法
方法は、外来受診時に「お母さまへのおたずね」
とした一式アンケートを医師より渡し、自宅で記 入後に外来まで持参してもらった。「お母さまへ のおたずね」のアンケートの書き出しには、 こ の「おたずね(SBC, SDS)」は、長期にわたる病 気で治療中のお子さまを育てていらっしゃるお母
さまのストレスに対する対処方法を知り、今後の
(一):発作なし
(+);時々、発作あり
(++):毎日、発作あり
母親対処の理解に役立てていくためのものですの でお願い致したく存じます。これらのおたずねを よく読んで、お気持ちをありのままにお答え下さ い と明記した。そして、対処行動(以下、SBC とする)、日本版自己評価抑うっ性尺度(以下、
SDSとする)の2っをセットし、配布した。回収
率は95.6%であった。
結 果
1.対処行動各因子の平均得点
対処行動質問項目作成は平成4年度厚生省科学 研究、心の健康度測定に関する研究一その3一と
して、国立精神神経センター心身医学研究部(吾 郷晋浩班長)を中心に行われたものである。始あ
に、私たちは日常生活におけるストレスの種類と それに対する対処方法をストレス日誌から抽出し、
62項目の質問項目を作成した2)〜4)。筆者はこれ ら一連の研究に携わてきたことから、育児健康診 査を受診する母親に上記の対処行動質問紙を行う
ことで、一般の母親の対処行動とはどのようなも のであるかを知る目的で調査を行った。ところが、
大部分の母親は62項目という質問の多さに、提出 しないで帰る者や全部に解答しないで提出する者 がいることが分かった。そこで、母親用の対処行
動質問紙に改訂することを考え、平成4年6月〜
12月までにK病院小児科の育児健康診査を受診し た母親を対象にアンケート調査を行い、35項目か ら成るSBCと簡易版ダイアグラムを作成した。そ して、これらの結果から8因子を抽出し、第1因 子(問題解決)、第2因子(気晴らし)、第3因子
(抑制)、第4因子(発散)、第5因子(気分転換)、
第6因子(回避)、第7因子(情動)、第8因子(
総合)と命名した。また、これらの各尺度をダイ アグラムに表すことで個人間の特徴と同時に、個 人の比較も行えるようにした。すなわち、これら の項目に対する解答は「全くそうしなかった」が 0点、「たまにしかしなかった」が1点、「時々し た」が2点、「しばしばそうした」が3点という 得点を与え、個人の各因子への取り組みは0点〜
15点までの得点として表せることができた。そし て、総合得点としてこれらの7っの尺度得点を合 計したものを第8尺度として表した5)。
今回のてんかん児の母親への対処行動に関する
調査をSBCを用いて行ったところ、第1因子は
9.00±3.35、第2因子は7.55±2.36、第3因子は 8.18±3.16、第4因子は5.32±2.90、第5因子は 5.76±3.42、第6因子は7.87±3.12、第7因子は 9。97±2.56、第8因子は53.74±11。96であり、一 般群との比較では第1因子、第3因子、第4因子、第5因子、第6因子、第8因子にP<0.01の有意
差が、第2因子にP〈0.05の有意差が認められて いた(表2)。また、てんかん発作の有無による 相違が母親の対処行動に影響を与えるのか、与え るとしたらどのようなものかを調べたところ、て んかん発作消失群とてんかん発作継続群では、第1〜3因子、第5〜8因子が前者よりも後者に平 表2てんかん児の母親の対処行動と一般の母親の対処行動の比較
てんかんの母親(N自41) 一般の母親(N=359)
第1因子(問題解決)*
9.00=ヒ3.35 6.38±3.44 第2因子(気晴らし)綿 7,55±2.36 6.28±3.34第3因子(抑制)*
8.18±3.16 5.80±2.82第4因子(発散)ホ
5.32±2.90 2.50±2。24第5因子(気分転換)*
5.76±3.42 3.78±3.11第6因子(回避)*
フ.87±3.12 5.66±2.68第7因子 (情【動) 9.97±2.56 10.72±2.24
第8因子(総合)*
53.74± lL96 40.88± 11.56* p〈0.01 ** P〈0.05
表3てんかん発作有無状況と母親の対処行動の関係
発作消失群(N330) 発作継続群(N=11)
第1因子(問題解決)
8.709677 9.544545第2因子(気晴らし)
7.419355 7.636364第3因子 (抑指り) 7.548387 8.727273
第4因子 (発散) 5.096774 4.818182
第5因子(気分転換)
5.258065 6.090909 第6因子(回避)¶ 6.903226 8.818182第7因子(情動)轄 9.483871 11.54545
第8因子 (総合) 50.54839 57.09091
** P〈0.05
均得点が高い傾向がみられたが、有意差の認めら れたのは第7因子(情動、p<0.05)のみであっ た。また、第4因子は前者よりも後者に平均得点 が低い傾向であったが有意差は認められなかった
(表3)。すなわち、発作継続群は発作消失群に 比べ、第4因子(発散)を対処行動とせずに、第 7因子(情動)による対処行動をより有意に用い ていることが理解された。但し、検定はt検定で 行った。
2.自己評価式抑うつ性尺度
(Self−rating Depression Scale)の平均得点 自己評価式抑うつ性尺度(Self−rating Depression Scale)の原作者はW. Zungであり、今回、使用し
たのは日本版SDSである。 SDSは20項目の抑うっ 状態像因子の質問から成り、4段階に分けた応答 欄(「ない、たまに」、「ときどき」、「かなりのあ
いだ」、「ほとんどいっも」)から現在の自分の最 もよく当てはまる箇所の1箇所に○をつけるさせ るというものである6)。
今回のてんかん児の母親のSDSの平均得点は
37.54±6.42であった。正常対象群の平均得点が 35.74±14.84であることから、てんかん児の母親 は正常対象群の母親よりも平均得点が高かったが 有意差は認あられなかった。3.簡易版ダイアグラムからみた4型別対処行動 と支援評価のあり方
41名のSBCの結果を各々簡易版ダイアグラム
に表したところ、4タイプに分類できることが分 かった。すなわち、(1)問題解決・情動型、(2)問題 解決型、(3)情動型、(4)その他で、(1)問題解決・情動型は15名(36.58%)、(2)問題解決型は20名
(48.78%)、(3)情動型2名(4.88%)、(4)その他は4
表4 対処行動のタイプ分類
タイプ分類
l数 (%)(1)問題解決・情動型 15人(36.58)
(2)問題解決型 20人(48.78)
(3)情動型 2人(4.88)
(4)その他 4人(9.76)
名(9.76%)であった。すなわち、問題解決型が最 も多く、次いで問題解決・情動型で、この2タイ プで約85%を占めていた(表4)。そこで、タイプ 別に症例を取り上げ、その特徴を明らかにするこ
とで母親への支援のあり方を考えてみたい。但し、
ここでの児の年齢はアンケートをした時ではなく、
児ないしは、母親との間で最も困った時の年齢と
した。
(1)問題解決・情動型
く症例1>K.K.(Y君、9歳8ヵ月)
(1)精神発達遅滞 、(2)結節性硬化症
(F.H.):父親(39歳、会社員)、母親(41歳、専業 主婦)、姉(11歳)の4人家族。
(P.1.):1歳3ヵ月頃より、上肢挙上し、頭部前 屈する発作が約1分間みられ、以後、増
強していたため1歳7ヵ月時にK病院小
児科受診し、精査入院となった。脳波では前頭部に多発性の徐波複合が
頻発に出現し、頭部CTスキャンでは前
頭部と基底核に石灰化がみられていたこ とから上記の診断のもと、抗けいれん剤 の投与が開始され、経過観察が行われていた。Y君が9歳になった春頃より、担
任教師から多動で困ると指摘され、児童 相談所を受診するようにいわれたと母親 は憤慨して神経(てんかん)外来を受診 した。眼科の検査も一人でできたのにと母親 は納得せず、担任教師との考え方の違い を主張し、Y君の発作が頻発したのは担 任教師がY君の病気を理解していないこ とからであって、私にそういっても仕方 ないじゃないかと思うんですと話し、母 親の興奮と怒りがY君を巻き込んでいる
かのように思えた。そこで、筆者は担任 教師に母親を含めた三者面接がしたい旨 のお願いの手紙を担任教師に書き送った。
担任教師から了解の返事を受け取ると、
さっそく三者面接を行った。面接の中で は担任教師から、Y君がスピーカーなど に熱中してしまい授業ができない状況で いること、母親からは37°Cの熱は風邪 なのだからといって登校を拒否されるこ となどの問題が出された。筆者は担任教 師へてんかんの病気を説明し、病気への 理解と病気をふまえた教育への取り組み などを話し合った。約1ヵ月後に担任教 師の一人は某大学付属養護学級に一年間 の研修に行かされることが母親から伝え られた。そのことがクラスの母親たちに 知れ渡ると、母親たちが「良かった」と いっているのを聞いて、担任教師に困っ ていたのは私だけじゃなかったんだと思 って落ち着いたことが母親から語られた。
以後、Y君の発作は減少していた。
支援方法;この母親はどちらかというと他罰的で 怒りを相手に向ける傾向にある。そして、
その怒りの話は感情失禁を伴いがちであ るが、受診前に考えてきたことを主治医 に伝える(母親はどうしたらいいのか考 えたんですけどと必ずいうことから理解 できる)など、ある意味では自分で解決 方法を導いてきていることが特徴といえ る。こちら側は母親の考えに耳を傾けな がら、病気によるものか、そうでないも のによるものかを見極めさせ、一緒に考 えていきながら、正しい方向へ導いてあ げれるように勤めることが重要であった。
ダイアグラムは図1に表した。
第8因子(給合)
回避 第6因子
情動 諺ヲ楼
q50§』
第7因子 40 問題解決
3 第1因子
11
ゆ%ケ4,v 30
1
X
﹃
7
ド
9
5
グ 20
7 3
P
気晴ら
9 5 3 1
1 31
5 9 11
0P 0 3
﹄
3 1 5 γグ
1
7 7
第5因子 9
分転換 一 3 9 第3因子
抑制
7 問題解決・情動
発散
第4因子 K.K.(47歳)
図1症例K.K.のダイアグラム
第8因子(総合)
情動
、⑪%タ窟 60
T0
第7因子 . 一幽 一一丁 1 問題解決
13 第1因子
ノ11
11 樗タベw
30
7
Cノ
f5
ノ!ア
5 7ク
20 7
回避 3
P
ソグ
気晴
6因子 9 7 5 3 1
1. 31
5 7
第2因9 11
0P
03
3 1 5
5
7 7
第5因子 9
気分転換 1一
F
9
﹃ 第3因子
5 抑制
7
第4因子 発散
問題解決・情動型 E.S.(45歳)
図2症例E.S.のダイアグラム
<症例2>E.S.(Sちゃん、3歳)
(1)精神運動発達遅滞
② 先天性サイトメガロウィルス感染症 (胎児病)
(F.H.):父親(47歳、新聞社特派員)、
母親(45歳、専業主婦)の3人家族。
(P.1.):突然、6カ月時に無熱性のけいれん発 作を起こし救急車にて運ばれた。けいれ ん発作は病院内に到着しても治まらなか った。精査入院となった。脳波では全般 性の棘徐波結合が全誘導にみられていた。
また、運動発達・精神発達も共に遅れて いた。尿検査から封入体が認められてい たことから、先天性サイトメガロウィル ス感染症と診断した。以後、抗けいれん 剤の投与と定期的な脳波ならびに発達の 経過観察をしていくことになった。
支援方法;のんびりとした、穏やかな人柄に見受 けられ、子どもの病気にっいても動揺は みせずに受け入れていたように思われる が、むしろ回避や抑制という対処行動を 使っていたのではないかと思われた。主 治医が考えていたよりもクヨクヨし、気 分転換などせずに、考え込んでいるのか も知れなかった。夫はアメリカ人で新聞 社の特派員という職業柄か、インター一・・ ネ ットで文献を取り寄せては読み、この子 は日本でなくアメリカに住んだ方が良い と話すなど対処行動でとらえるならば、
問題解決型の男性であるといえよう。こ のような夫からのアドバイスはかえって 母親の負担となり、夫に愚痴がいえない 状況にあるのではないかと考えられた。
主治医への夫の伝達業務のような仕事を しているとしかみえない母親に、夫婦で
の相談時間と称して、夫の疑問や話に応 じていた。母親の対処行動は結婚後に身 に付いたものではないかと思われた。ダ イアグラムは図2に表した。
(2)問題解決型
〈症例3>H.Y.(Mちゃん、6歳4カ月)
(1)全般強直間代発作
(F.H.).父親(36歳、会社員)、母親(35歳、専 業主婦)、兄(10歳)の4人家族。
(P.1.)°突然、3歳時に無熱性のけいれん発作を 起こし救急車にて運ばれた。救急車内で 治まったけいれんが、診察台の上で、再 びけいれん発作を起こしたため入院とな った。脳波上には全般性の棘徐波が全誘 導にみられ、脳CTスキャンでは異常は 認められていなかった。抗けいれん剤の 投与が開始され、入院数日後には一般状 態は快復していた。快復後のMちゃんは 明るく、よく笑う女の子であった。それ に比べ、母親はMちゃんの病気のことで 頭が一ぱいで、Mちゃんの明るく、元気 な状況がなかなか受け入れられないでい た。
支援方法;この母親は「…は身体に良いと新聞に 載っていたので飲ませていたら、先日、
子どもの身体にはよくないと載っていた んですけど、大丈夫でしょうか」、「Mが ディズニーランドに行きたいというんで すけど、行ってもいいでしょうか。あっ、
それと、もし、行ってもいいのなら、ク ルクル回転するものはいけないですよね」、
「薬は2回でいいんでしょうか。何時と 何時に飲ませればいいんでしょうか」な ど質問が多く、まるで質問を捜してでも いるような錯覚を覚えた。問題解決型と
第8因子(総合)
60
情動
べ}V
%タ 50
第7因子 40 問題解決
13 第1因子
11
11 樗ワ41
30 7
5 9
20
回避 一一続一 7 3 気晴
1
9 7 5 3 1 1 1 3 5 7 9
11
0
P 0 3
3 1 5
﹃
5
ダ
7
7 7 劉
第5因子 9
渉
気分転換 一 3 9 〔第3因子
5 抑制
問題解決型 第4因子
ュ散 H.Y.(42歳
図3症例H.Y.のダイアグラム
第8因子(総合)
情動 謬4レ 60
第7因子 40 問題解決
13 第1因子
11
@ 睡樗タr 30
9
7 7 戸
ヲ ﹃
﹃ε
5 20
回避 7
3 気晴
1
6因子 、 第2因
7 5 3 1 1 3 5 7 9
11
1
0
P 0 3
3 5
5
7 7
第5因子 9
気分転換 一 3 9
第3因子
5 抑制
7
第4因子 問題解決型
発散
図4症例T.M.のダイアグラム
T.M.(38歳)
は思えない母親のようにみえるが、問題 を自分で解決していくというよりは主治 医と共に問題を解決していく姿勢が強い のではないかと考えられた。根気よく、
母親の質問に対しては「じゃあ、お母さ んのいうとおりにしたら、みんなそうな るのかしら」というように、母親に質問 を投げかけることで母親自身が問題を解 決していける能力を高めてあげることが 大切である。ダイアグラムは図3に表し た。
<症例4>T.M.(Mちゃん、8歳2ヵ月)
(1)精神運動発達遅滞 ② 全般強直間代発作 ⑧ 小児喘息
(F. H.):父親(40歳、会社員)、母親(35歳、専 業主婦)、兄(11歳)、妹(2歳)の5人
家族だが、母とMちゃんの2人の別居状
態が続いている。(P.1.):生後5〜6カ月になっても頚座せず、発 達の遅れとして経過観察されていた。1 歳5ヵ月にけいれん発作が頻発し、抗け いれん剤の投与が開始されたが、母親は てんかん外科 に希望を託し、病院を 転々と歩き回った。運動発達・言語発達 は遅れていたが、けいれん発作は徐々に 減少していた。しかし、母親はMちゃん から気持ちが離れず、他の家族の面倒を みることが出来ないでいた。そのことで 父親との衝突が耐えない状態が続いてい た。
支援方法:養護学校への入学をかたくなに拒否し 続けていた母親に対し、主治医は病態の 説明を何回も行い、てんかん発作がかな り減少していることを理解させ、認知さ
せていった。その後、母親は養護学校へ の入学を認め、現在は父親とも和解の話 しができるようになっていった。ダイア グラムは図4に表した。
(3)情動型
〈症例5>S.E.(Yちゃん、3歳4ヵ月)
(1)精神運動発達遅滞 (2)全般強直間代発作 (3)熱性けいれんの既往
(RH.):父親(29歳、会社員)、母親(26歳、専 業主婦)の3人家族。
(P.1.):肺炎で治療中に38°Cの発熱と共にけいれ んを起こし、母親に抱きかかえられて外 来を受診した。脳波検査ならびに、腰椎 穿刺施行中にけいれんを起こしたため、
そのまま入院となった。入院数日後から 意識を取り戻し、肺炎の快復と共に、全 身状態も良くなっていった。快復後のY ちゃんは母親を求めて、「お母さん!」
と泣いてばかりいた。看護婦や主治医が 相手をするとしばらくは遊んでいるが、
数分後には思い出したように泣き出すの であった。母親は面会の都度「ああ、Y、
また泣いてるの」といって入室するのが 常であった。Yは母親に抱っこを求めて は抱かれ、不安を解消するかのように母 親に喋り続けていた。のんびりとした話 し方はいいのだが、子どもの相手になれ るような情緒的な関わりの持てる母親に は見受けられなかった。
支援方法;この母親はおおらかそうで、何も心配 していない様にみえた。母親の方から質 問することもなく、主治医の質問に対し ても「ええ、大丈夫です」、「今のところ 元気でやっています」など簡単な返答で
第8因子(総合)
60
情動
べ⊃V
A⑪%ワ 5σ
第7因子 問題解決
13 第1因子
11
11
べ}V
艨塔^ 30 9
V
5 9
20
回避 7
1
気晴ら
6因子 9 7
5 3 1 1 1 3 5 7 9 1
0P 03
3 1 5
5
7 7
第5因子 9
気分転換 一 3 9 第3因子
5 抑制
第4因子 情動型
ュ散 S.E.(27歳)
図5症例S.E.のダイアグラム
第8因子(総合)
60
情動
諺タベ寧 5G
第7因子 40 問題解決
13 第1因子
11
11 磯%タベレ 30
7 9
5 9
20
回避 3 気晴ら
1 6因子 9
7 5 3 1 . 31 5 7 9 11
0 3
1
3 1 5
5
フ 7
第5因子 9
気分転換 聯 3 9
第3因子
5 抑制
7
第4因子
ュ散
その他
j.E.(48歳)
図6症例K.E.のダイアグラム
あった。旅行中に発作が起きても、「発 作が消失してもう少しで3年が経っとい うのにね…」と簡単な言い方をする人で あった。母方の実家の近くに住んでいる ことから、実母と妹が母親の支えとなっ ていることが母親の話しからも理解でき る。入院中もYちゃんを心配して訪れた のは妹の方であった。母親にはrYちゃ んはお母さんことが大好きなんだよね!」
と伝えることで、母親のこころがYちゃ んの方を向くようにしていった。ダイア グラムは図5に表した。
(4)その他
く症例6>K.E.(Y君、18歳)
(1)精神発達遅滞 (2)全般性強直間代発作
(F.H.):父親(55歳、自営業)、母親(48歳、自 営業手伝い)の3人家族。
(P.1.):自営業の手伝いで疲れ気味の母親である が、Y君の代わりに薬を取りにきていた。
Y君は家の手伝いはせずに、好きな女の 子のプレゼントはどんなものがいいのか という相談で外来を受診していた。そし て、母親はY君が家業を継がないといっ てるといい、父親も年を取ったから…そ ろそろといっていることが伝えられた。
しかし、晩婚で生まれた一人っ子なだけ に、Y君には何もいえずにいる両親が黙 々と家業に専念している姿は何とも寂し くみえた。母親は父親と二人で働く狭い 世界しか知らず、その意味でもいろいろ な対処行動を取る必要もなかったのかも 知れない。ダイアグラムは図6に表した。
考 察
対処行動研究はLazarus, RS.の心理的ストレ ス研究から出発し、ストレスの健康障害へ与える 影響として、個人の認知的な側面とその対処行動 の重要性を指摘したものであった7)。その後、ス トレス研究は我が国でも盛んに行われ、今日に至 っている8)〜11)。しかし、小児慢性疾患の中でも てんかん児の母親への対処行動の研究はそれほど 多くはない。本研究はてんかん児の母親の対処行 動を明らかにすると同時に、その対処行動をふま えた上での支援のあり方を検討するために行った もので、てんかんを始めとする慢性疾患患児なら びに、母親へのトータルケアーの一環として報告
したものである。
結果は、てんかん児の母親は一般の母親よりも
第7因子(情動)を除いた、他の6因子(問題解
決、気晴らし、抑制、発散、気分転換、回避i)の 対処行動を幅広く使用していることが分かった。そのことは、てんかん児の母親がストレスを実感 していたとしても、上手に対処方法を取っている わけで、力のある母親たちであるともいえる。ま た、筆者らが行った一般の母親の対処行動研究か らは不安の高い人は尺度得点も高く、対児感情の 愛着も回避も高得点になる傾向が伺われ、自己や 我が子に対して敏感な母親ほど、多くの対処行動 を取っている5)ことからも、てんかん児の母親も 不安が高く、敏感であるがゆえに、あらゆる対処 行動を使用することで、精神的安定を図っている のではないかとも考えられる。
Rutterらはてんかん児の母親は健常児と比べ、
気分不快が強いことを報告している12)。しかし、
Hoareはてんかんというだけでは両親にとって
の精神障害の割合は一般と同程度なのに対し、慢 性ないしは、…病ということの事実の方がより重 要であったと述べている13)。ところで、このような母親たちはてんかん発作に対し、どのような対 処行動を取っているのであろうか。てんかん発作 の有無別状況と対処行動の関係を調べたところ、
てんかん発作がコントロールされ、てんかん発作 の消失している母親(発作消失群)とてんかん発 作がコントロールされずに、てんかん発作が継続 している母親(発作継続群)との比較では、前者 は後者よりも第4因子(発散)を、後者は前者よ りも第7因子(情動、p<0.05)の対処行動をと る傾向が認められていたことから、てんかん発作 の有無は情動という対処行動と関係のあることが 示唆された。すなわち、てんかん発作が減少しな いで継続している状況は、情動という対処行動を 取らせる傾向にあり、情動の対象は夫や主治医で ある可能性が高いと考えられた。 発作が起き た という事実は、慢性ないしは、治らないかも 知れないという危機的状況に追いやることでもあ り、落ち着いていた精神的状態が、再び、Drotar らのいう「悲しみ、怒り、不安の時期」へと導く ことに他ならない14)。このような危機に対し、私 たちはどのような治療的支援をとっていったら良 いのであろうか。同じ病気をもっ人たちとの集ま り(社会的ネットワーク)への参加はもちろん、
母親への危機的状況への対処の指導を面接技法を 用いながら支援していくことが大切なのであって、
そこまで関わることこそがトータルケアーなので はないかと思われる。それでは、症例を振り返っ
てみよう。症例1のK.K.や症例3のH.Yを比較
してみると、K.K.は自己主張が強いタイプ、
H.Y.は控えめなタイプとパーソナリティにおい ては違いはあるものの、どちらも我が子のことに 関しては敏感で、不安の強いタイプとして受け取 れる。また、症例2のE.S.は楽しめずにイライラ してそうであるが、発散と情動の対処行動が高い ことからも自分のやり方での解放は図れているよ
うに思われる。症例4のT.M.では自分のしたい ことは我慢し、我が子のことから自分の身体・こ ころが離れずにいる状況が伺えている。症例5の S.E.は物事を考えず、自分の好きな趣味に興じ るなど専門家任せのタイプとして受け取れる。症 例6のK.E.は一人っ子の我が子は自分たち夫婦 にとっては宝であり、子どものたあだけという狭 い世界で生きているタイプとして受け取れる。今 回は、不安ではなく、てんかん児を養育すること
での抑うっ状態をみるためにSDSを調べたのだ
が、てんかん児の母親は子どものてんかん発作の有無にも関わらず、SDSにおいての有意差は認
められなかった。てんかん児の養育は抑うつ状態 となっていられない状況も考えられた。さて、対処行動をタイプ分類したところ、
(1)問題解決・情動型、(2)問題解決型、(3)情動型、
(4)その他に4分類できた。1993年に筆者らが行っ た日本女性の対処行動分析(対処行動質問紙は異 なる)によると、有職者は問題解決への取り組み、
抑制、能動的気分転換を、無職者は受動的気分転 換、発散による対処行動を取る傾向を示してい た15)。このことは、有職者の女性は男性と同じ対 処行動を取る傾向を示していたのであった。そう だとすると、てんかんの母親は問題解決・情動型 や問題解決型の対処行動が約85%であったことか ら、男性的対処行動を取っている可能性が高いと いえる。このことは、外来での主治医との話しの 中でそのような対処行動が取れるように指導され、
変化してきたのかも知れないと思われた。このよ うに、てんかんを初めとした慢性疾患患児の母親 の対処行動が男性的な対処行動を取る傾向にある のかどうか、あるいは指導や面接などによって対 処行動に変化を起こしうるのかどうかは今後の研 究にゆだねると同時に、母親のパーソナリティー との関係にも言及しなければならないと思われた。
本論文の要旨は第16回日本小児心身医学会研修 会、「けいれん性疾患のトータルケアー」の発表 の中で報告したものの一部である。
文 献
1)前田光哉:小児慢性疾患の動向と施策、地域保健、
27号、5〜13、1996.
2)吾郷晋浩:心の健康づくりの評価と技法に関する 研究、平成4年度厚生省科学研究(精神保健医療 研究)、心の健康度測定に関する研究一その3 (主任研究者:吾郷晋浩)、1〜16、1993.
3)吾郷晋浩:精神保健・医療の機能評価に関する研 究、平成5年度厚生省科学研究(精神保健 医療 研究)、心の健康測定に関する研究(主任研究者:
藤縄昭)、75〜92、1994.
4)辻裕美子、塚本尚子、岡田宏基、他:日常ストレ ス対処行動の評価尺度の作成、精神保健研究12
(45)、 53〜63、 1999.
5)近喰ふじ子、高久信一、吾郷晋浩、他:母親への 対処行動に関する簡易尺度化の試み、佼成病院 医学雑誌、22(1)、34〜42、1998.
6)福田一彦、小林重雄(構成者):日本版SDS 一自己評価式抑うつ性尺度一、三京房(京都)
7)Lazarus,Rs.:Coping Theory and Research:
Past, Presant, and Future Psychosomatic Medicine、55、234〜247、1993.
8)Richard.Lazarus, Susan.Folkman(本明寛、春 木豊、織田正美(監訳)):ストレスの心理学一認 知的評価と対処の研究一、実務教育出版(東京)
9)河野友信、石川俊男(編):〈現代のストレス・
シリーズ1>ストレス研究の基礎と臨床、現代の エスプリ、至文堂(東京)
10)河野友信、山岡昌之(編):<現代のストレス・
シリーズll>ストレスの臨床、現代のエスプリ、
至文堂(東京)
11)河野友信、久保木富房(編):<現代のストレス・
シリーズ皿〉現代的ストレスの課題と対応、現代 のエスプリ、至文堂(東京)
12)Rutter。 M, Graham.P, Yule.W;Social Aspects of Neuro−epileptic Disorder.
Clinics in Developmental Medicine,
35/36,150〜162,1970.
13) Hoare. P,:Psychiatric Disturbance in The Families of Epileptic Children, Developmental Medicine&Child Neurology.26,14〜19, 1984.
14)Drotar. D, Baskiewicz. A, IrvinN, et. al.:The Adaptaition of Parents to the Birth of an Infant with a Congenital Malformation:A Hydrothetical Model Pediatrics,56,710〜717,
1975.
15)F.Konjiki, Y Tuli, N. Tsukamoto, et. al.:
Patterns of coping with the Stress of Every−
day Life by Japanese Women,1993 WORLD
CONGRESS(WORLD PEOERATION FOR
MENTAL HEALTH), p.291,1993.
Abstract
SBC(Stress Coping Behavior)was conducted on mothers of children suffering from epilepsy in order to clanify the coping behavior of mothers of children with chronic ailments. The subjects were 41 mothers of epileptic children. The mothers of epileptic children achieved a high average score in all factores from lth to 8th, compared to ordinary mothers which involved problem solving, recreation, repression, relieving, diversion circumvention, affectivity and overall, respectively. Also, regarding the occurrence of epileptic seizures, the 7th factor
(affectivity)showed significantly different results. The tendellcy to use more affectivity was found among mothers of children still suffering from epileptic seizures compared to those of children who no longer suffer from them. The results suggest that mothers of epileptic children tend to be more affectionate than ordinary mothers. Moreover, the mothers of epileptic children in situations where epileptic seizures of their children are uncontrollable,
affectivity has the most influence of all coping behaviors. When observing the coping behavior of mothers of epileptic chilgren in a simplified diagram, the behavior can be categorized into 4types:(1)Problem solving,(2)Problem solving/affectivity,(3)affectivity and(4)Others. Problem solving types and Problem solving/affectivity types account for over 85%. From this, it was concluded that the importance of providing support to mothers of epileptic children is based on a deep comprehension of their coping behavior.
Key words:children with chronic ailments, epilepsy, mothers, Stress coping behavior