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法 : 歌唱表現授業での気づきから

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法 : 歌唱表現授業での気づきから

著者 古川 和代, 森 智香子

雑誌名 東京家政大学教員養成教育推進室年報

巻 4

ページ 119‑128

発行年 2017‑11‑01

出版者 東京家政大学教員養成教育推進室

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010136/

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保育者養成校における学生の歌唱力を伸ばす指導方法

― 歌唱表現授業での気づきから ―

Instruction method to increase the singing ability of the student of the childminder training school

-Through the awareness of the song expression class -

児童学科非常勤講師 古川 和代 森 智香子

はじめに

 保育者養成校では歌唱技能の習得のために様々な発声法が試みられている。筆者らも学生の様子を見な がら試行錯誤し、工夫を重ねて指導を行っている。その発声方法で音域が広がり、音程やリズムを取るこ とが出来るようになり、かつ歌詞を覚えれば一応歌唱となる。しかしながらこの様な方法のみで学生は歌 唱を楽しめる様になっていくのだろうか。歌唱の楽しさ1)は「歌いたい」との意欲を持ち、歌いたい曲 が自信を持って歌えたと実感した時に認識できるものである。子どもは保育者の歌声を聴いて音楽と触れ 合っている。そして保育者の歌声から歌や音楽に興味・関心を持つ。それゆえに歌唱技能は歌唱が楽しい と感じられる心情の上に成り立つものであり、又保育者自身が歌うことが楽しいと感じられて初めて子ど もに歌う楽しさが伝わるのである。子どもが保育者の歌声を聴いて歌える様になると仮定するならば、子 どもの「歌いたい感情」や「歌える能力」は保育者の歌声によって芽生え、育むということに他ならない。

本稿は保育者の歌声が子どもの歌唱表現に大きく影響を及ぼすものと推察し、保育者を目指す学生に身に 付けさせたい歌唱力について保育者養成校での歌唱表現の授業における試みを通して考察する。

1.研究の目的

 歌唱力はどの様に獲得していけるかに着目し、保育者養成校での学生の歌唱力についていくつかの論点 より考察して行く中で歌唱力を伸ばす方法を探ることを目的とする。歌唱力とは一般的に歌を上手に歌う 能力という概念であるが、楽譜通りに美しい声で歌唱することだけではない。本稿では歌唱に自信が持て る保育者を育てるため、保育者養成校の授業で試みた事例を基に考察する。

2.研究の方法

 筆者らが行っている保育者養成校での授業の取り組みを事例とする。そして学生の様子から考案した試 みを通して歌唱力を獲得するためのアプローチ法を示唆する。指導事例1では子どもたちが心を動かし保 育者と一緒に歌いたくなる歌唱力を身につけるために、身体のこわばりを取り除く柔軟体操を行い、和や かな雰囲気の中で心身ともにリラックスした状態で授業を行った。その効果から導き出された学生への指 導で必要な項目を挙げて考察する。指導事例2では歌唱力を伸ばすために子どもに歌って聴かせたい曲を 用い、不得意な事柄に挑戦して出来たという実感が持ち易い実演習を行った。又、客観的に自分の音程や 声量が判断出来る様に実演者が学生の歌唱の真似をする等、聴覚に働きかける取り組みも併せて行った。

3.学生に求める歌唱力について

 学生に求める歌唱力には ⑴ 音程やリズムを正確に取り、歌詞や曲想から楽曲のイメージをつかむ ⑵ 子 どもたちが歌唱したくなる歌唱表現ができる、がある。

学生が自力で歌唱するためには音程とリズムを正確に取れることが必須である。それは楽譜が読める技能 もあることを指す。保育現場では読譜の技能と共に音楽の心地よさや楽しさが伝わる歌唱表現が求められ ている。そのため学生は楽譜を読める技能を習得し、曲想に合わせた歌唱表現力を伸ばす必要が出て来る

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のである。細田(2009)では「子どもにどの様な声で歌わせたいのかというはっきりとしたイメージを持 ち、声の出し方にまで気を配る必要がある」と述べられている。つまり、学生は音程・リズムを含んだ歌 唱技能の習得は勿論のこと、子どもに歌って欲しい声のイメージを持つ重要性を指摘している。言い換え れば学生が子どもに歌わせたい声を表現出来る力も求められるとも言えよう。又、細田(2009)は「保育 者の声は子どもが、どのように歌うのか(声・音程・表情など全てふくめて)というモデルとして重要で あり、保育者の歌声によって歌いたいと言う意欲も育つからである。」とも述べられている。これは保育 者の歌唱が子どもの歌唱表現に大きく影響して関わるものであると示唆している。そして学生が保育者に なり、子どもと歌う時には曲想に合った歌声を意識する大切さが述べられている。又、子どもに歌って欲 しい歌声を具体的に提示し、表情豊かに歌唱する姿を見せることの有用性も示している。ゆえに保育者養 成校での指導は子どもの歌声のイメージを思い描いて歌唱する重要性を認識し、意欲を持って歌唱と関わ る力が求められる。そこで次に歌唱の意欲はどの様に獲得して行けるものなのかを探って行く。

 子どもたちが歌唱したくなる歌唱表現を学生が出来るようになるためには「意欲」が必要である。それ には学生が歌唱を楽しみ、技能習得を目指したいという気持ちが大前提となる。先ず、ある程度の読譜力 を始めとする歌唱技能がある場合とそれらを殆ど持っていない場合の両者を比較する必要があるだろう。

前者は具体的に「歌いたい曲」がある場合が多い。そして、その歌いたい理由は旋律が好きであったり、

曲想に魅力を感じたり、歌詞が良い等様々である。その曲は予め何度か聴いて知っている。楽譜を入手す れば歌唱する意欲に結び付くと考えられる。つまり、読譜や発声法の技能を取得しているためある程度自 力で歌唱が出来る。一方、後者においては「歌いたい曲」があっても読譜が困難であるためCD等の音源 を頼りに旋律や歌詞を覚えて歌唱する方法となる。この場合、音程もリズムも聴いて模倣が出来る力があ る。歌いたい一心でその「聴く力」を生かし、音程とリズムをほぼ正確に取りながら、ある一定の声量が あれば「歌いたい曲」が歌えてしまうのである。では、聴く力が弱くて模倣が出来無い場合「歌いたい」

との意欲はどの様に持てるようになるのだろうか。又、聴く力があっても声が小さくて弱い場合において はどうであろうか。本稿では「聴く力が弱い」と「声が小さく弱い」に着目する。いずれの場合も不得意 な事項の克服において一定の技能を習得する必要があるだろう。そのためには「挑戦」が第一歩になる。

その挑戦する過程を大切にしながら少しずつ出来る様になれば、それが成功体験となり技能習得の自信に 繋がると考えるからである。又、成功体験の積み重ねが歌いたくなる気持ちを生み、次のステップである 歌唱への意欲が湧くと考える。従って最初に挑戦出来るか否かが大きな意味を持つ。自分の殻を如何に破 るかどうかにかかっている。ゆえに苦手や不得意な技能を獲得するには小さな勇気を伴う「挑戦する行 動」が求められる。次に学生の状況と問題点について述べる。 

4.歌唱を取り巻く学生の状況と主な問題点

 問題点には ⑴ 技能習得の側面 ⑵ 精神的な側面 ⑶ 留意事項、がある。

⑴ 技能習得の側面

 本学のカリキュラムとして、保育の勉強をする一年生の必修科目に短大「幼児音楽A」学部「音楽Ⅰ」

があり、年間を通して週一回「弾き歌い」の授業を受ける。そして、二年生の前期に週一回、筆者らが指 導する短大「幼児音楽B」学部「音楽Ⅱ」の歌唱を中心とした選択授業へ進む。保育現場において子ども たちとの音楽表現活動の中で自信を持ち楽しく歌唱することを目的にした授業である。そのために、筆者 らが指導を行うに当たって大切にしている事は第一に喉に負担の少ない発声法と歌唱力である。保育者 は、子どもへ話しかけ、読み聞かせをし、歌を歌って聞かせて一緒にも歌い、一日中「声」を使わなくて はならない。発声の基本をしっかりと理解していないと、自分の身体を楽器とする「声」を活かせないば かりか、喉に負担をかけてしまう。授業でなるべく多くの曲と出会い、歌うことが望ましいので、発声に ばかり時間はかけられない。限られた時間で、学生は「発声」の基本的な身体の使い方や自分の声の変化 を筆者らの範唱で理解し、それを真似しながらの発声練習で会得していく。自然な無理のない「発声」を

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習得すると同時に、学生自ら又は子どもたちが間違った「発声」になった時の状態を理解させる。歌唱の ための準備運動である「発声」を行ってから、音楽活動において必要な読譜力を身につける為に事前学習 として譜読みをした楽曲の歌唱を始める。保育者養成校では音楽や歌唱が好きな学生が多く、学生たちは 一度聴いただけですぐに歌える。筆者らは楽曲を正確な音程とリズムと歌詞で子どもたちが覚えられるよ うに、楽譜を見て学生自身の歌唱が合っているかを一緒に確認する。その上で呼吸のタイミング、歌詞の 意味や状況、そこから湧き出す感情等が加わると「歌唱力」がついてくる。問題点としては①読譜力不足

②学生の練習時間不足が挙げられる。譜読みをせずにYouTube等のネット検索で歌を覚えようとする学 生が多く、正確さに欠ける歌唱になる場合がある。また、授業時間だけで歌唱力を身に付けようとすると 時間が足りない場合も挙げられる。

⑵ 精神的な側面

 発声などの練習から得られる技術的側面と共に重要な役割を持つ精神的側面から、限られた授業時間内 で学生が自信を持ち楽しく歌唱する意欲を持たせる為に必要な方法を考察する。一般的な歌唱のための練 習を行っても学生一人一人の意識が違うため歌唱力に差が出てくる。そこで、2015 ~ 2017年、4月に二 年生のオリエンテーション時に行ったピアノや歌に関する意識アンケート結果から、歌唱に関する精神的 な側面が浮かび上がってきた。「ピアノや歌は好きですか?」との設問に対し学部、短大の保育を学ぶ学 生の回答結果を下記の表にまとめた。

表1:ピアノや歌に関する意識調査

2015学部 2016学部 2017学部 2015短大 2017短大

全体の人数 53 36 33 34 61 217

ピアノと歌が好き 37 23 22 27 39 148

ピアノは嫌いで歌は好き 11 8 7  6 17 49

ピアノは好きで歌は嫌い 2  4 2 1 3 12

ピアノも歌も嫌い 3  3 2 0 2 10

苦手や不安があると答えた 29 27 18 19 45 138 苦手や不安があると答えた割合 55% 75% 55% 56% 74% 64%

 好きだと答えた学生は①リズムに乗って歌うのが楽しい②感情を込めて歌うことが楽しい③みんなと歌 う時の一体感がたまらなく好き④音楽を聴くのも演奏するのも楽しく気分転換になる⑤歌うとスッキリし て楽しくなる⑥歌うと自分も周りも笑顔になり気分が上がる⑦ピアノの音色が好き等の楽しい感情を理由 に挙げていた。とにかく歌やピアノという音楽自体が好きであるという意見も多く、そのような学生たち は詳細に好きな部分を回答している。また「できなかった箇所が上手く演奏出来るときに喜びを感じる」

と達成感を感じたからとの回答例もある。肯定的な言葉が並ぶ反面、好きだと答えた学生の中で、好きだ けれども苦手、音程が取れない時があるのが不安なので筆者らの授業で自信をつけたい等と自由記入欄に 加筆してある。

 一方、嫌いだと答えた学生の理由は次の通りである。①練習が好きではない②人前で演奏すると固まっ てしまう③高音がかすれてうまく出せない④譜読みが嫌い⑤音痴だから心配⑥不安だけれど将来のために 頑張る⑦幼児期に歌唱で嫌な思い出がある⑧この音を出してと言われてもわからない等の意見があった。

しかし、どちらか又は両方嫌いでも、授業を通して克服しようと思い選択している。指導者として意欲を 伸ばすためには何が必要であるかも考慮し、授業計画を立てなければならない。そこで現状の学生たちが 抱える問題点の認識が必要になる。問題点として①人前での演奏に対する不安感②読譜と音程に対する不 安感が挙げられる。表1より「人前で演奏すること」への不安感を持つ学生が最も多く、ピアノや歌が好 きでも嫌いでも、予想以上の人数が「人前で演奏すること」に対しての不安、緊張、苦手意識を持ってい

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ることが判明した。オリエンテーションで「歌唱の授業を選択したいけれど、試験に1人で歌わなければ いけないなら、選択したくない」と相談されたこともある。また音程が上手く取れない、または正しく音 程が取れているか分からないことが学生の不安感の増長に繋がっている。不安と緊張、苦手意識を克服し て、如何に楽しく歌唱で自信を持って音楽表現が出来るかが、筆者らの指導にかかっている。自信を付け る指導をする上で欠かせないのが学生の歌唱に対する不安と緊張感の解消である。出来る限りリラックス した状態で苦手意識を取り除き、歌唱の技能習得に取り組むため、次に留意事項を述べる。

⑶ 留意事項

 授業内で行う①リラックスするための取り組み②持ち声を受容する取り組み③羞恥心を和らげる取り組 みである。先ずはリラックスした状態とはどのようなものであるかを知る必要がある。メンタルは歌唱に 少なからず影響を及ぼし、意欲だけではまかなえない部分は存在すると考えられる。特に自分の声が嫌い だと言う明確な理由がある場合は意欲が出ず、歌唱が消極的になりやすい。同時に個人的な心的外傷も合 わせ持つ場合はメンタル面への十分な配慮を要する。克服しようとしても、かつて何気ない言葉で傷つけ られた経験は時が経っても歌唱時に不安や恐怖を呼び起こしてしまうだろう。これは子どもであっても同 じである。歌唱とは基本的に心身共にリラックスした状態で楽しい、嬉しいとの感情から沸き起こるもの である。人は気分が良い時、あるいは感情が高揚すると鼻歌が出る。歌唱において鼻歌を軽視する向きも あるが、筆者らは自然に表出する鼻歌は精神的に安定した状態で表現している歌唱の一部と捉えている。

身体がリラックスした状態で気分が良い時に現れる鼻歌にこそ歌唱の形態を導く力が存在するのではない か。子どもが好きな事に取り組んでいる際気分が良くなり思わず鼻歌が出てしまうのも、ある意味におい てリラックスして気持ちが安定しているからと言えよう。歌声とはこの様なささやかな現れから導き出さ れるのかもしれない。細田(2002)では「子どもは、保育者がうたっている時にはその様子をじっと見て いる。(中略)しかしながら子どもの動きを見ていると、模倣ではなく子どもの中から生まれた自然な表 現であるとしか解釈できない場面の方が多い」と述べられている。保育者の歌唱から子どもは音楽を自然 に受け入れ、その中で独自の表現を楽しめるように発達して行く様々な過程は非常に興味深い。それは歌 唱が観るものでもあると示唆している。子どもは保育者がどのような表情でどのような様子で歌唱してい るか、視覚を通して感じながら、感じたままの思いを身体全体で表すのである。子どもにとって思わず身 体が動く歌唱は保育者の歌唱を全身で受けとめ、音楽に身を委ねるリラックスした状態であり、大人の場 合に置き換えると鼻歌がそれに当るのではないだろうか。その様に解釈すると歌唱では如何に心身共にリ ラックス出来るかが問われると考えられる。そのためには思わず口ずさんでしまう雰囲気や歌ってみたく なる授業内の環境が大切である。

 次の留意事項は声とは生まれ持ったものであるということである。取り替えることは出来無い。前項で 述べた様に声に嫌悪感があれば歌う行為は苦痛になるだろう。しかも声は身体の機関の一部であるため 日々の体調によって変わってしまう。ベストの状態を維持するのは極めて難しい。しかし、子どもとの歌 唱においては一定のレベルを保てる様にしたいものである。そのためたとえ自分の声が嫌いであろうとも 習得した歌唱技能を駆使して自分の声を受け入れて歌唱して欲しい。自分の声の特性を知り、声帯に負担 が少ない発声に取り組みながら、嫌悪感を和らげられる経験を積みたい。それらの経験は声が出にくい子 どもに対しての寄り添い方や思いやる言葉掛けを生み、保育現場で有効な指導となるであろう。学生は、

自分の声を受容しながら子どもが十分に音楽に触れ合い、楽しめる様な工夫と配慮を心がける保育者を目 指さなければならない。そして最後の留意事項は羞恥心を和らげる取り組みについてである。人前で歌唱 するのが恥ずかしいと言う気持ちは少なからず皆が持っている自然な感情である。これには上がってしま うと言う意味合いも含まれる。特に独唱時には不安や緊張は高くなるであろう。昨今、学生の様子を見て いると本当の音痴は少ないと考えているが、自分が音痴だと思っている学生は少なく無い。又、自分に合 わない調で歌唱している為に高音や低音がでないことを音痴だと間違った認識を持っている学生も多い。

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恥ずかしいとの感情は音程の不安定さを自覚していれば更に不安と緊張を助長してしまう。「間違えては いけない」「失敗してはけない」と言う気持ちが強いのも悪影響である。もし、自らが努力して身に付け た技能によって歌唱に自信が持てれば「人に聴いて欲しい」「観て欲しい」との意欲に繋がり、人前での 歌唱が恥ずかしい気持ちは多少和らぐのではないだろうか。そこで次の事項を提案したい。①場数を踏ん で人前での歌唱に慣れる②聴いて欲しいとの気持ちになる③過剰に間違えを恐れない 

これらの観点を踏まえ、次に筆者らが保育者養成校で行っているそれぞれの指導事例を挙げて考察する。

5.授業の指導事例1

期間:2016年4月19日~ 2016年6月7日(前半クラス)2016年6月14日~ 2016年7月26日(後半クラス)

   2017年4月21日~ 2017年6月9日(前半クラス)2017年6月16日~ 2017年7月28日(後半クラス)

対象:家政学部 育児支援学科2年生  回数:週1回90分×7回  

人数:2016年度1クラス 28人(前半14人 後半14人)2017年度1クラス 33人(前半17人 後半16人)

⑴ 姿勢の改善

 歌唱は身体を楽器としているため、身体から声を出しやすくするには、どのように「立つ」ことが望ま しい姿勢かを指導することが必要だ。「歌う時はまっすぐ立つ」ことは重要であるが、「まっすぐ」とは気 をつけの号令で立つ様な腰を反らせた直立不動の力みのある立ち方では決してなく、自然な立位のことで ある。学生に両足を腰の幅に開き、少しつま先を外側に向け立ち、両手を組んで伸びをし、手を横から下 ろさせる。頭の位置は自分がマリオネットの人形になって上から糸で引っ張り上げられているイメージを 持たせ、少し顎を引き、首の上に乗せて立たせる。「立つ」ことは日常生活の中では何気なく行っているが、

歌うために「立つ」時には、以下のように意識を集中させることが必要である。それは、重心を土踏まず の上に置き、足の裏が地球からのエネルギーを吸い上げるイメージを持つことである。学生はまっすぐに 立てず、スマートフォンを見ている時の様に、首が前に落ち、内肩になっていることが多い。自分の身体 の各部位と使い方に意識を向けさせることが大切である。

⑵ 自然な呼吸するための指導

 呼吸とは「息を吸ったり吐いたりすること。生物が酸素を体内に取り入れ、炭酸ガスを排出する作業」2)

である。呼吸とはすなわち生きることを意味する。我々は「立つ」ことと同様に「呼吸」も無意識に行っ ている。無意識に行っている呼吸であるが「声」を出す時「歌唱」の際に呼吸は非常に重要である。

GAHABKA(2008)は『「声」は呼吸をしなければ成り立たないのである。もちろん人が「声」を発する 時に第~段階…など考えずに自然に行っていることだが、「声」を使用する「歌」になると、自然に出来 ていた「声」を出す、「呼吸をする」と言うことが急にできなくなる。無意識に「声」と「歌」は違うも のだと考えてしまうだろう。しかし、「声」も「歌」と同じように息を吸い、声帯を振動させ、音にして いるのである。言い換えれば、人として自然に「表現」しているだけなのである。しかし、緊張のあまり

「呼吸」をすることを忘れたり、不自然な「呼吸」をして上手く「発声」出来ないことがある。その様な 時は自然な呼吸を試みるだけで身体がリラックスして「発声」することが出来るであろう』と述べている。

授業では同様に考え、学生と会話をしながらストレッチで力みや緊張を取り除き「自然に呼吸をする」呼 吸法を指導した。

⑶ 開口の方法と共鳴を得るための指導

 日本語は、表情筋をあまり使わず、口をしっかりと開けなくても日常会話ができてしまう言語である。

日常会話と同じ口の開け方では、子どもたちの前で話す時も歌唱も表情もはっきりと伝わらない為、表情 筋を意識的に動かし、笑顔で母音の「あいうえおa i u e o」と口の形と口の中に空間を作る意識を持って 発音することが学生には必要である。頬骨を持ち上げ「笑顔で口をしっかり開ける」ことにより、鼻腔、

口腔、咽頭腔、前頭洞等から共鳴を得られるため、細い声でも遠くまで届く声となる。共鳴の助けがない 声は、近くで大きな声でも遠くへは聞こえない側鳴りの声になってしまう。学生にハミングで共鳴腔に響

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くことを体感させ、笑顔と開口を意識した発声練習を行ったところ徐々に響きのある声が出る様になっ た。

⑷ 歌詞の朗読と曲の解釈

 日本語の美しさとリズムを感じながら歌詞を学生に朗読させる。美しい日本語の朗読に不可欠な鼻濁音 を知らない学生、やり方がわからない学生が非常に多いため、鼻濁音と鼻濁音を使わない「ガギグゲゴ」

の両方を筆者が発音して模倣させる。次に歌詞の内容を6 W 1 H 1 R,When(いつ)Where(どこで)

Who(誰が)What(何を)Whom(誰に)Why(なぜ)How(どのように)Result(どうなったか)を クラス全体で考えることにより、歌詞の内容理解を深める。長尾(1979)は『歌は、歌詞とリズム、和声 を含むメロディーからなっており、保育者は、その一つである歌詞の内容、意味を幼児なりに理解させな ければならない。しかし、それは文字や言葉を理解させるのではなく、言葉や詩の内容からくる感情、感 動、情景を幼児の生活上の体験から、感覚的に体で感じとらせ、消化させることなのである。和声、リズ ムをふくむメロディーにしてもそうであり、メロディーに内存するそれらを感じとらせなくてはならな い。「その感じ取った」ことによって「発見」がなされ、その発見がさらに幼児の感覚、感情を揺さぶり、

広く、大きく、豊かに想像することによって、始めて感動的に歌うことができるのである。』と述べられ ている。子どもたちへ楽曲を体中で感じとらせるには、学生自身に「想像してイメージして感じさせる」

ことが大切である。

⑸ 歌唱の指導

 学生の身体と声が歌唱に最適な状態になり曲の内容を理解出来た上で、どんな気持ちで誰(何)のため に歌うのかを考え、各自が情景や気持ちを曲に乗せて伝えたいイメージを持ち、気持ちを込めて歌わせる。

特に形容詞のイメージを気持ちに込めて歌唱すると表現に幅が出て伝わりやすいことを意識させて、学生 自身が曲から感じたことを、声、表情、呼吸、歌詞の発音で表現し「心の歌」を歌わせる。筆者らも一緒 に子どもに歌って欲しい歌声をイメージして歌い、またはデモンストレーション3)をして参考にさせた。

⑹ デモンストレーション

 GAHABKA(2014)は個人授業とグループ授業について「個人授業は音楽の世界において、対象者の 技術的側面を伸ばすことができる重要な手段の一つである。音楽、とりわけ歌唱教育領域(ここでは合唱 等はとりあげず独唱の可能なものを述べることとする)は個人授業とグループ授業とにわけられるが、目 的によって真に有意義なものが決定される」と述べている。どちらの授業形態も精神的側面での信頼感と 安心感も築き上げられる時間である。

 筆者らはオペラ、オペレッタ、ミュージカル、コンサート等の舞台で歌うことを仕事としてきたが、一 般的に声楽を習う場合、個人指導で教師をお手本に呼吸法や発声方法、曲の解釈、感情と声のバランス、

音楽へ対する姿勢、取り組み方、考え方、などを学ぶ。個人指導では課題曲の歌唱を教師が聴き、良くな かった歌い方を模倣して問題点を指摘し、教師が範唱する。次に教師の歌い方を真似て再度歌いすぐに出 来無い時は出来るまで何度も一緒に歌い続ける。長尾(1979)が「たとえ保育者の発声、声質が劣ってい たとしても、その劣等感から歌を歌うことに決して消極的になってはいけない。そして保育者の自信を もった「歌い方」で幼児の心を握み、発想を発展させてほしいのである」と述べているように、学生自身 が音楽に楽しみを見い出し、理解し研鑽を積む為には教師の範唱を模倣することが重要となる。「心の歌」

を子どもたちへ自信を持って届け、子どもたちの心を掴み、子どもたちが何のためにこの歌を歌うのか、

子どもたちにとってこの歌を歌う意味とは何か、音楽活動の中で子どもたちの気持ちを汲み上げ理解しな くてはならない。皆に世界に一つしかない自分の身体を楽器とする「声」に自信を持ち、それぞれの「声」 

で楽しんで歌うことが求められる。歌唱の技術は大切だが、学生が将来保育者として子どもの前に立つと きに気持ちを動かせる歌唱が必要である。教師は学生の歌によって、自然と子どもたちが一緒に歌いたく なる歌唱力を習得する目標となるデモンストレーションをする。

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6.授業の指導事例 2

期間:2016年4月19日~ 2016年6月7日(後半クラス)2016年6月14日~ 2016年7月26日(前半クラス)

   2017年4月21日~ 2017年6月9日(後半クラス)2017年6月16日~ 2017年7月28日(前半クラス)

対象:家政学部 育児支援学科2年生  回数:週1回30分×7回(90分授業の中で)

人数:2016年度1クラス 28人(前半14名 後半14名)2017年度1クラス 33人(前半17名 後半16名)

⑴ フロー理論の活用

 学生の歌唱技能の習得に心理学者チクセントミハイが提唱する「フロー理論」4)を取り入れている。

 このフロー理論とは「内発的動機づけ」の構築として研究された理論である。この理論を応用すること で歌唱技能習得の一助となるのではないかと考え、取り扱っている。学生の意欲を引き出すために前項で 述べた小さな勇気を伴う「挑戦する行動」の取り組みである。フローとは流れる(flow)もしくは流れて いる(floating)を意味する。ある時間と、ある没頭している行動を包括的に捉え、かつ自意識を喪失さ せて流す意識の状態を指す理論である。つまり、歌唱時に自意識を喪失させるべく、歌唱行為に高い集中 力をもって没頭させ、その活動の中で思わず取り組んでしまいたくなる楽しい体験を行う。その体験から 歌唱技能を獲得するきっかけとした。そして挑戦の積み重ねにより、出来たという実感を持つことで更な る歌唱意欲に繋げようと試みたのである。(以下フロー理論での活動をフロー経験と記す)例えば口が開 かない場合には50年程前に放映されていた「わ・わ・わ・輪が三つ、ミツワ石けん」というTVコマーシャ ルのフレーズを使い、一語ずつ「わ」の表情を変える様に指示し「わ」を強調して発音させる。次に「わ」

に抑揚を付けて大げさに表現させる。眉毛が上がり、目も見開くため表情筋が動きやすくなり、学生同士 顔を見合わせて行うと笑いが起こる。その結果、気持ちがほぐれる。何度か練習して表情が動いた学生は 口を開けることの抵抗が和らぎ、挑戦して出来た事への自信に繋がるのである。

 フロー経験の特徴を歌唱技能習得に置き換えて解釈するならば①活動の集中②活動中の行為と意識の融 合③内省的自意識の喪失④活動での行為が出来る感覚⑤時間経過感覚と行為の経過感覚の不一致⑥活動経 験自体による技能習得(チクセントミハイ・ナカムラ 2003改変)5)フロー経験は活動の難しさのレベルで ある挑戦(challenge)のレベルとその活動を遂行するために学生が持っている能力(ability)のレベルが ほぼ釣り合っていることが必要となる。少し頑張れば出来そうなレベルの設定をして学生に挑戦を促す目 的で目標を筆者が実際に歌声を出して表現するのである。やるべき活動の瞬間の目標が明確であり、進行 中の活動に関するフィードバックが直ぐに得られる。これにより自分が目標に近づいているかどうか、又 課題をしっかりこなしているかどうかの評価が学生に直ぐに分かるという長所がある。そして挑戦するこ と自体が楽しさや充実感、達成感をもたらし、技能習得に繋げるものである。特に声量が出ない時や正し い音程を取るための指導に応用している。

 しかし、このフロー経験による活動体験は主観的状態によるため学生すべてに当てはまるとは限らな い。何故ならフロー経験は活動を行う主体としての学生がその活動をどの様にとらえ、その活動にどれ位 の心理的エネルギーを注げるかで違うものになるからである。フロー経験を基にした学生の歌唱意欲を高 める活動として、歌唱目標を実演している。それは客観的にどの様に歌唱すれば良いかの一例として提示 するものである。筆者らが行う歌唱モデルを通して学生は自らの視覚と聴覚で自らの声量や声質を判断 し、正しい音程やリズムの技術習得に繋げる助けになる。挑戦するためには多少の勇気が必要である。自 意識が過剰に働いてしまう学生の場合はこの心理的エネルギーが弱くなる傾向が考えられる。この過剰な 自意識をどの様に取り除けるかは今後の課題である。この「フロー経験」を基にした試みには、子どもに 歌って聴かせたい曲や自分が歌いたい曲を取り扱い、不得意な事柄に積極的に挑戦することが望ましい。

 一方、保育現場では楽曲への取り組みに対し、客観的側面と主観的側面のバランスを取る必要がある。

それは常に子どもの立場に立ち、選曲への配慮を怠らないことが求められるからである。ゆえに子どもの 発達や保育者の意図に沿った適切な選曲をしたい。

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⑵ 音程と声量

 次にフロー経験を通した技能習得として「音程と声量」での具体的な事例を挙げて考察する。学生の歌 唱力を伸ばすべく技能を習得するための方法や歌唱力に纏わる先行研究を概観してみると主に発声法が取 り挙げられている。しかしこの項ではあえて発声法には触れず、先ずは学生の声質や声量に合わせた曲目 を扱うことを基本とし、歌詞の朗読(語り)を通して声量に繋げる取り組みから考える。

 例えば歌唱の前に発声をしても歌唱力に繋がらないケースがある。原因として二つ考えられるだろう。

第一は声が出にくい場合、第二には声は出るが声量が増えない場合である。ここでは声量を「声帯に負担 が少ない声の大きさ」と位置付けて考える。声量は歌声のみならず、語る声にも共通する問題でもある。

発声で声量が出ない時、歌詞の朗読は音程を正確に取る心配が無く、その集中力を声の張りや抑揚に注意 を向け易い利点がある。普段の話し声よりは声帯に多少の負担はかかるが、滑舌を良くしようとする意識 も出て来る。そして感情も込めやすい。そこで「朗読の練習によって声量が増すか」と仮説を立て指導を 試みた。すると朗読を積極的に行う過程において徐々に声を出す抵抗が見られなくなり、少しずつ声量が 出始めたケースがあった。そしてその後、歌唱時に表情も明るくなる改善が見られた例もあった。又、朗 読によって声を出すことへの抵抗が薄れた学生の中には歌唱自体に抵抗が薄れた者も現れた。これにより 歌詞の朗読は、声量を増やし歌唱し易くするひとつの方法だということが分かった。

 一方、音程を正確にとるためには自分の声を聴き、鍵盤楽器等の音や人の声を聴いてピッチを合わせる 必要がある。音程を取るにはこの聴き取る力は欠かせない。声量が出せる様になった経験を次なる聴き取 る力への原動力とする。不得意な事が克服出来た経験で一定の声量が出せるようになれば自分の声が聴き やすくなり、正しい音を取る技能も習得し易くなると考えられる。又、ある程度の声量を出せる様になっ てから正しい音程を取る技能習得に取り組んだ方が効果的な場合もある。つまり出にくかった声が朗読で 出る様になれば、それが自信となり音程やリズムに取り組む気持ちも生まれ、技能が習得しやすくなる可 能性がある。何より保育者養成校においては学生が技能習得に自信を持てるよう指導することが重要にな るため、挑戦して出来た経験を多く積み重ねることがその助けとなろう。

 しかし、もし声量が増えない原因が正確に音程を取れないことで無いならば次の原因が考えられると推 察する①腹式呼吸の方法が実践出来ず、息が十分に身体に取り込めない②取り込めたとしても腹背筋で呼 吸を支えられない③口が開かず共鳴が得られない④声を出すための息の圧力が弱い。これらの代表的な4 つの問題点には可能な限りデモンストレーションを試みている。それは直に学生の視覚と聴覚に働きかけ るため、有効性があると考えられるからである。学生の目の前で具体的な歌唱技能の目標としてのモデル を示すデモンストレーションの意義は大きいと感じている。歌唱技能の方法を分かり易く口頭で伝えた上 で、言葉では伝えきれない部分の補足として歌唱表現を随時提示している。又、デモンストレーションの 効用は学生の歌唱表現の模倣をすることでその歌唱技能が客観的に捉えられることにもある。学生が改善 しようと行動を起こす機会を作り出したいと考えている。

7.学生の歌唱意欲及び技能習得と「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」「幼保連携型認定こども園教育・

保育要領」との関連性

 次に学生が保育実習現場で意識して欲しい上記の「保育指針」「教育要領」「保育要領」について考える。

子どもたちに歌って聴かせたい、又は一緒に歌いたいという歌唱意欲はある程度の技能習得を経てから導 かれるものであるのか、それとも歌唱意欲があって技能習得をもたらすのか、どちらであるかは一概には 言えない。その学生が音楽と関わって来た経験や感動した体験又は指導者、演奏者との出会いにもよるで あろう。あるいは相互に影響し合う関係であるとも言えよう。しかし技能習得にだけ時間を取られてしま えば音楽を楽しむ時間的、精神的な余裕はなくなってしまう。音楽を楽しもうとする気持ちが根底にある

「歌唱意欲と技能習得」であることを忘れてはいけない。学生の歌唱表現は曲の解釈や曲への思いを歌声 に乗せて、後々には子どもに伝わるものでなければならない。そのため「歌わなければいけないから歌う」

(10)

という消極的な歌唱は避けたい。

 学生は実習時、それぞれ該当する「保育指針」「教育要領」「保育要領」の音楽に関する内容を把握し臨 んで欲しい。そして豊かな感性を持って音楽と向き合い、日頃から「子どもの歌」のレパートリーを増や す努力を怠らず、子どもたちに歌唱したい気持ちを促せる様にすることが望ましい。

8.結論

 学生の歌唱力の獲得には、主体的に歌唱技能習得に取り組むと共に学生自らが音楽を楽しめる、精神的 にリラックスしている状態も重要である。又、学生が子どもに対し自発的な音楽表現を引き出すことので きる保育者になるには歌唱表現を楽しめる自信が必要である。自信とは歌唱技能の習得だけでなく、歌を 子どもに伝えたいという自覚からも生まれるものである。自信を持ち、歌唱力を伸ばすには目標になる実 演者が必要である。実演者のデモンストレーションは学生に歌唱意欲を促し、歌唱技能習得の必要性を気 づかせる機会になる。

9.課題

 今後の課題として、1.歌唱に取り組みやすい適切な環境を整えながら更に学生の歌唱力を伸ばす有効 的なアプローチ方法。2.技能習得の為に挑戦をしても一定の成果が出ない学生への対応。この二点を考 える。又、多くの学生が持つ「人前で歌唱・演奏することへの不安感」を取り除き、学生が自信を持って 歌唱するため、より効果的な工夫を考えていきたい。

おわりに

 本稿では保育者養成校における学生の歌唱力を伸ばす方法を技能の側面だけでなく、精神的な側面にお いても主な例を挙げて示唆した。又、子どもの歌唱表現は保育者の働きかけや関わり方の影響が大きいた め、学生には目標とする歌唱表現が出来る実演者が必要であることも明らかにした。保育現場において子 どもが十分に歌唱を楽しめる環境で保育者が曲の魅力を再現できる歌唱力の意義は大きい。特に目の前で 歌って見せられる歌唱は子どもに歌ってみたいと言う意欲を引き出させる。又、楽曲を扱う時は明確な意 図を持ち、その歌詞の内容や情景をイメージして子どもに伝えなければならない。それは楽曲の心地よさ や歌う喜びを子どもが感じ取り、歌唱出来る様になれるかは保育者の歌唱表現力にかかっているからであ る。そのため、朝の太陽の光、空の色、風の音、花の香り、夜の静けさ、季節の移り変わり、そして呼吸。

それらを身体中で感じて表現出来る保育者、即ち子どもたちへ歌を伝えたい気持ちを大切に「心の歌」が 歌える保育者になることを切に願う。歌唱は豊かな表現が求められる。ゆえに学生は歌唱を通して子ども の心を豊かに広げることを意識して「心の歌を歌える保育者になる」との強い志を持って臨むべきである。

学生の「子どもの歌に対する考え方」や「歌唱を大切に考える気持ち」が自らの音楽の感受性も育み、高 めて行けると信じている。そのために筆者らは「子どもの歌」の魅力的な歌唱を探求して今後の指導に役 立てていきたい。

本稿は共著であるが、特に3,6,7は古川、5は森が担当した。

注)

1)「歌唱の楽しさ」本稿では合唱など声を合わせる楽しさを含めず、独唱の楽しさについて指す。

2)「呼吸」大修館書店 明鏡国語辞典 第二版第四刷2013年頁600

3)デモンストレーション(demonstration)「実物・実演・実験などによって行う講義」新潮現代国語辞典   第2版2012年頁1051

4)フロー理論(Theory of flow)1990年アメリカの心理学者チクセントミハイがまとめた理論「フロー 体験 喜びの現象学」今村浩明訳 第5章 音楽のフロー 頁137

(11)

5)「モティベーションをまなぶ12の理論」鹿毛雅冶 櫻井茂雄 編著Theory6 楽しさと最適発達の現 象学 頁166「表1フロー経験の特徴」より改変

引用文献

・GAHABKA Nami (2008)「保育者養成課程における歌唱指導について 発声法の重要性」『京都女子 大学発達教育学部紀要』第4号 頁55-62

・GAHABKA Nami (2014)「音楽教育における感覚的認識の一考察」『京都女子大学発達教育学部紀要』

第10号 頁02-10

・長尾洋子(1979)「保育者養成における保育につながる音楽教育-保育現場における音楽活動の実状と 養成校における音楽教育への提案」『岡山県立短期大学研究紀要 』第23集 頁73-81

・細田淳子 蟹江春香(2010)「保育者養成教育における発声法」『東京家政大学研究紀要』1 第50集(1)

頁31-39

・細田淳子(2001)「ことばの獲得初期における音楽的表現 子どもがうたい始めるとき」『東京家政大学 研究紀要』第41集 頁107-113

参考文献

・桐岡亜由美 端山梨奈(2016)「保育者養成課程における 幼児音楽 授業改善の一考察 学生の音楽技 術向上のために」『 保育研究 45号』頁48-57

・小池美知子(2009)「保育者の音楽的感受性が幼児の音楽表現に及ぼす影響」『保育学研究』第47巻第2 号頁60-69

・武岡真知子(2008)「保育者養成における保育内容音楽表現指導の方法について」『富山短期大学紀要』

43.2 頁11-19

・竹下則子(2017)「保育者養成校における歌唱指導技術の育成『京都聖母女学院短期大学研究紀要』46 頁89-99

・鶴巻保子(2012)「保育者養成のための音楽表現技術における学生の学び」『鹿児島純心女子短期大学研 究紀要』42 頁57-69

・長野麻子(2009)「歌うとは何か?-幼児の歌唱教育における問題点と提言」『立教女学院短期大学紀要』

第41集 頁37-50 参考図書

・飯村孝夫(2015)『ことばが届く歌い手になる』太郎次郎社エディタス

・石井玲子(2009)『実践しながら学ぶ 「子どもの音楽表現」』保育出版社

・佐伯胖 藤田英典 佐藤学 編(1995)『表現者として育つ(シリーズ学びと文化5)』東京大学出版会

・チクセントミハイ(2015)『フロー体験 喜びの現象学』今村浩明訳 世界思想社

・ルソー(1998)『エミール(中)』今野一雄訳 岩波文庫 青622-2

・楊淑美(2016)『楊淑美・流 ヴォイス・トレーニング BOOK』講談社 

参照

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