A Comparative Case Study on Cultural Transmission
In Two Malaysian Vernacular Primary Schools.
Keywords: Culture transmission, Vernacular Schools, Classroom Management
マレーシアの民族小学校における文化伝達に関する比較研究
-二つの事例校を通して-
キーワード:文化伝達、民族小学校、教室管理 所属 教育システム専攻 氏名 LOW ZE HAN1
1.論文の構成 第一章:研究の概要 第一節 はじめに 第二節 研究の背景 第三節 研究の目的と意味 第四節 先行研究の検討 第五節 研究方法 第二章:方法論の背後にある主要概念と理論 第一節 文化とは 第二節 久冨善之の学校文化枠組み論 第三節 ヘールト・ホフステッドの文化の次元論 第四節 教室管理と文化 第三章:国民型タミル語小学校 第一節 イントロダクション 第二節 タミル語初等教育の歴史的背景 第三節 ポートディクソンタミル語小学校 第四節 小括 第四章:国民型中国語小学校 第一節 イントロダクション 第二節 中国語初等教育の歴史的背景 第三節 デサジャイヤ中国語小学校 第四節 小括 終章:比較分析、結論、今後の課題 第一節 比較分析:ポートディクソンタミル語小学校とデ サジャイヤ中国語小学校の文化的価値伝達の比 較 第二節 結論 第三節 研究の限界 第四節 今後の課題 2.論文の概要 本論文はマレーシアの民族小学校における、中華系とタミ ル系の二つの事例校を通して、統一標準カリキュラムがいか に異なる言語文化に翻訳または解釈され、実施されているの かを明らかにする。具体的に、同一国内の公教育の内容が各 初等教育機関においてどのように実施されているのかを明 らかにすることである。異なる民族小学校における教育実践 を明確にしたうえで、その背後にある各民族の伝統的な文化 及びその変容といかにしてその文化を伝承しているのかを 明らかにしたい。ポートディクソンタミル語小学校とデサジ ャイヤ中国語小学校、その二つの事例校を通して、文化伝達 に関する構成要素に焦点を当る。 マレーシアは典型的な多民族社会である。主な民族人口比 率について、マレー系は約 67%、中国系は約 24%、インド系 は約 7%である。三つの主要民族と地域の歴史が複雑に入り 混じって並存するマレーシアは、ディアスポラの教育システ ムが国の教育システムに組み込まれている数少ない国の一 つである。初等教育は主に三つの種類に分けられている。国 語のマレー語を教授言語とする国民小学校と、国語がマレー 語以外、つまり中国語とタミル語を教授言語とする国民型中 国語小学校と国民型タミル語小学校がある。 国民小学校と国民型小学校のカリキュラムは基本的に教 育省のカリキュラム開発センターによって示される「小学校 標準カリキュラム」を採用している。国民型小学校はただ教 授言語が違うだけではなく、各民族独自の文化も学校の教育 方針に組み込まれている。マレーシアの初等教育システムは 統一のカリキュラムを実施しているが、それぞれの小学校は 民族文化的な運営の方針や特徴を持っている。本研究の課題 はこれら国民型小学校における歴史的背景、社会的要因、現 状等を検討することである。 研究方法 本研究は主に以下の四つの研究方法を用いている。 1) フィールドワーク:2016 年 6 月 14 日から 17 日までデ サジャイヤ中国語小学校で、2016 年 6 月 22 日から 24 日までポートディクソンタミル語小学校で、それぞれ一つのクラ スに着目し、フィールドワークを実施した。 2) ビデオ撮影:それぞれの学校で、三日間の日常風景をビ デオで記録した。その内容は、主に学校の風景、イベントや 授業の風景である。このビデオは、フィールドでの観察で見 逃したことを補足するツールとして撮影した。しかしながら、 将来の研究では、このビデオを「学校の一日」という短い動 画に編集し、そしてインタビューの媒介として用いる。 3) 資料の分析:各学校の書類、卒業アルバム、テキストブ ックを学校から入手し、追加の参考資料として具体的に考察 した。半構造インタビュー調査と質問紙調査を通して、ポー トディクソンタミル語小学校とデサジャイヤ中国語小学校 4) 質問紙調査:ポートディクソンタミル語小学校の D 校 長とデサジャイヤ中国語小学校の C 副校長にオンライン質 問紙調査のリンクを送り、彼らに依頼して学校内部の間で実 施した。ポートディクソンタミル語小学校の教師 32 人、デ サジャイヤ中国語小学校中国人学校の教師 17 人が質問紙調 査に答えた。質問紙調査は 3 つのパートに分かれている。 パート 1 は、民族に応じた教師間の教室管理に関する価値観 である。パート 2 は民族学校における文化的同化に関する意 見である。パート 3 は、回答者に関する個人情報である。 第二章では、本研究で分析の際に用いた、主な理論と概念 について考察を行った。まずは、トランブル(2007)の文化の 定義を考察した。彼女により、文化とは、日常生活の中で人 間のコミュニティを形成する価値観、信念、認知方法のシス テムである。文化の核は価値観により形成される。価値観は 行動の原則または基準である。認知方法は、言語や他のシン ボルシステムに従い、如何に認知的に人間社会を組織すると いうことを意味している。 次に、久冨善之(1996)の学校文化枠組み論の学校文化の 構成要素とそれらの関係について考察して、論述した。学校 文化は、主に四つの構成要素に分けられる。即ち、学校の制 度文化、教員文化、生徒文化と校風文化である。 また、社会学者のヘールト・ホフステッド(1991)(Geert Hofstede)の文化の次元論を紹介した。彼は、IBM で研究し ていた 1967 年から 1973 年にかけて 70 カ国の従業員から 得た様々なデータを分析したパターンを文化の次元 (Cultural Dimension)と名付け、5つの指数から文化測定 ができると提唱している。その五つの指標は以下の通りであ る。
1) 権力格差指数 (Power Distance Index)、 2) 個人主義指数(Individualism Index)
3) 男性らしさ指数(Masculinity Index)
4) 不確実性の回避指数(Uncertainty Avoidance Index) 5) 長期主義的傾向指数(Long Term Orientation).
最後に、Evertson and Weinstein(2011)による、教室管理と は教師が、学問的学習と社会的感情学習を支援し、容易にす る環境を作り出すために取る行動のことである。教室管理は 秩序ある環境を確立し維持することを目指すだけではなく、 学生の社会的、道徳的な成長を促進することも目的としてい る。つまり教師は生徒に社会的行動を強化し、道徳を伝達す ることの役割も大きい。Wursten and Jacobs(2013)教育の ノウハウは、社会の文化に非常に関連している。教師の立場 や役割、生徒の「正しい」行動に関する期待など、さまざま な意見がある。 第三章と第四章では、まずそれぞれの民族学校は如何にマ レーシアの国家教育システムに導入されることに着目して、 その歴史と発展を考察した。 そして、ポートディクソンタ ミル語小学校と デサジャイヤ中国語小学校を事例小学校と して、その二つの事例小学校の歴史や、学校の特徴、フィー ルドノートと教員らの自由形式質問紙の回答の解釈によっ て、文化的要素とその価値観を明らかにした。デサジャイヤ 中国語小学校について議論したトピックは学校の入り口、牌 坊(鳥居)、対聯(対句)、ビジョン、ミッション、モットー、 学校の記章、弟子规(Rules for disciples)、中国書道、 拿督公(マレーシア中華系の民間信仰)などである。 そし て、ポートディクソンタミル語小学校でについて議論したト ピックは学校の入り口、ビジョン、ミッション、タミル音楽、 宗教、ティルックラル、マハトマ・ガンディーの肖像 、ガネ ーシャ 、サラスヴァティー、制服である。 二つの学校で発見された文化的要素についての議論は、歴 史、市民運動、社会構造などを含む様々な観点に結び付いて いた。例えば、デサジャイヤ中国語小学校では、マレーシア の中国語学校での弟子規という孔子の教えを基に学生の生 活規範を編成した本の導入は、近年の中国における国学や中 国の伝統的な学習と文化の復活の影響を受けていた可能性 がある。拿督公は、中国人がマレー地方の神を崇拝し、最終 的にマレーの民俗宗教を彼ら自身の礼拝制度に採用された ことから始まる文化的プロセスの例である。学校の記章につ いては、マレーシア人が公平で公正な社会を求める声につい て議論した。学校モットーは、1934 年から 1949 年までの中 国(台湾)新生活運動に直結している。牌坊は中国の外の象 徴的な中国文化の例である。 一方、ポートディクソンタミル語小学校では、マハトマ・ ガンディーの肖像を壁に飾ることは、自分の民族の模範人物 を用いる重要性を示した。 ティルックラル哲学はインド系
マレーシア人とインド人の道徳的コンパスである。ティルッ クラルは 5 世紀から 6 世紀にかけて書かれた古代インドの 詩集である。タミル音楽の放送は、生徒たちが自分の民族文 化に晒される機会を増やした。教室の中のガネーシャ 、サ ラスヴァティーの肖像は学校の中で宗教教育の地位と重要 さを表した。 終章は、ポートディクソンタミル語小学校とデサジャイヤ 中国語小学校の文化的伝達の概要をいくつかの観点から比 較してみた。主に、久冨善之の学校文化枠組み論とヘールト・ ホフステッドの文化の次元論というフレームワークに基づ いて、分析と考察を行った。 比較分析 1)学校制度文化 国民型中国語小学校と国民型タミル語小学校という二つ の国民型学校の比較分析を通して、民族的の文化と価値観な どの伝達は主に三つの方法、即ち言語、道徳教育と課外活動 で行われていることが明らかになった。 一つ目は言語である。国民型小学校は母語教育を非常に強 調している。学校の教授言語はタミル語または中国語である。 国民型小学校の生徒は、タミルと中国語をコミュニケーショ ンの道具として勉強しているのではなく、文化的遺産の一部 分として、その言語の芸術と文学を勉強している。したがっ て、国民型小学校の生徒は、自分の民族の文化を受け取りや すくなり、そして民族文化に馴染むことがより容易になる。 また、同じ言語を母語として話す人と親密になり、民族帰属 感が心から生み出す。 次に、この二つの国民型小学校は政府が規定した同じ道徳 教育カリキュラムを採用している。同時に、隠れたカリキュ ラムの一部分として、自分の民族の古代の哲学者から伝承さ れた道徳価値観も生徒たちに教えている。例えば、中国語国 民型小学校の生徒は孔子の道徳価値観を勉強している、これ に対して、タミル語国民型小学校の生徒はティルックラル道 徳価値観を勉強している。第三の課外活動ではデサジャヤ中 国語国民型小学校は書道、将棋、二十四節令鼓、中国のディ アボロなどの中国芸術に力を注いている。一方、ポートディ クソンタミル語国民型小学校は宗教クラブを通して、宗教的 教育に着目している。 2) 校風文化 校風は、文化的雰囲気を作るには非常に重要な役割を果た している。何故かというと、校風は生徒が自分の民族文化を 学ぶことができる環境を整えるからである。学校制度文化の ように、校風文化は顕在的と潜在的に解釈することができる。 生徒たちが学校に入ると、彼らは校風を形成する要素、即ち 民族的文化に晒される。例えば、建物の設計、学校記章、モ ットーや装飾などである。これらの要素の背後の意味は潜在 的であり、教員たちさえそれを意識していないかもしれない。 3)教員文化 教員は文化伝達の中で、非常に重要な役割を果たしている。 国民型小学校で、違う民族背景を持っている言語の教員を除 き、ほとんどの教員は生徒と同じ民族である。彼らは確かに 「行動模範」として、彼らの行為と態度は、生徒たちの行為 と態度に大きく影響を与えている。しかしながら、筆者から 見れば、教員の役割は学校文化の「橋渡し」である。何故か というと、教員たち自身は学校の文化、先輩教員、地域文化 に大きく影響されているからである。したがって、この二つ の小学校の華人教員とタミル系教員は、彼らの生徒の民族ア イデンティティ形成に主な影響を与えていることが明らか になった。 結論 マレーシアの中国語小学校とタミル語小学校は中華系と タミル系という少数民族の民族文化を伝承する重要の媒介 である。マレーシアは 1957 年に独立した後、大きな課題の 一つは、いかに言語的な方面からマレーシアを定義すること である。同化と優遇政策を通じて、民族言語教育を抑制しよ うと政府が試みたにもかかわらず、中国語学校とタミル語学 校は母語教育と文化の伝承という二つの役割を維持してい る。本論文は、ケーススタディを通して、中華系とタミル系 のそれぞれ文化的要素と価値観を明らかにした。また、いか に文化を伝達しているかが分析を通して明らかになった。 中華系とタミル系の学校は、国家カリキュラムの下で、マ レーシア社会の文脈の中に、中華社会とタミル社会を作り出 し、マレーシア文化と民族文化を共存させている。デサジャ ヤ中国小学校とポートディクソンタミル語小学校という二 つの小学校は、生徒を民族的アイデンティティを培うのに重 要な役割を果たしている。ところが、これらの文化的要素と 価値観のすべてを次の世代に伝達することは難しい。文化の 変容と適応の過程を通して、文化は失われ、再想像され、再 創造される。したがって、マレーシアの文脈では、学校は確 かに「象徴的」な文化的要素を生徒、教員、或いは親たちに 提供した。これらの文化的要素の役割は、マレーシアの中華 系とタミル系に民族アイデンティティを与え、彼らの先祖の 根源を覚えさせる。 区画化されたシステムにおける中国系とタミル系の均質 な構造によって、ディアスポラの地位が反映されており、中 国系とタミル系のコミュニティは、彼らの民族アイデンティ ティと母国語に根ざしていると確認できた。しかし、その理 由は何であろう。母語教育の権利は連邦憲法に託されている が、少数民族は政府に対して、憲法権を尊重することには信 用を持たないと信じている。「根ざしていること」は、静か
な「抵抗」であるかもしれない。マイノリティの声は、この 国の多様な文化を守ることであった。多民族、多文化社会こ そがマレーシアを作るのである。 本研究の限界と今後の課題 本論文の主な限界は、結論の一般化の可能性が低いことで ある。国民型小学校の範囲内であっても、様々な種類がある。 例えば、都市学校と農村学校、異なる社会経済地位のコミュ ニティにある学校、政府の教育委員会とそのメンバーの変化 などの要因は、学校の差異をもたらす。したがって、本論文 のような民族学校の事例研究には、すべての同じ種類の民族 学校で見られる可能性の高い要素が含まれているが、その妥 当性を正当化するためには広範な研究が必要である。 第二に、ホフステッドの価値アンケートに関するデサジャ ヤ中国小学校から得た回答は、まだ不十分である。デサジャ イヤ中国語小学校では 3500 名の教員がいるが、アンケート 調査に回答した教員はわずか 12 人であった。副校長は中華 系の教員を代表する回答を選別した可能性が考えられる。一 方、ポートディクソンタミル語国民型小学校の質問紙調査の 回収状況はよかった。36 名の教員のなか、32 名の教員が質 問紙調査に回答した。 第三に、フィールドワークの期間は短すぎたかもしれない。 この制限は、観察の時撮った学校の風景、即ち授業やイベン トなどのビデオによって補足された。フィールドノートの大 部分は筆者の記憶、感覚と思想によって構成され、その空白 の部分は、ビデオの内容で埋めることができた。 第四に、自由形式質問に対する回答のほとんどは短く、説 明や解釈が不十分であった。また、フォローアップの解答を 得る手段がなかった。インタネットを活用した質問紙調査は、 遠隔で調査対象に回答してもらい、そしてオンラインで質問 紙を回収することができるというメリットがあるが、調査票 のリンクを配布する権利と回答者の責任と協力が必要であ る。 本論文は進行中の研究計画のごく小さい一部分である。こ の研究の目的は、三つの異なる学校の三つの異なる文化的価 値観の適合性と相違差を明らかにすることである。マレーシ アの小学校の事例研究は国民学校を含めるべきである。マレ ーシア小学校は、マレーシアアイデンティティを伝えるかど うかにかかわらず、将来の研究には、より大きいサンプル数 が必要である。 主要参考文献
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