様式8の1の1 別紙1
論文の内容の要旨
専攻名 システム創成工学専攻 氏 名 江口 逸夫
(2,000字程度とし,1行43文字で記入)
最近、機械や装置類の高出力・高効率化にともない、銅合金の使用環境は高温および高 負荷側にシフトしている。機器の大容量・小型・高集積化にともない、使用材料の小断面 積化が進み、従来から使用されてきた純銅系材料では強度・耐熱性とも耐えられず、合金 材料の重要度が増加している。高強度・高導電性で耐熱性に優れた析出強化型銅合金の 1
つである Cu-Cr-Zr 合金は、その優れた特性から産業機械、輸送機器および発電機器用材
料として様々な産業分野で活用されている。
一般に Cu-Cr および Cu-Cr-Zr 合金は溶体化処理と時効処理により所定の機械的性質や 導電率を得た状態のまま使用される。しかし、ダイバータや電動機のローター導体は組立 てられる過程でろう付けや HIP といった金属学的に接合する構造となっている。このた め、高強度・高導電性銅合金には常温での機械的性質のみならず析出強化処理後をも含め た耐熱性、あるいは組織の安定性の更なる向上が求められている。
Cu-Cr および Cu-Cr-Zr 系合金は析出強化型合金であり、現在まで広い範囲にわたって
研究されているが、主に析出物や析出挙動に関するものであり、耐熱性の評価は比較的低 温でのそれに留まっている。また組織の安定性としては析出物のみに限定されており、結 晶粒組織については検討されていないのが現状である。
本研究では、実用合金において強く要求されているより優れた耐熱性を得るために Ag 添加量を 0~1.2mass%まで変化させた Cu-Cr-Zr-Ag 合金において、比較的高温で復元中 における結晶粒成長指数に及ぼすAg濃度の影響を調査した。Ag添加により粒成長を抑制 するメカニズムを解析することを目的として、粒成長に及ぼす結晶方位や析出相体積率な どの影響について検討した。
第 1 章は序論として研究背景から一般的な析出強化型銅合金を紹介し、研究主題でもあ
るCu-Cr 系および Cu-Cr-Zr 系合金の耐熱性に関連する国内外の研究と再結晶後の粒成長
の理論や定量評価について述べた。
第 2章では析出強化された Cu-Cr-Zr-Ag合金の復元中における粒成長に及ぼす Ag 濃度 の影響について検討した。その結果、Cu-Cr-Zr-Ag 合金を 900℃で焼なました際の結晶粒 成長指数は Ag 濃度増加に伴い減尐し、0.27mass%で極小値に達した後、再び粒成長指数 が増加するという特徴的な変化を示した。
第 3 章では結晶粒成長過程における Cu-Cr-Zr 系合金の結晶方位および対応粒界に及ぼ す Ag 添加の影響について検討し、0mass%Ag 材(Base)と 1.2mass%Ag 材(120Ag)
の復元中の結晶方位と対応粒界を後方散乱電子線回折(EBSD)法により調べた。両材料 を比較すると、前者は粒成長時に自己類似性がなくなるのに対し後者は維持しており、
120Ag 材の方が粒成長を起こしにくい傾向が認められた。粒成長の速度は<111>、<001>、
<101>の順に高く、焼なまし前の集積が高い面が成長しやすいことが確認された。120Ag 材は焼なまし中に再結晶の進展に関わる対応粒界の割合が大きく減尐する傾向は見られな かった。
第 4章では異なる Ag濃度の Cu-Cr-Zr-Ag合金の復元中における結晶粒成長過程につい て検討した。焼なまし後の導電率測定結果から、Ag 濃度の増加以上に導電率が低下して いる現象について Cr 固溶量や析出相の体積率の変化について調べた。Cr 固溶量の定量方 法は Linde・Nordheim 則による導電率から Cr 固溶量を求める方法と SEM/EDS による Cr 固 溶 量 の 定 量 分 析を 行 っ た 。 そ の 結果 、Ag 濃 度 の 増 加 に 伴い Cr 固 溶 限 は 傾 き
0.1±0.028 で高濃度側へ移動したと示唆された。析出相の体積率は Ag 濃度増加にともな
い変化し、これから導かれる Base との相対的な結晶粒度変化にともなう粒界のピン止め 圧力の変化と溶質元素による引き摺り力が相乗効果によって粒成長指数が変化したと考え られた。
第 5 章では復元中における Cu-Cr-Zr-Ag 合金の焼なまし後の機械的性質に及ぼす Ag 添加量の影響について検討した。その結果、焼なまし後の機械的性質は Ag 濃度 増加に伴い高くなった。Ag 添加の効果は引張強さよりも 0.2%耐力に大きく認められ た。Cr析出物の体積率と焼なまし後の 0.2%耐力の関係から、Base 材、15Ag 材と比 較して、30Ag 材、60Ag 材および 120Ag 材では Cr 析出物の体積率あたりの焼なま
し後 0.2%耐力の上昇率が大きかった。また、析出強化処理後に 700ºC-3.6ks の熱処
理を施した際、Ag 濃度が 0.57mass%の場合、析出強化量は Base 材と比較して 23%
改善された。また、Ag 濃度が 1.13mass%では、固溶強化をも含めた強化量は Base 材よりも約 40%改善された。このことから、Cu-Cr-Zr 合金の機械的性質の耐熱性改 善には、Ag 添加が有効に作用することが確認された。
第6章は、結論として各章の結果をまとめたものである。
本研究が、高強度・高導電性銅合金の開発に一翼を担い、機械部品や電極材料、金型材 等の用途で広く実用製品に適用されることを期待するものである。