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し 現実には自民党は 55 年体制の下 派閥ごとに候補者を擁立し 時には分裂選挙を戦いながらも政権を維持し続けた その後 分裂選挙は 1994 年の選挙制度改革を機に消滅したかに思われたが 2010 年代に入って再び発生している 近年の分裂選挙は 福岡方式 と呼ばれているが 1 そもそもなぜ分裂選挙

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1 2018 年 2 月 中北浩爾ゼミナール ゼミ論文

自民党の分裂選挙―近年なぜ増加しているのか―

社会学部3 年 小林 裕紀(4115093u) 目次 はじめに 第1 章 分裂選挙の概要 第1 節 分裂選挙とは何か 第2 節 55 年体制下 第3 節 選挙制度改革以降 第2 章 近年の自民党の分裂選挙 第1 節 2014 年衆院選 福岡 1 区 第2 節 2016 年衆院補選 福岡 6 区 第3 節 2017 年衆院選 埼玉 11 区 第4 節 2017 年衆院選 山梨 2 区 第5 節 2017 年衆院選 岡山 3 区 第3 章 類型化と分析 第1 節 自民対無所属―郵政選挙型(1 型) 第2 節 新人対新人―後継争い型(2 型) 第3 節 自民対自民―派閥抗争型(3 型) 第4 節 分裂選挙の分析 おわりに はじめに 政治の世界には駆け引きが不可欠であるが、選挙戦略は最も重要な駆け引きの一つとい えるだろう。本論文では、選挙戦略の一つとして、衆議院議員総選挙における自民党の分裂 選挙について論じていく。 分裂選挙というのは同士討ちであり、常識的に考えれば非常に不合理な判断である。しか

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2 し、現実には自民党は55 年体制の下、派閥ごとに候補者を擁立し、時には分裂選挙を戦い ながらも政権を維持し続けた。その後、分裂選挙は1994 年の選挙制度改革を機に消滅した かに思われたが、2010 年代に入って再び発生している。近年の分裂選挙は「福岡方式」と 呼ばれているが1、そもそもなぜ分裂選挙は起こったのだろうか。それにはどのようなファ クターが関与しているのか。そして、その結果はどのように評価すべきなのか。これらの問 いを通じて、自民党の衆院選における分裂選挙の実態を明らかにする。 本論文では、まず第1 章で分裂選挙の概要について述べる。その際、55 年体制下での自 民党の戦略を明らかにし、その戦略が1994 年の選挙制度改革によってどのように変容した か分析する。第 2 章では、近年再びみられるようになった自民党の分裂選挙の事例を取り 上げる。その際、分裂選挙となった選挙区のこれまでの選挙結果も示し、分裂選挙へと至っ た経緯についても述べる。第3 章では、これらの事例について類型化し、一時は消滅したか に見えた分裂選挙が近年再び増加している理由を考察する。 第1 章 分裂選挙の概要 本章では、分裂選挙の概要について、まず定義づけをするとともに、55 年体制成立以降 から現在に至るまでの歴史を概説する。 第1 節 分裂選挙とは何か そもそも分裂選挙とは何であるか。明確な定義はないが、ここでは同一の選挙区において 同一政党の候補者が同士討ちの形で競合すること、として扱う。これには無所属で出馬した ものの、当選すれば追加公認されることが確定している場合も同一政党として含める。 第2 節 55 年体制下 55 年体制下の自民党は衆議院の中選挙区制の下、安定した長期政権を築き上げた。自民 党は、政権を維持するために各選挙区で派閥ごとに複数候補者の擁立を行ったが、そのため に候補者は同士討ちを迫られることになった2。したがって中選挙区制の下では分裂選挙が 恒常的に発生していた。そこで候補者は個人後援会を作り、それを維持するために派閥に頼 らざるを得なかった。しかし、これでは政党名による差別化が図れないため、有権者に対す るサービス合戦を招き、リクルート事件に代表されるように「政治とカネ」の問題が深刻化 した3。これを受けて 1994 年に選挙制度改革が行われ、小選挙区比例代表並立制が導入さ れた。 1 北見英城「『長崎氏復党』自民に波紋 2 区公認巡り堀内氏と調整必至」『朝日新聞』 2016 年 10 月 19 日(山梨版朝刊)25 面。 2 中北浩爾『自民党「一強」の実像』中公新書、2017 年、19-21 頁。 3 読売新聞政治部編著『基礎からわかる選挙制度改革』信山社、2014 年、60-61 頁。

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3 第3 節 選挙制度改革以降 前節で述べたように、選挙制度改革において小選挙区比例代表並立制が導入された。その 後の衆院選について、中北はこう述べている。 小選挙区比例代表並立制の導入後も10 年ほどは、候補者間の調整がつかず、一人 が小選挙区、もう一人が比例代表に単独で立候補し、次の選挙で入れ替わるコスタ リカ方式がかなり残っていた。しかし、コスタリカ方式の解消が進むと、候補者が 別々の派閥の支援を受けて公認を争うということが、めったになくなった。4 このように、派閥選挙の衰退とともに自民党の派閥間の公認争いは沈静化し、分裂選挙は数 を減らしていった。 しかし2014 年、衆院選福岡 1 区で 2 名の自民系候補者が無所属で出馬し、勝った方が追 加公認を得るという分裂選挙が発生すると、2016 年の衆院補選、2017 年の衆院選でも立て 続けに分裂選挙が生じた。一度は姿を消したと思われた衆院選での分裂選挙が再び発生し たのはなぜか。以下の章ではその理由について分析していく。 第2 章 近年の自民党の分裂選挙 本章では近年の衆議院選挙(補選を含む)で保守分裂選挙となった各選挙区について、そ の選挙結果を示すとともに、2005 年から 2017 年までの選挙結果をまとめた5。さらに、分 裂選挙に至る経緯と分裂選挙の結果がどのようなものであったかを述べる。また、有権者の 分裂選挙に対する評価の世論調査もデータがある場合は触れておく。 なお、「これまでの選挙結果」の「その他」の数値は非自民系候補の合計得票数を示し、 「相対的得票率」の数値は自民系候補の合計の得票率を示している。また、政党名は以下の 通り略称で表すことがある。 自…自民党 民…民主党 立…立憲民主党 希…希望の党 共…共産党 諸…諸派 無…無所属 第1 節 2014 年衆院選 福岡 1 区 4 中北、前掲書、28 頁。 5 総務省「衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果」 www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/data/shugiin/ichiran.html、2018 年 2 月 25 日参照。

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4 2014 年衆院選の結果 井上貴博(麻生派) 自民系無所属 59,712 前職(自民党) 山本剛正 民主党 42,960 新開裕司(古賀派) 自民系無所属 31,087 前職(自民党) 比江嶋俊和 共産党 18,906 金出公子 無所属 6,764 明石健太郎 (みらい党) 4,883 これまでの選挙結果 2005 2009 2012 2014 2017 井上貴博 96,706 59,712 97,777 新開裕司 31,087 遠藤宣彦 92,891 88,648 その他 118,550 145,240 103,400 73,513 101,091 野党候補 民/共 民/共/諸 み/民/共/無 民/共/無/諸 立/希/共 相対的得票率 0.439 0.379 0.483 0.553 0.492 2014 年衆院選福岡 1 区では麻生派の井上氏と古賀派(現・岸田派)の新開氏が争った。 両氏は2012 年衆院選でも公認を巡って争っており、その際は井上氏が小選挙区、新開氏が 比例区という党本部の決定がなされた。2014 年は新開氏も選挙区での立候補を主張して譲 らず、県連・党本部も決定を下せなかったことから分裂選挙に至り、選挙戦では麻生派・古 賀派による熾烈な代理戦争が展開された。 結果は井上氏が勝利した。本選挙区はもともと民主党の松本龍氏の地盤であり、2012 年 まで自民党候補の相対的得票率が5 割を切っているように、自民党の弱い地域である。2014 年は分裂選挙となったものの、野党候補の乱立に助けられ薄氷の勝利を手にした。 第2 節 2016 年衆院補選 福岡 6 区 2016 年衆院補選の結果 鳩山二郎 自民系無所属 106,531 新人 新井富美子 民進党 40,020 藏内謙 自民系無所属 22,253 新人 西原忠弘 (幸福実現党) 2,359 これまでの選挙結果

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5 2005 2009 2012 2014 2016 補 2017 鳩山二郎 106,531(無) 131,244(自) 鳩山邦夫 131,946(自) 138,327(自) 87,705(自) 116,413(自) 藏内謙 22,253(無) その他 121,499 123,910 123,272 45,357 42,379 66,719 野党候補 民/共 民/諸 民/維/無/共 共 民/幸 無/共/諸 相 対 的 得 票率 0.521 0.527 0.416 0.720 0.752 0.663 ※2016 年の「民」は民進党 福岡6 区の 2016 年衆院補選は自民党の鳩山邦夫氏の死去に伴って行われた。邦夫氏の次 男である鳩山二郎氏と県連会長の長男である藏内謙氏の後継者争いである。県連は藏内氏 を支援していた。 結果は鳩山氏の圧勝である。本選挙区は相対的得票率は高くないものの、邦夫氏が長年議 席を守り続けた選挙区である。2016 年も自民系無所属候補の合計の相対的得票率は 7 割を 超えており、自民党が完勝を収めた。 なお、朝日新聞の調査によると6、分裂選挙に至ったことについて、自民支持層の39%が 「よくなかった」と答え、「よかった」の29%を上回った。公明支持層も同様に「よくなか った」が上回った。一方、無党派層は「よかった」が34%、「よくなかった」が 21%と逆転 している。 第3 節 2017 年衆院選 埼玉 11 区 2017 年衆院選の結果 小泉龍司(二階派) 自民系無所属 88,290 前職(無所属) 今野智博(細田派) 自民系無所属 50,046 前職(自民党) 三角創太 希望の党 27,387 柴岡祐真 共産党 24,624 これまでの選挙結果 2005 2009 2012 2014 2017 小泉龍司 93,008(無) 171,000(無) 118,916(無) 100,636(無) 88,290(無) 今野智博 55,288(自) 53,276(自) 50,046(無) 6 「自民分裂、評価割れる 衆院 6 区補選、朝日新聞社世論調査」『朝日新聞』2016 年 10 月19 日(福岡版朝刊)25 面。

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6 新井悦二 97,928(自) 62,034(自) その他 53,029 8,948 22,334 27,904 52,011 野党候補 民・共 諸 共 共 希・共 相対的得票率 0.783 0.963 0.886 0.847 0.727 2017 年衆院選埼玉 11 区では二階派の小泉龍司氏と細田派の今野智博氏が争った。今回 の分裂選挙の発端となったのは、2005 年の郵政選挙である。郵政民営化に反対した小泉氏 に対し、新井氏が刺客として送り込まれた。その後小泉氏は自民党を離党したが、自民党候 補に4 連勝する。一方今野氏は長崎氏に 3 連敗し、いずれも比例復活を遂げていた。2017 年の衆院選を前に小泉氏が党籍を回復したため、自民党本部は勝った候補者を追加公認す るとして分裂選挙に至った。なお、県連は今野氏を独自に支援していた。 結果は小泉氏が大差で今野氏を破った。埼玉 11 区は自民系候補が強く、2017 年も相対 的得票率が7 割を超える盤石の勝利といえる。 第4 節 2017 年衆院選 山梨 2 区 2017 年衆院選の結果 堀内詔子(岸田派) 自民系無所属 70,532 前職(自民党) 長崎幸太郎(二階派) 自民系無所属 67,434 前職(無所属) 小林弘幸 立憲民主党 22,684 井桁亮 希望の党 9,719 大久保令子 共産党 5,414 これまでの選挙結果 2005 2009 2012 2014 2017 堀内詔子 55,012 68,109 70,532 堀内光雄 63,758 52,773 長崎幸太郎 62,821 57,213 62,135 85,117 67,434 その他 41,043 68,082 36,458 14,578 37,817 野党候補 民・共 民・諸 民・共 共 立・希・共 相対的得票率 0.755 0.618 0.763 0.913 0.785 2017 年衆院選山梨 2 区では堀内氏と長崎氏が争った。これも発端は郵政選挙である。詔 子氏の義父である光雄氏は郵政民営化に反対し、2005 年衆院選で刺客として長崎氏を送り 込まれた。しかし長崎氏を破った堀内氏は翌年に復党し、代わって長崎氏が党を離れた。そ

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7 の後長崎氏は光雄氏と後継の詔子氏に3 連勝する(詔子氏はいずれも比例復活)。その後長 崎氏が復党を認められたことにより分裂選挙となった。 結果は堀内氏が僅差で勝利した。もともと自民系候補が強い選挙区ではあったが、2017 年も候補者の乱立にも関わらず相対的得票率は8 割に迫り、自民党の完勝である。 第5 節 2017 年衆院選 岡山 3 区 2017 年衆院選の結果 阿部俊子 自民系無所属 59,488 前職(自民党) 平沼正二郎 自民系無所属 55,947 新人 内山晃 希望の党 21,970 尾﨑宏子 共産党 15,424 これまでの選挙結果 2005 2009 2012 2014 2017 阿部俊子 59,303 52,626 53,986 57,647 59,488 平沼正二郎 55,947 平沼赳夫 99,931 95,871 73,752 73,852 その他 44,822 57,206 36,999 18,654 37,394 野党候補 民・共 民・諸 民・共 共 希・共 相対的得票率 0.780 0.722 0.775 0.876 0.755 2017 年衆院選岡山 3 区では阿部氏と平沼氏が争った。これも発端は郵政選挙である。郵 政民営化に反対した赳夫氏に対し、刺客として送り込まれたのが阿部氏であった。しかし阿 部氏は赳夫氏に4 連敗し、いずれも比例復活を果たしてきた。赳夫氏は 15 年に自民党に復 党したため、後継の正二郎氏と阿部氏が争う構図となった。 結果は阿部氏が僅差で勝利。相対的得票率は約75%であり、2017 年も自民党にとっては 完勝であった。 第3 章 類型化と分析 本章では、第2 章で取り上げた選挙区について、類型化を行う。類型化に当たっては、分 裂選挙となった選挙の前回選挙での候補者の所属から分類を行った。さらに、類型ごとに分 裂選挙の発端、派閥の関与、分裂選挙という選挙戦略は成功だったのかなど、特徴を挙げて いく。最後にこの議論を踏まえて、近年の自民党の分裂選挙を分析する。

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8 第1 節 自民対無所属―郵政選挙型(1 型) 一つ目は、自民対無所属の構図から保守分裂選挙へと変化したものである。埼玉11 区・ 山梨2 区・岡山 3 区がこれに該当する。この 3 つの選挙区では、いずれも郵政選挙が発端 となっている。さらに、郵政選挙後の保守分裂状態において、自民党の公認候補が対抗する 自民系候補に連敗している点でも共通している。党本部は負け続ける公認候補に対する警 告として、分裂選挙を行う意図もあったものと考えられる。 この類型の分裂選挙は、いずれも自民党が強固な地盤を持つ地域で行われたものであり、 党本部は分裂選挙に陥っても勝算があると判断し、戦略的に行われたと考えることができ る。実際に、これらの選挙区では希望の党・立憲民主党の参入にもかかわらず両候補の合計 の得票はあまり減っておらず、分裂選挙という選挙戦略は成功を収めている。このような点 は1 型の 3 つのケースで共通している。 この類型では、分裂選挙に至る過程について、さらに二つに分類することができる。まず、 これまで選挙で勝ち続けたものの、公認を得られなかった二階派の候補が二階幹事長の主 導により選挙直前に復党し、分裂選挙に至ったパターンである(1-1 型)。これには埼玉 11 区・山梨 2 区が該当する。次に、自民党を離党していた前職が前回選挙の後に自民党に復 党、さらに引退したことで分裂選挙に至ったパターンである(1-2 型)。これには岡山 3 区 が該当する。 1-1 型と 1-2 型の相違は、以下のとおりである。1-1 型ではいずれも二階氏に絡んだ派閥 対立が発生している。すなわち、党本部が県連の推薦する候補を公認せず、分裂選挙を主導 している。県連はこのような二階氏の強引な手法に反発し、選挙を通じて党本部と県連の関 係が悪化している。反対に、1-2 型は自民系無所属候補のうち 1 人が新人であるため、派閥 の対立構造は存在しない。さらに、県連が党本部に候補者の調整を丸投げしているため、選 挙を通じて関係に変化はない。 第2 節 新人対新人―後継争い型(2 型) 二つ目は、議席を持っていた前職の死去にともない、後継争いが発生したという類型であ る。福岡6 区がこれに該当する。この事例には世襲が大きく絡んでおり、他の類型に比べる と個人的な要因が大きい。 この事例に対する評価は、成功とも失敗とも言い難い。結果自体は民進党の候補者擁立に もかかわらず相対的得票率を伸ばしており、成功と言えそうである。しかし、これが戦略的 に行われたものとは考えづらい。福岡 6 区は鳩山邦夫氏が長らく議席を維持していたが、 相対的得票率では 5 割を切ることも多かった。そのような状況下で後継者を巡って分裂選 挙を戦うということはリスクが大きく、戦略的というより調整の失敗の結果であったとい えそうである。 また、自民・公明支持層の支持層が圧勝にもかかわらず分裂選挙を「よくなかった」と評

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9 価していることも重要である。党の決定は一時的には成功を収めたとしても、支持者の対立 を招く分裂選挙は望ましいものではないだろう。 第3 節 自民対自民―派閥抗争型(3 型) 最後は福岡 1 区にみられるような、自民党前職同士の争いとなった類型である。この類 型では、比例区選出議員が選挙区への立候補を強く主張したことを発端とする。これほど強 く選挙区への立候補を主張するのは、比例選出議員が選挙区選出の議員に対して格下に見 られる傾向があるためである7。両候補者が自民党前職で派閥に属している場合、両派閥は 自派閥の候補を選挙区に擁立しようと対立が激化する。今回の事例でも派閥対立が激化し た結果、代理戦争となり県連・党本部ともに判断できなくなってしまった。中選挙区制時代 の分裂選挙も派閥の代理戦争が主であったが、この事例ではそれに加えて選挙区選出議員 と比例区選出議員の「格」の違いが背景に存在する。中選挙区制時代の分裂選挙が形を変え て復活したものといえそうである。なお、第1 章で引用したように、このような場合にはこ れまでコスタリカ方式がとられることが多かった。分裂選挙(福岡方式)はこのような事例 における新たな戦略といえる。 福岡 1 区は自民党の地盤とはいえず、本来であれば分裂選挙に突入することは利敵行為 である。それでも党本部が分裂選挙を選択せざるを得ない状況だったということであり、こ の類型は候補者調整の失敗の結果とみることができる。したがって、結果的には勝利したも のの、戦略的には成功したとは言えない。 第4 節 分裂選挙の分析 まずは簡単に本章のこれまでの議論を振り返る。本章では分裂選挙となった選挙区の前 回選挙における構図で類型化した。その結果、前回選挙の構図と分裂選挙を生み出した要因 は一致することがわかった。 選挙結果については、分裂選挙となった選挙区が自民党の地盤であるかが大きく関係し ている。自民党が強固な地盤を持つ 1 型の分裂選挙ではいずれも分裂選挙に陥りながらも 安定した勝利を収めた。これらの選挙区ほどではないが、前職が長らく議席を守ってきた福 岡6 区(2 型)は、結果的には成功を収めたものの、戦略的に成功したとは言い切れない。 一方、福岡1 区(3 型)は自民党の地盤とはいえず、結果的には勝利を手にしたものの、戦 略的には失敗に近い。 派閥間の抗争については、分裂選挙を戦った自民系無所属候補に新人が含まれているか 否かによって決定される。これは分裂選挙の原因と強く関係しているため、類型ごとに特徴 が分かれる。まず、新人が候補者となった場合は派閥に属していないため、派閥間抗争は起 こりえない(1-2 型・2 型)。一方で、両候補ともに前職である場合は必ず派閥間の対立が引 き起こされていた(1-1 型・3 型)。 7 加藤秀治郎『日本の選挙』中公新書、2003 年、177 頁。

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10 県連との関係性、すなわちいかなる場合に党本部が県連の決定を覆すのか、という点につ いては個別の事情によると考えられる。1-1 型、2 型ではいずれも県連の意向に反して分裂 選挙となったが、これらの事例ではいずれも県連は独自に一方の候補者を支援しており、党 本部との関係は悪化した。一方で、その他の事例では県連が公認の判断を党本部に一任して おり、関係の悪化はみられない。この結果からは県連との関係性を決定づけるファクターは 見当たらず、県連との関係性は、地域に固有の事情によるものであろう。 これまで党本部の立場から選挙結果を評価してきたが、有権者の評価も重要である。福岡 6 区では、分裂選挙となったことについて批判的にとらえる自民・公明支持層が多い。した がって、党本部にとって望ましい選挙結果であった場合でも、支持者は分裂選挙となったこ とを評価するとは限らない。この結果から、自民・公明支持層は選択肢が増えることよりも 支持者の一体性を重視していると考えられる。一方で無党派層は分裂選挙を肯定的にとら える人が多い。したがって、無党派層は選択肢が増加したためによかったと判断していると いうことが考えられる。ただし、他の選挙区では分裂選挙となったことへの評価を問う世論 調査が存在しないため、他の類型では有権者の評価も異なったものになる可能性がある。 さて、本論文のテーマは「なぜ近年自民党の分裂選挙が増加しているのか」ということで あった。本論文で述べてきたように、近年の分裂選挙には3 つの主な類型がある。まず、1 型の郵政選挙型である。この類型は郵政選挙の後遺症ともいうべきものであり、潜在的に分 裂選挙が生じやすい状況であったのが顕在化したものといえる。その引き金を引いたのが 二階幹事長の存在や、平沼赳夫氏の復党と引退といった偶発的な事情である。2 型について は、後継争いという原因は個人の属性に大きく左右されるから、今回はたまたま分裂選挙に 至ったものと考えられる。3 型は小選挙区制時代に特有の分裂選挙の形態である。選挙区選 出議員と比例区選出議員の対立は常に存在しており、構造的な要因といえるだろう。 つまり、1 型については郵政選挙の影響が残存し、引き金となった事情が偶然存在したた めに近年増加した。また、2 型は選挙区・候補者に特有の原因によって偶然引き起こされた。 これに対して、3 型は構造的な要因である。したがって、「なぜ近年自民党の分裂選挙が増 加しているのか」という問いに対しては、小選挙区比例代表並立制の構造的な要因に加えて、 一部の選挙区では郵政選挙の影響が残っており、さらに偶然が重なったため、というのが本 論文の結論である。 おわりに 本稿では、近年立て続けに発生した分裂選挙について、類型化とその分析を行った。ただ し、近年分裂選挙の事例は増えているものの、今回分析の対象としたのは5 件に過ぎない。 そのため分析の精度に限界があったという点は否めない。今後分裂選挙のケースが増える にしたがって、より精度の高い分析や、新たな類型も生じてくるであろう。 また、今回はデータ不足のため福岡 6 区の事例しか取り上げられなかったが、支持者の

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11 分裂選挙に対する評価も興味深い。この調査からは、有権者は必ずしも選挙における勝敗の みを評価しているのではなく、支持者の一体性といったつながりも求めているのではない かと考えられる。政治は選挙結果などの「数字」で語られがちであるが、実際の政治はこの ように人間同士の関わり合いに根ざしているということに改めて気づかされる。 今回扱った分裂選挙は、政党がとる選挙戦略のひとつに過ぎない。多様な選挙戦略が選挙 制度とのかかわりの中でどのように選択されているのか、興味は尽きない。 【参考文献・資料一覧】 書籍 浅川博忠『自民党幹事長というお仕事』亜紀書房、2002 年。 加藤秀治郎『日本の選挙』中公新書、2003 年。 中北浩爾『自民党―「一強」の実像』中公新書、2017 年。 読売新聞政治部編著『基礎からわかる選挙制度改革』信山社、2014 年。 新聞記事 「各党準備、急ピッチ 自民、11区は『分裂』」『朝日新聞』2005 年 8 月 12 日(埼玉版朝 刊)31 面。 「激戦区ルポ:中 岡山3区」『朝日新聞』2005 年 09 月 08 日(岡山版朝刊)24 面。 「自民党に離党届、再起へ先手? 『造反』小泉氏『けじめつける』」『朝日新聞』2005 年 10 月 20 日(埼玉版朝刊)31 面。 連勝一郎、中村純「小泉氏に民主接触 郵政造反→落選→自民離党 衆院11区」『朝日新 聞』2006 年 8 月 17 日(埼玉版朝刊)29 面。 「『郵政』の余波やまず 衆院選 予想される顔ぶれと情勢」『朝日新聞』2008 年 1 月 3 日 (朝刊))17 面。 「自民公認に堀内氏 長崎氏『筋通っていない』」『朝日新聞』2008 年 06 月 17 日(埼玉版 朝刊)27 面。 「長崎議員、自民を離党」『朝日新聞』2009 年 07 月 14 日(朝刊)4 面。 「前回『刺客』の優遇減 自民の比例名簿、一律1位が増」『朝日新聞』(朝刊)4面。 上田雅文「小泉元首相11区入り 郵政の風景、様変わり」『朝日新聞』2009 年 8 月 24 日 (埼玉版朝刊)37 面。 「無所属・小泉氏の自民会派入りが支部長選びに影響 衆院11区」『朝日新聞』2011 年 12 月13 日(埼玉版朝刊)31 面。 「公認決着『安倍裁定』 自民福岡1区、地元は不満も」『朝日新聞』2012 年 11 月 30 日 (西部本社版朝刊)38 面。 「衆院選候補者紹介 3区」『朝日新聞』2012 年 12 月 08 日(岡山版朝刊)35 面。

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12 「松本龍元復興相、次期選は不出馬」『朝日新聞』2014 年 10 月 21 日(西部本社版朝刊) 31 面。 「小選挙区の構図・3区 民主見送り3氏対決に」『朝日新聞』2014 年 11 月 28 日(岡山 版朝刊)27 面。 岩波精、野口陽「自民、2前職を公認せず 衆院選、1区は分裂選挙へ 無所属出馬」『朝 日新聞』2014 年 12 月 02 日(福岡版朝刊)29 面。 岩波精「『福岡1区・代理戦争』過熱 麻生氏と古賀氏 分裂自民、『大物』続々応援」『朝 日新聞』2014 年 12 月 11 日(朝刊)36 面。 「無所属候補に当選確実、直後に自民が公認発表 福岡1区」『朝日新聞』2014 年 12 月 16 日(朝刊)4 面。 「鳩山邦夫元総務相、死去」『朝日新聞』2016 年 06 月 23 日(朝刊)34 面。 磯部佳孝、倉富竜太「福岡6区、保守分裂へ 自民、当選後に公認 衆院補選」『朝日新聞』 2016 年 10 月 01 日(西部本社版朝刊)34 面。 「自民離党の2氏復党へ」『朝日新聞』2016 年 10 月 8 日(朝刊)4 面。 「離党2氏の復党、自民内に反対論 二階氏主導に不満」『朝日新聞』2016 年 10 月 14 日 (朝刊)4 面。 「自民分裂、評価割れる 衆院6 区補選、朝日新聞社世論調査」『朝日新聞』2016 年 10 月 19 日(福岡版朝刊)25 面。 北見英城「『長崎氏復党』自民に波紋 2区公認巡り堀内氏と調整必至」『朝日新聞』2016 年10 月 19 日(山梨版朝刊)25 面。 倉富竜太、岡村夏樹「公認見送り、鳩山氏勢い」2016 年 10 月 26 日(福岡版朝刊)27 面。 「自民へ復党続々、二階幹事長主導 郵政選しこりにケリ」『朝日新聞』2016 年 11 月 12 日 (朝刊)4 面。 上田雅文「復党・会派入り、地方異議 自民の8都県連、決定尊重要求へ」『朝日新聞』2016 年11 月 22 日(朝刊)4 面。 二階堂勇、明楽麻子「二階派拡張の余波、自民内に公認争い」『朝日新聞』2017 年 9 月 25 日(朝刊)4 面。 村上友里「3区の公認調整『党本部に一任』 自民県連、衆院選へ会議」『朝日新聞』2017 年09 月 26 日(岡山版朝刊)26 面。 黒石直樹「自民、2区公認せず 長崎氏が復党・堀内氏を推薦」『朝日新聞』2017 年 10 月 05 日(山梨版朝刊)19 面。 金子智彦、高山顕治「11区自民、分裂選挙に 今野氏推薦、小泉氏復党」『朝日新聞』2017 年10 月 5 日(埼玉版朝刊)23 面。 寺本大蔵「衆院選、当選した候補を追加公認へ 自民、埼玉11区・山梨2区で」『朝日新 聞』2017 年 10 月 5 日(朝刊)4 面。 松尾俊二、国米あなんだ「自民の看板懸け分裂選挙 平沼氏次男VS.かつての『刺客』 衆

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13 院岡山3区」『朝日新聞』2017 年 10 月 13 日(大阪本社版夕刊)11 面。 高山顕治「分裂自民『郵政』の禍根 山梨2区、埼玉11区」『朝日新聞』2017 年 10 月 18 日(夕刊)11 面。 黒石直樹「『崖っぷち』危機感で奮起」『朝日新聞』2017 年 10 月 25 日(山梨版朝刊)29 面。 WEB 総務省「衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果」 www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/data/shugiin/ichiran.html、2018 年 2 月 25 日参照。

参照

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