要 旨
インターネットビジネスにおいては、顧客の再購買意向をいかに継続させるかが持続的競 争優位を保つ上で大きな影響力を持つ。そこで必要となるのが、価値提案における他社との 差別化である。本稿では、日本で提供されている有料動画配信ビジネス、Hulu とニコニコ 動画を対象とし、インターネット特有の差別化要因がいかに消費者に認識されているかを確 認するため、質問紙調査による分析と事例による例証を行った。その結果、「製品力」、サイ トの見やすさや消費者間の交流といった「オンライン特徴要因」が認識されていることを明 らかにした。さらに、2 つの有料動画配信ビジネスにおける消費者の差別化要因に対する認 識の差の検定を行い、「チェーン機能」と「コミュニティ機能」に有意の差があることを確 認した。事例研究による例証も行い、この 2 つのネット特徴要因による差別化は企業が意識 的に提供している価値提案と合致することを明らかにした。
1.はじめに
本稿は、日本における有料動画配信サイト、Hulu とニコニコ動画を対象とし、ふたつの サイトにおけるインターネットビジネスに特徴的な要因が差別化として消費者にいかに認識 されているかを明らかにした上で、企業が提供している差別化としての価値提案と合致する かを確認するものである。
インターネットによる新たなビジネスは、消費者の購買活動における「時間と場所の制約 を取り除いた」(Wind and Mahajan, 2001)。特に国内で 2000 年代に入り普及を加速させて いるブロードバンドは、インターネットを介した大容量データの即時流通を可能とした。そ れに伴い音楽ソフト、書籍データ、ゲーム、動画といったコンテンツを配信する B2C のプ ラットフォームビジネスが世界中で複数立ち上がっている。インターネットビジネスは「果 てしない新たな富を生み出し」、結果として「いまだかつてないやり方で伝統的なビジネス の形態を変えている」(Amit and Zott, 2001)。ひとつの事例として、米国で 1999 年に開業
有料動画配信ビジネスにおける
インターネット特有の差別化要因に関する考察
富樫 佳織
─ 2 つのサイトの因子分析比較と事例による例証 ─
した Netflix がある。Netflix は月極定額でネット予約したレンタル DVD を宅配で届けるサー ビスだったが、2007 年に有料動画配信ビジネスへと業態を変えた。この 2007 年以来、ユー ザーは増加を続け、現在は世界で 8,100 万人の会員(1)を保持している。Netflix が会員規模 を拡大し続けた背景には、インターネットがもたらしたビジネスモデルの変化がある。従来、
動画ビジネスはコンテンツそのものが価値提案であり、放送局や映画スタジオが独自の企画 性とノウハウで商材の差別化を行っていた。しかし Netflix に代表される有料動画配信ビジ ネスでは、映画やドラマはコンテンツプロバイダーから配信権のみを調達するもので、商材 としてのコンテンツ製作を本業としない(2)。この点において、有料動画配信ビジネス業界 は複数のプレイヤーが同じコンテンツプロバイダーから全く同じコンテンツを調達して品揃 えする現象が起こる。Netflix はコンテンツのみでの差別化が困難な中で、顧客の視聴履歴 データ(監督、主演俳優、ストーリーのジャンル等)を独自のアルゴリズムエンジンで解析 し、顧客の好みの作品をレコメンデーションとして情報提供し再視聴を促している。同社が 順調に有料会員数と売り上げを伸ばし続けている背景には、コンテンツ以外の価値提案によ る差別化が存在する。
Kotler(2001)は差別化を「自社の提供物を競合他社の提供物と識別するために、一連の 意味のある違いをデザインすること」と定義した上で、「企業は自社の提供物を差別化する よう努めるべきである」と述べている。さらに、Porter and Millar(1985)が「情報技術 は差別化戦略を支持するための価値」と論じたように、動画配信ビジネスの登場は同業間で の競争だけではなく、従来の放送や映画業界でコンテンツ製作から提供までが垂直統合され たバリューチェーンの変化を結果としてもたらす要因となった。インターネットは、動画を 視聴する顧客を時と場所の制約から解放した。Netflix の登場により米国の CATV 契約数は 激減し、大手レンタル DVD 店舗チェーンは廃業に追い込まれたと言われている。
我が国でも 2014 年以降、放送局が自社サイトで番組の見逃し配信を提供し始めた。日本 テレビホールディングスは米国の有料動画配信プラットフォームである Hulu の日本国内経 営権を獲得した。翌 2015 年には、Netflix、Amazon プライムビデオが日本でのサービスを 開始し、有料動画配信ビジネスは現在、かつての米国と同じ多数の競合が同じ作品を品揃え し乱戦する状態にある。こうした背景から、日本の有料動画配信ビジネスが持続的な競争優 位を保つためにはコンテンツに限らない差別化が必要であると考えた。コンテンツに限らな
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(1) Netflix IR Overview「Q1 Letter to Shareholders」を参照。http://files.shareholder.com/downloads/
NFLX/319905177x0x886428/5FB5A3DF-F23A-4BB1-AC37-583BAEF2A1EE/Q116LettertoShare holders̲W̲TABLES̲.pdf(確認日:2016 年 5 月 28 日)
(2) 米国 Netflix では 2013 年に独自のドラマ「The House of Cards」を製作し、現在はコンテンツプロバイダー も兼業している。本稿では有料動画配信ビジネスをスタートさせた 2007 年から 2012 年までのビジネ スモデルにおける価値提案のみを述べている。
い差別化要因の影響力については、根来・門脇(2003)が B2C の「検索サイト」「書店サ イト」「ニュースサイト」「ショッピングモール」「ホテル・旅行仲介サイト」「銀行サイト」
を対象に、顧客の選好を「非ネット特徴要因」と、ネットにおける差別化の認識に基づいて
「先行者メリット関連要因」、「クリック&モルタル関連要因」、「ネット起因要因」に分類し、
該当サイトを「利用している理由」「利用している付随要因」について質問紙による調査を 行っている。
その結果、「利用している理由」については、銀行のみ、インターネットの特徴に起因す る要因である「利用時間の自由」が回答数の 1 位に選ばれているももの、他の 5 ジャンル において回答数が上位となった要因としては全て製品力(非ネット特徴要因)のひとつであ る「商品種類の豊富さ」が選ばれている。また「利用している付随要因」では、銀行を除い た 5 ジャンルにおいて「情報の豊富さや新しさ」(オンライン体験要因)が 1 位となっている。
先行研究では、消費者はインターネットビジネスの利用においてもリアル店舗での購買と同 様に製品力に対して魅力を感じているが、付随する要因として常に豊富な情報提供も購買の 決め手として求められる傾向があることを明らかにした。
本稿の目的は、この先行研究で論じられたネット特徴要因の差別化影響力が、日本で本格 的にサービスの提供が始まった有料動画配信ビジネスを利用するユーザーにいかに認識され ているかを明らかにすることである。対象は、日本の有料動画配信サイトの中でも 100 万 人以上のユーザーを保持する 2 つのサイト、Hulu とニコニコ動画・ニコニコチャンネルと する。具体的には、
(1) 実際に有料動画配信サイトを利用しているユーザーを対象とした質問紙調査による分 析を行い、Hulu、ニコニコ動画・ニコニコチャンネルのユーザーが利用の理由におい てどのような差別化を認識しているかを確認する。
(2) 分析により確認された差別化要因について、Hulu とニコニコ動画・ニコニコチャンネ ルで認識された要因にどのような差があるかを確認する。
(3) 確認された差別化要因の差について、企業へのインタビュー、企業ホームページ上で 公開されている情報等を調査し、企業が差別化と認識し提供しているサービスについ て事例研究による例証を行う。これらの調査から、国内でサービス提供されている 2 つのサイト、Hulu とニコニコ動画について、ネット特徴要因に対するユーザーの認識 と企業が意識的に提供する差別化が合致しているかを確認する。
本稿は 7 節から構成されている。第 2 節においては、本研究の対象についてまとめ、第 3 節では、インターネットビジネスの差別化に関する先行研究レビューを行う。第 4 節におい ては、調査の概要と方法を整理する。第 5 節においては、質問紙調査の分析結果を述べた上 で、事例研究による例証を行う。第 6 節においては分析と事例研究の結果についての考察を 論じ、第 7 節で結論と本稿の限界を示すとともに今後の研究の方向性を示す。
有料動画配信ビジネスの差別化要因とその影響力に関する研究は国内ではまだそれほど多 くない。よって本研究は、学術および実務の双方に貢献し得る。
2.研究の対象
本稿で分析の対象とする市場は「有料動画配信ビジネス」とする。
我が国の動画配信ビジネスにおける定点的な調査をまとめた『動画配信ビジネス調査報告 書 2014』では「動画配信サービス」を以下のように定義している。
「動画配信」は PC やスマートフォン、タブレットなどを視聴端末とし、ドラマや映画、
アニメといったコンテンツプロバイダーが提供する動画作品をユーザーが任意のタイミ ングで視聴できるオンデマンド型のサービスを指す(3)。
本稿ではこの定義に加え、「動画共有と動画配信の 2 要素を持っているサイト(ニコニコ 動画)」「有料での配信であること」を加えたプレイヤーから構成される市場を分析の対象と し「有料動画配信ビジネス」とする。その上で、有料動画配信を提供する企業のサイトを「有 料動画配信サイト」とし、有料動画配信サイトを通じて顧客に提供される動画の配信、レコ メンデーションやレビューの提供等を「有料動画配信サイトが提供するサービス」とする。
有料動画配信のプレイヤーとして本稿が定義する企業の業態と収益モデルの分類を表 1 に 示す。
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(3) 甲斐(2014)『動画配信ビジネス調査報告書 2014』p21 を引用。
表 1 日本国内の有料動画配信ビジネスの企業業態と収益モデル分類
業態区分 サービス名 収益モデル
専業事業 Hulu、Netflix 有料定額モデル
レンタルビデオ TSUTAYA TV GEO 動画
有料定額モデル(TSUTAYA TV)
有料定額モデルと課金モデルの併用(GEO 動画)
通信会社
dTV au ビデオパス UULA
有料定額モデル
プラットフォーム事業 Amazon 有料定額モデル(但しプライム会員サービスに含まれる
ため実質無料)
コンテンツ事業 BANDAI CHANNEL 有料定額モデル
動画共有事業 ニコニコ動画 広告収入モデルと有料定額モデルの併用
(出所)甲斐(2014)『動画配信ビジネス調査報告書 2014』P82-164 を参照し筆者作成
本稿ではこれらプレイヤーの中から、専業の有料定額モデルの動画配信サイトである Hulu と、広告収入モデルと有料定額モデルの併用をしているニコニコ動画・ニコニコチャ ンネルとの比較を行う。このふたつを比較する理由は、いずれも 100 万人を超える大規模 なユーザーを維持し、競合するプレイヤーの中でも多くの消費者に認知されていると言うこ とができるからである(4)。Hulu の会員数は 2016 年 3 月末時点で 130 万人(5)、ニコニコ動 画の有料会員であるプレミアム会員は 2015 年 8 月時点で 250 万人を突破している(6)。
3.先行研究
3.1 インターネットビジネスにおける差別化による顧客の維持
Tsai and Huang(2007)は「e ビジネスにおいて顧客の維持は競争上の優位を保つ」とし、
多数の先行研究がインターネットビジネスを利用する顧客の維持について論じてきた(Khalifa and Liu, 2007、Tsai and Huang, 2007、Yoon, 2002)。インターネットビジネスでは「顧客 の乗り換えを引き伸ばすことができれば、ロイヤルカスタマーとしての関係性が生まれ収益 性につながる」(Srinivasan et al., 2002)ため、差別化影響力となるネット特徴要因を明ら かにすることは収益維持に大きく貢献する。
Wind and Mahajan(2001)が論じたインターネットの「時間と場所の制限を取り除く」
利便性は伝統的な店舗とネット店舗間では大きな差別化となるが、インターネットビジネス 間の競争においては、それだけで差別化とならない。インターネットビジネスでは特に「差 別化は複数の面で行われるのがよい」(Porter, 1980)とされ、多くの EC サイトが顧客を 維持するため製品と購入の取引以外で複数の差別化を行っている。
前章で述べた Netflix のレコメンデーションサービスは従来の DVD レンタルショップで は提供されていなかった新たな価値提供である。本来、顧客の目的は「見たい動画を視聴す ること」で完了する。だが、顧客の視聴データを元に提供されるレコメンデーションサービ スは、目当てのコンテンツを観終わった後「次の作品を探す手間を省く」という価値を提供 し継続的なサイトの利用を促している。
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(4) 株式会社 NTT ドコモが運営する dTV は 2016 年 3 月末時点で契約数が 489 万件を突破し国内最大規模 だが、(NTT ドコモ「報道資料 2016 年 3 月 22 日発行」を参照。https://www.nttdocomo.co.jp/info/
news̲release/notice/2016/03/22̲00.html 確認日:2016 年 4 月 3 日)携帯端末契約時にセット割引で 契約をするユーザーが多く、有料動画配信サービス単体での利用目的での加入者が必ずしも全てではな いことから、今回の比較対象とはしない。
(5) 日本テレビホールディングス株式会社「2015 年度 IR 決算説明資料」を参照。http://www.ntvhd.co.jp/
ir/library/presentation/booklet/pdf/2015̲4q.pdf(確認日:2016 年 4 月 3 日)
(6) 株式会社 KADOKAWA・DOWANGO「プレスリリース」を参照。(2015 年 8 月 6 日発行)http://pdf.
irpocket.com/C9468/ZSDY/fTnp/Vnm3.pdf(確認日:2015 年 9 月 8 日)
Netflix の情報提供サービスによる差別化は、Rogers (1997)、Sisodia et al. (2000)らが 述べた「EC サイトにおけるサービスの品質は顧客の離脱より持続的利用に大きな影響をも たらす」ことを裏付けると考えられる。
これらの先行研究から、定額で配信サービスを提供する有料動画配信ビジネスが収益性を 高めるには、品揃えする製品以外の差別化を行い消費者の持続的利用を促すことが重要であ ると言える。
3.2 インターネットビジネスの差別化におけるネット特徴要因
製品以外の差別化としていくつかの研究があるのが「ユーザビリティ」である。「顧客の 再購買意向には、サイトと顧客間のリレーションシップの質、ユーザビリティが正の作用を もたらす」(Zhang et al., 2011)。一方で、「ユーザビリティが低いウェブサイトは企業のイ メージを低下させ、顧客の再購買意向を減少させる結果をもたらす」(Nielsen, 1999)。
Kuan et al.(2005)は先行研究に基づき、EC サイトが提供する差別化を「システムの品質」
「情報の品質」「サービスの品質」から成るユーザビリティに 3 分類されるとした上で(表 2)、
顧客が(現在)予定している購買意向と、将来の購買意向についての影響力を定量的に分析 した。その結果、予定している購買と将来の購買意向の比較で「サービスの品質」が将来の 購買意向に対してより強い影響力を持つことを明らかにした。
表 2 EC サイトが顧客に提供する「サービス」の 3 分類
システムの品質 ナビゲーションの容易さ、レイアウトの一貫性、視覚的アピール、アクセスしやすさ、
清算の速度、ダウンロードの遅れ
情報の品質 検索能力、正確さ、適時性、コンテンツ、フォーマット、完成度、理解の容易さ
サービスの品質 製品の検索と比較における効率性、相互作用、応対、セキュリティと個人情報について の透明性、保証、共感
(出所)Kuan et al. (2005)を元に筆者作成
こうした研究での指摘は非常に貴重だが、「ユーザビリティ」「サービス」という概念は複 数の要因による集合体であり差別化手段の具体的整理としては弱い。
根来・門脇(2003)では、ネットビジネスにおける差別化手段を分類するひとつとして 根来・木村(1999)による「チェーン機能」と「コミュニティ機能」を引用している。チェー ン機能とは「商取引に関連した情報交換のストックを活用する」ことで、製品のレコメン デーションサービスがこれに該当する。コミュニティ機能とは「商品取引から独立した情報 交換のストックを活用する」ことであり、製品を利用したユーザーによるレビューの書き込 みと他ユーザーによる閲覧、掲示板等での情報交換がこれに当たる。また、インターネット の商空間で行われる商品の検索や比較をともなう購入プロセスを差別化要因として挙げ、
「チェーン機能」「コミュニティ機能」とは別の差別化手段とし「オンライン体験」と定義し ている。「オンライン体験」はウェブにおける「情報の見やすさ」「情報の扱いやすさ」「情 報の使いやすさ」から構成される。
これら先行研究をふまえ、本稿では、根来・門脇(2003)によって分類された「非ネッ ト特徴要因」に関連する「製品力」と「ネット起因要因」に含まれる「オンライン体験要因」、
「チェーン機能」「コミュニティ機能」を、有料動画配信を利用する消費者がいかに差別化と して認識しているかを明らかにする。本稿では「非ネット特徴要因」つまり製品力を、有料 動画配信サイトで提供される映像コンテンツとする。「ネット起因要因」については、ウェ ブサイト上での検索性や情報の見やすさ、使いやすさを「オンライン体験」、コンテンツプ ラットフォーマーから消費者に提供される一方向の情報流、つまりレコメンデーションの分 かりやすさ、的確さを「チェーン機能」、有料動画配信サイト上やサイト外で流通する、消 費者によるコンテンツのレビューや、消費者同士の情報交換を「コミュニティ機能」とする。
本稿ではこれら 4 つの差別化要因について先行研究も基にしながら、質問紙の設問を作成し た。
4.調査の構造と方法
有料動画配信ビジネスにおけるインターネットに特有の差別化要因を Hulu、ニコニコ動 画を利用しているユーザーがいかに認識しているかを明らかにするために、質問紙を用いた 調査を行った。調査の対象は、定額の有料動画配信サイトを 3 ヶ月以上利用している国内 ユーザーである。利用期間を 3 ヶ月以上としたのは、多くの有料動画配信サイトが初月を無 料サービスとして提供していることから、実際に 1 ヶ月以上継続し定額料金を支払っている ユーザーを対象とするためである。調査対象は 20 代から 60 代までの男女で、有料動画配 信サイト利用の意思決定権を持つユーザーである。
質問票は、根来・門脇(2003)で分類された非インターネット特徴要因と、インターネッ ト特徴要因からなる設問項目と、Tullis and Albert(2014)に記載されている ACSI に基づ いたウェブサイト評価の設問項目を元に作成した。根来・門脇(2003)では、EC ビジネス における差別化を「知名力」「連携力」「製品力」「サービス力」「価格力」「時間力」「機能力」
「情報力」「社会力」に 9 分類し、それぞれに関連した設問を 73 問にまとめている。Tullis and Albert(2014)ではウェブサイトのユーザー・エクスペリエンスに関連する満足度を測 定する設問を 14 問にまとめている。本稿ではこれら先行研究を引用しながら、「製品力」
の評価に関する設問を 4 問、「オンライン体験」に関する設問を 6 問、「チェーン機能」に 関する設問を 2 問、「コミュニティ機能」に関する設問を 2 問、それぞれの項目が回答者の 加入と継続の意思決定に与えた影響に関する設問を 4 問、ウェブサイトを利用した上での満
足度に関する設問を 5 問、独自に設定した。これらの評価には 7 段階のリッカート尺度を 用い、7 を「非常によい」、4 を「どちらともいえない」、1 を「非常に悪い」とした。
その他、回答者が過去 3 ヶ月間で最も頻繁に利用した有料動画配信サイト、視聴に使用し ている機器、視聴の頻度、無料動画配信サイトの視聴等、回答者の視聴動向に関する単一、
複数の選択回答 7 問を使用し、質問紙を合計 30 問の項目で構成した。
質問紙調査による分析では先行研究を受けて、国内の有料動画配信サイトである Hulu の ユーザーとニコニコ動画・ニコニコチャンネルのユーザーが、それぞれのサイトが提供する インターネットに特有のどのような差別化を認識しているかを確認する。よって、質問紙の 設問 30 項目から「製品力」「オンライン体験」「チェーン機能」「コミュニティ機能」に関 する設問 14 項目のみを切り出し分析を行う。
【調 査 名】 有料動画サイトの利用に関する調査
【調 査 日】 2015 年 10 月
【調査方法】 インターネット調査会社を通して Web 上に作成した調査票についてデータ収 集を行った。
【調査対象】 日本国内で有料動画配信サイトを 3 ヶ月以上利用しているユーザーを対象に、
調査会社のサンプリングによるインターネット調査で 520 の回答を得て、調 査の対象外となる回答を除き 516 を有効回答とした(99.2%)。
調査対象の特性は表 3 の通りである。年代は 20 代から 60 代とした。抽出の理由は、自 らの意思決定で有料動画配信ビジネスの利用をしている回答者を選択するためである。
表 3 調査対象特性(n = 516)
年代 職業
20〜24歳 34 (6.5%) 公務員 16 (3.1%)
25〜29歳 68 (13.1%) 経営者・役員 16 (3.1%)
30〜34歳 57 (11.0%) 会社員(事務系) 66 (12.7%)
35〜39歳 47 (9.0%) 会社員(技術系) 46 (8.8%)
40〜44歳 46 (8.8%) 会社員(その他) 49 (9.4%)
45〜49歳 58 (11.2%) 自営業 39 (7.5%)
50〜54歳 68 (13.1%) 自由業 20 (3.8%)
55〜59歳 36 (6.9%) 専業主婦(主夫) 92 (17.6%)
60歳以上 102 (19.6%) パート・アルバイト 85 (16.4%)
学生 24 (4.6%)
その他 20 (3.8%)
無職 43 (8.3%)
(出所)調査結果より筆者作成
回答者の年代・性別ごとの、各セルの割り当てを表 4 に示す。全ての年代、性別で 50 以 上のサンプルサイズである。
表 4 各セルの割り当て(n = 516)
20代 30代 40代 50代 60代
男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性
52 50 52 52 52 52 52 52 51 51
(出所)調査結果より筆者作成
調査では、先に定義した有料動画配信サイトについて、回答者が過去 3 ヶ月間に最も頻繁 に利用した動画サイトについての単一回答を求めた。結果を表 5 に示す。本稿で比較調査の 対象とする Hulu のユーザーは n = 151、ニコニコ動画・ニコニコチャンネルのユーザーは n = 121 である。
表 5 最も頻繁に利用している有料動画配信サイト(n = 516)
サイト名 利用者数
Hulu 151
Netflix 25
Amazon Prime Video 39
ニコニコ動画・ニコニコチャンネル(有料) 121
dTV 68
au ビデオパス 20
UULA 10
楽天 SHOWTIME 21
TSUTAYA TV 10
NHK オンデマンド 46
その他 5
(出所)調査結果より筆者作成
5.分析結果と事例による例証
5.1 質問紙による調査の分析結果
質問紙の 30 項目から切り出した、有料動画配信サイトにおけるインターネット特有の差 別化要因、「製品力」「オンライン体験」「チェーン機能」「コミュニティ機能」に関する 14 項目に対して主因子法・Promax 回転による因子分析を行った。その結果、因子負荷量の絶 対値が 0.60 以下だった 1 項目を分析から除き、残りの 13 項目に対して再度主因子法・
Promax 回転による因子分析を行ったところ 3 つの因子が抽出された。Promax 回転前の 3
因子で 13 項目の全分散を説明する割合は 73.35%であった。
第 1 因子は 4 項目で構成されており、有料動画配信サイトが品揃えしている「製品力」
つまりコンテンツに対する項目が高い負荷量を示していた。そこで「コンテンツ」と名付け た。
第 2 因子は 7 項目で構成されており、サイトの見やすさ・分かりやすさ、デバイスの多 様さといった「オンライン体験」要因と、おすすめ情報の分かりやすさ、おすすめ情報の的 確さから成る「チェーン機能」の項目が高い負荷量を示していた。これらの項目は、プラッ トフォーム運営サイドから情報を的確に消費者に届けるためのチェーン機能型差別化手段と して包括されるとし、「チェーン機能」と名付けた。この結果については第 6 節の考察で後 述したい。
第 3 因子は 2 項目で構成されており、レビューの分かりやすさ、利用者同士の情報交換 といった、ユーザー間における情報を通じた交流に関する項目が高い負荷量を示していた。
そこで「コミュニティ機能」と名付けた。因子分析の結果を表 6 に示す。
表 6 有料動画配信ビジネスにおける差別化要因尺度の因子分析(n = 516)
因 子
コンテンツ チェーン機能 コミュニティ機能
コンテンツ全体の数(種類の豊富さ) .852 .022 ‑.069
新作の数 .883 ‑.117 .101
オリジナルコンテンツの数 .715 ‑.007 .111
コンテンツの品質 .685 .256 ‑.112
(サイトが)見やすい、使いやすい .053 .771 ‑.048
レイアウトが分かりやすい .037 .807 ‑.041
作品の検索が簡単 ‑.049 .724 .183
サイトの目次がわかりやすい ‑.033 .770 .152
表示速度や反応速度、読み込み速度の信頼性 .028 .801 ‑.087
おすすめ作品の表示が分かりやすい ‑.004 .884 ‑.092
おすすめ作品情報が的確 ‑.002 .751 .052
利用者レビューが分かりやすい .015 .145 .705
利用者同士の情報交換がある .029 ‑.092 .866
(出所)調査結果より筆者作成
3 つの因子について、各因子に高い負荷量を示した項目の平均値を算出することにより、
「コンテンツ」得点(平均 4.54, SD 1.11)、「チェーン機能」得点(平均 4.64, SD 1.04)、「コ ミュニティ機能」得点(平均 4.08, SD 1.13)とした。内的整合性を確認するため信頼性分 析(クロンバッファのアルファ)を行ったところ、「コンテンツ」
= .88、「チェーン機能」
= .92、「コミュニティ機能」
= .79、と充分な値が得られた。各因子内の質問項目の回答 の統合方法については、因子によって質問数が異なるため平均値を使用した。さらに 2 つの 有料動画配信サイト、Hulu とニコニコ動画・ニコニコチャンネルの得点差を t 検定により 検討したところ、「チェーン機能」と「コミュニティ機能」の差が 0.1%で有意となった。「コ ンテンツ」は得点差が有意とならなかった(表 7)。表 7 差別化要因各下位尺度得点の比較(Hulu、ニコニコ動画・ニコニコチャンネル)
Hulu
(n =151)
ニコニコ動画・
ニコニコチャンネル
(n =121)
t 検定(両側)
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 t 値
コンテンツ 4.61 1.11 4.63 1.14 0.086 n.s
チェーン機能 4.90 1.08 4.45 0.92 3.595 ***
コミュニティ機能 3.97 1.20 4.49 1.09 3.658 ***
(注)***P < .001
5.2 事例研究による例証(Hulu、ニコニコ動画・ニコニコチャンネルの比較)
分析の結果から、Hulu、ニコニコ動画・ニコニコチャンネルの 2 つの有料動画配信サイ トにおいてサイト利用ユーザーの評価が「チェーン機能」と「コミュニティ機能」の 2 つの 差別化要因で有意な差を示した。その理由について、企業インタビュー、企業ホームページ 等を基に考察を進め補完を行う。
有料動画配信サイトのユーザーが認知している「チェーン機能」については、質問紙調査 に対するユーザーの評価による回答結果から Hulu の平均値がニコニコ動画・ニコニコチャ ンネルより高い。「チェーン機能」因子内の質問項目は「おすすめ作品の表示が分かりやす い」「おすすめ作品情報が的確」「(サイトが)見やすい・使いやすい」「レイアウトが分かり やすい」「作品の検索が簡単」といった、ユーザーがサイトを訪問し観たい動画を探す目的 を果たす上での利便性に関連するものである。
Hulu は米国で 2008 年にサービスを開始した動画配信サイトで、日本では 2011 年にサー ビスを開始した。2014 年には日本国内における経営権を日本テレビホールディングス株式 会社が取得し、現在、HJ ホールディングス合同会社によって運営されている。会員は 2016 年 3 月末で 130 万人、月額利用料金は 1,007 円(税込)である。
Hulu のホームページを訪問すると表示されるホーム画面は、上部に大きく新作の動画や 画像が表示されるデザインとなっており、サイトが勧める作品を目視しやすい。また、ホー ム画面では「注目の作品」「近日配信される作品」「日本初登場の作品」「新着オススメ」と いったジャンルごとに動画が整理され、ユーザーが自分の興味に沿って目的の作品を見つけ
られるように情報が提供されている。こうしたサービスは利用者の経験を通して、質問項目 のサイトの見やすさや使いやすさ、おすすめ作品の表示の分かりやすさ、おすすめ作品の情 報が的確といった差別化要因の認識に影響を与えていると考えられる。さらに Hulu を利用 するユーザーのサイト体験に対する声として HJ ホールディングス合同会社の職務執行者社 長(7)である船越氏へのインタビューから、提供されているコンテンツの「次話自動再生」
機能がユーザーの視聴形態にフィットしていることが分かった。Hulu で配信されている作 品は映画、海外ドラマ、日本テレビで放送されたドラマ、アニメと多様であるが、そのうち ドラマとアニメはワンシリーズで 10 話単位から多いものだと 50 話以上で構成されている。
船越氏へのインタビューから、Hulu のユーザーの視聴動向をデータで追ったところ、特に 若いアニメファンは休日に目当ての作品を一気に複数話連続再生して楽しんでいることが確 認できた。
一方、「コミュニティ機能」に関連する質問項目である「利用者レビューがわかりやすい」
「利用者同士の情報交換がある」について、Hulu では作品 1 本 1 本のあらすじ解説を提供し ているが、利用者同士のコミュニケーションサービスは提供していない。
ニコニコ動画・ニコニコチャンネルは、株式会社ドワンゴが運営する動画配信サイトであ る。動画配信の利用については無料と有料ふたつのサービスを行っている。本調査では有料 会員を対象に質問紙への回答を求めた。今回の調査結果から、ニコニコ動画・ニコニコチャ ンネルは Hulu と比較して「コミュニティ機能」に関する因子の平均値が高い。
ニコニコ動画の有料会員はプレミアム会員と呼ばれ、月額 540 円(税込)である。プレ ミアム会員へのサービスには動画の読み込み速度の高速化、高画質視聴、投稿動画や生放送 動画へのコメントの会員限定カラーの提供等がある。2006 年 12 月のサービス開始当初、ニ コニコ動画は YouTube で再生される動画にユーザーがテロップ状のコメントを投稿する サービスを提供していた。ユーザーが動画に絶妙にマッチしたコメントを投稿したり、その コメント付きの動画を視聴して楽しんだり、さらに他のユーザーに合わせたコメントを投稿 し画面内で交流をする機能が人気を博した。しかし間も無く YouTube から動画へのアクセ スを遮断され、2007 年 2 月に「ニコニコ動画(γ)」にサイトをリニューアルし、動画もユー ザーからの投稿を独自で調達するビジネスモデルとした。当時、サーバーの負荷を軽減する ため視聴を登録制とし、さらに会員を 10 万人限定とした。この時、新規 ID 登録者数が 2 日間で募集人数を突破したことを受け、4 ヶ月後の 2007 年 6 月に速度サービスや視聴の優 先権を持つ有料会員制度がスタートした。2015 年 8 月時点でのプレミアム会員は 250 万人 に及ぶ。
ニコニコ動画ではユーザーが投稿した動画にコメントを投稿し、ユーザー間でその独創性
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(7) 役職名はインタビュー実施当時(2015 年 10 月 29 日)
を評価し合い楽しむ文化がある。いわば、提供される動画とコメントのマッチングがコンテ ンツを完成させる。優れたコメントを投稿するユーザーは「コメント職人」「投コメ職人」
と賞賛される文化があり(8)、動画とコメントを通したユーザー間のコミュニケーションが サイト利用の大きな魅力となっている。コメント職人だけではなく、投稿された動画の分類 や関連付けをするための「タグ」(9)という機能もユーザー同士のコミュニケーションを促進 している。「タグ」は単純に動画の内容を解説、分類するものではなく、ひねりやとんちの 効いた名付けを行ったユーザーが「タグ職人」として他ユーザーから賞賛を受ける。Pra- halad and Ramaswamy(2000)が「リアルタイムでの電子的情報の共有によって、顧客は 共 創の価値 を作り出すことすら可能である」と論じたように、ニコニコ動画・ニコニコチャ ンネルでは「コメント」や「タグ」を通じてのユーザーの表現行為と鑑賞・賞賛といった相 互作用が「共創の価値」を作り出し、動画視聴と同等の楽しみとして経験され、魅力となっ ている。ニコニコ動画・ニコニコチャンネルは、サイトが提供する独自の機能で、ユーザー・
コミュニティの絆を深める差別化を行っている。
Hulu、ニコニコ動画の事例研究の結果から、Hulu のユーザーにはサイトの経験を通じて
「チェーン機能」要因が、ニコニコ動画・ニコニコチャンネルのユーザーには「コミュニティ 機能」要因が、企業側からの差別化戦略として提供されていることが分かった。
6.考 察
今回の調査から、日本における会員規模の大きい有料動画配信ビジネス、Hulu とニコニ コ動画・ニコニコチャンネルのユーザーは、サイトの利用経験を通して非インターネット特 徴要因の「製品力」とともにインターネット特有の差別化要因を認識していることが明らか になった。また、認識されているネット特徴要因の差別化影響力は 2 つのサービスで差があ ることが分析結果によって証明され、認識されている要因は企業が提供している差別化要因 と合致することが事例による例証から確認された。具体的には有料動画配信サイトの利用経 験を通して、
(1)Hulu、ニコニコ動画ともにサイト利用者に認識されている差別化要因は非ネット特 徴要因の「コンテンツ」、ネット特徴要因の「チェーン機能」「コミュニティ機能」であるこ とが明らかになった。(2)Hulu、ニコニコ動画・ニコニコチャンネル双方のユーザーにお いて 3 因子中 2 因子にあたる「チェーン機能(p < .001)」と「コミュニティ機能(p < .001)」
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(8) 「ニコニコ大百科(仮)『コメント職人』」を参照。http://dic.nicovideo.jp/a/ 職人(確認日:2015 年 11 月 18 日)
(9) 「ニコニコ大百科(仮)『タグ』」を参照。http://dic.nicovideo.jp/a/ タグ(確認日:2015 年 11 月 18 日)
の評価において統計的に有意な差が確認された。(3)「コンテンツ」に関する差別化につい ては有意な差が見られなかった。(4)Hulu のユーザーは「チェーン機能」による影響力を より高く評価し、(5)ニコニコ動画・ニコニコチャンネルのユーザーは「コミュニティ機能」
に関連する差別化要因の影響力をより高く評価する。(6)Hulu、ニコニコ動画・ニコニコチャ ンネルのユーザーがそれぞれ認識し高く評価しているインターネット特有の差別化要因は、
企業サイドが提供している差別化要因の認識と合致する。
本稿では、日本の有料動画配信サイトにおいて、インターネット特有の差別化要因として 先行研究で論じられた「チェーン機能」と「コミュニティ機能」の 2 つの要因をユーザーが 認識していることを明らかにした。また、事例による例証により企業が差別化として認識し 提供しているサービスとユーザーが認識するネット特徴要因の差別化影響力が合致している ことを確認した。
調査の結果、有料動画配信ビジネスにおける「チェーン機能」とはサイトを利用する上で、
目当ての作品を探す手間を省くための見やすさ、ナビゲーションの良さ、おすすめ情報の分 かりやすさといった項目に関連し、「コミュニティ機能」はレビューの分かりやすさ、ユー ザー同士の情報交換といった項目に関連することがわかった。
本稿が先行研究とする根来・門脇(2003)は、個別のインターネットサービスサイトに おける差別化影響力について、「検索」「ニュース」「書店」「ショッピングモール」「ホテル・
旅行仲介」のそれぞれのサイトでは、「利用している理由」として「製品力」に関連する「商 品種類の豊富さ」が、「利用している付随要因」として「情報の豊富さや新しさ」(オンライ ン体験要因)が認識されていることを明らかにしたが、本研究の結果から、有料動画配信ビ ジネスにおいても「製品力」と「オンライン体験要因」が利用の理由として認識されている ことが明らかになった。また、先行研究では「利用している付随要因」において「検索サイ ト」「書店サイト」のみで回答が上位に見られた「チェーン機能」「コミュニティ機能」が有 料動画配信ビジネスにおいても認識されていることが明らかになった。先行研究では同業種 内でのサービスの差と消費者の認知の差について述べられていないが、本稿では有料動画配 信ビジネスにおいて「チェーン機能」「コミュニティ機能」を重点的に提供しているふたつ のサイトで、消費者の認識の差が企業の戦略と合致していることを明らかにした。この結果 から、有料動画配信ビジネスにおいては、品揃えされる膨大なコンテンツを「容易に見つけ る機能」、コンテンツを通じて「消費者同士が交流する機能」が利用を続ける上で重要な要 因であると考察される。
本稿における分析結果において、根来・門脇(2003)で「オンライン体験」に分類され ている、検索のしやすさ、情報の見やすさといった差別化要因と、「チェーン機能」に分類 されている、おすすめ情報の表示の分かりやすさ、おすすめ情報の的確さ、という質問項目 が同一の因子として抽出された。分析の結果と事例による例証から、日本の有料動画配信サ
イトを利用するユーザーは「オンライン機能」「チェーン機能」のふたつの要因を包括して
「見たい作品を探す」ための差別化だと認識していると考えられる。
一方で「利用者レビューが分かりやすい」「利用者同士の情報交換がある」という質問項 目が独立した因子として抽出されたことは、ユーザーが有料動画配信サイトの利用を通して コミュニティの存在を認識しているという点において興味深い発見である。
7.結論と本稿の限界、今後の課題
本稿は、日本の有料動画配信ビジネスで大規模な会員を保有する Hulu、ニコニコ動画・
ニコニコチャンネルにおいてユーザーが認識しているネット特徴要因の差別化影響力と、企 業が戦略的に提供するサービスとの合致を明らかにした。
学術的な貢献としては、本稿が対象とする有料動画配信ビジネスでは、先行研究である根 来・門脇(2003)が対象とした「検索サイト」「ニュースサイト」「書店サイト」「ショッピ ングモール」と同じく、利用の理由として「製品力」と「オンライン体験要因」が認識され ていることを明らかにしたことである。また有料動画配信ビジネスにおいては、企業側から の情報提供の違いをユーザーが認識しており、その情報提供が差別化影響力となることを明 らかにした。この調査結果から、本稿における、日本の有料動画配信ビジネスが持続的な競 争優位を保つためにはコンテンツに限らない差別化が必要である、という問題意識に対し、
製品であるコンテンツを楽しむための「オンライン体験要因」もまた重要な差別化として機 能していることが言えるであろう。先行研究と本稿の結果から、インターネットビジネスに おいては、製品力だけではなく、使い勝手の良さや情報提供が消費者の持続的利用に影響力 を持つ大きな要因であると考察される。
実務的な貢献としては日本において複数のプレイヤーが競合している有料動画配信ビジネ スにおいて、持続的競争優位を保つための差別化要因を示唆したことである。有料動画配信 サイトが品揃えするコンテンツの調達費用に比較し、情報提供プロセスの改善やコミュニ ティ内における情報交換を促進するための技術開発費用は投資金額が小さい。技術開発によ るサイト改善でユーザーを満足させ利用意向を高めることができれば、Srinivasan et al.(2002)が論じた「ロイヤルカスタマーとしての関係性を生み出し」より効率的な収益 性追求の可能性が生まれる。
本稿における質問紙調査では、先行研究である根来・門脇(2003)で論じられた差別化 要因である「非ネット特徴要因」と「ネット特徴要因」に即した質問項目を複数の先行研究 から引用したが、この尺度の構成概念妥当性が担保されているかについての裏付けが不十分 である。有料動画配信サイトの差別化手段を調査する上での構成概念を具体化し、分析方法 を改善することを今後の課題としたい。
また今回の調査は、Hulu、ニコニコ動画・ニコニコチャンネルというふたつの有料動画 配信サイトの比較のみにとどまった。このふたつのサイトは顧客の利用目的に際立った差が あるため、平均的な有料動画配信サイトにおける差別化要因を明らかにするには他のサイト も含めたさらなる調査が必要である。
今後は、本稿で発見されたネット特徴要因が他の有料動画配信サイトにおいても差別化影 響力を持つのか継続的な調査を行いたい。また、先行研究で論じられている「チェーン機能」
「コミュニティ機能」それぞれの差別化要因が有料動画配信サイトにおけるユーザーの継続 意向に長期に渡り影響力を持ち得るのかを深耕してゆきたい。
謝辞
本研究にご協力いただいた HJ ホールディングス合同会社の船越雅史様、川西康代様、讀 賣テレビ放送株式会社の亀田年保様に深く御礼申し上げます。
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