博士論文審査報告書 論 文 題 目
4
0
0
全文
(2) 一つの方向に強い閉じこめポテンシャルが存在すると、量子力学的粒子に対する系の有効次 元は空間次元より 1 つ低下する。 閉じこめによるエネルギーの離散化のスケールが、残りの 次元における運動の特徴的エネルギーを大きく超えると、閉じこめ方向の波動関数は事実上基 底状態に限られ、この方向の運動の自由度が消滅するためである。 このような方向が一つ以 上存在する量子系を低次元量子系と呼ぶ。 電子系における量子薄膜(2 次元)、量子細線(1 次 元)、量子ドット(0 次元)は、分子線エピタクシーや超微細加工によって作製され、量子ホール 効果、コンダクタンスの量子化、共鳴トンネル効果など、3 次元バルク系では見ることのでき ないユニークな現象を多数実現している。 また、10‑6 K 程度の超低温下でレーザー電場に閉 じこめられたアルカリ原子気体では、閉じこめポテンシャルの次元はもとより、ポテンシャル の形状や粒子間相互作用も自由に制御できるため、さらに新しい低次元量子現象を実現できる 可能性に富んでいる。 朝永や Fröhlich が 1 次元 Fermi 系の特異な物理を論じた 1950 年代には、この種の物理系は 理論家の玩具とみなされていたが、1970 年代初頭、擬 1 次元有機物質 TTF‑TCNQ の電気伝導度 の温度依存性に巨大なピークが発見されたのを機に、にわかに現実の物理系として大きな注目 を集め、電荷密度波、スピン密度波、有機超伝導などの研究の勃興を見た。 1986 年には、銅 酸化物中の 2 次元正方格子に閉じこめられた正孔系が高温超伝導を示すことが発見され、低次 元 Fermi 多体系に対する理論的理解にきわめて大きな穴があることが明らかになった。 Landau の Fermi 流体論を基礎にして電子や正孔をほとんど自由な Fermi 気体として扱うという 従来の考え方が破綻したとすると、相互作用の効果をもっと真剣に問い直さなければならない のは自明である。 強い相互作用をもつ Fermi 粒子系が低次元空間に押し込められるとき何が 起こるかという問題、すなわち、強相関系の物理が大きなテーマとしてクローズアップされ、 21 世紀に持ち越された宿題となっている。 電子は、仲間の電子やイオン、格子欠陥などと複雑な相互作用をもつため単純化された理論 解析と実験が定量的一致を見ることは困難で、これが強相関の問題を更に難しくしている。 しかし光トラップ中の中性 Fermi 原子系では、相互作用がδ関数型と分かっており、しかもそ の大きさや符号を Feshbach 共鳴機構を用いて広範囲に制御できることから、電子系よりも強 相関物理の詳細な研究に適していることがここ 1,2 年の研究でいよいよ明らかになってきた。 本学位論文の申請者は、このような状況下で、低次元 Fermi 粒子系の重要な性質である集団 励起モードを理論的に調べ、それがこれまで一粒子描像の下に理解されてきた熱電効果にどの ような変更をもたらしうるかを研究した。 その際、高温超伝導を示す酸化物は複雑すぎ、用 いるべき微視的ハミルトニアンすら明らかではないので、 1970 年代半ばからの研究でよく理 解されている電荷密度波(CDW: Charge Density Wave)を取り上げ,相互作用が一粒子描像をど う変えるかを研究するという方針を採用した。 以下、学位論文の主要部分を簡単に紹介する。 第 1 章は序論で、Seebeck 効果や Peltier 効果などをごく簡単に説明し、通常一粒子描像で 理解されているこれらの現象のより深い理解の基礎を、量子多体系の微視的な記述に拡張する ことの必要性が述べられている。 よく理解されている量子多体系の例として、電荷密度波系 を紹介し、半導体と類似の一粒子励起スペクトルをもつこの系が、振幅モードと位相モードと.
(3) いう集団励起をもつ点において半導体と本質的に異なること、これらの集団励起モードが、準 粒子による一粒子的寄与とは全く別の寄与を熱電効果に与える可能性を示唆する。 振幅モー ドがエントロピー密度を担い、位相モードがその並進を担うという一種の共同作業機構が、 Aslamasov ‑ Larkin 型の Feynman diagram に集約されるという本研究の主要な結果の一つを予 告する。 更に、調和型トラップ中の Fermi 原子気体の一粒子状態と集団励起モードの研究に言及する。 この系は今のところ、上の電荷密度波との直接的関連はないが、その大きな制御可能性のため に、量子多体問題の精密実験場と化した感がある系で、近い将来、1 次元密度波系や 2 次元強 相関格子系が実現され、電子系よりも精密で純粋な実験が行われると期待される。 第 2 章は、電荷密度波系における熱電輸送の研究についての詳しい記述にあてられている。 中性 Fermi 原子系に適用する場合には,原子密度波(Atomic Density Wave)を考えることに相当 する。 化学ポテンシャルと温度の勾配が十分に小さい場合、電流と熱流はこれらに対し線形 応答するが、その際の線形応答関数の様々な組み合わせで、電気伝導度、熱伝導度、熱起電力 などが表現できることが説明されている。 次に、電荷密度波系の微視的記述の概要が述べら れる。. 電子・フォノン相互作用の標準模型である Fröhlich ハミルトニアンから出発し、ま. ず、CDW の平均場を定義した後、その周りの振幅、位相のゆらぎを自己無撞着的に計算する理 論形式を導入する。 まず、二つの CDW 系を薄い絶縁膜を介して接合した系を、トンネルハミルトニアンに基づい て議論する。. 接合両端に電位差と温度差を与えたときの電流と熱流を、Green 関数の方法で. 計算した結果は、超伝導接合系における Josephson 効果と類似しており、輸送係数が左右の CDW 秩序パラメーターの振幅と位相に依存することを示している。 実空間の秩序であるため、電 荷密度波の位相は界面や不純物のポテンシャルに捕まりやすい(pinning されやすい)ため、超 伝導系の Josephson 効果のような明確な観測は難しいと思われるが、中性 Fermi 原子気体では この困難はかなりの程度解消されるであろう。 続いて、一様な CDW 系における振幅・位相間非線形相互作用に基づき、熱電効果に対する多 体相互作用の寄与を分析する。 電流と熱流の第二量子化表示を定義して、久保公式に代入し、 上記非線形相互作用について摂動展開すると、Aslamazov‑Larkin 型に属する多数の Feynman diagram が形式的に出てくるが、電流、熱流 vertex part の特殊な対称性のためそれらの大部 分の寄与は消えることが分かる。 結果として、中間状態に振幅モードと位相モードが一つず つ表れる特別な形の Feynman diagram のみ寄与をもつということが判明した。. 非常に単純化. した物理的解釈としては、振幅モードがエントロピー密度を、位相モードがその並進を、それ ぞれ受け持った熱の流れと解釈できる。 結果として、集団励起の非線形相互作用から、温度 の逆数 1/T に比例する補正が、熱伝導度に対して生ずるなどの結論が得られる。 この結論の 定量的な検証は、データ不足のため現在のところ困難であるが、同一の依存性(1/T)を示す物 質が存在することは encouraging だといえる。 第 3 章は中性 Fermi 原子系の一粒子状態及び集団励起状態の解析的取り扱いを研究した結果 の記述である。 前述の如く、中性原子系は制御性と純粋性に優れているために、長い研究史 をもつ電子系を非常な勢いで追い越して、多体問題の研究の中心に躍り出つつある系である。.
(4) 従ってこの系を解析的に調べておくことは、近い将来大きな意味をもちうる。 まず、Fermi 原子に対する場の演算子を Hermite 多項式と Gauss 型指数関数の積を基底とし て表現すると、fermion 間の斥力は4つの量子数で決まる 2 つの Laguerre 陪多項式の積の積分 として表現できることが判明した。. これを用いて、基底状態のエネルギーの摂動項を Gamma. 関数の組み合わせの級数として具体的に書き下し、Stirling 公式を用いて積分に置き換えるこ とにより、基底状態エネルギーの摂動によるシフトが全粒子数のベキ関数として表現できるこ とを具体的に示した。. 結果を 1 次元、2 次元、3 次元の場合に更に具体化すると、解析的表. 現が得られている場合については全て厳密に一致することが分かったほか、数値的な方法でし か得られていなかった結果も解析的に再現できていることが判明した。 また、有限温度にお ける内部エネルギーの温度依存性、粒子数依存性についても興味深い結論が得られている。 次に、Fermi 原子気体の集団励起を調べている。. トラップ中の励起エネルギーは、並進対. 称性の欠如による解析的取り扱いの困難性から、ほとんどの理論は数値解析を用いているが、 申請者はここでも解析的手法を貫いている。 但し、典型的な実験を意識して、ここでは 2 次 元的閉じこめに話を限定している。 Hartree 近似の下で多体 Schrodinger 方程式を書き下し、 これが Fermi 気体の重心 ri(t)と広がり Ri(t) (i=x,y)に関する連立スケーリング方程式に厳密 に書きなおすことができることを示した。. これらのスケーリング方程式を用いて、2 次元. Fermi 気体の単極子振動、双極子振動、四重極振動の各モードに対する解析解を、fermion 間 相互作用の任意の値に対し求めている。. ここでも、知られている解析解は全て再現する上、. 数値的にのみ得られていた結果にも解析的表式を与えている。 更に、斥力がある臨界値に達 すると、四重極モードの固有振動数が純虚数になることも明らかになった。 これは、強い斥 力の下では一体ポテンシャルエネルギーや運動エネルギーの対価を支払っても、異なる スピン(超微細構造)をもつ部分に相分離した方がエネルギー的に得であることを示しており、 Feshbach 共鳴実験などで観測されている事実を説明している。 以上述べてきたように、申請者は低次元 Fermi 系における相互作用の効果を解析的手法によ り研究し、従来の熱電現象の理論では議論されなかった集団励起の寄与を明らかにするととも に、トラップポテンシャル中の Fermi 原子系の集団励起モードを、詳細な解析計算により明ら かにした。 トラップ中の縮退原子系の物理は、歴史が浅いにも関わらす、他に例を見ない純 粋性と制御性のおかげで電子系では難しい実験が相次いで実現されており、線形応答関数への 多体効果も近い将来観測が可能になると期待される。 本研究は電荷密度波系の熱電効果や中 性 Fermi 系の集団励起という切り口を通して、低次元 Fermi 系における多体効果の一側面を明 らかにしており、博士(理学)の学位論文として価値あるものと認める。 2006 年 2 月 審査員. 主査. 早稲田大学教授. 工学博士. (東京大学). 栗原. 進. 早稲田大学教授. 理学博士. (京都大学). 田崎秀一. 早稲田大学教授. 博士(工学)(東京大学). 寺崎一郎. 早稲田大学助教授. 博士(理学)(京都大学). 山崎義弘.
(5)
関連したドキュメント
第二に、第5章と第6章において、著者自身の構想する「運用力につながる文法記述のため
Experimental Study on Destruction Property of Steel Plate Reinforcement Concrete Footing 横濱 茂之 張替 亮太朗 横濱 大悟 YOKOHAMA Shigeshi HARIGAE Ryoutarou
In addition, the adhesion between the Ni–P coating layer and Si particles should increase improved by various treatments, such as etching and annealing,
[r]
評価人材に求められる 専門 性 とその修得メカニズム 職業上の経験を 積み重ねることは、 専門性を広げ 深める方 途として重要であ
本論文では,多変量データを2次元空間にプロットする手法について検討した。これらの手法の