なぜ、専修学校進学率は上昇したのか
濱中淳子(リクルート ワークス研究所) 1. 成長する専修学校 はじめに、図1をみていただきたい。文部(科学)省『学校基本調査報告書』を資料に、高卒 進学需要の変化(1970~2004 年)を示したものである。データの制約上、大学および短大につ いては現役の志願率、専修学校(専門課程)については現役の進学率を用いているという違いは あるが、ここから変化のおおまかな特徴をつかむことはできるだろう。なお、図で示した大学志 願率、短大志願率、専修学校進学率はすべて、高校卒業者ベースで算出している1。 図表1 進学需要の変化 男子進学需要の変化 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 1 970 1972 1974 1976 9781 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 9961 1998 2000 2002 2004 大学志願率 専修学校進学率 女子進学需要の変化 0% 10% 20% 30% 40% 50% 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 大学志願率 短大志願率 専修学校進学率男子からみると、大学志願率は、70 年代半ば以降、減少および回復という停滞状態を経験し、 最近10 年間も若干の上昇が確認される程度にとどまっている。他方で専修学校進学率は、この 間に緩やかな伸びをみせており、その値は20%近くに達している。 次いで女子をみると、1980 年代を通じて、大学、短大、専修学校ともに需要の拡大が認めら れる。しかしながら90 年代はじめに状況は一転し、大学志願率と専修学校進学率は拡大し続け るが、短大志願率は下がるという差異が生じ始める。そしてこの15 年ほどの間に、短大志願率 は15%まで低下し、大学志願率は 40%に、専修学校進学率も 20%を超えるまで上昇した。 こうした推移を踏まえると、男女の双方を通じて、専修学校はきわめて安定的に進学需要を獲 得してきたかのようにみえる。男子では、大学志願者となるはずだった者が専修学校進学にまわ っている。女子については、短大志願者だった層が、大学と専修学校への進学を選ぶようになっ ている。このように、大学・短大・専修学校のせめぎ合いのなかで、専修学校が「勝ち組」にな っていると読み取ることも可能な推移である。しかしながら、ここでいったん立ち止まって、「な ぜ、専修学校の進学率が上昇しているのか」という問いについて改めて考えてみると、判断の決 め手になるような証左がこれまでほとんど提示されてこなかったことに気づく。 専修学校は、いまでは高校生の5人に1人が進学するまでに成長している。このような専修学 校の位置づけを理解することは、高等教育の将来像を描くうえで欠かせない作業であり、そのた めには専修学校が果たしている役割を明らかにしていく必要がある。こうした観点から、本稿で は、公表されている政府統計資料データの時系列分析から専修学校進学率上昇の背景を探ること によって、とくに「入口」側からみた専修学校の役割を浮き彫りにしていきたいと思う。 2. 二つの説明モデル-「就職有利説」と「受け皿説」 専修学校進学率が上昇している理由については、「就職有利説」とでもいうべき見方が主流に なっていると思われる。つまり、最近の若者は実利志向が強く、他方で専修学校は職業に直結す る知識や技能の獲得を目指した教育の提供を行っている。この2つが相俟って専修学校の人気は 高まっているのだと理解されている。 たしかに、「手に職をつけておいたほうがいいから、専修学校に進学する」、「大学に進学する よりも、専修学校に進学したほうがトクだ」といった高校生の声を耳にすることは少なくない。 また、大学を卒業してから、就職のために専修学校に入学しなおす者もあらわれているという。 まさに就職有利説を支えるような事例だといえよう。けれども、これらの事例が、高卒進学需要 のマクロ的動向を理解するためのデータになるかどうかは別問題として捉えなければならない。 もしかしたら、専修学校進学率を左右する層の行動は、就職有利説では説明できないものになっ ている可能性はある。 こうした疑問をもったときに参考になるのは、教育社会学関係者らが実証分析の結果から抽出 した「受け皿説」である。これは、四年制大学への進学を希望するはずの者が進路転換すること によって専修学校進学率は高まっているとみる解釈であり、おもに80 年代半ばごろに提示され
た(例えば、菊池1982,岩木・耳塚 1986 など)。 専修学校進学率上昇の消極的な意味合いを強調するという点で就職有利説と逆の立場をとっ ている受け皿説は、データに裏づけされたものであり、説得力がある。しかし、問題がないわけ ではない。それは、提示された時期が80 年代半ばだということに関係する。つまり、70 年代半 ば以降に実施された大学抑制政策の影響、他方で伸び続ける専修学校進学率の印象が強かった時 期にデータが分析され、解釈がなされているのである。いまこの時代においても妥当性がある見 方なのかどうかは、検討し直さなければならない問いとして残されている2。 3. 二次的な選択肢としての専修学校 筆者は以前、昭和女子大学の矢野眞和教授と共同で、男子に限っての話だが、進学需要の規定 要因について実証的に分析した結果をまとめたことがある(矢野・濱中2006)。この論文では、 既存の政府統計資料の時系列データを用いて、大学志願率、就職率、そして専修学校進学率の変 化を規定する要因の解明を試みた。ここではその内容を踏まえて再分析した結果と、新たに実施 した女子の分析結果を追加して、進学率の上昇が「就職有利説」によって生じているのか、「受 け皿説」によって生じているのかを示していきたいと思う。 専修学校進学率の変化を説明する変数として用意したのは、1)所得(世帯一人あたりの実質 可処分所得)、2)私立大学授業料(実質額)、3)大学の合格率、4)総数の完全失業率(男女 別)、の4つである3。これらは大学への進学需要を規定する要因としてしばしば用いられるもの であるが、専修学校進学率の変化をみるためにも有用である。というのは、就職有利説が妥当で ある場合と、受け皿説が妥当である場合とでは、予想される変数の符号が異なるからである。 就職有利説が適合的だったとしよう。すると、専修学校への進学は魅力的な選択肢ということ になるから、所得が高くなれば高くなるほど進学需要も喚起されると考えられる。さらに失業率 についても、それが高まれば就職に有利な専修学校への需要に繋がるだろうから、プラスの効果 があると予想される。他方で、受け皿説が妥当だとすれば、大学に行きにくい状況になったとき に、専修学校進学率は上昇するということになる。大学に行きにくい状況とは、「所得が伸びず、 大学授業料が上がり、大学合格率が伸びない」状況であるから、予想されるのは、所得にマイナ ス、授業料にプラス、そして合格率にマイナスの効果ということになる。 では、具体的にデータが支持するのはどちらの見方なのだろうか。図表2は、1976~2004 年 の 29 年間分のデータを用いた時系列分析の結果を示したものである4。この結果をみると、専 修学校の進学率の高まりを説明するのは、「受け皿説」だということになる。男女ともに授業料 にプラスの効果が認められ、女子は所得にマイナスの効果も確認される。すなわち、所得が伸び 悩み、私立大学の授業料が上がると、専修学校の進学率は上昇することになる。また、男子の場 合は、大学に合格しやすくなると、専修学校への進学を選択しなくなるという傾向もある。その うえ、就職有利説では重要な意味を持つと考えられた失業率に、有意な影響を確認することはで きなかった。
図表2 専修学校進学率の決定要因:1976~2004 年の時系列分析結果 -0.004 -0.017** (-1.496) (-3.247) 0.004** 0.005** (8.792) (5.160) -0.123* 0.082 (-2.524) (1.173) -0.003 -0.007 (-0.640) (-0.757) 0.032 0.041 (1.274) (1.052) 0.987 0.944 1.568 1.210 所得と授業料の単位は万円。 ** 1%水準で有意 * 5%水準で有意,+ 10%水準で有意。カッコ内t値。 図表3も同様。 男子 専門学校進学率 女子 専門学校進学率 所得 調整済みR2 D.W.比 私立大学授業料 大学合格率 失業率 定数 家庭の経済事情や進学事情が許せば、高卒者は、専修学校への進学を選択しなくなる。専修学 校進学率は順調に伸びているけれども、それは大学への進学に替わる二次的な選択の帰結として 生じているとみることができるだろう。 4. 女性の働き方が与えた影響 専修学校は、費用が高い大学進学をあきらめざるを得ない層や、学力的に進学が困難な層を吸 収しながら拡大している。どうやら状況は、教育社会学関係者らによって「受け皿説」が唱えら れた1980 年代半ばの時点から大きく変わっていないようである。しかしながらそう結論づける 前に断っておかなければならないのは、就職有利説も、実はそれほど的外れな見方ではないとい うことである。一見、矛盾した指摘ではあるが、このことはとくに女子にあてはまる。最後にこ の点について説明しておきたい。 以上の分析では、就職状況を指し示す変数として失業率を使用した。失業率が高まれば、雇用 不安から、就職に結びつきやすい専修学校への進学需要が喚起されると考えたからである。しか し、いうまでもなく進学需要への影響が予想される労働市場変数は失業率だけではない。とくに 女子については働き方、つまり結婚、出産、育児というイベントがあるなかで、どのように仕事 に関わっていこうとするかが進学行動に影響を与えているとも考えられる。そこで、「30 代前半 における女性の労働力率」を加えた5変数モデルによって分析を試みたところ、非常に興味深い 結果が得られた5。
図表3がその結果である。さきの4変数モデルによる結果も参考までに付しておいた。まず、 所得と授業料の係数をみると、4変数モデルの結果と同様、所得にマイナス、大学授業料にプラ スの効果が認められる。この点において、「専修学校=受け皿説」は依然として支持されている。 しかし、ここでさらに注目したいのは、「労働力率」にプラスの影響が確認できることである。 いずれ別の機会で詳しい報告をする予定だが、こうした「受け皿説+就職有利説」という双方の 特性を併せ持つ効果のあらわれ方は、専修学校特有のものである。女子の大学志願率や短大志願 率で同様の分析を行うと、異なった傾向が見出される。 図表3 女子専修学校進学率の決定要因:4変数モデルと5変数モデル -0.017** -0.019** (-3.247) (-5.458) 0.005** 0.003** (5.160) (4.632) 0.082 0.095 (1.173) (1.080) -0.007 -0.008 (-0.757) (-1.018) 0.003+ (1.971) 0.041 -0.002 (1.052) (-0.042) 0.944 0.984 1.210 2.353 調整済みR2 D.W.比 女性30~34歳の労働力率 私立大学授業料 大学合格率 失業率 定数 4変数モデル: 1976~2004年 (再掲) 5変数モデル: 1989~2004年 所得 図表4 女性 30~34 歳の労働力率の変化 40 45 50 55 60 65 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 %
女性の30 代前半における労働力率は、図表4に示したように、急激な伸びをみせている。オ イルショック後には4割前半だった比率は、80 年代半ばに5割を超し、現在は6割を越える水 準にまで達している。このように、女性が30 代になっても働くような土壌ができあがるにつれ、 就職に有利な、結婚・出産してからも働くための資格を得られるような専修学校を進学先に選ぶ 女子が増えていると解釈できるように思われる。 なお、この女子の分析で対象期間が1989~2004 年の 16 年間となっているのは、図表は省略 するが、Chow テストという構造変容の有無を検証する統計的分析を行ったところ、労働力率は 有効な変数になり得るものの、そのように構造が安定するのは80 年末ごろからだという結果が 得られたからである。おそらく、実態としての労働力率の順調な伸びと、85 年の男女雇用機会 均等法制定という制度の整備という2つの条件が揃ったところで、女子の間で「働き続けるとい う道もある」「働き続けるのであれば、専修学校に進学するのもいいかもしれない」という選択 肢が浸透していったのではないかと予想される。 5. おわりに 以上、専修学校進学率上昇の背景を分析してきたが、結果として明らかになったのは、専修学 校は「大学に進学しない層」ではなく、「進学できない者」を吸収していることである。たしか に女子については、1980 年代末以降、30 代前半の労働力率上昇とともに専修学校を進学する者 も多くなっているという傾向も確認できた。この知見自体は興味深いものであり、専修学校が果 たしている役割の1つとしておさえておくべきものだといえる。しかしながらそうであったとし ても、経済的に大学への進学が困難な層が専修学校を選んでいる、そしてそれは男子も女子も同 じであるということは、やはり基本的前提として認識しておく必要があるだろう。 こうした知見は、「大学全入時代」ということばが使われることが多くなり、もはや進学機会 の提供は政策課題ではなくなったという風潮が強まり始めている昨今において、とくに重要な意 味を持つと考えられる。専修学校進学者の動向をみる限り、機会問題はまだ終わっていないと判 断されるからである。そのように結論づけるためには更なる分析が求められるが、少なくとも現 在の政策の流れを反省させるには十分な結果であるように思う。 ただし、いうまでもなく、専修学校の理解は、この「入口」部分の分析のみによってなされる べきではない。専修学校卒業生たちがどのようなキャリアをたどっているのか、すなわち「出口」 部分の分析結果も併せることによって、はじめて専修学校を総合的に位置づけることができる。 今回の分析では、「高校生は、専修学校への進学が就職に有利だから専修学校への進学を選択し ているわけではない」という結論になったが、この結論と、実態として専修学校の卒業生が豊か な仕事生活をおくれているのかどうかは別問題である。この「出口」問題の検証については、他 の機会に行うことにしたい。 ※本稿は、拙著「高等教育における専修学校の役割-「入口」と「出口」からの検証 ①高校
生の進学行動からみた専修学校」『IDE-現代の高等教育』No.492(2007 年 7 月号,73-76 頁) に、加筆修正を加えたものである。 1 文部(科学)省『学校基本調査報告書』では、現役の専修学校進学者数を2つのソースから得ることが できる。1つは高校側が申告した専修学校進学者数であり、いま1つは専修学校側が申告した進学者数で ある。本稿では、確実に進学を選択した者の数、という側面を重視して、校舎のほうのデータを用いるこ とにした。 2 1990 年代半ばの時点で専修学校(専門課程)の役割について論じた韓(1996)は、既存の調査結果を引 用しつつ、1)大学や短大に入れない進学志願者の代替的進路として専修学校が機能している側面は看過 できないこと、2)それゆえ専修学校の量的拡大は、社会の進学要求と大学の抑制政策によって助長され ている助実を見逃すことはできないこと、3)ただし、専修学校の量的拡大の背景として日本社会の産業 構造、とくに職業構造の再編も深く関連している要素が確認できることから、抑制政策の影響を過大視す るのも妥当でないこと、を指摘している。 3 それぞれデータの出所および算出方法は次のとおり。 所得;総理府統計局『家計調査年報』から可処分所得のデータを収集。消費者物価指数(持ち家の帰属家 賃を除く総合)で実質化した。 私立大学授業料;文部(科学)省私学振興課調査データ。所得と同じく、消費者物価指数(持ち家の帰属 家賃を除く総合)で実質化した。 合格率:文部(科学)省『学校基本調査報告書』。全入学者を全志願者数で割った値を用いた。 失業率:総理府統計局『労働力率調査』。ただし、失業率は、景気変動による年次の増減が激しいため、3 年間の異動平均値を用いることにした。 4 なお、進路選択の説明変数には、すべて1年ラグを設定した。当該年度の進路選択は、前年の状況を踏 まえて決定されると考えるのが現実的だからである。 5 データの出所は、総務省統計局『労働力調査』。 <参考文献> 岩木秀夫・耳塚寛明,1986,「専修・各種学校入学者増加メカニズムの高校階層別分析」『国立教育研究所 紀要』第112 集。 韓民,1996,『現代日本の専門学校-高等職業教育の意義と課題』玉川大学出版部。 菊池城司,1982,「教育需要の経済学」市川昭午・菊池城司・矢野眞和『教育の経済学』第一法規出版。 矢野眞和・濱中淳子,2006,「なぜ、大学に進学しないのか-顕在的需要と潜在的需要の決定要因」『教育 社会学研究』第79 集。