博 士 ( 医 学 ) 東 ` ソ ヱ
学 位 論 文 題 名
Inotropic and Electrophysiologic Effects of Propofol and Thiamylal in Isolated Papillary lVIuscles of the Guinea Pig and the Rat
( モ ル モッ 卜お よびラ ッ卜 摘出 乳頭 筋に おけ る静 脈麻 酔薬 の変 カお よび 電 気 生 理 的 作 用 : プ 口 ポ フ ォ ― ル と チ ア ミ ラ ― ル の 比 較 )
学位論文内容の要旨
ミ 輩 ・ ミ ミ き 吾 百 ー cヨ
新 しい 静脈 麻酔薬 プロ ポフ オ ルは現在広く使用されているチアミラールより麻酔 の導 入が 速や かで、 作用 持続 時間 が短く、覚醒が速い利点があるが臨床的に心ポンプ 機能 抑制 作用 を示す こと が報 告さ れている。 しかし、その陰性変力作用に関する実 験的 研究 は少 ない。 本研 究でtあ 、モ ルモ ットお よび ラッ トの 摘出乳頭筋標本を用い て、プロポフオールの変力作用および電気生理学的作用をチアミ゛ラールと比較し、プ ロポフオールの心筋収縮カに対する作用を検討した。
I実 験 方 法
体 重320ー550gの モ ル モ ッ ト お よ び200ー480gの ラ ッ ト を 用 い 、 迅 速 に 心臓 を摘 出し 、酸 素化 したKrebs‑Henseleit液(NaCl 119,CaCl2 2.5,KC14.8,MgS04 1.2, KH2P04 1.2,NaHC03 24.9,Glucose 10 (mM)) の 中 で モ ル モ ッ ト の 右 室 お よ ぴ ラ ッ ト の 左 室 乳 頭筋 標 本 を 摘 出 し10 ml標 本 槽に 固 定 し 、95%02+5%C02の混 合ガ スで 通気 し、30℃ に維 持し た。 刺激は 電気刺激装置およびアイソレーターを通して一 対 の 螺 旋 状 白 金電 極よ り0.5 Hzの刺 激頻 度で 駆動し た。 等尺 性張 カは0.5gの負 荷で トラ ンス デューサを通して記録された。プロポフオーJレおよびチアミラー少の濃度反 応曲 線は 低濃 度か ら高 濃度 への 累積的 投与 によ り測 定し た。
活 動 電 位 は300ー510gの モ ル モ ッ ト の 右 室 乳頭 筋 お よ び200ー300gの ラ ット の左 室 乳 頭 筋 を 摘 出 し 、5m1の 標 本 槽 に 固 定 し た 。 標 本 槽 は95%02十5%C02の 混 合 ガス で30℃に 維持 し、Krebs‑Henseleit液で10 ml/minの速さで潅流した。標本の一端 を ト ラ ン ス デ ュー サに 他方 をピ ンで 標本 槽に 固定し 、200 mgの負 荷を かけ 張カ を測 定 し た 。 刺 激 は一 対の 白金 電極 を介 して 幅1.0 msecの矩 形波 で0.5 Hzの頻 度で 電気
的に刺激して駆動した。3M KC1で充填したガラス微小電極を標本の長軸方向に添つ て刺入し活動電位を測定した。標本は最小60分間の平衡時間の後にガラス電極を刺 入し、30分間安定した対照時の活動電位を測定した。その後静脈麻酔薬を灌流させ 30分後に活動電位の変化を記録した。活動電位の実験ではモルモット乳頭筋の収縮 カを約50% あるいは約80%減少させ る濃度の静脈麻酔薬(プロポフオール:0.2 mM、0.6 mM;チアミラール:0.1 mM< 0.3 mM)を用いた。
細胞外K+濃度を25 mMに上昇させたモルモット脱分極標本に対して、緩徐反応は 幅6ー7 msecの矩形波による電気的誘発と0.1ロMイソプロテレノール投与による誘 発を行った。
n結 果
1)等尺性張カにおける静脈麻酔薬の変力効果
モルモット乳頭筋の等尺性張カはプロポフオール及びチアミラールの累積的投与に より、いずれも濃度依存性に陰性変力作用を惹起し、そのICso値はプロポフオールで 0.2 mM、チアミラールで0.14 mMであり、プロポフオールの陰性変力作用がチアミ ラールより軽度であった。一方、ラット乳頭筋では、チアミラールiま濃度依存性に陰 性変力作用を示しICso値は0.26mMであったが、プロポフオールでは陰性変力作用を 示さなかった。
2)静脈麻酔薬による活動電位の影響
モルモット乳頭筋においてプロポフオールは濃度依存性に活動電位持続時間(APD) を短縮させ、収縮カも減少させたが、静止膜電位(RMP)、活動電位最大立ち上がり速 度(Vmax)には影響がなかった。一方、チアミラールはRMP及びVmaxを有意に減少さ せ0.3 mMではRMPを対照 より18.3%、Vmaxを対 照より53.7%の減少を示した。し かし ながら、APDにおいて 、0.1 mMではAPDの 早期再分極相(APD20)および中期再 分極相(APDso)で短縮させたものの後期再分極相(APD90)で軽度に延長させた。0.3 mMではAPDを有意に短縮させ、収縮カも有意に減少させた。
次に、ラット乳頭筋においてプロポフオールはモルモット標本に比ベ軽度なAPD短 縮と収縮カの減少を示した。一方、チアミラールはAPDを顕著に延長させ、かつ、モ ルモット標本と同様RMPにおいて対照より20.4%、ヤmaxにおいて対照より51.3%の 減少を示し収縮カも減少させた。 ′
次に、モルモット乳頭筋において細胞外K十濃度を25 mMに上昇させた脱分極標本 において、プロポフオール及びチアミラールは電気的誘発の緩徐反応に対してもイソ プロテレノールの緩徐反応に対しても抑制作用を示した。
m考 察
モルモット乳頭筋の等尺性張カにおいてフ.ロポフオール及ぴチアミラールは濃度依 存性に陰性変力作用を示し、その作用はプロポラォールの方がチアミラールより軽度 であった。活動電位においてプロポフオールはAPDを短縮し、収縮カの減少及び緩徐
反応の抑制作用から、Ca2+電流(ICa)の抑制を伴った心筋収縮力抑制作用が示唆され た。一方、チアミラールtよ収縮カを有意に減少し、011mMでAPD20およAPDsoを短縮 し、0.3 mMではAPDをさらに短縮し、緩徐反応においても抑制的に作用したことから ICaの抑制が 示唆された 。0.1 mMおよぴ0.3 mMでRMPを有意に 減少し、0.1 mMで APD90を軽度に延長していることから静止膜電位と活動電位の後期再分極相に影響を 与える内向き整流K十電流(IKl)の抑制が考えられた。また、Na+電流の間接的指標で あるVmaxの減少からNa+電流(INa)の抑制も考えられた。
次に、筋小胞体依存性の心筋収縮カを示すとされているラット乳頭筋においてプロ ポフオールはモルモット標本に比ペ軽度なAPDの短縮を示し、収縮カに対しても影響 が少なかった。これtよ、プロポフオールのICaに対する感受性がモルモットとラット では異なり、また、収縮カに関してはプロポフオールが軽度なCa2+流入の抑制と筋 小胞体機能への影響が少ないことが示唆された。一方、チアミラールにおいて、ラッ ト乳頭筋には活動電位の再分極相に一過性外向きK‑+電流(Ito)があるとされてり、
APDの延長はItoの抑制が考えられた。また、モルモット標本と同様にRMPの減少およ びAPD90の延長からIklおよびヤmaxの有意な減少からINaの抑制が考えられた。また、
チアミラールはAPDの延長を示したが、収縮カを有意に減少した。このことはモル モット標本におけるAPDの抑制および細胞外K+濃度を上昇させた緩徐反応を抑制し たことからICaの抑制が示唆された。
1V結 語
1)プロポフオールおよびチアミラールはモルモット乳頭筋において陰´I生変力作用を 発現したが、その作用は主に細胞膜を通過するCa2+流入を抑制した結果と考えられ た。
2)筋小胞体依存性の心筋収縮カを示すとされるラット乳頭筋において、プロポフオ ールは収縮カに変化を与えず、プロポフオールは筋小胞体機能への影響が少ないこと が示唆された。
3)チアミラールはモルモットおよびラット乳頭筋で静止膜電位を減少させラット乳 頭筋において活動電位持続時間を延長させたことから、内向き整流K十電流(IKl)およ ぴ人の心筋にもあるとされている一過性外向きK十電流(Ito)を抑制的に作用すること が示唆された。
4)以上の結果からプロポフオールは投与量および種の違いがあるが、ヒトにおける 陰性変力作用は軽度であると推測された。
学 位 論文審 査の 要旨 主 査 教授 剱物 修 副 査 教授 宮崎 勝巳 副 査 教授 北畠 顯
学 位 論 文 題 名
Inotropic and Electrophysiologic Effects of Propofol and Thiamylal in Isolated Papillary IVIuscles of the Guinea Pig and the Rat
( モ ル モ ッ ト お よ び ラ ッ ト 摘 出 乳 頭 筋 に お け る 静 脈 麻 酔 薬 の 変 カ お よ び 電 気 生 理 的 作 用 : プ 口 ポ フ ォ ― ル と チ ア ミ ラ ー ル の 比 較 )
[ 目 的 ] 新 し ぃ 静 脈 麻 酔 薬 プ ロ ポ フ オ ー ル は 現 在 広 く 使 用 さ れ て ぃ る チ ア ミ ラ ― ル よ り 麻 酔 の 導 入 が 速 や か で 、 作 用 持 続 時 間 が 短 く 、 覚 醒 が 速 い 利 点 が あ る が 、 臨 床 的 に 心 ポ ン プ 機 能 抑 制 作 用 を 示 す こ と が 報 告 さ れ て い る 。 し か し 、 そ の 陰 性 変 力 作 用 に 関 す る 実 験 的 研 究 は 少 な ぃ 。 本 研 究 の 目 的 は 、 モ ル モ ッ ト お よ び ラ ッ ト の 摘 出 乳 頭 筋 標 本 を 用 い て 、 プ ロ ポ フ オ ー ル の 変 力 作 用 お よ び 電 気 生 理 学 的 作 用 を ゛チ アミ ラー ル と 比 較 し 、 プ ロ ポ フ オ ー ル の 心 筋 収 縮 カ に 対 す る 作 用 を 検 討 す る こ と に あ る 。
[ 方 法 ] 等 尺 性 張 カ の 測 定 に は モ ル モ ッ ト の 右 室 乳 頭 筋 お よ び ラ ッ ト の 左 室 乳 頭 筋 を 用 い 、0.5 Hzの 電 気 刺 激 頻 度 で 駆 動 し 、0.5gの 負 荷 で ト ラ ン ス デ ュ ― サ を 通 し て 記 録 し た 。 プ ロ ポ フ オ ― ル お よ び チ ア ミ ラ ー ル の 濃 度 反 応 曲 線 は 低 濃 度 か ら 高 濃 度 へ の 累 積 的 投 与 に よ り 測 定 し た 。 活 動 電 位 に 対 し て は モ ル モ ッ ト の 右 室 乳 頭 筋 お よ び ラ ッ ト の 左 室 乳 頭 筋 用 い て 、 幅1.0 msecの 矩 形 波 で0.5Hzの 刺 激 頻 度 で 駆 動 し 、200mgの 負 荷 を か け 張 カ を 測 定 し 、3M KCIで 充 填 し た ガ ラ ス 微 小 電 極 を 標 本 ヘ 刺 入 し て 活 動 電 位 を 測 定 し た 。 活 動 電 位 の 実 験 で は モ ル モ ッ ト 乳 頭 筋 の 収 縮 カ を 約50% お よ び 約 80% 減 少 さ せ る 濃 度 の 静 脈 麻 酔 薬 ( プ ロ ポ フ オ ー ル :0.2mM、0.6 mM; チ ア ミ ラ ー ル :0.ImM、0.3mM) を 用 い た 。 細 胞 外K+濃 度 を25 mMに 上 昇 さ せ た モ ル モ ッ 卜 脱 分 極 標 本 に 対 し て 、 緩 徐 反 応 は 幅6―7 msecの 矩 形 波 に よ る 電 気 的 誘 発 と0.1ルM イ ソ プ ロ テ レ ノ ー ル 投 与 に よ る 誘 発 を 行 っ た 。
[ 結 果 ] モ ル モ ッ 卜 乳 頭 筋 の 等 尺 性 張 カ に お ぃ て プ ロ ポ フ オ ― ル 及 び チ ア ミ ラ ― ル は 濃 度 依 存 性 に 陰 性 変 力 作 用 を 示 し 、 そ の 作 用 は プ ロ ポ フ オ ー ル の 方 が チ ア ミ ラ ー ル よ り 軽 度 で あ っ た 。 活 動 電 位 に お ぃ て プ ロ ポ フ オ ー ル は 活 動 電 位 持 続 時 間(APD)を 短 縮 し 、 収 縮 カ の 減 少 及 び 緩 徐 反 応 の 抑 制 作 用 か ら 、Ca2+電 流(ICa)の 抑 制 を 伴 っ た 心 筋 収 縮 カ 抑 制 作 用 が 示 唆 さ れ た 。 ― 方 、 チ ア ミ ラ ー ル は 収 縮 カ を 有 意 に 減 少 し 、O.lmM でAPDの 早 期 再 分 極 相 (APD20)お よ び 中 期 再 分 極 相(APDso)を 短 縮 し 、0.3 mMで は
APDをさらに短縮し、緩徐反応におぃても抑制的に作用したことからICaの抑制が示 唆さ れ た。0.1 mMお よ び0.3 mMで 静止 膜 電位(RMP)を有 意 に減 少し、0.1 mMで APDの後期再分極相(APD90)を軽度に延長していることから静止膜電位と活動電位の 後期再分極相に影響を与える内向き整流K+電流(|Kl)の抑制が考えられた。またNa+
電 流 の 間 接 的 指 標 であ るVmaxの減 少 からNa+電 流(INa)の 抑 制も 考 えら れ た。
次に、筋小胞体依存性の心筋収縮カを示すとされてし、るラット乳頭筋におぃてプロ ポフオールはモルモット標本に比較して軽度なAPDの短縮を示し、収縮カに対しても 影響が少 なかった。これは、プロポフオールのICaに対する感受性がモルモットと ラットでは異なること、また、収縮カに関してはプロポフオールが軽度なCa2+流入 の抑制と筋小胞体機能への影響が少なぃことが示唆された。一方、ラット乳頭筋には 活動電位の再分極相に一過性外向きK+電流(lto)があるとされており、チアミラール によるAPDの延長はltoの抑制が考えられた。また、モルモッ卜標本と同様にRMPの 減少とAPD90の延長からlkl丶およぴVmaxの有意な減少からINaの抑制が考えられた。
チアミラールはAPDの延長を示したがく収縮カを有意に減少した。このことは、モル モッ卜標本におけるAPDの抑制と細胞外K+濃度を上昇させた緩徐反応の抑制からICa の抑制が示唆された。
[結語](1)プロポフオールおよびチアミラ―ルはモルモッ卜乳頭筋におぃて陰性 変力作用を発現したが、その作用は主に細胞膜を通過するCa2+流入を抑制した結果と 考えられた。(‑2)筋小胞体依存性の心筋収縮カを示すとされるラット乳頭筋におぃ て、プ口ポフオールは収縮カに変化を与えず、プロポフオールは筋小胞体機能への影 響が少なぃことが示唆された。(3)チアミラ―ルはモルモットおよぴラット乳頭筋 で静止膜電位を減少させラット乳頭筋におぃて活動電位持続時間を延長させたことか ら、内向き整流K゛電流(IK1)およびヒトの心筋にもあるとされてぃる―過性外向きK゛ 電流(lto)を抑制的に作用することが示唆された。(4)以上の結果からプロポフオ―
ルは投与量およぴ種の違いがあるが、ヒトにおける陰性変力作用は軽度であると推測 された。
本研究はモルモットとラットの摘出乳頭筋標本を用し、ての電気生理学的作用の検討 から、新しぃタイプの超短時間性静脈麻酔薬プロポフオールの陰性変力作用はチアミ ラールに比較して軽度であり、また、チアミラ―ルのK+電流に対する影響を明らか にしたものであり、その結果は臨床的にも示唆に富むものである。よって、博士(医 学)の学位論文として妥当なものと判断された。