博 士 ( 医 学 ) 豊 田 健 一 学 位 論 文 題 名
Flow Cytometry による膀胱癌の核DNA ploidy の研究 学位論文内容の要旨
研究目的
膀胱は管腔臓器であるため、膀胱癌の進展は平面的な広がりと深部へ浸潤すると いう垂直方向の二通りの進展過程を示し、また、同時性・異時性に多発、再発した り、病理組織学的にもーつの腫瘍中にいくつかの異型度が混在するなど他の固形腫瘍 とは異なる様々な特徴を有するが、その生物学的性質についてはいまだ未解明の点が 多い。そ こで本研究は、 flow cytometry(FCM) を用いて膀胱癌の核DNA プロイデイ 解析を行い、膀胱癌の持つ、生物学的性質を明らかにするため、核DNA 量と膀胱癌 の病理組織学的因子との関係、リンバ節転移を有する癌(原発巣)組織とりンパ節
(転移巣 )組織にお ける核 DNA 量の関係、 さらに膀胱 癌の核DNA 量における多様 性 ( DNA heterogenelty ) と の 関 係 を 見 出 す こ と を 目 的 と し た 。
対象及び方法
対象: 1978 年1 月から 1988 年12 月までに北海道大学医学部附属病院泌尿器科にて根
治的膀胱全摘術を施行された症例中、評価可能であった 63 例を対象とした。 63 例の
膀胱全摘術時の年齢は40‑78 歳、平均61.8 歳、男女比は3.8 5:1 で、病理組織型の内訳
は、移行上皮癌54 例、移行上皮癌を主体とする混在癌が9 例であった。また、全摘術
前の術前治療は放射線治療群が43 例、化学療法群7 例、無治療群13 例であった。検体
の選択:標本採取部位は原則として、最も高い異型度か最も深い深達度の箇所を選
択した。リンパ節は、,標本上、腫瘍組織がりンバ節全体のほぽ1/2 以上を占めるりン
バ節を対象とした。全摘標本は 263 検体、全摘術前の内視鏡手術(TUR) による標本が
入手可能だ った 44 症例のTUR 標本 132 検体と骨盤内リンパ節転移が認められた16 例
のりンバ節標本 47 検体、また、pT3a (膀胱筋層深部への浸潤癌)以上で、粘膜側と
漿膜側におおよそ 2 分割しても十分に評価検体が存在すると確認された18 例、 36 検体
について、粘膜側、漿膜側の双方を解析し、総計478 検体のバラフイン包埋組織を選
択し、以下の方法による核DNA プロイテ・・イ解析に用いた。核懸濁液の作成:Hedley
らの方法に準じ、1 ・2 枚の薄切標本をキシレンにて脱バラフインし、エタノールで親
水化し、 0.5 %ベプシン液で37 ℃、60 分間反応させ、 Vindel チv らの方法に準じRNase
処理後、 propidium iodide にて核DNA 染危(4 ℃,30 分)を行った。DNA プロイデイ解
析: FCM は Coulter 社製 EPICS‑C を用い 、平均20 .000 個の核 DNA 量をヒス トグラ
ム上に表示 し、得られ た DNA ヒス トグラムを附属のPARA‑I program を用いて各細
胞周期上の 細胞分画の 割合等を解 析し、 DN Aindex(DI) に て評価した 。DNA プロ
イデイの判定: DNA diploid は、 DI が0.8‑1.2 で、 G2+M ピークを持っものとした。 D
NA aneuploid は DI が0.8 以下或いは1.2 以上の場合、または、4C 細胞の割合が1096 以
上 で あ る 場 合 と し た 。 同 一 腫 瘍 でDIの 差 が0.2以 上 異 な る 場 合 、 ま た は 同 一 検 体 内 に 複 数 の DNA aneuploidピ ー ク が 出 現 し た 場 合 をDNA量 の 多 様 性 有 り と し た 。 統 計 学 的 有 意 差 判 定 はX2検 定 を 用 い た 。
結 果
478検体 にお いて 解析 可能 であ り、 その 変異 計数(coefficient of variation: CV)は2 8%であった。
1)DNA aneuploidの 頻 度 :DNAaneuploidは 腫 瘍 が 存 在 し た52例 中24例 (46% )に 認 め ら れ た 。TUR症 例 に お い て は 、 異 型 度 が 上 昇 す る に つ れ てDNAaneuploidの 出 現 率 が 有 意 に 増 加 し て い た が (P 0.01j、 全 摘 標 本 に おい て は、G2以 上及 びpTl以 上の 症 例 に の みDNA aneuploidを 認 め た が 、 有 意 差 は な か っ た 。 壁 内 侵 襲(ly,v) で は 、陽 性 例 で 有 意 にDNAaneup10idが 多 か っ た (P O.01,P 0.02) 。 2) 原 発 巣 と り ン バ 節 転 移 巣 : リ ン バ 節 転 移 巣 のcellcloneと ほ ぼ 同 じDI値を 示 すcellcloneが原 発巣 にも 存 在 し 、 原 発 巣 由 来 のcellcloneが 転 移 し て い た 。 ま た 、DNAプ ロ イ デ イ 別 に り ン パ 節 転 移率を比較すると、aneuploid腫瘍(11/24,46%)は、diploid腫瘍(5/39,13%)に比し、有 意に 高率 にり ンパ 節に 転移 して い た(P〈O.01)。 転移 のバ ター ンは 、原 発巣 →リ ンパ 節 の 順 にD→D(5例 ) 、D十A→D(4例 ) 、A→A(5例 ) 、A→D(2例 ) (D:DNAdiploid, A:DNAraneuploid)の4種頗存在した。
3)DNA量 の 多 様 性 に つ い て : 膀 胱 癌iま 水 平 方 向 と 垂 直 方 向 へ と 広 が り を 見 せ る が 、 水 平 方 向 のDNA量 の 多 様 性 の 頻 度 は18例 (35% ) で あ っ た 。 ま た 、 腫 瘍 の 粘 膜 側 と 漿 膜 側 の2分 割 で の 検 討 か ら (18例36検 体 ) 、 上 下 両 側 と も 同 じ プ ロ イ デ イ を示 し た も の28検 体 (16検 体 :D,12検 体:A) 、上 下別 の場 合が8検体 有り 、従 って 、垂 直方 向 の DNA量の多様性の 頻度は18例中6例(33%)で あった。
4)DNAプ ロ イ デ イ と 腫 瘍 浸 潤 に つ い て : 腫 瘍 の 粘 膜 側 と 漿 膜 側 の2分 割 で の 検 討 か ら 、 必 ず し も 、 深 部 にDNAaneuploidカ 書 存 在 し な い こ と か ら 、DNAプ ロ イ デ イ と 腫瘍浸潤との間に、明確な関係は認められな かった。
考 察
膀 胱 癌 のDNA aneuploidの 出 現 頻 度 は 、 異 型 度 の 上 昇 と と も に 増 加 し て い た が 、 TUR群 で 高 率 で 、 放 射 線 治 療 や 化 学 療 法 の 前 治 療 が 多 い 全 摘 術 群 でDNAaneuploid の 出 現 率 が 低 い 点 は 、 術 前 治 療 が 癌 細 胞 の 核DNAに 変 化 を 及 ↓ ま し て い る 可 能 性 が あ る と 考 え ら れ た 。
原 発 巣 と 転 移 巣 と の 比 較 か ら 、 転 移 は 原 発 巣 中 の ー つ のcell cloneが 転 移 を 起 こ す こ と が 認 め ら れ 、 ま た 、DNA aneuploid腫 瘍 が 有 意 に 効 率 に 転 移 を 起 こ し で は い る も の の 、D NA diploid cell cloneも 同 様 に 転 移 を 起 こ し て い た 事 実 が 判 明 し た。 予 後 と の 関 係 で は 、 リ ン パ 節 転 移 を 有 す る 膀 胱 癌 に お い て は 、 原 発 巣 及 び 転 移 巣 のDNA プ ロ イ デ イ に 関 係 な く 、 予 後 不 良 で あ り 、 原 発 巣 及 び 転 移 巣 のDNAプ ロ イ デ イ は 、 予 後 規 定 因 子 で は な ぃ と 考 え ら れ た 。
ま た 、 膀 胱 癌 は 多 彩 な 特 徴 を 有 す る が 、 進 展 し な が ら 、DNA量 を 増 し 、DNA aneuploidの 出 現 頻 度 は 増 加 す る も の の 、 膀 胱 癌 に お け るDNA量 の 多 様 性 の 出 現 頻 度 は35%と 低 率 で あ っ た 。 こ の 事 実 は 、 多 発 性 腫 瘍 で も 遺 伝 子 と し て の 起 源 は 同 じ で 、 mono‑clonalで あ る と ぃ う 最 近 の 癌 遺 伝 子 の 研 究 を 裏 付 け る 傍 証 で あ り 、 膀 胱 癌 の 多 中 心 性 発 生 は 、 元 は ー つ の 癌 細 胞 か ら 発 生 し 、 膀 胱 腔 内 に 播 種 し た 腫 瘍 進 展 の 結 果 と 考 え ら れ た 。
膀胱癌の進展は、水平方向のみでなく、垂直方向へも進展し、粘膜に発生した癌 が、進展していくにつれ、DNA aneuploid に変化浸潤していくと考えると、腫瘍の 深部ほど悪性度が高いと考えられているDNA aneuploid が認められる訳であるが、
結果は逆の関係も認められたため、浸潤とぃう行為と DNA プロイデイとの間には明
確な関係は認められなかった。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Flow Cytometry に よ る 膀 胱 癌 の 核 DNA ploidy の 研 究
膀胱 は管腔臓 器である ため、膀 胱癌の進 展は平面 的な広がりと深部ヘ浸潤するとぃう垂 直方 向の二通 りの進展 過程を示 し、また 、同時性 ・異時性に多発、再発したり、病理組織 学的 にもーつ の腫瘍中 にいくつ かの異型 度が混在 するなど他の固形腫瘍とは異なる様々な 特 徴 を有 す る が、 そ の生 物 学的 性質につ いてはぃ まだ未解明 の点が多 い。そこ で本研究 は 、flow cytometry(FCM)を 用 い て膀 胱 癌の 核DNAプロ イ デ イ解 析 を行 い 、 膀胱 癌 の 持 つ 、生 物 学 的性 質 を明 ら か にす る ため 、 核DNA量 と 膀 胱癌の 病理組織 学的因子 との関 係 、 リン バ 節 転移 を 有す る 癌 (原 発 巣) 組 織 とり ン バ 節( 転移巣) 組織にお ける核DNA 量 の 関 係 、 さ ら に 膀 胱 癌 の 核DNA量 にお け る 多様 性(DNAheterogeneity)と の 関係 を 見 出すことを目的とした。
対象 は 、1978年1月か ら1988年12月 まで に 北大 病 院 泌尿 器科 にて根治的 膀胱全摘 術を 施 行 され た 症 例中 、 評価 可 能で あった63例 を対象と した。検体 の標本採 取部位は 原則と して 、最も高 い異型度 か最も深 い深達度 の箇所を 選択した。 全摘標本 は263検体、 全摘術 前 の 内視 鏡 手 術(TUR)に よ る 標本 が 入 手可 能 だっ た44症 例 のTUR標本132検 体と骨盤 内リ ン パ 節転 移 が 認め ら れた16例のり ンバ節標 本47検体、 また、pT3a(膀 胱筋層深 部への浸 潤癌 )以上で 、粘膜側 と漿膜側 におおよ そ2分割し ても十分に 評価検体 が存在す ると確認 され た18例、36検 体につい て、粘膜 側、漿膜 側の双方 を解析し、 総計478検体 のパラフ イ ン包 埋組織を 選択した 。Hedleyらの方 法やVindelずvら の方法に 準じ、核懸 濁液を作 成し た 。DNAploidy解 析 は、Coulter社製EPICS.Cを 用 い、 平 均20,000個 の 核DNA量 を ヒ ス ト グ ラ ム 上 に 表 示 し 、 得 ら れ たDNAヒス ト グ ラム を 附 属のPARA‑I programを 用 いて 各 細胞 周期上の 細胞分画 の割合等 を解析し 、DN Aindex(DI)にて評 価した。DNA ploidyの 判 定 は 、DNAdiploidは 、DIが0.8〜1.2で 、G2+Mピ ー ク を 持 つ もの と し た。DNAaneu. ploidはDIが0.8以 下 或い は1.2以上の 場合、ま たは、4C細 胞の割合 が10%以上であ る場合 と し た 。 同 一 腫 瘍 でDIの 差 が0.2以 上 異 な る 場 合 、 ま た は 同 一 検 体 内 に 複 数 のDNA aneuploidピ ー ク が出 現 した 場 合 をDNA量 の多 様 性 有り と した 。統計学的 有意差判 定はZ 2検定を用いた。
478検体において解析可能であり、その変異計数くcoefficient of variation:CV)は2〜8%
で あ った 。DNAaneuploidiま 腫瘍が存 在した52例 中24例(46% )に認め られた。TUR症 例 に お い ては 、 異 型度 が 上昇 す る につ れ てDNAaneuploidの 出 現率 が 有 意に 増 加 して い た が (Pく0.01)、 全摘 標 本に お い ては 、G2以 上 及びpT1以 上の 症例にのみDNAaneuploidを 認めたが、有意差はなかった。
壁内 侵薑(ly,v)では、 陽性例で 有意にDNAaneuploidが 多かった (Pく0.01)。リン パ節 転移巣のcell cloneとほぼ同じDI値を示すcell cloneが原発巣にも存在し、原発巣由来のcell