博 士 ( 農 学 ) 高 橋 晃 樹
学 位 論 文 題 名
化学的に安定で非特異的夕ンパク質吸着が少ない アフイニテイー樹脂の開発
学位論文内容の要旨
現 在 ポ ス 卜 ゲ ノ ム 時 代 の 中 心 課 題 と し てChemical Genomicsが 謳 わ れ , 積極 的 な 投 資 が行 わ れ 製 薬 企
業 の注 目 を 集 め てい る . 企 業 ・大 学 等 が 所 有 する 生 理 活 性 化合 物 ラ イ プ ラリ ( 副 作 用 ・毒 性を 含む) の最
大 活 用 の 重 要 性 が 認 識 さ れ , い わ ゆ るForward Chemical Genetics的 戦 略 の 遂行 に 注 目 が 集 まり つ っ あ
る . 興 味 あ る 生 理 活 性 物 質 の 標 的 タ ン パ ク 質 を 明 ら か に す る こ と で , 評 価 系 の 再 構 築 ,SBDD
(Stmcture‑Based Drug Design, タ ン パ ク 質の 立 体 構 造 情報 に 基 づ く薬剤 設計 )が可 能とな り,よ り強 カで
選 択 性 の 高 い 医 農 薬 の 開 発 に っ な がる も の と 期 待さ れ て い る .こ の 研 究 に お いて ア フ イ ニ ティ ー 樹 脂 は
直接 化 合 物 が結 合 す る 標 的候 補 タ ン パ ク質 を捕捉 できる メリ ットが あるた め,間 接的な 関連 タンパ ク質
情 報 を 含 む proteome等 の 研 究 に 比 べ , よ り 有 効 な 方 法 の ー っ と 考 え ら れ て い る . ア フ イ ニ テ ィ ー 樹 脂 を用 い た 標 的 タン パ ク 質 探
索 研 究 で は , 固 相 表 面 に 生 理 活 性 物 質 を で き る
限 り 活 性 な 状 態 で 固 定 し た後 , 標 的 タ ンパ ク 質 を
含 む タ ン パク 質 溶 液 ( 以下lysate)と 混 合し ,そ の
特 異 的 結 合 タ ン パ ク 質 か ら標 的 タ ン パ ク質 を 同 定
す る . し かし , 多 く の場合 非特異 的にア フイ ニティ
ー 樹 脂 に 吸着 す る タ ン パク 質(tubulin,actin等 )
O y ` R
i. pOhf merizatlon
2. deprotection O = solid phase
1A 1B
―卜サ―
OH OH
― 。 へ 丶 亅 丶/NHBoc O OH
O‑NH2
― ー ー ― ― − →2A
−― ―― −――→2B Boc = tert‑butoxycarbonlfl
図1.新 規 ア フ イ ニテ ィ ー 樹 脂 の 合成 の 存在 が 探 索 研 究に と っ て 大 き な障 害 と な る ,
そ こ で , 著 者は 非 特 異 的 吸着 タ ン パ ク 質の 抑 制 効 果 が あり 標 的 タ ン パク の 捕 捉 能 の高 いアフ イニテ ィー 樹 脂 を 開 発 す べ く , 既 に 親 水 性 ス ペ ー サー と し て 優 れた 非 特 異 的 吸着 タ ン パ ク 質 抑制 効 果 の あ るこ と が 知 られ て い る ポ リエ チ レ ン グ リ コー ル(PEG)や ポ リ オー ル を べ ース に設計 した へキサ エチレ ングリ コー′ レ ―185―
およびDーグルカミン骨格をもっメタクリレ
ー ト 誘 導 体(1A,1B)を 重 合 す る こ と に
よ り 新 規 ア フ イ ニ テ ィ ー 樹 脂 合 成 用 担
体(2A,2B)の 開 発 を 行 っ た ( 図1).樹
脂2A ,2B の性能を評価するため2 種
類 の 市 販 樹 脂1、oyopearlTM (2C,東 ソ
ー製,ポ リメタクリレート 系,非特異的タ
( コF‑NH2 2A‑D
1. 3A EDC HCI, HOBt
NMP, rt, 15 hfQ‑NHCO(CH2)6COFK500 4A‑D
Solid phaso R N
N
FK506 H 弧 HOOC(CH2)6CO‑ 4C Toyopearl'M(2C) 2CNHCO(CH2)6CO‑
4D AffiGeff M (2D) 20‑NHCO(CH2)6CO‑
4A 2A 2ANHCO(CH2)6CO 48 28 2B‑NHCO(CH2)6CO
OMo
図2. ア フ イ ニ テ ィ ー樹 脂 へのFK506担持
ン パク 質 吸着 =多 ) およ びAffiGel伽 く2D,Bio‑Rad製 ,ア ガロ ー ス系 ,非 特 異的 タン パ ク質 吸着=少 )との
比 較 を 行 っ た . 担 持 す る モ デ ル 化 合 物と して , アフ イニ テ ィー 樹脂 を 用い た研 究 にお いて 標 準的 に使 用 さ
れ る 免 疫 抑 制 剤FK506を 選 択 し ,FK506と 特 異 的 結 合 タ ン パ ク 質FKBP12の 複 合 体 形 成 に 影 響 を 与 え
な ぃFK506の32位 に ス ペ ー サ ー を 導 入 し たFK506誘 導 体(3A)を そ れ ぞ れ の 樹 脂 に 担 持 し た ( 図2).
FK506を担 持 した アフ イ ニテ ィー 樹 脂(4A‑D)を 用い て, ラ ッ卜 脳lysateのアフイニ ティークロマ卜グ ラフイ
ー を 実 施 し た 結 果 , 新 規 ア フ イ ニ テ ィ ー 樹 脂(4A,4B)はToyopearlnu (40)に 比 べ てtubm血 等 の 非 特 異
的 吸 着 が 少 な く ,tubuhnと 分 子 量 が 類 似 す る 特 異 的 結 合 タ ン パ ク 質FKBP52を 同 定す るこ と がで きた . ま
た ,4Bを 用 い る こ と に よ りA伍Gelく4D) で は 捕 捉 さ れ な ぃFK506の 免 疫抑 制作 用 を司 る標 的 タン パク 質 群
(cdci鵬 面nA忸 ,nmP12/52お よ びcmmodul瑚 を 世 界 で 初 め て ― 枚 の ゲ ル か ら 単 離 す る こ と に 成 功 し
た ( 図3) . こ れら の結 果 から ,新 規 アフ イニ テ ィー 樹脂 合 成用 担体 (2A, 皿) は 標的 タン パ ク質 探索 に 有
効 で あ り , 今 後 生 物 機 能 解 明 や 医 農 薬 の 開 発 に 広 く 利 用 さ れ る こ と が 期 待 さ れ る ,
mSiN甘出 帥 tb)Wbst.emHot
4C 4D
。 調 印 伽m← )Hト) (. ) CnA
t日 .1■l F旧 職 ニ 一 ■ 缸 (B) I
48 4A ト)(.) (‐)(゛)
I■1
■I■■4r4を ,
。 「 ‐ − ‐ 一 ― 1 ° 囎 ー
一 ■ I
A: FKBP12,&FKBP52.C:calmodulin,D: calcineurinB (CnB),E:calcineurinA (CnA) Lylate: ratbmb
But(er: 0.25M sucrose,n3mMDDC, 50 mM TnsHO pH e7.4.2 mM Caa2,2 mM Mgaz Blndlng: 4'C,30 mln
The trst lanelndlatesa prddn stande*rd,M醜m12 (lrMtrogan,C。t. #LC5677) 図3.FK506担持 樹 脂(4A‑D)と ラッ ト脳lysateを用 い たア フィニティー クロマトグラフィ ー ―186ー
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 田原哲士 副査 教授 原 博
副査 助教授 細矢 憲(京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科)
副査 講師 福士幸治
学 位 論 文 題 名
化 学 的 に 安 定 で 非 特 異 的 夕 ン パ ク 質 吸 着 が少 な い ア フ イ ニ テ イ ー 樹 脂 の開 発
本 論 文 は 9 章 か ら な り , 図 39 , 表 10 , 引 用 文 献 34 を 含 む 本 文 90 ベ ー ジ , 要 旨 2 ぺージ,略語と生化学試薬の構造式3 ページからなる和文論文である.他に参考論文 3 編が添えられている.
現在 ポス トゲ ノム 時代 の中 JL 驤 頁と してChemical Genomics が謳われ,積極的な投 資が行われ製薬企業の注目を集めている.企業・大学等が所有する生理活陸化合物ライブ ラリ(副作用・毒陸を含む)の最大活用の重要陸カミ認識され,いわゆるForward Chemical Genetics 的戦略の遂行に注目 が集まりつっある.興味ある生理活陸物質の標的夕ンバク 質を明らかにすることで,評価系の再構築,夕ンパク質の立体構造情報に基づく薬剤設計 が可能となり,より強カで選択J 陸の高い医農薬の開発にっながるものと期待されている.
このような研究においてアフイニテイーク口マトグラフイーは,直接化合物が結合する標 的候補夕ンバク質を捕捉できるメリットがあるため,間接的な関連夕ンパク質情報を含む protec 翻 e 等 の 研 究 に 比 べ , よ り 有 効 な 方 法 の ー っ と 考 え ら れ て い る , アフ イニ ティ ー樹 脂を 用いた標的夕ン
バク質探索研究では,固相表面に生理活性 物質をできる限り活性な状態で固定した後,
標的夕ンパク質を含むタンパク質溶液と混 合し,その特異的結合夕ンパク質から標的 夕ンパク質を同定する.しかし,多くの場 合非特異的にアフイニティー樹脂に吸着す る タ ン パ ク 質 (tubum , adm 等 ) の存 在が 探 索 研 究 に と っ て 大 き な 障 害 と な る .
o i. pobrmerization R
2. deprotection Q = solid phase
R〓
1A ‑O‑O>:‑NHB 。c ー→2A OH OH
1B −o/ NHBoc −――一一→2B OH OH
Boc tart‑butoxycarbanyl 図1 .新規アフイニティー樹脂の合成
‑ 187 ‑
著者はそれを克服するために,
非特異的夕ンバク質吸着が少なく て、且つ標的夕ンパクの捕捉能の 高いアフイニテイー樹脂を開発す べく,既に親水陸スベーサーとし て優れた非特異的夕ンパク質吸着 抑制効果のあることが知られてい るポリェチレングリコールやポリ オールをべースに,新たに設計し
(コ}‑NH2 2A¢
1. 3A EDC HC HOBt Q‑NHCO(CH2)SCOFK506 NMP, rt, 15 tw
2. Ac,0 4A‑D
FK506 3A
4C ToyopearITM (2C) 4D AffiGeITM (2D) 4A 2A
48 2B
H HOOC(CH2)6CO‑
2C‑NHCO(CH2)6CO‑
2D‑NHCO(CH2)6CO‑
2A‑NHCO(CH2}6CO 2B‑NHCO(CH2)6CO OMe
図2. ア フ ィ ニ テ ィ ー 樹 脂 へ のFK506担 持
たへキサェチレングリコールおよびD一グルカミン骨格をもつヌタクリレー卜誘導体
(1A
,1B)
を重合 するこ とにより 新規ア フィこティ一樹脂調製用担体(2A
,2B)の開発を行った( 図1).樹 脂
2A
,2B
の ´陸能 を評価す るため2
種類 の市販樹 脂Toyope
鉞‑JrM (2C,東ソ ー製,ポリヌタクリレート系,非特異的夕ンバク質吸着=多)およびAffiGelnu (2D
,Bio‑Rad
製,アガ□ース系,非特異的夕ンバク質吸着ニニ少)との比較を行った.担持するモデ ル化合物として,アフイニティー樹脂を用いた研究において標準的に使用される免疫抑制 剤F
、K506
を選択し ,F
、K506
と特異 的結合夕ンパク質n
くBP12
の複合体形成に影響を与 え ないFK506
の32
位にスペーサーを導入したFI
く506
誘導体(&いをそゎぞれの桟胡旨に 担持した(図2).FI
く506を担持したアフイニティー樹脂(4A.−D)を用いて,ラット脳夕ンパク質溶液の アフイニティーク口マトグラフイーを実施した結果,新規アフイニティー樹脂(4A,4B) はT窃′C¢earl
(4C)に比べてtubulm等の亨E特異的吸着カミ少なく,t11b11unと分子量カゞ類 似 す る特異的 結合夕 ンバク質R
くBP52
を同定す ること ができた .また ,4B
を用い るこ と によりAmGelく4D
) では捕 捉されないH
〈506
の免疫抑制作用を司る標的夕ンバク質群(
Ca
亅CineurmA/B,H
毋P12/52
およびc
む10duun) を世界で 初めて 一枚のゲ ルから 単 離することに成功した.これらの結果から,新規アフイニティー樹脂調製用担体(2A,2B) は標的夕ンパク質探索に有効であり,今後生物機能解明や医農薬の開発に広く利用される ことが期待される.以上のように,本論文はChenucal Biologyの領域で重要な技術である薬理活´陸物質と 特異的相互作用をするタンバク質の効果的分離と同定を可能にする新規な,化学的に安定 で,非特異的夕ンバク質吸着が少ないアフイニティー樹脂の開発に成功した経緯を取りま とめたものである,所期の目的を達成した開発の考え方は広く範とするに足るもので,そ の成果は広範な関連分野の基礎から応用研究に裨益するところが大きく,関連学会におい ても高く評価されている.よって審査員一同は高橋晃樹が博士(農学)の学位を受けるに十 分な資格を有するものと認めた。
‑ 188―