博 士 ( 工 学 ) 高 橋 英 徳
学 位 論 文 題 名
ごみ焼却炉における火格子材の高温腐食に関する研究 学位論文内容の要旨
近 年、家 庭等から 排出され るごみ 類に含ま れる塩 化物がダイオキシン等の有害物質発生 源 となるこ とから 、ごみ焼 却炉で は高温燃 焼によ る有毒物質の軽減が検討されている。こ の 高温燃焼 は炉床 に使用さ れてい る火格子 材に対 して過酷な高温腐食を引き起こすが、そ の 腐食機構 につい ては不明 点が多 く残され ている 。さらに、現在、耐食性に優れた火格子 材の早急な開発が望まれている。
本 論文は 、実機焼 却炉に使 用され ている火 格子材 の高温腐食挙動を詳細に鯛査し、火格 子 材の腐食 挙動に 見られる 粒界腐 食とその 機構に ついて検討している。これらの結果をふ ま えて、Nbを主とす る合金元 素の添 加により 耐食性 に優れた火格子材を開発し、実機にお いてそれを実証した成果をまとめたものである。
本論文は7章より構成されている。
第1章は 緒言で あり、本 研究の 背景およ び従来 の研究を 紹介する ととも に、本研 究の目 的について述べている。
第2章で は、ご み焼却炉 における火格子材の腐食挙動、特に、フウライト系耐熱鋳鋼SCH2 製 の火格子 材の高 温腐食挙 動を調 査した。 その結 果、火格子材には外層スケールと内部腐 食 層が厚く 生成し ており、 特に、 内部腐食 層の先 端には顕著な粒界腐食が認められた。粒 界 腐 食 は合 金 内 部のCr炭 化物系の 析出物と 繋がっ ている。 すなわ ち、火格 子材の 著しい 減 肉はこの 粒界腐 食の進行 により 結晶粒が 脱落す ることに起因し、さらに、実機焼却炉の 火 格子材の 温度変 動による 繰返し 熱応カが 結晶粒 界への亀裂の導入・進展を容易にし、結 晶粒の脱落を加速していることを明らかにした。
火格子材には、Cr (Fe) 23C6またはCr (Fe) 23C6と(Cr,Fe)7C3の2種類の炭化物が同定され、
Fe−Cr―C系状態図を用いて、その生成機構について考察した。粒界腐食は合金/炭化物界面 のCr欠乏層 の腐食で はなく、 むしろCr炭化物が 優先的 に腐食されることを明らかにした。
第3章 で は 、オ ー ス テナ イ ト 系 耐熱 鋳 鋼SCH13を 廃棄物焼 却炉内 に設置し 、1273K以上 の 温度域に おける 腐食挙動 につい て調査し た。そ の結果、 第2章 に述べ たフウラ イ卜系耐 熱 鋳鋼と同 様に、 合金内部 に網目 状の粒界 腐食が 認められた。粒界腐食形態と組織の関係 を 明らかに するた めの一助 として、H2―H2S混合ガス中における硫化試験と大気雰囲気にお け る酸化試 験を実 施した。 その結 果、鋳放 し材で は粒界腐食はほとんど認められないのに
―99 ‑
対し て, 焼却 炉内 の熱 履歴 を 模擬 した熱処理を施した試料には顕著な粒界 腐食が認められ た。 特に 、硫 黄含 有雰 囲気 で 顕著 であった。熟サイクルにより結晶粒界へ のCr炭化物の成 長が促進され,これが選択的に腐食される ことにより粒界腐食が進行することを提案した。
これ らの 結果 から 、オ ― ステ ナイ ト系 耐熱 鋳鋼SCH13にもフェライト 系耐熱鋳鋼SCH2 で観 察さ れた もの と同 様のCr炭化 物の選択的腐食による粒界腐食が生じ、 これは現状の焼 却 温 度 よ り 高 温 の 領 域 で も 同 様 の 機 構 で 生 じ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 第4章 で は 、 フ ェ ラ イ ト 耐 熱 鋳 鋼SCH2に つ い て 、1273K以 上の 温度 域で の腐 食挙 動 を 鯛査 し、 腐食 温度 の影 響に つ いて 明らかにした。その結果、高温域では、SCH2の表層、約 100umに わ た っ て 、 網 目 状Cr炭化 物が 消失 して いる 領域 が観 察さ れ、 粒界 腐食 は生 じ な いこ とを 見い だし た。 これ は 、フ ェライト素地中の炭素およびクロムの拡 散が速いため、
酸化 の過 程で 脱炭 と脱 クロ ム が生 じ、Cr炭化物の生成が困難となって、そ の消失層が形成 した こと を明 らか にし てい る 。こ の炭化物消失層の形成により、ガス側か ら合金内部に腐 食ガ スが 侵入 する ため の経 路 が絶 たれ、これによりSCH2の粒界腐食が抑制 されたものであ る。
第5章では、粒界 腐食.の起点となる表面近傍Cr炭化物の形成を抑制する ことを目的に、
Cr炭 化物 の消 失挙 動に 対す る 雰囲 気と温度の影響について検討した。表面 近傍の炭化物を 酸化 処理 によ って 消失 させ た 試料 (炭化物分解層の形成)について実機腐 食試験を行った 結果 、耐 食性 の向 上が 確認 さ れた 。すなわち、耐食性の向上は,表面近傍 の炭化物が消失 して 雰囲 気ガ スが 合金 内部 に 移行 するための経路が絶たれ、粒界腐食が抑 制されたためで あることを示した。炭化物消失層の定量濃 度分析とFe−Cr−C系状態図 からCr'炭化物の分解 機構をCrおよびC濃度の変化から説明できることを提案している。
第6章で は、Cr炭 化物 が母 材の 結晶 粒界 に析 出・ 成長 す るのを抑制する 方法として、添 加元 素の 影響 につ いて 、特 に 、Nb添加 した 耐熱 鋳鋼SCH2につ いて 、実 機焼 却炉 およ び 焼 却炉 環境 を模 擬し た高 温腐 食 装置 を用いて検討した。Nb添加鋼では、Nb炭 化物が粒界に析 出し、連続的なCr炭化物の析出を抑制している。Nbを0.5および1.Owt%添加した鋼(0. 5Nb、 1. ONb)ではCr一炭化物とNbCが、―方、2.5wt%Nb添加鋼(2. 5Nb)にはCr炭化物は観察され ず 、2種 類 のNb炭 化 物(NbCお よびNb6C5)が 確認 され た。Fe−Nb−C合金 の結 果か ら、NbC とFe3Cの 生成を確認した。第2章に述べたように、Cr3C→ Cr,C3‑*Cr23C6と 変化する。従っ て、Nb添 加鋼 の結 晶粒 界にNbCとCr23C6が 形成 する 。NbCはCr23C6より は耐 食性 に優 れ る こと から 、結 晶粒 界に 析出 し たNbCが より 内部 のCr―炭 化 物の腐食を抑制 する結果として Nb添 加鋼 の耐 食性 、特 に、 耐 粒界 腐食性が向上したものと考えられる。こ れらの成果を基 礎に 、従 来よ りも 耐食 性に 優 れたNb添 加の 火格 子用 合金 を開 発し た。 この 合金 は、 最 長 180日 間に わた る実 機試 験に よっ て、 従来 品(SCH2)が約5mmの 減肉 を示 した のに 対し て 、 本 研 究 で 提 案 し た 新 合 金 に は 、 減 肉 は ほ と ん ど 観 察 さ れ な か っ た 。 第7章では、 本論文で得られた結果を総括し、結論を述べた。
‑ 100ー
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ごみ焼却炉における火格子材の高温腐食に関する研究
近 年 、 家 庭 等 か ら 排 出 さ れ る ご み 類 に 含 ま れ る 塩 化 物 が ダ イ オ キ シ ン 等 の 有 害 物 質 発 生 源 と な る こ と か ら 、 ご み 焼 却 炉 で は 高 温 燃 焼 に よ る 有 毒 物 質 の 軽 減 が 検 討 さ れ て い る 。 こ の 高 温 燃 焼 は 炉 床 に 使 用 さ れ て い る 火 格 子 材 に 対 し て 過 酷 な 高 温 腐 食 を 引 き 起 こ す が 、 そ の 腐 食 機 構 に つ い て は 不 明 点 が 多 く 残 さ れ て お り 、 ま た 、 耐 食 性 に 優 れ た 火 格 子 材 の 早 急 な 開 発 が 望 ま れ て い る 。 本 論 文 は 、 実 機 焼 却 炉 に 使 用 さ れ て い る 火 格 子 材 の 高 温 腐 食 挙 動 を 詳 細 に 調 査 し 、 火 格 子 材 の 腐 食 挙 動 に 見 ら れ る 粒 界 腐 食 と そ の 機 構 に つ い て 検 討 し て い る 。 こ れ ら の 結 果 を ふ ま え て 、Nbを 主 と す る 合 金 元 素 の 添 加 に よ り 耐 食 性 に 優 れ た 火 格 子 材 を 開 発 し 、 実 機 に お い て そ れ を 実 証 し た 成 果 を ま と め た も の で あ る 。
本 論 文 は 7章 よ り 構 成 さ れ て お り 、 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。 第1章 は 緒 言 で あ り 、 本 研 究 の 背 景 お よ び 従 来 の 研 究 を 紹 介 す る と と も に 、 本 研 究 の 目 的 に つ い て 述 べ て い る 。
第2章 で は 、 ご み 焼 却 炉 に お け る 火 格 子 材 の 腐 食 挙 動 、 特 に 、 フ ェ ラ イ ト 系 耐 熱 鋳 鋼SCH2製 の 火 格 子 材 の 高 温 腐 食 挙 動 を 調 査 し た 。 そ の 結 果 、 火 格 子 材 に は 外 層 ス ケ ー ル と 内 部 腐 食 層 が 厚 く 生 成 し て お り 、 特 に 、 内 部 腐 食 層 の 先 端 に は 顕 著 な 粒 界 腐 食 が 認 め ら れ た 。 粒 界 腐 食 は 合 金 内 部 のCr炭 化 物 系 の 析 出 物 と 繋 が っ て い る 。 す な わ ち 、 火 格 子 材 の 著 し い 減 肉 は こ の 粒 界 腐 食 の 進 行 に よ り 結 晶 粒 が 脱 落 す る こ と に 起 因 し 、 さ ら に 、 実 機 焼 却 炉 の 火 格 子 材 の 温 度 変 動 に よ る 繰 返 し 熱 応 カ が 結 晶 粒 界 へ の 亀 裂 の 導 入 ・ 進 展 を 容 易 に し 、 結 晶 粒 の 脱 落 を 加 速 し て い る こ と を 明 ら か に し て い る 。
火 格 子 材 に は 、Cr (Fe)23C6ま た はCr (Fe)23C6と(Cr,Fe)7C3の2種類 の炭 化物 が 同 定 さ れ 、Fe→CrーC系 状 態 図 を 用 い て 、 そ の 生 成 機 構 に つ い て 考 察 し た。 ゛そ の 結 果 、 粒 界 腐 食 は 合 金 / 炭 化 物 界 面 のCr欠 乏 層 の 腐 食 で は な く 、 む し ろCr 炭 化 物 が 優 先 的 に 腐 食 さ れ る こ と を 明 ら か に し た 点 は 高 く 評 価 さ れ る 。 第3章 で は 、 オ ー ス テ ナ イ ト 系 耐 熱 鋳 鋼SCH13を 廃 棄 物 焼 却 炉 内 に 設 置 し 、 1273K以 上 の 温 度 域 に お け る 腐 食 挙 動 に つ い て 調 査 し た 。 そ の 結 果 、 第2章 に 述 べ た フ ェ ラ イ ト 系 耐 熱 鋳 鋼 と 同 様 に 、 合 金 内 部 に 網 目 状 の 粒 界 腐 食 が 認 め ら
‑ 101 ‑