博 士 ( 理 学 ) 渡 邉 祥 正
学位論文題名
Observational Study of Distribution and Physical State of R/Iolecular Gas and Secular Evolution in Barred Spiral Galaxies
(棒渦巻銀河における分子ガスの分布と物理状態および 永続的進化に関する観測的研究)
学位論文内容の要 旨
研究背景
近傍宇宙では、円盤銀河の約60%が棒渦巻銀河であり(de Vaucouleurs 1991)、我々の銀河である銀 河系も棒状構造を持つことが知られている(Blitz&Spergel 1991他)。棒渦巻銀河の内部では、非軸 対称な棒状構造の影響により、恒星の原材料となる水素ガスの勃道が歪めら;れ非円運動が強くなる。
さらに、棒状構造とガス間の角運動量の交換や、ガス同士の衝突による衝撃波により、ガスが銀河中 心〜供給されることや星形成が抑制されることが数値計算を用いた研究から明らかにされている。こ のように、棒状構造は銀河内部のガスの分布や星形成活動陸に影響を与えることが知られており、近 傍 宇 宙 の 特 に 孤 立 し た 銀 河 に お け る 永 統 的 な 進 化 に と っ て 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。 近年、観測装置の発達により多くの銀河に対して、水素分子ガスのトレーサとなるC0(一酸化炭素)
などの分子輝線のマッピング観測が行われくKuno et al. 2007他)、棒渦巻銀河では分子ガスが棒状構 造内部に全体に分布するものから、中心の限られた領喊にしか存在しないものまで、分子ガスの分布 に多様陸が見られた。そこで、このような多様陸が棒状構造のどのような´陸質に起因するのか、分子 ガスの分布の度合いを数値として評価し、棒状溝造の非軸対称陸の指標である棒状溝造の楕円率と比 較した。
さらに、棒渦巻銀河では衝撃波が棒状構造に沿って発達することが知られている(William et al. 1979他)が、このようなガスの動力学が分子ガスにどのような影響を及ぼすのか、観測的側面からの 研究はほとんどなぃ。そこで我々は、複数の種類の分子輝線の観測を行い、銀河の場所毎でどのよう な違いがあるのかを調べ、さらに星形成活動性とも比較した。
棒状構造内部の分子ガス分布
棒状構造と分子ガス分布を比較するために我々は、GDP (Gas Distribution Parameter)という量を以 下のような式で定義した。
GDP〓4てXJSl(x.y)(2i!i器s=(( めI≦+g≦1)
この量は、棒状構造内で分子ガスが広がっている場合は大きく、中心に集中している場合は小さな値 をとる。分子ガス輝線のデータは野辺山Coアトラス(Kunoetal.2007)をf吏用した。棒状構造の楕円 ーn27ー
率は 、 近 赤 外 線2MASS Ksバ ン ド(Strutskie et al. 2006)の 等 光度 曲 線 に 対 して 楕 円を フイ ットす る こ と に よ り 求 め た 。こ の よ う に して 得 ら れ た 、GDPと 楕 円率(eを プ ロッ ト し た も のが 図1で あ る。 図 1は 、 楕 円 率 が小 さ い (e<O.5) 銀 河で は、GDPが0.64から0.86の 問に分 布し ている のに対 し、楕 円 率が大 きい(e>0.5) 釦顛rぐは 、GDPが0.45から0.91の聞に 分布 してお り、強 しヽ構 影継 を持っ銀河 では よ り 銀 河 中 ´いに ガスが 集中し ている こと を示し ている 。この こと から、 我々は 、強し ヽ棒状 織を 持つ銀 河では :ガ スの中 心べの 供給率 が高い ので はない かと考え、楕円率が大きぃY(み>0.5)銀河問に お け るGDPの 大 小 は 、 棒 状 構 造 が 形 成 さ れ てか ら の 経 過 時間 を 反 映 し てい る と い う 仮 説を 立 て た 。 分 子 ガ ス は時 間 経過と ともに 自己 重カに より密 度が上 昇し、 その 結果、 星形成 が開始 され る。も し、
銀河中 ´己丶 への ガス供 給効率 が高か った場 合、 星形成 による 分子ガ スの 消費があったとしても、供給が 始ま っ て か ら の 時間 経 過 が 長 い銀 河 ほ ど 銀 河中 心 に お け る高 密度 分子 ガスの 害恰が 高く、 一方で 供給 効率 が 低 い 銀 河 では 星 形 成 に よっ て ガ ス は 消費 さ れ る 方 が早 く、 高密 度ガス の割合 が低い と予想 され る。 我 カ は こ の 作業 仮 説 を 検 証す る た め に 、GDPを 求 めた12銀 河の 中 心 に 対 し て臨 界 密度カ 江104cや で高密度ガスのトレーサであるHCN(ナ1−0)と臨界密度カゝ〜102cや程度の12Co(ナ1−0)と13Co(声1−0)の観 測を、国立天文台野辺山45m鏡を用いて行った。
観 測 の 結 果 、 分 子 ガ ス 全 体 の 質 量 に 対 す る 高 密 度 ガ ス の 質 量 の 割 合 の 指 標 で あ る 、 HCN(ナ1−0)/12CO(ナ1一o)比は、0.024(NGC4535)から0.088Q恤5236)の問に分布することが明らかに な っ た 。 こ の 比 をG[p楕 円 率 の図 上 で 比 較 した も の が 図2で あ り 、 特 に強 い 棒 状 構 造を 持 ちGDPが 低 いNGC253とNGC3351は、HCN(ナ1―O)/12・C0(ナ1ー0)比が0.083と0.081であり、NGC5236を除くGDPが 高い 銀 河 よ り 、 比が 高 く 高 密 度ガ ス の 割 合 が高 い こ と が 明ら かに なっ た。こ れは、 我々の 予想を 支持 する 結 果 で あ り 、棒 渦 巻 銀 河 では 分 子 ガ ス の分 布 を 決 定 する 要因 は棒 状構造 の非軸 対称の 強さと 棒状 構造が 形成さ れて からの 経過時 間であ る可能 ・陞 三が高 く、さ らにkpcスケ ール の分子 ガス分 布と銀河中 心における分子ガス濃度の共進化を示唆するものである。
棒渦巻銀河の分子ガスと星形成
次 に 棒 状構 造 が 中 心 以外 の 領 嚇 こ 与 える 影 響 を 調 べる た 。 系 外銀河 に対 する分 子輝線 観測は 、こ れま でほと んどが 最も強い12CO (J=l̲0)の観測であった。12COし/E=l―0)は強度が非常に強いため、分子ガ ス の 分布 や 速 度 構 造を 調 べ る た めに は 適 し た 分 子輝 線 で あ る が、 光 学的に 厚く分 子ガス の表 面しか ト レ ー ス し て お ら ず 、 分 子 ガス の 物 理 的 性質 に つ い て はほ と ん ど 情 報が 得 ら れ な ぃ 。そ こ で 我 々 は、
12C0舮1ー0) の 観 測 か ら分 子 ガ ス が 銀河 全 体 に分布 する 棒渦巻 銀河NGc3627に 対して 、光学 的に薄 く分 子ガスの質量を正確にトレースする1℃O(ナ1一0)と比較的高い臨界密度(〜104cH「3)を持つ12Co(ナ3―2)の マ ッ ピ ン グ 観 測 を 野 辺 山45m鏡 と 国立 天 文 台 が チり の ア タ カ マ 砂漠 に 所 有 す るASTE10m鏡 を 用 いて 韜 こ な った 。 さ ら に 、一 部の 観測点 に対 してはHCN( ナ1―0)を野 辺山45m鏡を 用いて 観測 した。 これら の 観 測 に よ り 得 ら れ た 輝 線 強 度 図 の 例 と し て13Co( ナ1―0) の 積 分 強 度 図 を 図3に 示 す 。 その結果、棒状構造内での12C0(ナ1−0)/1℃O(ナ1−0)比が、中心以外の他の領域と比較して2−3倍高 い こ とを 発 見 し た 。こ の 比 が 上 がる 理 由 と し て は、 銀 河 中 心 で見 ら れるよ うな高 温・高 密度 状態か 、 1°Coが 希 薄 で速 度 勾 配 が 大 きい こ と が 考 えら れる。 棒状 構造の 中ではHa輝線 や中間 赤外線 の観測 から 星 形 成活 動 陸 が 見 られ な ぃ こ と から 、 前 者 の 可 能陛 は 棄 却 で きる 。 特に棒 状構造 の中で は衝 撃波が 発 達 す るた め 、 速 度 勾配 が 大 き く さら に 分 子 雲 が 破壊 さ れ 重 力 的に 束 縛され ていな い希薄 なガ スにな っ てい ると予 想され る。特 に、13C0(ナ1−0)は 正確に 分子 ガスの 質量を トレー スしていることから、光学 的 に 厚い 条 件 下 で 導出 され た変換 係数 を使い エ20しBト0)か ら求め た分子 ガス の質量 は棒状 構造内 では 過 大 評価 し て い る 可詣 陸 が あ る 。さ ら に 、 棒 状 購造 内 で は 単 位質 量 のガス からど れくら い星 が生ま れ る か を 表 す 星 形 成 効 率 が 渦 状 腕 に 比 べ て 低 い こ と が 示 唆 さ れ て い た くHandaetal.1991) が 、 −l128一
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13CO (Jl―0) か ら求めた星形成 効率は渦状腕と近い 値であった。この ことから、これま で棒状簡壷で星 形成 効 率が 低い と 言われていた理 由は、12C0(ナ1−0)から求めた分子 ガスの質量が過大 評価されていた ためであると 考えられる。
さ らに 、 我々 は棒 状 構造 の両 端 に潟 いて 、 星形 成効 率 が高 いこ と を発 見し た 。さ らに 、 この 領域 で は高密度ガス の割合の指標であ るlzC0(ナ312)/12・C0(ナl10)比も高くなっており、何らかの要因により 高 密 度 ガ ス の 形 成 が 促 進 さ れ 星 形 成 効 率 も 上 昇 した と 考え られ る 。そ こで 重 力安 定性 の 指標 とな る T00mreのQ値 を銀 阿の回転 曲線と ̄℃0(ナ1―0)から 求めた分子ガスの 表面密度から計算 し、星形成効率 と 比 較 し た と こ ろ 、 星 形 成 効 率 の 高 い 棒 状 構 造 の両 端 では 、p1で 重力 的に 不 安定 であ る こと が示 唆 さ れ た。 こ のこ とか ら 、分 子雲 の 集合 体が 重 力不 安定 を 起こ し、 よ り小 さな 範 囲に 密集 し た結 果、 分 子 雲 同士 の 衝突 頻度 が 高く なり 、 圧縮 され た ガス の密 度 が高 くな り 星形 成効 率 が高 くな っ たの では な いかと考えら れる。
以 上の よ うに 、我 々 の研 究は 棒 状構 造が 銀 河内 の分 子 ガス の分布に 影響を持ち、銀河 中心領域:や棒 状 構 造内 部 の分 子ガ ス の物 理状 態 や星 形成 活 動陸 に大 き な役 割を 果 たす こと を 観測 的に 立 証し 、孤 立 した 銀河 に おけ る永 続 的な 銀河 進 化の シナ リ オを 提唱 し た
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図1:GDP一 楕円 率の 相 関図
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図2:GDP一 楕 円 率 の 相 関 図 上 で HCN(ナl‑0)/nCO(声i―0)比をカラー も用いて示した図 。
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学位論文審 査の要旨
主 査 准 教 授 羽 部 朝 男 副 査 教 授 藤 本 正 行 副 査 教 授 加 藤 幾 芳 副 査 教 授 渡 部 重 十 副 査 助 教 徂 徠 和 夫
学位論文題名
Observational Study of Distribution and Physical State of N/Iolecular Gas and Secular Evolutionin Barred Spiral Galaxies
( 棒 渦 巻 銀 河に おけ る分 子ガ スの 分布 と物 理状 態およ び 永 続 的 進 化 に 関 す る 観 測 的研 究 )
棒渦巻銀河の非軸対称ポテンシヤル(以下バーポテンシヤル)によって星やガスは棒状部分(以下バー)
で激しい非円運動をし,その結果,星形成は大きく影響されると予想される.従来の観測では,バーでの分 子ガスの単位質量あたりの星形成率(以下星形成効率)が渦状腕に比べて低いことが示され,その原因とし て,激しい非円運動により星形成が抑制される可能性が提案されていた.
本論文は,1)近 傍の棒渦巻銀河における分 子ガスの分布パターンを定量 化し,その進化モデルを提案 し,2)典型的な棒 渦巻銀河について,複数の分子スペクトル線のマッピング観測を行い,分子ガスの物理 状態の空間分布を 明らかにし,大局的なガスの 運動が星形成に及ばす影響を観測事実をもとに研究したも のである.
本論文では,近 傍の棒渦巻銀河の分子ガスの 従来の観測をもとに,分子 ガス分袵パラメー夕(Gas Dis‑
tribution Parameter:GDP)を導入し,バーポ テンシヤルの扁平度の指標で ある桁円率が大きい(バーが 強い)ほどGDPが 丶さい(ガスカ鑑艮河中心に集中)という相関をノヾー内の分子ガスについてはじめて示し た。さらにバーの 楕円率の大きな銀河ではGDPは大きくばらっき,これが進 化段階の違いによる可能性を 指摘 し た. この 検証 のた め,従来のー酸化炭素分子 (12COJ〓1―O)観測より密 度の高い分子ガスの指 標 で あ るHCNJ=1―0の スペ クト ル 線観 測を 国立 天 文台45m電 波 望遠 鏡を 用い て 行っ た。 結果 ,楕 円 率が大きい銀河で は,GDPが小さいほど銀河中 心領域で高密度分子ガスの割 合が高いことを示した.これ は,バー・ポテン シヤルが強い銀河では,分子 ガスの中心集中とともに高密度となり,申請者が指摘した 進化モデルを支持している.
次 に , 典 型 的 な 棒 渦 巻 銀 河NGC3627に 対 し て , 従 来 の12COJ=1ー0観 測と の比 較の た めに45m 電波 望 遠鏡 を用 いて13COJ=1―0の マッ ピン グ観 測の 結 果を 行な った .近傍銀 河に対する13COの銀河 全面高感度観測の 例は少なく,それ自体重要で あり,両スペクトル線の比 較から分Fガスの温度と密度の 銀河 内 空間 分布 を求 めた こ と, さら にASTE望遠 鏡に よる サプ ミ リ波 帯の12COJ=3―2の観測により,
高密度分子ガス分布を示したことも重要である.加えて,中間赤外線連続光観測,及び可視域のバルマー・
スペクトル線観測のアーカイプデータから星形成率,さらに申請者の観測結果も加えて星形成効率を求め,
バーの先端(バー・エンド)で星形成効率が非常に高いことを示した.その原因として分子ガスのバー.エ ンドへの集積の結 果,分子ガスの密度が上昇し ,星形成を促進する可能性を指摘した.星形成と密接に関 係する分子ガスの 指標である13CO観測をもとに 推定した星形成率は渦状腕と同程度であることを示し,従 来の12CO観測をも とにしたバー部分での低星形 成効率はバーでの激しい運 動を無視して渦状腕と同様な
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「分子雲」状態を 仮定したことが原因である可 能性を示した.
以上のように,申請者は,棒渦巻き銀河の高密度分子ガスの観測を行い,バーにおける星形成について 多くの新たな知見をもたらし,この研究分野に貢献するところが大きい.よって,申請者は北海道大学博士
(理学)の学位を 授与される資格があるものと 認める.
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