• 検索結果がありません。

循環型緑地管理における植物発生材マルチの活用

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "循環型緑地管理における植物発生材マルチの活用"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

27 雑草管理 角龍市朗1)・伊藤幹二2)・伊藤操子2) 1 )保土谷 UPL 株式会社,2 )マイクロフォレストリサーチ株式会社 キーワード: みどりの廃棄物,有機炭素資材,表土環境の改善,カーボンマイナス,持続可能な緑環境 はじめに 私たちの生活環境において重要な位置を占める緑地には,利用場面や立地の違いによっ て意図的に植栽された,あるいは非意図的に発生・生育する多種多様な植物が存在する . 植物は日々,年々成長するので,植栽植物については整枝・剪定・刈り取りなど種の生育 特性に応じた維持管理作業がなされ,また,広範囲に存在する雑草植生地については適宜 刈り取りが行われている.すなわち,植生は,大気,水質,土壌,温度などの環境を多面 的に維持する機能を持っている反面,その維持 管理作業から毎年大量の植物発生材を生み 出している.日本の農地や緑地の植物発生材で最も多いのは,雑草や芝生といった草本類 の刈りカス,次いで木本植物の剪定枝や落枝葉である.国土交通省の推計では,国有河川 事業・道路事業・公園事業で発生する植物廃材が年間約 12 万トン,全国自治体(道路・河 川・公園事業)では乾燥重量で約 240 万トン,このほか高速道路,高速鉄道(新幹線),在 来線の事業から出る植物廃材を含めると膨大な量になる(栗原ら 2015).これらに加え, 水田畦畔,ゴルフ場,集合住宅地や商・工業団地,昨今急増する所有者不明土地や太陽光 発電所などからのものがある. これらの植物発生材を排出‘ゴミ’とみなしている現状は ,本当にこれで良いのだろう か.これは私たちが環境的・経済的・生態的視点から向き合うべき喫緊の課題である .植 物発生材の一部は堆肥やチップ等で利用されることもあるが,多くは焼却処分され ている. 刈り取り,運搬,焼却にはそれぞれに化石燃料の使用,CO2 の排出が伴い,これは今日世 界が目指す低炭素社会とは相反する行動である .また,植物発生材を系外に持ち出すとい うこと自体,本来炭素の還元によって豊かな表土形成に寄与するはずの大切な機能を無駄 にしているともいえる.Lal(2004)は,地球全体の土壌には 2500 ギガトンの炭素が存在 し,この量は大気中の 3.3 倍,生物に含まれる炭素量の 4.5 倍に相当するとし,適切な土壌 管理を行うことで土壌は大気中の CO2の貯蔵庫となることを示している.著者らは,炭素 循環・土壌保全における植物発生材の潜在的機能を活用する場面として,地産地消的マル チ資材としての利用に着目した.しかしながら,植物 発生材の土壌への様々な影響やその

循環型緑地管理における植物発生材マルチの活用

Tatsuichiro Kaku1), Kanji Ito2) and Misako Ito2):

Utilization of plant-derived chipsand clippings in sustainable urban landscape management 1)Hodogaya UPL Co., LTD., 2) MicroForest-Research Co., LTD.

(2)

28 持続性など,利用の拠り所になる情報は全く見当たらなかったことから,まずは様々な材 料を用いてこれらに関する調査・研究を行った .本稿では,その成果の紹介とこれに基づ いた活用への指針にも言及した.植物発生材の環境保全上の意義が理解され,そのポテン シャルが地域の緑地環境の改善に役立てられれば幸甚である. 1.植物発生材マルチ化の意義 1.1 炭素循環的意義 地球温暖化対策には二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を減らす「緩和策」と,気象 災害や生態系サービスへの悪影響を軽減するための「適応策」の2つがある.これまで緩 和策偏重の陰に置かれてきた適応策の中に,表土の有機炭素の損耗による土壌劣化の防止 対策がある.この課題に対して,第 21 回気候変動枠組み条約会議「パリ協定」(COP21, 2015) と第 4 回生物多様性条約締約国会議(2019)おいて「フォーパーミル・イニシアテイブ」 が採択された.これは土壌を炭素の「倉庫」とみなし,全世界の表土(30~40 ㎝)の炭素

量 を 毎 年 0.4%( 4 ‰ ) 増 や し て い こ う と い う 計 画 で あ る ( Welcome to the “4per 1000” initiative).具体的には,土壌を可能なかぎり耕さないことと植物系発生材はすべてマルチ 利用する(発生した場所から持ち出さない)ことによって達成できるとしている.そして, 農地,草地.林地,都市緑地においてこれが実行されれば,SDGs の目標のうち4つが改善 され,化石燃料からの二酸化炭素の排出量もオフセットされると計算されている. 私たちの生活圏には様々な緑地があり,そこでは大気の二酸化炭素を有機炭 素に変え, 土壌にもたらす営みが日々続けられている.この有機炭素の存在によって多様な陸上生物 の生存と生態系が維持されている.炭素循環的意義とは,植物発生材を活用し表土の有機 炭素量と土壌生物量を高め,土壌の劣化を抑えることにある.これは私たちにできる低炭 素化社会への行動でもある. 1.2 土壌侵食防止の意義 表土は雨滴を直接受けると,土壌の孔隙が破壊され,透水性が減退し固化が進む.表土 の固化は地表流水を発生させ,さらに表面侵食によって土壌が流亡する.すなわち,雨滴 の衝撃力が土壌の表面侵食の根源であり,この防止 には表土を被覆することが基本となる. 植物発生材によるマルチは,たとえ薄くとも雨滴の侵食防止効果は絶大であり,乾物重 500 g/㎡程度の量で地表を覆うことで,侵食をほぼ防止できる(塚本 1998).ここで強調した いことは,樹冠下の雨滴侵食防止におけるマルチの重要性である.樹木には雨滴の特性を 変化させる作用がある.降雨の一部は樹冠内での葉や枝で捕捉されて,雨滴同士が結合し, 自然降雨の粒径に比べて大粒径化する.このため,樹冠から落下する雨滴の侵食作用はと くに大きく,樹体周りの土壌侵食は裸地以上に大きい.自然樹林では, 樹木は自らリター を形成し,表土の流出を防いでいる.植物発生材の樹冠下へのマルチ施用は,土壌侵食を 防ぎ,樹木の生育環境の改善にきわめて有効に働く. 1.3 地表環境改善の意義 太陽からの放射熱は地表に到着すると,大気への反射,大気での吸収,地中への通過の 3つに分割される.通常,地中に吸収された熱は,土壌や植物を介した蒸発散による潜熱

(3)

29 を通して低下するが,コンクリートなどで土壌が遮断されると地中に蓄熱し,顕熱となっ て地面が高温化する.一方,地表を芝草やその刈りカス(植物発生材)で被覆すると,日 中の地表温度や地温は外気温より低く抑えられる(伊藤 2020).とくに夏期において地表 の温熱環境の急変を緩和する効果は高い.公園緑地,工場緑地,集合住宅緑地などの裸地 や樹木植栽地において植物発生材の活用を徹底して行えば,地域としての地表温熱環境の 改善につながる. 2.植物発生材マルチの機能特性 ここでは,2003~2004 年,京都大学大学院農学研究科附属農場(大阪府高槻市)で実施 した試験を紹介する.試験材料は,針葉樹 4 種(アカマツ,ヒマラヤスギ,スギ,ヒノキ), 広葉樹 3 種(ツツジ,キョウチクトウ,アセビ),グランドカバープランツ( GCP)2 種(ヘ デラ,オカメザサ),芝草 3 種(コウライシバ,ノシバ,ライグラス)および雑草 2 種(ス スキ+チガヤ(夏雑草),ネズミムギ+イヌムギ(冬雑草))の計 16 種類の枝葉または茎葉 とした.針葉樹類,広葉樹類,GCP は大学構内の樹木見本園の剪定枝葉をチップ化したも の,芝草類は大阪府茨木市のゴルフ場の刈りカス,雑草類は農場の周縁部で採取したもの を供試し,2003 年 5 月に試験を開始した(図1).マルチの設置は,耕起均平化した土壌 について 3 ㎝掘り下げ,植物発生材の厚さが 3 ㎝になるように敷き詰めた.対照区および 参考区として,裸地区(雑草発生前にイソキサベン+トルフルラリン粒剤を土壌処理),雑 草刈取区(刈草存置区と刈草搬出区),透水性シート区および非透水性シート区を設定した (雑草刈取区は 2003 年 8 月,2004 年 5 月に刈取りを実施). ノート <マルチとは> マルチ(Mulch)とは,作物に好適な土壌環境をつくるために,プラスチックフィルムや稲わらなどで 土壌表面を覆うことを示すこと(農研機構 2006)が多いが,最近では作物を育成することに限らず,農 業場面以外にも美観の向上や土壌保全などの意義も大きい.また一方でマルチ資材にも多種多様なもの が知られている. そもそも‘Mulch’という言葉は,中世初期の英語では‘Mulsh’という形容詞で,‘soft’あるいは‘yielding’ という意味を持っていた.その後,近代初期になると,s が c に変化し名詞となり,‘rotten hay(腐った 干し草)’という意味を持つようになった.そして,現在では‘rotten hay’にとどまらず,ありとあらゆ る材料がマルチとして利用されるようになった(Campbell 1992).マルチの材料を選定する際には,防草・ 防虫,土壌保全,土壌改良,景観など,その場の多面的な目的に応じて適切なものを選ぶべきであって, ある場面で良いものが必ずしも別の場面で最適とは限らない.

様々なマルチの材料は Organic mulch(有機物マルチ),Inorganic mulch(無機物マルチ)そして Living

mulch(リビングマルチ)に大別される(O’Callaghan 2006).Organic mulch は,農業・林業,食品工業,

緑地,家庭などに発生する植物由来のものを用いる.Inorganic mulch は,プラスチック,砕石,グラスフ ァイバーなど人工物が用いられる.また, Living mulch は,芝草やマメ科などのカバークロップやグラ ンドカバープランツを用いて地表を覆うことをいう.

(4)

30 2.1 被覆状態の変化 植物発生材区は,当初の数ヶ月間 は 各 区 と も に 安 定 し た 被 覆 状 態 を 保っていたが,6 ヶ月経過すると被 覆 状 態 に 差 異 が 見 ら れ る よ う に な った(図2).そこで,マルチの厚さ を 測 定 す る こ と に よ っ て 被 覆 率 と 分解程度を見た.分解が最も進んだ 区は,芝草類と雑草類で,被覆率も 概ね低下した.これに比べて針葉樹 類は分解がほとんど進まず,被覆率 も大きく変化しなかった.広葉樹類 と GCP はともに被覆率に大きな差 異はなかったが,マルチの分解程度 には差異が認められた.これらの傾 向は,基本的には木質部の多い枝葉と少ない茎葉に起因していると考えられるが,チップ 片の形状の違いによることも大きいと思われた.なお,分解に関わる土壌生物の影響につ いては不明である. 2.2 雑草制御効果 試験区に発生した雑草は,イネ科 12 種,広葉 56 種,そのほとんどが一・二年生雑草で あった.優占種は,夏雑草がメヒシバ,冬雑草がヒメムカシヨモギであった. 雑草の発生本数および生草量は,植物発生材区で雑草刈取存置区および雑草刈取搬出区 に比べて少なく,マルチによる雑草制御効果が認められた(図3).雑草の発生抑制効果は, 総じて夏雑草で高く,冬雑草では低い傾向を示した.雑草制御効果を総合すると,針葉樹 類が最も高く,次いで広葉樹類,GCP の順であった.芝草・雑草類(イネ科草本)では一 図 1 植物発生材マルチ試験区の全景 1区画 80 ㎝×140 ㎝ 3反復ランダム配置とし,区画間は防草シートで被覆した. 5 10 15 20 25 30 35 50 60 70 80 90 100 被覆率(%) マ ルチ の 厚さ ( ㎜) + 処理開始時 + :針葉樹類 :広葉樹・GCP類 :芝草類 :雑草類 :処理開始時 × 図2 3 ㎝の厚さに敷設した植物発生材の 6 ヶ月 後の被覆率と厚さ

(5)

31 定の傾向は見られなかった. 今回見られた雑草発生量(図3) の 資材間の 差異はマ ルチの 持続 性 ( 図1)だ けで説明 するこ とが で き ない.こ の雑草発 生量の 違い は 遮光・被圧の物理的要因に加え,資 材 から溶脱 する物質 による 生理 的 要因によると考えられる.そこで, マ ルチ直下 の土壌を 採取し ,レ タ ス を用いた バイオア ッセイ 法に よ っ て土壌の 生理活性 を検定 した . こ の結果, マルチ下 土壌の 生理 活 性 の値と雑 草発生量 との間 に正 の 相関関係(r=0.431,n=14)が認めら れ(図4),資材から溶脱・滲出す る 物質が関 与してい ると考 えら れ るグループが存在した.とくに,ヒ ノ キやヒマ ラヤスギ などの 針葉 樹 図 3 植物発生材マルチ下から発生した雑草量 雑草量として,被覆 3 ヶ月後(2003 年 8 月)および 12 ヶ月後(2004 年 5 月) に,区画から発生した夏雑草および冬雑草の地上部を刈り取り,発生本数と生 草量を計測した. バーは夏雑草・冬雑草の合計値の SE を示した. 0.0 0.5 1.0 1.5 0 5 10 15 レタス乾物重(mg/10個体) 雑 草生草 量( kg /区 画) + + :針葉樹類 :広葉樹・GCP類 :芝草類 :雑草類 図4 植物発生材マルチ下での発生雑草量と土壌 の生物検定におけるレタス生長量との関係 生物活性には被覆 2 ヶ月後の表層 10 ㎝の土壌を 供試し,検定植物レタスはポット試験で第 3 本葉 展開期まで生育させ,地上部乾物重を測定した. 雑草生草量は被覆 3 ヶ月後の夏雑草の値である. アカマツ ヒマラヤスギ スギ ヒノキ オカメザサ ヘデラ アセビ キョウチクトウ ツツジ コウライシバ ノシバ ライグラス ススキ+チガヤ ネズミムギ+イヌムギ 雑草刈取存置 雑草刈取搬出 0 20 40 60 80 0 1 2 3 発生本数(本/区画) 生草量(kg/区画) ■ 夏雑草 □ 冬雑草

(6)

32 マルチ区においては明瞭な抑制作用が認められた. 2.3 土壌の物理的環境に及ぼす影響 植物発生材マルチ下 5 ㎝の地温と土壌水分 含 量 の 季 節 変 化 を 図 5 に 示 した . 地 温の 変 化 は,いずれの植物発生材区も裸地区より低く, とくに夏期においては裸地区より 2~3℃低い 地温を示した.一方,土壌水分含量の変化につ いて,植物発生材区は裸地区より総じて高い値 を示し,とくに降雨が少なかった冬期はその差 が顕著であった.なお,参考として設けた透水 性 シ ー ト 区 お よ び 非 透 水 性 シー ト 区 の地 温 と 土壌水分含量は,ともに裸地区より常に高い値 を示した.また,両シート区の土壌水分含量は 植物発生材区より高く,シートマルチと植物性 マ ル チ の 土 壌 環 境 に 及 ぼ す 影響 に は 大き な 違 いが見られた. そこで,試験区間の差が顕著に見られた夏期 において,土壌硬度を測定し,地温や土壌水分 含量との関連性を見た(図6).土壌の硬度は, 裸 地 区 が 最 も 高 い 値 を 示 し 土壌 固 化 が進 ん で いることが認められた.次いで非透水性シート 区,透水性シート区と続き土壌固化が認められ た.一方,植物発生材区は例外なくその硬度の 値は低く,土壌固化は見られなかった. 裸地区は,雨滴の衝撃によって土壌の団粒構 造が崩壊し,日射と乾燥が繰り返されることに よって固化が進行することが知られている.こ れに対して植物発生材区は,太陽放射熱と雨滴 の 衝 撃 を 遮 断 す る こ と に よ って 表 土 の土 壌 団 粒構造を保護しているといえる.一方,両シー ト区で生じる土壌固化は,飽和土壌水による団 粒 構 造 の 崩 壊 と そ れ に 続 く 高温 と よ って 起 こ ると考えられる.なお,夏期の土壌水分含量に つ い て 裸 地 区 と 植 物 発 生 材 区の 間 に 大き な 違 いは見られなかった.実際には植物発生材 の種 類 ご と の 蒸 発 程 度 の 違 い や 降 雨 量 や 乾 燥 期 間 など,土壌水分含量を決定づける複数の要素の 関与が推察されるが,本試験ではその詳細は明 図5 マルチ下 5 ㎝の地温(A)および土壌 水分(B)の季節変化 隔週午前 11 時に計測した( 2003~2004 年).土壌水分測定は TDR 法による. 図 6 夏 期 の マ ル チ 下 土 壌 に お け る 地 温,水分含量および土壌硬度の関係 地温および水分含量は図 5 の 7~9 月 の平均値.土壌硬度は,被覆 12 ヶ月後 のマルチ直下土壌に対し山中式土壌硬 度計により計測した. 20 25 30 35 40 45 6/1 8/1 10/1 12/1 2/1 4/1 6/1 0 10 20 30 40 6/1 8/1 10/1 12/1 2/1 4/1 6/1 月日 地 温( ℃ ) 月日 土 壌水 分 含量 ( w /w %) A 地温 B 土壌水分 -植物発生材 -透水性シー ト -非透水性シー ト -裸地 27 29 31 33 35 27 29 31 33 35 地温(℃) 土 壌水分 含量( w /w %) 裸地 透水性シート 非透水性シート 土壌硬度(mm) :6~10 :11~15 :16~20 :21~25 :26~30

(7)

33 らかにできなかった. 2.4 土壌への物質還元 マルチ下の土壌 pH は,被覆 2 ヶ月後では 6.4~7.0,被覆 12 ヶ月後では 6.2~6.7 で植物 発生材間の差異はなく,季節変動も見られなかった(図7).このことから,植物発生材の 分解物や溶脱物は土壌 pH に影響しないことが分かった.次いで被覆 2 ヶ月後に測定した 土壌の EC(電解質濃度)は,芝草類と雑草類は裸地区に比べて高い値を示したが,針葉樹 類,広葉樹類,GCP では差が見られなかった(図7).その後,被覆 12 ヶ月後にはいずれ の植物発生材区も高くなった.これは細断された草本茎葉からの NO3-N と K+の溶脱が早 いことと,逆に木本からは遅いことが推察される. 土壌に対する植物発生材からの有機物供給効果として全炭素量・全窒素量を見ると,い ずれの植物発生材区も裸地区に比べて大きかった.ただし,今回のように一回の施用では 顕著な絶対量の増加はないが,植物発生材マルチには有機物質の還元効果があることに加 え,少なくとも表土中の有機物の流亡・分解抑制にも寄与していることが確認された. 3.植物発生材マルチの実施と留意点 3.1 適用場面と計画的実施 植物発生材をマルチとして活用する際の基本は,系内の植物発生材は系内で使用するこ とである.ここでいう系内とは,個々の緑地内または地域内の緑地の植栽地を意味する. 植栽木の種類,量あるいは対象場面の面積によって植物発生材の過不足が発生することは 当然予測されるが,循環型緑地管理の視点からは,過不足を系内外への移入・移出は極力 避けることが望ましい.系内おいて循環型活用を行うには,次の 3 点のチェック(計画) が求められる. 1)年間に発生する植物発生材の種類・時期・量. EC 5.4dS/m K+ 2.2mg NO3-N 5.8mg TC 1.87g TN 0.14g マルチ2ヶ月後 マルチ12ヶ月後 EC 5.6dS/m K+ 2.0mg NO3-N 13.2mg TC 1.81g TN 0.11g -:針葉樹類 -:広葉樹・GCP類 -:芝草・雑草類 -:裸地 図7 異なる植物発生材のマルチ下土壌の土壌化学性の比較レーダーチャート マルチ 2 ヶ月後および 12 ヶ月後の地下 10 ㎝の土壌についての測定結果.各項 目下に裸地の実測値(K+,NO3-N,TC,TN は乾土 100g 当たりの量)を示す.各 発生材の値は裸地を 100 とした比数で表した.

(8)

34 2)マルチ設置場所の選定と広さ. 3)植物発生材の特性に合わせた設置場所の選定,または設置場所の特性に合わせた植 物発生材の選定. 植物発生材の活用は,数十年にわたって継続的に行われる緑地管理技術である.したが って,適切に維持管理作業として行われるためには,現状の維持管理水準に応じて実行可 能な計画を立てることが肝要である.高度な技術は全く必要としないが,無計画に行うこ とだけは避けるべきである. 3.2 資材に関わる留意点 植栽植物の周辺にマルチを行う場合,条件によっては悪影響があることも知られ ている ので,実際の利用に際しては注意を払う必要がある. まずは,病害虫に汚染された樹木の 剪定枝葉を用いないこと,つる性雑草の茎葉や多年生雑草の栄養繁殖体あるいは種子をつ けた雑草茎葉を用いないことである.植栽木の健全育成および雑草管理は緑地管理の基本 となる.次に,樹木株元に損傷が見られる場合は,マルチによって木材腐朽菌類の侵入が 助長されることがある.これを避けるために,少なくとも マルチ資材を15 ㎝株元から離す と問題ない(Herms ら 2001).また,樹木株元に植物発生材をうずたかく積み重ねる事例 が見受けられるが,これはマルチとはいわない. なお,土壌微生物の活動において,高い C/N 比を有する木質系資材の利用が表層土壌の 窒素欠乏を引き起こす可能性がいわれる.これは,土壌微生物によってマルチ/土壌の境界 面に一時的に窒素欠乏層が形成されるため,根系の浅い植物に使用する場合は注意を要す る.長期間の利用ではむしろ土壌や植物体内の養分量は増加し(Chalker-Scott 2007),積極 的な植物発生材マルチの活用の障壁にはならない.しかし,定型に加工し商品化された木 材チップや樹皮チップによるマルチは,吸水性も低く,微生物の活動も乏しいため,降雨 によって容易に流出する可能性がある.これらの商品は,そもそも花壇などの園芸・造園 などにおける修景材として用いられるものであって,本稿で取り扱う植物発生材マルチと は意図が異なる. 3.3 市民による実施事例 植物が蓄積した炭素を土壌に返すという植物発生材の循環型活用は,住民・市民が誰で も計画・参画できる活動である.ここでは,約15 年間継続している集合住宅(兵庫県神戸 市)における例を紹介する.この集合住宅の規模は緑地総面積約 5,000 ㎡,高木 530 本, 中木 420 本,低木植込み約 1,100 ㎡,芝地約 550 ㎡で,これらから排出される植物発生材 を外部に持ち出さずに循環させようという活動が行われた.廃棄物(植物発生材)排出に 費やされる管理費の削減,敷地内の雑草対策・景観向上,さらには運搬・焼却による C O2 排出低減への貢献を目的として,当集合住宅の緑化ボランティアが発案し,管理組合の同 意を得て始まった.マルチの対象面は,主に各棟を取り巻く 2-3m 幅の緑地帯で,高木や中 低木が植栽されているところである.実施の結果,マルチの継続場所では雑草の発生は明 らかに減少し,一部にネザサやヘクソカズラなどの多年生雑草が目立つ個所もあるが,一・ 二年生雑草や小型の多年生雑草の発生はほとんど見られていない.景観も明らかに向上し, 剪定枝チップに多く含まれるクスノキの香りが好ましいという住民の声もあった.

(9)

35 当初は,芝刈りカス,除草した雑草などもすべて使用していたが,手間がかかり少量で もあるため現在は剪定枝チップのみのマルチとしている.常緑樹を 11 月頃に落葉樹を 1~ 2 月頃に剪定し,すぐにチップ化して施用する(図 8).地面が完全に隠れる程度に敷き詰 めているが,1 年を経過すると被覆率は 70~20%(平均 50%)程度となる.毎年マルチを 再施用することが望ましいが,供給量は若干不足しているので(700~800 ㎡に対して約 2.7t),一部をローテーションで対応している.植物発生材の循環型活用は,景観向上など 目に見える効果とともに,土壌水分・気温の変動緩和など見えないところでも当集合住宅 の住環境に寄与しているものと思われる.また,このような活動が 15 年も継続できている のは,緑地管理事業者と住民の相互理解によるところが大きい. おわりに ここ数年の異常気象による被害の深刻さから,地球温暖化問題に対する人々の意識はか つてないほど高まっている.しかし,そのために「何をすれば」,「何ができるか」が,も う一つ共有されていないと思う.私たちの周りには様々な公共と民間緑地が存在するが, 農業とは異なりその目的や恩恵,成果などを互いに意識することはあまりない.また,そ れに関わる利害関係者が多種多様である一方,受益者や被害者の声も千差万別であるので, 緑地分野の将来の行動に対して明確な方向性を共有することは難しい.本稿の趣旨は,現 在の日本ではゴミとしてしか見られていない植物発生材を活用し,カーボンニュートラル あるいはカーボンマイナスにつなげていくことにある.‘みどりの廃棄物を活用する’こと 剪定した 枝葉 切断 チップ化 樹木・植込み 下に敷く 美観を形成 桜の開花にも 溶け込む修景 冬期作業 図8 ある集合住宅における植物発生材のマルチ活用の事例

(10)

36 は,地域住民,事業者,行政者のだれもが共感でき,かつ実践できることだと確信してい る. 引用文献 栗原正夫・山岸裕・曽根直幸 2015.都市由来植物廃材のエネルギー利用手法等に関する 技術資料.国土技術政策総合研究所資料,第 845 号.

Lal, R. 2004. Soil carbon sequestration impacts on global climate change and food security. Science 304: 1623-1627.

塚本良則 1998.森林・水・土の保全 湿潤変動帯の水文地形学.朝倉書店,東京.

独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 2006.最新農業技術事典: 1470.農山漁

村文化協会,東京.

Campbell, S. 1992. The Mulch Book: A Complete Guide for Gardeners. Storey Communications, VT.

O’Callaghan, A. M. 2006. Mulches for Nevada landscapes. University of Nevada, Reno Extension, NV.

Herms, D., Gleason, M., Iles, J., Lewis, D., Hoitink, H. and Hartman, J. 2001. Using mulches in managed landscapes. Iowa State University Continuing Education and Communication Services, IA.

Chalker-Scott, L. 2007. Impact of mulches on landscape plants and the environment - a review. Journal of Environmental Horticulture 25(4): 239-249.

伊藤幹二・伊藤操子 2020.まちの健康回復に芝生の力を活かす グラスパーキングの科

学.大阪公立大学共同出版会,大阪.

参照

関連したドキュメント

SST を活用し、ひとり ひとりの個 性に合 わせた   

(1)

職場環境の維持。特に有機溶剤規則の順守がポイント第2⇒第3

職場環境の維持。特に有機溶剤規則の順守がポイント第2⇒第3

発電所の敷地内で発生した瓦礫等 ※1 について,廃棄物管理GMは,仮設保管設備 ※2 ,固

再生活用業者 ・住所及び氏名(法人の場合は、主 たる事務所の所在地、名称及び代

当社は福島第一原子力発電所の設置の許可を得るために、 1966 年 7

供給電圧が 154kV 以下の場合は,必要により,変圧器の中性点に中性点接